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JP2019164381A - マスクブランク、位相シフトマスク及び半導体デバイスの製造方法 - Google Patents

マスクブランク、位相シフトマスク及び半導体デバイスの製造方法 Download PDF

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JP2019164381A JP2019107729A JP2019107729A JP2019164381A JP 2019164381 A JP2019164381 A JP 2019164381A JP 2019107729 A JP2019107729 A JP 2019107729A JP 2019107729 A JP2019107729 A JP 2019107729A JP 2019164381 A JP2019164381 A JP 2019164381A
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Abstract

【課題】EB欠陥修正を行った場合に透光性基板の表面荒れの発生を抑制でき、位相シフト膜のパターンに自発性エッチングが発生することを抑制できるマスクブランクを提供する。【解決手段】透光性基板に接する位相シフト膜は最下層を含む2層以上の積層構造からなり、位相シフト膜は、フッ素を含有するエッチングガスを用いるドライエッチングでエッチング可能な材料で形成され、最下層はケイ素と窒素とからなる材料、または該材料と半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とからなる材料で形成され、最下層において、Si3N4結合の存在数を、Si3N4結合、SiaNb結合(ただし、b/[a+b]<4/7)およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下であり、SiaNb結合の存在数を、Si3N4結合、SiaNb結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上である、マスクブランク。【選択図】図3

Description

本発明は、マスクブランク、そのマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクに関するものである。また、本発明は、上記の位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関するものである。
半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクが使用される。半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源の波長の短波長化が必要となる。近年、半導体装置を製造する際の露光光源にArFエキシマレーザー(波長193nm)が適用されることが増えてきている。
転写用マスクの一種に、ハーフトーン型位相シフトマスクがある。ハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト膜には、モリブデンシリサイド(MoSi)系の材料が広く用いられる。しかし、特許文献1に開示されている通り、MoSi系膜は、ArFエキシマレーザーの露光光に対する耐性(いわゆるArF耐光性)が低いということが近年判明している。特許文献1では、パターンが形成された後のMoSi系膜に対し、プラズマ処理、UV照射処理、または加熱処理を行い、MoSi系膜のパターンの表面に不動態膜を形成することで、ArF耐光性が高められている。
特許文献2では、SiNxの位相シフト膜を備える位相シフトマスクが開示されており、特許文献3では、SiNxの位相シフト膜は高いArF耐光性を有することが確認されたことが記されている。一方、特許文献4には、遮光膜の黒欠陥部分に対して、二フッ化キセノン(XeF)ガスを供給しつつ、その部分に電子線を照射することで黒欠陥部をエッチングして除去する欠陥修正技術(以下、このような電子線等の荷電粒子を照射して行う欠陥修正を単にEB欠陥修正という。)が開示されている。
特開2010−217514号公報 特開平8−220731号公報 特開2014−137388号公報 特表2004−537758号公報
一般に、位相シフト膜は、その位相シフト膜に入射する露光光を所定の透過率で透過する機能と、その位相シフト膜を透過した露光光と、その位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を透過した露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能とを兼ね備えることが求められる。MoSiN、MoSiONのようなMoSi系材料で形成される薄膜は、モリブデン(Mo)、窒素(N)、酸素(O)の各含有量を調整することによって、その薄膜の露光光に対する屈折率nおよび消衰係数kを調整でき、その調整幅が比較的広い。このため、MoSi系材料で単層構造の位相シフト膜を形成する場合、透過率および位相差の調整幅が比較的広い。
一方、SiN、SiO、SiONのようなケイ素系材料で形成される薄膜は、窒素(N)、酸素(O)の各含有量を調整することによって、その薄膜の露光光に対する屈折率nおよび消衰係数kを調整できるが、その調整幅が比較的狭い。このため、ケイ素系材料で単層構造の位相シフト膜を形成する場合、透過率および位相差の調整幅が比較的狭い。そこで、ケイ素系材料の位相シフト膜を2層以上の積層構造で形成することを考えた。具体的には、窒素の含有量が比較的少ないSiN系材料層と、窒素の含有量が比較的多いケイ素系材料層を含む位相シフト膜を検討した。
窒素含有量が比較的少ないSiN系材料層は、単位膜厚当たりの透過率の低下度合が大きいため、薄い膜厚で設計される場合が多い。窒素含有量が比較的少ないSiN系材料層は、表面が大気に触れることや洗浄によって生じる酸化が比較的進みやすい。また、窒素含有量が比較的少ないSiN系材料層は、酸化が進むことによる透過率の低下度合が比較的大きい。これらの点を考慮すると、窒素含有量が少ないSiN系材料層を最下層として透光性基板に接する位置に設け、その最下層の上に窒素含有量が多いケイ素系材料層をそれ以外の層として設けた位相シフト膜の構成とすることが好ましい。しかしながら、単に位相シフト膜を上述の構成とした場合、位相シフト膜の転写パターンに見つかった黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行ったときに、2つの大きな問題が生じることが判明した。
1つの大きな問題は、EB欠陥修正を行って位相シフト膜の転写パターンの黒欠陥部分を除去したときに、黒欠陥が存在していた領域の透光性基板の表面が大きく荒れてしまう(表面粗さが大幅に悪化する)ことであった。EB欠陥修正後の位相シフトマスクにおける表面が荒れた領域は、ArF露光光を透過させる透光部になる領域である。透光部の基板の表面粗さが大幅に悪化するとArF露光光の透過率の低下や乱反射などが生じやすく、そのような位相シフトマスクは露光装置のマスクステージに設置して露光転写に使用するときに転写精度の大幅な低下を招いてしまう。
もう1つの大きな問題は、EB欠陥修正を行って位相シフト膜の転写パターンの黒欠陥部分を除去するときに、黒欠陥部分の周囲に存在する転写パターンが側壁からエッチングされてしまうことであった(この現象を自発性エッチングという。)。自発性エッチングが発生した場合、転写パターンがEB欠陥修正前の幅よりも大幅に細くなってしまうことが生じる。EB欠陥修正前の段階で幅が細い転写パターンの場合、パターンの脱落や消失が発生する恐れもある。このような自発性エッチングが生じやすい位相シフト膜の転写パターンを備える位相シフトマスクは、露光装置のマスクステージに設置して露光転写に使用するときに、転写精度の大幅な低下を招いてしまう。
そこで、本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、EB欠陥修正を行った場合に透光性基板の表面荒れの発生を抑制でき、位相シフト膜のパターンに自発性エッチングが発生することを抑制できるマスクブランクを提供することを目的としている。また、本発明は、このマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクを提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
前記の課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、透光性基板に接する最下層を含む2層以上の積層構造からなり、
前記位相シフト膜の最下層以外の層は、半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素とからなる材料で形成され、
前記最下層は、ケイ素と窒素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素とからなる材料で形成され、
前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合(ただし、b/[a+b]<4/7)およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下であり、
前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上である
ことを特徴とするマスクブランク。
(構成2)
前記最下層以外の層は、窒素および酸素の合計含有量が50原子%以上であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記最下層以外の層のうちの少なくとも1層は、窒素の含有量が50原子%以上であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
(構成4)
前記最下層は、ケイ素、窒素および非金属元素からなる材料で形成されていることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記最下層以外の層のうちの少なくとも1層は、その1層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合、Si−Si結合、Si−O結合およびSi−ON結合の合計存在数で除した比率が0.87以上であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成6)
前記最下層は、厚さが16nm以下であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成8)
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
透光性基板上に転写パターンが形成された位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、透光性基板に接する最下層を含む2層以上の積層構造からなり、
前記位相シフト膜の最下層以外の層は、半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素とからなる材料で形成され、
前記最下層は、ケイ素と窒素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素とからなる材料で形成され、
前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合(ただし、b/[a+b]<4/7)およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下であり、
前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上である
ことを特徴とする位相シフトマスク。
(構成10)
前記最下層以外の層は、窒素および酸素の合計含有量が50原子%以上であることを特徴とする構成9記載の位相シフトマスク。
(構成11)
前記最下層以外の層のうちの少なくとも1層は、窒素の含有量が50原子%以上であることを特徴とする構成9または10に記載の位相シフトマスク。
(構成12)
前記最下層は、ケイ素、窒素および非金属元素からなる材料で形成されていることを特徴とする構成9から11のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成13)
前記最下層以外の層のうちの少なくとも1層は、その1層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合、Si−Si結合、Si−O結合およびSi−ON結合の合計存在数で除した比率が0.87以上であることを特徴とする構成9から12のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成14)
前記最下層は、厚さが16nm以下であることを特徴とする構成9から13のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成15)
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする構成9から14のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成16)
前記位相シフト膜上に、遮光パターンが形成された遮光膜を備えることを特徴とする構成9から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成17)
構成9から16のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
本発明のマスクブランクは、SiN系材料で形成された転写パターンの黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行った場合に、透光性基板の表面荒れの発生を抑制でき、かつ転写パターンに自発性エッチングが発生することを抑制できる。
本発明の位相シフトマスクは、その位相シフトマスクの製造途上で位相シフト膜の転写パターンの黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行った場合においても、黒欠陥部分の近傍の透光性基板の表面荒れの発生が抑制でき、かつ位相シフト膜の転写パターンに自発性エッチングが発生することを抑制できる。
このため、本発明の位相シフトマスクは転写精度の高い位相シフトマスクとなる。
本発明の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。 本発明の実施形態における位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。 本発明の実施例1に係るマスクブランクの位相シフト膜の下層(最下層)に対してX線光電子分光分析を行った結果を示す図である。 本発明の実施例3に係るマスクブランクの位相シフト膜の下層(最下層)に対してX線光電子分光分析を行った結果を示す図である。 本発明の比較例1に係るマスクブランクの位相シフト膜の下層(最下層)に対してX線光電子分光分析を行った結果を示す図である。
本発明者らは、2層以上の積層構造からなり、最下層をSiN系材料で形成された位相シフト膜の転写パターンの黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行った場合に、透光性基板の表面荒れの発生が抑制され、かつ位相シフト膜の転写パターンに自発性エッチングが発生することが抑制された位相シフト膜の構成について鋭意研究を行った。
EB欠陥修正で用いられるXeFガスは、ケイ素系材料に対して等方性エッチングを行うときの非励起状態のエッチングガスとして知られている。そのエッチングは、ケイ素系材料への非励起状態のXeFガスの表面吸着、XeとFに分離、ケイ素の高次フッ化物の生成、揮発というプロセスで行われる。ケイ素系材料の薄膜パターンに対するEB欠陥修正では、薄膜パターンの黒欠陥部分に対してXeFガス等の非励起状態のフッ素系ガスを供給し、黒欠陥部分の表面にそのフッ素系ガスを吸着させてから、黒欠陥部分に対して電子線を照射する。これにより、黒欠陥部分のケイ素は励起してフッ素との結合が促進され、電子線を照射しない場合よりも大幅に速くケイ素の高次フッ化物となって揮発する。黒欠陥部分の周囲の薄膜パターンにフッ素系ガスが吸着しないようにすることは困難であるため、EB欠陥修正時に黒欠陥部分の周囲の薄膜パターンもエッチングはされる。窒素と結合しているケイ素をエッチングする場合、XeFガスのフッ素がケイ素と結合してケイ素の高次フッ化物を生成するには、ケイ素と窒素の結合を断ち切る必要がある。電子線が照射された黒欠陥部分は、ケイ素が励起されるため、窒素との結合を断ち切ってフッ素と結合して揮発しやすくなる。一方、他の元素と未結合のケイ素は、フッ素と結合しやすい状態といえる。このため、他の元素と未結合のケイ素は、電子線の照射を受けず励起していない状態のものや、黒欠陥部分の周辺の薄膜パターンであって電子線の照射の影響をわずかに受けた程度のものでも、フッ素と結合して揮発しやすい傾向がある。これが自発性エッチングの発生メカニズムと推測される。
SiN系材料で単層構造の位相シフト膜を形成する場合、窒素含有量を比較的多くする必要がある。このような位相シフト膜では、EB欠陥修正時に自発性エッチングの問題が生じにくい。一方、上述した2層以上の積層構造の位相シフト膜の場合、窒素含有量が大幅に少ないSiN系材料を最下層に用いると、膜中のケイ素が窒素と結合している比率が低く、他の元素と未結合のケイ素の比率は高いといえる。このような膜は、EB欠陥修正時に自発性エッチングの問題が生じやすくなっていると考えられる。
次に、本発明者らは、位相シフト膜の最下層を形成するSiN系材料の窒素含有量を増やすことを検討した。窒素含有量を大幅に増やすと、消衰係数kが大幅に小さくなり、最下層を含む位相シフト膜の厚さが大幅に厚くなる必要が生じ、EB欠陥修正時の修正レートが低下する。これらのことを考慮し、窒素含有量をある程度増やしたSiN系材料で位相シフト膜の最下層を透光性基板上に形成し、EB欠陥修正を試みた。その結果、その位相シフト膜は、黒欠陥部分の修正レートが十分に大きく、かつ自発性エッチングの発生を抑制することができていたが、修正後の透光性基板の表面に顕著な荒れが発生していた。位相シフト膜の黒欠陥部分の修正レートが十分に大きいということは、透光性基板との間でのエッチング選択性が十分に高くなっており、透光性基板の表面を顕著に荒らすようなことは生じないはずであった。
本発明者らは、さらに鋭意研究を行った結果、位相シフト膜の最下層において、SiN系材料中のSi結合の存在比率が大きくなると、EB欠陥修正時における透光性基板の表面の荒れが顕著となることを突き止めた。SiN系材料の内部には、ケイ素以外の元素と未結合の状態であるSi−Si結合と、化学量論的に安定な結合状態であるSi結合と、比較的不安定な結合状態であるSi結合(ただし、b/[a+b]<4/7。以下同様。)が主に存在すると考えられる。Si結合はケイ素と窒素の結合エネルギーが特に高いため、Si−Si結合やSi結合に比べ、電子線を照射してケイ素を励起させたときに、ケイ素が窒素との結合を断ち切ってフッ素と結合した高次のフッ化物を生成しにくい。また、位相シフト膜の最下層において、SiN系材料の窒素含有量が少ないと、材料中のSi結合の存在比率は低い傾向にある。
これらのことから、本発明者らは以下の仮説を立てた。すなわち、位相シフト膜の最下層において、Si結合の存在比率が低い場合、黒欠陥部分を平面視したときのSi結合の分布はまばら(不均一)になっていると考えられる。このような黒欠陥部分に対し、上方から電子線を照射してEB欠陥修正を行うと、Si−Si結合とSi結合のケイ素は早期にフッ素と結合して揮発していくのに対し、Si結合のケイ素は窒素との結合を断ち切るのに多くのエネルギーを必要とするため、フッ素と結合して揮発するまでに時間が掛かる。これによって、黒欠陥部分の膜厚方向の除去量に平面視において大きな差が生じる。このような平面視での除去量の差が膜厚方向の各所で生じた状態でEB欠陥修正を継続すると、電子線が照射される黒欠陥部分において、EB欠陥修正が透光性基板まで早期に到達して透光性基板の表面が露出している領域と、EB欠陥修正が透光性基板まで到達せずに黒欠陥部分がまだ透光性基板の表面上に残っている領域が生じてしまう。そして、この黒欠陥部分が残っている領域にだけ電子線を照射することは技術的に困難であるため、黒欠陥部分が残っている領域を除去するEB欠陥修正を継続している間、透光性基板の表面が露出している領域も電子線の照射を受け続ける。EB欠陥修正に対して透光性基板は全くエッチングされないわけではないので、EB欠陥修正が完了するまでに透光性基板の表面が荒らされてしまう。
この仮説を基に鋭意研究を行った結果、位相シフト膜の最下層を形成するSiN系材料におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が一定値以下であれば、その位相シフト膜の黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行ったときに、黒欠陥部分が存在していた領域の透光性基板の表面荒れが、位相シフトマスクとして用いられるときの露光転写時に実質的な影響がない程度に低減させることができることを突き止めた。具体的には、位相シフト膜の最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合(ただし、b/[a+b]<4/7)およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下であれば、EB欠陥修正に係る透光性基板の表面荒れを大幅に抑制することができるといえる。
さらに、位相シフト膜の最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上であれば、位相シフト膜の最下層中に窒素と結合したケイ素が一定比率以上存在することになり、その黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行ったときに、黒欠陥部分の周囲の転写パターン側壁に自発性エッチングが生じることを大幅に抑制することができることも突き止めた。
本発明は、以上の鋭意検討の結果、完成されたものである。
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造を有する。
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO−TiOガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板1を形成する材料として特に好ましい。透光性基板1を形成する材料のArF露光光の波長(約193nm)における屈折率nは、1.5以上1.6以下であることが好ましく、1.52以上1.59以下であるとより好ましく、1.54以上1.58以下であるとさらに好ましい。
位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が2%以上であることが好ましい。位相シフト膜2の内部を透過した露光光と空気中を透過した露光光との間で十分な位相シフト効果を生じさせるためである。位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、3%以上であるとより好ましく、4%以上であるとさらに好ましい。また、位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、40%以下であると好ましく、35%以下であるとより好ましい。
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上200度以下の範囲になるように調整されていることが好ましい。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることがより好ましく、160度以上であるとさらに好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差は、195度以下であることがより好ましく、190度以下であるとさらに好ましい。
位相シフト膜2は、透光性基板1側から、下層21と上層22が積層した構造を有する。本実施の形態では、下層21が透光性基板1に接する最下層となっている。
位相シフト膜2の全体で、上記の透過率、位相差の各条件を少なくとも満たすために、下層21のArF露光光の波長に対する屈折率n(以下、単に屈折率nという。)は、1.55以下であることが好ましい。また、下層21の屈折率nは、1.25以上であると好ましい。下層21の消衰係数kは、2.00以上であると好ましい。また、下層21のArF露光光の波長に対する消衰係数k(以下、単に消衰係数kという。)は、2.40以下であると好ましい。なお、下層21の屈折率nおよび消衰係数kは、下層21の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
位相シフト膜2が上記の条件を満たすために、上層22の屈折率nは、2.30以上であることが好ましく、2.40以上であるとより好ましい。また、上層22の屈折率nは、2.80以下であると好ましく、2.70以下であるとより好ましい。上層22の消衰係数kは、1.00以下であると好ましく、0.90以下であるとより好ましい。また、上層22の消衰係数kは、0.20以上であると好ましく、0.30以上であるとより好ましい。なお、上層22の屈折率nおよび消衰係数kは、後述の表層部分を含む上層22の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。下層21と上層22を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、貴ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタリングターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される下層21および上層22が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
下層21の厚さは、位相シフト膜2に求められる所定の透過率、位相差の条件を満たせる範囲で、極力薄くすることが望まれる。下層21の厚さは16nm以下であると好ましく、14nm以下であるとより好ましく、12nm以下であるとさらに好ましい。また、特に位相シフト膜2の裏面反射率の点を考慮すると、下層21の厚さは、2nm以上であることが好ましく、3nm以上であるとより好ましく、5nm以上であるとさらに好ましい。なお、位相シフト膜2を3つ以上の層で形成する場合には、最下層の層の厚さが下層21の厚さに対応する。
上層22の厚さは80nm以下であると好ましく、70nm以下であるとより好ましく、65nm以下であるとさらに好ましい。また、上層22の厚さは、40nm以上であることが好ましく、45nm以上であるとより好ましい。なお、位相シフト膜2を3つ以上の層で形成する場合には、最下層以外の層の厚さが上層22の厚さに対応する。
下層21は、ケイ素と窒素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素とからなる材料で形成される。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
ケイ素はフッ素と結合したときに沸点の低いフッ化物を生成するため、EB欠陥修正時に自発性エッチングを起こしやすいのに対し、半金属元素はフッ素と結合したときにケイ素の場合よりも沸点の高いフッ化物を生成する。このため、下層21に半金属元素を含有させても自発性エッチングが生じやすい方向には作用しない。また、EB欠陥修正では、修正する対象の下層21と酸化ケイ素を主成分とする透光性基板との間の修正レート差が十分に大きくなるように調整するのが一般的である。そして、半金属元素の方がケイ素よりも修正レートが速くなる傾向がある。さらに、修正レートが速くなるにつれて、EB欠陥修正時に透光性基板の表面荒れが発生しにくくなる傾向がある。
これらのことから、EB欠陥修正の観点においては、下層21に半金属元素を含有することは好ましいといえる。一方、下層21中の半金属元素の含有量が多くなるにつれて、下層21の光学特性に無視しがたい変化が生じてくる。以上の点を総合的に考慮すると、下層21に半金属元素を含有させる場合、その含有量は10原子%以下であると好ましく、5原子%以下であるとより好ましく、3原子%以下であるとさらに好ましい。
下層21に酸素を含有させることによるEB欠陥修正の修正レートに与える影響が大きいが、下層21を形成するときに酸素が入り込むことを避けることは難しい。下層21は、酸素の含有量が3原子%以下であれば、下層21のEB欠陥修正の修正レートに与える影響を小さくすることができる。下層21の酸素含有量は2原子%以下であることが好ましく、1原子%以下であるとより好ましく、X線光電子分光法による分析で検出下限値以下であるとさらに好ましい。
下層21に窒素以外の非金属元素も含有させる場合、非金属元素の中でも、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。上記に列挙された非金属元素を下層21に含有させることによるEB欠陥修正の修正レートに与える影響は比較的小さい。上記に列挙された非金属元素の下層21中の含有量は5原子%以下であることが好ましく、3原子%以下であるとより好ましく、X線光電子分光法による分析で検出下限値以下であるとさらに好ましい。一方、下層21に窒素以外の非金属元素も含有させることができる非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の貴ガスも含まれる。下層21に貴ガスを含有することによってEB欠陥修正時の下層21の傾向に実質的な変化は生じない。なお、下層21は、ケイ素、窒素および非金属元素からなる材料で形成されていることが好ましい。
下層21において、Si結合の存在数を、Si結合、Si結合(ただし、b/[a+b]<4/7)およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下であり、かつ、Si結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上である。これらの点について、図3および図4を用いて後述する。ここで、下層21では、ケイ素および窒素の合計含有量が97原子%以上であることが好ましく、98原子%以上である材料で形成されることがより好ましい。一方、下層21は、下層21を構成する各元素の含有量の膜厚方向での差が、いずれも10%未満であることが好ましく、5%以下であるとより好ましい。下層21をEB欠陥修正で除去するときの修正レートのバラつきを小さくするためである。
上層22は、半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素とからなる材料で形成される。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。また、非金属元素の中でも、窒素、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。この非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の貴ガスも含まれる。
上層22を形成する材料は、窒素および酸素の合計含有量が50原子%以上であると好ましく、窒素の含有量が50原子%以上であるとより好ましい。また、上層22の酸素の含有量は、10原子%以下であると好ましく、5原子%以下であるとより好ましく、3原子%以下であるとさらに好ましい。そして、上層22を形成する材料において、Si結合の存在数を、Si結合、Si結合、Si−Si結合、Si−O結合およびSi−ON結合の合計存在数で除した比率が0.87以上であるとさらに好ましい。このような材料で上層22を形成すると、上層22を平面視したときのSi結合の分布は比較的均一でまばらになりにくい。このため、EB欠陥修正時において修正箇所の上層22を均一に除去することができ、下層21への影響を抑制できる点で好ましい。
さらに、上層22の上に図示しない最上層を設けてもよい。この場合の最上層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成すると好ましい。最上層の酸素の含有量は、40原子%以上であると好ましく、50原子%以上であるとより好ましく、60原子%以上であるとさらに好ましい。最上層の酸素の含有量が40原子%以上であれば、最上層の内部は、SiO結合が多くを占め、最上層を平面視したときのSiO結合の分布は均一でまばらになりにくい。このため、EB欠陥修正時において修正箇所の最上層を均一に除去することができ、下層21への影響を抑制できる。
一方、上述した最上層を設けない場合において、上層22を形成する材料を、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成してもよい。この場合、上層22の酸素の含有量は、40原子%以上であると好ましく、50原子%以上であるとより好ましく、60原子%以上であるとさらに好ましい。上層22の酸素の含有量が40原子%以上であれば、上層22の内部は、SiO結合が多くを占め、上層22を平面視したときのSiO結合の分布は均一でまばらになりにくい。このため、EB欠陥修正時において修正箇所の上層22を均一に除去することができ、下層21への影響を抑制できる。
位相シフト膜2における下層21および上層22は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
本実施形態における位相シフト膜2は、透光性基板1上に位相シフト膜2のみが存在する状態において、ArF露光光に対する透光性基板1側(裏面側)の反射率(裏面反射率)が35%以上であると好ましい。透光性基板1上に位相シフト膜2のみが存在する状態とは、このマスクブランク100から位相シフトマスク200(図2(g)参照。)を製造したときに、位相シフトパターン2aの上に遮光パターン3bが積層していない状態(遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域)のことをいう。単層構造の位相シフト膜では、裏面反射率を高めることは難しく、本実施形態のような最下層を含む2層以上の積層構造の位相シフト膜は、裏面反射率を従来よりも高くすることが可能である。このような裏面反射率を有する位相シフトマスク200は、位相シフトパターン2aの内部でのArF露光光の吸収量を少なくすることができる。これにより、位相シフトパターン2aの内部でArF露光光を吸収して熱に変換されることで生じる発熱量を少なくできる。そして、この位相シフトパターン2aの発熱に起因して生じる透光性基板1の熱膨張と、それによって生じる位相シフトパターン2aの移動を小さくすることができる。
本実施形態における位相シフト膜2は、下層21および上層22の2層の積層構造からなるものであるが、これに限らず3層以上の積層構造であってもよい。ここで、位相シフト膜2を、透光性基板1側から透光性基板の表面に接する最下層、中間層、上層の順に積層した構造とした場合、最下層、中間層、上層の露光光の波長における屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nおよびn>nの関係を満たし、最下層、中間層、上層の露光光の波長における消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすように構成することが好ましい。このように位相シフト膜2を構成すると、位相シフト膜2のパターン(位相シフトパターン2a)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターン2aの移動を抑制することができる。
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、バイナリ型の転写用マスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。この点については、位相シフトマスクの場合も同じである。位相シフトマスクの外周領域は、ODが2.8以上であると好ましく、3.0以上であるとより好ましい。位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(図2参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜3および2層以上の積層構造の遮光膜3の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
図1に記載の形態におけるマスクブランク100は、位相シフト膜2の上に、他の膜を介さずに遮光膜3を積層した構成としている。この構成の場合の遮光膜3は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
また、上層22(特に表層部分)を形成する材料との間でドライエッチングに対するエッチング選択性が得られるのであれば、遮光膜3を遷移金属とケイ素を含有する材料で形成してもよい。遷移金属とケイ素を含有する材料は遮光性能が高く、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。遮光膜3に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。
一方、遮光膜3として、位相シフト膜2側からクロムを含有する材料からなる層と遷移金属とケイ素を含有する材料からなる層がこの順に積層した構造を備えてもよい。この場合におけるクロムを含有する材料および遷移金属とケイ素を含有する材料の具体的な事項については、上記の遮光膜3の場合と同様である。
マスクブランク100において、遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4を遮光膜3の上にさらに積層させた構成とすると好ましい。ハードマスク膜4は、基本的に光学濃度の制限を受けないため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化要求に対応していく上で極めて重要である。
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、ケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制できる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。
図2に、上記実施形態のマスクブランク100から製造される本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200とその製造工程を示す。図2(g)に示されているように、位相シフトマスク200は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターンである位相シフトパターン2aが形成され、遮光膜3に遮光パターン3bが形成されていることを特徴としている。マスクブランク100にハードマスク膜4が設けられている構成の場合、この位相シフトマスク200の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
本発明の実施形態に係る位相シフトマスクの製造方法は、前記のマスクブランク100を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光パターンを有するレジスト膜(レジストパターン6b)をマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光パターン3bを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、図2に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100を用いた位相シフトマスク200の製造方法について説明する。また、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用した場合について述べる。
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。なお、このとき、電子線描画したレジストパターン5aには、位相シフト膜2に黒欠陥が形成されるように、本来形成されるべき転写パターンの他にプログラム欠陥を加えておいた。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図2(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、CHF、CF、C、C、SF等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
図2に示す製造方法によって製造された位相シフトマスク200は、透光性基板1上に、転写パターンを有する位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)を備えた位相シフトマスクである。製造した実施例1の位相シフトマスク200に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行ったところ、プログラム欠陥を配置していた箇所の位相シフトパターン2aに黒欠陥の存在が確認された。このため、EB欠陥修正によりその黒欠陥部分を除去した。
このように位相シフトマスク200を製造することにより、その位相シフトマスク200の製造途上で位相シフトパターン2aの黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行った場合においても、黒欠陥部分の近傍の透光性基板1の表面荒れの発生が抑制でき、かつ位相シフトパターン2aに自発性エッチングが発生することを抑制できる。
さらに、本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴としている。
本発明の位相シフトマスク200やマスクブランク100は、上記の通りの効果を有するため、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージに位相シフトマスク200をセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する際、半導体デバイス上のレジスト膜に、高いCD精度で転写パターンを転写することができる。このため、このレジスト膜のパターンをマスクとして、その下層膜をドライエッチングして回路パターンを形成した場合、精度不足に起因する配線短絡や断線のない高精度の回路パターンを形成することができる。
以下、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するための、実施例1〜4および比較例1、2について述べる。
[マスクブランクの製造]
実施例1〜4および比較例1、2のそれぞれについて、主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.25mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとし、RF電源による反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層Aを、実施例1の位相シフト膜2の下層21として透光性基板1上に形成した。同様に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層B、C、D、E、Fを、実施例2〜4、比較例1、2の位相シフト膜2の下層21としてそれぞれの透光性基板1上に形成した。下層A〜Fのそれぞれについての、スパッタリング時のRF電源の電力、スパッタリングガスの流量比、Si−Si結合、Si結合およびSi結合の存在数の比率(存在比率)を、表1に示す。なお、表1及び後述する表2において、電力(Pwr)の単位は、ワット(W)である。
Figure 2019164381
下層A〜FのSi−Si結合、Si結合およびSi結合の存在数の比率(存在比率)は、以下のようにして算出した。まず、上記の実施例1〜4、比較例1、2の位相シフト膜2の下層21と同じ成膜条件で、別の透光性基板の主表面上に、別の下層A〜Fを形成した。そして、この下層A〜Fに対して、X線光電子分光分析を行った。このX線光電子分光分析では、下層A〜Fの表面に対してX線(AlKα線:1486eV)を照射してその下層A〜Fから放出される光電子の強度を測定し、Arガススパッタリングで下層A〜Fの表面を約0.65nmの深さだけ掘り込み、掘り込んだ領域の下層A〜Fに対してX線を照射してその領域から放出される光電子の強度を測定するというステップを繰り返すことで、下層A〜Fの各深さにおけるSi2pナロースペクトルをそれぞれ取得した。ここで、取得されたSi2pナロースペクトルは、透光性基板1が絶縁体であるため、導電体上で分析する場合のスペクトルに対してエネルギーが低めに変位している。この変位を修正するため、導電体であるカーボンのピークに合わせた修正を行っている。
この取得したSi2pナロースペクトルには、Si−Si結合、Si結合およびSi結合のピークがそれぞれ含まれている。そして、Si−Si結合、Si結合およびSi結合のそれぞれのピーク位置と、半値全幅FWHM(full width at half maximum)を固定して、ピーク分離を行った。具体的には、Si−Si結合のピーク位置を99.35eV、Si結合のピーク位置を100.6eV、Si結合のピーク位置を101.81eVとし、それぞれの半値全幅FWHMを1.71として、ピーク分離を行った。そして、ピーク分離されたSi−Si結合、Si結合およびSi結合のそれぞれのスペクトルについて、面積をそれぞれ算出した。これらの算出された面積は、分析装置が備えている公知の手法のアルゴリズムにより算出されたバックグラウンドを差し引いたものである。そして、それぞれのスペクトルについて算出されたそれぞれの面積に基づき、Si−Si結合、Si結合およびSi結合の存在数の比率を算出した。
図3、図4、図5は、実施例1、実施例3、比較例1のそれぞれに係るマスクブランクの位相シフト膜の下層(最下層)に対してX線光電子分光分析を行った結果のうち、所定深さにおけるSi2pナロースペクトルを示す図である。これらの図に示すように、Si2pナロースペクトルに対し、Si−Si結合、Si結合およびSi結合のそれぞれにピーク分離を行い、バックグラウンドを差し引いた面積をそれぞれ算出し、Si−Si結合、Si結合およびSi結合の存在数の比率を算出した。
その結果、表1に示されるように、下層A〜Dは、Si結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下という条件と、Si結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上という条件のいずれをも満たすものであった。一方、下層Eは、Si結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下という条件を満たさないものであった。また、下層Fは、Si結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上という条件を満たさないものであった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に位相シフト膜2の下層21が形成された透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとし、RF電源による反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、ケイ素および窒素を含有する位相シフト膜2の上層A(SiN膜 Si:N:O=44原子%:55原子%:1原子%)を、実施例1、3、比較例1の位相シフト膜2の上層22として、実施例1、3、比較例1の下層21上にそれぞれ形成した。同様に、ケイ素および窒素を含有する位相シフト膜2の上層B(SiN膜 Si:N:O=44原子%:55原子%:1原子%)を、実施例2、4、比較例2の位相シフト膜2の上層22として、実施例2、4、比較例2のそれぞれの下層21上に形成した。なお、上層A、Bの組成は、X線光電子分光法(XPS)による測定によって得られた結果である。上層A、Bのそれぞれについての、スパッタリング時のRF電源の電力、スパッタリングガスの流量比を、表2に示す。
Figure 2019164381
次に、膜の応力調整を目的に、この上層Aが形成された実施例1、3、比較例1の透光性基板1と、上層Bが形成された実施例2、4、比較例6の透光性基板1に対し、大気中において加熱温度550℃、処理時間1時間の条件で加熱処理を行った。
上層A、BのSi−Si結合、Si結合およびSi結合の存在数の比率(存在比率)は、以下のようにして算出した。まず、上記の実施例1〜4、比較例1、2の位相シフト膜2の上層22と同じ成膜条件で、別の透光性基板の主表面上に、別の上層A、Bを形成し、さらに同じ条件で加熱処理を行った。そして、この上層A、Bに対して、X線光電子分光分析を行った。このX線光電子分光分析では、上層A、Bの表面に対してX線(AlKα線:1486eV)を照射してその上層A、Bにから放出される光電子の強度を測定し、Arガススパッタリングで上層A、Bの表面を約0.65nmの深さだけ掘り込み、掘り込んだ領域の上層A、Bに対してX線を照射してその領域から放出される光電子の強度を測定するというステップを繰り返すことで、上層A、Bの各深さにおけるSi2pナロースペクトルをそれぞれ取得した。ここで、取得されたSi2pナロースペクトルは、透光性基板1が絶縁体であるため、導電体上で分析する場合のスペクトルに対してエネルギーが低めに変位している。この変位を修正するため、導電体であるカーボンのピークに合わせた修正を行っている。
この取得したSi2pナロースペクトルには、Si結合、Si結合およびSi−O/Si−ON結合のピークがそれぞれ含まれている。そして、Si結合、Si結合およびSi−O/Si−ON結合のそれぞれのピーク位置と、半値全幅FWHM(full width at half maximum)を固定して、ピーク分離を行った。なお、Si−Si結合については、ピーク分離ができなかった(検出下限値以下)。そして、ピーク分離されたSi結合、Si結合およびSi−O/Si−ON結合のそれぞれのスペクトルについて、面積をそれぞれ算出した。これらの算出された面積は、分析装置が備えている公知の手法のアルゴリズムにより算出されたバックグラウンドを差し引いたものである。そして、それぞれのスペクトルについて算出されたそれぞれの面積に基づき、Si結合、Si結合およびSi−O/Si−ON結合の存在数の比率を算出した。それらの結果を表2に示す。
位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、実施例1〜4、比較例1、2における位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定した。また、この実施例1〜4、比較例1、2における位相シフト膜2に対して、STEM(Scanning Electron Microscope)とEDX(Energy Dispersive X−Ray Spectroscopy)で分析したところ、上層22の表面から約2nm程度の厚さの表層部分で酸化層が形成されていることが確認された。さらに、実施例1〜4、比較例1、2における位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定した。表3において、実施例1〜4、比較例1、2における位相シフト膜2の下層21および上層22の膜厚や光学特性を示す。なお、表3において、膜厚の単位は、ナノメートル(nm)であり、透過率および裏面反射率(ただし、透光性基板1上に位相シフト膜2のみが存在する状態。)の単位は、パーセント(%)であり、位相差の単位は、度(degree)である。
Figure 2019164381
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上にCrOCNからなる遮光膜3(CrOCN膜 Cr:O:C:N=55原子%:22原子%:12原子%:11原子%)を46nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で遮光膜3のみを成膜し、その遮光膜3の光学特性を測定したところ、屈折率nが1.95、消衰係数kが1.53であった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、2層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1〜4、比較例1、2のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1〜4、比較例1、2の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。なお、このとき、電子線描画したレジストパターン5aには、位相シフト膜2に黒欠陥が形成されるように、本来形成されるべき転写パターンの他にプログラム欠陥を加えておいた。
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。その後、第1のレジストパターン5aを除去した。
続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=10:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(図2(c)参照)。次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
製造した実施例1〜4、比較例1、2の位相シフトマスク200に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行ったところ、プログラム欠陥を配置していた箇所の位相シフトパターン2aに黒欠陥の存在が確認された。その黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行った。表3に示されるように、実施例1〜4においては、透光性基板1に対する位相シフトパターン2aの修正レート比が十分に高く、透光性基板1の表面へのエッチングを最小限にとどめることができた。一方、比較例1においては、透光性基板1に対する位相シフトパターン2aの修正レート比が低く、透光性基板1の表面へのエッチング(表面荒れ)が進んでいた。また、比較例2においては、修正レートが速すぎてアンダーカットが発生していた。さらに、黒欠陥部分の周囲の位相シフトパターン2aの側壁がEB欠陥修正時に供給される非励起状態のXeFガスが接触することによってエッチングされる現象、すなわち自発性エッチングが進んでいた。
このEB欠陥修正後の実施例1〜4、比較例1、2の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、実施例1〜4の位相シフトマスク200を用いた場合には、設計仕様を十分に満たしていた。また、EB欠陥修正を行った部分の転写像は、それ以外の領域の転写像に比べてそん色のないものであった。この結果から、実施例1〜4の位相シフトマスク200に対し、位相シフトパターン2aの黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行った場合に、透光性基板1の表面荒れの発生を抑制でき、かつ位相シフトパターン2aに自発性エッチングが発生することを抑制できるといえる。また、EB欠陥修正を行った後の実施例1〜4の位相シフトマスク200を露光装置のマスクステージをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合でも、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンは高精度で形成できるといえる。このため、実施例1〜4の位相シフトマスク200は転写精度の高い位相シフトマスクであるといえる。
一方、比較例1の位相シフトマスク200においてこのシミュレーションの露光転写像を検証したところ、EB欠陥修正を行った部分以外でも、位相シフト膜にパターンを形成するときのドライエッチングでのエッチングレートの遅さに起因すると見られる位相シフトパターンのCDの低下が発生していた。さらに、EB欠陥修正を行った部分の転写像は、透光性基板の表面荒れの影響等に起因して転写不良が発生するレベルのものであった。この結果から、EB欠陥修正を行った後の比較例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンには、回路パターンの断線や短絡が発生することが予想される。
また、比較例2の位相シフトマスク200においてこのシミュレーションの露光転写像を検証したところ、EB欠陥修正を行った部分での透光性基板1の表面荒れは発生していなかった。しかし、EB欠陥修正を行った部分の周囲の転写像は、自発性エッチングの影響等に起因して転写不良が発生するレベルのものであった。この結果から、EB欠陥修正を行った後の比較例2の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンには、回路パターンの断線や短絡が発生することが予想される。
1 透光性基板
2 位相シフト膜
21 下層(最下層)
22 上層
2a 位相シフトパターン(転写パターン)
3 遮光膜
3a,3b 遮光パターン
4 ハードマスク膜
4a ハードマスクパターン
5a 第1のレジストパターン
6b 第2のレジストパターン
100 マスクブランク
200 位相シフトマスク

Claims (17)

  1. 透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
    前記位相シフト膜は、前記透光性基板に接する最下層を含む2層以上の積層構造からなり、
    前記位相シフト膜は、フッ素を含有するエッチングガスを用いるドライエッチングでエッチング可能な材料で形成され、
    前記最下層は、ケイ素と窒素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素とからなる材料で形成され、
    前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合(ただし、b/[a+b]<4/7)およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下であり、
    前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上である
    ことを特徴とするマスクブランク。
  2. 前記最下層は、厚さが16nm以下であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
  3. 前記最下層は、半金属元素の含有量が10原子%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
  4. 前記最下層は、酸素の含有量が3原子%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
  5. 前記最下層は、ケイ素、窒素および非金属元素からなる材料で形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
  6. 前記位相シフト膜は、最上層を備え、
    前記最上層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
  7. 前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
  8. 前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
  9. 透光性基板上に転写パターンが形成された位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
    前記位相シフト膜は、前記透光性基板に接する最下層を含む2層以上の積層構造からなり、
    前記位相シフト膜は、フッ素を含有するエッチングガスを用いるドライエッチングでエッチング可能な材料で形成され、
    前記最下層は、ケイ素と窒素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素とからなる材料で形成され、
    前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合(ただし、b/[a+b]<4/7)およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.05以下であり、
    前記最下層におけるSi結合の存在数を、Si結合、Si結合およびSi−Si結合の合計存在数で除した比率が0.1以上である
    ことを特徴とする位相シフトマスク。
  10. 前記最下層は、厚さが16nm以下であることを特徴とする請求項9記載の位相シフトマスク。
  11. 前記最下層は、半金属元素の含有量が10原子%以下であることを特徴とする請求項9または10に記載の位相シフトマスク。
  12. 前記最下層は、酸素の含有量が3原子%以下であることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  13. 前記最下層は、ケイ素、窒素および非金属元素からなる材料で形成されていることを特徴とする請求項9から12のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  14. 前記位相シフト膜は、最上層を備え、
    前記最上層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されていることを特徴とする請求項9から13のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  15. 前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする請求項9から14のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  16. 前記位相シフト膜上に、遮光パターンが形成された遮光膜を備えることを特徴とする請求項9から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
  17. 請求項9から16のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
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