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JP2017166087A - 異形状炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents

異形状炭素繊維およびその製造方法 Download PDF

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JP2017166087A JP2016052121A JP2016052121A JP2017166087A JP 2017166087 A JP2017166087 A JP 2017166087A JP 2016052121 A JP2016052121 A JP 2016052121A JP 2016052121 A JP2016052121 A JP 2016052121A JP 2017166087 A JP2017166087 A JP 2017166087A
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樋口 徹憲
Michinori Higuchi
徹憲 樋口
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University of Tokyo NUC
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Abstract

【課題】焼成工程の高効率化が可能で、かつより高い繊維物性を有し、複合材料にした際に高いコンポジット物性を発現可能な異形状炭素繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アミン変性されたポリアクリロニトリル系耐炎ポリマーからなる繊維が焼成されてなる炭素繊維であって、繊維断面における外接円直径/内接円直径で表される異形度Rが1.1〜10である異形繊維断面形状を有し、かつ表面平滑度Sが1.00〜1.10である異形状炭素繊維,およびその製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、特定の異形状断面を有するポリアクリロニトリル(以下、PANという。)系耐炎ポリマーを前駆体繊維とした炭素繊維およびその製造方法に関する。
炭素繊維は、力学的、化学的諸特性および軽量性などにより、各種の用途、例えば、航空機やロケットなどの航空・宇宙用航空材料、テニスラケット、ゴルフシャフトおよび釣竿などのスポーツ用品に広く使用され、さらに船舶や自動車などの運輸機械用途分野などにも使用されようとしている。また、近年は炭素繊維の高い導電性や放熱性から、携帯電話やパソコンの筐体等の電子機器部品や、燃料電池の電極用途への応用が強く求められている。特にPAN系炭素繊維は、比強度が高いため、特に、航空機や人工衛星などの宇宙・航空用材料、自動車の部材などに用いられており、近年自動車部材への適用が急増している。このため、炭素繊維の生産性を向上させることが望まれている。
現在のPAN系炭素繊維は、主にPANを溶媒に溶かした溶液を紡糸することによりPAN系繊維へと誘導する製糸工程と、得られた繊維を耐炎化および炭化する焼成工程を経ることで製造できる。ここで耐炎化とはPAN系繊維を空気中で200〜300℃で長時間処理し熱安定性が高まった耐炎化繊維へ変換する工程で、炭化とは不活性ガスで満たされた炭化炉で1000〜2000℃で数分間処理して炭素リッチな繊維とする工程である。
上記耐炎化工程では非常に大きな発熱反応が進行するため、大量のPAN系繊維を耐炎化する際に大掛りな除熱が必要となり、結果的に数十分から数時間と長時間の処理が必須となり、かつ大量に発生する排ガスの処理および無害化処理も併せて必要である。そのため耐炎化には大量のエネルギーを必要とし、生産工程の律速になっており、十分効率的なプロセスとは言いにくい。
一方、耐炎化を高効率化するため、PANを予めアミンで変性かつ酸化して耐炎ポリマーを形成させ、これを製糸した後、焼成する技術が提案されている(特許文献1〜4)。このような耐炎ポリマーを用いることで焼成工程が低エネルギープロセスとなるが、得られる炭素繊維の繊維物性、例えば強度、弾性率、伸度がやや低い傾向にあるので改善が必要である。
さらに、特許文献5では耐炎ポリマーを繊維化・焼成して得られる扁平な炭素繊維が開示されているが、表面平滑度が高すぎるため十分な繊維物性が発現できていない。
すなわち、焼成工程においてプロセス速度を上げられる(焼成時間が短縮化する)、あるいはプロセス速度を下げずによりフィラメント数の多い束を用いることができる等の高効率化を達成し、かつより繊維物性の高い炭素繊維およびその製造方法を得ることが求められている。
国際公開2005/080448号 特開2007−31564号公報 国際公開2007/018136号 特開2009−197358号公報 特開2009−293141号公報
そこで本発明の課題は、上記のような要望を満たすために、焼成工程の高効率化の達成が可能で、かつより高い繊維物性を有し、複合材料にした際に高いコンポジット物性を発現する異形状炭素繊維およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明は、アミンで変性されたPAN系耐炎ポリマーからなる繊維が焼成されてなる炭素繊維であって、異形度Rが1.1〜10である異形繊維断面形状であり、かつ表面平滑度Sが1.00〜1.10である異形状炭素繊維である。なお、異形度Rは下記式で定義される。
異形度R=外接円直径/内接円直径
外接円直径:繊維断面すべてを含む最も小さな円の直径
内接円直径:繊維断面の中に入る最も大きな円の直径。
本発明の炭素繊維は、上記構成を備えることにより、焼成工程の大幅な効率化を可能にしつつも、十分に高い強度、弾性率、伸度などの繊維物性を示す。これは、原料としてアミン変性されたPAN系耐炎ポリマーが用いられるとともに、炭素繊維の最終形態として異形度Rを1.1〜10、表面平滑度Sを1.00〜1.10とすることで達成されるものであるが、アミン変性されたPAN系耐炎化ポリマー、およびそれを用いてなる炭素繊維は、非常に複雑な付加・分解・酸化反応および焼成反応を経て得られるものであることから、炭素繊維の構造のみで特定することが実際的でない事情が存在する。よって、本発明では原料の特徴および炭素繊維の最終形態としての構造の両方で発明を特定するものである。
本発明において、上記耐炎ポリマーからなる繊維は、該PAN系耐炎ポリマーの溶液が異形口金から溶液紡糸されたものであることが好ましい。
また、本発明において、上記PAN系耐炎ポリマーの溶液は、水系懸濁重合法で得られた、硫黄(S)成分を0〜3000μg/g含有するPANを原料とするものであることが好ましい。
また、本発明において、上記PAN系耐炎ポリマーの溶液は 次のA、Bのいずれも満たすポリマー溶液であることが好ましい。
A.PANがアミン系化合物で変性され、ニトロ化合物で酸化されたポリマーの溶液である。
B.ニトロ化合物を含まない溶液である。
ここで、ニトロ化合物としては、例えば、ニトロベンゼンが挙げられる。
また、本発明において、上記Aのポリマーは、PAN全量に対して10質量%以上のニトロ化合物、より好ましくはニトロベンゼンにより酸化されたPANを含有するポリマーであることが好ましい。
本発明に係る炭素繊維の製造方法は、上述したような炭素繊維の製造方法であって、アミン変性されたPAN系耐炎ポリマーの溶液を紡糸し、異形状のPAN系耐炎ポリマーからなる繊維を得た後に、該PAN系耐炎ポリマーからなる繊維を焼成する方法からなる。
本発明に係る異形状炭素繊維およびその製造方法によれば、原料としてアミン変性されたPANが用いられるとともに特定の異形状炭素繊維を構成することにより、あるいは耐炎ポリマーを紡糸し、特定の条件で耐炎化処理を施した後に炭化処理する製造方法により、耐炎化の時間を大幅に短縮して生産性を向上でき、かつ、十分に高い強度を発現可能な異形状PAN系炭素繊維を得ることができる。
異形状炭素繊維のうち、断面形状が楕円の例を示す概略断面図である。 異形状炭素繊維のうち、断面形状が面取りした長方形(矩形)の例を示す概略断面図である。
以下に、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明において炭素繊維とは、C(炭素)成分90%以上で構成される繊維のことである。C成分の含有率については元素分析で測定が可能である。
本発明に係る炭素繊維は、アミンで変性されたPAN系耐炎ポリマーからなる繊維が焼成されてなる炭素繊維であって、異形度Rが1.1〜10である異形繊維断面形状を有し、かつ表面平滑度Sが1.00〜1.10である異形状炭素繊維である。
本発明に係る異形状炭素繊維においては、異形度Rが1.1〜10であることが必要であり、好ましくは1.5〜9.0であり、さらに好ましくは2.5〜8.0である。異形度が1.1未満ではコンポジットとした場合繊維含有率が上がりにくく、10を超えると繊維物性が低下しやすい。なお異形度Rは下記式で定義される。
異形度R=外接円直径/内接円直径
外接円直径:繊維断面すべてを含む最も小さな円の直径
内接円直径:繊維断面の中に入る最も大きな円の直径
ここで、異形とは真円以外の形状を指す。例えば楕円、三角形、四角形(正方形、長方形)、五角形以上の多角形、あるいはL形、I形、Y形等のアルファベットを模した形状や複数の既出の形を組み合わせた形状である。例えば、楕円であれば、図1に炭素繊維断面10を例示するように、外接円12の直径が長軸、内接円11の直径が短軸に相当することになる。楕円の炭素繊維断面10に対して、外接円12の直径と内接円11の直径の比として異形度Rが規定される。
また、楕円以外の場合屈曲点を有することもある。ここで屈曲点とは繊維断面の外周において、直線または曲線が急激に折れ曲がる点を意味する。その際、多少の面取りがあっても屈曲点とみなす。面取りとは角を削りとって丸みのある面や短い直線状の面を作ることを意味する。具体的には、例えば図2に例示するように、面取りした長方形の炭素繊維断面20に対して、外接円22の直径と内接円21の直径の比として異形度Rが規定される。
屈曲点数は3以上が好ましく、4以上がさらに好ましい。屈曲点数の上限は特に制限はないが、異形口金から製造する場合、異形口金の製造技術の観点から8以下が好ましい。
このような異形状とすることで、丸断面より焼成工程が効率化され、より高物性の炭素繊維が形成されることになる。
また、本発明の炭素繊維の表面平滑度Sは1.00〜1.10である必要がある。ここで表面平滑度とは後述する実施例で示される方法で測定したものであり、1.00に近いほど平滑であることを示す。1.10を超えると平滑度が低下するため、表面欠陥が増加する傾向にあるので炭素繊維の繊維物性が向上しにくい。
次に、本発明の炭素繊維を得るためのPAN系耐炎ポリマーの製造方法の特色をいくつか挙げる。
まず、紡糸に用いられる耐炎ポリマーの溶液について記す。ここで耐炎ポリマーとは原料PANをアミンで変性させるとともに酸化することで、PANより耐炎性を大幅に高めたポリマーであり、紡糸した後の熱処理等の工程により容易に耐炎繊維を形成できるものである。
紡糸に用いられる耐炎ポリマーの溶液は、具体的にはPANをアミン系化合物で変性し、ニトロ化合物で酸化したポリマーであることが好ましい。
ここで用いるPANの重合方法としては溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等がある。
液相耐炎化において、原料のPANが不純物を多く含んでいると耐炎性と製糸性の高い耐炎ポリマーが得られない。さらに、絶対分子量が低いと製糸性が低下する傾向にある。この点において、高分子量で、不純物をほとんど有しないPANを容易に得るためには、PANの重合方法の中でも水系懸濁重合を用いることが好ましい。
水系懸濁重合の開始剤としては、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾビス化合物またはレドックス開始剤などが挙げられる。ここで、水系懸濁重合においてレドックス重合開始剤を用いた場合、他種の重合開始剤を用いた場合よりも耐炎性と製糸性に優れるため好ましい。
さらに、レドックス開始剤の中でも過硫酸系開始剤と亜硫酸系の開始剤の組み合わせが好ましい、さらに好ましくは、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウムの組み合わせであるレドックス開始剤である。
また、過硫酸系開始剤と亜硫酸系開始剤の組み合わせとしては、PANに対して過硫酸系開始剤を0.5〜6質量%とし、亜硫酸系開始剤を0.25〜3質量%用いることが好ましい。この量未満では反応しづらく、分子量分布が悪くなり、製糸性と耐炎性が低下することがある。この量を超えると、得られるPANが高分子量体にならず、なおかつ反応が暴走する危険がある。さらには、PAN中の硫黄成分濃度が高くなり、耐炎性が低下する。さらに過硫酸系開始剤と亜硫酸系開始剤の組み合わせは、1:2の比率で用いると効率的に高分子量体を得やすい。
本発明において、水系懸濁重合により重合されたPAN中の硫黄(S)成分が0〜3000μg/gであることが好ましく、PAN中のS成分が100〜2500μg/gであることがさらに好ましい。硫黄成分が3000μg/gを超えると、高い耐炎性を付与するニトロ化合物等の酸化剤との反応性が著しく低下することがあり、得られた耐炎ポリマーの耐炎性は低くなり、また製糸性も低下し、耐炎ポリマーを繊維にすることが困難になる。ここで、このPAN中のS成分とは、PANに結合しているS成分および不純物として残存する化合物のS成分の総和を指し、溶媒に含まれるS成分は含まれない。
S成分とPANの絶対分子量のバランスは、耐炎性および製糸性から、PANの絶対数平均分子量Mnが5万以上30万以下、かつS成分の含有量が100μg/g以上2000μg/g以下であることがより好ましい。
本発明に用いるPANは、ホモPANであってもよいし、共重合PANであってもよい。共重合PANは、耐炎化反応の進行しやすさおよび溶解性の点から、アクリロニトリル(以下、ANということもある。)由来の構造単位が好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは92モル%以上である共重合体であることが好ましい。
具体的な共重合成分として、アリルスルホン酸金属塩、メタリルスルホン酸金属塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルやアクリルアミドなども共重合できる。また、上述の共重合成分以外にも、耐炎化を促進する成分として、ビニル基を含有する化合物、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等を共重合することもできる。
PANを極性有機溶媒に溶解する場合には、PANの形状・形態としては粉末、フレーク、繊維状のいずれでもよく、重合中や紡糸時に発生するポリマー屑や糸屑等もリサイクル原料として用いることもできる。好ましくは粉末状、とりわけ100μm以下の微粒子となっていることが、溶媒への溶解性の観点から特に好ましい。
本発明ではアミン変性されたPANを酸化させた耐炎ポリマーの溶液を用いることが必要であるが、ここでいう「アミン変性された」状態としては、アミン系化合物が原料のPANと化学反応を起こした状態、または水素結合もしくはファンデルワールス力等の相互作用によりポリマー中に取り込まれた状態が例示される。その際、PANの分子鎖破断が生じることもある。
紡糸に用いられる耐炎ポリマーがアミン系化合物によって変性されているか否かは、以下の方法でわかる。
a.分光学的方法、NMRスペクトルや赤外吸収(IR)スペクトル等を用い、変性されてないポリマーの構造との差を解析する方法。
b.後述する方法により耐炎ポリマー作製前後のポリマーの質量を測定し、耐炎ポリマーの質量が原料のPANに対して質量増加しているか否かによって確認する方法。
アミン系化合物で変性されたPAN系耐炎ポリマーは、原料のPANに対して、1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、特に好ましくは1.3倍以上に増加する。また増加する場合の上限については、3倍以下、さらに2.6倍以下、さらに2.2倍以下に増加している方が好ましい。かかる範囲よりも質量変化が小さかったり、大きかったりすると、紡糸性が損なわれ、製糸できない場合がある。
ここで用いることのできるアミンは1級〜4級のアミノ基を有する化合物であればいずれでもよいが、具体的にはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン等のポリエチレンポリアミン等やオルト、メタ、パラのフェニレンジアミン等が挙げられる。
特にアミノ基以外にも水酸基等の酸素、窒素、硫黄などの元素を有する官能基を有していることも好ましく、アミノ基とこのようなアミン以外の官能基とを含め2つ以上の官能基を有する化合物であることが反応性等の観点から好ましい。具体的にはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン等のエタノールアミン類などが挙げられる。中でも、特にモノエタノールアミンがより好ましい。これらは1種でまたは2種以上併用して用いることができる。アミノ基以外の官能基を有する化合物、例えば水酸基を有する場合、水酸基が耐炎ポリマーを変性することもあり得る。
反応を十分進行させるためには、PANに対して20質量%以上、好ましくは30質量%以上のアミンを用いることが好ましい
本発明におけるニトロ化合物は酸化剤であり、PANを酸化する。ニトロ化合物としては、具体的にニトロ系、ニトロキシド系等の酸化剤が挙げられる。中でも、特に好ましいのはニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエン、ニトロキシレン、o,m,p−ニトロフェノール、o,m,p−ニトロ安息香酸等の芳香族ニトロ化合物を挙げることができる。特に単純な構造を持つニトロベンゼンが、危険性が少なく、立体障害も低いので速やかに酸化できるために最も好ましく用いられる。
これら酸化剤の添加量は特に限定されないが、本発明においてPANが充分に酸化されているためには、PAN系耐炎ポリマーは、PAN全量に対して10質量%以上のニトロ化合物により酸化されたものであることが好ましい、さらに好ましくは15質量%以上である。さらに、ニトロ化合物の添加量として、先に述べた紡糸に用いられる耐炎ポリマーの溶液中のニトロ化合物の残存率を0%にするために、用いられるアミン系化合物100質量部に対してニトロ化合物を1〜50質量部用いることが好ましく、より好ましくは20〜45質量部用いることである。この際、反応温度は130〜300℃が好ましく、130〜250℃がさらに好ましい。反応時間は4時間以上10時間以下が好ましく、5時間以上8時間以下がさらに好ましい。10時間よりも長く加熱すると、ポリマーが傷み過ぎて、最終的に炭素繊維の強度が低下する。4時間よりも短い場合、ニトロ化合物が炭素繊維を製造する過程における系中に残りやすく、最終的に得られる炭素繊維の繊維物性が低下する傾向にある。
さらに、PAN系耐炎ポリマーの溶液に用いられる、アミンで変性された耐炎ポリマーを溶解する有機溶媒は、水酸基、アミノ基、アミド基、スルホニル基、スルホン基等を有するもので、さらに水との相溶性が良好なもので、具体例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量200〜1000程度のポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等を用いることができる。これらは1種だけで用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。中でもDMSOは、PANだけではなく耐炎ポリマーの溶解性が高いため好ましく用いられる。
なお、本発明で用いる紡糸に用いられる耐炎ポリマーの溶液中にはシリカ、アルミナ、ゼオライト等の無機粒子、カーボンブラック等の顔料、シリコーン等の消泡剤、リン化合物等の安定剤・難燃剤、各種界面活性剤、その他の添加剤を含ませても構わない。また、耐炎ポリマーの溶解性を向上させる目的で、塩化リチウム、塩化カルシウム等の無機化合物を含有させることもできる。これらは、反応を進行させる前に添加してもよいし、反応を進行させた後に添加してもよい。
本発明においてニトロ化合物を含まない耐炎ポリマーの溶液を用いることで、紡糸した繊維の焼成での発熱を抑えられ、より焼成を短縮化が可能となる傾向にある。さらには、ニトロ化合物を含まない耐炎ポリマーの溶液を用いることで、より異形度が高くなる傾向にある。
ニトロ化合物が耐炎ポリマーの溶液に残存する場合、耐炎化処理中にも繊維中のニトロ化合物が酸化剤として作用すると推測され、この繊維の構造形成中に酸化されることが2層構造の炭素繊維になる原因と考えられる。耐炎ポリマーの溶液中のニトロ化合物の残存量を0%にする好ましい方法としては、PANをアミン系化合物とニトロ化合物で変性した後エタノールで洗浄し除去すること、またはアミン系化合物の量を増やしニトロ化合物が反応しやすくすること、などが挙げられる。前者の洗浄は時間もコストもかかり、ポリマー中に残存する可能性もあるので、後者の反応系中でニトロ化合物の残存量0%にする方法がより好ましい。かかる方法の具体的な説明は後述する。
本発明に用いる耐炎ポリマーの溶液は、有機溶媒に耐炎ポリマーを溶解させ、製造することもできる。耐炎ポリマーの溶液のポリマー濃度は、濃度が低い場合、本発明自体の効果を損じないが、紡糸の際の生産性が低い傾向にあり、濃度が高い場合、流動性に乏しく紡糸しにくい傾向にある。紡糸することを考慮すると、耐炎ポリマーの溶液のポリマー濃度としては8〜30質量%が好ましい。ここで耐炎ポリマーの濃度は次の方法で求められる。
耐炎ポリマーの溶液を秤量し、約4gを500mlの蒸留水中に入れ、これを沸騰させる。一旦固形物を取り出し、再度500mlの蒸留水中に入れて、これを沸騰させる。残った固形分をアルミニウムパンに乗せ、120℃の温度のオーブンで1日乾燥し耐炎ポリマーを単離する。単離した固形分を秤量し、元の耐炎ポリマーの溶液の質量との比を計算して濃度を求める。
本発明における耐炎ポリマーの溶液の粘度は、ポリマーを用いての賦形方法、成形方法、成形温度、口金、金型等の種類等によってそれぞれ好ましい範囲とすることができる。一般的には50℃での測定において1〜1000Pa・sの範囲で用いることができる。より好ましくは10〜800Pa・s、さらに好ましくは20〜600Pa・sである。かかる粘度は各種粘度測定器、例えば回転式粘度計、レオメータやB型粘度計等により測定することができる。いずれか1つの測定方法により上記範囲に入ればよい。また、かかる範囲外であっても紡糸時に加熱あるいは冷却することにより適当な粘度として用いることもできる。
次に、本発明におけるアミンで変性されたPAN系耐炎ポリマーからなる繊維を得るに好適な製造方法について説明する。
紡糸に用いられる耐炎ポリマーの溶液を繊維状に紡糸する好ましい方法としては、プロセスの生産性を上げるために湿式紡糸法あるいは乾湿式紡糸法が挙げられる。湿式紡糸は凝固速度が速く、異形状の固定化が容易になるため好ましい。
具体的には、耐炎ポリマーの溶液を、配管を通しブースターポンプ等で昇圧し、ギアポンプ等で計量押出し、口金から吐出することによって行うことができる。ここで、口金の材質としてはSUS(ステンレス)あるいは金、白金等を適宜使用することができる。
また、耐炎ポリマーの溶液が口金孔に流入する前に、無機繊維の焼結フィルターあるいは合成繊維例えばポリエステルやポリアミドからなる織物、編物、不織布などをフィルターとして用いて、耐炎ポリマーの溶液をろ過あるいは分散させることが、得られる繊維集合体において単繊維断面積のバラツキを低減させる面から好ましい。
口金の孔形状は前記した異形状繊維断面に併せて選択することができる。例えば、三角、四角(正方形、長方形)、五〜八角等やY形、L形等のアルファベット形状が好ましが、製糸性の観点から、長方形(スリットとも言う)が好ましい。長方形の長辺は40〜150μmが好ましく、短辺は20〜38μmが好ましい。
口金から直接的または間接的に凝固浴中に耐炎ポリマーの溶液を吐出し、凝固糸を得る。凝固浴液は、耐炎ポリマーの溶液に含まれる溶媒と凝固促進成分とから構成するのが、簡便性の点から好ましく、凝固促進成分として水を用いることがさらに好ましい。凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合、および凝固浴液温度は、得られる凝固糸の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択して使用されるが、特に凝固浴濃度としては溶媒/水=0/100〜95/5の任意の範囲とすることができるが、30/70〜70/30が好ましく、40/60〜60/40が特に好ましい。
また、凝固浴の温度(凝固温度とも言う)は繊維断面25℃以下で行うことが好ましい。さらに好ましくは20℃以下、特に好ましくは18℃以下である。凝固温度が30℃以上では凝固速度が遅くなるため繊維断面形状が丸まりやすく、異形度が向上しにくい。さらに、凝固速度が遅いため表面平滑度も大きくなりやすい。一方、凝固温度の下限は耐炎ポリマー溶液の粘度に依存するが、0℃程度となる。
ここで、本発明において、得られた凝固糸の膨潤度は、50〜500重量%が好ましく、より好ましくは80〜200重量%、さらに好ましくは100〜180重量%である。凝固糸の膨潤度がかかる範囲となることは凝固糸の粘り強さおよび変形のしやすさと大きく関係し可紡性に影響を与えることになる。膨潤度は可紡性の観点から決められ、さらに後工程の浴延伸性に影響を与えるし、かかる範囲であれば、得られる繊維の異形度を大きく、表面平滑度を小さくできる。なお、凝固糸の膨潤度は、凝固糸を形成する耐炎ポリマーと凝固浴との親和性および凝固浴の温度または凝固浴の濃度により制御することができ、特定の耐炎ポリマーに対し凝固浴の温度や凝固浴の濃度を前記した範囲とすることにより、前記した範囲の膨潤度とすることができる。
次に、凝固糸を、延伸浴で延伸するか、水洗浴で水洗するのがよい。もちろん、延伸浴で延伸するとともに、水洗浴で水洗してもよい。延伸倍率は、1.01〜5倍、好ましく、1.03〜3倍、より好ましくは1.05〜2.5倍とするのが良い。延伸浴には温水または溶媒/水が用いられ、溶媒/水の延伸浴濃度は0/100〜80/20の任意の範囲とすることができる。また水洗浴としては、通常温水が用いられ、延伸浴および水洗浴の温度は好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜95℃、特に好ましくは65〜95℃である。
本発明において、凝固・水洗が完了している繊維は、乾燥され延伸されることで耐炎ポリマーからなる繊維が形成される。
乾燥方法としては乾燥加熱された複数のローラーに直接接触させる乾燥方法や熱風や水蒸気を送る乾燥方法、赤外線や高周波数の電磁波を照射する乾燥方法、減圧状態とする乾燥方法等を適宜選択し組み合わせることができる。通常熱風による乾燥方法では、繊維の走行方向に対して並行あるいは直交方向に熱風を送風させる。輻射加熱方式の赤外線は遠赤外線、中赤外線、近赤外線を用いることができるし、マイクロ波を照射することも選択できる。乾燥温度は50〜250℃程度の範囲で任意にとることができるが、 一般的に低温の場合には長時間、高温の場合には短時間で乾燥できる。また延伸も100〜300℃、延伸倍率1.01〜5倍の間で設定できる。
次に、本発明の炭素繊維を得るに好適な製造方法について説明する。
上記工程により得られた耐炎ポリマーからなる繊維は、焼成工程で炭素繊維に変換される。ここでは、炭化する前に短時間ではあるが耐炎化処理することが好ましい。耐炎化処理の方法には特に制限はなく、加熱された複数のローラーや熱板に直接接触させることや熱風や水蒸気を送る方法、赤外線や高周波数の電磁波を照射する方法、減圧状態とする方法等を適宜選択し組み合わせることができる。特に、化学反応の制御や繊維構造のムラを抑制するために、乾熱装置を用いることが好ましい。その温度や処理長は使用する耐炎ポリマーの酸化度、繊維配向度や最終製品の必要特性によって適宜選択される。具体的には、耐炎化処理温度は、250℃〜350℃が好ましい。さらに好ましくは、260〜330℃であり、特に好ましくは270℃〜320℃である。温度が250℃未満では、炭化工程で問題が発生する傾向にある。温度が350℃を超えると、繊維が分解してしまう傾向にある。耐炎化処理時間は、炭化工程で分解しないようにするために、10秒以上おこなうことが好ましい。また耐炎化処理時間が10分を超える場合、従来の耐炎化処理工程の時間短縮というメリットが小さくなるうえに、繊維が毛羽立ち、強度と伸度の低下に繋がってしまうため、耐炎化処理時間は10分以下が好ましい。
紡糸した繊維は複数本の単繊維からなる束状であり、1束に含まれる単繊維の数を使用目的に合わせて適宜選べ、好ましい本数とするには、口金孔数によって調整することもできるし、複数本の紡糸した繊維を合糸してもよい。
以上耐炎化処理された繊維を次に不活性雰囲気で高温熱処理する、いわゆる炭化処理することにより炭素繊維を得る。炭素繊維を得る具体的な方法としては、前記処理された繊維を、不活性雰囲気中の最高温度を1000℃以上、2000℃未満の範囲の温度で処理することによって得られる。より好ましくは、最高温度の下のほうとしては、1100℃以上、1200℃以上、1300℃以上の順に好ましい。また、かかる炭素繊維を、さらに不活性雰囲気中、2000〜3000℃で加熱することによって黒鉛構造の発達した炭素繊維とすることもできる。
本発明の炭素繊維は、その密度が、1.6〜1.9g/cmであることが好ましく、1.7〜1.9g/cmがより好ましい。かかる密度が小さすぎると単繊維内部に空孔が多く、繊維強度が低下する場合があり、逆に大きすぎると緻密性が高まりすぎ伸度が低下する場合がある。かかる密度は、JIS R 7603(1999)に従った液浸法や浮沈法を利用して測定することができる。
本発明の炭素繊維は、通常、その炭素繊維の単繊維は集合して、繊維束などの集合体を構成している。束状の繊維とする場合には、1束中の単繊維本数は使用目的によって適宜決められるが、高次加工性の点では、50〜100000本/束が好ましく、100〜80000本/束がより好ましく、200〜60000本/束が更に好ましい。
本発明の炭素繊維は、単繊維の引張強度が2.5〜10.0GPaであることが好ましく、3.0〜7.0GPaであることがより好ましく、3.5〜7.0GPaであることがさらに好ましい。かかる引張強度は万能引張試験器(例えば小型卓上試験機EZ−S(株式会社島津製作所製))を用いて、JIS R7606(2000)に準拠して測定できる。
本発明の炭素繊維は、単繊維の直径が2μm以上であることが望ましく、とくに2μm〜70μm、好ましくは2〜50μm、より好ましくは3〜20μmであるのが良い。かかる単繊維の直径が2μm未満では繊維が折れやすい場合があり、70μmを超えるとかえって欠陥が発生しやすい傾向にある。
次に実施例により、本発明を、より具体的に説明する。なお実施例では、各物性値または特性は以下の方法により測定した。
<PANの水系懸濁重合>
内容量が充分にある三口フラスコに温度計、冷却器、攪拌機、窒素導入管をつけ、この中にアクリロニトリル8.7重量部を水90.0重量部と混合した。
次いで、窒素ガスを吹き込んで空気を除去し、20分後にフラスコ内を40℃まで昇温し、撹拌しながら過硫酸アンモニウムを0.28重量部(水0.6重量部に溶解)、次に亜硫酸水素ナトリウム0.12重量部(水0.3重量部に溶解)を添加した後、さらに98%硫酸水溶液0.0048重量部を添加した。
約10分ほどで重合したPANの粒子が析出してくるが、さらに40℃で5時間撹拌し続けた後、フラスコの内温を室温に戻し、生成したPANの沈殿を吸引濾過し洗浄した。
さらに、別の容器にPANを入れ、その10倍以上の質量の水を注ぎ、70℃に加温し、撹拌羽により130rpmで1時間撹拌し、濾過圧20kPaで濾過することを4回繰り返した。
最後にメタノールで加圧濾過した後、減圧乾燥器で減圧度0.2kPa、温度60℃で5日間乾燥した。
<PANの溶液重合>
アクリロニトリル100重量部、DMSO371重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、オクチルメルカプタン1重量部を反応容器に仕込み、窒素置換後に65℃で5時間、75℃で7時間加熱して重合し、DMSOを溶媒とするアクリロニトリル92モル%を重合してなるPANを含む溶液を調製した。系全体をポンプで排気して30hPaまで減圧することで脱モノマーした。溶液中のPANの濃度は20重量%であった。
<燃焼イオンクロマトグラフィーによる硫黄成分の測定(S量の測定)>
下記に記載の方法でPAN中の全硫黄の定量分析を行った(S量の測定)。
硫酸イオン標準液(1003μg/mL、和光純薬工業社製)を別途調整したリン酸内部標準液で順次希釈し、標準溶液を調製した。これらのうち、試料中の濃度の分析に適切な標準溶液の分析データを用いて検量線を作製した。
乾燥したPANの粉末をそのまま、秤量し、下記の分析装置の燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をイオンクロマトグラフィーにより分析した。試料は秤量からn=2で測定し、測定値の平均を求めた。
燃焼・吸収条件は下記のとおりである。
・システム:AQF−100、GA−100(三菱化学社製)
・電気炉温度:Inlet900℃、Outlet1000℃
・ガス:Ar/O;200mL/min. O;400mL/min
・吸収液:H;90μg/mL、内標P;1μg/mL
・吸収液量:10mL
イオンクロマトグラフィー・アニオン分析条件は下記の通りである。
・システム:ICS1500(DIONEX社製)
・移動相:2.7mmol/L NaCO/0.3mmol/L NaHCO
・流速:1.5mL/min.
・検出器:電気伝導度検出器
・注入量:100μL
<懸濁重合PANを用いた耐炎ポリマーの溶液の調製>
10Lの反応容器に温度計、冷却器、攪拌翼、窒素導入管をつけ、懸濁重合で得られたPANを1.1kg、モノエタノールアミンを0.5kg、ニトロベンゼンを0.2kg、さらにDMSOを8.2kg加えて全体を溶解し、300rpmにて撹拌翼で撹拌しながら、オイル熱媒で容器内の温度が150℃となるように昇温し、150℃に達してから6時間反応を行なった。これを20℃まで冷却し、耐炎ポリマーの溶液とした。ポリマー濃度は13.5%であった。
<溶液重合PANを用いた耐炎ポリマーの溶液の調製>
10Lの反応容器に温度計、冷却器、攪拌翼、窒素導入管をつけ、溶液重合で得られたPAN20wt%溶液を5.5kg、モノエタノールアミンを0.5kg、ニトロベンゼンを0.2kg、さらにDMSOを3.8kg加えて全体を溶解し、300rpmにて撹拌翼で撹拌しながら、オイル熱媒で容器内の温度が150℃となるように昇温し、150℃に達してから6時間反応を行なった。これを20℃まで冷却し、耐炎ポリマーの溶液とした。ポリマー濃度は懸濁重合PANを用いた場合と同様13.5%であった。
<GC−MSによるニトロ化合物の残存量の測定>
まずは、添加したニトロ化合物の検量線を作製する。サンプルの測定方法については下記の通りである。エタノールで抽出したポリマー抽出液をGC−MS(Gas Chromatography-Mass Spectroscopy)で測定し、自動解析により抽出液内にある化合物を同定した。n=1で測定した。
GC−MSの測定条件は下記のとおりである。
・システム:GCMS−QP2010 Ultra(株式会社島津製作所製)
・注入量:1μL
・カラムオーブン温度:500℃
・カラム流量:1mL/min
・カラム:PtxR−5 Amine、膜厚1μm、長さ30cm、内径0.25mm
GC測定プログラム:
・昇温速度:10℃/min
・測定範囲:50℃(1min保持)→280℃(1min保持)
M/Z(Mは分子の質量、Zは電荷数)測定プログラム:
・スキャン速度:1250
・開始時間:8min
・終了時間:25min
・スキャン速度:1250
・開始m/z:50
・終了m/z:400
<製糸>
上記方法によって得られた耐炎ポリマーの溶液のまま湿式紡糸装置で凝固した後、水洗・乾燥・延伸を行い繊維化した。乾燥した繊維は0.9デニールであった。
<繊維の焼成>
空気下、熱風循環乾燥機の中で280℃×6分間定長処理した後、窒素雰囲気下で引張ながら1炉目は700℃で処理し、2炉目は1900℃で処理した。昇温速度は50〜200℃/minである。
<単糸引張による単糸強度および伸度測定>
JIS R7606(2000)に準拠し、下記条件にて、単糸強度および伸度測定をおこなった。また、S−S曲線における最大荷重を密度と目付から算出した単糸断面で割ることにより、強度を算出した。また、変位から伸度を算出した。n数は30以上とした。
測定条件は下記の通りである。
・システム:小型卓上試験機EZ−S(株式会社島津製作所製)
・ロードセル:20N(PEG50NA)
・制御動作:負荷
・試験制御:ストローク
・試験速度:1mm/min
・サンプリング:50msec
・つかみ具間隔:25mm
<異形度R>
炭素繊維の異形度Rを求めるためには、炭素繊維を鋭利な刃物で切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)装置で観察し、5箇所の像の平均から前述の外接円直径と内接円直径を求め、その比の計算から異形度Rを決定した。なお、SEM測定は下記の条件でおこなった。
・システム:VK−9800(キーエンス社製)
・加速電圧:10kV
<表面平滑度S>
炭素繊維の横断面をSEMで観察して求める。SEM装置による7500倍での観察像をさらに4倍に拡大(トータル30000倍)し、それをイメージアナライザーで求められる横断面の周長Lと外接周長L0との比の平方にて定義される、S=(L/L0)として求めた。ここで、横断面の外接周長L0とは、横断面の外周における隣接凸部の頂点同士を線分で結んで形成される多角形の周長を指す。
(実施例1)
20℃の懸濁重合PANを用いた耐炎ポリマーの溶液を短辺30μm、長辺60μmの長方形(スリット)の吐出孔を12000ホール有する紡糸口金から湿式紡糸した。凝固浴はDMSO/水=55/45、温度15℃で凝固した後、引き続き洗浄し、さらに90℃以上の熱水で水洗し繊維の中から溶媒であるDMSOとその他化合物を除去した。
さらにシリコーン油剤を付与した後、200℃の熱風循環乾燥機中で乾燥した後、同じく200℃の熱風循環乾燥機中で2.5倍に延伸した後、ワインダーにて巻取った。
この繊維をさらに焼成工程において280℃、6分間という条件で空気中耐炎化処理を施した後、窒素雰囲気下、最高炭化温度1900℃で炭化処理を行い、異形度R=1.6、表面平滑度-=1.03の屈曲点を4点有する炭素繊維(CF)を得た。
単糸引張試験の結果、強度4.2GPa、弾性率240GPaで、伸度は1.7%といずれも良好な結果であった。
(実施例2)
口金の吐出孔の長辺が90μmの長方形である以外は実施例1と同様に行った。結果は表1にまとめた。
(実施例3)
口金の吐出孔の長辺が120μmの長方形である以外は実施例1と同様に行った。結果は表1にまとめた。
(実施例4)
口金の吐出孔の横が150μmの長方形である以外は実施例1と同様に行った。結果は表1にまとめた。
(実施例5)
口金の吐出孔が幅30μm、長さ50μmの3本が120℃ずれた角度のY字形である以外は実施例1と同様に行った。結果は表1にまとめた。
(比較実施例1)
溶液重合PANを用いた耐炎ポリマーの溶液を用いた以外は実施例1と同様に製糸、焼成したが、焼成時耐炎性が低いため糸切れし炭素繊維が得られなかった。
(比較実施例2)
懸濁重合PANの耐炎ポリマーの溶液を用い、凝固温度が30℃であること以外は実施例1と同様に製糸、焼成して異形度R=1.6、表面平滑度1.20の炭素繊維を得た。引張強度3GPa、弾性率210GPaで、伸度は1.4%と低物性であった。
(比較実施例3)
洗浄法によって硫黄含有量を多くした懸濁重合PANを用いた耐炎ポリマーの溶液を用いた以外は実施例1と同様に製糸したが、製糸性が悪く繊維は得られなかった。
Figure 2017166087
本発明に係る異形状炭素繊維およびその製造方法は、焼成工程の高効率化とともに繊維物性の高いことが要求されるあらゆる炭素繊維の製造に適用可能である。
10、20 炭素繊維断面
11、21 内接円
12、22 外接円

Claims (7)

  1. アミン変性されたポリアクリロニトリル(以下PANという)系耐炎ポリマーからなる繊維が焼成されてなる炭素繊維であって、下記式で定義される異形度Rが1.1〜10である異形繊維断面形状を有し、かつ表面平滑度Sが1.00〜1.10である異形状炭素繊維。
    異形度R=外接円直径/内接円直径
    外接円直径:繊維断面すべてを含む最も小さな円の直径
    内接円直径:繊維断面の中に入る最も大きな円の直径
  2. 前記PAN系耐炎ポリマーからなる繊維は、該PAN系耐炎ポリマーの溶液が異形口金から溶液紡糸されたものである、請求項1に記載の炭素繊維。
  3. 前記PAN系耐炎ポリマーの溶液は、水系懸濁重合法で得られた、硫黄(S)成分を0〜3000μg/g含有するPANを原料とするものである、請求項2に記載の炭素繊維。
  4. 前記PAN系耐炎ポリマーの溶液は 次のA、Bのいずれも満たすポリマー溶液である、請求項2または3に記載の炭素繊維。
    A.PANがアミン系化合物で変性され、ニトロ化合物で酸化されたポリマーの溶液である。
    B.ニトロ化合物を含まない溶液である。
  5. 前記ニトロ化合物がニトロベンゼンである、請求項4に記載の炭素繊維。
  6. 前記Aのポリマーは、PAN全量に対して10質量%以上のニトロ化合物により酸化されたPANを含有するポリマーである、請求項4または5に記載の炭素繊維。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維の製造方法であって、アミン変性されたPAN系耐炎ポリマーの溶液を紡糸し、異形状のPAN系耐炎ポリマーからなる繊維を得た後に、該PAN系耐炎ポリマーからなる繊維を焼成する、炭素繊維の製造方法。
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Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH08296124A (ja) * 1995-04-24 1996-11-12 Toray Ind Inc 非円形断面炭素繊維および炭素繊維強化複合材料
JP2015017204A (ja) * 2013-07-12 2015-01-29 国立大学法人 東京大学 耐炎性ポリマー、ポリマー溶液、耐炎繊維、炭素繊維およびそれらの製造方法

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