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JP2015060820A - 色素増感太陽電池およびその製造方法 - Google Patents

色素増感太陽電池およびその製造方法 Download PDF

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JP2015060820A JP2013196002A JP2013196002A JP2015060820A JP 2015060820 A JP2015060820 A JP 2015060820A JP 2013196002 A JP2013196002 A JP 2013196002A JP 2013196002 A JP2013196002 A JP 2013196002A JP 2015060820 A JP2015060820 A JP 2015060820A
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友章 片桐
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Abstract

【課題】フィルム基材が劣化しない低温処理により、酸化物半導体多孔質膜の電子伝導性を向上する色素増感太陽電池およびその製造方法を提供する。【解決手段】金属酸化物ナノ粒子から構成される酸化物半導体多孔質膜18と、酸化物半導体多孔質膜18に吸着された増感色素と、を備え、金属酸化物ナノ粒子同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子が吸着されている色素増感太陽電池10。【選択図】図1

Description

本発明は、色素増感太陽電池およびその製造方法に関する。
色素増感太陽電池の光電変換効率を向上させるために、色素を吸着させる酸化物半導体多孔質膜の電子伝導性を向上させる手法が検討されている。
従来、酸化物半導体多孔質膜の電子伝導性を向上するために、酸化物半導体多孔質膜を構成する金属酸化物ナノ粒子を四塩化チタン(TiCl)で処理し、金属酸化物ナノ粒子同士の接合を強化する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、酸化物半導体多孔質膜に、導電助剤(電子電導を補助または促進する材料)として、カーボンナノチューブを複合化させたナノコンポジットを形成することにより、酸化物半導体多孔質膜の電子伝導性を向上する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
特開2006−216513号公報 特表2012−515132号公報
しかしながら、一般に使用されている酸化チタンからなる酸化物半導体多孔質膜は、その製造過程において酸化チタン粒子同士を焼結させるために、高温(450〜600℃程度)で数時間の焼成処理を行う必要がある。
特許文献1および2に記載の方法では、色素増感太陽電池を構成するフィルム基材が劣化しない低温(150℃以下)で酸化物半導体多孔質膜を成膜することができないという課題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、フィルム基材が劣化しない低温処理が可能であり、かつ、酸化物半導体多孔質膜の電子伝導性を向上した色素増感太陽電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
[1]金属酸化物ナノ粒子から構成される酸化物半導体多孔質膜と、該酸化物半導体多孔質膜に吸着された増感色素と、を備え、前記金属酸化物ナノ粒子同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子が吸着されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
[2]前記有機π共役系配位子は、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ホスフィン基、ホスホン基、ハロゲン基、セレノール基、スルフィド基、セレノエーテル基の群から選択される1種または2種以上の置換基を有するものであることを特徴とする前記[1]に記載の色素増感太陽電池。
[3]前記有機π共役系配位子は、フタロシアニンであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の色素増感太陽電池。
[4]前記金属酸化物ナノ粒子は、酸化チタンであることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池。
[5]前記有機π共役系配位子のLUMO準位と前記酸化チタンの導電体準位とのエネルギー差が0.4eV以下であることを特徴とする前記[4]に記載の色素増感太陽電池。
[6]予め金属酸化物ナノ粒子の表面に有機π共役系配位子を吸着させる工程と、前記有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を用いて、150℃以下の温度で、前記金属酸化物ナノ粒子および前記有機π共役系配位子からなる酸化物半導体多孔質膜を成膜する工程と、前記酸化物半導体多孔質膜に増感色素を吸着させる工程と、前記酸化物半導体多孔質膜を洗浄して、前記有機π共役系配位子のうち、前記金属酸化物ナノ粒子同士の接合部に介在していないものを除去する工程と、を有することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
[7]前記酸化物半導体多孔質膜を成膜する工程において、前記酸化物半導体多孔質膜を、エアロゾルデポジション法により成膜することを特徴とする前記[6]に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
本発明によれば、酸化物半導体多孔質膜を構成する金属酸化物ナノ粒子同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子が吸着されているので、隣接する金属酸化物ナノ粒子の間に、有機π共役系配位子による電子の移動する部分が形成されるため、酸化物半導体多孔質膜の電子伝導性を向上することができる。
本実施形態の色素増感太陽電池を示す概略断面図である。 図1の一部を拡大した模式図である。 エアロゾルデポジション装置の一例を示す概略構成図である。 実験例1〜3において半導体電極の吸光度の測定結果を示すグラフである。 実験例4〜6において半導体電極の可視光透過率を測定した結果を示すグラフである。 実験例7〜9において、色素増感太陽電池の直列抵抗値を測定した結果を示すグラフである。
本発明の色素増感太陽電池およびその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
<色素増感太陽電池>
本実施形態の色素増感太陽電池は、金属酸化物ナノ粒子から構成される酸化物半導体多孔質膜と、酸化物半導体多孔質膜に吸着された増感色素と、を備え、金属酸化物ナノ粒子同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子が吸着されているものである。
図1は、本実施形態の色素増感太陽電池を示す概略断面図である。図2は、図1の一部を拡大した模式図である。
本実施形態の色素増感太陽電池10は、半導体電極11と、対向電極12と、電解質13と、封止材14とから概略構成されている。
半導体電極11は、基材16と、基材16上に積層した透明導電膜17と、透明導電膜17上に積層した酸化物半導体多孔質膜18によって構成される。
電解質13が接触する酸化物半導体多孔質膜18の、多孔質内部を含む表面には、公知の増感色素が吸着している。
対向電極12は、基材20と、基材20上に積層した対向導電膜21と、対向導電膜21上に積層した触媒層22によって構成される。
封止材14は、酸化物半導体多孔質膜18を囲繞して、半導体電極11と、対向電極12と、電解質13とからなる太陽電池発電部を形成するために設けられている。すなわち、封止材14によって、半導体電極11と、対向電極12との間に間隙を形成し、その間隙内に電解質13を封止している。
酸化物半導体多孔質膜18は、図2に示すように、多数の金属酸化物ナノ粒子31から構成され、金属酸化物ナノ粒子31同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子32が吸着されている。
ここで、金属酸化物ナノ粒子31同士の接合部に有機π共役系配位子32が吸着されているとは、図2に示すように、金属酸化物ナノ粒子31同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子32が介在していることを言う。すなわち、隣接する金属酸化物ナノ粒子31,31の少なくとも一部が、有機π共役系配位子32を介して接合していることを言う。
有機π共役系配位子32としては、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ホスフィン基、ホスホン基、ハロゲン基、セレノール基、スルフィド基、セレノエーテル基の群から選択される1種または2種以上の置換基を有するものが用いられる。
このような有機π共役系配位子32としては、例えば、フタロシアニンが挙げられる。
また、有機π共役系配位子32として、ポルフィリンを用いてもよい。
これらの有機π共役系配位子32の中でも、LUMO準位のエネルギーが−4.06eV、HOMO準位のエネルギーが−6.34eVである点から、下記式(1)で表されるフタロシアニンが好ましい。
Figure 2015060820
酸化物半導体多孔質膜18を構成する金属酸化物ナノ粒子31としては、従来公知の材料が適用可能であり、増感色素を吸着可能な材料であればよい。金属酸化物ナノ粒子31としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。これらの金属酸化物ナノ粒子31の中でも、有機π共役系配位子のLUMO準位と酸化チタンの導電体準位とのエネルギー差が0.4eV以下であることから、酸化チタンが好ましい。有機π共役系配位子のLUMO準位と酸化チタンの導電体準位とのエネルギー差が0.4eV以下であるから、有機π共役系配位子32を介して、隣接する金属酸化物ナノ粒子31,31の電子伝導性が向上する。
酸化チタンの結晶型は、アナターゼ型、ルチル型およびブルカイト型のいずれでもよい。
また、酸化チタンの形状は、特に限定されず、球状またはその類似形状、正八面体状またはその類似形状、星状またはその類似形状、針状、板状、繊維状等が挙げられる。
金属酸化物ナノ粒子31の粒径は、特に限定されるものではないが、5nm〜500nmであることが好ましく、10nm〜200nmであることがより好ましい。
上記のフタロシアニン等の有機π共役系配位子は、色素として用いられることもあるが、酸化物半導体多孔質膜18に吸着する増感色素としては、フタロシアニン等の有機π共役系配位子以外のものが用いられる。このような増感色素としては、例えば、ルテニウム錯体、シアニンやクロロフィルといった有機色素が挙げられる。吸収する波長域が広い上に、光励起の寿命が長く、酸化物半導体多孔質膜18に受け渡された電子が安定する点から、増感色素としては、ルテニウム錯体が好適である。ルテニウム錯体としては、例えば、シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)、該シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩(以下、N719という)等が挙げられる。
電解質13としては、例えば、従来公知の色素増感太陽電池で使用されている電解液を適用できる。色素増感太陽電池の電解液としては、酸化還元対(電解質)を溶媒に溶解したものが一般的に用いられている。
電解質13の成分として有機溶媒を使用することができる。この有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ニトリル類、エーテル類、エステル類、ケトン類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。
アルコール類としては、その化学構造の骨格が直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれでもよく、一価アルコールおよび多価アルコールのいずれでもよく、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール(イソブタノール)、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブタノール)、エチレングリコール等が挙げられる。
ニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリル等が挙げられる。
エーテル類としては、その化学構造の骨格が直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれでもよく、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ―ブチロラクトン等が挙げられる。
炭化水素類としては、その化学構造の骨格が直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれでもよく、脂肪族系炭化水素および芳香族系炭化水素のいずれでもよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられる。
電解質13に溶解される酸化還元対としては、従来公知の酸化還元対が適用できる。
酸化還元対としては、例えば、ヨウ素分子とヨウ化物の組み合わせまたは臭素分子と臭素化合物の組み合わせが挙げられる。
ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)などの金属ヨウ化物、またはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどのヨウ素塩が、好適なものとして挙げられる。
臭素物としては、例えば、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)などの金属臭化物、またはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド、イミダゾリウムブロマイドなどの臭素塩が、好適なものとして挙げられる。
半導体電極11および対向電極12を構成する基材16,20の材質は特に制限されず、ガラス製、樹脂製、金属製のいずれであってもよい。硬化性樹脂組成物が接着する基板の接着面には透明導電膜もしくは対向導電膜が成膜されていてもよい。
ガラスとしては、可視光の透過性を有するものが好ましく、ソーダライムガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、バイコールガラス、無アルカリガラス、青板ガラス、白板ガラス等が挙げられる。
樹脂(プラスチック)としては、可視光の透過性を有するものが好ましく、例えば、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等が挙げられる。これらの中では、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が、透明耐熱フィルムとして大量に生産および使用されている。
薄くて軽いフレキシブルな色素増感太陽電池を製造する観点からは、基材16,20はプラスチック製の透明基材であることが好ましく、PETフィルムまたはPENフィルムであることがより好ましい。
透明導電膜17、対向導電膜21は、特に限定されるものではないが、従来公知の色素増感太陽電池に使用される導電膜が適用可能であり、例えば、金属酸化物で構成される薄膜が挙げられる。
金属酸化物としては、酸化インジウム/酸化スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウム/酸化亜鉛(IZO)、酸化ガリウム/酸化亜鉛(GZO)、酸化チタン等が挙げられる。これらの中でも、比抵抗が小さく、電気伝導率が高いITO、並びに、耐熱性および耐候性に優れたFTOが特に好ましい。
触媒層22を構成する材料としては、従来公知の材料が適用可能であり、例えば、白金、カーボンナノチューブ等のカーボン類、導電性ポリマー(PEDOT/PSS等)等が挙げられる。
封止材14の材料としては、例えば、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂および熱硬化性樹脂を含んだ樹脂等、一時的に流動性を有し、適当な処理により固化される樹脂材料等が用いられる。
本実施形態の色素増感太陽電池10によれば、金属酸化物ナノ粒子31同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子32が介在しているので、隣接する金属酸化物ナノ粒子31,31の間に、有機π共役系配位子32による電子の移動する部分が形成されるので、酸化物半導体多孔質膜18の電子伝導性を向上させることができる。
<色素増感太陽電池の製造方法>
本実施形態の色素増感太陽電池の製造方法は、予め金属酸化物ナノ粒子の表面に有機π共役系配位子を吸着させる工程と、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を用いて、150℃以下の温度で、金属酸化物ナノ粒子および有機π共役系配位子からなる酸化物半導体多孔質膜を成膜する工程と、酸化物半導体多孔質膜に増感色素を吸着させる工程と、酸化物半導体多孔質膜を洗浄して、有機π共役系配位子のうち、金属酸化物ナノ粒子同士の接合部に介在していないものを除去する工程と、を有する方法である。
なお、上記の各工程は、記載されている順に行われる。
予め金属酸化物ナノ粒子の表面に有機π共役系配位子を吸着させる工程では、まず、エタノール等のアルコール類に、フタロシアニン等の有機π共役系配位子を溶解して、有機π共役系配位子を含む溶液を調製する。
次いで、前記の溶液に、金属酸化物ナノ粒子を浸漬して、金属酸化物ナノ粒子の表面に有機π共役系配位子を吸着させる。
次いで、前記の溶液に、金属酸化物ナノ粒子を所定時間、浸漬した後、溶液中から有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を回収する。
酸化物半導体多孔質膜を成膜する工程において、酸化物半導体多孔質膜を成膜する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、半導体電極を構成する基材の一面に形成された透明導電膜上に、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を含有するペーストを印刷法により塗布する方法や、半導体電極を構成する基材の一面に形成された透明導電膜上に、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を吹き付ける方法等が挙げられる。
印刷法により酸化物半導体多孔質膜を成膜する場合、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を含有するペーストを塗布して、透明導電膜上に塗膜を形成した後、基材が劣化しない温度以下の温度で塗膜を焼成して、酸化物半導体多孔質膜を形成する。基材が劣化しない温度以下の温度とは、基材がプラスチック製の透明基材である場合、150℃以下の温度である。
金属酸化物ナノ粒子を吹き付ける方法(以下、「吹き付け法」と略記する。)としては、公知の方法が用いられるが、例えば、溶射法、コールドスプレー法、エアロゾルデポジション法(以下、「AD法」と略記する。)等が挙げられる。
溶射法とは、溶射材(本実施形態では、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子)を加熱して基材に吹き付け、基材上に薄膜(本実施形態では、酸化物半導体多孔質膜)を形成する技術である。溶射材を加熱するための熱源としては、燃焼炎やプラズマが用いられ、これらの熱により液滴状あるいは微粒子状にされた溶射材が、高速のガス流等によって基材に吹き付けられる。液滴状あるいは微粒子状にされた溶射材が、基材上で凝固し密着することにより、薄膜が形成される。
コールドスプレー法とは、粉末材料(本実施形態では、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子)を溶融温度以下の固相状態で基材に衝突させて、基材上に薄膜(本実施形態では、酸化物半導体多孔質膜)を形成する技術である。
AD法とは、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスからなる搬送ガスによって、原料粒子(本実施形態では、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子)を亜音速〜超音速程度まで加速させ、基材に原料粒子を高速で吹き付けて、原料粒子と基材、または、原料粒子同士を接合させて、基材上に薄膜を形成する技術である。
基材表面に衝突した原料粒子は、少なくともその一部が基材表面に食い込んで、容易には剥離しない状態となる。さらに、吹き付けを継続することにより、基材表面に食い込んだ原料粒子に対して、別の微粒子が衝突し、原料粒子同士の衝突によって、互いの原料粒子表面に新生面が形成されて、主にこの新生面において原料粒子同士が接合する。この原料粒子同士の衝突においては、原料粒子が溶融するような温度上昇は生じ難いため、原料粒子同士が接合した界面には、ガラス質からなる粒界層は実質的に存在しない。そして、原料粒子の吹き付けを継続することにより、次第に、基材表面に多数の原料粒子が接合して、薄膜が形成される。形成された薄膜は、充分な強度を有するので、焼成による焼き締めが不要である。
AD法としては、例えば、「国際公開第WO01/27348A1号パンフレット」に開示されている超微粒子ビーム堆積法、「特許第3265481号公報」に開示されている脆性材料超微粒子低温成形法が用いられる。
これらの公知のAD法では、吹き付ける原料粒子をボールミルなどで前処理することにより、クラックが入るか入らないか程度の内部歪を原料粒子に予め加えておくことが重要であるとしている。この内部歪を加えておくことによって、吹き付けられた微粒子が、基材または既に堆積した原料粒子に衝突する際に破砕や変形を起こし易くすることができ、この結果、より緻密な膜を形成できる、としている。
AD法を用いた薄膜の形成では、エアロゾルデポジション装置(以下、「AD装置」と略記する。)が用いられる。
本実施形態では、例えば、図3に示すAD装置40が用いられる。
AD装置40は、基材61を収容して、その一方の面61aに透明導電層と光電変換層とを形成するための成膜室41を備えている。
成膜室41内には、基材41を配置するための配置面42aを有するステージ42が設けられている。ステージ42は、基材61を配置した状態で水平方向に移動可能となっている。
成膜室41には、真空ポンプ43が接続されている。この真空ポンプ43により、成膜室41内が陰圧にされる。
また、成膜室41内には、長方形の開口部44aを持つノズル44が配設されている。ノズル44は、その開口部44aがステージ42の配置面42a、すなわち、ステージ42の配置面42a上に配置された基材61の一方の面61aに対向するように配設されている。
ノズル44は、搬送管45を介して、ガスボンベ46と接続されている。
搬送管45の途中には、ガスボンベ46側から順に、マスフロー制御器47、エアロゾル発生器48、解砕器49および分級器50が設けられている。
AD装置40では、搬送ガスを、ガスボンベ46から搬送管45へ供給し、その搬送ガスの流速をマスフロー制御器47で調整する。
エアロゾル発生器48に吹き付け用の原料粒子を装填し、搬送管45中を流れる搬送ガスに原料粒子を分散させて、原料粒子を解砕器49および分級器50へ搬送する。そして、ノズル44から、原料粒子を含むエアロゾル71が亜音速〜超音速の噴射速度で、基材61の一方の面61aに噴射される。
ここで、AD装置40を用いた成膜工程の詳細を説明する。
まず、成膜室41内のステージ42の配置面42aに、基材61を配置する。
次いで、真空ポンプ43により、成膜室41内を陰圧にする。
次いで、搬送管45を介して、ガスボンベ46から成膜室41内に搬送ガスを供給し、成膜室41内を搬送ガス雰囲気とする。
次いで、ノズル44から、原料粒子を含むエアロゾル71を亜音速〜超音速の噴射速度で、基材61の一方の面61aに吹き付けて、基材61の一方の面61aに薄膜(本実施形態では、有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子から構成される複合膜)を形成する。
薄膜を形成するには、エアロゾル発生器48に装填されている原料粒子を、搬送管45中を流れる搬送ガスに分散させて、解砕器49および分級器50へ搬送する。そして、ノズル44の開口部44aから、基材61の一方の面61aに、原料粒子を含むエアロゾル71を吹き付ける。このとき、薄膜の膜厚を調整するには、ステージ42の往復回数を適宜調整するなどすればよい。
本実施形態において、原料粒子の吹き付けは常温環境で行われることが好ましい。
ここで常温とは、原料粒子の融点より十分低い温度のことを指し、実質的には200℃以下である。
常温環境の温度は、基材61の融点以下であることが好ましい。特に、基材61が樹脂製である場合には、常温環境の温度は基材61のガラス転移温度未満であることが好ましい。
酸化物半導体多孔質膜に増感色素を吸着させる工程では、酸化物半導体多孔質膜を形成した後、増感色素を溶剤に溶かした増感色素溶液に酸化物半導体多孔質膜を浸漬させ、該酸化物半導体多孔質膜に増感色素を担持させる。なお、酸化物半導体多孔質膜に増感色素を担持させる方法は、上記に限定されず、増感色素溶液中に酸化物半導体多孔質膜を移動させながら連続的に投入・浸漬・引き上げを行う方法なども採用される。
酸化物半導体多孔質膜を洗浄する工程では、酸化物半導体多孔質膜に増感色素を吸着させた後、酸化物半導体多孔質膜を溶媒で洗浄して、有機π共役系配位子のうち、金属酸化物ナノ粒子同士の接合部に介在していないものを除去する。
酸化物半導体多孔質膜の洗浄に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、アルコール等が挙げられる。
上述の金属酸化物ナノ粒子の表面に有機π共役系配位子を吸着させる工程、酸化物半導体多孔質膜を成膜する工程、酸化物半導体多孔質膜に増感色素を吸着させる工程、酸化物半導体多孔質膜を洗浄する工程等を経ることにより、半導体電極が得られる。
半導体電極とは別に、対向電極を作製する。
半導体電極を構成するものと同様の基材の一面に、スパッタリング法、印刷法やスプレー法等により、ITO、酸化亜鉛または白金等などからなる対向導電膜を形成する。
さらに、対向導電膜の表面(対向導電膜における基材と接する面とは反対側の面)に、カーボンペースト等を成膜して、触媒層を形成する。
次に、半導体電極における対向電極と対向させる面の外周部に、所定の幅寸法を有する枠形状に、未硬化の封止材を配置して、封止材により、酸化物半導体多孔質膜を囲繞する。
次に、半導体電極と対向電極とを対向配置させて、封止材を介して、それぞれの電極の外周部を貼り合せて、半導体電極と対向電極とを封止する。
次に、封止材を加熱、紫外線照射等により硬化させて、半導体電極と対向電極とを接着させる。
次に、予め対向電極の基板の外周壁部から突出させた注液孔形成用部材を引き抜くなどして、外部から半導体電極と対向電極との間の間隙(内部空間)に達する注液孔を形成する。
次に、半導体電極と対向電極とを貼り合せてなる接合体を減圧雰囲気下に置き、電解液を保持した容器(不図示)に注液孔を浸漬させて、真空引きにより、電解液を上記の内部空間にあふれるほど多めに注入する。
電解液の注入後、注液孔を接着剤等で閉口し、上記の内部空間を封止する。
以上のようにして、半導体電極と対向電極とが、封止材を介して、所定の間隔をおいて、対向配置されるとともに接着され、これら電極間の間隙に電解液が充填された色素増感太陽電池を得る。
本実施形態の色素増感太陽電池の製造方法によれば、予め有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を用いて、150℃以下の温度で、金属酸化物ナノ粒子および有機π共役系配位子からなる酸化物半導体多孔質膜を成膜するので、樹脂基材(フィルム基材)を用いた色素増感太陽電池の製造にも適用することができる。また、本実施形態の色素増感太陽電池の製造方法によれば、熱処理工程を含まない、エアロゾルデポジション法等による成膜方法を適用した色素増感太陽電池の製造方法にも適用することができる。
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
[実験例1]
表面に透明導電層としてFTOを備えたガラス基板(日本板硝子社製)を使用して、その透明導電層上に、Ti−Nanoxide T/SPペースト(ソラロニクス社製)を用いて、塗布法により、厚み6μmの酸化チタン膜を形成した後、500℃で2時間焼成し、酸化チタン多孔質膜を形成した。
次に、フタロシアニンの0.1mMエタノール溶液を調製し、そのエタノール溶液に酸化チタン多孔質膜を24時間浸漬した。
その後、酸化チタン多孔質膜を純水により洗浄して、酸化チタン多孔質膜に吸着しなかったフタロシアニンを除去し、実験例1の半導体電極を得た。
得られた半導体電極ついて、酸化チタン多孔質膜に吸着したフタロシアニンの量を定量的に評価するために、半導体電極の分光測定を行った。半導体電極の分光測定では、酸化チタン多孔質膜が形成されている部分に波長500nm〜700nmの光を半導体電極の厚み方向に照射して吸光度を測定した。吸光度の測定結果を図4に示す。
[実験例2]
フタロシアニンの0.1mMエタノール溶液に酸化チタン多孔質膜を24時間浸漬した後、酸化チタン多孔質膜を純水により洗浄しなかった以外は、実験例1と同様にして、実験例2の半導体電極を得た。
得られた半導体電極ついて、実験例1と同様にして、分光測定を行った。吸光度の測定結果を図4に示す。
[実験例3]
実験例1と同様にして、ガラス基板の透明導電層上に酸化チタン多孔質膜を形成し、実験例3の半導体電極を得た。
得られた半導体電極ついて、実験例1と同様にして、分光測定を行った。吸光度の測定結果を図4に示す。
図4の結果から、実験例2では、酸化チタン多孔質膜にフタロシアニンを吸着させ、純水による洗浄を行わなかったので、650nm近辺に、フタロシアニンに起因する光の吸収が見られた。
一方、実験例1では、酸化チタン多孔質膜にフタロシアニンを吸着させ、純水による洗浄を行ったので、実験例2のように、650nm近辺における、フタロシアニンに起因する光の吸収が見られなかった。実験例3でも、フタロシアニンに起因する光の吸収が見られないことから、実験例1で酸化チタン多孔質膜に吸着させたフタロシアニンの量(吸着量)は微量であると考えられる。具体的には、実験例2におけるフタロシアニンの吸着量が1.15×10−9mol/cmであるのに対して、実験例1におけるフタロシアニンの吸着量は、実験例2の1/10以下の1×10−10mol/cm以下であると推測される。
[実験例4]
アセトニトリル/tert−ブタノール(1/1、体積比)の混合溶媒に濃度が0.3mMとなるように色素N719を溶解させたN719色素溶液を調製した。
このN719色素溶液に、実験例1で作製した半導体電極を24時間浸漬し、実験例4の半導体電極を得た。
得られた半導体電極ついて、積分球付き透過率光度計を用いて、可視光透過率を測定した。なお、通常、「可視光」とは、波長360〜830nmの光を意味する。可視光透過率の測定結果を図5に示す。
[実験例5]
実験例2で作製した半導体電極を用いた以外は、実験例4と同様にして、実験例5の半導体電極を得た。
得られた半導体電極ついて、実験例4と同様にして、可視光透過率を測定した。可視光透過率の測定結果を図5に示す。
[実験例6]
実験例3で作製した半導体電極を用いた以外は、実験例4と同様にして、実験例6の半導体電極を得た。
得られた半導体電極ついて、実験例4と同様にして、可視光透過率を測定した。可視光透過率の測定結果を図5に示す。
図5の結果から、実験例4〜6の半導体電極の可視光透過率を比較すると、可視光透過率はフタロシアニンの吸着の有無に影響されないことが分った。すなわち、実験例4〜6の半導体電極の可視光透過率は、色素N719の吸光による影響を受けるものの、フタロシアニンの吸光による影響を受けないものと考えられる。
[実験例7]
対極として、ITO、クロム、白金をこの順で積層して成膜したガラス基板を用いた。
この対極と実験例1の半導体電極とを厚さ30μmの樹脂製ガスケット(セパレータ)を介して重ね合わせてクリップ止めし、両電極間に、ヨウ素:0.05M、ヨウ化リチウム:0.1M、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド(DMPImI):0.1M、tert−ブチルピリジン:0.6Mのアセトニトリル溶媒からなる電解液を注入して、実験例7の色素増感太陽電池を得た。
得られた色素増感太陽電池に対して、暗状態で電圧を印加して電流を測定し、色素増感太陽電池の直列抵抗値(Ω)を測定した。直列抵抗値の測定結果を図6に示す。
[実験例8]
実験例2で作製した半導体電極を用いた以外は、実験例7と同様にして、実験例8の色素増感太陽電池を得た。
得られた色素増感太陽電池ついて、実験例7と同様にして、直列抵抗値を測定した。直列抵抗値の測定結果を図6に示す。
[実験例9]
実験例3で作製した半導体電極を用いた以外は、実験例7と同様にして、実験例9の色素増感太陽電池を得た。
得られた色素増感太陽電池ついて、実験例7と同様にして、直列抵抗値を測定した。直列抵抗値の測定結果を図6に示す。
図6の結果から、実験例9のフタロシアニンを吸着させていない半導体電極を用いた場合よりも、実験例7および8のフタロシアニンを吸着させた半導体電極を用いた場合の方が、色素増感太陽電池の直列抵抗値が低下することが分った。
また、実験例7と実験例8を比較すると、実験例7の色素増感太陽電池の直列抵抗値の方が高いのは、フタロシアニンを吸着させた後、酸化チタン多孔質膜を純水で洗浄したため、電子伝導性の向上に寄与するフタロシアニンも一部が除去されてしまったからであると考えられる。
10・・・色素増感太陽電池、11・・・半導体電極、12・・・対向電極、13・・・電解質、14・・・封止材、16・・・基材、17・・・透明導電膜、18・・・酸化物半導体多孔質膜、20・・・基材、21・・・対向導電膜、22・・・触媒層、31・・・金属酸化物ナノ粒子、32・・・有機π共役系配位子。

Claims (7)

  1. 金属酸化物ナノ粒子から構成される酸化物半導体多孔質膜と、該酸化物半導体多孔質膜に吸着された増感色素と、を備え、
    前記金属酸化物ナノ粒子同士の接合部の少なくとも一部に有機π共役系配位子が吸着されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
  2. 前記有機π共役系配位子は、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ホスフィン基、ホスホン基、ハロゲン基、セレノール基、スルフィド基、セレノエーテル基の群から選択される1種または2種以上の置換基を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池。
  3. 前記有機π共役系配位子は、フタロシアニンであることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感太陽電池。
  4. 前記金属酸化物ナノ粒子は、酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池。
  5. 前記有機π共役系配位子のLUMO準位と前記酸化チタンの導電体準位とのエネルギー差が0.4eV以下であることを特徴とする請求項4に記載の色素増感太陽電池。
  6. 予め金属酸化物ナノ粒子の表面に有機π共役系配位子を吸着させる工程と、
    前記有機π共役系配位子を吸着させた金属酸化物ナノ粒子を用いて、150℃以下の温度で、前記金属酸化物ナノ粒子および前記有機π共役系配位子からなる酸化物半導体多孔質膜を成膜する工程と、
    前記酸化物半導体多孔質膜に増感色素を吸着させる工程と、
    前記酸化物半導体多孔質膜を洗浄して、前記有機π共役系配位子のうち、前記金属酸化物ナノ粒子同士の接合部に介在していないものを除去する工程と、を有することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
  7. 前記酸化物半導体多孔質膜を成膜する工程において、前記酸化物半導体多孔質膜を、エアロゾルデポジション法により成膜することを特徴とする請求項6に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
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