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JP2013244590A - 超硬合金からなる切削工具用基材およびこれを用いた表面被覆切削工具 - Google Patents

超硬合金からなる切削工具用基材およびこれを用いた表面被覆切削工具 Download PDF

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JP2013244590A JP2012122358A JP2012122358A JP2013244590A JP 2013244590 A JP2013244590 A JP 2013244590A JP 2012122358 A JP2012122358 A JP 2012122358A JP 2012122358 A JP2012122358 A JP 2012122358A JP 2013244590 A JP2013244590 A JP 2013244590A
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Abstract

【課題】耐摩耗性をはじめとする刃先強度に優れた超硬合金からなる切削工具用基材およびこれを用いた表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】WC粒子を含む超硬合金からなる切削工具用基材であって、いずれか1の表面に対する垂直断面において、該WC粒子は、a)円形度の平均値が、0.75以上であり、b)円形度の分散が、0.010以下であることを特徴とする、超硬合金からなる切削工具用基材。
【選択図】なし

Description

本発明は、超硬合金からなる切削工具用基材およびこれを用いた表面被覆切削工具に関する。より詳細には、広範な使用用途を持ち、特に鋼加工やチタン加工に効果の高い超硬合金からなる切削工具用基材およびこれを用いた表面被覆切削工具に関する。
従来から、炭化タングステンを主成分とする超硬合金で構成された切削工具を用いて、各種の被削材を切削加工することが行なわれている。
このような超硬合金製切削工具は、耐摩耗性をはじめとする刃先強度が高いことが要求される。
上記の超硬合金は、炭化タングステン(以下、「WC」とも記す)を主体として含むWC粉末と、WC粉末同士を結合する結合相と、必要に応じて周期律表のIVa族元素、Va族元素、およびVIa族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物の1種以上からなる化合物相または固溶体相を主体とする粉末を混合した後、プレス法、射出成形法、または押し出し法で成形し、さらにそれら成形体を焼結プレートに載せて焼結炉に入れ、液相焼結して焼結体を作製することにより得られる。
昨今、被削材の硬度化が進み、加工能率を高めるため切削速度が高速化されるなど、切削工具の使用条件は過酷化を極めている。それに加えて、切削油を使用しないドライ切削などのニーズが高まるなど、用途の多様化も進んでいる。
かかる状況下、切削工具には、耐摩耗性をはじめとする刃先強度の改善が益々望まれるようになっている。
上記課題を解決するため、従来から、さまざまな試みがなされている。たとえば、特開平10−176234号公報(特許文献1)、特開平10−008182号公報(特許文献2)および特開平07−278719号公報(特許文献3)では、超硬合金組織において、WC粒子の形状を制御することで、切削性能を高める方法が提案されている。また、特開平05−302136号公報(特許文献4)では、超硬合金組織において、Ti化合物相の形状を制御し、特開2003−155537号公報(特許文献5)では結合相の形状を制御することで、切削性能を高める方法が提案されている。
これらは、材料粒子の異方性すなわちアスペクト比(粒子の長径をX、短径をYとすると、X/Y)を高くすることで、ウィスカー強化を利用し、切削性能の改善を図ろうとするものである。
しかし、アスペクト比を高くすることで、上記ウィスカー強化により、耐衝撃性は改善するものの、超硬合金組織内で異方性粒子が一種の欠陥となり、切削工具に必要とされる刃先強度が低下してしまう場合があった。
したがって、特許文献1〜5に開示されている技術をもってしても、依然として、耐摩耗性をはじめとする刃先強度の改善が十分でなく、いずれの超硬合金からなる切削工具用基材およびこれを用いた切削工具も、ユーザーが要求する切削性能を満たすレベルには達していないというのが現状である。
そして、これらの超硬合金からなる切削工具用基材は、たとえば、「超硬合金と焼結硬質材料 基礎と応用」(1986年丸善出版株式会社発行)(非特許文献1)に説明されているように、原料粉末を鋼球とともに密閉容器に入れ、粉砕と混合を繰り返す工程を経て製造されている。
特開平10−176234号公報 特開平10−008182号公報 特開平07−278719号公報 特開平05−302136号公報 特開2003−155537号公報
「超硬合金と焼結硬質材料 基礎と応用 発行元:株式会社丸善出版株式会社」
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、耐摩耗性をはじめとする刃先強度に優れた超硬合金からなる切削工具用基材およびこれを用いた表面被覆切削工具を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、超硬合金の合金組織内におけるWC粒子の状態と材料特性との関係について鋭意研究を重ねたところ、個々のWC粒子の円形度およびそのバラツキが、特定の条件を満たすとき、耐摩耗性をはじめとする刃先強度が、飛躍的に改善することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、
WC粒子を含む超硬合金からなる切削工具用基材であって、
いずれか1の表面に対する垂直断面において、
該WC粒子は、
a)円形度の平均値が、0.75以上であり、
b)円形度の分散が、0.010以下であることを特徴とする。
ここで、該垂直断面に含まれる、該WC粒子の全数に対して20%の粒子を、粒子の断面積が小さい方から選び出して粒子群Pとしたとき、該粒子群Pに含まれるWC粒子は、
a)円形度の平均値が、0.70以上であり、
b)円形度の分散が、0.015以下であることが好ましい。
さらに、該WC粒子は、平均粒径が、0.4〜5.0μmであることが好ましい。
また、該超硬合金は、
i)該WC粒子と、
ii)周期律表のIVa族元素、Va族元素、およびVIa族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とから構成される化合物の1種以上からなる化合物相または固溶体相と、
iii)鉄族元素の1種以上からなる結合相と、
iv)不可避不純物と、を含み、
該化合物相または固溶体相は、0.1〜50質量%の範囲で含まれ、
該結合相は、0.2〜20質量%の範囲で含まれる、超硬合金からなる切削工具用基材であることが好ましい。さらに好ましくは、該結合相は、5質量%以上11質量%以下の範囲で含まれることが好適である。これは、結合相が5質量%未満の場合は、超硬合金の強度が低下するからであり、11質量%を超過する場合は、WC粒子同士の接合部が減少し、WC粒子と結合相との界面部が増加して、熱を効率的に逃がし難くなるからである。
また、該超硬合金は、
i)該WC粒子と、
ii)鉄族元素の1種以上からなる結合相と、
iii)不可避不純物と、を含み、
該結合相は、0.2〜20質量%の範囲で含まれる、超硬合金からなる切削工具用基材であっても好ましい。
また、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材を用いた切削工具としては、基材上に形成された被膜を備える表面被覆切削工具であることが好ましい。
ここで、該被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、または該元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素との化合物からなる1層以上の層を含むことが好ましい。
また、該被膜は、物理蒸着法および/または化学蒸着法により形成されることが好ましい。
また、該被膜は、化学蒸着法により形成されるものであり、MT−TiCN層および/またはα−アルミナ層を含むことが好ましい。
本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、上記のような構成を有することにより、耐摩耗性をはじめとする刃先強度に優れるという効果を示す。したがって、該基材を用いた表面被覆切削工具は、極めて良好な切削性能を示す。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<超硬合金>
本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、WC粒子を含み、
いずれか1の表面に対する垂直断面において、
該WC粒子は、
a)円形度の平均値が、0.75以上であり、
b)円形度の分散が、0.010以下であることを特徴とする。
このような超硬合金からなる切削工具用基材は、粉末冶金法によって作製されるのが一般的である。すなわち、原料である金属粉末を粉砕混合し、プレス成形してから、液相焼結が行なわれる。そして、必要に応じて、その後に研磨加工が実行される。この場合、得られた超硬合金の組織は、出発原料および/または粉末混合後の粉末物性に大きく依存していることが判明した。
粉砕混合では、たとえば非特許文献1に記載されているように、ボールミル、振動ミル、アトライターなどを用いて、原料粉末に大きな衝撃力を加えて粉砕するため、粉砕時にアスペクト比の大きな粒子が発生する。これは、WCの結晶構造が、六方最密充填構造であるため硬くて脆い性質を持つことが原因と考えられる。
超硬合金の組織中に、アスペクト比の大きなWC粒子が含まれると、上記のようにウィスカー強化と類似の作用により超硬合金の耐衝撃性がある程度改善する。
しかしながら、アスペクト比の大きなWC粒子を含んだ超硬合金では、合金組織内においてWC粒子の存在状態に方向性が生じるが、WC粒子の方向性によっては、切削中にWC粒子が脱落するなど、耐摩耗性が低下する場合があった。
ところで、超硬合金を用いた切削工具で、切削加工を行なった場合、刃先部は被削材との摩擦によって、摩擦熱を生じ非常に高温となる。
このように、超硬合金が高温になることによって、材料組織の化学的な摩耗や熱亀裂によって欠損が引き起こされ、刃先強度の低下を助長していると考えられる。
従来、切削加工時の温度上昇を抑制し、工具寿命を延命するために、切削速度を低下させる手段や、クーラントを用いて刃先部を冷却する手段が採用されてきた。しかしながら、これらの手段によっては、上記した昨今の市場要求、すなわち、高速切削やドライ切削に対応することができず、技術革新が待ち望まれていた。
ここで、超硬合金自体の熱伝導率を高めることができれば、放熱量が増加し、刃先部の温度上昇を抑制できると考えられる。
しかし、合金組織の主体となるWC粒子の熱伝導率は、130W/mK以上と既に非常に高い水準であることが、従来から知られており、超硬合金の熱伝導率の改善は限界に達しつつあると考えられていた。
本発明者らは、材料自体の熱伝導率ではなく、熱の伝導経路という全く新しい視点から、超硬合金の合金組織について鋭意研究を重ね、WC粒子を球形に近づけ、合金組織内におけるWC粒子同士の接触状態を変化させることで、放熱量が大幅に増加し、アスペクト比を大きくすることでは実現できなかった耐摩耗性をはじめとする刃先強度の改善を実現し得ることを見出した。
さらに、WC粒子形状のバラツキを制御することで、局所的な温度上昇が緩和され、上記効果を飛躍的に高めることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、WC粒子を含み、
いずれか1の表面に対する垂直断面において、
該WC粒子は、
a)円形度の平均値が、0.75以上であり、
b)円形度の分散が、0.010以下であることを特徴としている。
ここで、円形度とは、上記垂直断面における、いずれか1のWC粒子の断面積と同じ面積を有する円の円周長さを、該WC粒子の外周長さで除算した値を二乗した値を示す。円形度の平均値とは、上記垂直断面に含まれるWC粒子の円形度の相加平均を示す。
円形度の分散とは、上記垂直断面に含まれるWC粒子の円形度の標本分散を示す。
ここで、円形度が、0.75未満であると、WC粒子同士の接触面積が小さくなり、熱を効率的に逃がし難くなるため好ましくない。したがって、円形度は、0.75以上であることを要する。
また、円形度の分散が、0.010を超過すると、熱の伝導経路にもバラツキが生じ、局所的な温度上昇が発生しやすくなるため好ましくない。したがって、円形度の分散は、0.010以下であることを要する。
さらに、WC粒子の粒度分布において、相対的に粒径が小さい粒子の形状を制御することで、上記効果は一層高められる。
上記のように、粉砕混合では、粒子が粉砕されることによってアスペクト比の大きな粒子が発生するが、このような粒子は、粉砕混合後の粒度分布において、相対的に粒径の小さい側に多く分布していることが判明した。そして、アスペクト比が大きいことは、円形度が低いことを意味する。
本発明者らは、この粒径が小さく、かつアスペクト比の大きな粒子の存在に着目し、WC粒子の全数に対して粒径が小さい方から20%の粒子の円形度およびその分散を制御することが、上記効果を高める上で、極めて有効であることを見出した。
すなわち、超硬合金からなる切削工具用基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれる、WC粒子の全数に対して20%の粒子を、粒子の断面積が小さい方から選び出して粒子群Pとしたとき、該粒子群Pに含まれるWC粒子は、
a)円形度の平均値が、0.70以上であり、
b)円形度の分散が、0.015以下であることが好ましい。
また、WC粒子の平均粒径は、0.4〜5.0μm(0.4μm以上5.0μm以下)であることが好ましく、その場合には上記効果はさらに顕著なものとなる。平均粒径が、0.4μm未満であると、WC粒子の円形度を高めたとしても、WC粒子同士の接触面積が大きくならず、十分な熱の伝導経路を確保できない。5.0μmを超過すると、WC粒界に含まれる結合相の厚みが増加して曲げ強度が低下するため、切削工具用材料として好ましくない。したがって、WC粒子の平均粒径は、0.4〜5.0μmであることが好適である。
なお、上記のような垂直断面は、理論上無限に存在するが、いずれか1の垂直断面において、円形度およびその分散が上記条件を満たす限り、本発明の効果は示され、本発明の範囲に含まれる。
これは、いずれか1の垂直断面において、上記条件を満たせば、同様の特性が基材全体にわたって反映されているからである。
<超硬合金の製造方法>
<WC粒子の球状化処理>
このような本発明のWC粉末を得るためには、原料となるWC粉末だけを、粉砕が発生しない状態で長時間攪拌する。このような処理を行なうことで、WC粒子同士の衝突によって、粒子各々が研磨されて、球状に近い粒子からなる原料粉末を得ることができる。すなわち、粒子断面の円形度を高めることができる。
上記の長時間攪拌は、乾式状態で行なってもよく、水、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコールなどの溶媒を用いてスラリー状態として行なってもよい。
<WC粉末の分級処理>
上記のようにして得られたWCの原料粉末を、分級装置によって適宜分級することによって、円形度が低い微粒子を除去し、円形度の分散が小さい原料粉末とすることができる。
ここで、分級方式は特に限定されず、たとえば気流方式、湿式ふるい方式、乾式ふるい方式などを用いることができる。分級済みの粉末を再度分級する複数処理を行なうこともできる。この場合、原料粉末の円形度の分散をより小さくすることができる。
<超硬合金原料の混合>
このようにして得られたWCの原料粉末は、他の原料と混合する際にも、粉砕が発生しない状態で行なうことが好ましい。すなわち、他の原料と混合する際に粉砕が発生すると、WC粒子の円形度が低下し、所望のWC粒子を含んだ超硬合金が得られないからである。
粉砕の発生しない方法としては、たとえば、原料粉末の混合物を、粉砕用ボールの入っていないボールミルに入れて長時間攪拌するか、またはV型混合機で長時間低速で混合する方法が挙げられる。ここで、攪拌方法は特に限定されず、インペラを用いる方法、水流のみを用いる方法およびこれらを兼ね備えた方法など、粉砕が生じ難い方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。
<超硬合金の調製>
上記の球状化処理および/または分級処理を経たWC原料粉末と、その他の原料を、水、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコールなどの溶媒とともに攪拌機に入れ、低速回転で長時間攪拌した後、得られた混合物を乾燥させて、成形し、焼結することで、目的の円形度およびその分散を備えた超硬合金からなる切削工具用基材を得ることができる。
<WC粒子の評価>
超硬合金組織中のWC粒子の評価は、超硬合金からなる基材の任意の表面または断面を鏡面加工して、該加工面を顕微鏡で観察して行なう。
鏡面加工の方法としては、たとえば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、FIB装置(集束イオンビーム装置)を用いる方法、CP装置(クロスセクションポリッシャー装置)を用いる方法およびこれらを組み合わせた方法などを挙げることができる。
該加工面を金属顕微鏡によって観察する場合には、加工面を村上氏試薬でエッチングするのが好ましい。顕微鏡観察で得られた画像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトウェアを用いて解析することで、円形度などの各種情報を取得することができる。
なお、観察面としては工具として機能する部位において行なうのが好ましい。
顕微鏡観察の方法としては、たとえば金属顕微鏡で750〜1500倍、SEM(走査電子顕微鏡)で80〜10000倍の倍率で観察することができる。
顕微鏡観察で得られた画像から、下記式(I)によって、個々のWC粒子の円形度を算出できる。
Figure 2013244590
式(I)中、CはWC粒子の円形度を示し、SはWC粒子の断面積を示し、LはWC粒子の外周長さを示す。
また、下記式(II)によって、WC粒子の円形度の平均値を算出できる。
Figure 2013244590
式(II)中、CAはWC粒子の円形度の平均値を示し、Ciは個々のWC粒子の円形度を示し、NはWC粒子の総数を示す。
さらに、下記式(III)によって、円形度の分散を算出できる。
Figure 2013244590
式(III)中、Cvは円形度の分散を示し、CAは円形度の平均値を示し、Ciは個々のWC粒子の円形度を示し、NはWC粒子の総数を示す。
また、下記式(IV)によって、個々のWC粒子の粒径(Heywood径)を算出できる。以降、単に粒径という場合は、Heywood径を示す。
Figure 2013244590
式(IV)中、dはWC粒子の粒径(Heywood径)を示し、SはWC粒子の断面積を示す。
さらに、下記式(V)によって、平均粒径を算出できる。
Figure 2013244590
式(V)中、Dは平均粒径を示し、diは個々のWC粒子の粒径を示し、NはWC粒子の総数を示す。
ここで、WC粒子の総数Nは、たとえば、1000〜5000倍で顕微鏡観察したとき、200個以上とすることが好ましい。
さらに、総数Nに対して20%の粒子を、断面積Sが小さい方から選び出して粒子群Pとし、該粒子群Pに含まれるWC粒子について、上記と同様にして、円形度、円形度の平均値および円形度の分散を、それぞれ算出することができる。
<超硬合金の組成>
本発明の超硬合金からなる切削工具用基材における超硬合金の組成としては、特に限定されることなく、従来公知の組成を採用することができる。たとえば、次のような組成を有するものを採用することが好ましい。
すなわち、超硬合金として、
i)該WC粒子と、
ii)周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hfなど)、Va族元素(V、Nb、Taなど)、およびVIa族元素(Cr、Mo、Wなど)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とから構成される化合物の1種以上からなる化合物相または固溶体相(ただし、Cr32、VCは除く)と、
iii)鉄族元素(Fe、Co、Niをいい、鉄系金属ともいう)の1種以上からなる結合相と、
iv)不可避不純物と、を含み、
該化合物相または固溶体相は、0.1〜50質量%(0.1質量%以上50質量%以下)の範囲で含まれ、該結合相は、0.2〜20質量%(0.2質量%以上20質量%以下)の範囲で含まれるものを挙げることができる。
ここで、化合物相また固溶体相は、好ましくは、0.4〜15.0質量%(0.4質量%以上15.0質量%以下)であり、より好ましくは、0.8〜5.0質量%(0.8質量%以上5.0質量%以下)とすることが好適である。
さらに、化合物相または固溶体相が、Tiと、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とから構成される化合物を含む場合は、該化合物の含有量は、0.5質量%未満であることが好ましい。
このような化合物の含有量が0.5質量%以上となると、用途によっては、耐欠損性が低下する場合があるからである。
また、上記化合物相または固溶体相の組成としては、Taと、炭素および/または窒素と、から構成される化合物が、耐摩耗性の観点から特に好ましい。
このような化合物としては、たとえば、TaC、TaN、TaCNなどを挙げることができる。
また、超硬合金として、
i)該WC粒子と、
ii)鉄族元素の1種以上からなる結合相と、
iii)不可避不純物と、を含み、
該結合相は、0.2〜20質量%(0.2質量%以上20質量%以下)の範囲で含まれるものを挙げることもできる。
上記超硬合金の組成範囲は、一般に、工業的に製造されている範囲であるが、この範囲を超えてもよく、また部位により結合相の上記割合が変わっていてもよい。
また、このような超硬合金は、組織中に局所的にη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。なお、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、その表面に脱β層やCo富化層や表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
<使用用途>
このような本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、耐摩耗性をはじめとする刃先強度に優れ、特に熱的要因による損傷の発生率が極めて少ない。したがって、本発明の基材は、温度や応力の面で過酷な環境となる切削工具への適応性が高い。
たとえば、刃先温度が高くなる鋼切削加工およびチタン加工用途で、特に優れた性能を発揮する。チタン加工では、被削材であるチタンまたはチタン合金の熱伝導度が低く、かつ加工硬化が生じやすい。そのため、被削材と切れ刃との境界部分に局所的な温度上昇と応力集中が発生するいわゆる境界摩耗が発生しやすい過酷な環境となる。従来の超硬合金からなる切削工具用基材では、この過酷な環境に耐えることができず、短寿命であった。しかし、本発明の基材を用いた切削工具では、このような過酷な環境でも十分な材料寿命を示す。
なお、上記のような切削工具としては、たとえばドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマまたはタップなどを挙げることができる。
<表面被覆切削工具>
本発明の超硬合金からなる基材を用いた切削工具は、該基材上に被膜が形成された表面被覆切削工具であることが好ましい。
<被膜>
該被膜は、切削工具の全面を覆うようにして形成されていてもよいし、切削工具の一部分のみを覆うようにして形成されていてもよいが、その形成目的が切削工具の諸特性の向上(すなわち切削性能の向上)にあることから、全面を覆うか、もしくは一部分を覆う場合であっても切削性能の向上に寄与する部位の少なくとも一部分を覆うことが好ましい。
また、該被膜の構成は部分的に異なっていたとしてもよく、異なっていたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
このように被膜によって切削工具を覆うことにより、切削工具の耐摩耗性、耐酸化性、靭性、および使用済み刃先部の識別のための色付き性などの諸特性を向上させる作用が付与される。
このような被膜は、周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hfなど)、Va族元素(V、Nb、Taなど)、VIa族元素(Cr、Mo、Wなど)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、または該元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素との化合物からなる1層以上の層を含むことが好ましい。
上記のような元素または化合物としては、たとえばTiCN、TiN、TiCNO、TiO2、TiNO、TiB2、TiBN、TiSiN、TiSiCN、TiAlN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlSiCrN、AlCrN、AlCrCN、AlCrVN、TiAlBN、TiBCN、TiAlBCN、TiSiBCN、AlN、AlCN、Al23、ZrN、ZrCN、ZrN、ZrO2、HfC、HfN、HfCN、NbC、NbCN、NbN、Mo2C、WC、W2C、Cr、Al、Ti、Si、Vなどを挙げることができる。また、上記の元素または化合物に対し、他の元素が微量にドープされたものであってもよい。これらの組成中、各原子比は上記一般式に倣うものとする。なお、本発明において上記のように化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば単に「TiCN」と記す場合、「Ti」と「C」と「N」の原子比は50:25:25の場合のみに限られず、また「TiN」と記す場合も「Ti」と「N」の原子比は50:50の場合のみに限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。また、TiCNには、公知の化学蒸着法(CVD法)を用いたMT−TiCNも含まれる(本発明において、「MT」とは低温のCVD法で形成されることを示す)。また、Al23には、α−アルミナも含まれるものとする。
したがって、本発明の被膜としては、化学蒸着法により形成されたMT−TiCN層および/またはα−アルミナ層を含むことが好ましい。
本発明の被膜は、物理蒸着法(PVD法)および/または化学蒸着法(CVD法)により形成されることが好ましいが、圧縮残留応力を導入しやすく、かつ切削性能を改善することができるという点で、物理蒸着法がさらに好ましい。
ここで、物理蒸着法としては、たとえば従来公知の真空蒸着法やスパッタ法などを採用することができ、化学蒸着法としては、たとえば従来公知のプラズマCVD法などを採用することができる。
上記の物理蒸着法としては、従来公知の物理蒸着法をいずれも採用することができ特に限定されることはない。より詳細には、たとえばマグネトロンスパッタリング法、アーク式イオンプレーティング法、ホロカソード法、イオンビーム法、電子ビーム法、バランストマグネトロンスパッタリング法、アンバランストマグネトロンスパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法などを挙げることができる。
なお、本発明の被膜の厚み(2層以上で形成される場合はその全体の厚み)は、1μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上20μm以下である。その厚みが1μm未満の場合、耐摩耗性の向上作用が十分に示されないためであり、一方、30μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは30μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば被膜を形成した刃先交換型切削チップを切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により測定するものとする。また、被膜の組成は、エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により測定するものとする。
<製造方法>
本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、上記のようにWC粒子の球状化処理を実行することおよび粉砕が生じ難い方法で原料粉末の混合処理を実行することを除き、従来公知の製造方法により、特に限定されることなく製造することができる。
たとえば、上記の球状化処理を経たWC粒子を、その他の原料粉末と上記の粉砕が生じ難い方法で混合処理した後、その混合物をプレス成形するとともに焼結させることにより本発明の超硬合金からなる切削工具用基材を得ることができる。
そして、該基材にホーニング処理など種々の刃先処理加工を行ない、切削工具とすることができるとともに、上記のような被膜を形成することもできる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
以下のようにして表面に被膜を有する超硬合金からなる基材を用いた切削工具(刃先交換型切削チップ)No.1〜10を作製した(ただしNo.6は、被膜を有していない)。なお、各刃先交換型切削チップにおいて、WC原料粉末のフィッシャー径、球状化条件、分級の有無および成膜の有無の組合せは、以下の表1の通りである。
表1中、球状化条件の欄が、「無」とは、出発原料のWC粉末に対して球状化処理を行なわず、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕混合を行なったことを示す。
また、球状化条件の欄が、「5H」とは、WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで5時間混合を行ない、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕の発生しない条件で混合したことを示す。
まず、出発原料として、フィッシャー径が、3.40μm、0.70μmおよび7.50μmの3種類のWC粉末を準備した。
<球状化処理>
このWC粉末に、以下の球状化処理を実行し、円形度が高められたWC粉末を得た。
<球状化条件>
<球状化条件(1)>
WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで5時間混合した。
<球状化条件(2)>
WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで15時間混合した。
<球状化条件(3)>
WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで20時間混合した。
<球状化条件(4)>
WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで30時間混合した。
<球状化条件(5)>
WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで40時間混合した。
<分級処理>
次いで球状化処理を行なったWC粉末に以下の条件の分級処理を実行し、目的の円形度と円形度の分散を有するWC粉末を得た。
<分級条件>
出発原料のフィッシャー径が3.40μmであるWC粉末に対しては、分級点を0.4μmに設定した気流分級機で、1回分級した。
また、これらのうち、球状化条件(3)で処理したものの一部については、分級を行なわなかった。
出発原料のフィッシャー径が0.70μmであるWC粉末に対しては、分級点を0.1μmに設定した気流分級機で、1回分級した。
出発原料のフィッシャー径が7.50μmであるWC粉末に対しては、分級点を1.0μmに設定した気流分級機で、1回分級した。
<超硬合金の調製>
まず、1.5質量%のTaCと、0.4質量%のCr32と、8.5質量%のCoと、上記で得られたWC粒子(残部)とからなる組成に配合した超硬合金原料粉末を準備した。
続いて、上記の超硬合金原料粉末と、パラフィンワックスと、エタノール溶媒とを、粉砕用ボールを入れないボールミルで10時間攪拌することにより混合物を得た。
比較例として、球状化処理および/または分級処理を行なっていないWC粒子を用いたこと以外は、上記と同組成に配合した超硬合金原料粉末を準備した後、該超硬合金原料粉末と、パラフィンワックスと、エタノール溶媒とを、粉砕用ボールを入れたボールミルで8時間攪拌することにより混合物を得た。
その後、この混合物をスプレードライ乾燥して造粒粉末を得た。
<基材の調製>
次いで、上記の造粒粉末をプレス成形し、10Pa以下の真空雰囲気下1400℃で1時間焼結した。
続いて、得られた焼結体の刃先稜線にSiCブラシホーニング処理を行なうことによって、すくい面と逃げ面との交差部に対して、半径が約0.05mmのアール(R)を付与した(以下、該部分を刃先部とも記す)。そして、刃先交換型チップの底面に対して、平坦研磨処理行なって、SEMT13T3AGSN−G(住友電工ハードメタル株式会社製)形状の刃先交換型切削チップの基材とした。
<超硬合金組織の観察>
このようにして作製した基材の刃先部を切断して、ダイヤモンドペーストを用いて鏡面加工した後、クロスセクションポリッシャー装置を用いて、該加工面の一部をアルゴンイオンビームによってさらに研磨し、顕微鏡観察用試料とした。
上記観察用試料を、電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、5000倍の倍率で観察し、反射電子像画像を5視野撮影した。
得られた5視野のうち1視野において、視野中心部のWC粒子(総数N)について、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(製品名:「Mac−View」,株式会社マウンテック製)を用いて、円形度の平均値、円形度の分散および平均粒径をそれぞれ算出した。
ここで、総数Nは、表1のNo.5および10については、200個、それ以外は300個とした。
さらに、総数Nのうち、粒子の断面積が小さいほうからWC粒子を選び出して、総数0.2NのWC粒子からなる粒子群Pを作成した。同粒子群Pについて、円形度の平均値および円形度の分散を算出した。
その他の4視野についても同様の計測を行ない(すなわち、同様の計測を5回行なった)、全5回の平均値を求めた。その結果(平均値)を表1に示す。
<被膜の形成>
続いて、このようにして得られた刃先交換型切削チップの基材に対して、以下の成膜条件で被膜を形成した。
<成膜条件>
刃先交換型切削チップの表面に、物理蒸着法である公知のイオンプレーティング法を用いて4.0μmのTiAlN層である被膜を形成した。
<評価>
<耐摩耗性評価>
上記で作製した刃先交換型切削チップの耐摩耗性評価を以下のようにして行なった。
刃先交換型切削チップの1つを型番WGC4160R(住友電工ハードメタル株式会社製)のカッタにセットし、これを用いて合金鋼の正面フライス加工による耐摩耗性試験を行なった。本性能評価は、1つの刃先交換型切削チップのみをカッタに取り付けて行なっている。
<加工条件>
被削材には、SCM435:ブロック材(300mm×100mm)を用いた。
切削速度は、No.1〜3、6〜8(出発原料のフィッシャー径が3.40μmである切削チップ)については、240m/minとした。
No.4、9(出発原料のフィッシャー径が0.70μmである切削チップ)については、180m/minとした。
No.5、10(出発原料のフィッシャー径が7.50μmである切削チップ)については、本評価を行なわなかった。
その他の条件は、送り=0.32mm/刃、切込み量=2.0mm、センターカット、クーラント:なし、とした。
上記の条件で、切削加工を行ない、逃げ面摩耗量が0.1mmに到達した時点での加工面積を測定した。その結果を表1の「加工面積A」の欄に示す。
表1中、加工面積Aが大きいほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
<耐欠損性評価>
また、以下のように評価条件を変えて、合金鋼の正面フライス加工による耐欠損性試験を行なった。本性能評価は、1つの刃先交換型切削チップのみをカッタに取り付けて行なっている。
<加工条件>
被削材には、SCM435:ブロック材(300mm×80mm)を用いた。
切削速度は、No.1〜3、6〜8(出発原料のフィッシャー径が3.40μmである切削チップ)については、280m/minとした。
No.4、9(出発原料のフィッシャー径が0.70μmである切削チップ)については、本評価を行なわなかった。
No.5、10(出発原料のフィッシャー径が7.50μmである切削チップ)については、330m/minとした。
その他の条件は、送り=0.33mm/刃、切込み量=2.0mm、センターカット、クーラント:あり、とした。
上記の条件で、切削加工を行ない、逃げ面側の欠損量が0.3mmに到達した時点での加工面積を測定した。その結果を表1の「加工面積B」の欄に示す。
本評価は、フライスによる断続切削であり、加工時の摩擦熱による発熱と、クーラントの使用による冷却とによる、いわゆる熱サイクルが繰り返されたときの、熱亀裂に伴なう欠損に対する耐性を評価している。
熱を逃がし易い工具材料や、熱的に均質で局所的な温度上昇が生じ難い材料は、熱亀裂の発生が少なく、それに伴なう欠損も発生し難いため、工具寿命は長くなる。
表1中、加工面積Bが大きいほど、熱亀裂の発生が少なく、耐欠損性に優れていることを示している。
Figure 2013244590
表1中、刃先交換型切削チップNo.1〜6が本発明の実施例であり、No.7〜10が比較例である(比較例には「*」が付されている)。
表1より明らかなように、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材を用いた実施例の刃先交換型切削チップは、該基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれるWC粒子の円形度の平均値が0.75以上であり、かつ該円形度の分散が0.010以下であり、以って、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、耐摩耗性をはじめとする刃先強度を改善させたものであることが確認できた。
また、No.1、2、6の刃先交換型切削チップは、該基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれる、WC粒子の全数に対して20%の粒子を、粒子の断面積が小さい方から選び出して粒子群Pとしたとき、該粒子群Pに含まれるWC粒子は、円形度の平均値が、0.70以上であり、かつ該円形度の分散が、0.015以下であり、以って、本発明の効果をさらに高めたものであることが確認できた。
さらに、平均粒径が0.4μm未満であるNo.4および平均粒径が5.0を超過するNo.5に比べて、平均粒径が0.4μm以上5.0μm以下であるNo.1〜3は、本発明の効果が顕著であることが確認できた。
<実施例2>
以下のようにして超硬合金からなる基材を用いた切削工具(刃先交換型切削チップ)No.1〜5を作製した。なお、各刃先交換型切削チップにおいて、WC原料粉末のフィッシャー径、球状化条件、分級の有無および成膜の有無の組合せは、以下の表2の通りである。
表2中、球状化条件の欄が、「無」とは、出発原料のWC粉末に対して球状化処理を行なわず、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕混合を行なったことを示す。
また、球状化条件の欄が、「5H」とは、WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで5時間混合を行ない、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕の発生しない条件で混合したことを示す。
まず、出発原料として、フィッシャー径が3.80μmのWC粉末を準備した。
<球状化処理>
このWC粉末を、表2に記載した作製条件によって処理し、実施例1と同様にして、円形度が高められたWC粉末を得た。
<分級処理>
次いで球状化処理を行なったWC粉末に以下の条件の分級処理を実行し、目的の円形度と円形度の分散を有するWC粉末を得た。
<分級条件>
分級点を0.4μmに設定した気流分級機で、1回分級した。
また、球状化条件(3)で処理したものの一部については、分級を行なわなかった。
<超硬合金の調製>
まず、0.3質量%のCr32と、5.5質量%のCoと、0.1質量%のNiと、上記で得られたWC粒子(残部)とからなる組成に配合した超硬合金原料粉末を準備した以外は、実施例1と同様にして、造粒粉末を得た。
<基材の調製>
次いで、上記の造粒粉末をプレス成型し、10Pa以下の真空雰囲気下1450度で1時間焼結して、形状がSPGN120308(JIS B4120−1998)である焼結体を得た。
続いて、得られた焼結体の刃先稜線にSiCブラシホーニング処理を行なうことによって、すくい面と逃げ面との交差部に対して、半径が約0.02mmのアール(R)を付与して、刃先交換型切削チップの基材とした。
<超硬合金組織の観察>
上記で作製した刃先交換型切削チップの超硬合金組織を、表2のNo.1〜5のすべてについて総数Nを300個とした以外は、実施例1と同様にして評価した。その結果を表2に示す。
<評価>
<耐摩耗性評価>
上記で作製した刃先交換型切削チップの耐摩耗性評価を以下のようにして行なった。
刃先交換型切削チップの1つを型番FP11R−44A(住友電工ハードメタル株式会社製)のバイトにセットし、これを用いてTi合金の連続旋削加工による耐摩耗性試験を行なった。
切削加工条件は、被削材として、Ti−6Al−4V:丸棒(φ200mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=75m/min、送り=0.25mm/刃、切込み量=1.0mm、クーラント:あり(水溶性クーラント)、として5分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(VB)を測定した。その結果を表2に示す。
逃げ面摩耗量が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
Figure 2013244590
表2中、刃先交換型切削チップNo.1〜3が本発明の実施例であり、No.4、5が比較例である(比較例には「*」が付されている)。
表2より明らかなように、本発明の超硬合金からなる基材を用いた実施例の刃先交換型切削チップは、該基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれるWC粒子の円形度の平均値が0.75以上であり、かつ該円形度の分散が0.010以下であり、以って、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、耐摩耗性をはじめとする刃先強度を改善させたものであることが確認できた。
一方、No.5の刃先交換型切削チップは、加工後に0.25mmの欠損が発生しており、逃げ面摩耗量を測定できなかった。No.5は、WC粒子の円形度の分散が大きく(すなわち、円形度のバラツキが大きい)、合金組織の均質性が低いため、組織内に局所的に強度の低い部分が存在し、切削時に、その部分に負荷が集中して欠損に至ったものと考えられる。
また、No.1、2の刃先交換型切削チップは、該基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれる、WC粒子の全数に対して20%の粒子を、粒子の断面積が小さい方から選び出して粒子群Pとしたとき、該粒子群Pに含まれるWC粒子は、円形度の平均値が、0.70以上であり、かつ該円形度の分散が、0.015以下であり、以って、本発明の効果をさらに高めたものであることが確認できた。
<実施例3>
以下のようにして超硬合金からなる基材を用いた切削工具(刃先交換型切削チップ)No.1〜7を作製した。なお、各刃先交換型切削チップにおいて、WC原料粉末のフィッシャー径、球状化条件、分級の有無および成膜の有無の組合せは、以下の表3の通りである。
表3中、球状化条件の欄が、「無」とは、出発原料のWC粉末に対して球状化処理を行なわず、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕混合を行なったことを示す。
また、球状化条件の欄が、「5H」とは、WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで5時間混合を行ない、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕の発生しない条件で混合したことを示す。
まず、出発原料として、実施例1で用いたフィッシャー径が、3.40μm、0.70μmのWC粉末を準備した。
<球状化処理>
このWC粉末を、表3に記載した作製条件によって処理し、実施例1と同様にして、円形度が高められたWC粉末を得た。
<分級処理>
次いで、実施例1と同様にして、分級処理を実行し、目的の円形度と円形度の分散を有するWC粉末を得た。
<超硬合金の調製>
まず、0.2質量%のTiCと、0.5質量%のTaCと、0.4質量%のCr32と、5.2質量%のCoと、上記で得られたWC粒子(残部)とからなる組成に配合した超硬合金原料粉末を準備した以外は、実施例1と同様にして、造粒粉末を得た。
<基材の調製>
次いで、上記の造粒粉末をプレス成形し、10Pa以下の真空雰囲気下1450℃で1時間焼結した。
続いて、得られた焼結体の刃先稜線にSiCブラシホーニング処理を行なうことによって、すくい面と逃げ面との交差部に対して、半径が約0.03mmのアール(R)を付与した。そして、刃先交換型チップの底面に対して、平坦研磨処理行なって、CNMG120408N−GU(住友電工ハードメタル株式会社製)形状の刃先交換型切削チップの基材とした。なお、焼結体の表面には、厚み15μmの脱β層が形成されていた。
<超硬合金組織の観察>
上記で作製した刃先交換型切削チップの超硬合金組織を、表3のNo.1〜7のすべてについて総数Nを300個とした以外は、実施例1と同様にして評価した。その結果を表3に示す。
<被膜の形成>
続いて、このようにして得られた刃先交換型切削チップの基材に対して、以下の成膜条件で被膜を形成した。
<成膜条件>
刃先交換型切削チップの表面に、化学蒸着法である公知の気相合成法を用いて、TiN層(0.2μm)とMT−TiCN層(8.0μm)とTiBN層(0.8μm)とα−Al23層(6.2μm)とTiN層(0.2μm)とをこの順番で積層した被膜を形成した(括弧内の数値は厚みを示す)。
<評価>
<耐摩耗性評価>
上記で作製した刃先交換型切削チップの耐摩耗性評価を以下のようにして行なった。
刃先交換型切削チップの1つを型番PCLNR2525−43(住友電工ハードメタル株式会社製)のバイトにセットし、これを用いて合金鋼の連続旋削加工による耐摩耗性試験を行なった。
切削加工条件は、被削材として、SCM435:丸棒(φ350mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=270m/min、送り=0.23mm/刃、切込み量=1.5mm、クーラント:なし、として20分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(VB)を測定した。その結果を表3に示す。
逃げ面摩耗量が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
Figure 2013244590
表3中、刃先交換型切削チップNo.1〜4が本発明の実施例であり、No.5〜7が比較例である(比較例には「*」が付されている)。
表3より明らかなように、本発明の超硬合金からなる基材を用いた実施例の刃先交換型切削チップは、該基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれるWC粒子の円形度の平均値が0.75以上であり、かつ該円形度の分散が0.010以下であり、以って、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、耐摩耗性をはじめとする刃先強度を改善させたものであることが確認できた。
一方、No.6の刃先交換型切削チップは、加工後に0.33mmの欠損が発生しており、逃げ面摩耗量を測定できなかった。No.6は、WC粒子の円形度の分散が大きく(すなわち、円形度のバラツキが大きい)、合金組織の均質性が低いため、組織内に局所的に強度の低い部分が存在し、切削時に、その部分に負荷が集中して欠損に至ったものと考えられる。
また、No.2の刃先交換型切削チップは、該基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれる、WC粒子の全数に対して20%の粒子を、粒子の断面積が小さい方から選び出して粒子群Pとしたとき、該粒子群Pに含まれるWC粒子は、円形度の平均値が、0.70以上であり、かつ該円形度の分散が、0.015以下であり、以って、本発明の効果をさらに高めたものであることが確認できた。
さらに、平均粒径が0.4μm未満であるNo.4に比べて、平均粒径が0.4μm以上5.0μm以下であるNo.1、2は本発明の効果が顕著であることが確認できた。
<実施例4>
以下のようにして超硬合金からなる基材を用いた切削工具(刃先交換型切削チップ)No.1〜8を作製した。なお、各刃先交換型切削チップにおいて、WC原料粉末のフィッシャー径、球状化条件、分級の有無、成膜の有無ならびに超硬合金の組成の組合せは、以下の表4の通りである。
表4中、球状化条件の欄が、「無」とは、出発原料のWC粉末に対して球状化処理を行なわず、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕混合を行なったことを示す。
また、球状化条件の欄が、「20H」とは、WC粉末を、アセトンともに、粉砕用ボールを入れないボールミルで20時間混合を行ない、かつ超硬合金原料粉末の混合の際、粉砕の発生しない条件で混合したことを示す。
まず、出発原料として、フィッシャー径が1.8μmのWC粉末を準備した。
<球状化処理>
このWC粉末を、表4に記載した作製条件によって処理し、実施例1と同様にして、円形度が高められたWC粉末を得た。
<分級処理>
次いで、分級点を0.3μmに設定した気流分級機を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、分級処理を実行し、目的の円形度と円形度の分散を有するWC粉末を得た。
<超硬合金の調製>
まず、表4に示す組成で配合した原料粉末を準備した。
続いて、上記の超硬合金原料粉末と、液体パラフィンワックス(2.0質量%)と、エタノール溶媒とを、粉砕用ボールを入れないボールミルで24時間攪拌することにより混合物を得た。
ここで、比較試験として、No.7については、超硬合金原料粉末を、圧力値を100MPaに設定した湿式ジェットミルで処理したのち、粉砕ボールと共に、アキシャルミキサーで2時間混合して混合物を得た。
また、別の比較試験として、No.8については、超硬合金原料粉末と、パラフィンワックスと、エタノール溶媒とを、粉砕用ボールを入れてボールミルで24時間攪拌することにより混合物を得た。
<基材の調製>
次いで、上記の造粒粉末をプレス成形し、10Pa以下の真空雰囲気下1450℃で1時間焼結して、形状がSNGN120408(JIS B4120−1998)である刃先交換型切削チップの基材とした。(本実施例では、刃先への加工は行なわなかった。)
<超硬合金組織の観察>
上記で作製した刃先交換型切削チップの超硬合金組織を、表4のNo.1〜8のすべてについて総数Nを300個とした以外は、実施例1と同様にして評価した。その結果を表4に示す。
<被膜の形成>
続いて、このようにして得られた刃先交換型切削チップの基材に対して、実施例1と同様にして被膜を形成した。
<評価>
<耐摩耗性評価>
上記で作製した刃先交換型切削チップの耐摩耗性評価を以下のようにして行なった。
刃先交換型切削チップの1つを型番DNF4160R(住友電工ハードメタル株式会社製)のカッタにセットし、これを用いて合金鋼の正面フライス加工による耐摩耗性試験を行なった。本性能評価は、1つの刃先交換型切削チップのみをカッタに取り付けて行なっている。
切削加工の条件は、被削材として、SCM440:ブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=240m/min、送り=0.28mm/刃、切込み量=2.0mm、センターカット、切削油:なし、として15分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(VB)を測定した。その結果を表4に示す。
逃げ面摩耗量が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
<耐初期欠損性評価>
上記で作製した刃先交換型切削チップの耐初期欠損性評価を以下のようにして行なった。
刃先交換型切削チップの1つを型番DNF4160R(住友電工ハードメタル株式会社製)のカッタにセットし、これを用いて炭素鋼の強断続フライス加工による耐初期欠損性試験を行なった。本性能評価は、1つの刃先交換型切削チップのみをカッタに取り付けて行なっている。
切削加工の条件は、被削材として、S50C:ブロック材(300mm×100mm、スリット有り)を用い、この被削材に対し、切削速度=70m/min、送り=0.60mm/刃、切込み量=2.0mm、センターカット、切削油:なし、として1分間切削加工を行なった。この条件で切削加工を20回行ない、全20個の刃先交換型切削チップのうちの破損が生じた刃先交換型切削チップの割合を破損率(%)として算出した。その結果を表4の「破損率(%)」の欄に示す。
表4中、破損率が低いほど、耐初期欠損性が優れていることを示している。
Figure 2013244590
表4中、刃先交換型切削チップNo.1〜6が本発明の実施例であり、No.7、8が比較例である(比較例には「*」が付されている)。
表4より明らかなように、本発明の超硬合金からなる基材を用いた実施例の刃先交換型切削チップは、該基材のいずれか1の表面に対する垂直断面に含まれるWC粒子の円形度の平均値が0.75以上であり、かつ該円形度の分散が0.010以下であり、以って、本発明の超硬合金からなる切削工具用基材は、耐摩耗性をはじめとする刃先強度を改善させたものであることが確認できた。
また、No.1〜4を比較すると、超硬合金に含まれるCr32を除く化合物相または固溶体相の配合量は、0.3〜3.5質量%の範囲においては、配合量が多いほど、耐摩耗性に優れる結果となった。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (9)

  1. 炭化タングステン粒子を含む超硬合金からなる切削工具用基材であって、
    いずれか1の表面に対する垂直断面において、
    前記炭化タングステン粒子は、
    a)円形度の平均値が、0.75以上であり、
    b)円形度の分散が、0.010以下である、超硬合金からなる切削工具用基材。
  2. 前記垂直断面に含まれる、
    前記炭化タングステン粒子の全数に対して20%の粒子を、粒子の断面積が小さい方から選び出して粒子群Pとしたとき、前記粒子群Pに含まれる炭化タングステン粒子は、
    a)円形度の平均値が、0.70以上であり、
    b)円形度の分散が、0.015以下である、請求項1に記載の超硬合金からなる切削工具用基材。
  3. 前記炭化タングステン粒子は、平均粒径が、0.4〜5.0μmである、請求項1または2に記載の超硬合金からなる切削工具用基材。
  4. 前記超硬合金は、
    i)前記炭化タングステン粒子と、
    ii)周期律表のIVa族元素、Va族元素、およびVIa族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とから構成される化合物の1種以上からなる化合物相または固溶体相と、
    iii)鉄族元素の1種以上からなる結合相と、
    iv)不可避不純物と、を含み、
    前記化合物相または固溶体相は、0.1〜50質量%の範囲で含まれ、
    前記結合相は、0.2〜20質量%の範囲で含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の超硬合金からなる切削工具用基材。
  5. 前記超硬合金は、
    i)前記炭化タングステン粒子と、
    ii)鉄族元素の1種以上からなる結合相と、
    iii)不可避不純物と、を含み、
    前記結合相は、0.2〜20質量%の範囲で含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の超硬合金からなる切削工具用基材。
  6. 基材と該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
    前記基材は、請求項1〜5のいずれかに記載の超硬合金からなる切削工具用基材により構成される、表面被覆切削工具。
  7. 前記被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、または該元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素との化合物からなる1層以上の層を含む、請求項6に記載の表面被覆切削工具。
  8. 前記被膜は、物理蒸着法および/または化学蒸着法により形成される、請求項6または7に記載の表面被覆切削工具。
  9. 前記被膜は、化学蒸着法により形成されるものであり、MT−TiCN層および/またはα−アルミナ層を含む、請求項6〜8のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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