JP2011210823A - 希土類焼結磁石の製造方法及び希土類焼結磁石 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐食性が向上すると共に、フラックスの低下が抑制された希土類焼結磁石の製造方法及び希土類焼結磁石を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、R2T14B化合物を含む主相と、R2T14B化合物よりNdが多く、CoとCuとを含む粒界相とを有する希土類焼結磁石を製造するにあたり、R12Fe14B及び不可避不純物を含み、Co及びCuを含まない主相系合金の粉末と、R2とFeとCoとCuとを含み、R2の含有量が25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量が0.3質量%以上10質量%以下である粒界相系合金の粉末とを混合し、得られた混合物を成形し、焼結して得られ、最終組成としてCoを0.6質量%以上3.0質量%以下、Cuを0.05質量%以上0.5質量%以下含む。
【選択図】なし
【解決手段】本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、R2T14B化合物を含む主相と、R2T14B化合物よりNdが多く、CoとCuとを含む粒界相とを有する希土類焼結磁石を製造するにあたり、R12Fe14B及び不可避不純物を含み、Co及びCuを含まない主相系合金の粉末と、R2とFeとCoとCuとを含み、R2の含有量が25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量が0.3質量%以上10質量%以下である粒界相系合金の粉末とを混合し、得られた混合物を成形し、焼結して得られ、最終組成としてCoを0.6質量%以上3.0質量%以下、Cuを0.05質量%以上0.5質量%以下含む。
【選択図】なし
Description
本発明は、希土類焼結磁石の製造方法及び希土類焼結磁石に関し、特に耐食性の向上とフラックスの低下抑制を図った希土類磁石用合金及び希土類磁石用合金の製造方法に関する。
R−T−B(Rは希土類元素、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素)系の組成を有する希土類永久磁石は、R2T14Bの組成式で表されるR2T14B相を含む主相と、R2T14BよりRを多く含むRリッチ相を含む粒界相とを含む組織を有し、高い保磁力HcJを有するなど優れた磁気特性を発揮する永久磁石である。R−Fe−B系の希土類永久磁石は、高性能な永久磁石として、ハードディスクドライブ(Hard disk drive:HDD)ヘッド駆動用ヴォイスコイルモータ(Voice Coil Motor:VCM)や電気自動車やハイブリッドカーなど特に高性能が要求されるモータなどに使用されている。
従来では、例えば、焼結体の粒界相における重希土類元素の高濃度域とCo及びCuの高濃度域とが重複しないように異なる位置となるように粒界相に存在させることで、保磁力HcJ及び機械的強度を向上させた希土類焼結磁石が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
希土類焼結磁石は、主成分として酸化され易いRやFeを含有するため、使用される環境条件によって腐食などが発生し易く、耐食性が低い、という問題があった。このため、希土類焼結磁石はその表面を保護するために、希土類焼結磁石の表面にめっき膜や樹脂膜などを設けていた。
しかしながら、希土類焼結磁石は、その表面にめっき膜を形成する際、めっき液に浸漬してめっきする際に希土類焼結磁石の表面がめっき液により損傷してフラックスが低下する、という問題があった。これは、希土類焼結磁石がめっき液と反応して希土類焼結磁石の粒界相成分が腐食して脱落し、水素を吸蔵しているためと考えられる。
近年、希土類焼結磁石が自動車や産業機器などでの使用が増加していることから、こうした用途に更に磁気特性に優れた希土類焼結磁石を提供するため、耐食性が向上すると共に、希土類焼結磁石の表面にめっきを施してもフラックスの低下が抑制された希土類焼結磁石が求められている。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐食性が向上すると共に、フラックスの低下が抑制された希土類焼結磁石の製造方法及び希土類焼結磁石を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る希土類焼結磁石の製造方法は、R2T14B(RはNdを含む1種類以上の希土類元素を表し、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を表し、BはB又はB及びCを表す)化合物を含む主相と、前記R2T14B化合物よりNdが多く、Co及びCuを含む粒界相とを有する希土類焼結磁石を製造するにあたり、R12Fe14B(R1は少なくともNdを含み、Dyを含まない1種類以上の希土類元素を表す)及び不可避不純物を含み、かつCo及びCuを含まない主相系合金の粉末と、R2(R2は少なくともDyを含み、Ndを含まない1種類以上の希土類元素を表す)とFeとCoとCuとを含み、R2の含有量が25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量が0.3質量%以上10質量%以下である粒界相系合金の粉末とを混合し、混合物を得る混合物作製工程と、前記混合物を成形し、成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼結し、焼結体を得る焼結工程と、を含み、最終組成としてCoを0.6質量%以上3.0質量%以下、Cuを0.05質量%以上0.5質量%以下含むことを特徴とする。
希土類焼結磁石の表面にめっきを施す際、希土類焼結磁石をめっき液に浸漬すると、希土類焼結磁石の表面はめっき液により損傷してフラックスが低下する。これは、希土類焼結磁石がめっき液と反応して希土類焼結磁石の粒界相成分が腐食して脱落し、水素を吸蔵してしまうためと考えられる。本発明は、R12Fe14B及び不可避不純物を含み、Co及びCuを含まない主相系合金の粉末と、R2とFeとCoとCuとを含み、R2の含有量が25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量が5質量%以上50質量%以下である粒界相系合金の粉末とを用いている。この主相系合金の粉末と粒界相系合金の粉末とを用いて得られる希土類焼結磁石は、Coが0.6質量%以上3.0質量%以下であり、粒界相にNdとCoとCuとが略同じ領域に存在する。NdとCoとCuとが粒界相内に略同じ領域で存在することで、耐食性を向上させることができる。また、本発明により得られる希土類焼結磁石は、その表面にめっきを施しても、NdとCoとCuとが粒界相内に略同じ領域で存在することで、希土類焼結磁石がめっき液と反応して粒界相成分が腐食して脱落し、水素を吸蔵するのを抑制することができる。これにより、希土類焼結磁石のめっき層との接触部の粒界相が変性するのを抑え、その部分の保磁力低下に起因する減磁を抑制することができるため、本発明により得られる希土類焼結磁石はめっきを開始した初期に生じるフラックスの低下を抑制することができる。従って、本発明によれば、耐食性が向上すると共に、フラックスの低下が抑制された希土類焼結磁石を製造することができる。
本発明に係る希土類焼結磁石の製造方法は、粒界相は、Coに富む領域とCuに富む領域との両方が一致している面積が60%以上であることが好ましい。NdとCoとCuとが粒界相内に略同じ領域で存在する割合を高くすることで、耐食性を更に向上させることができる。
本発明に係る希土類焼結磁石は、R12Fe14B(R1は少なくともNdを含み、Dyを含まない1種類以上の希土類元素を表す)及び不可避不純物を含み、かつCo及びCuを含まない主相系合金の粉末と、R2(R2は少なくともDyを含み、Ndを含まない1種類以上の希土類元素を表す)とFeとCoとCuとを含み、R2の含有量が25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量が0.3質量%以上10質量%以下である粒界相系合金の粉末とを混合し、焼結することにより得られ、R2T14B(RはNdを含む1種類以上の希土類元素を表し、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を表し、BはB又はB及びCを表す)化合物を含む主相と、前記R2T14B化合物よりNdが多く、Co及びCuを含む粒界相とを有し、最終組成として0.6質量%以上3.0質量%以下のCoと、0.05質量%以上0.5質量%以下のCuとを含むことを特徴とする。
本発明は、本発明に係る希土類焼結磁石の製造方法を用いて製造される希土類焼結磁石である。このため、本発明によれば、耐食性が向上すると共に、めっき液に浸漬してめっきを行なってもフラックスの低下を抑制することができる。
本発明によれば、耐食性が向上すると共に、フラックスの低下が抑制された希土類焼結磁石の製造方法及び希土類焼結磁石を提供することができる。
以下、本発明に係る希土類焼結磁石の実施の形態(以下、実施形態という)及び実施例の図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための実施形態及び実施例により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
[実施形態]
<希土類焼結磁石>
図1は、本発明の実施形態に係る希土類焼結磁石を示す模式断面図である。図1に示すように、希土類焼結磁石10は、その表面全体をNiめっき膜11で覆っている。本実施形態では、希土類焼結磁石10は高い磁気特性を有する観点から、希土類合金からなる焼結体である。
<希土類焼結磁石>
図1は、本発明の実施形態に係る希土類焼結磁石を示す模式断面図である。図1に示すように、希土類焼結磁石10は、その表面全体をNiめっき膜11で覆っている。本実施形態では、希土類焼結磁石10は高い磁気特性を有する観点から、希土類合金からなる焼結体である。
希土類焼結磁石10は、R−T−B系合金を用いて形成される焼結体からなるものである。希土類焼結磁石10は、結晶粒の組成がR2T14B(RはNdを含む1種類以上の希土類元素を表し、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を表し、BはB又はB及びCを表す)という組成式で表されるR2T14B相を含む主相(結晶粒)と、前記R2T14B相よりNdが多く、CoとCuとを含む粒界相とを有する。Rは、1種以上の希土類元素を表す。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素とのことをいう。ランタノイド元素は、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を含む。希土類元素は、軽希土類及び重希土類に分類され、重希土類元素とは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luをいい、軽希土類元素はそれ以外の希土類元素である。製造コスト及び磁気特性の観点から、RはNdを含むものであることが好ましい。
Tは、Fe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を示すものである。Tは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。Feの一部をCoに置換する場合、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。また、Coの含有量は、Feの含有量の20質量%以下に抑えることが望ましい。これは、Coの含有量がFeの含有量の20質量%より大きくなるようにFeの一部をCoに置換すると、磁気特性を低下させる虞がある。また、希土類焼結磁石10が高価となってしまうからである。Tは、Fe、Co以外に、例えば、Al、Ga、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの元素の少なくとも1種の元素を更に含んでいてもよい。
本実施形態に係る希土類焼結磁石10の粒界相は、R2T14B相よりNdが多いNdリッチ相とR2T14B相よりCoが多いCoリッチ相と主相よりCuが多いCuリッチ相とを含んでいる。粒界相は、Ndリッチ相の他に、Bの配合割合が高いBリッチ相が含まれていてもよい。結晶粒の粒径は、1μmから100μm程度である。
希土類焼結磁石は、Coの含有量は、0.6質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましく、0.7質量%以上2.8質量%以下であるのがより好ましく、0.8質量%以上2.5質量%以下であるのが更に好ましい。Coの含有量が0.6質量%を下回ると、希土類焼結磁石は耐食性の向上の効果が得られない虞があるからである。Coの含有量が3.0質量%を超えると、希土類焼結磁石の磁気特性が低下する虞があり、コストが増大することにもなるからである。
Cuの含有量は、0.05質量%以上0.5質量%以下であるのが好ましく、0.06質量%以上0.4質量%以下であるのがより好ましく、0.07質量%以上0.3質量%以下であるのが更に好ましい。Cuの含有量が0.05質量%を下回ると、希土類焼結磁石は耐食性の向上の効果が得られない虞があるからである。Cuの含有量が0.5質量%を超えると、希土類焼結磁石の磁気特性が低下する虞があるからである。
粒界相では、NdとCoとCuとが略同じ領域に存在する。NdとCoとCuとが粒界相内に略同じ領域で存在することで、NdとCoとCuとがめっき液と粒界相の反応によって発生する水素を介して腐食反応が促進されるのを抑制することができると考えられるため、希土類焼結磁石の耐食性を向上させることができる。
また、本実施形態により得られる希土類焼結磁石は、その表面に被覆用のめっきを施しても、NdとCoとCuとが粒界相内に略同じ領域で存在することで、上記のように、NdとCoとCuとがめっき液と粒界相の反応によって発生する水素を介して腐食反応が促進されるのを抑制することができることが考えられる。これにより、希土類焼結磁石のめっきとの接触部はダメージを軽減され、減磁するのを抑制することができる。また、希土類焼結磁石は、NdとCoとCuとが粒界相内に略同じ領域で存在することで、その表面にめっきを施してもめっき開始初期に生じるフラックスの低下を抑制することができる。よって、希土類焼結磁石の表面にめっきを施しても希土類焼結磁石の表面にNiめっきを施すことでNiめっきを施す前後において生じるフラックスの値の差(フラックスロス)を抑制することができる。
希土類焼結磁石の表面にめっきを施すと、めっきの膜厚の分、フラックスは低下する。図1に示すように、希土類焼結磁石10の表面にNiめっき膜11で被覆した際、希土類焼結磁石10の厚さAとNiめっき膜11の厚さBの両面分の和が実際の製品の厚さCとなるが、製品の厚さCは一定であるため、下記式(1)のように、製品の厚さCから希土類焼結磁石10の厚さAを引いた厚さを2で除した値が、実際に希土類焼結磁石10をNiめっき膜11で被覆したことによりフラックスの低下が生じるめっき皮膜厚ロスXとなる。
(製品の厚さC−希土類焼結磁石10の厚さA)/2=めっき皮膜厚ロスX ・・・(1)
(製品の厚さC−希土類焼結磁石10の厚さA)/2=めっき皮膜厚ロスX ・・・(1)
希土類焼結磁石は、その表面にNiめっき膜11を形成することでめっき皮膜厚ロスXの分、フラックスは低下する。従って、希土類焼結磁石の表面にめっきを施す際、めっき開始初期に生じるフラックスの低下を抑制することにより、Niめっき膜11を形成した後の希土類焼結磁石のフラックスロスを抑制することができる。
粒界相は、Coに富む領域とCuに富む領域との両方が一致している面積が60%以上であることが好ましく、70%以上であるのが更に好ましい。Coに富む領域とCuに富む領域との両方が一致している面積が60%を下回ると、希土類焼結磁石の耐食性は低下するからである。NdとCoとCuとが粒界相内に略同じ領域で存在する割合を高くし、Coリッチ相とCuリッチ相との両方が一致している面積が60%以上とすることで、耐食性を更に向上させることができる。
Niめっき膜11は、希土類焼結磁石10の被覆層として用いられる。Niめっき膜11は、Ni、Ni−B、Ni−PなどNiを含んで形成されるめっき膜であればよい。Niめっき膜11は、Ni以外の金属からなる金属めっき膜でもよい。Ni以外の金属からなる金属めっき膜は、Cu、Zn、Cr、Sn、Ag、Au、Alの何れか一つ以上を主成分として含む層で形成される。これらのめっき膜は、例えば、電気めっき法や無電解めっき法によって形成される。めっき膜は電気めっき法により形成するのが好ましい。めっき膜を電気めっきで形成することで、希土類焼結磁石10に容易にめっき膜を形成することができる。また。電気めっきは蒸着などによりめっき膜を形成する場合に比べて低コスト、かつ安全に再現性を有して形成することができる。
本実施形態に係る希土類焼結磁石10は、例えばプレス成形などにより目的とする所定形状に成形されて得られる。希土類焼結磁石10の形状は特に限定されるものではなく、用いる金型の形状に応じて、例えば平板状、柱状、断面形状がリング状等、希土類焼結磁石の形状に応じて変更することができる。
本実施形態に係る希土類焼結磁石10は、R−T−B系合金からなる希土類焼結磁石を用いているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、R−T−B系希土類合金粉末と樹脂バインダーとを混練して希土類ボンド磁石用コンパウンド(組成物)を作製し、得られる希土類ボンド磁石用コンパウンドを所定の形状に成形した希土類ボンド磁石を希土類焼結磁石として用いてもよい。
本実施形態に係る希土類焼結磁石10は、Coが0.3質量%以上3.0質量%以下であり、Cuが0.02質量%以上0.5質量%以下の組成を有する粒界相を有し、その粒界相にNdとCoとCuとが略同じ領域に存在している。このため、本実施形態に係る希土類焼結磁石10は、耐食性を向上させることができると共に、めっきを開始した初期に生じるフラックスの低下を抑制することでNiめっき膜11を形成した後の希土類焼結磁石のフラックスロスを抑制することができる。
<希土類焼結磁石の製造方法>
上述したような構成を有する希土類焼結磁石の好適な製造方法について図面を用いて説明する。本実施形態では、主相系合金の粉末は、R12Fe14B(R1は少なくともNdを含み、Dyを含まない1種類以上の希土類元素を表す)及び不可避不純物を含み、Co及びCuを含まないものである。粒界相系合金の粉末は、R2(R2は少なくともDyを含み、Ndを含まない1種類以上の希土類元素を表す)とFeとCoとCuとを含むものである。主相系合金の粉末と粒界相系合金の粉末とを用いて本実施形態に係る希土類焼結磁石を製造する方法について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、以下の工程を有する。
(a)主相系合金と粒界相系合金とを準備する合金準備工程(ステップS11)
(b)主相系合金と粒界相系合金とを粉砕する粉砕工程(ステップS12)、
(c)主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合する混合工程(ステップS13)
(d)混合した混合粉末を成形する成形工程(ステップS14)
(e)成形体を焼結する焼結工程(ステップS15)
(f)焼結体を時効処理する時効処理工程(ステップS16)
(g)焼結体を冷却する冷却工程(ステップS17)
(h)希土類焼結磁石を研磨する研磨工程(ステップS18)
(i)希土類焼結磁石の表面をめっきするめっき工程(ステップS19)
上述したような構成を有する希土類焼結磁石の好適な製造方法について図面を用いて説明する。本実施形態では、主相系合金の粉末は、R12Fe14B(R1は少なくともNdを含み、Dyを含まない1種類以上の希土類元素を表す)及び不可避不純物を含み、Co及びCuを含まないものである。粒界相系合金の粉末は、R2(R2は少なくともDyを含み、Ndを含まない1種類以上の希土類元素を表す)とFeとCoとCuとを含むものである。主相系合金の粉末と粒界相系合金の粉末とを用いて本実施形態に係る希土類焼結磁石を製造する方法について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、以下の工程を有する。
(a)主相系合金と粒界相系合金とを準備する合金準備工程(ステップS11)
(b)主相系合金と粒界相系合金とを粉砕する粉砕工程(ステップS12)、
(c)主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合する混合工程(ステップS13)
(d)混合した混合粉末を成形する成形工程(ステップS14)
(e)成形体を焼結する焼結工程(ステップS15)
(f)焼結体を時効処理する時効処理工程(ステップS16)
(g)焼結体を冷却する冷却工程(ステップS17)
(h)希土類焼結磁石を研磨する研磨工程(ステップS18)
(i)希土類焼結磁石の表面をめっきするめっき工程(ステップS19)
<合金準備工程:ステップS11>
合金準備工程(ステップS11)は、主相系合金と粒界相系合金とを準備する工程である。合金準備工程(ステップS11)では、原料金属を真空又はArガスなどの不活性ガスの不活性ガス雰囲気中で鋳造して主相系合金及び粒界相系合金を得る。本実施形態では、粒界相系合金は、R2の含有量は25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量は5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量は0.3質量%以上10質量%以下となるように調整する。原料金属としては、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金等を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法は、例えばインゴット鋳造法やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などである。得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理を行う。原料合金の均質化処理を行う際は、真空又は不活性ガス雰囲気の下、700℃以上1500℃以下の温度で1時間以上保持して行う。これにより、希土類磁石用合金は融解されて均質化される。主相系合金及び粒界相系合金が作製された後、粉砕工程(ステップS12)に移行する。
合金準備工程(ステップS11)は、主相系合金と粒界相系合金とを準備する工程である。合金準備工程(ステップS11)では、原料金属を真空又はArガスなどの不活性ガスの不活性ガス雰囲気中で鋳造して主相系合金及び粒界相系合金を得る。本実施形態では、粒界相系合金は、R2の含有量は25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量は5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量は0.3質量%以上10質量%以下となるように調整する。原料金属としては、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金等を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法は、例えばインゴット鋳造法やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などである。得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理を行う。原料合金の均質化処理を行う際は、真空又は不活性ガス雰囲気の下、700℃以上1500℃以下の温度で1時間以上保持して行う。これにより、希土類磁石用合金は融解されて均質化される。主相系合金及び粒界相系合金が作製された後、粉砕工程(ステップS12)に移行する。
<粉砕工程:ステップS12>
粉砕工程(ステップS12)は、主相系合金及び粒界相系合金を別々に粉砕する工程である。粉砕工程(ステップS12)では、主相系合金及び粒界相系合金が作製された後、これらの主相系合金及び粒界相系合金を別々に粉砕する。なお、主相系合金及び粒界相系合金を共に粉砕してもよいが、組成ずれを抑える観点などから別々に粉砕することがより好ましい。粉砕工程(ステップS12)は、粒径が数百μm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程(ステップS12−1)と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程(ステップS12−2)とがある。
粉砕工程(ステップS12)は、主相系合金及び粒界相系合金を別々に粉砕する工程である。粉砕工程(ステップS12)では、主相系合金及び粒界相系合金が作製された後、これらの主相系合金及び粒界相系合金を別々に粉砕する。なお、主相系合金及び粒界相系合金を共に粉砕してもよいが、組成ずれを抑える観点などから別々に粉砕することがより好ましい。粉砕工程(ステップS12)は、粒径が数百μm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程(ステップS12−1)と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程(ステップS12−2)とがある。
(粗粉砕工程:ステップS12−1)
粗粉砕工程(ステップS12−1)では、主相系合金及び粒界相系合金を各々粒径が数百μm程度になるまで粗粉砕する。これにより、主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、主相系合金及び粒界相系合金に水素を吸蔵させた後に水素を放出させ、脱水素を行なうことで主相系合金及び粒界相系合金を粗粉砕する。また、粗粉砕を行なう際は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行うようにしてもよい。
粗粉砕工程(ステップS12−1)では、主相系合金及び粒界相系合金を各々粒径が数百μm程度になるまで粗粉砕する。これにより、主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、主相系合金及び粒界相系合金に水素を吸蔵させた後に水素を放出させ、脱水素を行なうことで主相系合金及び粒界相系合金を粗粉砕する。また、粗粉砕を行なう際は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行うようにしてもよい。
高い磁気特性を得るために、粉砕工程(ステップS12)から焼結工程(ステップS15)までの各工程の雰囲気は低酸素濃度とすることが好ましい。酸素含有量は、各製造工程における雰囲気の制御、原料に含有される酸素量の制御等により調節される。各工程での酸素濃度は3000ppm以下とすることが好ましい。
主相系合金及び粒界相系合金を粗粉砕した後、微粉砕工程(ステップS12−2)に移行し、微粉砕を行なう。
(微粉砕工程:ステップS12−2)
微粉砕工程(ステップS12−2)では、主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を粒径が数μm程度になるまで微粉砕する。これにより、主相系合金及び粒界相系合金の粉砕粉末を得る。微粉砕は、主にジェットミルが用いられ、主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を平均粒径数μm程度になるまで粉砕する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば、N2ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を加速して主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲット又は容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
微粉砕工程(ステップS12−2)では、主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を粒径が数μm程度になるまで微粉砕する。これにより、主相系合金及び粒界相系合金の粉砕粉末を得る。微粉砕は、主にジェットミルが用いられ、主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を平均粒径数μm程度になるまで粉砕する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば、N2ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を加速して主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲット又は容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
主相系合金及び粒界相系合金の粗粉砕粉末を微粉砕する際、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸アミド等の粉砕助剤を添加することにより、成形時に配向性の高い微粉砕粉末を得ることができる。
主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末とした後、混合工程(ステップS13)に移行し、各々の粉末を混合する。
<混合工程:ステップS13>
混合工程(ステップS13)は、主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合する工程である。混合工程(ステップS13)では、主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを低酸素雰囲気で混合する。これにより、混合粉末が得られる。低酸素雰囲気は、例えば、N2ガス、Arガス雰囲気など不活性ガス雰囲気として形成する。主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の配合比率は、質量比で80対20以上97対3以下とするのが好ましく、より好ましくは質量比で90対10以上97対3以下である。
混合工程(ステップS13)は、主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合する工程である。混合工程(ステップS13)では、主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを低酸素雰囲気で混合する。これにより、混合粉末が得られる。低酸素雰囲気は、例えば、N2ガス、Arガス雰囲気など不活性ガス雰囲気として形成する。主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の配合比率は、質量比で80対20以上97対3以下とするのが好ましく、より好ましくは質量比で90対10以上97対3以下である。
また、粉砕工程(ステップS12)において、主相系合金及び粒界相系合金を一緒に粉砕する場合の配合比率も、主相系合金及び粒界相系合金を別々に粉砕する場合と同様に、主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の配合比率は、質量比で80対20以上97対3以下とするのが好ましく、より好ましくは質量比で90対10以上97対3以下である。
主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合した後、成形工程(ステップS14)に移行し、混合粉末を成形する。
<成形工程:ステップS14>
成形工程(ステップS14)は、混合粉末を成形する工程である。成形工程(ステップS14)では、主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の混合粉末を、電磁石に抱かれた金型内に充填し、磁場印加によってその結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。これにより成形体が得られる。得られる成形体は特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有する希土類焼結磁石10が得られる。この磁場中成形は、1.2Tesla以上の磁場中で、0.7t/cm2から1.5t/cm2前後の圧力で行なうことが好ましい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
成形工程(ステップS14)は、混合粉末を成形する工程である。成形工程(ステップS14)では、主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の混合粉末を、電磁石に抱かれた金型内に充填し、磁場印加によってその結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。これにより成形体が得られる。得られる成形体は特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有する希土類焼結磁石10が得られる。この磁場中成形は、1.2Tesla以上の磁場中で、0.7t/cm2から1.5t/cm2前後の圧力で行なうことが好ましい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
成形体は例えばプレス成形などにより目的とする所定形状に成形する。希土類合金粉末を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、用いる金型の形状に応じて、例えば平板状、柱状、断面形状がリング状等、希土類焼結磁石の形状に応じて変更することができる。
また、主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末の混合粉末を目的とする所定の形状に成形する際、磁場を印加して成形して得られる成形体を一定方向に配向させるようにしてもよい。これにより、希土類焼結磁石が特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性希土類焼結磁石が得られる。
混合粉末を成形した後、焼結工程(ステップS15)に移行し、成形体を焼結する。
<焼結工程:ステップS15>
焼結工程(ステップS15)は、成形体を焼結する工程である。磁場中で成形した後、得られた成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、例えば1000℃以上1200℃以下で1時間以上10時間以下焼結する。これにより、焼結体が得られる。成形体を焼結した後、時効処理工程(ステップS16)に移行する。
焼結工程(ステップS15)は、成形体を焼結する工程である。磁場中で成形した後、得られた成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、例えば1000℃以上1200℃以下で1時間以上10時間以下焼結する。これにより、焼結体が得られる。成形体を焼結した後、時効処理工程(ステップS16)に移行する。
<時効処理工程:ステップS16>
時効処理工程(ステップS16)は、焼結体を時効処理する工程である。時効処理工程(ステップS16)では、焼成後、得られた焼結体を焼成時よりも低い温度で保持することなどによって、焼結体に時効処理を施す。時効処理は、例えば、700℃から900℃の温度で1時間から3時間、更に500℃から700℃の温度で1時間から3時間加熱する2段階加熱や、600℃付近の温度で1時間から3時間加熱する1段階加熱等、時効処理を施す回数に応じて適宜処理条件を調整する。このような時効処理によって、焼結体の磁気特性を向上させることができる。
時効処理工程(ステップS16)は、焼結体を時効処理する工程である。時効処理工程(ステップS16)では、焼成後、得られた焼結体を焼成時よりも低い温度で保持することなどによって、焼結体に時効処理を施す。時効処理は、例えば、700℃から900℃の温度で1時間から3時間、更に500℃から700℃の温度で1時間から3時間加熱する2段階加熱や、600℃付近の温度で1時間から3時間加熱する1段階加熱等、時効処理を施す回数に応じて適宜処理条件を調整する。このような時効処理によって、焼結体の磁気特性を向上させることができる。
<冷却工程:ステップS17>
冷却工程(ステップS17)では、焼結体に時効処理を施した後、焼結体はArガスで加圧した状態で急冷を行う。これにより、本実施形態に係る希土類焼結磁石を得ることができる。冷却速度は、特に限定されるものではなく、30℃/min以上とするのが好ましい。
冷却工程(ステップS17)では、焼結体に時効処理を施した後、焼結体はArガスで加圧した状態で急冷を行う。これにより、本実施形態に係る希土類焼結磁石を得ることができる。冷却速度は、特に限定されるものではなく、30℃/min以上とするのが好ましい。
<研磨工程:ステップS18>
研磨工程(ステップS18)では、得られた実施形態に係る希土類焼結磁石はボールミルを用いて2時間程度バレル研磨を行い、角取りを行なう。また、得られた希土類焼結磁石は、所望のサイズに切断したり、表面を平滑化することで、所定形状の希土類焼結磁石としてもよい。
研磨工程(ステップS18)では、得られた実施形態に係る希土類焼結磁石はボールミルを用いて2時間程度バレル研磨を行い、角取りを行なう。また、得られた希土類焼結磁石は、所望のサイズに切断したり、表面を平滑化することで、所定形状の希土類焼結磁石としてもよい。
<めっき工程:ステップS19>
めっき工程(ステップS19)では、研磨工程(ステップS18)において希土類焼結磁石を研磨した後、硝酸を用いて所定時間、実施形態に係る希土類焼結磁石の表面をエッチングする。その後、Niめっきを行い、実施形態に係る希土類焼結磁石の表面にNiめっき膜を形成する。
めっき工程(ステップS19)では、研磨工程(ステップS18)において希土類焼結磁石を研磨した後、硝酸を用いて所定時間、実施形態に係る希土類焼結磁石の表面をエッチングする。その後、Niめっきを行い、実施形態に係る希土類焼結磁石の表面にNiめっき膜を形成する。
以上のようにして、得られる本実施形態に係る希土類焼結磁石は、Coが0.3質量%以上3.0質量%以下であり、Cuが0.02質量%以上0.5質量%以下の組成を有する粒界相を有する。粒界相には、NdとCoとCuとが略同じ領域に存在している。このため、本実施形態に係る希土類焼結磁石は、耐食性を向上させることができると共に、めっき液によりNdとCoとCuなど粒界相成分が腐食して水素を吸蔵するのを抑制することができると考えられるため、めっきを開始した初期に生じるフラックスの低下を抑制することができる。このため、本実施形態に係る希土類焼結磁石の表面にNiめっき膜を形成する際でも、得られた希土類焼結磁石のフラックスロスが抑制できる。この結果、Niめっき膜によるめっき皮膜厚ロスを低減でき、高い磁気特性を有する希土類焼結磁石を製造することができる。
希土類焼結磁石に含有されるCの量は、製造工程で用いられる粉砕助剤の種類及び添加量等により調節する。さらに、希土類焼結磁石に含有されるNの量は、原料合金の種類及び量や、原料合金を窒素雰囲気で粉砕する場合の粉砕条件等により調節する。
主相系合金及び粒界相系合金の粉砕は、主相系合金及び粒界相系合金に水素を吸蔵させた後、水素を放出させて粗粉砕するようにしているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、いわゆる水素化分解・脱水素再結合(HDDR:Hydrogenation Decomposition Desorption Recombination)法を用いて主相系合金及び粒界相系合金を粉砕して主相系合金粉末と粒界相系合金粉末を得るようにしてもよい。HDDR法は、水素中で原料(出発合金)を加熱することにより、原料を水素化・分解(HD:Hydrogenation Decomposition)し、その後、脱水素・再結合(DR:Desorption Recombination)させることにより、結晶を微細化させる方法である。
以上、本実施形態に係る希土類焼結磁石の好適な実施形態について説明したが、本実施形態に係る希土類焼結磁石はこれに制限されるものではない。本実施形態に係る希土類焼結磁石は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形、種々の組み合わせが可能であり、永久磁石以外についても同様に適用することができる。
本発明の内容を実施例及び比較例を用いて以下に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
ストリップキャスト法により表1に示す組成を有する主相系合金1及び粒界相系合金1を作製した。
ストリップキャスト法により表1に示す組成を有する主相系合金1及び粒界相系合金1を作製した。
主相系合金1及び粒界相系合金1からなる混合物に室温で水素吸蔵処理を施した後に、Ar雰囲気中で600℃で1時間、脱水素処理を行って主相系合金1及び粒界相系合金1を粗粉砕した。粗粉砕した主相系合金1及び粒界相系合金1に、粉砕助剤としてオレイン酸アミドを0.1wt%添加し、ジェットミルにて微粉砕を行って平均粒径が4.0μm程度の微粉を得た。得られた主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末を、質量比が95対5となるように低酸素雰囲気で混合し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を、印加磁場が1.5Tesla、成形圧力が1.2ton/cm2として磁場中で成形し、成形体を得た。得られた成形体は、真空中において1040℃で4時間保持し、焼結した。その後、Ar雰囲気中で時効処理を行って熱処理を行い焼結体を得た。時効処理は2段階で行った。800℃で1時間保持した後、550℃で1時間保持して行った。Ar雰囲気中で焼結後の時効処理の1段目までの降温過程(1040〜800℃)における冷却速度は50℃/minとした。時効処理の1段目から2段目の時効処理まで降温過程(800〜550℃)の冷却速度を50℃/minとした。
時効処理して得られた希土類焼結磁石にボールミルを用いて2時間バレル研磨を行い角取りを行った。その後、硝酸にて所望の時間エッチングを行った後、Niめっきを行った。
<実施例2、3、比較例1、2>
実施例2、3、比較例1、2は、実施例1に用いた主相系合金1及び粒界相系合金1の組成を変えた主相系合金2から5及び粒界相系合金2から5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして行なって、希土類焼結体を得た。主相系合金2及び粒界相系合金2の組成とその質量比とを表2に示し、主相系合金3及び粒界相系合金3の組成とその質量比とを表3に示し、主相系合金4及び粒界相系合金4の組成とその質量比とを表4に示し、主相系合金5及び粒界相系合金5の組成とその質量比とを表5に示す。
実施例2、3、比較例1、2は、実施例1に用いた主相系合金1及び粒界相系合金1の組成を変えた主相系合金2から5及び粒界相系合金2から5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして行なって、希土類焼結体を得た。主相系合金2及び粒界相系合金2の組成とその質量比とを表2に示し、主相系合金3及び粒界相系合金3の組成とその質量比とを表3に示し、主相系合金4及び粒界相系合金4の組成とその質量比とを表4に示し、主相系合金5及び粒界相系合金5の組成とその質量比とを表5に示す。
[フラックスロスの評価]
Niめっきを施した希土類焼結磁石とエッチングのみ行った希土類焼結磁石にパルス着磁を行い、磁束測定器を用いてコイルの巻き数250としてオープンフラックス測定を行なった。エッチングのみを行なった希土類焼結磁石のフラックス値を基準として、Niめっきを施した希土類焼結磁石のフラックス値の低下の割合を測定した。なお、上記のように、Niめっきを施す前後におけるフラックスの値の差をフラックスロスという。図3、4は、フラックスの測定結果を示す図である。図3、4に示すように、希土類焼結磁石に対して両面で約4μm程度の膜厚のNiめっきを施した時の両面でのめっき皮膜厚ロスは、1.6%程度であった。このとき、希土類焼結磁石に対して両面で約20μm程度の膜厚のNiめっきを施した場合には、比較例1、2では、フラックスロスは約4%から5%程度であった。これに対し、実施例1から3では、フラックスロスは約3%から4%程度までに抑えられていた。よって、本実施形態に係る希土類焼結磁石を用いれば、フラックスロスを抑制することができることが確認された。
Niめっきを施した希土類焼結磁石とエッチングのみ行った希土類焼結磁石にパルス着磁を行い、磁束測定器を用いてコイルの巻き数250としてオープンフラックス測定を行なった。エッチングのみを行なった希土類焼結磁石のフラックス値を基準として、Niめっきを施した希土類焼結磁石のフラックス値の低下の割合を測定した。なお、上記のように、Niめっきを施す前後におけるフラックスの値の差をフラックスロスという。図3、4は、フラックスの測定結果を示す図である。図3、4に示すように、希土類焼結磁石に対して両面で約4μm程度の膜厚のNiめっきを施した時の両面でのめっき皮膜厚ロスは、1.6%程度であった。このとき、希土類焼結磁石に対して両面で約20μm程度の膜厚のNiめっきを施した場合には、比較例1、2では、フラックスロスは約4%から5%程度であった。これに対し、実施例1から3では、フラックスロスは約3%から4%程度までに抑えられていた。よって、本実施形態に係る希土類焼結磁石を用いれば、フラックスロスを抑制することができることが確認された。
[耐食性の評価]
Niめっきを施さずエッチングのみを行った希土類焼結磁石を試料とした。この試料をプレッシャークッカー試験(Unsaturated Press. Test;PCT)試験機を用いて120℃、2atm、100%RHの条件下で腐食させ、希土類焼結磁石の表面の腐食物を除去し、希土類焼結磁石の単位面積当たりの質量減少率を求めた。図5、6は、PCT試験機を用いて行なった耐食性の測定結果を示す図である。図5、6に示すように、比較例1、2に比べ実施例1から3の質量変化は小さかった。よって、粒界相にCo及びCuの含有量を増量することで、希土類焼結磁石の耐食性を向上させるのに寄与していることが確認された。
Niめっきを施さずエッチングのみを行った希土類焼結磁石を試料とした。この試料をプレッシャークッカー試験(Unsaturated Press. Test;PCT)試験機を用いて120℃、2atm、100%RHの条件下で腐食させ、希土類焼結磁石の表面の腐食物を除去し、希土類焼結磁石の単位面積当たりの質量減少率を求めた。図5、6は、PCT試験機を用いて行なった耐食性の測定結果を示す図である。図5、6に示すように、比較例1、2に比べ実施例1から3の質量変化は小さかった。よって、粒界相にCo及びCuの含有量を増量することで、希土類焼結磁石の耐食性を向上させるのに寄与していることが確認された。
[元素マッピング]
実施例による希土類焼結体及び比較例による希土類焼結磁石は、組成及び基本的な製造方法が一致しているにも関わらず、フラックスロス及び耐食性に差異が見られた。実施例1から3の希土類焼結磁石及び比較例1、2の希土類焼結磁石の組織をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により観察し、EPMAによる元素マッピングを行なった。図7は、実施例1の希土類焼結磁石のCuのEPMAによる観察結果である。図8は、実施例1の希土類焼結磁石のCoのEPMAによる観察結果である。図9は、比較例1の希土類焼結体のCuのEPMAによる観察結果である。図10は、比較例1の希土類焼結体のCoのEPMAによる観察結果である。図7から図10に示すように、CuとCoとのに濃度分布がある。図7から図10において、白色の部分ほど当該元素の濃度が高いことを示しているが、一般に主相には濃度分布がほとんど存在しないことから、この白色の濃度の高い領域は粒界相に該当すると解される。
実施例による希土類焼結体及び比較例による希土類焼結磁石は、組成及び基本的な製造方法が一致しているにも関わらず、フラックスロス及び耐食性に差異が見られた。実施例1から3の希土類焼結磁石及び比較例1、2の希土類焼結磁石の組織をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により観察し、EPMAによる元素マッピングを行なった。図7は、実施例1の希土類焼結磁石のCuのEPMAによる観察結果である。図8は、実施例1の希土類焼結磁石のCoのEPMAによる観察結果である。図9は、比較例1の希土類焼結体のCuのEPMAによる観察結果である。図10は、比較例1の希土類焼結体のCoのEPMAによる観察結果である。図7から図10に示すように、CuとCoとのに濃度分布がある。図7から図10において、白色の部分ほど当該元素の濃度が高いことを示しているが、一般に主相には濃度分布がほとんど存在しないことから、この白色の濃度の高い領域は粒界相に該当すると解される。
Cu、Co及びNdの高濃度領域の存在位置を確認するため、図7から図10のEPMAによる観察と同等の位置における実施例1及び比較例1のCuとCoの高濃度領域を模写した。図11は、実施例1に係る希土類焼結磁石のCo及びCuのEPMAによる観察結果を模式的に示す図であり、図12は、比較例1に係る希土類焼結磁石のCo及びCuのEPMAによる観察結果を模式的に示す図である。図11、12中、Cuの高濃度領域は赤色で塗りつぶして示す。また、Coの高濃度領域は白抜きで示す。
Ndの高濃度領域の存在位置を確認するため、図7から図10のEPMAによる観察と同等の位置における実施例1及び比較例1の希土類焼結体のNdとCuとの高濃度領域を模写した。図13は、実施例1に係る希土類焼結磁石のNd及びCuのEPMAによる観察結果を模式的に示す図であり、図14は、比較例1に係る希土類焼結磁石のNd及びCuのEPMAによる観察結果を模式的に示す図である。図13、14に示すように、EPMA元素マッピングから、Ndの高濃度領域とCoの高濃度領域とCuの高濃度領域とが類似した分布を示した。
図11から図14に示すように、Coの高濃度領域とCuの高濃度領域とがほとんど一致していたことが明らかになった。また、Ndの高濃度領域とCuの高濃度領域とがほとんど一致していたことが明らかになった。よって、Coの高濃度領域とCuの高濃度領域とNdの高濃度領域とがほぼ一致しているといえる。これらはNdに富む粒界相に存在しているが確認された。また、図11に示すように、Coの高濃度領域とCuの高濃度領域との位置が一致した面積は約90%程度であった。一方、図12に示すように、Coの高濃度領域とCuの高濃度領域とが部分的に各々単独で存在している領域があることがわかった。また、Ndの高濃度領域とCuの高濃度領域とも部分的に各々単独で存在している領域があることがわかった。また、Coの高濃度領域とCuの高濃度領域との位置が一致した面積は約50%程度であった。このように、粒界相において、Ndの高濃度領域とCuの高濃度領域とCoの高濃度領域とが一致しているか否かが希土類焼結磁石の耐食性及びフラックスの低下に影響するものと解される。
このように、粒界相にNdとCoとCuとが略同じ領域に存在するため、耐食性を向上させることができると共に、めっきを開始した初期に生じるフラックスの低下を抑制することができる。従って、本実施形態に係る希土類焼結磁石によれば、耐食性が向上すると共に、フラックスロスが抑制された希土類焼結磁石を製造することができることが判明した。
以上のように、本発明に係る希土類焼結磁石の製造方法及び希土類焼結磁石は、耐食性が向上すると共に、フラックスロスが抑制されるので、HDDヘッド駆動用VCM、電気自動車やハイブリッドカーなどのモータ用の永久磁石として好適に用いることができる。
10 希土類焼結磁石
11 Niめっき膜
A 希土類焼結磁石の厚さ
B Niめっき膜の厚さ
C 実際の製品の厚さ
X めっき皮膜厚ロス
11 Niめっき膜
A 希土類焼結磁石の厚さ
B Niめっき膜の厚さ
C 実際の製品の厚さ
X めっき皮膜厚ロス
Claims (3)
- R2T14B(RはNdを含む1種類以上の希土類元素を表し、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を表し、BはB又はB及びCを表す)化合物を含む主相と、前記R2T14B化合物よりNdが多く、Co及びCuを含む粒界相とを有する希土類焼結磁石を製造するにあたり、
R12Fe14B(R1は少なくともNdを含み、Dyを含まない1種類以上の希土類元素を表す)及び不可避不純物を含み、かつCo及びCuを含まない主相系合金の粉末と、R2(R2は少なくともDyを含み、Ndを含まない1種類以上の希土類元素を表す)とFeとCoとCuとを含み、R2の含有量が25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量が0.3質量%以上10質量%以下である粒界相系合金の粉末とを混合し、混合物を得る混合物作製工程と、
前記混合物を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結し、焼結体を得る焼結工程と、
を含み、
最終組成としてCoを0.6質量%以上3.0質量%以下、Cuを0.05質量%以上0.5質量%以下含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。 - 粒界相は、Coに富む領域とCuに富む領域との両方が一致している面積が60%以上である請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
- R12Fe14B(R1は少なくともNdを含み、Dyを含まない1種類以上の希土類元素を表す)及び不可避不純物を含み、かつCo及びCuを含まない主相系合金の粉末と、R2(R2は少なくともDyを含み、Ndを含まない1種類以上の希土類元素を表す)とFeとCoとCuとを含み、R2の含有量が25質量%以上50質量%以下であり、Coの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、Cuの含有量が0.3質量%以上10質量%以下である粒界相系合金の粉末とを混合し、焼結することにより得られ、
R2T14B(RはNdを含む1種類以上の希土類元素を表し、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素を表し、BはB又はB及びCを表す)化合物を含む主相と、前記R2T14B化合物よりNdが多く、Co及びCuを含む粒界相とを有し、
最終組成としてCoを0.6質量%以上3.0質量%以下、Cuを0.05質量%以上0.5質量%以下含むことを特徴とする希土類焼結磁石。
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