JP2010221670A - インクジェット記録方式の印刷方法及び印刷装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】インク非吸収性等の記録媒体に、水性インクセットを用いたインクジェット記録方式により画像を形成する印刷方法であって、(1)前記水性インクセットは、着色剤を含む色インクと、着色剤を含まない樹脂インクとを備え、(2)前記色インクは、水不溶性の前記着色剤と、樹脂成分とを含み、(3)前記樹脂インクは、水溶性樹脂溶剤と、水には不溶であるが当該水溶性樹脂溶剤には相溶し、特定の粒径とガラス転移温度を有する樹脂粒子と、特定融点のワックスとを含み、(4)前記樹脂インクの表面張力が、前記色インクより高く、(5)色インクで記録する工程の後に、樹脂インクで記録する工程を含み、(6)乾燥工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
Description
乾燥後のインクの耐擦性を高めるためには、インク中の着色剤や樹脂成分の量を増大させればよいが、この場合には、インク粘度が高くなり、高速印刷において吐出安定性を確保することが難しくなる。また、インクジェットヘッドの目詰まりが起こりやすくなる。このため、高速印刷やインクジェットヘッドの目詰まり防止を考慮すると、インク中に添加する着色剤や樹脂成分の量には限界がある。
本実施形態では、印刷対象となる記録媒体は、インク非吸収性および低吸収性の記録媒体である。インク非吸収性および低吸収性の記録媒体とは、インクの吸収層を備えていない、あるいは、インクの吸収層が乏しい記録媒体をいう。より定量的には、インク非吸収性および低吸収性の記録媒体とは、印字面が、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。インク非吸収性の記録媒体として、例えば、インクジェット印刷用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。インク低吸収性の記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙等が挙げられる。
本実施形態に係る印刷方法に用いる水性インクセットは、着色剤を含む色インクと、着色剤を含まない樹脂インクを備える。色インクとは、記録媒体にカラー及びモノクロの画像を形成するためのインクである。さらに、樹脂インクとは、前述の色インクの印刷前、印刷中の同時、あるいは印刷後に印刷して、主に印刷物に耐擦性を付与する目的に使われる。以下、各インクについて説明する。
上述したように、色インクは、少なくとも水不溶性の着色剤、水溶性および/または非水溶性の樹脂成分、水溶性溶剤、界面活性剤を含んでいる。次に、色インクを構成する各成分について説明する。
水不溶性の着色剤は、水不溶性の染料または顔料が挙げられるが、顔料であることが好ましい。顔料を用いたインクで印刷した印刷物は、耐水性、耐ガス性、耐光性等の保存性に優れるからである。顔料として、公知の無機顔料、有機顔料およびカーボンブラックのいずれも用いることができる。これらの中でも、発色が良好であって、比重が小さいために分散時に沈降しにくい観点から、カーボンブラック、有機顔料が好ましい。
カーボンブラックの具体例としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、市販品として、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA77、MA100、No2200B等(以上全て商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上全て商品名、デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上全て商品名、キャボット社製)が挙げられる。なお、これらは本発明に好適なカーボンブラックの一例の記載であり、これらによって本発明が限定されるものでは無い。これらのカーボンブラックは単独あるいは二種類以上の混合物として用いてよい。
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料またはアゾ系顔料等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては下記のものが挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、及び180からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
このようなオレンジインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ36もしくは43またはこれらの混合物である。
グリーンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7もしくは36またはこれらの混合物である。
また、これらの顔料は各色のインク全量に対して、固形分量で0.5質量%〜15質量%程度、好ましくは2質量%〜10質量%程度含有してなる。
樹脂成分として、上記の顔料を水性媒体中で分散させるための分散剤を含むことが好ましい。また、好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。
分散剤の好ましい例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体が挙げられ、好ましい分散剤としては、インク中に添加された溶剤等に容易に溶解し難いものが良く、例えば、親水基の末端がアクリル酸であるものより、エステル化された方が好ましい。
これらの共重合体は重量平均分子量が3,000〜50,000程度であるのが好ましく、より好ましくは5,000〜30,000程度である。
分散剤の添加量は、顔料を安定に分散させ、本発明による他の効果を失わない範囲で適宜添加されて良い。
また、色インクが、樹脂成分として熱可塑性樹脂粒子およびワックスを含む場合には、樹脂インクに含まれるものと同じ熱可塑性樹脂粒子およびワックスを含むことが好ましい。このように、樹脂インクに含まれるものと同じ熱可塑性樹脂粒子およびワックスを含むことにより、樹脂成分同士の相性が良好となることから、色インクと樹脂インクの界面での剥離が生じることを防止できる。
水溶性溶剤は、後述する界面活性剤と相乗して、記録媒体に対する色インクの濡れ性を高めて均一に濡らす作用を有する。そのため、色インクに水溶性溶剤を含有させることは、インクの印刷ムラや滲みを低減することができるため、好ましい。このような水溶性溶剤としては、1価アルコール、または多価アルコールおよびその誘導体が挙げられる。
1価アルコールとしては、特に炭素数1〜4の1価アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、またはn−ブタノールなどを用いることができる。
多価アルコールおよびその誘導体としては、炭素数2〜6の2価〜5価アルコール、およびそれらと炭素数1〜4の低級アルコールとの完全または部分エーテルを用いることができる。ここで多価アルコール誘導体とは、少なくとも1個のヒドロキシル基がエーテル化されたアルコール誘導体であり、エーテル化されたヒドロキシル基を含まない多価アルコールそれ自体を意味するものではない。
これらの多価アルコールおよびそれらの低級アルキルエーテルの具体例としては、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,3−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,3−オクタンジオール、1,2−ペンタンジオール等のジオール類、モノ、ジ若しくはトリエチレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテル、モノ、ジ若しくはトリプロピレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテルが挙げられ、好ましくは1,2−ヘキサンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、またはプロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。
水溶性溶剤の含有量は、例えば、各色のインク全量に対して0.5質量%〜15.0質量%、好ましくは、1.0質量%〜8.0質量%である。
界面活性剤は、上述した水溶性溶剤と相乗して、記録媒体に対する色インクの濡れ性を高めて均一に濡らす作用を有する。界面活性剤としては、シリコン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
シリコン系界面活性剤は、記録媒体上でインクの印刷ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有する。
シリコン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。例えば、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられ、BYK−348が好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、82、DF37、DF110D、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられ、サーフィノール104PG−50、DF110Dが好ましい。
特に好ましくは、シリコン系界面活性剤とHLB値が6以下のアセチレングリコール系界面活性剤とを同時に含む組み合わせである。
上述の水溶性溶剤と界面活性剤を組み合わせて、色インクの表面張力を20.0mN/m〜35.0mN/mの範囲で用いることが好ましく、より好ましくは25.0mN/m〜30.0mN/mの範囲である。表面張力は、たとえば、CBVP−Z型(協和界面科学社製)を使用して測定することができる。
水は、水性インクの主な媒体であり、好ましい水は、イオン性の不純物を極力低減することを目的として、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。また、紫外線照射、又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、顔料分散液及びこれを用いた水性インクを長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
さらに必要に応じて添加するものとして、水溶性樹脂溶剤、保湿剤、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、金属トラップ剤などがあげられる。水溶性樹脂溶剤については、樹脂インクの項で説明する。
保湿剤としては、乾燥時に塗膜中に残留しないものが好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、2,3−ブタンジオール等が挙げられる。
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などが挙げられる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モルホリン、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。
溶解助剤としては、尿素、チオ尿素、ジメチル尿素、テトラエチル尿素、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類などがあげられる。
金属トラップ剤としては、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウムなどがあげられる。
樹脂インクは、水溶性樹脂溶剤と、樹脂成分として、水には不溶であるが前記水溶性樹脂溶剤には相溶する熱可塑性の樹脂粒子およびワックスを含んでいる。相溶とは、樹脂溶剤中に樹脂粒子を混ぜると溶解あるいは粒子が膨潤する組み合わせを指す。以下、各成分について説明する。
水溶性樹脂溶剤は、樹脂インクに同時に添加している樹脂粒子と相溶する水溶性溶剤から選ばれる。用いる樹脂によって最適な組み合わせはあるが、例えば、水溶性の複素環式化合物、水溶性のアルキレングリコールアルキルエーテル等が好ましく、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン類、ジメチルスルホキシド、ε−カプロラクタム、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、1,4−ジオキサン等が好ましい。特に、樹脂インクの保存安定性、十分な乾燥速度、と樹脂粒子の皮膜化促進の点で、ピロリドン類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類が特に好ましい。
水溶性樹脂溶剤添加量は、樹脂インクの全量に対して、好ましくは1.0質量%〜20.0質量%、さらに好ましくは2.0質量%〜15.0質量%である。水溶性樹脂溶剤添加量が、1質量%未満である場合、樹脂インク中の樹脂粒子の皮膜形成に支障が生じ、結果的に樹脂インクの固化・定着が不充分となる場合がある。一方、水溶性樹脂溶剤添加量が20質量%を超えた場合、樹脂インクの保存安定性に劣化を生じる場合がある。
熱可塑性樹脂粒子は、水溶性樹脂溶剤と相溶することで、樹脂インクの乾燥後に強固な樹脂膜を形成することができ、かつ樹脂粒子の元々のガラス転移温度より低い温度で造膜することができる。水に不要な樹脂粒子を用いることで、樹脂インク中に十分な量の樹脂成分を添加しつつ、各インクの粘度を低く抑えることができ、高速印刷において吐出安定性を確保することができるため好ましい。
熱可塑性樹脂粒子は、通常の保存状態(室温)では、インク中で水溶性樹脂溶剤に溶解することなく、存在していると考えられる。すなわち、インク中の半分以上の主成分は水であり、水溶性樹脂溶剤の添加量は20質量%以下と薄い為、熱可塑性樹脂粒子と水溶性樹脂溶剤がインク中で共存しても、熱可塑性樹脂粒子が直ぐに溶解状態になることはない。しかしながら、インクが、記録媒体上にインクジェットヘッドから吐出され、乾燥されると、まずインク中の主成分である水が蒸発しはじめ、その結果インク中での水溶性樹脂溶剤が濃縮されることで、熱可塑性樹脂粒子が溶解状態となる。次に水が全て蒸発すると、次に蒸発しやすい、溶剤成分が蒸発し始め、溶解していた熱可塑性樹脂粒子(溶解しているため、粒子ではなくなっている)が、水溶性樹脂溶剤が蒸発とともに、今度は強固な皮膜を形成して固化する。最終的に記録媒体上に固形分である着色成分とそれを覆うように皮膜化した熱可塑性樹脂粒子等の固形分のみが存在することとなる。
樹脂をエマルジョンの状態で得る場合には、樹脂粒子を場合により界面活性剤と共に水に混合することによって調製することができる。例えば、アクリル系樹脂またはスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルの樹脂又はスチレン−(メタ)アクリル酸エステルの樹脂と、場合により(メタ)アクリル酸樹脂と、界面活性剤とを水に混合することによって得ることができる。樹脂成分と界面活性剤との混合の割合は、通常50:1〜5:1程度とするのが好ましい。界面活性剤の使用量が前記範囲に満たない場合には、エマルジョンが形成されにくく、また前記範囲を越える場合には、インクの耐水性が低下したり、密着性が悪化する傾向があるので好ましくない。
また、熱可塑性樹脂粒子のガラス転移温度は、40℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上である。このような熱可塑性樹脂粒子であれば、乾燥後のインクは、通常の使用範囲では強固な被膜を維持することができ、インク膜の耐擦性を向上させることができる。一方、転移温度が室温以下の場合、乾燥後の印字画像の耐擦性が不十分なものとなり、しかもインクジェットヘッドのノズル詰まりが発生しやすくなる。特に本発明の印刷方法では、インク非吸収性の記録媒体に印刷するため、インクの速乾性が向上しており、ガラス転移温度が室温以下の樹脂の場合は実使用での目詰まり性が課題となる。
ワックスは、乾燥後のインク膜表面の摩擦抵抗を低減する特性を有する。このようなワックスを構成する成分としては、例えばカルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α−オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。この中で好ましいワックスの種類としては、ポリオレフィンワックス、特にポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスであり、さらには、インク非吸収性又は低吸収性の記録媒体に対する耐擦性の観点から、ポリエチレンワックスがより好ましい。ワックスとしては市販品をそのまま利用することもでき、例えばノプコートPEM17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
また、ワックスの融点温度は、90℃より高いことが好ましく、より好ましくは100℃以上であり、さらに好ましくは130℃以上である。ワックスの融点が90℃以下になると印刷物の耐擦性向上効果が低下する。その理由は明確ではないが、融点が低いと擦れや接触により発生する熱によりワックスが溶解してしまい、オーバーコート層としての効果が低下するためと考えられる。
その他の成分として、樹脂インクは、必要に応じて、水溶性溶剤や、界面活性剤を含む。水溶性溶剤および界面活性剤の種類については、色インクで使用されるものと同様のものを用いることができる。ここで、樹脂インクについても、界面活性剤として、シリコン系界面活性剤と、HLB値が6以下のアセチレングリコール系界面活性剤とを含むことが好ましい。シリコン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤を併用することで、非吸収性から低吸収性の幅広い記録媒体に対して同様にインクを濡らすことができ、印刷ムラ等の少ない印刷物を得ることができる。これらの各成分については、色インクで説明したものと同様の材料が採用される。これらの添加量は、記録媒体やインクの種類に応じて適宜調整できる。
また、樹脂インクは、色インクと同様に、主な媒体として水を含む。さらに必要に応じて添加するものとして、保湿剤、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、金属トラップ剤などがあげられる。これらの材料については、色インクで説明したものと同様の材料を適用できる。
樹脂インクの表面張力は色インクより高く、かつ、20.0mN/m〜35.0mN/mの範囲で用いることが好ましく、より好ましくは25.0mN/m〜30.0mN/mの範囲である。
本実施形態に係る印刷方法は、インクジェット記録方式を用いて、記録媒体に色インクと樹脂インクとを印字する工程を含んでなるものである。
印刷工程では、色インクを記録媒体上に印刷した後に、色インク上に樹脂インクが印刷される。色インクを印刷した後に、色インク上に樹脂インクを印刷することにより、印刷面の表面側に樹脂インクの成分が多く含まれることとなり、印刷面の耐擦性を上げることができる。
インクジェット記録方法を用いることにより、色インクを付着させる場所にのみ選択的に樹脂インクを付着させることができ、樹脂インクの消費量を必要最小限に抑えることができる。また、紙面全体に大量の樹脂インクを付着させてしまう場合に乾燥後に観察されるカールの発生を抑制できる。
例えば、各色あたりの印刷解像度が360dpi(ドットパーインチ)以上で、印刷解像度に対するインクジェットノズルの解像度比が1倍から2倍の範囲であり、インク粘度が1.5mPa・s〜15mPa・s(20℃)である。高画質を得るためには360dpi以上の高い印刷解像度が望ましく、かつ印刷解像度に対するインクジェットノズルの解像度比が1倍から2倍の範囲であれば高速に印刷することができ、さらにインクタンクからヘッドに安定にインク供給するためにはインク粘度は1.5mPa・s〜15mPa・s(20℃)であることが好ましい。例えば、360dpiのノズル解像度の場合は、360dpi〜720dpiで印刷する場合は、上述の要件が好ましい。
例えば、樹脂インクおよびインク組成物の20℃における粘度は1.5mPa・s〜15mPa・sの範囲にあるのが好ましく、より好ましくは1.5mPa・s〜10mPa・sの範囲である。また、好適には樹脂インクとインク組成物との粘度をほぼ等しいものとする。例えば一方の粘度が他方の粘度の50%〜200%となるようにする。これによって、樹脂インクおよびインク組成物を共にインクジェット記録ヘッドから吐出する場合、記録ヘッド、流路構造、および駆動回路を同一のものとすることができる点で有利である。
さらにまた、乾燥時の加熱により、色インクや樹脂インクに含まれる樹脂粒子の融着を促し、優れた皮膜を形成することが可能となって、記録物の耐擦性がより一層向上する。加熱温度は、色インク及び樹脂インク中に存在する液媒体が蒸発し、かつ樹脂剤の皮膜を形成することができれば特に制限はないが、40℃以上であればその効果が得られ、40℃〜150℃程度が好ましく、より好ましくは、40℃〜80℃程度である。温度が100℃を超えてくると、記録媒体が変形等を生じ搬送に不具合を生じたりする場合があり、また、インクジェットヘッドのノズル近傍のインクが熱の影響を受け、水が蒸発してインク中の水溶性樹脂溶剤が濃縮されると、ノズル近傍のインク中に存在する熱可塑性樹脂粒子が溶解、乾燥固化するため、ヘッドのノズル詰まり等の不具合が頻発するようになる。
なお、乾燥/加熱時間は、色インク及び樹脂インク中に存在する液媒体が蒸発し、かつ樹脂剤の皮膜を形成することができれば特に制限はなく、用いる液媒体種・樹脂種・印刷速度を加味して適宜設定することができる。
(色インク)
表1に示す配合量(色インクの全質量に対する各成分の質量%)で各構成成分を配合して、色インクセットA1を得た。
また、表2に示す配合量(樹脂インクの全質量に対する各成分の質量%)で各構成成分を配合して、樹脂インクB1〜B14を得た。
そして、表1に示す色インクセットA1と、表2に示す樹脂インクB1〜B14のいずれかを備えるインクセットを用意し、表3に示す条件(実施例1〜実施例8、比較例1〜比較例6)でインクジェット法にて印刷した。本実施例では、インク非吸収性の記録媒体として、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルムおよびポリ塩化ビニルからなるフィルムを用い、インク低吸収性の記録媒体として、紙ベースのものを用いた。この3種類の記録媒体に対して、紙案内部にヒーターを取り付けて40℃に調整したインクジェットプリンターPX−G930(商品名、セイコーエプソン株式会社製、ノズル解像度180dpi)を用い、表3に記載のインクセットを用いて印刷解像度360dpiにてパッチや画像を印刷した。印刷はまず、色インクのみの印刷データをプリンターに送信し、記録媒体に対してパッチや画像を印刷し、その後、樹脂インクの印刷データをプリンターに送信することで、色インクの印刷領域に対して樹脂インクをベタ印刷した。
(耐摩耗性評価)
乾燥後の印刷メディアを学振型摩耗堅牢度試験機AB−301(商品名、テスター産業株式会社製)にセットし、接触部に白綿布(JIS L 0803準拠)を取り付けた摩擦子(荷重;300g)にて50回擦ることで、耐摩耗性評価を実施した。以下の判断基準で評価した。
A:画像印刷メディアに摩擦によるの画像の乱れがなく、また白綿布にも記録画像から転写された汚れもない。
B:画像印刷メディアに摩擦による画像の乱れは確認できないが、白綿布には記録画像から転写した汚れが若干視認される。
C:画像印刷メディアの非印刷部分に若干の地汚れが視認され、白綿布にも記録画像から転写された汚れが視認できる。
D:画像印刷メディアの非印刷部分に明らかに地汚れ視認され、白綿布も記録画像との接触により汚れている。
※時汚れ:紙の非印刷部にインキがつくことで、耐摩擦性評価により、印刷部分がこすられてその表面が削られ、非印刷部分にこすりつけられることにより発生する。
インクジェットプリンターPX−G930(商品名、セイコーエプソン株式会社製、ノズル解像度180dpi)を用い、各インクを充填してすべてのノズルからインクが吐出可能であることを確認した。次に停電等の突発事故でプリンターが停止した状態を想定して、プリンターが動作している途中で電源コードを外し、インクジェットヘッドがヘッドキャップから外れた状態でプリンターを停止させ、40℃/20%Rhの環境で24時間放置した後、再度プリンターの電源を入れて、インクの吐出状況を確認評価した。評価基準は以下の通りである。
A:プリンターの電源を投入した初期動作後、問題なく全てのノズルからインクが吐出可能である。
B:プリンターの電源を投入した初期動作の直後は吐出しないノズルが存在する。数回のヘッドクリーニング動作により全てのノズルからインクが吐出可能となる。
C:プリンターの電源を投入した初期動作の直後は吐出しないノズルが存在する。数回から10回のクリーニング動作により全てのノズルからインクが吐出可能となる。
D:プリンターの電源を投入した初期動作の直後は吐出しないノズルが存在する。10回以上のクリーニング動作を実施しても全てのノズルからはインク吐出が不可。
Claims (4)
- インク非吸収性および/または低吸収性の記録媒体に、水性インクセットを用いたインクジェット記録方式により画像を形成する印刷方法であって、
(1)前記水性インクセットは、着色剤を含む色インクと、着色剤を含まない樹脂インクとを備え、
(2)前記色インクは、水不溶性の前記着色剤と、樹脂成分と、水溶性溶剤と、界面活性剤とを含み、
(3)前記樹脂インクは、水溶性樹脂溶剤と、樹脂成分とを含み、当該樹脂成分は、水には不溶であるが当該水溶性樹脂溶剤には相溶し、粒子径が30nm以上100nm以下で、ガラス転移温度が40℃以上である熱可塑性の樹脂粒子と、融点が100℃以上のワックスとを含み、
(4)前記樹脂インクの表面張力が、前記色インクより高く、かつ35mN/m以下であり、
(5)印刷工程は、前記色インクで記録する工程と、少なくとも前記色インクで記録する工程の後に、前記樹脂インクで記録する工程とを含み
(6)印刷中および/または印刷後に乾燥工程を含む、ことを特徴とするインクジェット記録方式の印刷方法。 - 前記色インクは、前記樹脂インク中に含まれる熱可塑性樹脂粒子およびワックスと同じ熱可塑性樹脂粒子およびワックスを前記樹脂成分として含む、請求項1に記載の印刷方法。
- 前記色インクが、プロセスカラーに加えて、さらにスペシャルカラーを含み、かつ、当該スペシャルカラーがオレンジとグリーンからなることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷方法を備えていることを特徴とする印刷装置。
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