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JP2010156011A - 耐熱鋳鋼および蒸気タービン主要弁 - Google Patents

耐熱鋳鋼および蒸気タービン主要弁 Download PDF

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JP2010156011A JP2008334153A JP2008334153A JP2010156011A JP 2010156011 A JP2010156011 A JP 2010156011A JP 2008334153 A JP2008334153 A JP 2008334153A JP 2008334153 A JP2008334153 A JP 2008334153A JP 2010156011 A JP2010156011 A JP 2010156011A
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Abstract

【課題】600℃でのクリープ破断強度を向上させた耐熱鋳鋼を提供する。
【解決手段】0.10質量%≦C≦0.14質量%、0.20質量%≦Si≦0.40質量%、0.4質量%≦Mn≦1.0質量%、P≦0.02質量%、S≦0.01質量%、0.50質量%≦Ni≦0.80質量%、9.5質量%≦Cr≦10.2質量%、0.92質量%≦Mo≦1.07質量%、0.92質量%≦W≦1.07質量%、0.18質量%≦V≦0.25質量%、0.05質量%≦Nb≦0.10質量%、Al≦0.020質量%、0.03質量%≦N≦0.06質量%、残部が鉄および不可避不純物からなる耐熱鋳鋼とした。
【選択図】図5

Description

本発明は、耐熱鋳鋼および蒸気タービン主要弁に関する。
従来、蒸気温度が600℃である蒸気タービンにおいては、主要弁(蒸気タービン主要弁)として高温強度に優れた鍛鋼が用いられている。ところが、主要弁の製造コストの低減という観点から、主要弁の材料として鍛鋼から鋳鋼への切り換えが望まれている。ここで、鋳鋼からなる主要弁に、鍛鋼からなる主要弁と同一の高温強度を持たせようとした場合、鋳鋼からなる主要弁を鍛鋼からなる主要弁と比べて厚肉で設計することが考えられるが、厚肉にした分、鋳造欠陥の発生確率が高くなり歩留まりを低下させる可能性がある。
そのため、上述した蒸気タービンの材料として、高温強度を有する種々の合金が開発されている。例えば、特許文献1には、600℃においてクリープ破断強度が高い特性を有する12Cr系耐熱鋼が開示されている。具体的には、特許文献1には、重量比でC:0.05〜0.2%,Si:0.05〜1%,Mn:0.1〜1%,Ni:1.5%以下,Cr:9.0〜13%,Mo:0.5〜2%,Nb:0.05〜0.4%,W:0.05〜0.8%を含み、残部鉄および不可避不純物からなり、−40C−30N−2Mn−4Ni+Cr+6Si+4Mo+1.5W+11V+5Nbで表されるCr当量が10以下である12Cr系耐熱鋼が開示されている。
特開昭59−89752号公報(例えば、請求項1など参照)
しかしながら、上述した特許文献1記載の12Cr系耐熱鋼を鋳造して作製された蒸気タービン主要弁に高温強度を持たせることができるものの、高温強度の更なる向上が望まれていた。
そこで、本発明は、前述した問題に鑑み提案されたもので、600℃でのクリープ破断強度を向上させた耐熱鋳鋼および蒸気タービン主要弁を提供することを目的とする。
上述した課題を解決する第1の発明に係る耐熱鋳鋼は、
0.10質量%≦C≦0.14質量%、
0.20質量%≦Si≦0.40質量%、
0.4質量%≦Mn≦1.0質量%、
P≦0.02質量%、
S≦0.01質量%、
0.50質量%≦Ni≦0.80質量%、
9.5質量%≦Cr≦10.2質量%、
0.92質量%≦Mo≦1.07質量%、
0.92質量%≦W≦1.07質量%、
0.18質量%≦V≦0.25質量%、
0.05質量%≦Nb≦0.10質量%、
Al≦0.020質量%、
0.03質量%≦N≦0.06質量%、
残部がFe及び不可避不純物からなる
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第2の発明に係る耐熱鋳鋼は、
第1の発明に係る耐熱鋳鋼であって、
Cr+6Si+4Mo+1.5W+11V+5Nb−40C−30N−30B−2Mn−4Ni−2Coで表されるCr当量が、8.5質量%以上10.3質量%以下である
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第3の発明に係る耐熱鋳鋼は、
第2の発明に係る耐熱鋳鋼であって、
前記Cr当量が、9質量%以上10.3質量%以下である
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第4の発明に係る耐熱鋳鋼は、
第1乃至第3の発明の何れか一つに係る耐熱鋳鋼であって、
0.30≦0.5W/(0.5W+Mo)≦0.37である
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第5の発明に係る耐熱鋳鋼は、
第4の発明に係る耐熱鋳鋼であって、
0.31≦0.5W/(0.5W+Mo)≦0.35である
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第6の発明に係る蒸気タービン主要弁は、
第1乃至第5の発明の何れか一つに係る耐熱鋳鋼で構成される
ことを特徴とする。
前記蒸気タービン主要弁としては、ボイラで得られた主蒸気を蒸気タービンに対して供給および停止を制御する主蒸気止め弁、蒸気量を加減して蒸気タービンの出力を調整する蒸気加減弁、再熱蒸気を蒸気タービンに対して供給および停止を制御するインターセプト弁などが挙げられる。
本発明に係る耐熱鋳鋼によれば、上記組成を有することから、600℃でのクリープ破断強度を向上させることができる。
本発明に係る蒸気タービン主要弁によれば、上記組成を有する耐熱鋳鋼で構成されることで、600℃でのクリープ破断強度が向上し、従来の鍛鋼で構成される蒸気タービン主要弁と比べて、製造コストを低減できる。
本発明に係る耐熱鋳鋼および蒸気タービン主要弁の実施形態について以下に説明する。
[第一番目の実施形態]
本実施形態に係る耐熱鋳鋼は、0.10質量%≦C≦0.14質量%、0.20質量%≦Si≦0.40質量%、0.4質量%≦Mn≦1.0質量%、P≦0.02質量%、S≦0.01質量%、0.50質量%≦Ni≦0.80質量%、9.5質量%≦Cr≦10.2質量%、0.92質量%≦Mo≦1.07質量%、0.92質量%≦W≦1.07質量%、0.18質量%≦V≦0.25質量%、0.05質量%≦Nb≦0.10質量%、Al≦0.020質量%、0.03質量%≦N≦0.06質量%、残部が鉄および不可避不純物からなる組成を有するものである。
C(炭素)は、熱処理時の焼入れ性を確保し、また焼戻し過程でM236型炭化物を析出させて高温強度を高め耐力や靭性を確保するために必要不可欠な元素である。Cは本発明に係る蒸気タービン主要弁(例えば、主蒸気止め弁や蒸気加減弁やインターセプト弁など)の材料に適した耐熱鋳鋼にとって必要な耐力や靭性を発現させている。しかしながら、Cの含有量が過剰量になると、靭性の低下を引き起こすと共に、M236型炭化物を過度に析出させ、マトリックスの強度を低下させて長時間側の高温強度を低下させる。したがって、Cの含有量を0.10質量%以上0.14質量%以下としている。
Si(珪素)は、溶鋼の脱酸剤として効果があり、湯流れ性を確保するために必要な元素である。しかしながら、Siの含有量が過剰量になると、脱酸による生成物であるSiO2が鋼中に存在し、鋼の清浄度を害し靭性を低下させる。また、Siは金属間化合物であるラーベス相(Fe2M)の生成を促し、また粒界偏析などによりクリープ破断延性を低下させ、更に高温使用中において焼戻し脆性を助長する。したがって、Siの含有量を0.20質量%以上0.40質量%以下としている。
Mn(マンガン)は、溶鋼の脱酸、脱硫剤として有効な元素であると共に、焼入れ性を増大させて強度を高めるのに有効な元素である。また、Mnは、δフェライトおよびBNの生成を抑制し、M236型炭化物の析出を促進するのに有効な元素である。しかしながら、Mnの含有量の増加とともにクリープ破断強度を低下させる。したがって、Mnの含有量を0.4質量%以上1.0質量%以下としている。
P(リン)は、不純物元素として製鋼の原材料に混入され避けられないものであり、その含有量が少ないほど好ましいが、過度に低減させようとすると、経済性を損なうことから、その含有量を0.02質量%以下としている。
S(硫黄)は、不純物元素として製鋼の原材料に混入され避けられないものであり、その含有量が少ないほど好ましいが、過度に低減させようとすると、経済性を損なうことから、その含有量を0.01質量%以下としている。
Ni(ニッケル)は、鋼の焼入れ性を増大させ、δフェライトの生成を抑制し、室温における強度および靭性を高める有効な元素である。また、これらの効果はNiおよびCr両元素の含有量が多い場合には、その相乗効果により著しく増加する。しかしながら、Niの含有量が過剰量になると、高温強度(クリープ強度、クリープ破断強度)を低下させ、また、焼戻し脆性を助長する。したがって、Niの含有量を0.50質量%以上0.80質量%以下としている。
Cr(クロム)は、耐酸化性を付与し、M236型炭化物を析出させて高温強度を高めるために必要不可欠の元素である。しかしながら、Crの含有量が過剰量になると、δフェライトを生成し、高温強度および靭性を低下させる。したがって、Crの含有量を9.5質量%以上10.2質量%以下としている。
Mo(モリブデン)は、焼入れ性を増大し、また、焼戻し時の焼戻し軟化抵抗を大きくして、常温の強度(引張り強さ、耐力)および高温強度の増大に有効な元素である。また、Moは固溶体強化元素として、また、M236型炭化物の微細析出を促進し、凝集を妨げる作用があると共に、その他の炭化物を生成して析出強化作用元素として、クリープ強度やクリープ破断強度などの高温強度の向上に非常に有効な元素である。
さらに、Moは0.5質量%以上添加すると、鋼の焼戻し脆性を阻止するのに有効な元素である。しかしながら、Moの含有量が過剰量になると、その効果が飽和し、かえって靭性を低下させる。したがって、Moの含有量を0.92質量%以上1.07質量%以下としている。
W(タングステン)は、固溶体強化元素として、クリープ強度やクリープ破断強度などの高温強度の向上に有効な元素であり、その効果がMoとの複合添加の場合に顕著である。しかしながら、Wの含有量が過剰量になると、δフェライトやラーベス相を生成するため、クリープ破断強度を劣化させると共に、靭性を低下させる。したがって、Wの含有量を0.92質量%以上1.07質量%以下としている。
V(バナジウム)は、常温における強度(引張り強さ、耐力)の向上に有効な元素である。さらに、Vは固溶体強化元素として、また、Vの微細な炭窒化物をマルテンサイトラス内に生成させる。これら微細な炭窒化物はクリープ中の転位の回復を制御してクリープ強度やクリープ破断強度など高温強度を増加させるため、Vは析出元素として重要な元素である。さらに、Vはある程度の含有範囲(0.03〜0.35質量%)の含有量であれば、結晶粒を微細化させて、靭性向上にも有効である。しかしながら、Vの含有量が過剰量になると、靭性を低下させると共に、炭素を過度に固定し、M236型炭化物の析出量を減じて高温強度を低下させる。したがって、Vの含有量を0.18質量%以上0.25質量%以下としている。
Nb(ニオブ)は、引張り強さや耐力などの常温強度、並びにクリープ強度やクリープ破断強度などの高温強度の増大に有効な元素であると共に、微細なNbCを生成し結晶粒を微細化させ、靭性向上に非常に有効な元素である。また、一部が焼入れの際に、固溶して焼戻し過程で上記のV炭窒化物と複合したMX型炭窒化物を析出し、高温強度を高める作用がある。しかしながら、Nbの含有量が過剰量になると、炭素を過度に固定してM236型炭化物の析出量を減少し、高温強度を低下させる。したがって、Nbの含有量を0.05質量%以上0.10質量%以下としている。
Al(アルミニウム)は、Nとの親和力が強い強窒化物形成元素であり、ラーベス相の析出を促進して、クリープ破断強度を低下させる。したがって、Alの含有量を0.020質量%以下としている。
N(窒素)は、Vの窒化物を析出したり、また固溶した状態でMoやWと共同でIS効果(侵入型固溶元素と置換型固溶元素の相互作用)により高温強度を高めたりする作用がある。しかしながら、Nの含有量が過剰量になると、延性を低下させる。したがって、Nの含有量を0.03質量%以上0.06質量%以下としている。
上述した組成の耐熱鋳鋼に対して、予備熱処理、溶体化・焼入れ熱処理、第1段焼戻し熱処理、第2段焼戻し熱処理を順次行うことにより、600℃の蒸気中で使用可能な蒸気タービン主要弁などを製造できる。
予備熱処理により、本実施形態に係る耐熱鋳鋼にて、鋳造中に発生する偏析を除去する。また、パーライト変態を促進させることで、微細粒化を図ることができる。溶体化処理により、添加元素であるNbをオーステナイト中に固溶し、焼戻し熱処理中にMX炭窒化物を析出させ、高温強度を向上させている。第1段焼戻し熱処理により、焼入れ後の残留オーステナイトを完全に除去し、また、炭化物および金属間か動物を析出させ、高温強度特性を向上させている。第2段焼戻し熱処理により、応力除去焼鈍も兼ねており、また、炭化物、炭窒化物ならびに金属間化合物を析出させ、高温強度特性を向上させている。
予備熱処理温度について説明する。
本実施形態に係る耐熱鋳鋼にて、Nbを固溶させるため、予備熱処理温度を1000℃以上にしている。また、粒の粗大化を抑制するため、予備熱処理温度を1100℃以下にしている。
次に、溶体化・焼入れ熱処理温度について説明する。
本実施形態に係る耐熱鋳鋼はMX型炭窒化物を析出させ高温強度を高める効果からNbを0.05質量%以上0.10質量%以下添加している。この効果を発現させるためには溶体化熱処理時にNbを完全にオーステナイトに固溶させることが不可欠である。しかしながら、Nbは焼入れ熱処理温度を1000℃未満にした場合、凝固時に析出した粗大な炭窒化物が熱処理後も残存し、クリープ破断強度の増加に対し完全に有効には働き得ない。この粗大な炭窒化物を一旦固溶させ炭窒化物として高密度に析出させるためにはオーステナイト化がより進行する1000℃以上のオーステナイト化温度からの焼入れが必要になる。一方、1100℃を超えると本実施形態に係る耐熱鋳鋼の場合、δフェライトが析出する温度域に靭性を低下させる。よって、焼入れ熱処理温度範囲を1000〜1100℃としている。
次に、焼戻し熱処理温度について説明する。
上述した焼入れ後の耐熱鋳鋼に対して、650〜730℃の温度範囲において第1段焼戻し熱処理が行われる。第1段焼戻し熱処理温度が650℃未満であると、未変態オーステナイトを完全にマルテンサイトラスにすることができない。他方、第1段焼戻し熱処理温度が730℃を越えると、第2段焼戻し熱処理の効果が十分に得られない。よって、第1段焼戻し熱処理温度範囲を650〜730℃としている。
続いて、第1段焼戻しを行った耐熱鋳鋼に対して、700〜750℃の温度範囲において第2段焼戻し熱処理が行われる。第2段焼戻し熱処理温度が700℃未満であると、M236型炭化物およびMX型炭窒化物の析出が十分に平衡値まで到達することができず、析出物の体積率が相対的に低下する。しかも、このような不安定な状態にあるこれらの析出物は、その後の600℃を越える高温で長時間のクリープを受けると、さらに析出が進行するとともに凝集粗大化が著しくなる。他方、第2段焼戻し熱処理温度が750℃を越えると、マルテンサイトラス内のMX型炭窒化物の析出密度が低下すると共に、焼戻しが過剰になり、かつオーステナイトへの変態点Ac1点(約780℃)に接近する。よって、第2段焼戻し熱処理温度範囲を700〜750℃としている。
したがって、本実施形態に係る耐熱鋳鋼によれば、上記組成を有することで、600℃でのクリープ破断強度を向上させることができる(具体例は後述する)。
また、600℃でのクリープ破断強度が向上した耐熱鋳鋼を得ることができるので、ボイラで得られた600℃の主蒸気を蒸気タービンに対して供給および停止を制御する主蒸気止め弁、蒸気量を加減して蒸気タービンの出力を調整する蒸気加減弁、再熱蒸気を蒸気タービンに対して供給および停止を制御するインターセプト弁などの蒸気タービン主要弁に用いることができる。
[第二番目の実施形態]
本実施形態に係る耐熱鋳鋼は、前述した第一番目の実施形態に係る耐熱鋳鋼において、下記の(1)式に示すCr当量が8.5質量%以上10.3質量%以下からなる組成を有するものであり、好適にはCr当量が9質量%以上10.3質量%以下からなる組成を有するものである。
Cr当量が以下の(1)式を満たすものである。
Cr当量(質量%)=Cr+6Si+4Mo+1.5W+11V+5Nb−40C−30N−30B−2Mn−4Ni−2Co ・・・(1)
本実施形態に係る耐熱鋳鋼および蒸気タービン主要弁は、δフェライトが混在すると、高温クリープ破断強度および低温靭性が低くなるので、その組成が均一な焼戻しマルテンサイト組織であることが好ましい。焼戻しマルテンサイト組織を得るために、上述した式(1)で示されるCr当量を10.3質量%以下としている。一方、Cr当量を低くくし過ぎると、高温クリープ強度が低下するため、Cr当量を8.5質量%以上とし、好ましくは9質量%以上としている。
したがって、本実施形態に係る耐熱鋳鋼によれば、上記組成を有し、且つ、上記(1)式で示されるCr当量が8.5質量%以上10.3質量%以下であり、好ましくは9質量%以上10.3質量%以下であることで、600℃でのクリープ破断強度を向上させることができる(具体例は後述する)。
また、600℃でのクリープ破断強度が向上した耐熱鋳鋼を得ることができるので、蒸気温度が600℃である蒸気タービンの主蒸気止め弁および蒸気加減弁ならびにインターセプト弁などに用いることができる。
[第三番目の実施形態]
本実施形態に係る耐熱鋳鋼は、前述した第一番目または第二番目の実施形態に係る耐熱鋳鋼において、0.30≦0.5W/(0.5W+Mo)≦0.37である組成を有するものであり、好適には0.31≦0.5W/(0.5W+Mo)≦0.35である組成を有するものである。
WとMoの質量比を調整することで、クリープ破断強度の低下を抑制できる。
したがって、本実施形態に係る耐熱鋳鋼によれば、上記組成を有し、且つ、0.5W/(0.5W+Mo)が0.30以上0.37以下であり、好ましくは0.31以上0.35以下であることで、600℃でのクリープ破断強度を向上させることができる(具体例は後述する)。
また、600℃でのクリープ破断強度が向上した耐熱鋳鋼を得ることができるので、蒸気温度が600℃である蒸気タービンの主蒸気止め弁および蒸気加減弁ならびにインターセプト弁などに用いることができる。
本発明に係る耐熱鋳鋼の効果を確認するために行った確認試験を以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
[確認試験]
下記の表1は、本発明に係る耐熱鋳鋼の化学組成(各値共に質量%)を示すものである。試料は、蒸気主要弁の弁室の厚肉部を想定して、高周波誘導溶解炉にて150kg溶解し、砂型に鋳込み、鋳塊(試験体1〜7および比較体1〜6)を作製した。試験体1〜7が本発明に係る耐熱鋳鋼であり、比較体1〜6が従来材の鋳鋼(比較材)である。試験体1〜7および比較体1〜6のいずれの試料も、1070℃×8h炉冷の焼鈍処理後、蒸気主要弁の弁室の肉厚部を想定し、1070℃×8h加熱保持後空冷の焼準、730℃×8h加熱保持後空冷の一次焼戻し(第1段焼戻し熱処理)及び750℃×8h加熱保持後空冷の二次焼戻し(第2段焼戻し熱処理)を行った。
Figure 2010156011
下記の表2は、試験体1〜7および比較体1〜6のCr当量(質量%)および0.5W/(0.5W+Mo)を示すものである。
Figure 2010156011
表3は室温の引張特性、600℃、150MPa、クリープ破断時間の試験結果を示すものである。試験片は上記鋳塊(試験体1〜7および比較体1〜6)の肉厚150mm部の中心部より採取した。なお、Cr当量(質量%)は上記の(1)式より求めた。δフェライト量を点算法により求めた。観察視野を40とした。
Figure 2010156011
ここで、上述した試験体1〜7および比較体1〜6におけるCr当量に対する引張試験による室温伸びとδフェライト量の関係について図1に示す。この図1にて、菱形印が試験体1〜〜7および比較体1〜6の室温伸び(%)を示し、四角印が試験体1〜7および比較体1〜6のδフェライト(%)を示す。この図1に示すように、Cr当量が大きくなるにつれてδフェライト量が多くなり、10.3質量%を越えると急激に多くなることを確認した。他方、室温伸びが、Cr当量が大きくなるにつれて低下していることを確認した。そのため、Cr当量を10.3質量%以下にすることが必要であるが明らかとなった。なお、Cr当量が8.5質量%程度では特に室温伸びへの影響は無いことを確認した。すなわち、Cr当量を、8.5質量%以上10.3質量%以下を示す領域Aの範囲内とし、好適には9.0質量%以上10.3質量%以下を示す領域Bの範囲内とすることが望ましいことを確認した。
上述した0.5W/(0.5W+Mo)とクリープ破断時間の関係を図2に示す。この図2にて、菱形印が試験体1〜7のクリープ破断強度を示し、四角印が比較体1〜5のクリープ破断強度を示す。この図2に示すように、0.5W/(0.5W+Mo)が曲線L1近傍にあり、0.5W/(0.5W+Mo)の増加に伴って、クリープ破断時間が長くなり、0.5W/(0.5W+Mo)が0.34程度でクリープ破断時間が最大値となることを確認した。また、0.5W/(0.5W+Mo)が0.34よりも増加していくと、それに応じてクリープ破断時間が短くなっていくことを確認した。よって、クリープ破断の観点から、WとMoの添加量が、0.5W/(0.5W+Mo)を0.30以上0.37以下の範囲内(領域C内)、好適には0.31以上0.35以下範囲内(領域D内)に調整する必要があることが明らかとなった。
クリープ強度低下現象は、種々の析出物および転移組織の変化が重畳するなかで特に長時間側ではラーベス相の析出・粗大化にともなうMoおよびWの固溶量低下による転位の易動度の増加に起因すると考えられる。すなわち、MoおよびWの組成比の違いにより長時間後のラーベス相の析出挙動が異なり、クリープ破断強度に影響する。上記の0.5W/(0.5W+Mo)を0.30以上0.37以下の範囲に調整することで、クリープ破断強度が最大値を示すことが明らかとなった。
ここで、Moの含有量とクリープ破断時間の関係を図3に示す。この図3にて、菱形印が試験体1〜7のクリープ破断強度を示し、四角印が比較体1〜6のクリープ破断強度を示す。この図3に示すように、Mo含有量が曲線L2近傍にあり、Mo含有量の増加に伴ってクリープ破断時間が長くなり、Mo含有量が0.98質量%程度でクリープ破断強度が最大値となることを確認した。また、Mo含有量が0.98質量%よりも増加していくと、それに応じてクリープ破断時間が短くなっていくことを確認した。よって、クリープ破断の観点から、Mo含有量を0.92質量%以上1.07質量%以下の範囲内(領域E内)に調整することで、クリープ破断強度が最大値を示すことが明らかとなった。
Wの含有量とクリープ破断時間の関係を図4に示す。この図4にて、菱形印が試験体1〜7のクリープ破断強度を示し、四角印が比較体1〜5のクリープ破断強度を示す。この図4に示すように、W含有量が曲線L3近傍にあり、W含有量の増加に伴ってクリープ破断時間が長くなり、W含有量が1.02質量%程度でクリープ破断強度が最大値となることを確認した。また、W含有量が1.02質量%よりも増加していくと、それに応じてクリープ破断時間が短くなっていくことを確認した。よって、クリープ破断の観点から、W含有量を0.92質量%以上1.07質量%以下の範囲内(領域F内)に調整することで、クリープ破断強度は最大値を示すことが明らかとなった。
図5に試験体No.4と比較体No.6について、種々条件においてクリープ破断試験を行い、LMP(Larson−Miller Parameter)法にて整理した結果を示す。この図5にて、丸印が試験体4の場合を示し、菱形印が比較体6の場合を示す。この図5に示すように、試験体No.4が、比較体No.6と比べてクリープ破断強度が向上していることを確認した。
LMPが以下(2)式を満たすものである。
LMP=(絶対温度)×(log(tr)+25)/1000 ・・・(2)
したがって、本実施例に係る耐熱鋳鋼によれば、上記組成を有することで、600℃でのクリープ破断強度を向上させることができる。
本発明に係る耐熱鋳鋼および蒸気タービン主要弁が上記組成を有することから、600℃でのクリープ破断強度を向上させることができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。
本発明に係る耐熱鋳鋼である試験体1〜7および従来例の比較体1〜6におけるCr当量に対する室温伸びとδフェライト量の関係を示すグラフである。 本発明に係る耐熱鋳鋼である試験体1〜7および従来例の比較体1〜5における0.5W/(0.5W+Mo)とクリープ破断時間の関係を示すグラフである。 本発明に係る耐熱鋳鋼である試験体1〜7および従来例の比較体1〜6におけるMoの含有量とクリープ破断時間の関係を示すグラフである。 本発明に係る耐熱鋳鋼である試験体1〜7および従来例の比較体1〜5におけるWの含有量とクリープ破断時間の関係を示すグラフである。 本発明に係る耐熱鋳鋼である試験体No.4と従来例の比較体No.6におけるLMPとクリープ破断強度の関係を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 0.10質量%≦C≦0.14質量%、
    0.20質量%≦Si≦0.40質量%、
    0.4質量%≦Mn≦1.0質量%、
    P≦0.02質量%、
    S≦0.01質量%、
    0.50質量%≦Ni≦0.80質量%、
    9.5質量%≦Cr≦10.2質量%、
    0.92質量%≦Mo≦1.07質量%、
    0.92質量%≦W≦1.07質量%、
    0.18質量%≦V≦0.25質量%、
    0.05質量%≦Nb≦0.10質量%、
    Al≦0.020質量%、
    0.03質量%≦N≦0.06質量%、
    残部がFe及び不可避不純物からなる
    ことを特徴とする耐熱鋳鋼。
  2. 請求項1に記載された耐熱鋳鋼であって、
    Cr+6Si+4Mo+1.5W+11V+5Nb−40C−30N−30B−2Mn−4Ni−2Coで表されるCr当量が、8.5質量%以上10.3質量%以下である
    ことを特徴とする耐熱鋳鋼。
  3. 請求項2に記載された耐熱鋳鋼であって、
    前記Cr当量が、9質量%以上10.3質量%以下である
    ことを特徴とする耐熱鋳鋼。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載された耐熱鋳鋼であって、
    0.30≦0.5W/(0.5W+Mo)≦0.37である
    ことを特徴とする耐熱鋳鋼。
  5. 請求項4に記載された耐熱鋳鋼であって、
    0.31≦0.5W/(0.5W+Mo)≦0.35である
    ことを特徴とする耐熱鋳鋼。
  6. 請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載された耐熱鋳鋼で構成される
    ことを特徴とする蒸気タービン主要弁。
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