ところが、上記の抵抗測定装置には、以下の問題点が存在する。すなわち、この抵抗測定装置では、周波数選択増幅回路を使用することにより、第2の周波数の成分のみを増幅して測定するようにしているが、第2の周波数の成分のみを通過させ、この周波数成分以外の周波数成分については通過させない構成にするためには、例えば、急峻なバンドパスフィルタ(Qの高いバンドパスフィルタ)を含んで周波数選択増幅回路を構成する必要があるが、このような周波数選択増幅回路を実現するためには高精度の部品を使用しなければならない。この場合、このような高精度な部品は一般的に高価であるため、この抵抗測定装置には、製品コストが上昇するという問題点が存在している。また、このように第2の周波数の成分のみを増幅し得るように周波数選択増幅回路を構成したとしても、第2の周波数の成分と同じ周波数の外来ノイズが混入した場合には、これによって信号の振幅が増加して、周波数選択増幅回路における増幅回路の部分が飽和し、その飽和に起因して、測定精度が大幅に低下するという問題点も存在している。
本発明は、かかる問題点を解決すべくなされたものであり、製品価格を高騰させることなく、外来ノイズの存在下においても測定精度の大幅な低下を防止し得る抵抗測定装置を提供することを主目的とする。
上記目的を達成すべく請求項1記載の抵抗測定装置は、検査用交流信号を生成して測定対象回路に注入する電圧注入部と、前記検査用交流信号の注入に起因して前記測定対象回路に流れる交流電流を検出する検出コイルの一端に接続されて当該検出コイルに流れる電流を第1電圧信号に変換する第1増幅部、当該検出コイルの他端に接続されて当該検出コイルに流れる前記電流を前記第1電圧信号と逆位相の第2電圧信号に変換する第2増幅部、前記第1電圧信号および前記第2電圧信号に基づいて当該両信号のうちの正側波形のみで構成される正極性信号並びに負側波形のみで構成される負極性信号を抽出する抽出部、前記正極性信号および前記負極性信号の差分信号を第1増幅率で増幅して出力する差動増幅部、当該増幅された差動信号に含まれる直流成分を選択的に通過させる低域通過型フィルタ、当該直流成分を第2増幅率で増幅する直流増幅部、および当該増幅された直流成分の電圧値をデジタルデータに変換して出力するA/D変換部とを有する電流検出部と、当該電流検出部から出力された前記デジタルデータに基づいて前記第1増幅率および前記第2増幅率の乗算値で規定される当該電流検出部の現在の測定レンジについての適否を判別すると共に、当該現在の測定レンジが適切でないと判別したときに当該第1増幅率および当該第2増幅率の少なくとも一方を変更して適切な測定レンジに切り替えるレンジ切替処理、および当該適切な測定レンジで当該電流検出部において検出された当該デジタルデータと当該適切な測定レンジでの前記第1増幅率および前記第2増幅率とに基づいて前記交流電流の電流値を算出すると共に当該算出した電流値と前記検査用交流信号の電圧値とに基づいて前記測定対象回路の抵抗値を算出する抵抗値算出処理を実行する処理部とを備えた抵抗測定装置であって、前記処理部は、所定の測定レンジに切替制御されている状態においてレンジ切替信号を入力していないときには、前記第1増幅率を常用の所定の増幅率に規定し、当該所定の測定レンジに切替制御されている状態において前記レンジ切替信号を入力したときには、前記第1増幅率を前記所定の増幅率よりも低下させる。
また、請求項2記載の抵抗測定装置は、請求項1記載の抵抗測定装置において、前記正極性信号、前記負極性信号および前記差動信号のうちのいずれか1つの信号の振幅が予め規定されたしきい値に達したときに前記レンジ切替信号の前記処理部への出力を開始する飽和監視部を備えている。
また、請求項3記載の抵抗測定装置は、請求項1または2記載の抵抗測定装置において、前記電圧注入部は、前記検査用交流信号を基準信号に同期して生成し、前記抽出部は、前記基準信号に同期して前記第1電圧信号および前記第2電圧信号を同期検波して前記正極性信号を抽出する第1抽出部、および前記基準信号に同期して前記第1電圧信号および前記第2電圧信号を同期検波して前記負極性信号を抽出する第2抽出部を備えて構成されている。
また、請求項4記載の抵抗測定装置は、検査用交流信号を生成して測定対象回路に注入する電圧注入部と、前記検査用交流信号の注入に起因して前記測定対象回路に流れる交流電流を検出する検出コイルの一端に接続されて当該検出コイルに流れる電流を第1電圧信号に変換する第1増幅部、当該検出コイルの他端に接続されて当該検出コイルに流れる前記電流を前記第1電圧信号と逆位相の第2電圧信号に変換する第2増幅部、前記第1電圧信号および前記第2電圧信号の差分信号を第1増幅率で増幅して出力する差動増幅部、前記増幅された差分信号を入力して当該差分信号の正側波形のみまたは負側波形のみで構成される片極性信号を抽出する抽出部、当該片極性信号に含まれる直流成分を選択的に通過させる低域通過型フィルタ、当該直流成分を第2増幅率で増幅する直流増幅部、および当該増幅された直流成分の電圧値をデジタルデータに変換して出力するA/D変換部とを有する電流検出部と、当該電流検出部から出力された前記デジタルデータに基づいて前記第1増幅率および前記第2増幅率の乗算値で規定される当該電流検出部の現在の測定レンジについての適否を判別すると共に、当該現在の測定レンジが適切でないと判別したときに当該第1増幅率および当該第2増幅率の少なくとも一方を変更して適切な測定レンジに切り替えるレンジ切替処理、および当該適切な測定レンジで当該電流検出部において検出された当該デジタルデータと当該適切な測定レンジでの前記第1増幅率および前記第2増幅率とに基づいて前記交流電流の電流値を算出すると共に当該算出した電流値と前記検査用交流信号の電圧値とに基づいて前記測定対象回路の抵抗値を算出する抵抗値算出処理を実行する処理部とを備えた抵抗測定装置であって、前記処理部は、所定の測定レンジに切替制御されている状態においてレンジ切替信号を入力していないときには、前記第1増幅率を常用の所定の増幅率に規定し、当該所定の測定レンジに切替制御されている状態において前記レンジ切替信号を入力したときには、前記第1増幅率を前記所定の増幅率よりも低下させる。
また、請求項5記載の抵抗測定装置は、請求項4記載の抵抗測定装置において、前記片極性信号の振幅が予め規定されたしきい値に達したときに前記レンジ切替信号の前記処理部への出力を開始する飽和監視部を備えている。
また、請求項6記載の抵抗測定装置は、請求項4または5記載の抵抗測定装置において、前記電圧注入部は、前記検査用交流信号を基準信号に同期して生成し、前記抽出部は、前記基準信号に同期して前記増幅された差分信号を同期検波して前記片極性信号を抽出する。
また、請求項7記載の抵抗測定装置は、請求項1また4記載の抵抗測定装置において、操作内容に応じて前記レンジ切替信号の前記処理部への出力を開始する操作部を備えている。
また、請求項8記載の抵抗測定装置は、請求項1から7のいずれかに記載の抵抗測定装において、前記第1増幅部は、前記検出コイルの一端に反転入力端子が接続されると共に非反転入力端子に基準電圧が入力されて、当該検出コイルに流れる前記電流を前記第1電圧信号に変換して出力する第1演算増幅器を少なくとも有し、前記第2増幅部は、前記検出コイルの他端に反転入力端子が接続されると共に非反転入力端子に前記基準電圧が入力されて、当該検出コイルに流れる前記電流を前記第2電圧信号に変換して出力する第2演算増幅器を少なくとも有している。
また、請求項9記載の抵抗測定装置は、請求項8記載の抵抗測定装置において、前記第1演算増幅器の後段に配設されて前記第1電圧信号に含まれる直流成分を除去する第1容量性素子と、前記第2演算増幅器の後段に配設されて前記第2電圧信号に含まれる直流成分を除去する第2容量性素子とを備えている。
また、請求項10記載の抵抗測定装置は、請求項1から9のいずれかに記載の抵抗測定装置において、前記第1電圧信号に含まれる前記検査用交流信号の高調波成分を除去する第1フィルタ部と、前記第2電圧信号に含まれる前記検査用交流信号の高調波成分を除去する第2フィルタ部とを備えている。
請求項1記載の抵抗測定装置では、処理部が、所定の測定レンジに切替制御されている状態においてレンジ切替信号を入力していないときには、差動増幅部の第1増幅率を常用の所定の増幅率に規定し、この所定の測定レンジに切替制御されている状態においてレンジ切替信号を入力したときには、この第1増幅率を所定の増幅率よりも低下させる。
したがって、この抵抗測定装置によれば、この所定の測定レンジにおいては、外来ノイズの存在下においても、レンジ切替信号を入力するすることにより、差動増幅部の第1増幅率を所定の増幅率よりも低下させて、外来ノイズが重畳することに起因した差動増幅部の飽和を回避することができるため、電流検出部全体として外来ノイズの影響による大幅な検出精度の低下を回避しつつ検出電流を検出でき、ひいては測定対象回路の抵抗値の大幅な検出精度の低下を回避することができる。また、高価な高精度の部品が必要となる急峻なバンドパスフィルタ(Qの高いバンドパスフィルタ)を不要にできるため、製品価格を高騰させることなく、測定対象回路の抵抗値の大幅な検出精度の低下を防止することができる。
また、請求項2記載の抵抗測定装置によれば、飽和監視部が、差動増幅部に入力される正極性信号および負極性信号、並びに差動増幅部から出力される差分信号のうちのいずれか1つの信号の振幅がしきい値に達したときにレンジ切替信号の処理部への出力を開始することにより、上記のいずれか1つの信号に外来ノイズが重畳しているとき、すなわち外来ノイズの存在下において、差動増幅部の飽和を自動的に回避して、大幅な検出精度の低下を自動的に回避することができる。
また、請求項3記載の抵抗測定装置によれば、電圧注入部は、検査用交流信号を基準信号に同期して生成し、抽出部が、基準信号に同期して第1電圧信号および第2電圧信号を同期検波して正極性信号を抽出する第1抽出部、および基準信号に同期して第1電圧信号および第2電圧信号を同期検波して負極性信号を抽出する第2抽出部を備えて、基準信号に同期して第1および第2電圧信号を同期検波して、正極性信号および負極性信号を抽出するため、検出コイルの電流にノーマルモードノイズが含まれている場合でも、このノーマルモードノイズを除去することができる。
請求項4記載の抵抗測定装置では、処理部が、所定の測定レンジに切替制御されている状態においてレンジ切替信号を入力していないときには、差動増幅部の第1増幅率を常用の所定の増幅率に規定し、この所定の測定レンジに切替制御されている状態においてレンジ切替信号を入力したときには、この第1増幅率を所定の増幅率よりも低下させる。
したがって、この抵抗測定装置によれば、この所定の測定レンジにおいては、外来ノイズの存在下においても、レンジ切替信号を入力するすることにより、差動増幅部の第1増幅率を所定の増幅率よりも低下させて、外来ノイズが重畳することに起因した差動増幅部の飽和を回避することができるため、電流検出部全体として外来ノイズの影響による大幅な検出精度の低下を回避しつつ検出電流を検出でき、ひいては測定対象回路の抵抗値の大幅な検出精度の低下を回避することができる。また、高価な高精度の部品が必要となる急峻なバンドパスフィルタ(Qの高いバンドパスフィルタ)を不要にできるため、製品価格を高騰させることなく、測定対象回路の抵抗値の大幅な検出精度の低下を防止することができる。
また、請求項5記載の抵抗測定装置によれば、飽和監視部が、片極性信号の振幅が予め規定されたしきい値に達したときにレンジ切替信号の処理部への出力を開始することにより、片極性信号に外来ノイズが重畳しているとき、すなわち外来ノイズの存在下において、差動増幅部の飽和を自動的に回避して、大幅な検出精度の低下を自動的に回避することができる。
また、請求項6記載の抵抗測定装置によれば、電圧注入部は、検査用交流信号を基準信号に同期して生成し、抽出部が、基準信号に同期して、増幅された差分信号を同期検波して片極信号を抽出するため、検出コイルの電流にノーマルモードノイズが含まれている場合でも、このノーマルモードノイズを除去することができる。
また、請求項7記載の抵抗測定装置によれば、操作内容に応じてレンジ切替信号を処理部に出力する操作部を備えたことにより、作業者が外来ノイズの影響を受けると判断したときに、操作部に対する操作により、レンジ切替信号の処理部への出力を開始させることができ、差動増幅部の飽和、ひいては大幅な検出精度の低下を手動で回避しつつ、抵抗測定を実施することができる。
また、請求項8記載の抵抗測定装置によれば、第1増幅部は、検出コイルの一端に反転入力端子が接続されると共に非反転入力端子に基準電圧が入力されて、検出コイルに流れる電流を第1電圧信号に変換して出力する第1演算増幅器を少なくとも有し、第2増幅部は、検出コイルの他端に反転入力端子が接続されると共に非反転入力端子に基準電圧が入力されて、検出コイルに流れる電流を第2電圧信号に変換して出力する第2演算増幅器を少なくとも有しているため、シングルエンドでの検出コイルの使用や、シャント抵抗の使用が回避できるため、十分な検出ゲインを維持しつつ良好な周波数特性を確保することができる。
また、請求項9記載の抵抗測定装置によれば、各演算増幅器の後段に容量性素子をそれぞれ配設したことにより、各演算増幅器のオフセット電圧がばらついていたとしても、このオフセット電圧(直流電圧)を除去することができるため、測定対象回路の抵抗値の測定精度を向上させることができる。
また、請求項10記載の抵抗測定装置によれば、第1および第2フィルタ部を配設したことにより、第1電圧信号および第2電圧信号に含まれる高調波成分を除去できるため、測定対象回路の抵抗値の測定精度を一層向上させることができる。
以下、本発明に係る抵抗測定装置の最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
最初に、本発明に係る抵抗測定装置1の構成について、図面を参照して説明する。
図1に示す抵抗測定装置1は、クランプ部2、およびクランプ部2とケーブル3を介して接続された装置本体部4を備え、測定対象回路5の抵抗(ループ抵抗)の抵抗値Rxを測定可能に構成されている。
クランプ部2は、図1に示すように、注入クランプ部11、検出クランプ部21およびハウジング31を備えて構成されている。一例として、本例では、注入クランプ部11は、2つに分割された第1環状コア12、および第1環状コア12に巻回された注入コイルとしての第1巻線13(既知のターン数:N1)を有している。また、検出クランプ部21は、2つに分割された第2環状コア22、および第2環状コア22に巻回された第2巻線23(本発明における検出コイル(既知のターン数:N2))を有している。また、注入クランプ部11および検出クランプ部21は、先端が開閉自在なクランプ型の樹脂製のハウジング31に共に収容されて、このハウジング31の開閉動作に伴い、それぞれの第1環状コア12および第2環状コア22が同時に開閉するように構成されている。この構成により、ハウジング31を開状態としてその内側に測定対象回路5の一部を構成する配線5aを導入することで、開状態となった第1環状コア12および第2環状コア22のそれぞれの内側にも配線5aが導入され、この状態においてハウジング31を閉状態とすることで、閉状態となった第1環状コア12および第2環状コア22によって配線5aが同時にクランプされた状態、すなわちクランプ部2によって配線5aがクランプされた状態となる。この場合、配線5aは、第1環状コア12および第2環状コア22において1ターンの巻線として機能する。
装置本体部4は、図1に示すように、電圧注入部41、電流検出部42、処理部43、出力部44および飽和監視部45を備えている。電圧注入部41は、D/A変換部51、電力増幅部52および注入クランプ部11を備えて構成されている。この場合、D/A変換部51は、処理部43から出力された交流波形データ(本例では一定の周期Tで値が一巡する正弦波波形データ)Dvに基づいて、図3に示すように周期Tの交流電圧Va(周波数f(=1/T))を生成して出力する。電力増幅部52は、この交流電圧Vaを所定の増幅率で増幅して予め規定された電圧値(本例では電圧実効値)の交流電圧V1を生成すると共に、生成した交流電圧V1を注入クランプ部11の第1巻線13に印加する。これにより、注入クランプ部11を介して測定対象回路5に所定の電流値(本例では電流実効値)の検査用交流信号Vxが注入される。この場合、上記したように配線5aが第1環状コア12において1ターンの巻線として機能するため、測定対象回路5に注入される検査用交流信号Vxは、その電圧値が交流電圧V1をターン数N1で除算して得られる電圧値(Vx=V1/N1)となる。また、検査用交流信号Vxは交流電圧Vaに基づいて生成されるため、交流電圧Vaと同期した信号、つまり後述する基準信号Srに同期した信号となる。検出クランプ部21は、第2環状コア22において配線5aが1ターンの巻線として機能するため、測定対象回路5に流れる交流電流Ixを検出して、その第2巻線23に検出電流(本発明における検出コイルに流れる電流)I1(=Ix/N2)を出力する。
電流検出部42は、検出クランプ部21、第1増幅部61、第1バンドパスフィルタ(以下、「第1BPF」ともいう)62、第1切替部63、第2増幅部64、第2バンドパスフィルタ(以下、「第2BPF」ともいう)65、第2切替部66、差動増幅部67、低域通過型フィルタ(以下、「LPF」ともいう)68、直流増幅部69およびA/D変換部70を備えている。この場合、第1増幅部61は、第2巻線23の一端に接続されて、この一端に発生する検出電流I1を第1電圧信号Vb1に変換して出力する。また、第1増幅部61は、一例として、図2に示すように、第1演算増幅器61a、抵抗61b,61c,61dおよび第1コンデンサ61eを備えて構成されている。この場合、第1演算増幅器61aは、その反転入力端子が第2巻線23の一端に直接接続され、反転入力端子と出力端子との間に抵抗61bが帰還抵抗として接続され、非反転入力端子が抵抗61cを介して接地されて(基準電圧(グランド)が入力される一例)、入力した検出電流I1を電圧信号Vb(振幅が検出電流I1の電流値に比例して変化する信号)に変換して出力する。第1コンデンサ61eは、本発明における第1容量性素子の一例であって、第1演算増幅器61aの後段に配設されて(本例では、その一端が第1演算増幅器61aの出力端子に直接接続されて)、電圧信号Vbに含まれる直流成分を除去する。また、第1コンデンサ61eは、その他端が抵抗61dを介して接地されている。これにより、第1コンデンサ61eにおいて直流成分が除去された電圧信号Vbは、その直流レベルが接地電位(ゼロボルト)に規定されて、ゼロボルトを中心として変化する交流信号である第1電圧信号Vb1として第1増幅部61から出力される。
第1BPF62は、本発明における第1フィルタ部であって、一例としてバンドパスフィルタに構成されて、入力した第1電圧信号Vb1に含まれている交流電圧Vaの高調波成分を除去して(フィルタリング処理して)、第1電圧信号Vb2として出力する。具体的には、第1BPF62は、第1電圧信号Vb1に含まれている交流電圧Vaの基本周波数成分(周波数fの成分。検査用交流信号Vxの基本周波数成分でもある)を選択的に(主として)通過させることで、第1電圧信号Vb2を出力する。この場合、第1BPF62は交流電圧Vaの基本周波数成分以外の不要帯域を除去可能とすべく、急峻な特性のバンドパスフィルタ(Qの極めて高いバンドパスフィルタ)として構成するのが好ましい。しかしながら、この構成を実現するためには、高精度で高価な部品の使用が必須となって、第1BPF62のコストが上昇する。このため、本例の第1BPF62では、高精度で高価な部品の使用を不要とするため、一例として、Qがそれ程高くなく、交流電圧Vaの基本周波数を中心周波数とする所定の幅の帯域に含まれる信号の通過(交流電圧Vaの基本周波数成分のみならず、この基本周波数成分以外の周波数成分の通過)を許容する構成としている。
第1切替部63は、本発明における第1抽出部の一例であって、第1電圧信号Vb2の正側波形および第2BPF65から出力される後述の第2電圧信号Vc2の正側波形で構成される脈流信号である正極性信号Vdを抽出して出力する。具体的には、第1切替部63は、例えばアナログスイッチで構成されて、処理部43から出力される基準信号Sr(図3に示すように交流電圧Vaに同期し、かつデューティ比が0.5のクロック信号)に同期して、同図に示すように、第1電圧信号Vb2と第2電圧信号Vc2とを半周期ずつ切り替えて出力する(同期検波動作する)ことにより、正極性信号Vdを出力する。
第2増幅部64は、第2巻線23の他端に接続されて、この他端に発生する検出電流I1を第2電圧信号Vc1に変換して出力する。また、第2増幅部64は、一例として、図2に示すように、第2演算増幅器64a、抵抗64b,64c,64dおよび第2コンデンサ64eを備えて、第1増幅部61と同一に構成されている。この場合、第2演算増幅器64aは、その反転入力端子が第2巻線23の他端に直接接続され、反転入力端子と出力端子との間に抵抗64bが帰還抵抗として接続され、非反転入力端子が抵抗64cを介して接地されて(基準電圧(グランド)が入力される一例)、入力した検出電流I1を電圧信号Vc(振幅が検出電流I1の電流値に比例して変化し、かつ電圧信号Vbと逆極性の信号)に変換して出力する。第2コンデンサ64eは、本発明における第2容量性素子の一例であって、第2演算増幅器64aの後段に配設されて(本例では、その一端が第2演算増幅器64aの出力端子に直接接続されて)、電圧信号Vcに含まれる直流成分を除去する。また、第2コンデンサ64eは、その他端が抵抗64dを介して接地されている。これにより、第2コンデンサ64eにおいて直流成分が除去された電圧信号Vcは、その直流レベルが接地電位(ゼロボルト)に規定されて、ゼロボルトを中心として変化する交流信号である第2電圧信号Vc1として第2増幅部64から出力される。ここで、第2巻線23の他端に発生する検出電流I1は、一端に発生する検出電流I1と位相が反転したものとなる。このため、第2演算増幅器64aは、入力した検出電流I1を電圧信号Vbと位相が反転した電圧信号Vcに変換して出力する。これにより、第2増幅部64は、ゼロボルトを中心として変化し、かつ第1電圧信号Vb1と位相が反転した交流信号である第2電圧信号Vc1を生成して出力する。
第2BPF65は、本発明における第2フィルタ部であって、一例として第1BPF62と同様のバンドパスフィルタに構成されて、入力した第2電圧信号Vc1に含まれている交流電圧Vaの高調波成分を除去して(フィルタリング処理して)、第2電圧信号Vc2として出力する。第2切替部66は、本発明における第2抽出部の一例であって、第1切替部63と同一の構成を備えて、第1電圧信号Vb2の負側波形および第2電圧信号Vc2の負側波形で構成される脈流信号である負極性信号Veを抽出して出力する。具体的には、第2切替部66は、例えばアナログスイッチで構成されて、基準信号Srに同期して、図3に示すように、第1電圧信号Vb2と第2電圧信号Vc2とを半周期ずつ切り替えて出力する(同期検波動作する)ことにより、負極性信号Veを出力する。
差動増幅部67は、正極性信号Vdおよび負極性信号Veを入力して、これらの信号Vd,Veの差分を演算すると共に、設定された増幅率(本発明における第1増幅率)αでこの差分を増幅して差分信号Vfとして出力する。本例では、差動増幅部67は、一例として、図2に示すように、演算増幅器67a、第1切替部63と演算増幅器67aの非反転入力端子との間に接続された抵抗67b、第2切替部66と演算増幅器67aの反転入力端子との間に接続された抵抗67c、演算増幅器67aの非反転入力端子と基準電圧(この例ではグランド)との間に接続された抵抗67d、互いに直列に接続されて演算増幅器67aの反転入力端子と出力端子との間に接続された抵抗67eおよびスイッチ67f、並びに互いに直列に接続されて抵抗67eとスイッチ67fとで構成される直列回路に対して並列接続された抵抗67g(抵抗67eの抵抗値よりも低い抵抗値)およびスイッチ67hを備えている。また、各スイッチ67f,67hは、処理部43から出力される制御信号S1によって選択された一方がオン状態となり、他方がオフ状態に切替制御される。したがって、本例の差動増幅部67は、一例としてその増幅率αを制御信号S1によって2段階で変更可能な差動増幅部として機能する。また、差分信号Vfは、正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分が増幅されたものであるため、図3に示すように、各極性信号Vd,Veに同期する脈流信号(本例では一例として正側波形で構成される脈流信号であるが、負側波形で構成される脈流信号でもよい)となる。このため、このような信号Vd,Veの差分の演算および増幅を行う差動増幅部67は、上記の構成を備えて、広帯域増幅器として機能する。この場合、差分信号Vfは、検出電流I1の電流値に振幅がそれぞれ比例する電圧信号Vb,Vcに基づいて上記のように生成されるため、差分信号Vfの振幅も検出電流I1の電流値に比例したものとなっている。
LPF68は、差分信号Vfに含まれている交流成分のほとんどを除去して、直流成分Vdc(図3参照)を選択的に通過させる。直流増幅部69は、複数の増幅率のうちから選択された1つの増幅率(本発明における第2増幅率)βで直流成分Vdcを増幅して直流電圧Vdc1として出力する。この場合、直流増幅部69は、処理部43から出力される制御信号S2によって増幅率βが切替制御される。また、直流増幅部69が増幅する信号は直流成分Vdcであるため、直流増幅部69は、差動増幅部67とは異なり広帯域増幅器としては構成されておらず、直流成分を主として増幅する狭帯域増幅器として構成されている。A/D変換部70は、この直流電圧Vdc1をデジタルデータに変換して電流データDiとして出力する。したがって、A/D変換部70から出力される電流データDiは検出電流I1の電流値に比例したデータとなり、この電流データDiに第2巻線23のターン数(N2)が乗算され、かつこの乗算値が上記の差動増幅部67および直流増幅部69の各増幅率α,βで除算されることにより、測定対象回路5に流れる交流電流Ixの電流値が算出される。
処理部43は、CPUおよびメモリ(いずれも図示せず)を備えて構成されて、抵抗測定処理を実行する。出力部44は、一例としてモニタ装置などで構成されて、抵抗測定処理の結果を表示する。飽和監視部45は、正極性信号Vd、負極性信号Veおよび差分信号Vfのうちのいずれか1つの信号(本例では差分信号Vf)の振幅(電圧値)が図3に示すように予め規定されたしきい値Vthに達したときにレンジ切替信号S3の出力を開始すると共に、レンジ切替信号S3の出力状態を所定期間Taだけ維持する。したがって、この所定期間Taよりも短い時間間隔で、差分信号Vfの振幅がしきい値Vthに達する状態が繰り返し発生する場合には、飽和監視部45はレンジ切替信号S3を連続して出力することになる。一方、差分信号Vfの振幅がしきい値Vth未満となった状態が所定期間Ta続いたときには、飽和監視部45は、レンジ切替信号S3の出力を停止する。このような飽和監視部45は、一例として、差分信号Vfの振幅がしきい値Vthに達したことを検出してパルス信号を出力するコンパレータ、およびこのパルス信号をトリガとして所定期間のパルス信号を出力する単安定マルチバイブレータ(いずれも図示せず)で構成することができ、この単安定マルチバイブレータから出力されるパルス信号がレンジ切替信号S3として機能する。この場合、しきい値Vthは、差動増幅部67が飽和したときの差分信号Vfの電圧値を基準として、この電圧値に達する若干手前の電圧値に規定する。例えば、図3に示すように、差分信号Vfが正極性の信号の場合には、差動増幅部67の出力の最大電圧値Vmaxよりも若干低い電圧値にしきい値Vthを規定する。
次に、抵抗測定装置1による抵抗測定処理100について、図4を参照して説明する。なお、一例として、差動増幅部67は、その増幅率αが3倍(「×3」:抵抗67eのときの倍率)および1/2倍(「×1/2」:抵抗67gのときの倍率)の2段階に切替制御可能に構成され、直流増幅部69は、その増幅率βが2倍(「×2」)、20倍(「×20」)および200倍(「×200」)の3段階に切替制御可能に構成されているものとする(図5参照)。これにより、電流検出部42全体での増幅率は、図5に示すように、1倍(「×1」)から600倍(「×600」)までの6種類のうちのいずれか1つに選択的に設定可能となっている。本例では、処理部43は、飽和監視部45からレンジ切替信号S3が出力されていないときには、「600倍(低レンジ)、60倍(第1中レンジ)、6倍(第2中レンジ)、1倍(高レンジ)」の各増幅率で規定される4つの測定レンジ(第1の測定レンジ系)を自動的に切り替えながら検出電流I1を検出する。したがって、この抵抗測定装置1では、後述する非常用の第2の測定レンジ系に優先して第1の測定レンジ系が常用されている。一方、飽和監視部45からレンジ切替信号S3が出力されている場合(本発明における「レンジ切替信号S3が出力された」ときの一例)には、600倍の低レンジおよび1倍の高レンジのときはそのままの測定レンジで、60倍(第1中レンジ。本発明における所定の測定レンジの一つ)のときには、増幅率αを3倍(常用の所定の増幅率)から1/2倍に低下させることでその測定レンジに代えて100倍(第1中レンジ)を、また6倍(第2中レンジ。本発明における所定の測定レンジの他の一つ)のときには、増幅率αを3倍(常用の所定の増幅率)から1/2倍に低下させることでその測定レンジに代えて10倍(第2中レンジ)をそれぞれ使用する「600倍、100倍、10倍、1倍」の各増幅率で規定される4つの測定レンジ(第2の測定レンジ系)を自動的に切り替えながら検出電流I1を検出する。
この抵抗測定処理100では、処理部43は、まず、所定の周波数fの検査用交流信号Vxを測定対象回路5に注入する注入処理を実行する(ステップ101)。具体的には、この注入処理において、処理部43は、周波数fの交流電圧Vaを生成させるための交流波形データDvの電圧注入部41への出力を開始する。これにより、電圧注入部41では、D/A変換部51が、この交流波形データDvを交流電圧(アナログ信号)Vaに変換して出力し、電力増幅部52が、この交流電圧Vaを交流電圧V1に増幅して注入クランプ部11の第1巻線13に印加する。これにより、注入クランプ部11から測定対象回路5に検査用交流信号Vx(周波数f)が注入される。このため、測定対象回路5には、検査用交流信号Vxの注入に起因して、周波数fの交流電流Ixが流れる。また、処理部43は、交流波形データDvの出力開始と同時に、交流波形データDvの一巡するタイミングに同期し、かつ周波数がfに規定された基準信号Srの各切替部63,66への出力も開始する。
この周波数fの検査用交流信号Vxが測定対象回路5へ注入されている状態において、飽和監視部45は、電流検出部42において生成される差分信号Vfの振幅がしきい値Vthに達したか否かの検出を実行する。また、電流検出部42は、現在の測定レンジで交流電流Ixを検出して、電流データDiを生成する。具体的には、電流検出部42では、検出クランプ部21が、測定対象回路5に流れる交流電流Ixを検出して、その第2巻線23から検出電流I1を出力し、第1および第2増幅部61,64が、この検出電流I1を第1および第2電圧信号Vb1,Vc1に変換して出力する。この場合、この電流検出部42では、従来の構成(検出コイルとしての第2巻線23をシングルエンドで使用し、電流検出のための抵抗を直列に接続する構成)とは異なり、第2巻線23の各端部を演算増幅器61a,64aの反転入力端子に接続する構成としたことにより、ゲインの低下や周波数特性の劣化を招くおそれのある電流検出用の抵抗(シャント抵抗)を不要とすることができ、十分な検出ゲインを維持しつつ良好な周波数特性が確保されている。
次いで、第1および第2BPF62,65が、対応する電圧信号Vb1,Vc1に含まれている高調波成分を除去して、第1および第2電圧信号Vb2,Vc2として出力し、各切替部63,66が、この第1および第2電圧信号Vb2,Vc2を基準信号Srに同期して切り替えることにより、正極性信号Vdおよび負極性信号Veを生成して出力する。この場合、ノーマルモードノイズが検出電流I1に含まれていたとしても、各切替部63,66による基準信号Srに同期した各信号Vb2,Vc2に対する上記の切替動作により、このノーマルモードノイズが除去される。
続いて、差動増幅部67が、この正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算すると共に、現在の測定レンジに対応する増幅率αでこの差分を増幅して差分信号Vfとして出力する。次いで、LPF68が差分信号Vfに含まれている直流成分Vdcを選択的に通過させ、直流増幅部69が、この直流成分Vdcを現在の測定レンジに対応する増幅率βで増幅して直流電圧Vdc1として出力する。最後に、A/D変換部70が、この直流電圧Vdc1をデジタルデータに変換して電流データDiとして処理部43に出力する。この場合、電流検出部42では、第2巻線23の各端部に接続された第1増幅部61と第2増幅部64とが、それぞれが接続された第2巻線23の端部に発生する検出電流I1に基づいて、互いの位相が反転する第1電圧信号Vb1と第2電圧信号Vc1とを出力し、差動増幅部67が、これらの信号Vb1,Vc1に基づいて各切替部63,66で生成される正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算して差分信号Vfを生成する。このため、検出電流I1にコモンモードノイズが重畳していたとしても、差動増幅部67が差分演算を行うことにより、このノイズがキャンセルされる。
次いで、処理部43は、電流データDiに基づいて検出電流I1の電流値(本例では電流実効値)を算出する算出処理を実行する(ステップ102)。この電流値の算出処理では、処理部43は、電流データDiと現在の電流検出部42の測定レンジ(具体的には各増幅率α,β)に基づいて、検出電流I1の電流値を算出する。続いて、処理部43は、レンジ切替処理を実行する(ステップ103)。このレンジ切替処理では、処理部43は、算出した検出電流I1の電流値と、電流検出部42に対して現在設定している測定レンジについて予め規定されたレンジ切替用の上限しきい値および下限しきい値とを比較して、算出した検出電流I1の電流値が上限しきい値以上のときには電流検出部42の現在の測定レンジを1つ上の測定レンジに切り替える切替制御を、また算出した検出電流I1の電流値が上限しきい値より小さく下限しきい値よりも大きいときには電流検出部42に対して現在の測定レンジを維持する切替制御を、また算出した検出電流I1の電流値が下限しきい値以下のときには電流検出部42の現在の測定レンジを1つ下の測定レンジに切り替える切替制御を電流検出部42に対して各制御信号S1,S2を出力することによってそれぞれ実行する。
具体的には、図3に示す期間T1のときのように、広帯域増幅器として構成された差動増幅部67が外来ノイズの影響をほとんど受けることなく非飽和領域内で正常動作しているときには、差分信号Vfにこの外来ノイズがほとんど重畳せず、この結果、差分信号Vfがしきい値Vthに達しないため、飽和監視部45はレンジ切替信号S3を出力しない。この場合には、上記したように、処理部43は、「600倍、60倍、6倍、1倍」の各増幅率で規定される4つの測定レンジを自動的に切り替えながら検出電流I1を検出する。
一方、図3に示す期間T2のときのように、差動増幅部67が外来ノイズの影響を受けて、差分信号Vfにこの外来ノイズが重畳しているときには、外来ノイズが重畳した部分において差分信号Vfがしきい値Vthに達することがあり、この場合には、飽和監視部45は、差動増幅部67が飽和している可能性があるため、レンジ切替信号S3を出力する。この状態では、処理部43は、上記したように「600倍、100倍、10倍、1倍」の各増幅率で規定される4つの測定レンジを自動的に切り替えながら検出電流I1を検出する。この構成では、高レンジおよび低レンジを除く2つの中位の測定レンジ「100倍、10倍」において、外来ノイズの影響を受けにくい直流増幅部69の増幅率βを、「100倍」については対応する第1中レンジの「60倍」における×20の倍率から×200の倍率に、また「10倍」については対応する第2中レンジの「6倍」における×2の倍率から×20の倍率にそれぞれ上げることで、直流増幅部69を構成する演算増幅器のオフセットなどの影響が増加して、この点において検出の確度は若干低下するものの、広帯域増幅器として構成されて外来ノイズの影響を受けやすい差動増幅部67の増幅率αを、第1中レンジの「100倍」および第2中レンジの「10倍」の双方について対応する第1中レンジの「60倍」および対応する第2中レンジの「6倍」における×3の倍率から×1/2の倍率に低下させて、より大きな影響を検出精度に対して及ぼす差動増幅部67の飽和を回避することができる。このため、電流検出部42全体として外来ノイズによる差動増幅部67の飽和に起因する大幅な検出精度の低下を回避しつつ検出電流I1を検出可能となる。
処理部43は、上記のレンジ切替処理の実行後に、電流検出部42が適切な測定レンジに切替制御されたか否か、つまり電流検出部42に対して現在の測定レンジを維持する切替制御を行ったか否かを判別しつつ(ステップ104)、適切でないと判別したときには、上記ステップ102〜104を繰り返し実行して、電流検出部42の測定レンジを適切な測定レンジに切り替える。
次いで、処理部43は、測定対象回路5の抵抗値Rxの算出処理を実行する(ステップ105)。この算出処理では、処理部43は、まず、交流電圧V1の電圧実効値および第1巻線13のターン数(N1)に基づいて検査用交流信号Vxの電圧実効値を算出すると共に、ステップ102において算出した検出電流I1の電流値(電流実効値)および第2巻線23のターン数(N2)に基づいて交流電流Ixの電流値(本例では電流実効値)を算出する。次いで、処理部43は、算出した検査用交流信号Vxおよび交流電流Ixの各実効値に基づいて、交流電圧V1の周波数がfのときの測定対象回路5の抵抗値Rxを算出すると共に、算出した抵抗値Rxを周波数fに対応させてメモリに記憶する。本例では一例として、処理部43は、この抵抗値Rxの算出に際して、抵抗値Rxを複数回算出すると共に、これらの平均(一例として移動平均)を算出して、最終的な抵抗値Rxとする。これにより、抵抗値Rxの算出処理が完了する。最後に、処理部43は、算出した抵抗値Rxを出力部44に出力させる(ステップ106)。これにより、抵抗測定処理が完了する。
このように、この抵抗測定装置1によれば、処理部43が、所定の測定レンジ(2つの中レンジ)に切替制御されている状態においてレンジ切替信号S3を入力していないときには、増幅率(第1増幅率)αを常用の所定の増幅率(上記例では3倍)に規定し、所定の測定レンジ(2つの中レンジ)に切替制御されている状態においてレンジ切替信号S3を入力したときには、増幅率αを所定の増幅率(上記例では3倍)よりも低下させる(1/2倍にする)ことにより、この所定の測定レンジにおいては、差分信号Vfに外来ノイズが重畳しているとき、すなわち外来ノイズの存在下において差動増幅部67の飽和を回避することができるため、電流検出部42全体として外来ノイズの影響による大幅な検出精度の低下を回避しつつ検出電流I1を検出でき、ひいては測定対象回路5の抵抗値Rxの大幅な検出精度の低下を回避することができる。また、高価な高精度の部品が必要となる急峻なバンドパスフィルタ(Qの高いバンドパスフィルタ)を不要にできるため、製品価格を高騰させることなく、測定対象回路5の抵抗値の大幅な検出精度の低下を防止することができる。
また、この抵抗測定装置1によれば、差分信号Vfの振幅がしきい値Vthに達したときに飽和監視部45がレンジ切替信号S3の処理部43への出力を開始するため、差分信号Vfに外来ノイズが重畳しているとき、すなわち外来ノイズの存在下において、差動増幅部67の飽和を自動的に回避して、大幅な検出精度の低下を自動的に回避することができる。
また、この抵抗測定装置1によれば、第2巻線23の一端が反転入力端子に接続された第1演算増幅器61aを有して第2巻線23に流れる電流I1を第1電圧信号Vb1に変換して出力する第1増幅部61と、第2巻線23の他端が反転入力端子に接続された第2演算増幅器64aを有して第2巻線23に流れる電流I1を第1電圧信号Vb1と位相が反転した(第1電圧信号Vb1と逆位相の)第2電圧信号Vc1に変換して出力する第2増幅部64と、基準信号Srに同期して第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2を同期検波して(半周期ずつ切り替えて)第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2の正側波形のみで構成される正極性信号Vdを出力する第1切替部63と、基準信号Srに同期して第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2を同期検波して(半周期ずつ切り替えて)第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2の負側波形のみで構成される負極性信号Veを出力する第2切替部66と、正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算して差分信号Vfとして出力する差動増幅部67とを備えて電流検出部42が構成されている。
一方、従来の抵抗測定装置では、検出用変成器に形成されている検出用コイルが、一端が接地される構成(シングルエンド)となり、検出コイルに対して並列にシャント抵抗を接続する必要があると共に、外部からの誘導に起因してグランドに流れ込む誘導電流の影響を受け易く、この影響を低減するためには検出用変成器用にシールドを設けると共にこのシールドを接地する必要がある。しかしながら、このようにシールドを接地する構成を採用した場合には、安全規格(例えばIEC61010国際安全規格などの安全規格)上、不利になるという問題点が存在している。したがって、この従来の抵抗測定装置と比較して、この抵抗測定装置1によれば、シングルエンドでの第2巻線23の使用や、シャント抵抗の使用が回避できるため、安全規格をクリアしつつ、十分な検出ゲインを維持しつつ良好な周波数特性を確保することができる。
また、第2巻線23の各端部に接続された第1増幅部61と第2増幅部64とが、第2巻線23に発生する検出電流I1に基づいて、互いの位相が反転する第1電圧信号Vb1と第2電圧信号Vc1とを出力し、差動増幅部67が、これらの信号Vb1,Vc1に基づいて各切替部63,66で生成される正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算して差分信号Vfを生成する構成のため、検出電流I1にコモンモードノイズが重畳していたとしても、差動増幅部67での差分演算において、コモンモードノイズをキャンセルすることができる。また、各切替部63,66が、第1および第2電圧信号Vb2,Vc2を基準信号Srに同期して切り替えて(同期検波して)、正極性信号Vdおよび負極性信号Veを生成して出力する構成のため、ノーマルモードノイズが検出電流I1に含まれている場合でも、このノーマルモードノイズを除去することができる。
また、この抵抗測定装置1によれば、各演算増幅器61a,64aの後段にコンデンサ61e,64eをそれぞれ配設したことにより、各演算増幅器61a,64aのオフセット電圧がばらついていたとしても、このオフセット電圧(直流電圧)を除去することができるため、交流電流Ixの電流実効値、ひいては抵抗値Rxの測定精度を向上させることができる。
また、この抵抗測定装置1によれば、コンデンサ61e,64eの各後段にBPF62,65をそれぞれ配設したことにより、第1電圧信号Vb1および第2電圧信号Vc1に含まれる高調波成分を除去できるため、交流電流Ixの電流実効値、ひいては抵抗値Rxの測定精度を一層向上させることができる。
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、上記の構成では、電流検出部42を2つの切替部63,66を有する構成としたが、図6に示す抵抗測定装置1Aの電流検出部42Aのように、1つの切替部71を有する構成を採用することもできる。以下、抵抗測定装置1Aについて、図6〜図8を参照して説明する。なお、抵抗測定装置1Aは、電流検出部42Aの切替部71以外の構成については抵抗測定装置1と同一に構成されている。このため、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略し、相違する電流検出部42Aの構成についてのみ説明する。
電流検出部42Aは、検出クランプ部21、第1増幅部61、第1BPF62、第2増幅部64、第2BPF65、差動増幅部67、切替部71、LPF68、直流増幅部69およびA/D変換部70を備えている。差動増幅部67は、第1BPF62から出力される第1電圧信号Vb2と第2BPF65から出力される第2電圧信号Vc2とを入力して、これらの信号Vb2,Vc2の差分信号Vgを出力する。本例では、差動増幅部67は、一例として、図7に示すように、抵抗測定装置1と同じ差動増幅部として構成されている。この構成により、差動増幅部67は、同図に示すように、第1電圧信号Vb2と第2電圧信号Vc2の差分を検出して、差分信号Vgとして出力する。この差分信号Vgは、その振幅が検出電流I1の電流値に比例する交流信号となる。
切替部71は、本発明における抽出部の一例であって、基準信号Srに同期して差分信号Vgを同期検波して、差分信号Vgの正側波形のみまたは負側波形のみ(本例では、図8に示すように一例として正側波形のみ)で構成される片極性信号Vhを抽出して出力する。具体的には、切替部71は、例えばアナログスイッチで構成されて、処理部43から出力される基準信号Srに同期して、同図に示すように、差分信号Vgと基準電圧(グランド電位)とを半周期ずつ切り替えて出力する(同期検波動作する)ことにより、正極性信号である片極性信号Vhを出力する。LPF68は、片極性信号Vhに含まれている交流成分のほとんどを除去して、直流成分Vdc(図8参照)を選択的に通過させる。直流増幅部69は、図6に示すように、増幅率βで直流成分Vdcを増幅して直流電圧Vdc1として出力する。A/D変換部70は、この直流電圧Vdc1をデジタルデータに変換して電流データDiとして出力する。この場合、この電流データDiは、検出電流I1を表すデータとなる。
したがって、この抵抗測定装置1Aにおいても、抵抗測定装置1と同様にして、処理部43が、電流データDiに基づいて検出電流I1の電流値(本例では電流実効値)を算出し、次いで、交流電圧V1の電圧実効値および第1巻線13のターン数(N1)に基づいて検査用交流信号Vxの電圧実効値を算出すると共に、算出した検出電流I1の電流実効値および第2巻線23のターン数(N2)に基づいて交流電流Ixの電流値(本例では電流実効値)を算出し、最後に、これら検査用交流信号Vxおよび交流電流Ixの各実効値に基づいて測定対象回路5の抵抗値Rxを算出することができる。
このように、この抵抗測定装置1Aによれば、片極性信号Vhの振幅がしきい値Vthに達したときに飽和監視部45が図8に示すようにレンジ切替信号S3の出力を開始し、処理部43は、レンジ切替信号S3が出力されているときに、所定の測定レンジ(2つの中レンジ)に切替制御されている状態においてレンジ切替信号S3が出力されていないときには、増幅率(第1増幅率)αを常用の所定の増幅率(上記例では3倍)に規定し、所定の測定レンジ(2つの中レンジ)に切替制御されている状態においてレンジ切替信号S3が出力されたときには、増幅率αを所定の増幅率(上記例では3倍)よりも低下させる(1/2倍にする)ことにより、この所定の測定レンジにおいては、片極性信号Vhに外来ノイズが重畳しているとき、すなわち外来ノイズの存在下において差動増幅部67の飽和を回避することができるため、電流検出部42A全体として外来ノイズの影響による大幅な検出精度の低下を回避しつつ検出電流I1を検出でき、ひいては測定対象回路5の抵抗値Rxの大幅な検出精度の低下を回避することができる。
また、この抵抗測定装置1Aも、片極性信号Vhの振幅がしきい値Vthに達したときに飽和監視部45がレンジ切替信号S3の処理部43への出力を開始するため、片極性信号Vhに外来ノイズが重畳しているとき、すなわち外来ノイズの存在下において、差動増幅部67の飽和を自動的に回避して、大幅な検出精度の低下を自動的に回避することができる。
また、この抵抗測定装置1Aも、抵抗測定装置1と同様にして、シングルエンドでの第2巻線23の使用や、シャント抵抗の使用が回避できるため、十分な検出ゲインを維持しつつ良好な周波数特性を確保することができる。また、差動増幅部67が第1BPF62から出力される第1電圧信号Vb2と第2BPF65から出力される第2電圧信号Vc2との差分信号Vgを算出して出力する構成のため、検出電流I1にコモンモードノイズが重畳していたとしても、差動増幅部67での差分演算において、コモンモードノイズをキャンセルすることができる。また、切替部71が差分信号Vgを同期検波する構成のため、ノーマルモードノイズが検出電流I1に含まれている場合でも、このノーマルモードノイズを除去することができる。
また、増幅率αについては2段階に、増幅率βについては3段階に切り替える例について上記したが、各増幅率α,βの切り替え段数はこれに限定されず、増幅率αについては3,4・・・というようにさらに段数を増やしてもよいし、増幅率βについては、2段階に下げたり、4,5・・・というように段数を増やしてもよいのは勿論である。また、600倍(低レンジ)および1倍(高レンジ)については、レンジ切替信号S3が出力されていないときと、出力されているときとの双方で共通に用いる構成を採用したが、これらについても各中レンジの組(60倍および6倍の測定レンジの組と、これに対応する100倍および10倍の測定レンジの組)のように、増幅率αの切り替えによって各増幅率α,βの乗算値で規定される測定レンジの倍率が切り替わる構成としてもよいのは勿論である。また、抵抗測定装置1では、飽和監視部45が、しきい値Vthを差分信号Vfと比較する構成としたが、差分信号Vfに代えて、正極性信号Vdおよび負極性信号Veのうちのいずれか1つと比較する構成を採用することもできる。
また、例えば、上記の抵抗測定装置1,1Aでは、各演算増幅器61a,64aの後段にコンデンサ61e,64eをそれぞれ配設しているが、各演算増幅器61a,64aのオフセット電圧が極めて小さなときには、コンデンサ61e,64eを配設しない構成を採用することもできる。この構成では、各抵抗61d,64dについても不要とすることができる。また、抵抗値Rxの測定精度の向上のために第1および第2BPF62,65を使用する構成について上記したが、必要とされる測定精度が確保できるときには、第1および第2BPF62,65を配設しない構成を採用することもできる。また、本発明における抽出部の一例として、各切替部63,66や、切替部71を使用した例について上記したが、乗算器を使用して同期検波する構成を採用することもできる。また、検査用交流信号Vxの電圧値としての電圧実効値と交流電流Ixの電流値としての電流実効値とに基づいて抵抗値Rxを算出する例について上記したが、電圧値は電圧実効値に限定されるものではなく、また電流値も電流実効値に限定されるものではない。具体的には、検査用交流信号Vxの電圧値としての電圧平均値と交流電流Ixの電流値としての電流平均値とに基づいて抵抗値Rxを算出する構成や、検査用交流信号Vxの電圧値としてのピークtoピーク値(電圧振幅)と交流電流Ixの電流値としてのピークtoピーク値(電流振幅)とに基づいて抵抗値Rxを算出する構成や、検査用交流信号Vxの電圧値としての電圧ピーク値と交流電流Ixの電流値としての電流ピーク値とに基づいて抵抗値Rxを算出する構成を採用することもできる。
また、例えば、上記の抵抗測定装置1,1Aでは、飽和監視部45を備え、外来ノイズの存在下において差動増幅部67の飽和を自動的に回避して、大幅な検出精度の低下を自動的に回避する構成を採用したが、飽和監視部45に代えて、図1,6に示すように、操作内容に応じてレンジ切替信号S3を生成して処理部43に出力する操作部46を備える構成を採用することもできる。この構成の抵抗測定装置1,1Aによれば、作業者が例えば出力部44に出力されている抵抗値Rxのばらつき状態や抵抗測定装置1,1Aの使用環境などから外来ノイズの影響を受けると判断したときには、操作部46に対する操作により、常用の第1の測定レンジ系から非常用の第2の測定レンジ系に手動で切り替えることができ、差動増幅部67の飽和、ひいては大幅な検出精度の低下を回避しつつ、抵抗測定を実施することができる。