以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1.本発明に係るホログラム記録媒体の特徴 >>>
本発明の特徴は、図1の概念図に示されているように、立体原画像10と平面原画像20とを同一の記録媒体30上に重畳して記録する点にある。立体原画像10は、三次元空間上に定義された画像であり、ここでは説明の便宜上、図示のような「ピラミッドと球を並べてなる立体像」を立体原画像10として用いる例を述べることにする。一方、平面原画像20は、二次元平面上に定義された画像であり、それぞれ所定の属性値をもった複数の単位領域の集合から構成されている。ここでは説明の便宜上、図示のような「星マークおよびOKなる文字」を平面原画像20として用いる例を述べることにする。この場合、「星マークおよびOKなる文字」の内部の領域が第1の属性値(絵柄属性)をもつ領域になり、外部の領域が第2の属性値(背景属性)をもつ領域になる。
なお、図1では、記録媒体30の内部に波形ハッチングを施しているが、これは、記録媒体30上に各画像が干渉縞もしくは回折格子として記録されていることを模擬的に示すためのものである。
本発明に係るホログラム記録媒体30には、立体原画像10と平面原画像20とが重畳して記録されているため、観察条件に応じて、これらの画像を選択的に、あるいは両画像を融合させた状態で観察することが可能である。図2は、図1に示すホログラム記録媒体30に与える再生用照明光の照射方向を変えることにより、再生像が変化する様子を示す図である。ここでは、ホログラム記録媒体30を正面方向から観察した例が示されている。すなわち、図2(a) に示すように、記録媒体30の上方から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、立体原画像10が再生像として観察され、図2(b) に示すように、記録媒体30の横方向から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、平面原画像20が再生像として観察される。
なお、本願において「記録媒体の上方から再生用照明光Lを照射する」という意味は、図2(a) に示すように、記録媒体30を正面から観察した状態において、再生用照明光Lの光束が図の上方から入射するように見える状態を意味する。実際には、再生用照明光Lは、記録媒体30の表面に対して所定の入射角θをなす方向から斜めに入射することになる(たとえば、後述する図18に示す観察環境参照)。同様に、本願において「記録媒体の横方向から再生用照明光Lを照射する」という意味は、図2(b) に示すように、記録媒体30を正面から観察した状態において、再生用照明光Lの光束が図の左方(もしくは右方)から入射するように見える状態を意味する。この場合も、実際には、再生用照明光Lは、記録媒体30の表面に対して所定の入射角θをなす方向から斜めに入射することになる。
もちろん、実環境で記録媒体30を観察する場合、再生用照明光Lの照射条件は、図2に示すような画一的なものにはならない。たとえば、室内で記録媒体30を観察する場合であれば、窓からの太陽光や照明器具からの直接照明光だけでなく、壁や家具などからの反射光も記録媒体30に照射されるため、実際の照明環境は極めて複雑なものになる。したがって、図2(a) に示すように立体原画像10のみが観察されたり、図2(b) に示すように平面原画像20のみが観察されたりすることは、むしろ稀であり、通常は両画像が同時に観察されることになる。
ただ、観察者が記録媒体30を手に保持した状態で、向きや角度を変えることにより、主に立体原画像10が観察される状態が得られたり、主に平面原画像20が観察される状態が得られたりするので、観察者から見れば、観察条件によって、2通りの再生像が得られることになる。
このように、立体原画像10と平面原画像20とが重畳して記録されているホログラム記録媒体30は、非常に信頼性の高い偽造防止用シールとして利用することが可能である。たとえば、図1に示す記録媒体30をクレジットカード用の偽造防止用シールとして利用した場合、主たるモチーフとなる「ピラミッドと球を並べてなる立体像」の中に、「星マークおよびOKなる文字」が潜像として埋め込まれていることになるので、この「星マークおよびOKなる文字」が偽造防止用のいわば「透かし」としての機能を果たすことになる。観察者は、図2(a) に示すように、主たるモチーフとなる立体像を確認するとともに、クレジットカードの向きや角度を変え、図2(b) に示すように、「透かし」として機能する潜像の存在を確認することができるので、真偽の判別をより厳格に行うことができる。
既に述べたとおり、立体原画像と平面原画像とを同一の記録媒体上に重畳して記録する方法の一形態は、前掲の特許文献1,2に開示されている。図3は、特許文献1(特開2001−083866号公報)に開示されている重畳記録方法の基本概念を示すための記録面の平面図である。図示の例では、媒体30上の記録面は、立体原画像記録領域A11と平面原画像記録領域A12との2つの領域に分割されている(各領域の相違を示すために、領域ごとに異なるハッチングを施して示す)。そして、立体原画像記録領域A11には、立体原画像がホログラムの干渉縞として記録され、平面原画像記録領域A12には、平面原画像が回折格子パターンとして記録されることになる。
しかしながら、この方法では、立体原画像を記録した領域A11と平面原画像を記録した領域A12とを隣接配置した媒体が得られるだけであり、同一の記録媒体30上に両画像が重畳して記録されるわけではない。このため、三次元の立体像内に二次元の潜像が埋め込まれた効果を得ることはできない。
一方、図4は、特許文献2(特開2001−109362号公報)に開示されている重畳記録方法の基本概念を示すための記録面の平面図である。図示の例では、媒体30上の記録面は、横方向に細長い多数の短冊状領域に分割されている。そして、たとえば、奇数番目の短冊状領域A21には立体原画像の記録を行い、偶数番目の短冊状領域A22には平面原画像の記録を行う、という手法を採れば、立体原画像と平面原画像との双方を同一の媒体上に記録することができる(図4では、奇数番目の領域と偶数番目の領域とに異なるハッチングを施して示してある)。
この図4に示す方法では、隣接配置された多数の短冊状領域に、立体原画像と平面原画像とが交互に記録されることになるため、記録媒体全体にわたって、立体原画像と平面原画像とが観察できる。したがって、2つの画像が記録面の全領域にわたって重複して記録されているという印象を与えることができる。しかしながら、立体原画像が記録されている領域の面積は記録面全体の半分であり、平面原画像が記録されている領域の面積も記録面全体の半分であるため、再生像の明るさは、いずれも本来の半分になってしまうという問題がある。
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、同一の媒体上に立体原画像と平面原画像との双方を重畳して記録することができ、しかも明るい再生像を得ることができるホログラム記録媒体を実現する方法を提供するものである。
<<< §2.一般的な計算機合成ホログラムの製造方法 >>>
図5は、光学的に干渉縞として立体像を記録する一般的なホログラフィーの手法を示す斜視図である。実在の物体10からなる立体原画像を記録媒体30上に記録する場合、この物体10を参照光Rと同一波長の光(通常は、レーザ光)で照らし、物体10からの物体光と参照光Rとによって記録媒体30上に形成される干渉縞を記録することになる。ここでは、記録媒体30上にXY座標系を定義し、座標(x,y)に位置する任意の点P(x,y)に着目すると、この点P(x,y)には、物体10上の各点O(1),O(2),...,O(k),...,O(K)からの各物体光と参照光Rとの干渉によって得られる干渉波の強度が記録されることになる。記録媒体30上の別な点P(x′,y′)にも、同様に、各点からの物体光と参照光Rとの干渉によって得られる干渉波の強度が記録されるが、光の伝播距離が異なるため、点P(x,y)に記録される干渉波強度と点P(x′,y′)に記録される干渉波強度とは異なる。
このようにして、記録媒体30上には、干渉波の強度分布がホログラム干渉縞として記録されることになり、このホログラム干渉縞が、物体10の立体像としての情報をもつことになる。再生時には、参照光Rと同一波長の再生用照明光を参照光Rと同一方向(もしくは、記録媒体30に関して面対称となる方向)から照射することにより、物体10の立体再生像が得られる。
光学的な方法により、記録媒体30上に干渉縞を記録するには、記録媒体30として感光性材料を用いることになり、干渉縞は記録媒体30上の濃淡パターンとして記録されることになる。一方、計算機合成ホログラムの手法を利用する場合には、この図5に示す光学系で生じる現象を、コンピュータ上でシミュレーションすればよい。具体的には、実在の物体10や記録媒体30の代わりに、コンピュータ上の仮想三次元空間内において、立体原画像10および記録面30を定義し、立体原画像10上に多数の点光源O(1),O(2),...,O(k),...,O(K)を定義する。そして、各点光源について、所定の波長、振幅、位相をもった物体光(球面波)を定義し、更に、この物体光と同一波長をもった参照光を定義する。一方、記録面30上に、多数の演算点P(x,y)を定義し、個々の演算点の位置に到達する物体光の合成波と参照光とによって生じる干渉波の強度を演算によって求める。こうして、記録面30上には、演算によって干渉波の強度分布(干渉縞)が求まるので、この強度分布を物理的な記録媒体上に、濃淡分布あるいは凹凸分布として記録すれば、物理的なホログラム記録媒体を作成することができる。
図6は、記録面30上の演算点P(x,y)における干渉波強度を演算するための具体的な演算式の一例を示す図である。たとえば、図示のような点光源Oと記録面30とが定義されている場合に、記録面30上の演算点P(x,y)に到達した物体光の振幅と位相がどのように計算されるかを考えてみよう。一般に、振幅と位相とを考慮した波動は、
A cos θ + i A sin θ
なる複素関数で表現される(iは虚数単位)。ここで、Aが振幅を示すパラメータであり、θが位相を示すパラメータである。そこで、点光源Oから発せられる物体光を、上記複素関数で定義すれば、代表点P(x,y)の位置における物体光は、
A/r・ cos (θ+2πr/λ)
+ i A/r・ sin (θ+2πr/λ)
なる複素関数で表される。ここで、rは、点光源Oと演算点P(x,y)との距離であり、λは物体光の波長である。物体光の振幅は距離rが大きくなるにしたがって減衰し、位相は距離rと波長λとの関係で決定される。
立体原画像10の情報を記録面30上に記録するには、図5の斜視図に示されているように、立体原画像10上に多数の点光源O(1),O(2),...,O(k),...,O(K)を定義し、記録面30上の各演算点位置において、各点光源から発せられる物体光の合成波と参照波Rとの干渉によって得られる干渉波の振幅を、上述した演算式を利用した演算によって求めればよい。このような具体的な演算自体は既に公知の技術であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
なお、ここでは立体原画像10上に多数の点光源を定義した例を示したが、物体光を発する光源は必ずしも点光源にする必要はなく、線光源や面光源にしてもかまわない。線光源や面光源を用いた場合の干渉波強度演算の手法も既に公知の技術であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
ところで、感光性材料からなる記録媒体30を用いて、光学的な干渉縞を記録する一般的なホログラフィーの手法を採れば、記録媒体30上にアナログ的に連続した干渉縞パターンが得られるが、計算機合成ホログラムの場合、上述したとおり、干渉波強度は特定の演算点の位置についてのみ演算されるので、記録面30上には干渉波強度の離散的な分布が得られることになり、実際の記録媒体上には、この離散的な干渉波強度分布が光学的に認識可能な態様で記録されることになる。
図7は、図5に示す光学的現象をコンピュータ上でシミュレートする上で、記録面30上に定義される演算点PおよびセルCを示す平面図である。図示の例では、横方向(X軸方向)に一定ピッチPx、縦方向(Y軸方向)に一定ピッチPyで、多数の演算点P(黒丸で示す)が格子状に配置された状態が示されている。光学的な干渉縞を記録するためには、演算点PのピッチPx,Pyは、光の波長程度のオーダーに設定する必要がある。図示の例では、Px=0.4μm、Py=0.2μmに設定されている。
演算点の配置は、必ずしも縦横の格子状にする必要はないが、実用上は、図7に示す例のように、XY平面上に置かれた記録面30上に、横格子線を一定ピッチPyで配置し、縦格子線を一定ピッチPxで配置し(図7には、格子線自体は図示されていない)、両格子線の交点(格子点)位置に、各演算点Pを定義するのが好ましい。結局、記録面30上には多数の演算点Pが行列状に配置されることになるので、ここでは、第i行第j列目の演算点をP(i,j)と記すことにする。
図示のとおり、個々の演算点Pについて、当該演算点Pを内包する図形としてセルCが定義されている。たとえば、第i行第j列目の演算点P(i,j)を内包する図形としては、セルC(i,j)が定義されている。図7の下段には、このセルC(i,j)の拡大図を示す。ここに示す例では、各セルCは、記録面30を隙間なく埋め尽くすことが可能な矩形から構成されている。そのため、セルC(i,j)は、その横幅が演算点の横方向ピッチPxに等しい0.4μmに設定され、縦幅が演算点の縦方向ピッチPyに等しい0.2μmに設定され、その中心に演算点P(i,j)がくるような矩形になっている。演算点P(i,j)が、幾何学的な点であるのに対して、セルC(i,j)は、所定の面積をもった閉領域であり、干渉縞を物理的に記録する役割を果たす。
既に述べたとおり、図5に示す光学的現象をコンピュータ上でシミュレートすることにより、図7に示す個々の演算点Pの位置について、それぞれ干渉波強度Aが求められる。ここでは、演算点P(i,j)について算出された干渉波強度をA(i,j)と記す。この干渉波強度A(i,j)は、単なる数値であるが、記録面30上には、この干渉波強度Aの分布を光学的な干渉縞として記録する必要がある。そこで、ここでは、その一例として、この干渉縞を黒と白との濃淡模様として表現する例を説明しよう。
いま、図8(a) 〜(e) に示すような5種類のセルパターンを用意する。これらのセルパターンは、いずれも図7に示すセルC(i,j)と同一形状、同一サイズの矩形状の輪郭をもつパターンであり、黒い領域(図では斜線ハッチングの部分として示す)と白い領域(図では白地の部分として示す)とによって構成されている。各セルパターンの横幅はいずれも0.4μmであるが、黒い領域の横幅は、それぞれ0μm,0.1μm,0.2μm,0.3μm,0.4μmに設定されており、セルの全面積に対する黒い領域の面積比率は、それぞれ0%,25%,50%,75%,100%になっている。
ここで、セルC(i,j)については、その中心に位置する演算点P(i,j)について算出された干渉波強度A(i,j)の値に応じて、図8(a) 〜(e) の5種類のセルパターンのいずれか1つを選択するようにする。具体的には、干渉波強度A(i,j)が大きければ大きい程、黒い領域の面積が大きくなるような選択を行うようにすればよい(あるいは、逆に、黒い領域の面積が小さくなるような選択でもよい)。たとえば、多数の演算点について算出された干渉波強度Aのフルレンジが0〜100となるような規格化を行い、0≦A<20の場合は図8(a) のセルパターン、20≦A<40の場合は図8(b) のセルパターン、40≦A<60の場合は図8(c) のセルパターン、60≦A<80の場合は図8(d) のセルパターン、80≦A≦100の場合は図8(e) のセルパターンをそれぞれ選択すればよい。
記録面30上には、図7の上段に示すように、多数のセルCが配列されることになるが、個々のセルC内に、その演算点Pについて算出された干渉波強度Aに応じたセルパターンを選択して割り付けるようにすれば、記録面30上には、黒い領域と白い領域との分布として濃淡模様が形成される。この濃淡模様は、図5に示す光学的現象のシミュレーション結果として、記録面30上に得られる干渉波強度分布を示すホログラム干渉縞である。したがって、この濃淡模様を物理的媒体上に形成すれば、当該媒体は、立体原画像10が記録されたホログラム記録媒体になる。
なお、図8に示す例では、5種類のセルパターンを用意したため、干渉波強度Aの値を5段階に量子化した上で、対応するセルパターンの選択を行うことになる。もちろん、量子化の段階をより多くすれば、干渉波強度Aをより正確にセルに記録することが可能になるが、実用上は、黒い領域や白い領域を形成する技術における寸法精度(画像の解像度)には限界があるため、量子化の段階数には技術的限界がある。たとえば、電子線を走査して黒い領域を描画する場合、一般的な電子線描画装置の解像度の限界は0.1μm程度であるので、現時点では、図8に示す例のように、黒い領域の幅を0.1μm刻みで増加させることにより、5種類のセルパターンを用意するのが技術的限界である。
以上、説明の便宜上、図8に示す各セルパターンが、黒い領域と白い領域とによって構成されているものとし、記録面30上に白黒の濃淡模様としてホログラム干渉縞を記録する例を述べた。しかしながら、ホログラム干渉縞は、必ずしも白黒の濃淡模様として記録する必要はなく、互いに光学的特性が異なる2つの微小な光学領域の混在模様として記録することができれば足りる。
図8に示す各セルパターンは、結局、1つのセルCを、図に斜線ハッチングの部分として示す第1の光学領域と、白地の部分として示す第2の光学領域とに分割する分割態様のバリエーションを示していることなる。1つのセルCは、その演算点Pについて求められた干渉波強度Aに応じた面積比で、第1の光学領域と第2の光学領域とに分けられる。そして、記録面30に対応する対応面をもった物理的媒体上では、第1の光学領域に対応する領域と第2の光学領域に対応する領域とが互いに異なる光学特性を示すような加工が施されていればよい。具体的には、反射型のホログラム記録媒体であれば、第1の光学領域に対応する領域の光学的反射特性と第2の光学領域に対応する領域の光学的反射特性とが異なるようになっていれば足り、透過型のホログラム記録媒体であれば、第1の光学領域に対応する領域の光学的吸収特性(光学的透過特性)と第2の光学領域に対応する領域の光学的吸収特性(光学的透過特性)とが異なるようになっていれば足りる。
物理的媒体表面の光学的反射特性や光学的吸収特性を異ならせる具体的な方法としては、その表層部分の材質を変化させる加工を施したり(たとえば、第1の光学領域に対応する部分だけ変質させる加工を施せばよい)、その表層部分に付加的な材料層を形成する加工を施したり(たとえば、第1の光学領域に対応する部分にインキ層や金属層などを付着させる加工を施せばよい)する方法を利用することができる。
あるいは、物理的媒体表面に凹凸構造を形成し、反射光もしくは透過光に光路差を生じさせることにより、第1の光学領域に対応する領域の光学特性と第2の光学領域に対応する領域の光学特性とを異ならせることも可能である。具体的には、物理的媒体の第1の光学領域に対応する領域もしくは第2の光学領域に対応する領域について溝堀加工を施すことにより、凹凸構造を形成すればよい。この場合、第1の光学領域に対応する領域を反射もしくは透過する光と、第2の光学領域に対応する領域を反射もしくは透過する光との間に光路差が生じ、位相変調が行われることになる。
図9は、図7に示す1つのセルCを構成するための物理的媒体の一部をなすブロック(1セルに対応するブロック)の一例を示す斜視図である。このブロックM(i,j)は、D1×D2×D3という寸法をもったほぼ直方体の構造をなす。このブロックM(i,j)の上面が、記録面30に対応した面になる。したがって、図7に示すセルC(i,j)をブロックM(i,j)によって構成するためには、図示の寸法を、D1=Px=0.4μm、D3=Py=0.2μmに設定すればよい。なお、寸法D2は、物理的媒体の厚みを決める寸法ということになるので、必要な媒体の厚みに応じた寸法に設定すればよい。
ブロックM(i,j)の上面には、図示のとおり溝Gが形成されている。溝Gの奥行き寸法G3は、ブロックM(i,j)の寸法D3と等しい。溝Gの深さ寸法G2は、上面S1(溝の底面:第1の光学領域)と上面S2(溝が形成されていない本来のブロック上面:第2の光学領域)とについて、光学特性の相違(位相変調に必要な光路差)が得られるのに十分な値に設定すればよい。具体的には、透過型のホログラム記録媒体において、たとえば、ブロックM(i,j)の下方から再生用照明光を照射し、上方へと通過する透過光を観察する場合、面S1から観察される光に比べて、面S2から観察される光の方が、ブロックM(i,j)を構成する材質中を伝播した光路長がG2だけ長くなるので、これに応じた位相差が生じることになる。したがって、ブロックM(i,j)の上面を記録面として把握すれば、第1の光学領域と第2の光学領域との間に、光学特性の相違が生じることになる。一方、反射型のホログラム記録媒体として利用する場合は、たとえば、ブロックM(i,j)の上面全面(面S1および面S2の双方)に反射層を形成すればよい。上面から再生用照明光を照射して反射光を上面から観察する場合(あるいは、下面から再生用照明光を照射して反射光を下面から観察する場合でもよい)、面S1で反射して観察される光と面S2で反射して観察される光との間には、2×G2に相当する光路差(位相差)が生じるので、やはり第1の光学領域と第2の光学領域との間に、光学特性の相違が生じることになる。
光路差に基づいて位相変調を行う場合、位相差が1/2になるようにすると、回折効率が最も高くなるので好ましい。したがって、溝Gの深さ寸法G2の理想的な値は、具体的には、次のような計算によって求めることができる。まず、下面側からきた再生用照明光を下面側に反射させる反射型のホログラム記録媒体の場合、面S1で反射した光と面S2で反射した光の位相差は、ブロックM(i,j)を構成する材料の屈折率をn、光の空気中での波長をλとすると、位相差=2×G2×n/λとなる。ここで、屈折率として、一般的な樹脂の屈折率n=1.5を用い、波長としてλ=600nmを用いて計算すれば、位相差を1/2にするための溝Gの深さ寸法は、G2=0.1μmとなる。波長λとして、可視光の波長域380nm〜780nmの範囲を考えると、G2=0.06〜0.13μm程度に設定すればよい。一方、透過型のホログラム記録媒体の場合、面S1を透過した光と面S2を透過した光の位相差は、G2×(n−1)/λとなる。やはり屈折率n=1.5、波長λ=600nmとして、位相差を1/2にするための溝Gの深さ寸法を計算すると、G2=0.6μmとなる。波長λとして、可視光の波長域380nm〜780nmの範囲を考えると、G2=0.38〜0.78μm程度に設定すればよい。
一方、溝Gの幅の寸法G1は、各セルCに記録すべき干渉波強度Aに応じて決定される。別言すれば、図9に示すブロックM(i,j)の上面のバリエーションが、図8(a) 〜(e) のセルパターンに対応することになり、溝Gの幅の寸法G1は、図8に示すセルパターンにおける斜線ハッチングの部分(第1の光学領域)の幅に対応する。要するに、図8に示す各セルパターンにおける斜線ハッチングの部分(第1の光学領域)は、物理的なブロックM(i,j)の上面に掘られた溝Gの底面S1として具現化され、白地の部分(第2の光学領域)は、物理的なブロックM(i,j)の溝Gが掘られていない残りの上面S2として具現化される。
結局、図8(a) に示すセルパターンが選択されたセル(0≦A<20の範囲内の干渉波強度Aを記録すべきセル)は、溝Gが全く形成されていないブロックによって具現化され、図8(b) に示すセルパターンが選択されたセル(20≦A<40の範囲内の干渉波強度Aを記録すべきセル)は、上面に幅G1=0.1μmの溝Gが掘られたブロックによって具現化され、図8(c) に示すセルパターンが選択されたセル(40≦A<60の範囲内の干渉波強度Aを記録すべきセル)は、上面に幅G1=0.2μmの溝Gが掘られたブロックによって具現化され、図8(d) に示すセルパターンが選択されたセル(60≦A<80の範囲内の干渉波強度Aを記録すべきセル)は、上面に幅G1=0.3μmの溝Gが掘られたブロックによって具現化され、図8(e) に示すセルパターンが選択されたセル(80≦A≦100の範囲内の干渉波強度Aを記録すべきセル)は、上面に幅G1=0.4μmの溝Gが掘られたブロック(上面全面に溝が掘られたブロック)によって具現化されることになる。
前述したように、このようなブロックが、記録面30上の各セルCの位置に、その上面(面S2)が記録面30上にくるように配置される。物理的なホログラム記録媒体は、このようなブロックの集合体によって構成されるので、その上面は、多数の溝Gが形成された凹凸構造をなす。この凹凸構造の凹部が第1の光学領域であり、凸部が第2の光学領域である。もちろん、実際には、図9に示すような個々のブロックを個別に作成するわけではなく(図9のブロックM(i,j)は、セルの概念を示す仮想のものである)、シート状の物理的媒体の表面に、上記凹凸構造を何らかの方法で形成する加工プロセスが実行されることになる。
<<< §3.本発明の基本概念 >>>
さて、§2では、一般的な計算機合成ホログラムの製造方法を、図示する具体例に即して述べた。この§2で述べた製造方法自体は既に公知の方法であるが、本発明のそもそもの発端は、この公知の方法において、演算点Pの分布密度を領域ごとに変えることにより、ホログラム干渉縞として記録されている立体原画像とは別に、平面原画像の記録が可能になるのではないか、との着想を得たことにある。
§2で述べた方法を実施するには、図7の上段に示すように、記録面30上に所定ピッチで多数の演算点Pを定義し、各演算点Pの位置における干渉波強度Aを演算によって求める必要がある。図7に示す例では、各演算点Pは、横方向には一定ピッチPxで並び、縦方向には一定ピッチPyで並んだ規則正しい格子配列をとっている。
これに対して、図10に示すような演算点配列を考えてみよう。この図は、図7と同様に、記録面30上に定義された演算点およびセルの配列を示すものであるが、破線より左側の領域(以下、単位領域U1と呼ぶ)と、破線より右側の領域(以下、単位領域U2と呼ぶ)とでは、配列の条件が異なっている。すなわち、単位領域U1では、図7に示す例と同様に、横方向ピッチ0.4μm、縦方向ピッチ0.2μmで各演算点P1が配列されており、各演算点P1が中心となるように、横幅0.4μm、縦幅0.2μmの矩形からなるセルC1が配置されている。ところが、単位領域U2では、横方向ピッチ0.6μm、縦方向ピッチ0.2μmで各演算点P2が配列されており、各演算点P2が中心となるように、横幅0.6μm、縦幅0.2μmの矩形からなるセルC2が配置されている。
このように、単位領域U1とU2には、いずれも行列状に多数の演算点が配置され、個々の演算点位置にセルが配置されているが、両者ではそのピッチが異なっている。具体的には、縦方向のピッチはいずれも0.2μmと同一であるが、横方向のピッチは、単位領域U1については0.4μmであるのに対し、単位領域U2については0.6μmとなっている。その結果、単位領域U1とU2では、内部に定義されている演算点の密度が異なり、単位領域U1内の演算点P1の密度は、単位領域U2内の演算点P2の密度の3/2倍になる。
図10のように、単位領域ごとに異なる密度で演算点を定義した場合であっても、図5に示す光学的現象をコンピュータ上でシミュレートすることにより、記録面30上に定義された個々の演算点について、それぞれ干渉波強度Aを算出できることに変わりはなく、個々の演算点位置に定義されたセルに、干渉波強度Aを記録できることに変わりはない。もっとも、単位領域U1内に配置されるセルC1と、単位領域U2内に配置されるセルC2とは、サイズが異なるので、セルC1の分割態様を示すセルパターンと、セルC2の分割態様を示すセルパターンとは、それぞれ別個のものを用意する必要がある。
図11は、図10に示すセルC1,C2の分割態様(1つのセル内の領域を、第1の光学領域と第2の光学領域とに分割する態様)を示すセルパターンの一例を示す平面図である。図11の左側に示すセルパターンC10〜C14は、セルC1の分割態様の5種類のバリエーションを示すものであり、これは、図8に示す5種類のセルパターンと全く同じものである。一方、図11の右側に示すセルパターンC20〜C26は、セルC2の分割態様の7種類のバリエーションを示すものである。いずれも斜線ハッチングの部分は第1の光学領域を示し、白地の部分は第2の光学領域を示す。
図10に示す単位領域U1内の各セルC1については、演算点P1について算出された干渉波強度Aの値を5段階に量子化し、その結果に応じて、図11に示すセルパターンC10〜C14のうちのいずれかを選択して割り付ければよい。同様に、図10に示す単位領域U2内の各セルC2については、演算点P2について算出された干渉波強度Aの値を7段階に量子化し、その結果に応じて、図11に示すセルパターンC20〜C26のうちのいずれかを選択して割り付ければよい。そうすれば、個々のセルが、その位置における干渉波強度に応じた面積比で、第1の光学領域と第2の光学領域とに分割されることになり、記録面30上には、第1の光学領域の面積分布(もしくは第2の光学領域の面積分布)として、立体原画像10の情報をもった干渉縞パターンが得られる。
実際、本願発明者が、このような方法で記録面30上に得られた干渉縞パターンを、物理的な記録媒体上に形成したところ、§2で述べた従来の方法で作成したホログラム記録媒体とほぼ同等の再生効果が得られるホログラム記録媒体を作成することができた。
このように、記録面30上の単位領域ごとに、それぞれ密度が異なるような演算点の定義を行ったとしても、立体原画像10の再生像にはほとんど影響が及ばないのは、立体原画像10を構成する1つ1つの点光源の情報を、記録面10の全面に干渉縞パターンとして記録する、というホログラムの基本原理がもつ特性と考えられる。もちろん、厳密に言えば、0.4μmピッチで演算点を定義して作成された記録媒体から得られる第1の再生像、0.6μmピッチで演算点を定義して作成された記録媒体から得られる第2の再生像、そして左半分に0.4μmピッチで演算点を定義し、右半分に0.6μmピッチで演算点を定義して作成された記録媒体から得られる第3の再生像、を相互に比較すれば、像の鮮明度などに若干の差が生じているものと考えられるが、実用上、肉眼ではほとんど認識できない程度の差にすぎない。
結局、図7に示す従来例のように、記録面30上に一定密度で演算点の定義を行う代わりに、図10に示すように、単位領域ごとに異なる密度で演算点の定義を行い、ホログラム記録媒体を作成したとしても、立体原画像10を再生するという点に関しては、何ら支障は生じない。
ここで重要な点は、図10に示すように、単位領域ごとに異なる密度で演算点の定義を行って作成したホログラム記録媒体を、特定の照明条件下で観察すると、単位領域U1と単位領域U2とが視覚的に異なる領域として認識できる点である。たとえば、単位領域U1がグレーの領域として観察されるのに対して、単位領域U2が緑色を帯びた領域として観察される、というように、両者が2つの異なる領域として把握されることになる。
本願発明者は、このような現象に着眼し、記録面上の単位領域ごとに演算点密度を変えることにより、立体原画像に平面原画像を重畳して記録することができる、という着想を得たのである。以下にその原理を説明しよう。
ここでは、図1に示すような立体原画像10と平面原画像20とを、記録媒体30上に重畳記録する場合を考えてみる。図12は、この平面原画像20をより詳細に示す平面図である。この平面原画像20は、「星マークおよびOKなる文字」を示す画像であるが、幾何学的な連続領域を「単位領域」と呼ぶことにすれば、図12に示す平面原画像20は、5つの単位領域U0〜U4から構成されている。ここで、単位領域U0は背景領域であり、単位領域U1は星マークを構成する領域であり、単位領域U2は文字「O」を構成する領域であり、単位領域U3は文字「K」を構成する領域である。また、単位領域U4は、文字「O」の内側に位置する背景領域である。
ここでは、これら各領域に2つの属性値a,bのいずれかを定義する。各単位領域を示す符号に付加した(a) もしくは(b) は、この属性値を示す符号である。第1の属性値「a」は、絵柄属性を示しており、この第1の属性値「a」が与えられている単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a) は、いずれも平面原画像20上のモチーフとなる絵柄を構成する領域である。これに対して、第2の属性値「b」は、背景属性を示しており、この第2の属性値「b」が与えられている単位領域U0(b) ,U4(b) は、いずれも平面原画像20上の背景を構成する領域である。図12における網目状のハッチング部分は、絵柄属性をもつ領域を示しており、白地の部分は、背景属性をもつ領域を示している。
本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法は、§2で述べたとおり、基本的には、立体原画像10から放出される物体光の合成波と所定の参照波Rとによって記録面30上に生じる干渉波の強度分布を、計算機を用いた演算により求める方法である。この方法で立体原画像10を記録面30上に記録する際に、平面原画像20を重畳して記録するためには、記録面30上に平面原画像20に応じて複数の単位領域を定義し、各単位領域内にそれぞれ単位領域ごとに固有の密度で演算点を定義し、各演算点における干渉波強度を演算によって求め、各演算点の位置に、当該演算点について求められた干渉波強度を光学的に記録すればよい。
より具体的には、記録面30上に定義した各単位領域に、複数通りの属性のうちのいずれか1つを与え、各単位領域内に、属性が同じであれば密度も同じになり、属性が異なれば密度も異なるように、それぞれ属性に応じた固有の密度で演算点を定義すればよい。
図12に示すような平面原画像20を重畳記録するのであれば、まず記録面30上に、この平面原画像20を複写する。このとき、平面原画像20のサイズと記録面30のサイズが異なる場合には、必要に応じて、平面原画像20を縦および横に変倍した上で、記録面30上に複写すればよい。こうして、記録面30上にも、図12に示すような単位領域U0〜U4が定義されることになる。これらの単位領域には、前述したとおり、属性値「a」もしくは「b」が与えられている。
そこで、属性値「a」が与えられている3つの単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a)の内部には、第1の密度(たとえば、図10における演算点P1の密度)で演算点の定義を行い、属性値「b」が与えられている2つの単位領域U0(b) ,U4(b)の内部には、第2の密度(たとえば、図10における演算点P2の密度)で演算点の定義を行えばよい。
既に述べたとおり、単位領域ごとに演算点の密度を変えてホログラム記録媒体を作成したとしても、立体原画像10を再生するという点に関しては、何ら支障は生じない。したがって、このような方法で立体原画像10を記録したとしても、所定の照明条件下で観察を行えば、図2(a) に示すように、立体原画像10が正常に再生されることになる。
その一方で、前述したとおり、単位領域ごとに異なる密度で演算点の定義を行って作成したホログラム記録媒体を、特定の照明条件下で観察すると、演算点密度が異なる単位領域は、相互に異なる領域として視覚的に認識されるという特性がある。したがって、上述した方法で作成されたホログラム記録媒体を、特定の照明条件下で観察すると、属性値「a」が与えられている3つの単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a)と、属性値「b」が与えられている2つの単位領域U0(b) ,U4(b)とは、相互に異なる領域として視覚的に認識されることになる。これは、図2(b) に示すように、平面原画像20が再生されることを意味する。
したがって、上述の方法によれば、立体原画像10をホログラム干渉縞として記録面30上に記録するとともに、平面原画像20を潜像として、同一の記録面30上に記録することが可能になる。しかも、立体原画像10の再生には、記録面30上の全領域に記録されているホログラム干渉縞が寄与するとともに、平面原画像20の再生にも、記録面30上の全領域に記録されている情報(後述するように、回折格子として記録されている情報)が寄与することになるので、同一の媒体上に立体原画像10と平面原画像20との双方を重畳して記録しつつ、それぞれについて、明るい再生像を得ることが可能になる。
なお、コンピュータ上で平面原画像20を取り扱う場合、それぞれ所定の画素値をもつ多数の画素の配列からなる画像データを用意するのが一般的である。図13は、このような画素の集合体からなる平面原画像20の一例を示す平面図である。表現されたモチーフは、図12に示す画像と同様に「星マークおよびOKなる文字」であるが、多数の画素の集合として、当該モチーフの表現がなされている。この図13に示す平面原画像20は、画素値「a」をもつ絵柄画素B(a)と画素値「b」をもつ背景画素B(b)によって構成されている。図において、斜線によるハッチングを施した画素が絵柄画素B(a)であり、ドットによるハッチングを施した画素が背景画素B(b)である。
このように、多数の画素の集合体からなる平面原画像20を用いる場合も、記録面30上に当該画像の複写を行えばよい(必要なら変倍処理を行う)。記録面30上には、この平面原画像20の画素配列に対応した画素配列が形成され、同一の画素値をもった隣接画素の集合体によって1つの単位領域を設定することができる。図13に示す例の場合、画素値「a」をもつ絵柄画素B(a)が隣接して集合する領域として、3つの単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a)が設定されており、画素値「b」をもつ背景画素B(b)が隣接して集合する領域として、2つの単位領域U0(b) ,U4(b)が設定されている。
なお、各単位領域内に所定密度で演算点を定義する際には、記録面30上に形成される画素のX軸方向の寸法を画素幅Bx、Y軸方向の寸法を画素幅Byとしたときに、各単位領域についての演算点のX軸方向のピッチPxの公倍数が画素幅Bxと等しくなり、Y軸方向のピッチPyの公倍数が画素幅Byと等しくなるようにするのが好ましい。
これを実例で説明しよう。たとえば、図13に示す絵柄画素B(a)および背景画素B(b)のX軸方向(図の横方向)の寸法をBx=30μmとし、Y軸方向(図の縦方向)の寸法をBy=30μmとしよう。すなわち、この画素は縦横の幅が等しい正方形の画素ということになる。絵柄画素B(a)と背景画素B(b)とは、異なる属性値(画素値)をもっているので、絵柄画素B(a)の内部に定義する演算点の密度と、背景画素B(b)の内部に定義する演算点の密度とは、互いに異なるようにする必要がある。そこで、ここでは、絵柄画素B(a)の内部には、図14に示すように、X軸方向(図の横方向)のピッチPxa、Y軸方向(図の縦方向)のピッチPyaで、多数の演算点P1を縦横に規則的に配置し、背景画素B(b)の内部には、図15に示すように、X軸方向(図の横方向)のピッチPxb、Y軸方向(図の縦方向)のピッチPybで、多数の演算点P2を縦横に規則的に配置することにする。
この場合、たとえば、Pxa=0.4μm,Pxb=0.6μmに設定すれば、画素幅Bx=30μmは、この2通りのピッチPxa,Pxbの公倍数になる。同様に、Pya=0.2μm,Pyb=0.2μmに設定すれば、画素幅By=30μmは、この2通りのピッチPya,Pyb(実際には、この場合、Pya=Pybである)の公倍数になる。このような各ピッチの寸法例は、図10に示した例と同じであり、結局、図14に示す絵柄画素B(a)の内部には、図10の左下に示すような0.4μm×0.2μmのサイズをもったセルC1が配置され、図15に示す背景画素B(b)の内部には、図10の右下に示すような0.6μm×0.2μmのサイズをもったセルC2が配置されることになる。
各単位領域についての演算点のX軸方向のピッチPxa,Pxbの公倍数が画素幅Bxと等しくなるように設定するということは、X軸方向に関して、1画素の幅Bxの寸法内に、セルC1,C2のいずれもが整数個分ぴったりと入るようにすることである。同様に、各単位領域についての演算点のY軸方向のピッチPya,Pybの公倍数が画素幅Byと等しくなるように設定するということは、Y軸方向に関して、1画素の幅Byの寸法内に、セルC1,C2のいずれもが整数個分ぴったりと入るようにすることである。
このような設定を行うと、図14および図15に示すように、いずれの画素についても、各セルが整数個分ぴったりと収容されることになる。その結果、同一属性の画素が上下もしくは左右に隣接する場合、必ずセルの行および列の連続性が確保されることになる。これは、平面原画像20を観察する際に、1つの単位領域が1つの連続した領域として観察されるようにする上で役立つ。たとえば、図13に示す単位領域U1(a) は、全体として1つの星マークを示す領域であるが、いずれの画素内にも、各セルが整数個分ぴったりと入るような設定を行えば、この単位領域U1(a) 内には、セルC1が縦横に整然と並んだ状態となる。このため、単位領域U1(a) の全体に統一した回折格子が形成されることになり、単位領域U1(a) 全体が1つの連続した領域として観察できるようになる。
演算点ピッチの公倍数が画素幅に一致しないと、不都合が生じることは、具体例を考えてみれば容易に理解できよう。たとえば、上述の例では、X軸方向のピッチを0.4μmと0.6μmに設定しているため、X軸方向に関して、セルC1,C2のいずれもが画素幅の30μm内に整数個分ぴったりと入っている。ところが、X軸方向のピッチを0.4μmと0.7μmに設定した場合は、30μmはその公倍数にはなっていないので、X軸方向に幅0.7μmのセルを並べてゆくと、1画素の輪郭から一部が食み出す結果となる。これはセルが整然と並んだ状態を阻害することになり好ましくない。
前述したとおり、本発明の基本概念は、演算点密度の相違により、平面原画像を構成する単位領域の相違を表現する、というものであるが、別な観点では、セルの配置ピッチの相違により、平面原画像を構成する単位領域の相違を表現する、という概念として把握することもできる。
このような観点で本発明を捉えれば、本発明の特徴は、記録面上に複数の単位領域を定義し、各単位領域には複数通りの属性のうちのいずれか1つを与え、各単位領域内に、属性が同じであればピッチも同じになり、属性が異なればピッチも異なるように、それぞれ属性に応じた固有のピッチでセルを規則的に配置し、各セル内の代表位置(演算点位置)における干渉波強度を演算によって求め、各セルを、当該セルについて求められた干渉波強度に応じた面積比で、第1の光学領域と第2の光学領域とに分け、記録面に対応する対応面上において、第1の光学領域に対応する領域と第2の光学領域に対応する領域とが互いに異なる光学特性を示す物理的媒体を作成することにある。
なお、図13に示す例では、第1の画素値「a」をもつ画素B(a)と第2の画素値「b」をもつ画素B(b)との集合体からなる二値画像を示すデータを、平面原画像20を示すデータとして用意し、記録面30上において、第1の画素値「a」をもった隣接画素の集合体からなる単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a)と、第2の画素値をもった隣接画素の集合体からなる単位領域U0(b) ,U4(b) と、を設定したが、平面原画像20は、必ずしも二値画像である必要はない。
たとえば、複数n通りの画素値をもつ画素の集合体からなる平面原画像20を用意した場合は、記録面30上に、複数n通りの属性値のうちのいずれかをもつ単位領域が設定できるので、個々の単位領域内に、その属性値に応じた固有の密度で演算点を定義すればよい。
<<< §4.本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法 >>>
続いて、図16の流れ図を参照しながら、本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法の具体的な手順を説明する。
まず、ステップS1において、三次元空間上に定義された立体原画像10を示すデータを用意する立体原画像準備段階が行われ、ステップS2において、平面原画像20を示すデータを用意する平面原画像準備段階が行われる。§3では、図1に示すような「ピラミッドと球を並べてなる立体像」を立体原画像10として用い、「星マークおよびOKなる文字」を平面原画像20として用いる例を述べた。これによって、立体像の中に「星マークおよびOKなる文字」を「透かし」として機能する潜像として埋め込むことが可能になる。
通常、コンピュータで取り扱う立体像は、ポリゴンの集合体やパラメトリック曲面の集合体として定義されることが多いが、立体原画像10を示すデータは、どのような形式で表現されていてもかまわない。§2で述べたとおり、光学的なシミュレーションでは、立体原画像10を多数の点光源の集合として取り扱うため、実用上は、表面上に多数の点光源を定義することが可能であれば、立体原画像10を示すデータは、どのようなデータであってもかまわない。
また、本発明で用いる立体原画像10は、必ずしも画像自体が三次元の情報をもっている必要はなく、厚みの情報をもたない二次元の情報を立体原画像10として用いてもかまわない。たとえば、二次元平面上に配置された「ABC」なる文字列のフォントデータを立体原画像10として利用することも可能である。この場合、「ABC」なる文字列自身は厚みをもたないが、媒体上には立体原画像10としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、観察時には、三次元空間内に配置された看板文字のような再生像が得られることになる。要するに、ステップS1の立体原画像準備段階では、三次元空間上に定義可能な何らかの画像(三次元画像でも二次元画像でもよい)をデータとして用意すれば足りる。
一方、ステップS2の平面原画像準備段階で用意する画像は、二次元平面上に定義され、それぞれ所定の属性値をもった複数の単位領域の集合から構成されていればよい。一般的には、図13に示す例のように、多数の画素の配列からなる画像を平面原画像20として用いることが多いであろう。この場合、各単位領域の属性値は、個々の画素の画素値によって代用される。
図13では、第1の画素値をもつ画素(絵柄画素)と第2の画素値をもつ画素(背景画素)との集合体からなる二値画像の例を示したが、ここで言う「絵柄画素」と「背景画素」とは、必ずしも一般的な意味における「絵柄」と「背景」の関係になっている必要はない。たとえば、白いタイルと黒いタイルをチェス盤のように市松状に配列してなる模様を平面原画像20として用いる場合、「白いタイルを構成する画素」および「黒いタイルを構成する画素」のうち、一方が「絵柄画素」、他方が「背景画素」ということになる。
このように、ステップS2の平面原画像準備段階で用意する平面原画像20は、必ずしも文字列やロゴマークである必要はなく、市松模様や水玉模様などの模様であってもかまわない。また、前述したとおり、必ずしも二値画像である必要はなく、3種類以上の属性値(画素値)をもつ画像であってもよい。
続くステップS3の単位領域設定段階では、ステップS2で用意した平面原画像20に基づいて、記録面30上にそれぞれ所定の属性値をもった複数の単位領域を設定する処理が行われる。ここで、記録面30は、コンピュータで光学現象のシミュレーションを行うために定義された仮想の平面であり、§2で述べた例では、XY平面上に定義されている。記録面30上への単位領域の設定は、ステップS2で用意した平面原画像20を記録面30上に複写することによって行うことができる。このとき、必要に応じて、変倍処理を行うことは、既に§3で述べたとおりである。記録面30上に設定された各単位領域は、平面原画像20上の各単位領域にそれぞれ対応し、所定の属性値(画素値)を有している。
平面原画像20として、多数の画素の配列からなる画像を用いた場合は、図13に示す例のように、記録面30上にも、平面原画像20の画素配列に対応した画素配列が形成されることになる。この場合、記録面30上において、同一の画素値をもった隣接画素の集合体によって1つの単位領域が設定される。図13に示す例では、平面原画像20として二値画像が用いられているため、記録面30上において、第1の画素値「a」をもった隣接画素の集合体からなる単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a) と、第2の属性値「b」をもった隣接画素の集合体からなる単位領域U0(b) ,U4(b) とが設定されている。
ステップS4の演算点定義段階では、同一の属性値をもった単位領域については密度が同一となり、異なる属性値をもった単位領域については密度が異なるように、記録面30上に設定された各単位領域内に所定密度で演算点が定義される。図13に示す例では、同一の属性値「a」をもった単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a) については、図14に示す密度で演算点P1が定義され、同一の属性値「b」をもった単位領域U0(b) ,U4(b) については、図15に示す密度で演算点P2が定義されている。
続く、ステップS5のセル定義段階では、記録面30上の各演算点位置に、それぞれ所定の面積をもったセルが定義される。セルは相互に重なり合わないような任意形状の輪郭線をもった閉領域であればよい。実用上は、同一の単位領域内の各演算点位置には、同一形状かつ同一面積のセルを定義するのが極めて好ましく、また、同一の属性値をもった単位領域内の各演算点位置には、同一形状かつ同一面積のセルを定義するのが極めて好ましい。
たとえば、図13に示す例では、同一の属性値「a」をもった単位領域U1(a) ,U2(a) ,U3(a) については、図14に示すように、同一形状かつ同一面積のセルC1が定義されており、同一の属性値「b」をもった単位領域U0(b) ,U4(b) については、図15に示すように、同一形状かつ同一面積のセルC2が定義されている。
なお、個々のセルは、個々の演算点位置に配置する必要があるが、必ずしも各演算点が各セルの中心位置にくるようにする必要はない。たとえば、各セルの左上隅点に演算点が位置するような配置を行ってもかまわない。ただ、各セルには、各演算点位置における干渉波強度が光学的に記録されることになるので、実用上は、図14および図15に示す例のように、各演算点をその中心位置に含むセルを定義するのが好ましい。
また、図14および図15に示す例では、多数のセル配列によって、記録面30の全面が隙間なく埋め尽くされているが、ステップS5のセル定義段階では、必ずしも記録面30の全面を埋め尽くすようなセル定義を行う必要はない。たとえば、図14に示す例の場合、横方向ピッチPxa=0.4μm、縦方向ピッチPya=0.2μmで配置された演算点P1の位置に、横幅0.4μm、縦幅0.2μmのセルC1を配置しているため、記録面30は、セルC1によって隙間なく埋め尽くされている。これに対して、たとえば、横幅0.3μm、縦幅0.18μmのセルを、各演算点P1が中心になる位置に配置すれば、隣接するセル間に隙間が生じることになるが、そのような隙間が生じるセル定義を行っても、本発明は実施可能である。
しかしながら、セル間に生じた隙間には、ホログラム干渉縞の情報を記録することができないため、隙間の領域が広くなればなるほど、再生像は暗くなってしまう。したがって、実用上は、記録面30の全面が隙間なく埋め尽くされるようなセル配列を定義するのが極めて好ましい。そのためには、ステップS5のセル定義段階で、各単位領域内に、X軸方向の幅が、当該単位領域についての演算点のX軸方向のピッチPxに等しく、Y軸方向の幅が、当該単位領域についての演算点のY軸方向のピッチPyに等しい矩形状のセルを定義するのが好ましい。
なお、上述のような矩形状のセル定義を行うことにすれば、ステップS4における演算点定義段階で演算点の定義を行えば、実質的に、ステップS5におけるセル定義段階でのセル定義も行われることになる。たとえば、図14に示す例の場合、ステップS4における演算点定義段階で行われる実質的な処理は、演算点P1のX軸方向のピッチPxaおよびY軸方向のピッチPyaを定めることであり、この処理は、ステップS5におけるセル定義段階の処理を兼ねることになる。すなわち、記録面30の全面が隙間なく埋め尽くされるような矩形状のセル配列を定義することを前提とすれば、演算点P1のX軸方向のピッチPxaおよびY軸方向のピッチPyaを定めることは、セルの横幅Pxaおよび縦幅Pyaを定めることと等価である。
結局、実用上は、記録面30の全面が隙間なく埋め尽くされるような矩形状のセル配列を定義するのが好ましく、その場合、ステップS4における演算点定義段階では、次のような処理を行えばよい。まず、記録面30上にXY座標系を定義し、各単位領域内に、X軸に平行な格子線を一定ピッチPyで配置するとともに、Y軸に平行な格子線を一定ピッチPxで配置することにより、縦横に交差する格子線からなる格子をそれぞれ定義する。但し、このとき、同一の属性値をもった単位領域については、X軸に平行な格子線のピッチPyが同一となり、かつ、Y軸に平行な格子線のピッチPxも同一となるようにし、異なる属性値をもった単位領域については、X軸に平行な格子線のピッチPyおよびY軸に平行な格子線のピッチPxのいずれか一方または双方が異なるようにする(図14および図15に示す例は、異なる属性値をもった単位領域について、X軸に平行な格子線のピッチPya,Pybは同一とし、Y軸に平行な格子線のピッチPxa,Pxbが異なるようにした例である)。そして、個々の格子の格子点位置にそれぞれ演算点を定義すればよい。このような演算点の定義処理は、実質的に、当該演算点を中心位置に含むセルを定義する処理にもなるので、ステップS4およびステップS5の処理が同時に行われたことになる。
また、§3で述べたとおり、平面原画像20として、それぞれ所定の画素値をもつ多数の画素の配列からなる画像を用意した場合、記録面30上に形成される画素のX軸方向の寸法を画素幅Bx、Y軸方向の寸法を画素幅Byとしたときに、各単位領域についての演算点のX軸方向のピッチPxの公倍数が画素幅Bxと等しくなり、Y軸方向のピッチPyの公倍数が画素幅Byと等しくなるように、演算点の定義を行うようにするのが好ましい(図14および図15の例を参照)。
さて、ステップS6の演算条件設定段階では、図5に示す光学的現象をコンピュータ上でシミュレートするための条件設定が行われる。具体的には、ステップS1で準備した立体原画像10と仮想の記録面30とを同一の三次元空間内に配置し、記録面30に対して所定の参照光を定義する処理が行われる。図5に示す例では、XYZ三次元座標空間に立体原画像10が配置され、この座標空間のXY平面上に記録面30が定義されている。
参照光Rについては、記録面30上にホログラム干渉縞を形成することができれば、どのような光を設定してもかまわないが、一般的には、記録面30に対して所定の入射角をもって照射される平面波を定義すればよい。実用上は、たとえば、図17に示すように、XY平面上に定義された記録面30に対して所定の入射角θをもってYZ平面に平行な方向から入射する平面波を参照光Rとして定義するのが好ましい。
参照光Rの向きは、観察時の理想的な再生用照明光の向きを決定する要因になる。たとえば、図17に示すように、記録面30に対して、上方から入射角θをもって照射される参照光Rを定義して、立体原画像10の情報をホログラム干渉縞として記録したホログラム記録媒体を再生する場合を考える。このホログラム記録媒体が反射型の媒体であったとすると、図18に示すように、観察者の視点と同じ側から再生用照明光Lを照射して観察を行うことになる。ここで、観察者が、記録面30をこれに直交する方向から観察するものとすれば、再生用照明光Lの理想的な照射方向は、図示のとおり、記録面30に対して入射角θをもって入射する方向ということになる。このような条件では、図に破線で示す位置に、再生立体像40を観察することができる。ここで、図18に示す再生用照明光Lの入射角θは、図17に示す参照光Rの入射角θに等しい。
クレジットカード用の偽造防止シールなど、一般的な用途に利用されるホログラム記録媒体の場合、観察者は記録面30をこれに直交する方向から観察するのが一般的である。しかも、クレジットカードなどは、通常、水平面に対して45°程度傾斜させた状態で観察者の手に保持されることになるので、天井の照明器具が再生用照明光Lの主たる光源であると考えると、参照光Rの入射角θを45°程度に設定しておけば、実際の観察時に理想的な観察条件が得られる可能性が高くなる。
続くステップS7では、記録面30上に定義された各演算点の位置について、立体原画像10の各部(たとえば、立体原画像10の表面に所定密度で設定された点光源)から放出された物体光の合成波と参照光Rとによって生じる干渉波の強度Aが演算によって求められる。別言すれば、図5に示す光学的現象が、コンピュータ上でシミュレートされることになる。各演算点の位置について干渉波強度Aを求めるための具体的な演算方法は、§2で説明したとおりであり、このような演算方法自体は、既に公知の方法である。
なお、このような光学的現象のシミュレート演算を行う際に、様々な工夫を施す技術が提案されている。本発明においても、ステップS7の干渉波強度演算段階で、このような様々な工夫を施したシミュレート演算を行うことは有効である。
たとえば、立体原画像10の各部から放出された物体光の広がり角度に所定の制限を課した状態で干渉波の強度演算を行う公知の技術を、ステップS7の干渉波強度演算段階に利用することができる。具体的には、図5に示す例において、「各点光源から放出される物体光が、XZ平面に平行な面内にのみ広がる」という前提で、シミュレート演算を行うと、演算負担を大幅に軽減することができる。もちろん、現実の点光源から放出される光は球面波になり、点光源を中心とした全空間に広がることになるが、コンピュータ上のシミュレート演算では、様々な条件設定を行うことが可能であり、「XZ平面に平行な面内にのみ広がる」という条件を課したシミュレーションも可能になる。
このような条件を課すと、図5におけるY軸方向への物体光の広がりが無視されるため、記録面30上に記録されたホログラム干渉縞の情報からは、正しい立体原画像10を再生することはできず、Y軸方向に関しては立体視効果が現れない疑似的な立体再生像しか得られなくなる。ただ、偽造防止用シールなど、そのような疑似的な立体再生像が得られれば十分な用途では、物体光の広がり角度を制限する手法は有効であり、本発明においても、そのような手法を利用することが可能である。
続くステップS8のセル分割段階は、ステップS5のセル定義段階で定義した個々のセルを、当該セルの演算点について求められた干渉波強度に応じた面積比で、第1の光学領域と第2の光学領域とに分ける処理が行われる。§2では、干渉波強度の値を5段階に量子化した場合に、図8に示す5通りの分割態様のいずれかが選択される例を説明した。ここで、斜線ハッチングが施された領域が第1の光学領域であり、白地領域が第2の光学領域である。
このセル分割段階では、セルの中心部に干渉波強度に応じた面積をもった第1の光学領域が位置し、その周囲に第2の光学領域が位置するように、セルの分割を行うようにすればよい。特に、これまで述べたような矩形状のセルを用いる場合であれば、図8に示した例のように、「セルの縦幅と等しい縦幅を有し、干渉波強度Aに応じた横幅を有する矩形」をセルの横方向に関する中央位置に配置し、当該矩形の内部を第1の光学領域とし、当該矩形の外部を第2の光学領域とするような分割を行えばよい。
なお、図8に示す例では、干渉波強度Aが大きければ大きいほど、第1の光学領域(斜線ハッチングが施された領域)の横幅が大きくなるような設定を行っているが、逆に、干渉波強度Aが大きければ大きいほど、第1の光学領域(斜線ハッチングが施された領域)の横幅が小さくなるような設定を行ってもかまわない。別言すれば、ステップS8のセル分割段階では、個々のセルを、当該セルの演算点について求められた干渉波強度に応じた面積比で分割できればよいので、干渉波強度Aが大きければ大きいほど、第1の光学領域の面積を大きくするような設定を行ってもよいし、干渉波強度Aが大きければ大きいほど、第1の光学領域の面積を小さくするような設定を行ってもよい。
このセル分割段階において、セルを分割することにより得られる2つの領域を「光学領域」と呼んでいるのは、後のステップS9「媒体加工段階」で、物理的媒体上において、両者が異なる光学特性をもった領域として具現化されるためである。ステップS8のセル分割段階は、あくまでもコンピュータ上で行われる処理であり、この時点では、第1の光学領域および第2の光学領域は、画像データ上で、互いに識別可能な領域として定義されることになる。結局、ステップS8のセル分割段階が完了した時点では、第1の光学領域と第2の光学領域とが混在した二値画像データが作成される。
このように、図16の流れ図に示す各段階のうち、ステップS3「単位領域設定段階」、ステップS4「演算点定義段階」、ステップS5「セル定義段階」、ステップS6「演算条件設定段階」、ステップS7「干渉波強度演算段階」、ステップS8「セル分割段階」は、コンピュータによって実行される処理であり、実際には、専用プログラムをコンピュータに組み込むことにより実行される。
最後に行われるステップS9の媒体加工段階は、記録面30に対応する対応面をもった物理的媒体を用意し、コンピュータによって得られた「記録面30上における第1の光学領域および第2の光学領域の分布情報」(実際には、二値画像データ)に基づいて、物理的媒体上の対応面に対して加工を施し、第1の光学領域に対応する領域と第2の光学領域に対応する領域とが互いに異なる光学特性を示すようにする段階である。より具体的には、第1の光学領域に対応する領域の光学的反射特性または光学的吸収特性と、第2の光学領域に対応する領域の光学的反射特性または光学的吸収特性とが異なるように、物理的媒体の対応面に対して何らかの加工を施せばよい。
このような加工方法のひとつは、物理的媒体の第1の光学領域に対応する領域もしくは第2の光学領域に対応する領域について、その表層部分の材質を変化させる方法である。たとえば、物理的媒体上に配置した各セル内の第1の光学領域に対応する領域部分に、何らかの加工ビームを照射して、当該部分の材質を変化させればよい。変化前の材質(第2の光学領域の材質)と変化後の材質(第1の光学領域の材質)との光学特性が異なっていれば、加工後の物理的媒体は、本発明に係るホログラム記録媒体として機能する。
あるいは、物理的媒体の第1の光学領域に対応する領域もしくは第2の光学領域に対応する領域について、その表層部分に付加的な材料層を形成する加工を施す方法を採ることも可能である。たとえば、物理的媒体上に配置した各セル内の第1の光学領域に対応する領域の表層部分に、インキ層や金属層などを付着させる加工を行えばよい。付着させた層の光学特性が、物理的媒体の光学特性と異なっていれば、加工後の物理的媒体は、本発明に係るホログラム記録媒体として機能する。
別な方法として、物理的媒体の第1の光学領域に対応する領域もしくは第2の光学領域に対応する領域について溝堀加工を施すことにより、凹凸構造を形成し、この凹凸構造によって、第1の光学領域に対応する領域と第2の光学領域に対応する領域とが互いに異なる光学特性を示すようにすることも可能である。この方法の基本概念は、§2で既に述べたとおり、個々のセルの位置に、図9に示すようなブロックM(i,j)を配置して物理的媒体を構成するというものである。ブロックM(i,j)の上面に形成された溝Gの底面S1が第1の光学領域として機能し、溝Gが形成されていないブロック上面S2が第2の光学領域として機能することになる。なお、反射型のホログラム記録媒体として利用する場合には、ブロックM(i,j)の上面全面に反射層を形成すればよい。
実際には、図9に示すような個々のブロックを多数集めるのではなく、物理的媒体表面の各セルにおける第1の光学領域となるべき部分に、溝Gを掘る加工を施せばよい。もっとも、各セルは、1μm以下の微小寸法をもった領域であるため、溝Gを掘るためには、極めて微細な加工技術が必要になる。そこで実用上は、物理的媒体の対応面に対して電子線描画装置を用いたリソグラフィ工程を含む加工を施すことにより、表面に凹凸構造をもった原版を作成し、この原版を用いたプレス加工により、多数の物理的媒体を複製する方法を採るのが好ましい。
<<< §5.本発明に係るホログラム記録媒体の製造装置 >>>
図19は、本発明に係るホログラム記録媒体の製造装置の基本構成を示すブロック図である。立体原画像データ格納部110は、三次元空間上に定義された立体原画像10を示すデータ(図16のステップS1で用意されたデータ)を格納する構成要素であり、平面原画像データ格納部140は、二次元平面上に定義され、それぞれ所定の属性値をもった複数の単位領域の集合からなる平面原画像20を示すデータ(図16のステップS2で用意されたデータ)を格納する構成要素である。立体原画像10や平面原画像20の詳細は、既に述べたとおりである。
単位領域設定部150は、図16のステップS3の処理を実行するための構成要素であり、平面原画像データ格納部140に格納されている平面原画像のデータに基づいて、記録面上にそれぞれ所定の属性値をもった複数の単位領域を設定する機能を果たす。
演算点定義部160は、図16のステップS4の処理を実行するための構成要素であり、単位領域設定部150によって記録面上に設定された個々の単位領域内に、所定密度で演算点を定義する機能を果たす。このとき、同一の属性値をもった単位領域については密度が同一となり、異なる属性値をもった単位領域については密度が異なるように、演算点が定義される点は、既に述べたとおりである。なお、縦横の格子状に演算点を定義することにすれば、演算点定義部160が行う処理は、各単位領域について、演算点の縦および横のピッチを定める処理ということになる。
セル定義部170は、図16のステップS5の処理を実行するための構成要素であり、記録面上の各演算点位置に、それぞれ所定の面積をもったセルを定義する機能を果たす。前述したとおり、記録面30の全面が隙間なく埋め尽くされるような矩形状のセル配列を定義することを前提とすれば、実質的に、演算点定義部160によって演算点の定義が完了した時点でセルの定義も完了する。したがって、この場合、セル定義部170は、演算点定義部160に組み込まれることになる。
演算条件設定部120は、図16のステップS6の処理を実行するための構成要素であり、立体原画像データ格納部110内に格納されている原画像と所定の記録面とを同一の三次元空間内に配置し、記録面に対して所定の参照光を定義する処理を行う。前述した例では、XY平面上に記録面を定義する設定や、記録面の上方から所定入射角で入射する参照光の設定が、演算条件設定部120によってなされることになる。
干渉波強度演算部130は、図16のステップS7の処理を実行するための構成要素であり、記録面上に定義された各演算点の位置について、立体原画像の各部から放出された物体光の合成波と参照光とによって生じる干渉波の強度を演算によって求める干渉波強度演算を実行する機能を有する。具体的な演算内容は既に述べたとおりである。
セル分割部180は、図16のステップS8の処理を実行するための構成要素であり、セル定義部170が定義した個々のセルを、当該セルの演算点について求められた干渉波強度に応じた面積比で、第1の光学領域と第2の光学領域とに分ける処理を行う。具体的には、セル分割部180内には、図11に示すように、干渉波強度に応じたセルの分割態様が格納されており、この分割態様に応じて、各セルを第1の光学領域と第2の光学領域とに分ける処理が行われる。
二値画像出力部190は、記録面上に定義されている個々のセルの第1の光学領域の部分と第2の光学領域の部分とが互いに異なる領域であることを示す二値画像のデータを出力する構成要素である。ここから出力される二値画像データは、記録面上における第1の光学領域と第2の光学領域との混在パターンを示す画像データということになる。この二値画像データを、たとえば電子線描画装置などに与えることにより、図16のステップS9の媒体加工段階を行うことができる。
もちろん、この図19に示す各構成要素は、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことによって実現されることになる。
<<< §6.本発明の第1の実施形態 >>>
図20は、本発明に係るホログラム記録媒体30上に記録されている平面原画像の一例を示す平面図である。具体的には、この例では「S」なる1文字が平面原画像として記録されている。もちろん、この記録媒体30上には、立体原画像の記録も行われているので、この記録媒体30から、図示のような「S」なる文字が観察できるのは、特定の照明環境で観察した場合に限られる。別な照明環境で観察した場合は、記録されている立体原画像(図示されていない)が再生されることになる。
図示のとおり、記録媒体30上には、複数の単位領域U0〜U8が形成されている。これらの単位領域は、この記録媒体30に記録されている平面原画像を構成していた単位領域であり、「S」なる文字が認識できるのは、文字部分を構成する単位領域U1〜U8については第1の属性値「a」が付与され、背景部分を構成する単位領域U0については第2の属性値「b」が付与されているためである。ここでは、各単位領域U0〜U8の符号にその属性値を示す符号(a) もしくは(b) を付加して示してある。
図21は、図20の領域31に対応する部分を拡大した平面図である。図の左上部分は、単位領域U5(a) の一部に対応し、右下部分は、単位領域U6(a) の一部に対応する。また、図の左下部分および右上部分は、背景となる単位領域U0(b) の一部に対応する。この図21において、内部にハッチングを施して示す矩形は、いずれも第1の光学領域であり、それ以外の白地の部分は第2の光学領域である。ここでは、便宜上、この「内部にハッチングを施して示す矩形(第1の光学領域)」を、「微小要素」と呼ぶことにする。
なお、図21に示すとおり、製造プロセスで定義された個々の「セル」の輪郭線は、実際の記録媒体30上には現れない。これは、これまでの説明で言及した「セル」が、概念的に定義される領域であり、個々のセルの内部領域が、第1の光学領域と第2の光学領域とに分割された後は、製造プロセス上、「セル」の概念は不要になるためである。図示のとおり、この図21に示す記録媒体は、その表面上に、多数の微小要素を配置した構造を有している。個々の微小要素は、各セルの第1の光学領域に相当する部分であり、隣接する微小要素の隙間に存在する白地部分は、各セルの第2の光学領域に相当する部分である。
また、図21では、単位領域U5(a) ,U6(a) 内の微小要素の内部に斜線によるハッチングを施し、単位領域U0(b) 内の微小要素の内部にドットによるハッチングを施して区別しているが、これは説明の便宜のためのものであって、実際の記録媒体30上では、両者の区別はない。たとえば、媒体表面に凹凸構造を形成することにより、第1の光学領域と第2の光学領域との光学特性の相違を具現化する場合、個々の微小要素は、媒体表面に掘られた溝によって構成されることになり、図21に斜線によるハッチングを施して示す矩形内と、ドットによるハッチングを施して示す矩形内には、いずれも同じ深さをもった溝が掘られることになる。別言すれば、図21において、内部に何らかのハッチングを施した矩形部分と白地の部分とを比べた場合、両者の光学特性には相違があるが、斜線によるハッチングを施した矩形部分とドットによるハッチングを施した矩形部分とを比べた場合、両者の光学特性が相違している必要はない。
さて、図21に示す各微小要素の配置に注目すると、斜線ハッチングの微小要素とドットハッチングの微小要素とでは、横方向の配置ピッチに相違があることが認識できるであろう。これは、属性値「a」が付与された単位領域U5(a) ,U6(a) と、属性値「b」が付与された単位領域U0(b) とでは、異なる密度で演算点が定義されているためである。各微小要素の中心点が演算点の位置に対応しているので、単位領域U5(a) ,U6(a) と単位領域U0(b) とについて、互いに演算点密度が異なっていることが視覚的にも認識できる。
すなわち、この例の場合、属性値「a」が付与された単位領域U5(a) ,U6(a) については、図10の右側に示す単位領域U2と同様に、横方向ピッチ0.6μm、縦方向ピッチ0.2μmで演算点P2の定義が行われており、その結果、縦幅0.2μm、横幅0.6μmのセルC2が配置されている。これに対して、属性値「b」が付与された単位領域U0(b) については、図10の左側に示す単位領域U1と同様に、横方向ピッチ0.4μm、縦方向ピッチ0.2μmで演算点P1の定義が行われており、その結果、縦幅0.2μm、横幅0.4μmのセルC1が配置されている。
このように、図21に示す例では、演算点の縦方向ピッチは0.2μmと共通しているため、各微小要素は水平方向に関しては一直線上に並んでいる。ところが、演算点の横方向ピッチは、単位領域U5(a) ,U6(a) では0.6μmであるのに対して、単位領域U0(b) では0.4μmとなっているため、単位領域U5(a) ,U6(a) に配置されている微小要素は、単位領域U0(b) に配置されている微小要素に比べて、一般的に横幅が長く、横方向のピッチも長くなっている。
ここで重要な点は、この図21に示す微小要素の配列には、立体原画像の情報と、平面原画像の情報との双方が含まれている点である。この記録媒体30は、§4で説明した方法で作成された媒体であるため、記録面における微小要素の面積分布は、記録面に形成された干渉縞パターン(干渉波の強度分布)を示している。図22は、図21に示す多数の微小要素の面積分布により、立体原画像の再生が可能な干渉縞が形成されていることを示す平面図である。この図22は、図21に、面積分布の極大位置を示す波状の太線を描き加えたものである。この波状の太線は、記録面に形成された干渉縞パターンに他ならない。ここで波状の太線が、ほぼ図の水平方向に沿って伸びる線になっているのは、図17に示すように、記録面30に対して、上方から入射する参照光Rを設定したためである。
既に述べたとおり、各単位領域ごとに演算点の密度を変えてホログラム記録媒体を作成したとしても、立体原画像を再生するという点に関しては、実用上の支障は生じない。したがって、図22に示す例においても、立体原画像を再生するために必要な干渉縞パターンは、微小要素の面積分布として正しく記録されており、立体原画像の再生に何ら支障は生じない。また、この干渉縞パターンの情報は、記録面全体に微小要素の面積分布として記録されているため、記録面全体が立体原画像の再生に寄与することができ、明るい再生像を得ることができる。
一方、図23は、図21に示す多数の微小要素を縦方向に連結する線により、平面原画像の再生が可能な格子線が形成されていることを示す平面図である。この図23は、図21に、格子線を示す縦方向の太線を描き加えたものである。この図23に含まれている格子線のみを抽出した平面図を図24に示す(図では便宜上、各単位領域の境界を示す線も描かれている)。図示のとおり、この縦方向の格子線のピッチは、0.6μmもしくは0.4μmであり、回折現象を生じさせることができる寸法になっている。しかも、単位領域のもつ属性値に応じて、格子線ピッチが異なるため、異なる属性値をもつ単位領域は、異なった態様(異なった色)で観察されることになる。具体的には、図24に示す例において、0.4μmピッチの回折格子面として観察される左下および右上の単位領域と、0.6μmピッチの回折格子面として観察される左上および右下の単位領域とは、それぞれ異なる面として把握されることになる。
図25は、図24に示されている格子線により、平面原画像の再生が行われる原理を示す側面図(上段)および平面図(下段)である。図示のとおり、記録媒体30の上面の左半分には0.4μmピッチの回折格子が形成されており、右半分には0.6μmピッチの回折格子が形成されているものとしよう。ここで、図示のとおり、記録面に対して入射角θをなす方向から白色の再生用照明光Lwを照射し、得られる回折光を記録面に対して垂直上方から観察する場合を考える。
この場合、入射角θ=60°に設定し、1次回折光のみが記録面に対して垂直な方向から観察されるものとし、回折現象の式「波長λ=ピッチd×sinθ」を用いて計算すると、0.4μmピッチの回折格子から観察される回折光R1の波長は346nm(紫外域)となり、0.6μmピッチの回折格子から観察される回折光R2の波長は520nm(緑色)となる。結局、図24における左上および右下の部分は緑色の面として観察され、左下および右上の部分は暗い面(紫外光であるため、肉眼ではグレーに見える)として観察される。したがって、このような観察環境では、図20に示す「S」の文字部分が緑色の文字として観察されることになる。
結局、この第1の実施形態に係る記録媒体30の場合、図2(a) に示すように、媒体の上方から再生用照明光Lを当てて観察すると、立体原画像の再生が行われることになる。これは、図17に示すように、記録面30に対して上方から参照光Rを照射した状態で生成されたホログラム干渉縞が記録されているため、図18に示す観察環境において、立体原画像の理想的な再生が行われるためである。このような観察環境では、再生用照明光Lは、図23に示す縦方向の格子線に対して平行な成分をもつ光になるため、これら格子線による回折現象によって生じる光は、観察方向とは異なった方向へ進行する。なお、図21に示す微小要素の配列には、横方向の格子線を構成する成分も含まれているが、そのピッチ(0.2μm)は、全記録面について一定である。したがって、図20に示す「S」字の平面原画像は観察されない。
これに対して、図2(b) に示すように、この記録媒体30に対して、横方向から再生用照明光Lを当てて観察すると、図20に示す「S」字の平面原画像が観察されることになる。これは、再生用照明光Lが、図23に示す縦方向の格子線に対して直交する成分をもつ光になるため、これら格子線による回折光が観察されるようになるためである。このような横方向からの再生用照明光Lは、図17に示す参照光Rの方向成分をもっていないため、ホログラム干渉縞として記録されている立体原画像の再生は行われない。
かくして、この第1の実施形態として示した記録媒体30は、図2に示すとおり、上方から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、立体原画像10が再生像として観察され、横方向から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、平面原画像20が再生像として観察される記録媒体として機能する。
<<< §7.本発明の第2の実施形態 >>>
§6で述べた第1の実施形態は、図10に示すように、演算点の横方向ピッチを、単位領域の属性値に応じて、0.4μmもしくは0.6μmに設定し、演算点の縦方向ピッチを、いずれの単位領域についても0.2μmに設定したものであった。本発明において、単位領域ごとに演算点密度を変える場合、この第1の実施形態のように、横方向ピッチおよび縦方向ピッチのいずれか一方のみを変えれば十分であるが、もちろん、横方向ピッチおよび縦方向ピッチの双方を変えるようにしてもよい。
この§7で述べる第2の実施形態は、異なる属性値をもつ2つの単位領域について、演算点の横方向ピッチおよび縦方向ピッチの双方を変えるようにした例である。具体的には、属性値「a」をもつ単位領域については、横方向ピッチ0.6μm、縦方向ピッチ0.2μmで演算点P2の定義を行い、属性値「b」をもつ単位領域については、横方向ピッチ0.4μm、縦方向ピッチ0.25μmで演算点P3の定義を行うことになる。このような演算点定義を行うと、図26に示すような2種類のセルが定義される。上段に示すセルC3は、演算点P3に配置されるセルであり、図10に示すセルC1の縦幅を若干伸ばした矩形形状を有する。このセルC3の寸法は、図示のとおり、縦幅0.25μm、横幅0.4μmになっている。これに対して、下段に示すセルC2は、演算点P2に配置されるセルであり、図10に示すセルC2と全く同じものである。すなわち、セルC2の寸法は、図示のとおり、縦幅0.2μm、横幅0.6μmとなっている。
図26に示すセルC2,C3を比較すればわかるとおり、両者は、縦幅も横幅も異なっている。図27は、この図26に示すセルC2,C3の分割態様の一例を示す平面図である。図27の左側に示されているセルパターンC30〜C34は、セルC3についての5通りの分割態様を示し、図27の右側に示されているセルパターンC20〜C26は、セルC2についての7通りの分割態様を示している。したがって、この実施形態の場合、属性値「a」をもつ単位領域内の演算点については、算出された干渉波強度を7段階に量子化し、その結果に応じて、図27の右側に示すセルパターンC20〜C26のいずれかの分割態様を選択してセルの分割を行い、属性値「b」をもつ単位領域内の演算点については、算出された干渉波強度を5段階に量子化し、その結果に応じて、図27の左側に示すセルパターンC30〜C34のいずれかの分割態様を選択してセルの分割を行うことになる。
図28は、この第2の実施形態に係るホログラム記録媒体の一部(図20の領域31に対応する部分)を拡大し、多数の微小要素の面積分布により、立体原画像の再生が可能な干渉縞が形成されていることを示す平面図である。これに対して、図29は、図28に示す多数の微小要素を縦方向に連結する線により、平面原画像の再生が可能な格子線が形成されていることを示す平面図である(図29における微小要素の分布は、図28における微小要素の分布と全く同じである)。
図28と図22とを比較すると、左下および右上の単位領域(属性値「b」をもつ単位領域)に配置されている微小要素の個々のメンバーが異なっているが、面積分布の極大位置を示す波状の太線には大差がない。これは、いずれの記録媒体にも、ほぼ同じホログラム干渉縞の記録がなされていることを示している。一方、図29と図23とを比較すると、太線で示す格子線の構成が全く同じであることがわかる。すなわち、この図29に含まれている格子線のみを抽出した平面図は、図24と全く同じ図になる。
結局、この第2の実施形態に係る記録媒体は、前述した第1の実施形態に係る記録媒体とほぼ同じ機能を果たし、図2に示すとおり、上方から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、立体原画像10が再生像として観察され、横方向から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、平面原画像20が再生像として観察される記録媒体として機能する。
なお、図29に示す微小要素は横方向にも整列しているが、上下の微小要素間に隙間がないため、横方向の格子線を構成する成分はない。このため、横方向の格子線に基づく回折光は生じない。
<<< §8.本発明の第3の実施形態 >>>
これまで述べた実施形態では、1つの単位領域内に定義する演算点の横方向ピッチと縦方向ピッチとが異なる値となる設定にしているため、演算点に配置されるセルは長方形状のものであった。ここで述べる第3の実施形態では、演算点の横方向ピッチと縦方向ピッチとを等しく設定し、図30に示すような正方形状のセルが配置されるようにする。
具体的には、属性値「a」をもつ単位領域については、横方向ピッチおよび縦方向ピッチがともに0.6μmとなるように格子状に配置された演算点P4を定義し、属性値「b」をもつ単位領域については、横方向ピッチおよび縦方向ピッチがともに0.4μmとなるように格子状に配置された演算点P5を定義する。このような演算点定義を行うと、図30に示すような2種類のセルが定義される。上段に示すセルC4は、演算点P4に配置されるセルであり、一辺が0.6μmの正方形の形状をしている。これに対して、下段に示すセルC5は、演算点P5に配置されるセルであり、一辺が0.4μmの正方形の形状をしている。
ここで述べる第3の実施形態のもうひとつの特徴は、セルの分割態様にある。図31は、この図30に示すセルC4,C5の分割態様の一例を示す平面図である。図31の左側に示されているセルパターンC40〜C46は、セルC4についての7通りの分割態様を示し、図31の右側に示されているセルパターンC50〜C54は、セルC5についての5通りの分割態様を示している。したがって、この実施形態の場合、属性値「a」をもつ単位領域内の演算点については、算出された干渉波強度を7段階に量子化し、その結果に応じて、図31の左側に示すセルパターンC40〜C46のいずれかの分割態様を選択してセルの分割を行い、属性値「b」をもつ単位領域内の演算点については、算出された干渉波強度を5段階に量子化し、その結果に応じて、図31の右側に示すセルパターンC50〜C54のいずれかの分割態様を選択してセルの分割を行うことになる。
図27に示すセルパターンC30〜C34,C20〜C26と、図31に示すセルパターンC40〜C46,C50〜C54とを比較すると、いずれもセルの中心部に干渉波強度に応じた面積をもった第1の光学領域が位置し、その周囲に第2の光学領域が位置するという点は共通するものの、具体的なセルの分割態様は若干異なっていることがわかる。すなわち、前者では、斜線ハッチングを施して示す第1の光学領域の縦幅は、常にセルの縦幅に等しく設定されており、第1の光学領域の面積は、その横幅に比例している。別言すれば、「セルの縦幅と等しい縦幅を有し、干渉波強度に応じた横幅を有する矩形」によって第1の光学領域が形成されており、そのような矩形がセルの横方向に関する中心位置(一次元的な中心部)に配置されている。これに対して、後者では、斜線ハッチングを施して示す第1の光学領域は、干渉波強度に応じた面積を有する正方形によって構成されており、そのような正方形の二次元的な中心(横方向と縦方向の双方に関する中心)がセルの二次元的な中心に一致するように配置されている。
このように、第1の光学領域を、セルの二次元的な中心部に配置する構成を採ると、記録媒体上に配置された多数の微小要素によって、縦方向の格子線と横方向の格子線とがほぼ同等に形成されることになるので、平面原画像を再生することが可能な照明環境のバリエーションが増えることになる。
図32は、この第3の実施形態に係るホログラム記録媒体の一部(図20の領域32に対応する部分)を拡大し、多数の微小要素の面積分布により、立体原画像の再生が可能な干渉縞が形成されていることを示す平面図である。図の左半分は、図20に示す単位領域U6(a) の一部分であり、図の右半分は、図20に示す単位領域U0(b) の一部分である。ここでも、波状の太線は、微小要素の面積分布の極大位置を示すために描き加えられたものであり、記録面に形成された干渉縞パターンを示す線ということになる。ここでも波状の太線が、ほぼ図の水平方向に沿って伸びる線になっているが、これは図17に示すように、記録面30に対して、上方から入射する参照光Rを設定したためである。この例でも、立体原画像を再生するために必要な干渉縞パターンは、微小要素の面積分布として正しく記録されており、立体原画像の再生に何ら支障は生じない。
これに対して、図33は、図32に示す多数の微小要素を縦方向に連結する線により、平面原画像の再生が可能な格子線が形成されていることを示す平面図であり、縦方向の太線は、この格子線を示すために描き加えたものである。この図33に含まれている格子線のみを抽出した平面図を図34に示す(図では便宜上、左右の単位領域の境界を示す線も描かれている)。図示のとおり、左半分の単位領域内の格子線のピッチは0.6μmであるのに対し、右半分の単位領域内の格子線のピッチは0.4μmとなっている。したがって、左右の単位領域は、互いに異なった態様(異なった色)で観察されることになり、観察時には、互いに異なる面として把握されることになる。
一方、図35は、図32に示す多数の微小要素を横方向に連結する線により、平面原画像の再生が可能な格子線が形成されていることを示す平面図であり、横方向の太線は、この格子線を示すために描き加えたものである。この図35に含まれている格子線のみを抽出した平面図を図36に示す(図では便宜上、左右の単位領域の境界を示す線も描かれている)。図示のとおり、左半分の単位領域内の格子線のピッチは0.6μmであるのに対し、右半分の単位領域内の格子線のピッチは0.4μmとなっている。したがって、この場合も、左右の単位領域は、互いに異なった態様(異なった色)で観察されることになり、観察時には、互いに異なる面として把握されることになる。
結局、この第3の実施形態に係る記録媒体30の場合、媒体の上方から再生用照明光Lを当てて観察すると、立体原画像の再生と平面原画像の再生との双方が行われることになる。立体原画像の再生が行われるのは、図17に示すように、記録面30に対して上方から参照光Rを照射した状態で生成されたホログラム干渉縞が記録されているため、図18に示す観察環境において、立体原画像の理想的な再生が行われるためである。また、平面原画像の再生が行われるのは、図36に示すように、横方向の格子線として機能する微小要素の配列により、再生用照明光Lの一部が回折光として観察され、しかも異なる属性の単位領域では、格子線ピッチが異なっているため、異なる色彩をもった領域として観察されるためである。ただ、立体原画像を記録するための縞のピッチと平面原画像を記録するための縞のピッチは異なるため、立体原画像と平面原画像とは、互いに異なる観察角度において再生されることになる。
これに対して、この記録媒体30に対して、横方向から再生用照明光Lを当てて観察すると、ホログラム干渉縞として記録されている立体原画像の再生は行われないが、平面原画像の再生は行われることになる。これは、図34に示すように、縦方向の格子線として機能する微小要素の配列により、再生用照明光Lの一部が回折光として観察され、しかも異なる属性の単位領域では、格子線ピッチが異なっているため、異なる色彩をもった領域として観察されるためである。
かくして、この第3の実施形態として示した記録媒体30は、図2に示すとおり、上方から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、立体原画像10と平面原画像20との双方が再生像として観察され(見える角度は両者で異なる)、横方向から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、平面原画像20のみが再生像として観察される記録媒体として機能する。
<<< §9.本発明の第4の実施形態 >>>
これまで述べた実施形態は、属性値「a」をもった第1の単位領域には、第1のピッチで演算点を定義し、第1の寸法をもったセルを配置し、属性値「b」をもった第2の単位領域には、第2のピッチで演算点を定義し、第2の寸法をもったセルを配置する、というように、2通りのピッチと2通りのセルを単位領域ごとに使い分ける例であった。ここで述べる第4の実施形態では、4通りのピッチと4通りのセルを単位領域ごとに使い分ける例を述べる。
ここでは、図37に示すような4通りのセルC6〜C9を定義したものとしよう。セルC6は、横方向ピッチPx1(0.6μm)、縦方向ピッチPy1(0.6μm)という設定で格子状に配列された演算点P6の位置に置かれるセルであり、一辺が0.6μmの正方形の形状をしたセルである。セルC7は、横方向ピッチPx1(0.6μm)、縦方向ピッチPy2(0.4μm)という設定で格子状に配列された演算点P7の位置に置かれるセルであり、横幅が0.6μm、縦幅が0.4μmの長方形の形状をしたセルである。セルC8は、横方向ピッチPx2(0.4μm)、縦方向ピッチPy1(0.6μm)という設定で格子状に配列された演算点P8の位置に置かれるセルであり、横幅が0.4μm、縦幅が0.6μmの長方形の形状をしたセルである。そして、セルC9は、横方向ピッチPx2(0.4μm)、縦方向ピッチPy2(0.4μm)という設定で格子状に配列された演算点P9の位置に置かれるセルであり、一辺が0.4μmの正方形の形状をしたセルである。
図38は、この図37に示すセルC6〜C9の分割態様の一例を示す平面図である。図38の左上に示されているセルパターンC60〜C64は、セルC6についての5通りの分割態様を示し、図38の右上に示されているセルパターンC70〜C74は、セルC7についての5通りの分割態様を示し、図38の左下に示されているセルパターンC80〜C84は、セルC8についての5通りの分割態様を示し、図38の右下に示されているセルパターンC90〜C94は、セルC9についての5通りの分割態様を示している。いずれも斜線ハッチングを施して示す部分が第1の光学領域であり、干渉波強度に応じた面積を有する正方形もしくは長方形によって構成されており、そのような正方形もしくは長方形の二次元的な中心がセルの二次元的な中心に一致するように配置されている。
この実施形態では、4通りのいずれかの属性値が付与されている単位領域の集合体からなる平面原画像が用いられる。図39は、この第4の実施形態に係るホログラム記録媒体30を示す平面図である。図示のとおり、この記録媒体30の記録面は、4つの単位領域U1(a) ,U2(b) ,U3(c) ,U4(d) に分割されている。ここで、符号(a) ,(b) ,(c) ,(d) は、各単位領域に付与された属性値a,b,c,dを示している。この記録媒体30の記録面が、図示ように4つの単位領域に分けられているのは、作成プロセスにおいて、このような4つの単位領域から構成される平面原画像を用いたためである。
この記録媒体30の作成プロセスでは、この4つの単位領域ごとに、それぞれ異なる密度で演算点が定義され、それぞれ異なるセルが配置される。すなわち、図39の左上に示されている単位領域U1(a) については、横方向ピッチPx1(0.6μm)、縦方向ピッチPy1(0.6μm)で格子状に配列された演算点P6が定義され、図37の左上に示されているセルC6が配置される。そして、このセルC6を分割するために、演算点P6について算出された干渉波強度が5段階に量子化され、その結果に応じて、図38の左上に示すセルパターンC60〜C64のいずれかの分割態様が選択されることになる。
同様に、図39の右上に示されている単位領域U2(b) については、横方向ピッチPx1(0.6μm)、縦方向ピッチPy2(0.4μm)で格子状に配列された演算点P7が定義され、図37の右上に示されているセルC7が配置される。そして、このセルC7を分割するために、演算点P7について算出された干渉波強度が5段階に量子化され、その結果に応じて、図38の右上に示すセルパターンC70〜C74のいずれかの分割態様が選択されることになる。
一方、図39の左下に示されている単位領域U3(c) については、横方向ピッチPx2(0.4μm)、縦方向ピッチPy1(0.6μm)で格子状に配列された演算点P8が定義され、図37の左下に示されているセルC8が配置される。そして、このセルC8を分割するために、演算点P8について算出された干渉波強度が5段階に量子化され、その結果に応じて、図38の左下に示すセルパターンC80〜C84のいずれかの分割態様が選択されることになる。
そして、図39の右下に示されている単位領域U2(d) については、横方向ピッチPx2(0.4μm)、縦方向ピッチPy2(0.4μm)で格子状に配列された演算点P9が定義され、図37の右下に示されているセルC9が配置される。そして、このセルC9を分割するために、演算点P9について算出された干渉波強度が5段階に量子化され、その結果に応じて、図38の右下に示すセルパターンC90〜C94のいずれかの分割態様が選択されることになる。
図40は、この第4の実施形態に係るホログラム記録媒体の一部(図39の領域33に対応する部分)を拡大し、多数の微小要素の面積分布により、立体原画像の再生が可能な干渉縞が形成されていることを示す平面図である。図の左上部分は、図39に示す単位領域U1(a) の一部分であり、図の右上部分は、図39に示す単位領域U2(b) の一部分であり、図の左下部分は、図39に示す単位領域U3(c) の一部分であり、図の右下部分は、図39に示す単位領域U4(d) の一部分である。ここでも、波状の太線は、微小要素の面積分布の極大位置を示すために描き加えられたものであり、記録面に形成された干渉縞パターンを示す線ということになる。やはり波状の太線が、ほぼ図の水平方向に沿って伸びる線になっているが、これは図17に示すように、記録面30に対して、上方から入射する参照光Rを設定したためである。この例でも、立体原画像を再生するために必要な干渉縞パターンは、微小要素の面積分布として正しく記録されており、立体原画像の再生に何ら支障は生じない。
これに対して、図41は、図40に示す多数の微小要素を縦方向に連結する線により、平面原画像の再生が可能な格子線が形成されていることを示す平面図であり、縦方向の太線は、この格子線を示すために描き加えたものである。この図41に含まれている格子線のみを抽出した平面図を図42に示す(図では便宜上、上下の単位領域の境界を示す線も描かれている)。図示のとおり、上半分の2つの単位領域U1(a) ,U2(b) 内の格子線のピッチは0.6μmであるのに対し、下半分の2つの単位領域U3(c) ,U4(d) 内の格子線のピッチは0.4μmとなっている。したがって、上下の単位領域は、互いに異なった態様(異なった色)で観察されることになり、観察時には、互いに異なる面として把握されることになる。
一方、図43は、図40に示す多数の微小要素を横方向に連結する線により、平面原画像の再生が可能な格子線が形成されていることを示す平面図であり、横方向の太線は、この格子線を示すために描き加えたものである。この図43に含まれている格子線のみを抽出した平面図を図44に示す(図では便宜上、左右の単位領域の境界を示す線も描かれている)。図示のとおり、左半分の2つの単位領域U1(a) ,U3(c) 内の格子線のピッチは0.6μmであるのに対し、右半分の2つの単位領域U2(b) ,U4(d) 内の格子線のピッチは0.4μmとなっている。したがって、左右の単位領域は、互いに異なった態様(異なった色)で観察されることになり、観察時には、互いに異なる面として把握されることになる。
結局、この第4の実施形態に係る記録媒体30の場合、媒体の上方から再生用照明光Lを当てて観察すると、立体原画像の再生と平面原画像の再生との双方が行われることになる。立体原画像の再生が行われるのは、図17に示すように、記録面30に対して上方から参照光Rを照射した状態で生成されたホログラム干渉縞が記録されているため、図18に示す観察環境において、立体原画像の理想的な再生が行われるためである。一方、平面原画像の再生が行われるのは、図44に示すように、横方向の格子線として機能する微小要素の配列により、再生用照明光Lの一部が回折光として観察され、しかも左右の単位領域では、格子線ピッチが異なっているため、異なる色彩をもった領域として観察されるためである。ただ、立体原画像を記録するための縞のピッチと平面原画像を記録するための縞のピッチは異なるため、立体原画像と平面原画像とは、互いに異なる観察角度において再生されることになる。
これに対して、この記録媒体30に対して、横方向から再生用照明光Lを当てて観察すると、ホログラム干渉縞として記録されている立体原画像の再生は行われないが、平面原画像の再生は行われることになる。これは、図42に示すように、縦方向の格子線として機能する微小要素の配列により、再生用照明光Lの一部が回折光として観察され、しかも上下の単位領域では、格子線ピッチが異なっているため、異なる色彩をもった領域として観察されるためである。
かくして、この第4の実施形態として示した記録媒体30は、図2に示すとおり、上方から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、立体原画像と平面原画像との双方が再生像として観察され(見える角度は両者で異なる)、横方向から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、平面原画像のみが再生像として観察される記録媒体として機能する。
ここで留意すべき点は、この第4の実施形態の場合、再生される平面原画像は、記録対象となった元の平面原画像とは若干異なる点である。この第4の実施形態に係る記録媒体を作成するプロセスで用いられた元の平面原画像は、図39に示すような4つの単位領域U1(a) ,U2(b) ,U3(c) ,U4(d) から構成される画像である。ところが、実際に観察される平面原画像は、この元の平面原画像どおりではなく、一部の単位領域が融合した画像になっている。
たとえば、媒体の上方から再生用照明光Lを当てたときに観察される平面原画像は、図44に示す横方向の格子線として機能する微小要素の回折機能により再生されるものであるため、左右の単位領域は互いに異なる色で提示されるが、上下の単位領域は同じ色で提示されることになる。その結果、単位領域U1(a) ,U3(c) は融合し、単位領域U2(b) ,U4(d) も融合した状態になる。
一方、媒体の横方向から再生用照明光Lを当てたときに観察される平面原画像は、図42に示す縦方向の格子線として機能する微小要素の回折機能により再生されるものであるため、上下の単位領域は互いに異なる色で提示されるが、左右の単位領域は同じ色で提示されることになる。その結果、単位領域U1(a) ,U2(b) は融合し、単位領域U3(c) ,U4(d) も融合した状態になる。
このように、ここで述べた第4の実施形態は、元の平面原画像を構成する単位領域の一部が融合した状態で観察される、という特有の性質を有しており、この特有の性質を利用すれば、非常にユニークな特殊効果を付加することが可能になる。
<<< §10.本発明の第5の実施形態 >>>
ここで述べる第5の実施形態は、上述した第4の実施形態の特殊効果を利用して、2通りの平面原画像の記録を可能にしたものである。図45は、その基本概念を示す図である。図示のとおり、この第5の実施形態では、立体原画像10と、第1の平面原画像20S(Sは、星:Starを示す)と、第2の平面原画像20H(Hは、ハート:Heartを示す)と、を同一の記録媒体30上に重畳記録することが可能になる。
ここでは、図45に示すように、星をモチーフとした第1の平面原画像20Sが、単位領域US1(絵柄部分)と単位領域US2(背景部分)とによって構成されており、ハートをモチーフとした第2の平面原画像20Hが、単位領域UH1(絵柄部分)と単位領域UH2(背景部分)とによって構成されているものとする。そして、いずれの平面原画像についても、絵柄部分には絵柄属性を示す属性値「a」を付与し、背景部分には背景属性を示す属性値「b」を付与することにする。ここで、付与された属性値を(a) ,(b) で示すことにすれば、平面原画像20Sは単位領域US1(a) ,US2(b) によって構成され、平面原画像20Hは単位領域UH1(a) ,UH2(b) によって構成されていることになる。
続いて、記録面30上に、第1の平面原画像20Sの各単位領域US1(a) ,US2(b) に対応する領域と、第2の平面原画像20Hの各単位領域UH1(a) ,UH2(b) に対応する領域とを重ね、重ねられた各領域の輪郭線で囲まれた個々の閉領域を新たな単位領域と定義する。図46は、記録面30上に、このような定義を行った状態を示す平面図である。図示のとおり、星マークとハートマークとが、記録面30上で重畳した状態になり、記録面30上には、新たな単位領域(図46において、星の輪郭線もしくはハートの輪郭線または記録面30全体の輪郭線で囲まれた個々の閉領域)が形成される。そこで、この新たな単位領域について、次の4通りの属性値のいずれかを付与することにする。
まず、星マークの内側かつハートマークの内側に該当する単位領域には、第1の属性値「HS」を与える。そして、星マークの内側かつハートマークの外側に該当する単位領域には、第2の属性値「S」を与える。一方、ハートマークの内側かつ星マークの外側に該当する単位領域には、第3の属性値「H」を与える。最後に、星マークの外側かつハートマークの外側に該当する単位領域には、第4の属性値「O」を与える。図46には、各単位領域にこのような属性値を与えた状態が示されている。元の平面原画像20S,20H上では、絵柄属性「a」と背景属性「b」の2通りの属性しか定義されていなかったが、これら2つの平面原画像20S,20Hを重畳した記録面30上では、4通りの属性値「HS」,「S」,「H」,「O」が定義されることになる。
ここで、第1の属性値「HS」をもつ単位領域については、横方向ピッチPx1(0.6μm)、縦方向ピッチPy1(0.6μm)で格子状に配列された演算点P6を定義し、図37の左上に示されているセルC6を配置することにする。そして、このセルC6を分割するために、演算点P6について算出された干渉波強度を5段階に量子化し、その結果に応じて、図38の左上に示すセルパターンC60〜C64のいずれかの分割態様を選択する。
また、第2の属性値「S」をもつ単位領域については、横方向ピッチPx1(0.6μm)、縦方向ピッチPy2(0.4μm)で格子状に配列された演算点P7を定義し、図37の右上に示されているセルC7を配置することにする。そして、このセルC7を分割するために、演算点P7について算出された干渉波強度を5段階に量子化し、その結果に応じて、図38の右上に示すセルパターンC70〜C74のいずれかの分割態様を選択する。
一方、第3の属性値「H」をもつ単位領域については、横方向ピッチPx2(0.4μm)、縦方向ピッチPy1(0.6μm)で格子状に配列された演算点P8を定義し、図37の左下に示されているセルC8を配置することにする。そして、このセルC8を分割するために、演算点P8について算出された干渉波強度を5段階に量子化し、その結果に応じて、図38の左下に示すセルパターンC80〜C84のいずれかの分割態様を選択する。
そして、第4の属性値「O」をもつ単位領域については、横方向ピッチPx2(0.4μm)、縦方向ピッチPy2(0.4μm)で格子状に配列された演算点P9を定義し、図37の右下に示されているセルC9を配置することにする。そして、このセルC9を分割するために、演算点P9について算出された干渉波強度を5段階に量子化し、その結果に応じて、図38の右下に示すセルパターンC90〜C94のいずれかの分割態様を選択する。
さて、このような方法で作成された第5の実施形態に係る記録媒体30を観察した場合に、どのような再生像が得られるかを考えてみよう。まず、媒体の上方から再生用照明光Lを当てて観察すると、立体原画像の再生と平面原画像の再生との双方が行われることになる。立体原画像の再生が行われるのは、図17に示すように、記録面30に対して上方から参照光Rを照射した状態で生成されたホログラム干渉縞が記録されているため、図18に示す観察環境において、立体原画像の理想的な再生が行われるためである。
一方、平面原画像の再生が行われるのは、図44に示すように、横方向の格子線として機能する微小要素の配列により、再生用照明光Lの一部が回折光として観察されるためである。但し、このような観察条件では、格子線の縦方向ピッチが異なる単位領域は、互いに異なる色で観察されるので、相互に異なる領域として把握されることになるが、格子線の縦方向ピッチが同じになる単位領域は同一の色で観察されるので、融合した1つの領域として把握されることになる。
具体的には、図37に示すセルC6とC8とは、同一の縦幅Py1(0.6μm)を有しているため、セルC6が配置される第1の属性値「HS」の単位領域とセルC8が配置される第3の属性「H」の単位領域とは同一の色で観察され、融合した1つの領域として把握される。同様に、図37に示すセルC7とC9とは、同一の縦幅Py2(0.4μm)を有しているため、セルC7が配置される第2の属性値「S」の単位領域とセルC9が配置される第4の属性「O」の単位領域とは同一の色で観察され、融合した1つの領域として把握される。その結果、図46において、「HS」および「H」と記された領域が1つの融合領域として把握され、「S」および「O」と記された領域が別な1つの融合領域として把握されることになり、ハートマークが観察されることになる。
かくして、この第5の実施形態として示した記録媒体30は、図47(a) に示すとおり、上方から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、ハートマークのモチーフからなる平面原画像20Hが再生像として観察されることになる。なお、前述したとおり、このとき、立体原画像の再生像も観察可能であるが、縞の記録ピッチが異なるため、ハートマークと立体原画像とは、見える観察角度は異なる。
これに対して、この記録媒体30に対して、横方向から再生用照明光Lを当てて観察すると、ホログラム干渉縞として記録されている立体原画像の再生は行われないが、平面原画像の再生は行われることになる。これは、図42に示すように、縦方向の格子線として機能する微小要素の配列により、再生用照明光Lの一部が回折光として観察されるためである。但し、このような観察条件では、格子線の横方向ピッチが異なる単位領域は、互いに異なる色で観察されるので、相互に異なる領域として把握されることになるが、格子線の横方向ピッチが同じになる単位領域は同一の色で観察されるので、融合した1つの領域として把握されることになる。
具体的には、図37に示すセルC6とC7とは、同一の横幅Px1(0.6μm)を有しているため、セルC6が配置される第1の属性値「HS」の単位領域とセルC7が配置される第2の属性「S」の単位領域とは同一の色で観察され、融合した1つの領域として把握される。同様に、図37に示すセルC8とC9とは、同一の横幅Px2(0.4μm)を有しているため、セルC8が配置される第3の属性値「H」の単位領域とセルC9が配置される第4の属性「O」の単位領域とは同一の色で観察され、融合した1つの領域として把握される。その結果、図46において、「HS」および「S」と記された領域が1つの融合領域として把握され、「H」および「O」と記された領域が別な1つの融合領域として把握されることになり、星マークが観察されることになる。
かくして、この第5の実施形態として示した記録媒体30は、図47(b) に示すとおり、横方向から再生用照明光Lを照射した状態で正面から見ると、星マークのモチーフからなる平面原画像20Sが再生像として観察されることになる。
以上、本発明の第5の実施形態を、図示する一例について述べたが、この実施形態を一般論で説明すると、次のようなプロセスを実行すればよい。
まず、平面原画像準備段階では、絵柄属性をもつ単位領域と背景属性をもつ単位領域とによって構成された第1の平面原画像を示すデータと、絵柄属性をもつ単位領域と背景属性をもつ単位領域とによって構成された第2の平面原画像を示すデータと、を用意する。次に、単位領域設定段階で、記録面30上に、第1の平面原画像の各単位領域に対応する領域と、第2の平面原画像の各単位領域に対応する領域と、を重ね、重ねられた各領域の輪郭線で囲まれた個々の閉領域を新たな単位領域と定義する。そして、記録面30上の各位置について、第1の平面原画像および第2の平面原画像の双方について絵柄属性が定義されている場合には第1の属性値を与え、第1の平面原画像については絵柄属性が、第2の平面原画像については背景属性が、それぞれ定義されている場合には第2の属性値を与え、第1の平面原画像については背景属性が、第2の平面原画像については絵柄属性が、それぞれ定義されている場合には第3の属性値を与え、第1の平面原画像および第2の平面原画像の双方について背景属性が定義されている場合には第4の属性値を与えることにより、記録面30上に第1〜第4のいずれかの属性値をもった複数の単位領域を設定する。
一方、演算点定義段階では、X軸方向のピッチとして、ピッチPx1およびピッチPx2の2通りのピッチを定め、Y軸方向のピッチとして、ピッチPy1およびピッチPy2の2通りのピッチを定め、第1の属性値をもった単位領域内には、X軸方向のピッチがPx1、Y軸方向のピッチがPy1となる演算点の定義を行い、第2の属性値をもった単位領域内には、X軸方向のピッチがPx1、Y軸方向のピッチがPy2となる演算点の定義を行い、第3の属性値をもった単位領域内には、X軸方向のピッチがPx2、Y軸方向のピッチがPy1となる演算点の定義を行い、第4の属性値をもった単位領域内には、X軸方向のピッチがPx2、Y軸方向のピッチがPy2となる演算点の定義を行うようにすればよい。
また、セル定義段階では、記録面30上の各単位領域内に、X軸方向の幅が、当該単位領域についての演算点のX軸方向のピッチに等しく、Y軸方向の幅が、当該単位領域についての演算点のY軸方向のピッチに等しい矩形状のセルを定義すればよい。
<<< §11.本発明に係るホログラム記録媒体の構造 >>>
最後に、これまで述べてきた本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法によって作成された記録媒体の構造の特徴を述べておく。
前述したとおり、図21は、図20に示す記録媒体30の一部分の領域31の拡大平面図である。図示のとおり、媒体表面には、多数の微小要素(斜線によるハッチングもしくはドットによるハッチングが施された個々の矩形)が配置されている。実際の媒体では、各微小要素の内部は第1の光学特性を示し、その外部(図に白地で示されている部分)は第2の光学特性を示す。微小要素の内側領域と外側領域との間で、光学特性(反射型ホログラム記録媒体の場合は光学的反射特性、透過型ホログラム記録媒体の場合は光学的吸収特性)を変える方法としては、これまでも述べたとおり、媒体の表面の材質を変える、媒体表面の微小要素の部分にインキ層や金属層などを付着させる、微小要素の部分に溝を掘る(媒体の表層部分に形成された溝によって微小要素を構成する)、などの方法を採ることができる。
なお、各微小要素に施されたハッチングの相違は、光学特性の相違を示すものではなく、所属する単位領域の属性の相違を示すものである。すなわち、斜線によるハッチングが施された微小要素は、第1の属性値「a」をもつ単位領域U5(a) ,U6(a) に所属する要素であり、ドットによるハッチングが施された微小要素は、第2の属性値「b」をもつ単位領域U0(b) に所属する要素である。図では、所属する単位領域を明瞭に示すために、各微小要素に2通りのハッチングを施して区別しているが、実際の物理的媒体上に形成された微小要素は、いずれも同じ光学特性を有している。
これらの微小要素の配列には、立体原画像の情報と平面原画像の情報との双方が含まれていることになる。すなわち、図22に波状の太線で示されているように、媒体表面上における微小要素の面積分布によって構成される干渉縞は、立体原画像の情報をもつホログラム干渉縞になっており、このホログラム干渉縞による光の回折現象によって所定の立体原画像が再生される。
一方、図23に太線で示されているように、各微小要素は、いずれも媒体表面上の特定方向(図示の例の場合は縦方向)に沿った列をなすように配置されており、同一の列上に並んで配置されている微小要素の各中心点を、この特定方向に連結することにより得られる格子線(図示の太線)による光の回折現象によって所定の平面原画像が再生される。具体的には、図23に示す格子線のピッチは、図24に示すとおり、単位領域の属性値によって異なり、同じピッチの格子線が形成された単位領域は同一の色で観察され、異なるピッチの格子線が形成された単位領域は異なる色で観察される。
本発明の重要な特徴は、平面原画像を構成する複数の単位領域について、内部に配置する微小要素のピッチを異ならせるという点である。このような観点から本発明に係るホログラム記録媒体の特徴を捉えると、媒体表面に、所定の平面原画像を構成する複数の単位領域が形成されており、各単位領域には、多数の微小要素が単位領域ごとに固有のピッチで規則的に配置されており、各微小要素の内部は第1の光学特性を示し、各微小要素の外部は第2の光学特性を示し、かつ、この媒体表面上における微小要素の面積分布により、所定の立体原画像を再生可能な干渉縞が形成されている、ということができる。
特に、平面原画像として二値画像が用いられている場合には、媒体表面に、当該平面原画像の絵柄部分を構成する第1属性の単位領域と、当該平面原画像の背景部分を構成する第2属性の単位領域と、が設けられており、第1属性の単位領域には、多数の微小要素が第1のピッチで規則的に配置されており、第2属性の単位領域には、多数の微小要素が第2のピッチで規則的に配置されていることになる。
このように、本発明に係るホログラム記録媒体を構成する各微小要素は、ホログラム干渉縞や回折格子を構成する光学要素として機能する必要があるので、その配置ピッチは、光の波長のオーダーに設定する必要がある。たとえば、図21に示す例の場合、斜線によるハッチングが施された微小要素の横方向の配置ピッチは0.6μm、縦方向の配置ピッチは0.2μmであり、ドットによるハッチングが施された微小要素の横方向の配置ピッチは0.4μm、縦方向の配置ピッチは0.2μmである。このように、微小要素の配置ピッチは、1μm以下の寸法に設定されるため、単位領域ごとの配置ピッチの相違は、光学顕微鏡を用いた観察でも認識することが困難である。このような特徴は、偽造防止の観点から有益である。
一般的なホログラム記録媒体の場合、実用上、微小要素の配置ピッチを、0.1μm〜5μmの範囲に設定するのが好ましい。したがって、演算点定義段階では、演算点のX軸方向のピッチおよびY軸方向のピッチを、0.1μm〜5μmの範囲に設定すればよい。
微小要素の配置ピッチの下限を0.1μmに設定するのは、物理的媒体の表面上に微小要素を形成するプロセスを行うために最適と考えられる電子線描画装置の解像度の限界が、現在の技術では、0.1μm程度であるからである。微小要素の配置ピッチを、0.1μmより小さく設定しても、現在の技術では、そのような微小要素の集合体を、一般的な電子線描画装置で描画することは困難である。また、微小要素の配置ピッチを0.1μm未満に設定しても、可視波長域の光の回折には役立たないので、肉眼で観察する一般的なホログラム記録媒体の場合、微小要素の配置ピッチは、0.1μm以上に設定するのが好ましい。
一方、微小要素の配置ピッチの上限を5μmに設定するのは、立体像を人間が両目で観察する一般的な観察環境を考慮すると、配置ピッチが5μmを越えると、可視波長域での立体像の正常な観察ができなくなるためである。具体的には、両目の間隔を65mm、ホログラム記録媒体からの観察距離を500mmとすると、両目で立体像を観察するために必要な回折角θの条件は、tanθ=(65mm/2)/500mmとなるので、θ=3.72°が得られる。
ここで、1次回折光のみを考慮することにして、回折現象の式「d・sinθ=λ」を適用して干渉縞ピッチの値dを求めてみる。θには、上述の回折角θ=3.72°を用い、λには、可視波長域の上限である波長λ=633nmを用いることにすれば、干渉縞ピッチの上限値d=9756nmが得られる。シャノンの標本化定理により、ピッチdの干渉縞を記録するためには、微小要素の配置ピッチをd/2以下に設定する必要があるので、結局、上述した観察条件を前提とした場合、微小要素の配置ピッチの上限は、約4.9μmということになる。このような理由から、実用上、微小要素の配置ピッチの上限を5μm程度に設定するのが好ましい。