JP2009030123A - 強度および耐孔食性に優れる熱交換器用アルミニウム合金クラッド材 - Google Patents
強度および耐孔食性に優れる熱交換器用アルミニウム合金クラッド材 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】アルミニウム合金芯材の片面にアルミニウム合金ろう材、他面に犠牲陽極材がクラッドされ、犠牲陽極材が、Zn:0.5〜10.0%、Si:0.8〜1.5%、Mg:0.005〜0.2%、所望によりNi:0.1〜1.5%、また所望によりTi:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%のうち1種または2種以上を含み、不可避不純物中のFeとSiの割合がFe≦1/4×Siの関係を満たす。好適には、犠牲陽極材マトリックス中に円相当径で0.1〜1.0μmのSi粒子を3×102〜3×105個/mm2分布させる。
【選択図】なし
Description
チューブ材としては、Al−Mn−Cu系合金からなる芯材の片面にAl−Si系ろう材をクラッドし、他の片面に犠牲陽極材としてAl−ZnもしくはAl−Mg−Zn系合金をクラッドした3層のアルミニウム合金が使用されている。最も一般的に用いられている前記クラッド材合金としては、JIS3003合金(質量%でMn:1.0〜1.5%、Cu:0.1〜0.2%、Si:0.6%以下、Fe:0.75%以下、Zn:0.10%以下、残部:Alおよび不可避不純物からなるAl−Mn系合金)を芯材とし、この芯材の片面にJIS7072合金からなる犠牲陽極材を貼り合わせ、他方の片面にAl−Si系あるいはAl−Si−Zn系ろう材を貼り合わせたクラッド材(ブレージングシート)が知られている。Al−Si系ろう材は、ろう付時にチューブ材とフィン材の接合、およびチューブ材とヘッダープレートとの接合に用いられ、犠牲陽極材は熱交換器として使用中に作動流体と接して芯材との電気化学的性質の違いにより皮材が主として腐食する犠牲陽極効果を発揮し、芯材の孔食や隙間腐食の発生を抑制し、耐孔食性を向上させる作用を有する。
ろう付性については犠牲陽極材中にSi粒子が微細に分布していると、これらが犠牲陽極材表面の酸化皮膜欠陥部を形成するため、フラックスにより酸化皮膜が十分に除去されない場合でもチューブ自身のろう材との濡れ性が向上し、良好な接合状態が得られる。また、Si粒子近傍のマトリックスはろう付熱処理時のSi拡散により低融点化し、ろう材との接合性が向上することを見出すに至った。この効果はSiの単独析出によるものであり、SiはFeやMn等と金属間化合物を形成しやすいため、これらの元素の添加量をコントロールし、Si単独析出が十分に起こる添加量のバランスを考慮することが必要となる。
従来は犠牲陽極材にZnを添加し、芯材に対して電位を卑にすることで深い孔食の発生を抑制していた。しかし、薄肉材の場合は、ろう付時の元素拡散により芯材との電位差が小さくなり犠牲陽極材の腐食形態が面状とならず部分的に深い孔食が発生してしまうことがあった。そこで、本発明材は犠牲陽極材にSiを添加することでSi粒子を微細分散させ、犠牲陽極材の腐食発生起点を増加させることで、深い孔食の発生を抑制した。
犠牲陽極材にFeやNiを添加した場合もAl−Fe、Al−Ni系の金属間化合物が生成し、アルカリ環境中において耐孔食性の向上効果は見られるが、そのサイズはSi単独析出の場合に比べ非常に粗大となる。分散粒子の大きさはできるだけ小さい方が腐食の起点が増加し、腐食形態が面状となるため上記粗大金属間化合物を生成しないようにSiとFe添加量のバランスを最適化することが重要である。
Znは犠牲陽極材の電位を卑にし、芯材に対する犠牲陽極効果を効果的なものにするため、芯材に腐食が進行するのを防止する。また、犠牲陽極材表面の酸化皮膜を脆弱にし、腐食の発生起点を増加させて腐食形態を面状にする効果もある。その含有量が0.5%未満では酸性域で所望の効果が得られず、一方、10.0%を超えて含有すると自己耐食性が増大し過ぎて好ましくない。したがって、Zn含有量は0.5〜10.0%に定めた。Zn含有量の一層好ましい下限は1.0%、同じく上限は5.0%である。
Siは犠牲陽極材中にSi粒子として分散し、Si粒子が存在する部位は酸化皮膜の生成が抑制され、皮膜欠陥部を生じるため、ろう付時にろう材との濡れ性すなわち接合性が向上する。また、ろう付後に素地中に微細分散し、腐食の起点が増加するため、耐孔食性を向上させる。さらに、微細析出やマトリックスに固溶して強度を向上させる作用を有し、犠牲陽極材の強度向上に寄与する。Si:0.8%未満では析出する分散粒子の数が少なくなるため所望の効果が得られず、一方、1.5%を超えると、融点が低下するためろう付け時に犠牲陽極材が局部溶融し、さらにSi析出物のサイズや数が多くなり、かえって耐食性が低下する。したがって、Si量を0.8〜1.5%に定めた。Si含有量の一層好ましい下限は0.9%、同じく上限は1.2%である。
Mgはろう付時に固溶し、材料強度を向上させる。また、ろう付後に犠牲陽極材中のZn、SiとMgZn2、Mg2Siを形成し、時効硬化によりさらなる強度向上に寄与する。Mgは、その含有量が0.005%未満では所望の効果が得られず、0.2%を超えて含有するとろう付性が低下する。したがって、Mg添加量は0.005〜0.2%の範囲に定めた。Mg含有量の一層好ましい下限は0.03%、同じく上限は0.15%である。
FeはSiとAl−Fe−Si系化合物を生成し、アルカリ環境中においてはこれらの金属開化合物を起点としてピットが発生し、孔食の起点を増加させる作用がある。ただし、Si分散粒子に比べ粗大な化合物が形成されるため大きな孔食が発生しやすく、マトリックスと局部セルを形成しやすいため腐食速度も増加する。本発明においてはSiの析出が阻害され、かえって耐孔食性が低下するため、Si含有量とのバランスによりFe量を規制する。
Niは素地中にAl−Ni系化合物を生成するため、そこを起点として材料表面にピットが発生し、孔食の起点を増加させ深い孔食の発生を抑制するので所望により含有させる。特にアルカリ環境中ではカソード点の集中を抑制し、耐食性の向上に寄与する。また、強度の向上にも寄与する。Al−Ni系化合物はSi粒子に比べると粗大だが、Al−Fe系化合物やAl−Fe−Si系化合物に比べるとその大きさが小さく均一に分布するため、耐食性向上に及ぼす効果が大きい。また、Siの析出物を微細に分布させる効果もある。Niは、その含有量が0.1%未満では所望の効果が得られず、一方、1.5%を超えて含有すると犠牲陽極皮材の自己腐食性が増大するので好ましくない。したがって、Niを所望に含有させる場合、その含有量を0.1%〜1.5%の範囲に定めた。Ni含有量の一層好ましい下限は0.3%であり、同じく上限は0.7%である。
Zr:0.05〜0.3%
Tiを添加すると鋳造時にTi濃度(固溶度)が高い部分と低い部分が生成し、これが圧延時に延ばされ材料中に層状のTi濃度分布が形成されるので所望により含有させる。Ti濃度が低い部分は高い部分に比べ電位が卑になり、優先的に腐食が進行するため腐食形態が層状となり耐食性が向上する。また、Zrを添加するとAl−Zr系の金属間化合物が微細に析出し、それらがアルカリ環境中で腐食の起点となり、孔食の発生数を増加させ、深い孔食の発生を抑制する。ZrにはTiの層状腐食を促進する作用があり、TiとZrを同時に添加するとさらに耐孔食性を向上させる効果がある。
0.1〜1.0μmのSi粒子:3×102〜3×105個/mm2
犠牲陽極材表面のSi粒子が存在する部位は酸化皮膜の生成が抑制され、皮膜欠陥部を生じると共に、ろう付温度ではSi粒子近傍のマトリックスがSi拡散により低融点化し、ろう材との濡れ性が向上し、チューブ内柱部の接合性が向上する。また、Si粒子は酸化皮膜の欠陥部を生成するため、その周りが腐食の発生起点となり、腐食形態を面状にする。本発明の範囲ではそれらの分散粒子が腐食の起点となり、局所的な孔食による貫通孔の発生は抑制され、優れた耐孔食性が得られる。
クラッド材の製造工程において犠牲陽極材中に前記Si析出物が生成するが、この析出物のサイズや分布は主に製造時の熱処理条件によって決まるため、安定的に析出させるには下記の製造方法が好適である。
その後、犠牲陽極材、芯材、ろう材のクラッド率がそれぞれ15%、75%、10%となるように各材料を組み合わせて熱間圧延により3層材とし、厚さ約6mm厚まで熱間圧延後、適宜中間焼鈍を行ないながら冷間圧延により板厚0.20mm、調質H14のクラッド材を作製した。
作製したクラッド材を高純度窒素ガス雰囲気中で600℃に3分間保持するろう付熱処理を行なった後、以下に示す方法により犠牲陽極材中のSi析出物の測定を行なった。
犠牲陽極材表面を圧延目が消えるまで機械研磨した後、電解研磨を実施し、日本電子社製のEPMA(JXA−8900RL)により倍率2000倍で犠牲陽極材の組成像を撮影し、分散粒子の数および円相当径を測定した。次に粒子解析により測定された分散粒子の成分の特定を行なった。円相当径で0.1〜1.0μmのサイズのSi析出物の1mm2当たりの数は2000倍で20視野(合計0.05mm2)測定を実施し、算出を行なった。その結果を表2に示した。
作製したクラッド材を高純度窒素ガス雰囲気中で600℃に3分間保持するろう付熱処理を行なった後、これを50mm長さ×40mm幅に切り出して腐食試験用の供試材とした。Cl−:195ppm、SO4 2−:60ppm、Fe3+:30ppm、Cu2+:1ppmを含む酸性の水溶液(pH3.0)を腐食液とし、試験材を自動車用熱交換器の冷却水を想定して80℃に8時間保持した後、室温で16時間保持するという温度サイクルを加えながら、浸漬試験を4週間実施した後、犠牲陽極材側の最大孔食深さを測定し、酸性環境下での耐孔食性を評価した。その結果を表2に示した。
作製したクラッド材を高純度窒素ガス雰囲気中で600℃に3分間保持するろう付熱処理を行なった後、これを50mm長さ×40mm幅に切り出して腐食試験用の供試材とした。水道水中に市販のロングライフクーラントを濃度10vol%となるように添加し、NaOHにてpH11に調整したアルカリ溶液を腐食液とし、自動車用熱交換器の冷却水を想定して80℃に8時間保持した後、室温で16時間保持するという温度サイクルを加えながら、浸漬試験を4週間実施した後、犠牲陽極皮材側の最大孔食深さを測定し、酸性環境下での耐孔食性を評価した。その結果を表2に示した。
作製したクラッド材を図1に示した断面形状のろう付造管チューブに成形し、このチューブとフィンおよびヘッダープレートを組み合わせてノコロックフラックスを約3g/m2塗布した後、高純度窒素ガス雰囲気中でろう付熱処理を行ない、熱交換器を作製した(チューブ幅:16mm、チューブ段数:32段、コアサイズ:320mml×350mmw)。
その後、作製したラジエータに0.5⇔150kPaの繰り返し加圧試験を実施し、チューブに破断が発生するまでの回数を測定した。チューブ内柱部に1ヶ所でも接合不良がある場合、破断までの回数は著しく低下するため、本試験によりろう付性の評価が可能となる。
2 芯材
3 アルミニウム合金ろう材
4 犠牲陽極材
Claims (4)
- アルミニウム合金芯材の片面にアルミニウム合金ろう材がクラッドされ、前記芯材の他方の片面に犠牲陽極材がクラッドされたアルミニウム合金クラッドにおいて、前記犠牲陽極材は、質量%で、Zn:0.5〜10.0%、Si:0.8〜1.5%、Mg:0.005〜0.2%を含み、残部がAlと不可避不純物からなるとともに、前記不可避不純物中のFeと前記Si量の割合がFe量(wt%)≦1/4×Si量(wt%)の関係を満足することを特徴とする強度および耐孔食性に優れるアルミニウム合金クラッド材。
- 前記犠牲陽極材は、マトリックス中に円相当径で0.1〜1.0μmのSi粒子が1mm2当たり3×102〜3×105個分布していることを特徴とする請求項1記載の強度および耐孔食性に優れるアルミニウム合金クラッド材。
- 前記犠牲陽極材は、さらに質量%で、Ni:0.1〜1.5%を含むことを特徴とする請求項1または2記載の強度および耐孔食性に優れるアルミニウム合金クラッド材。
- 前記犠牲陽極材は、さらに質量%で、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%のうち1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強度および耐孔食性に優れるアルミニウム合金クラッド材。
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