JP2008001864A - 耐水グリース、該グリース封入転がり軸受およびホイールベアリング - Google Patents
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Abstract
【解決手段】非水系基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに、添加剤としてCaスルフォネートと、ソルビタンモノオレエートと、亜鉛ジアルキルジチオフォスフェートと、アミン系酸化防止剤とを配合してなる耐水グリースであり、該グリース中に分散できる飽和水分量が 30〜60 重量%であり、上記ベースグリース 100 重量部に対し、上記Caスルフォネートを 0.5〜2 重量部、ソルビタンモノオレエートを 0.2〜1 重量部、亜鉛ジチオフォスフェートを 2 重量部、アミン系酸化防止剤を 1 重量部、それぞれ配合し、ホイールベアリング6はこの耐水グリースを封入する。
【選択図】図1
Description
軸受材質に着目すると、第一世代では内外輪ともに軸受鋼(例えばSUJ2)が用いられていたが、外輪にフランジが設けられる第二世代、第三世代のホイールベアリングでは、鍛造性が良く安価なS53Cなどの機械構造用炭素鋼が用いられるようになった。機械構造用炭素鋼は軌道部に高周波熱処理を施すことで、軸受部の転がり疲労強度を確保しているが、合金成分が少ないため表面強度が弱く、軸受鋼に比べ表面起点剥離への耐性が劣る。そのため、第一世代と同じ潤滑仕様では使用条件が厳しい場合に耐久性が劣ることがあった。
耐水グリースの改良については、低粘度基油の採用による回転トルクの低減(特許文献1参照)や、静電気除去のための導電性の付与(特許文献2参照)が知られているが、水がグリースに混入した時に軸受性能を維持するための配慮はなされていなかった。
軸受中に水が混入すると以下のことが問題となる。水滴が負荷域に浸入した場合、油膜が途切れ潤滑性の面で不利である、油膜が途切れることにより金属接触が起こり、摩耗、表面起点型の剥離(ピーリングやスミアリングなど)、早期剥離が発生する危険がある。早期剥離とは表面近傍に白色組織変化を伴った剥離や転動体の転動方向とそれとは逆方向に表面近傍で亀裂が進展する剥離を指す。また、軸受内での水の存在状態によっては軸受内部に錆が発生する。
本発明において、飽和水分量とは微小粒子としての水をグリース中に分散させることができる最大の水分量をいう。
また、上記ベースグリース 100 重量部に対し、上記亜鉛ジチオフォスフェートを 2 重量部、上記アミン系酸化防止剤を 1 重量部、それぞれ配合したことを特徴とする。
ここで、摺接部位とは、例えば後述の図1に示すようなホイールベアリングにおいてハブ輪1および内輪2を有する内方部材5と、外輪である外方部材3と、両部材間に介在する複列の転動体4、4との転がり接触部をいう。また、本発明の耐水グリースはホイールベアリング6において、内方部材5と、外方部材3と、両部材間を密封し複列の転動体4を軸方向に挟む形で取付けられた2個のシール部材7、8とに囲まれた環状空間に封入される。
そのため、グリース中に水が混入したとしても油膜形成の阻害を起こす水分の働きを抑制することができる。また、錆止め作用についても、軸受を構成する鋼と、塊状の水成分との接触を少なくできるため錆の発生を抑制することができる。
グリース中に水を微粒子として分散させることができる所定の添加剤を配合し、飽和水分量を 30〜60 重量%に制御したグリースを封入した軸受は、水が浸入しても転がり接触部等の潤滑性能が低下することなく持続することを見出した。これは飽和水分量を制御したグリースは、浸入した水が微小な水粒子となってグリース中に分散させられ、連続相であるグリースに閉じ込められるので、グリースによる油膜形成を阻害することができないことにより軸受の耐久性が向上するものと考えられる。本発明はこのような知見に基づくものである。
飽和水分量(重量%)=グリース中に分散可能な最大水分量×100/(グリース重量+グリース中に分散可能な最大水分量)
上記式で表される該グリースの飽和水分量を 30〜60 重量%に制御することを必須とする。さらに 40〜50 重量%の範囲とすることがより好ましい。この範囲であれば水分による油膜形成の阻害を抑制することができる。
飽和水分量が 30 重量%未満では水分を取り込みにくくなり、軸受内部で大きな水滴として存在し油膜形成を阻害する。また、60 重量%より大きいと軸受内部に多量の水分を保持し過ぎてしまい、錆が発生する。
Caスルフォネートおよびソルビタンモノオレエートは、界面活性剤であり水がホイールベアリング中に浸入しても、油膜切れや発錆を起こさないようにグリース中に水分を分散させ水分を無害化させるために用いられる。グリースに浸入した水は界面活性剤により微小な水粒子となってグリース中に分散させられる。グリースは連続相として存在できるので、油膜切れが生じないと考えられる。
また、同様に連続相であるグリースに閉じ込められた不連続相である水粒子はホイールベアリング本体を構成する構造鋼と接触する確率も極めて低く、低い確率で構造鋼に付着した水粒子もホイールベアリング本体の回転に連動する転動体の回転によりすぐに連続相であるグリースに置換されるので構造鋼を発錆させることができないと考えられる。
すなわち、本発明においてベースグリース 100 重量部に対し、Caスルフォネートを 0.5〜2 重量部配合する場合には、塩基価が 50 未満のときには極圧性能が不十分となり、塩基価が 500 をこえても、それ以上の効果は望めない。
両者を上記範囲内で併用することにより、耐水グリースの飽和水分量を 30〜60 重量%に制御することができる。また、油膜形成率などの所期の効果が頭打ちになり、軸受寿命などのグリース特性を低下させる等のおそれがない。
アルキル基としては、一級アルキル基、二級アルキル基およびアリール基が挙げられるが、水に対する安定性や摩耗防止性等のバランスのよい二級アルキル基を用いることが好ましい。
0.5 重量部未満のときは極圧性能が不十分となり、所期の効果を十分に得ることが困難になり、また、2.0 重量部をこえて添加しても、それ以上の効果を得ることはできない。
アミン系酸化防止剤の配合量は、ベースグリース 100 重量部に対して 0.5〜2.0 重量部を配合することが好ましい。0.5 重量部未満のときは酸化防止性能が不十分となり、所期の効果を十分に得ることが困難になり、また、2.0 重量部をこえて添加してもそれ以上の効果は望めない。最も好ましくは、ベースグリース 100 重量部に対して 1 重量部である。
鉱油としては、例えば、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、流動パラフィン、水素化脱ろう油などの通常潤滑油やグリースの分野で使用されているものをいずれも使用することができる。
PAO油としては、α-オレフィンの重合体、α-オレフィンとオレフィンとの共重合体、またはポリブテンなどが挙げられる。これらは、α-オレフィンの低重合体であるオリゴマーとし、その末端二重結合に水素を添加した構造である。また、α-オレフィンの一種であるポリブテンも使用でき、これはイソブチレンを主体とする出発原料から塩化アルミニウムなどの触媒を用いて重合して製造できる。ポリブテンは、そのまま用いても、水素添加して用いてもよい。
α-オレフィンのその他の具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラコセン等を挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。
また、潤滑性能や価格を考慮すると、これらの非水系基油の中でも鉱油を使用することが好ましい。
非水系基油の配合割合が、60 重量部未満では、グリースが硬く低温時の潤滑性が悪い。また 99 重量部をこえると軟質で洩れ易くなる。
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
本発明においては、芳香族ジイソシアネートと、脂環族モノアミンおよび芳香族モノアミン、または芳香族モノアミン単体との反応で得られる脂環族−芳香族ウレア系化合物または芳香族ウレア系化合物が好ましい。特に好ましくは、脂環族モノアミンとしてシクロヘキシルアミンを、芳香族モノアミンとしてアニリンを併用する。
本発明においてベースグリース 100 重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、好ましくは 1〜40 重量部、さらに好ましくは 3〜25 重量部である。増ちょう剤の配合割合が 1 重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40 重量部をこえるとグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られにくくなる。
ホイールベアリング6は、ハブ輪1および内輪2を有する内方部材5と、外輪である外方部材3と、複列の転動体4、4とを備えている。ハブ輪1はその一端部に車輪(図示せず)を取付けるための車輪取付けフランジ1dを一体に有し、外周に内側転走面1aと、この内側転送面1aから軸方向に延びる小径段部1bとが形成されている。
本明細書においては、軸方向に関して「外」とは、車両への組付け状態で幅方向外側をいい、「内」とは、幅方向中央側をいう。
ハブ輪1の小径段部1bには、外周に内側転走面2aが形成された内輪2が圧入されている。そして、ハブ輪1の小径段部1bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部1cにより、ハブ輪1に対して内輪2が軸方向へ抜けるのを防止している。
外方部材3は、外周に車体取付けフランジ3bを一体に有し、内周に外側転走面3a、3aと、これら複列の外側転走面3a、3aに対向する内側転走面1a、2aとの間には複列の転動体4、4が転動自在に収容されている。
本発明の耐水グリースはシール部材7と、外方部材3と、シール部材8と、内方部材5と、ハブ輪1とに囲まれた空間に封入され、外方部材3と、内方部材5とに挟まれた複列の転動体4、4の周囲を被覆し、転動体4、4の転動面と、内側転走面1a、2aおよび外側転走面3a、3aとの転がり接触部の潤滑に供される。
本発明の耐水グリースは、ホイールベアリング以外の高負荷がかかる軸受にも使用することができる。
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例3
非水系基油である鉱油に、増ちょう剤としてウレア化合物を均一に分散させた鉱油/ウレア系ベースグリース(JISちょう度No.2グレード、ちょう度:265〜295 )を準備した。
鉱油(新日本石油社製タービン100、40℃での動粘度:100 mm2/sec )2000 g 中で、ジフェニルメタン−4、4'−ジイソシアネー卜 231.7 g と、アニリン 86.2 g と、シクロヘキシルアミン 91.7 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合で添加剤を配合して試験用グリースを得た。
使用軸受:アンギュラ玉軸受7006ADLLBをホイールベアリングに模擬して使用した。
試験条件:得られた試験用グリースをアンギュラ玉軸受7006ADLLBに 1.0 g 封入し、ラジアル荷重 8000 N 、アキシャル荷重 3000 N 、軸受回転数 1000 rpm にて回転させた状態で、注水量 1.0 ml/時間で 10 時間、注水したときの試験用グリースの油膜形成率を測定した。
使用軸受:アンギュラ玉軸受7006ADLLBをホイールベアリングに模擬して使用した。
試験条件:得られた試験用グリースをアンギュラ玉軸受7006ADLLBに 1.0 g 封入し、ラジアル荷重 8000 N 、アキシャル荷重 3000 N 、軸受回転数 1000 rpm にて回転させた状態で、注水量 1.0 ml/時間で注水したときの軸受寿命を測定した。軸受寿命は外輪転動面、内輪転動面、鋼球のいずれか 1 つが損傷し振動が大きくなるまでの時間を軸受寿命とした。
一定量を量り採った試験用グリースに水の混入割合を 5 重量%ずつ変化させて加え、ミクロスパーテルを用いて手動で撹拌し、加えた水を分散できた最大の水分量を求め、以下の式を用いて飽和水分量を算出した。分散できたかどうかは、試験用グリースをガラスプレートに採取し、厚さ 0.025 mm のスペーサシムをガラスプレートの両端に置き、その上から別のガラスプレートで挟み、ガラスプレート全体に 600 N の荷重を均一に負荷して、試験用グリースを広げ顕微鏡で観察したとき、グリース内に存在する最も大きい水滴の粒子径が 50μm 以下であるときを、分散できているとした。
飽和水分量(重量%)=グリース中へ分散可能な最大水分量×100/(試験用グリース重量+グリース中へ分散可能な最大水分量)
1a 内側転走面
1b 小径段部
1c 加締部
1d 車輪取付けフランジ
2 内輪
2a 内側転走面
3 外方部材
3a 外側転走面
3b 車体取付けフランジ
4 転動体
5 内方部材
6 ホイールベアリング
7 シール部材
8 シール部材
Claims (7)
- 非水系基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに、添加剤としてCaスルフォネートと、ソルビタンモノオレエートと、亜鉛ジチオフォスフェートと、アミン系酸化防止剤とを配合してなる耐水グリースであって、前記耐水グリース中に分散できる飽和水分量が 30〜60 重量%であることを特徴とする耐水グリース。
- 前記ベースグリース 100 重量部に対し、前記Caスルフォネートを 0.5〜2 重量部、ソルビタンモノオレエートを 0.2〜1 重量部、それぞれ配合したことを特徴とする請求項1記載の耐水グリース。
- 前記ベースグリース 100 重量部に対し、前記亜鉛ジチオフォスフェートを 2 重量部、前記アミン系酸化防止剤を 1 重量部、それぞれ配合したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐水グリース。
- 前記Caスルフォネートの塩基価が 50〜500 であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の耐水グリース。
- 前記非水系基油が鉱油であり、前記増ちょう剤がウレア系化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の耐水グリース。
- 内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する転動体とを備え、この転動体の周囲に耐水グリースを封入してなる転がり軸受であって、前記耐水グリースが請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の耐水グリースであることを特徴とする転がり軸受。
- 耐水グリースが封入され、機械構造用炭素鋼からなる摺接部位を有する自動車用または鉄道車両用のホイールベアリングであって、
前記耐水グリースが請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の耐水グリースであることを特徴とするホイールベアリング。
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