JP2006118007A - 溶接熱影響部の靭性に優れた高強度鋼材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 mass%で、C:0.010〜0.080%、Si:0.02〜1.00%、Mn:1.10〜2.90%、P:0〜0.030%、S:0〜0.010%、Al:0.20%以下、Ni:0.40〜2.40%、Cr:0.50〜1.95%、Mo:0.16〜1.10%、Ti:0.002〜0.030%、N:0.0058〜0.0120%で、1.0≦[Ti]/[N]<4.0
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式で定義されるAS値およびDL値がAS≧3.60、DL≦2.80であり、組織が主としてベイニティック・フェライトからなるものである。
AS=[Mn]+[Ni]+2×[Cu]、DL=2.5×[Mo]+30×[Nb]+10×[V]
ただし、[X]は元素Xの含有量(mass%)を表す。
【選択図】 なし
Description
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]
ただし、[C]〜[B]は各元素のmass%を表す。
近年、耐震性の向上など、構造物の安全性の向上に対する要求がますます強まっており、780MPa以上の高強度鋼板においても母材靭性や耐低温割れ性を確保した上で、大入熱溶接の際のHAZ靭性の改善が求められている。しかし、従来のHAZ靭性の改善技術ではかかる要望を満足させるに至っていない。
また、本発明の他のポイントは、大入熱溶接の際にボンド付近のHAZにおいて吸収エネルギーが低下する原因を調べた結果、旧オーステナイト粒(γ粒)径の粗大化が原因となってHAZ組織が全体的に粗大化するためHAZ靭性が劣化するとの知見を得て、この知見を基に、微細分散することができるTiNを高温まで安定化し、旧γ粒の微細化が可能な成分系とした点にある。
C:0.010〜0.080%、
Si:0.02〜1.00%、
Mn:1.10〜2.90%、
P:0〜0.030%、
S:0〜0.010%、
Al:0.20%以下、
Ni:0.40〜2.40%、
Cr:0.50〜1.95%、
Mo:0.16〜1.10%、
Ti:0.002〜0.030%、
N:0.0058〜0.0120%
で、1.0≦[Ti]/[N]<4.0
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式で定義されるAS値およびDL値がAS≧3.60、DL≦2.80であり、組織が主としてベイニティック・フェライトからなるものである。
AS=[Mn]+[Ni]+2×[Cu]
DL=2.5×[Mo]+30×[Nb]+10×[V]
ただし、[X]は元素Xの含有量(mass%)を表す。
上記BFを主体とする組織にすることにより、母材靭性、HAZ靭性が向上するが、800kJ/cm程度の大入熱溶接下においても、十分なHAZ靭性を確保するには、前記組織を前提として、HAZにおける旧γ粒径の粗大化を抑制すべく、比較的多量のNを[Ti]/[N]比が1.0〜4.0となる範囲で添加することが重要である。
前記Nの多量添加により、大入熱溶接下においてHAZ靭性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。まず、高N化することによって、TiN生成時の駆動力を増加させ、常法により製造しても、TiNを微細分散することが出来るものと考えられる。さらに、それと同時にNとTiの添加バランスを上記のように制御することにより、TiNの高温での安定性を増加させることができたものと考えられる。すなわち、高N化およびNとTiの添加バランスによって、ボンド近傍の旧γ粒の微細化が安定的に達成され、HAZ靭性のバラツキが大幅に改善(低減)するとともに、さらにAS、DLの適正な調整と相まって変態後のγ粒内の組織(ベイニティックフェライト)も微細化することができ、これらによって大入熱溶接後においても優れたHAZ靭性を確保することができたものと推測される。
なお、本発明者の研究により、従来のように母相がフェライト・パーライト組織では、母相中に固溶Nが存在すると靭性が劣化するため、十分に高N化することができないが、本発明のように母相をBF主体の組織とすることにより、固溶Nを第二相MA中に濃化させることができるため、高N化しても靭性が劣化しないことがわかった。
C:0.010〜0.080%
Cは母材強度を確保するために必要な元素である。0.010%未満では焼き入れ性向上元素を積極的に添加しても780MPa以上の母材強度を確保できないようになる。一方、0.080%超になると、MAが多量に生成するようになり、母材靭性、HAZ靭性が劣化するようになる。このため、C量の下限を0.01%とし、好ましくは0.020%以上、より好ましくは0.030%以上とするのがよく、一方その上限を0.080%とし、好ましくは0.070%、より好ましくは0.060%とするのがよい。
Siは固溶強化作用を有するが、過剰に添加すると母材、HAZにMAが多く生成するようになり、母材靭性、HAZ靭性が劣化する。このため、Si量の下限を0.02%、好ましくは0.10%とし、その上限を1.00%、好ましくは0.80%とする。
Mnは焼き入れ性を向上させ、強度、靭性を確保するのに有効な元素であるが、過剰に添加すると強度が過大になり、母材靭性、HAZ靭性が却って低下するようになる。このため、Mn量の下限を1.10%とし、好ましくは1.40%、より好ましくは1.70%、さらに好ましくは1.90%とするのがよい。
これらの元素は偏析し易い不純物元素であり、母材靭性、HAZ靭性に悪影響を及ぼすため、少ない程よく、本発明ではPを0.030%以下、Sを0.010%以下に止める。
Alは脱酸元素として添加するが、過剰に添加するとMAが多く生成するようになり、母材靭性、HAZ靭性が劣化する。このため、Al量の上限を0.20%、好ましくは0.15%、より好ましくは0.10%とするのがよい。
Niは鋼の低温靭性の向上および焼き入れ性を高めて強度を向上させるとともに、熱間割れおよび溶接高温割れの防止にも効果がある。しかし、過剰に添加すると、スケール疵が発生しやすくなる。このため、Ni量の下限を0.40%、好ましくは0.60%、より好ましくは0.80%、さらに好ましくは1.00%以上とし、その上限を2.40%とする。
Crは母材、溶接部の強度を高めるが、過剰に添加すると母材靭性、HAZ靭性を却って劣化させる。このため、Cr量の下限を0.50%、好ましくは0.70%、より好ましくは1.00%とし、その上限を1.95%、好ましくは1.70%、より好ましくは1.50%とする。
Moは焼き入れ性を向上させ、高強度を確保するために有効であり、焼き戻し脆性を防止するために有効な元素であるが、過剰に添加すると母材靭性、HAZ靭性が却って低下する。このため、Mo量の下限を0.16%、好ましくは0.22%、より好ましくは0.25%、さらに好ましくは0.40%とし、その上限を1.10%、好ましくは0.80%、より好ましくは0.60%とする。
TiはNと結合して窒化物を形成し、溶接時におけるHAZのオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性改善に有効な元素である。Ti量が0.002%未満では細粒化効果が過小でありため、その下限を0.002%、好ましくは0.007%、より好ましくは0.010%、さらに好ましくは0.012%とする。一方、過剰に添加すると、TiNが粗大化し、却って母材靭性、HAZ靭性を劣化させるおそれがあるため、上限を0.030%、好ましくは0.025%、より好ましくは0.020%とする。
Nは、Tiと共に大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させるための重要な元素であり、Tiと結合し、TiNを形成して大入熱溶接時のオーステナイト粒を微細化し、HAZ勒性を向上させる効果を有する。しかし、Nの過剰添加は、母材靭性、HAZ靭性に悪影響を与えるようになる。前記Nの効果を有効に発揮させるため、N量の下限を0.0058%とし、好ましくは0.0060%、より好ましくは0.0070%、さらに好ましくは0.0080とするのがよく、その上限を0.0120%とし、好ましくは0.0100%、より好ましくは0.0090%とするのがよい。
[Ti]/[N]の比が1.0未満では固溶Nが過剰となり、母材靭性、HAZ靭性が劣化する。一方、4.0を超えるとTiNが微細分散し難くなり、やはり母材靭性、HAZ靭性が低下するようになる。このため、前記比の下限を1.0とし、その上限を4.0、好ましくは3.0、より好ましくは2.0とする。
Mn、Ni、Cuの添加量は、母材強度、HAZ靭性と密接な関係があり、CuはMn、Niに比して2倍程度、強度向上効果が高い。熱延後、高冷却速度から低冷却速度の範囲で母材強度を780MPa以上にするには、後述の実施例から明らかなようにAS値を3.60以上にする必要がある。それにより、母相のBF量も85面積%以上得られるようになる。母材靭性、HAZ靭性は、BF量が多いほど向上するため、BF量は好ましくは90面積%以上、より好ましくは95面積%以上とするのがよく、そのためには前記AS値を高くするようにMn、Ni、後述するCuの添加量を調整する。AS値が高いほど、低冷却速度(大入熱溶接)時に低温で変態したBFが得られ、BF量が増大する。このため、AS値は、好ましくは4.00以上、より好ましくは4.50以上、さらに好ましくは5.00以上とするのがよい。
Moは上記のとおり焼き入れ性を向上させる作用がある。後述するNb、Vも同様の作用がある。その一方、これらの元素が過剰に添加されると、粗大なベイナイト組織が生成し、母材靭性、HAZ靭性が劣化する。このような靭性の劣化作用は各元素について一様ではなく、発明者等の実験によりMoを1としたとき、Nbは12倍程度、Vは4倍程度である。後述の実施例から明らかなように、vE-20=200J以上の良好な母村靭性を確保するには、DL値を2.80以下とし、好ましくは2.50以下、より好ましくは2.00以下、さらに好ましくは1.50%、さらにより好ましくは1.00以下とするようにMo、Nb、Vの添加を制限するのがよい。
Cuは固溶強化と析出強化によって母材強度を向上させ、またMo、Mn、Ni、Crほどではないが焼き入れ性を向上させる作用を有する。かかる作用を効果的に発現させるには、好ましくは0.30%以上、より好ましくは0.50%以上添加することが望ましい。もっとも、1.60%を超えると母材靭性、HAZ靭性を低下させるようになるので、Cu量の上限を1.60%とし、好ましくは1.40%、より好ましくは1.20%、さらに好ましくは1.00%とするのがよい。
Bは焼き入れ性を向上させてHAZ靭性を改善する作用を有する。特に、入熱量の大きい溶接の際にその効果は大きい。かかる作用を効果的に発現させるためには、0.0005%以上の添加が好ましい。もっとも多量に添加すると、かえって母材靭性、HAZ靭性を劣化させるようになる。このため、B量の上限を0.0050%とし、好ましくは0.030%、より好ましくは0.0020とするのがよい。
NbもBと同様、焼き入れ性を向上させる。すなわち、固溶Nbは母材の焼入れ性を向上させて母材強度、溶接継手強度を向上させる効果があるが、過剰に添加すると、強度が過大になり、母材靭性、HAZ靭性を劣化させるようになる。このため、Nb量の上限を0.100%、好ましくは0.040%、より好ましくは0.020%とする。
VもB、Nbと同様、少量の添加により焼入れ性を向上させる。また、焼き戻し軟化抵抗を高める効果がある。しかし、過剰に添加すると、強度が過大になり、母材靭性、HAZ靭性を劣化させるようになる。このため、V量の上限を0.060%、好ましくは0.050%、より好ましくは0.040%とする。
これらの元素は、MnSを球状化するという介在物の形態制御により異方性を低減する効果を有し、HAZ靭性を向上させる効果を有する。しかし、過剰に添加すると、母材靭性をかえって劣化させるようになる。このため、これらの元素は合計で、その上限を0.0050%、好ましくは0.0030%とする。
MgはMgOを形成し、HAZのオーステナイト粒の粗大化を抑制することによってHAZ靭性を向上させる効果を有する。しかし、過剰に添加すると、母材靭性をかえって劣化させるようになる。このため、その上限を0.0050%、好ましくは0.0035%とする。
Hf:0.050%以下
Zr、HfはTiと同様、Nと窒化物を形成して溶接時におけるHAZのオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性改善に有効な元素である。しかし、過剰に添加すると返って母材靭性、HAZ靭性を低下させる。このため、Zr量の上限を0.100%、好ましくは0.050%とし、Hf量の上限を0.050%、好ましくは0.030とする。
Co:5.0%以下
W、Coは、少量で焼入れ性を向上させ、強度を容易に確保するために有効である。Wはさらに焼き戻し軟化抵抗を向上させる作用を併有する。一方、過剰に添加すると、強度が高くなり過ぎて、却って母材靭性、HAZ靭性を低下させる。このため、これらの元素の上限を各々5.0%、好ましくは2.5%とする。
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものはでない。
・引張試験
各鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を得て、引張試験を行い、0.2%耐力、引張強さを測定した。
・衝撃試験
各鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を行い、−40℃での吸収エネルギー(vE-20 )を求め、母材靭性を評価した。
入熱800kJ/cmの1パス大入熱溶接(エレクトロスラグ溶接)を行い、ボンド(溶融線)から0.5mm離れたHAZからJIS4号試験片を採取し、Vノッチシャルピー衝撃試験を行い、−40℃での吸収工ネルギー(vE-40 )を測定した。このとき、サンプル数を5個とし、その平均値を求め、HAZ靭性を評価した。合格レベルは、吸収エネルギー(vE-40 )が平均値で150J以上である。
なお、発明例については、JISZ3158に規定されたy形溶接割れ試験方法に基づいて、試験に供した鋼板を0℃及び−20℃に冷やした状態(ルート割れ防止予熱温度=0℃,−20℃)で、入熱1.7kJ/mmで被覆アーク溶接を行い、耐低温割れ性を調べたが、いずれの温度においても、割れが生じなかった。
一方、合金組成、[Ti]/[N]、AS値、DL値のいずれかが発明範囲を外れる比較例(表5、No. 81〜115)は、発明例と同様、熱間圧延後、10℃/sec程度の加速冷却を行ったにもかかわらず、HAZ靭性が60J程度に達しないものが大部分であり、また母材のvE-20 が総じて200J未満で、母材靭性に劣るものであった。
Claims (9)
- mass%で、
C:0.010〜0.080%、
Si:0.02〜1.00%、
Mn:1.10〜2.90%、
P:0〜0.030%、
S:0〜0.010%、
Al:0.20%以下、
Ni:0.40〜2.40%、
Cr:0.50〜1.95%、
Mo:0.16〜1.10%、
Ti:0.002〜0.030%、
N:0.0058〜0.0120%
で、1.0≦[Ti]/[N]<4.0
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式で定義されるAS値およびDL値がAS≧3.60、DL≦2.80であり、組織が主としてベイニティック・フェライトからなることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた高強度鋼板。
AS=[Mn]+[Ni]+2×[Cu]
DL=2.5×[Mo]+30×[Nb]+10×[V]
ただし、[X]は元素Xの含有量(mass%)を表す。 - さらに、Cu:1.60%以下を含む、請求項1に記載した高強度鋼材。
- さらに、B:0.0050%以下、Nb:0.100%以下、V:0.060%未満のいずれか一種以上を含む請求項1又は2に記載した高強度鋼材。
- さらに、Ca、REMの1種または2種を合計で0.0050%以下含む請求項1から3のいずれか1項に記載した高強度鋼材。
- さらに、Mg:0.0050%以下を含む請求項1から4のいずれか1項に記載した高強度鋼材。
- さらに、Hf:0.050%以下、Zr:0.100%以下のいずれか1種または2種を含む請求項1から5いずれか1項に記載した高強度鋼材。
- さらに、W:5.0%以下、Co:5.0%以下のいずれか1種または2種を含む請求項1から6のいずれか1項に記載した高強度鋼材。
- 請求項1から7のいずれか1項に記載した高強度鋼材によって形成された、高強度鋼板。
- 請求項1から7のいずれか1項に記載した成分を有する鋼をオーステナイト域温度に加熱し、仕上温度を870℃以下として熱間圧延し、冷却する、高強度鋼板の製造方法。
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