JP2004361506A - 誘電体多層膜型光フィルタとその製造方法及び光部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】成膜したフィルタ基板からフィルタチップを切り出す際に生じる損失波長特性が変化してしまう問題を解決し、所望の損失波長特性を有する誘電体多層膜型光フィルタの提供。
【解決手段】基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップ7を切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、最終的な目標の損失波長特性からその予測した波長シフト分をずらした損失波長特性を有するフィルタ基板を製造し、目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法。
【選択図】 図2
【解決手段】基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップ7を切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、最終的な目標の損失波長特性からその予測した波長シフト分をずらした損失波長特性を有するフィルタ基板を製造し、目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光通信ネットワークなどで使用されている誘電体多層膜型光フィルタの製造方法、前記製造方法により得られた誘電体多層膜型光フィルタ及び該誘電体多層膜型光フィルタを含む光部品に関し、特に成膜したフィルタ基板からフィルタチップを切り出す際に生じる損失波長特性が変化してしまう問題を解決し、所望の損失波長特性を得るための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1は誘電体多層膜型光フィルタの一例を示す図である。この誘電体多層膜型光フィルタ1は、ガラス基板2上に、2種類以上の屈折率の異なる膜3,4を多層に積み重ねた誘電体多層膜5を形成した構成になっている。この誘電体多層膜型光フィルタ1に光を入射すると、屈折率の異なる膜3,4からなる各層の境界で起こる反射が重なって干渉し、透過率や反射率の波長依存性や偏光依存性が生じる。
光通信用の誘電体多層膜型光フィルタを製造する際には、周囲の温度や湿度などの変化に対して安定な光学特性を示す耐環境特性、あるいは膜の密着力や耐擦傷性などの機械特性が要求されるが、通常のEB蒸着法では、これらの要求特性を満たす膜を形成することができない。そこで、プラズマやイオンで蒸発物質にエネルギーをアシストして成膜する方法が採られている。この方法は一般に、プラズマIAD(Plasma Ion Beam Assisted Deposition)法やIAD(Ion Beam Assisted Deposition)法と称される成膜方法であり、また使用される蒸着材料は、SiO2,Ta2O5,TiO2等の酸化物が多く使用されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
誘電体多層膜型光フィルタの一般的な製造工程は、図2に示すように、まず、大きさφ30mm〜φ300mm程度、厚さ0.5〜10mm程度のガラス基板2上に屈折率の異なる膜3,4を多層に積み重ね、誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製する(成膜工程)。その後、該フィルタ基板6の基板2側を研磨し(研磨工程)、さらに大きさ1.4mm角程度、厚さ0.5〜2mm程度の所望の大きさに切り出し加工し(切り出し工程)、多数のフィルタチップ7を製造する。ここで、光通信用の誘電体多層膜型光フィルタの成膜時間は、種類によっては10時間以上必要となるので、1回の成膜でより多くのフィルタチップ7を製造することが低コスト化につながる。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−115711号公報
【非特許文献1】
「生産現場における光学薄膜の設計・作製・評価技術」、技術情報協会、2001年1月、211〜213頁
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在、光部品の小型化・低コスト化への要求が強く、それらの要求に対応すべく、フィルタチップをより小さい形状にする必要がある。すなわち、フィルタチップをより小さくすることができれば、部品の小型化につながるし、同時に、所定面積のフィルタ基板から切り出せるフィルタチップの数を増加できるため、フィルタチップ1個当たりのコストの低減も達成できる。例えば、1.4mm角のフィルタチップでは100個しか製造できないフィルタ基板があったとき、フィルタチップを1.0mm角に縮小できれば、同じフィルタ基板から、およそ176個のチップを製造することができ、43%のコスト削減が可能となる。
【0006】
しかしながら、フィルタ基板をより小さなチップに切断加工することによって、フィルタの損失波長特性が変化してしまうという問題が生じる。バンドパスフィルタの場合は、図3に示すように切断加工によって損失波長特性の中心が短波長側にシフトしてしまう。また、より高精度に損失波長特性を制御する必要がある利得等化フィルタに関しては、図4に示すように、切断加工によって損失波長特性が短波長側にシフトするのと同時に、損失波長特性の波形も変化してしまう。
もともと、成膜されたフィルタは内部応力を持っており、フィルタ基板からフィルタチップに切断加工する際に、その内部応力が変化してしまい、その影響としてフィルタを形成している膜の光学膜厚が変化し、損失波長特性が変化してしまう。この問題は、フィルタチップの形状が小さくなるに従って顕著になっていくため、1mm角以下のフィルタチップを製造することは難しく、特に利得等化フィルタやDWDM用狭帯域バンドパスフィルタ等の高い波長精度を要求されるフィルタに関しては実現不可能であった。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、成膜したフィルタ基板からフィルタチップを切り出す際に生じる損失波長特性が変化してしまう問題を解決し、所望の損失波長特性を有する誘電体多層膜型光フィルタの提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、最終的な目標の損失波長特性からその予測した波長シフト分をずらした損失波長特性を有するフィルタ基板を製造し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
また本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、前記フィルタチップを、前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
さらに本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、所望の損失波長特性を持ったフィルタ基板を作製し、該フィルタ基板をフィルタチップに加工し、次いで該フィルタチップを前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、前記フィルタ基板をフィルタチップに加工したときに生じた短波長側への波長シフト量と同じ分だけ長波長側に波長シフトさせるとともに、波形もフィルタ基板の時の特性に調整し、目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
また本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法であって、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する前に、フィルタ基板に前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理して損失波長特性を前記波長シフト量を補償するように調整することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
さらに本発明は、前記誘電体多層膜型光フィルタの製造方法によって製造された誘電体多層膜型光フィルタを提供する。
また本発明は、誘電体多層膜型光フィルタを用いた光部品を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
本発明による誘電体多層膜型光フィルタ(以下、フィルタ、フィルタチップなどと記する場合がある。)の製造方法の第1の実施形態は、図2に示すように、基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜3,4を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板6から多数のフィルタチップ7を切り出し加工する方法において、フィルタ基板6をフィルタチップ7へ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、最終的な目標の損失波長特性からその予測した波長シフト分をずらした損失波長特性を有するフィルタ基板6を製造し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップ7を製造する。本実施形態による方法は、例えばDWDM用狭帯域バンドパスフィルタの製造に好適である。
【0010】
前記基板2としては各種の光透過率が良好な材料を用いることができるが、安定性、耐熱性、コストなどの点から、ガラス基板が好ましい。特に狭帯域バンドパスフィルタや利得等化フィルタなどにおいては、損失波長特性の温度特性を改善することを目的として最適化された線膨張係数をもつガラス基板が好んで使用される。(例えば、特許文献参照。特開2003−139948)。ガラス基板の場合、φ30mm〜φ300mm程度、厚さ0.5〜10mm程度のものが好ましい。
この基板2上に形成される誘電体多層膜5を構成する膜3,4の材料としては、SiO2、Ta2O5、TiO2、Nb2O5等の酸化物を挙げることができる。これらの材料の選択は、屈折率の異なる膜3,4を交互に積層してあればよく、特に限定されない。通常は図1に示すように、Ta2O5、TiO2、Nb2O5のいずれか1種からなる高屈折率材料の膜3と、SiO2からなる低屈折率材料の膜4とを複数交互に積層した構成とする。
基板2上に誘電体多層膜5を成膜する方法は、プラズマIAD(Plasma Ion Beam Assisted Deposition)法、IAD(Ion Beam Assisted Deposition)法またはIBS(Ion Beam Sputter)法が好ましい。成膜条件は、使用材料、膜層数、膜厚、目標損失波長特性などに応じて適宜設定することができる。
【0011】
本実施形態によるフィルタの製造方法を図3及び図5を参照して説明する。
図3は、最終目標の損失波長特性における中心波長が1550nmであるフィルタチップ7を製造する場合、最終目標損失波長特性を有するフィルタ基板6を作製し、これを1.3mm角のフィルタチップ7に切り出した場合の損失波長特性の変化を示している。図3に示す方法では、フィルタ基板6状態での損失波長特性は目標を満足しているものの、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工した際に、波長シフトが発生し、フィルタチップ7状態では最終目標中心波長(1550nm)から短波長側にずれてしまい、目標を満足することができない。
【0012】
一方、図5に示す本発明の方法は、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工する際に生じる短波長側への波長シフト量を予測し、最終目標中心波長(1550nm)よりも前記波長シフト量を補填する分だけ長波長側に中心波長を持ったフィルタ基板6を作製し、次いでこのフィルタ基板6からフィルタチップ7を切り出した場合の損失波長特性の変化を示している。このように、本発明ではフィルタ基板6をフィルタチップ7に加工する際に生じる波長シフト量を予測し、その波長シフト量を補填する分だけ損失波長特性をずらせたフィルタ基板6を作製し、これを切り出してフィルタチップ7を作製することによって、最終目標損失波長特性をもつ小型のフィルタチップ7を作製できる。
【0013】
ところで、非特許文献1には「最初希望の中心波長より短いところに中心波長を偶々もつ製品に後処理を施してその中心波長を合わせられる」といった、フィルタに熱を加えて中心波長を非可逆的にシフトさせ、中心波長の製造ばらつきを補正する技術が記載されている。しかしながら、狭帯域バンドパスフィルタに関しては、フィルタ基板をフィルタチップに加工する際に発生する短波長側の波長シフト量をこの手段をもって解決しようとしても、損失波長特性が変化してしまい、所望の特性を得ることができない。
【0014】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜3,4を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板6から多数のフィルタチップ7を切り出し加工するフィルタの製造方法において、フィルタチップ7を、誘電体多層膜5の成膜温度以上、かつ基板2のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、最終目標損失波長特性をもつフィルタチップを製造する方法である。この実施形態は、例えば利得等化フィルタの製造に好適である。
【0015】
第2の実施形態において、フィルタを構成する基板2、複数の膜3,4を積層してなる誘電体多層膜5の材料等は、先の第1の実施形態において例示したものを用いることができる。また誘電体多層膜の成膜方法、成膜条件も先の第1の実施形態において記載した成膜方法、成膜条件と同様にして作製し得る。
【0016】
本実施形態において、フィルタチップ7を加熱処理する際の加熱温度としては100℃〜600℃程度が好ましい。加熱温度がこの範囲より低いと、加熱処理時間が長くなって製造効率が悪くなり、また加熱による波長シフトが十分に達成できなくなる場合がある。また加熱温度が前記範囲を超えると、波長シフト量の制御が困難となる。
【0017】
本実施形態によるフィルタの製造方法を図4及び図6を参照して説明する。
図4は、利得等化フィルタを作製する場合に、最終目標の損失波長特性を有するフィルタ基板6を作製し、これを1mm角のフィルタチップ7に切り出した場合の損失波長特性の変化を示している。図4に示す方法では、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工した際に、損失波長特性が全体的に短波長側へシフトしている。さらに、波長シフトしているだけでなく、損失波長特性の波形も変化している。例えば、1533nm付近を見ると、ピークの高さが変化している。すなわち、基板2上に所望の損失波長特性を持った誘電体多層膜5を成膜してフィルタ基板6を作製できたとしても、実際に光部品として使用するためにフィルタチップ7へと切り出すと、得られるフィルタチップ7の損失波長特性は、所望の損失波長特性からずれたものになってしまう。
【0018】
一方、本発明の方法では、フィルタ基板6から切り出したフィルタチップ7を所定温度で所定時間加熱することで、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工したときに生じた短波側への波長シフト量と同じ分だけ、長波長側にシフトさせることによって、図6の「フィルタチップ(加熱後)」に示すように、フィルタチップの損失波長特性をフィルタ基板の損失波長特性と同様に調整できる。このフィルタチップ7の加熱による波長シフト量は、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工した時に生じる波長シフト量と実質的に同じにする必要がある。
【0019】
周知の技術として、前記のように非特許文献1中に、短波長よりに成膜されたフィルタに対し高温の熱を加えることでバンドパスフィルタの中心波長を合わせる旨の記述があるが、これはフィルタチップ7へ加工する際に生じる波形変化にまで言及したものではなく、本発明はこの現象をより詳細に観測し、波長シフトの補填に適用することによって、最終目的の損失波長特性を有するフィルタチップ7を効率よく作製することができる。
【0020】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜3,4を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板6から多数のフィルタチップ7を切り出し加工するフィルタの製造方法において、フィルタ基板6をフィルタチップ7へと加工する際に生じる損失波長特性の波長シフト量を予測し、フィルタ基板6をフィルタチップ7へと加工する前に、フィルタ基板6に成膜温度以上、かつ使用している基板2のガラス転移温度以下の熱を加え、損失波長特性を予測した分だけシフトさせる。次に、このフィルタ基板6からフィルタチップ7を切り出すことで、所望の損失波長特性を持ったフィルタチップ7を作製する。この実施形態は、例えば利得等化フィルタの製造に好適である。
この実施形態では、個々のフィルタチップ7に熱を加えるのではなく、フィルタ基板6ごと加熱処理するので、作業工数を削減することができる。
【0021】
なお、本発明の方法は、狭帯域バンドパスフィルタや利得等化フィルタに限定するものではなく、エッジフィルタ、CWDM用などに用いられる広帯域バンドパスフィルタ、またTAP用フィルタにも適用可能である。
また、本発明の方法により製造されるフィルタ(フィルタチップ)は、光通信用のDWDM素子、CWDM素子、などの光フィルタを備えた各種光部品に適用することができる。
【0022】
【実施例】
(実施例1:バンドパスフィルタの製造)
ガラス基板(オハラ社製、商品名:WMS13)上に、SiO2膜(低屈折率材料の膜)とTa2O5膜(高屈折率材料の膜)とを交互に成膜し、膜層数144層、膜厚36μmの誘電体多層膜を形成してフィルタ基板を作製した。フィルタ基板の作製にあたり、フィルタ基板をフィルタチップに加工する際に生じる短波長側への波長シフト量を0.8nmと予測し、最終目標中心波長である1550nmよりも0.8nm長波長側に中心波長をもったバンドパスフィルタ基板を作製し、このフィルタ基板(φ100mm)から1.3mm角のフィルタチップを多数切り出した。
作製したフィルタ基板の透過率とフィルタチップの透過率を測定した結果を図5に示す。図5に示すように、前記フィルタ基板をフィルタチップに加工したところ、予測通り0.8nm短波長側に波長シフトし、目標通り中心波長を1550nmにもつフィルタチップを作製することができた。
【0023】
(実施例2:利得等化フィルタの製造)
ガラス基板(オハラ社製、商品名:WMS13)上に、SiO2膜(低屈折率材料の膜)とTa2O5膜(高屈折率材料の膜)とを交互に成膜し、膜層数28層、膜厚63μmの誘電体多層膜を形成してフィルタ基板を作製した。
このフィルタ基板(φ100mm)から1mm角のフィルタチップ(加熱前)を多数切り出した。切り出したフィルタチップを400℃、20分間加熱し、フィルタチップ(加熱後)を作製した。なお、前記加熱温度は、成膜温度(150℃)以上であり、使用したガラス基板のガラス転移温度(650℃)以下の範囲の範囲内であり、所望の波長シフト量を得るのに適当な温度であることから設定した。
作製したフィルタ基板、フィルタチップ(加熱前)及び(加熱後)のそれぞれの損失波長特性を測定した結果を図6に示す。
図6から、フィルタ基板をフィルタチップに加工した際に生じた短波長側への波長シフト量分だけ、フィルタチップを加熱して損失波長特性を長波長側へシフトさせることによって、フィルタチップの損失波長特性をフィルタ基板の損失波長特性と同様なものに調整できることが確認された。
【0024】
このフィルタチップの加熱温度と時間とを決定するため、切り出した加熱前のフィルタチップに400℃及び450℃の温度下、各種の加熱時間で加熱してフィルタチップを作製し、加熱温度、時間と波長シフト量の関係を調べた。その結果を図7に示す。
図7に示すように、所定温度(400℃または450℃)において、加熱時間の増加に伴って波長シフト量が増加し、また加熱温度が高い程、短時間で波長シフト量が大きくなることがわかる。このような予備試験を行うことで、フィルタチップの損失波長特性とフィルタ基板の損失波長特性とを実質的に等しくするために必要な加熱温度と時間とを決定することができる。
【0025】
また、前記加熱前のフィルタチップ(利得等化フィルタ)を400℃で加熱し、加熱前(0分)、1分加熱、20分加熱及び80分加熱時点で損失波長特性を測定した。その結果を図8に示す。
図8より、波長シフト量と損失波形には密接な関係があることがわかる。また、加熱時間を変化させることで、損失波長特性も変化する。そして、この現象を利用し、フィルタチップまたは切り出す前のフィルタ基板の損失波長特性を長波長側に調整できることが確認できた。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、所望の損失波長特性を持った小型のフィルタチップを製造することができる。
また、本発明によれば、より小さいフィルタチップを製造することができるため、ある面積をもったフィルタ基板から製造できるフィルタチップの数量が増え、フィルタチップ1個当たりのコストを低減することができる。
また、本発明によれば、より小さいフィルタチップを製造することができるため、このフィルタチップを使用して、より小型で低コストな光部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘電体多層膜型光フィルタの構造を示す斜視図である。
【図2】フィルタチップ(誘電体多層膜型光フィルタ)の製造方法を説明する斜視図である。
【図3】従来技術に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図4】従来技術に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の方法に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図6】本発明の方法に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図7】加熱処理における温度、時間と波長シフト量の関係を示すグラフである。
【図8】利得等化フィルタの波長シフトと波形変化の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…誘電体多層膜型光フィルタ、2…基板、3,4…膜、5…誘電体多層膜、6…フィルタ基板、7…フィルタチップ(誘電体多層膜型光フィルタ)。
【発明の属する技術分野】
本発明は、光通信ネットワークなどで使用されている誘電体多層膜型光フィルタの製造方法、前記製造方法により得られた誘電体多層膜型光フィルタ及び該誘電体多層膜型光フィルタを含む光部品に関し、特に成膜したフィルタ基板からフィルタチップを切り出す際に生じる損失波長特性が変化してしまう問題を解決し、所望の損失波長特性を得るための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1は誘電体多層膜型光フィルタの一例を示す図である。この誘電体多層膜型光フィルタ1は、ガラス基板2上に、2種類以上の屈折率の異なる膜3,4を多層に積み重ねた誘電体多層膜5を形成した構成になっている。この誘電体多層膜型光フィルタ1に光を入射すると、屈折率の異なる膜3,4からなる各層の境界で起こる反射が重なって干渉し、透過率や反射率の波長依存性や偏光依存性が生じる。
光通信用の誘電体多層膜型光フィルタを製造する際には、周囲の温度や湿度などの変化に対して安定な光学特性を示す耐環境特性、あるいは膜の密着力や耐擦傷性などの機械特性が要求されるが、通常のEB蒸着法では、これらの要求特性を満たす膜を形成することができない。そこで、プラズマやイオンで蒸発物質にエネルギーをアシストして成膜する方法が採られている。この方法は一般に、プラズマIAD(Plasma Ion Beam Assisted Deposition)法やIAD(Ion Beam Assisted Deposition)法と称される成膜方法であり、また使用される蒸着材料は、SiO2,Ta2O5,TiO2等の酸化物が多く使用されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
誘電体多層膜型光フィルタの一般的な製造工程は、図2に示すように、まず、大きさφ30mm〜φ300mm程度、厚さ0.5〜10mm程度のガラス基板2上に屈折率の異なる膜3,4を多層に積み重ね、誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製する(成膜工程)。その後、該フィルタ基板6の基板2側を研磨し(研磨工程)、さらに大きさ1.4mm角程度、厚さ0.5〜2mm程度の所望の大きさに切り出し加工し(切り出し工程)、多数のフィルタチップ7を製造する。ここで、光通信用の誘電体多層膜型光フィルタの成膜時間は、種類によっては10時間以上必要となるので、1回の成膜でより多くのフィルタチップ7を製造することが低コスト化につながる。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−115711号公報
【非特許文献1】
「生産現場における光学薄膜の設計・作製・評価技術」、技術情報協会、2001年1月、211〜213頁
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在、光部品の小型化・低コスト化への要求が強く、それらの要求に対応すべく、フィルタチップをより小さい形状にする必要がある。すなわち、フィルタチップをより小さくすることができれば、部品の小型化につながるし、同時に、所定面積のフィルタ基板から切り出せるフィルタチップの数を増加できるため、フィルタチップ1個当たりのコストの低減も達成できる。例えば、1.4mm角のフィルタチップでは100個しか製造できないフィルタ基板があったとき、フィルタチップを1.0mm角に縮小できれば、同じフィルタ基板から、およそ176個のチップを製造することができ、43%のコスト削減が可能となる。
【0006】
しかしながら、フィルタ基板をより小さなチップに切断加工することによって、フィルタの損失波長特性が変化してしまうという問題が生じる。バンドパスフィルタの場合は、図3に示すように切断加工によって損失波長特性の中心が短波長側にシフトしてしまう。また、より高精度に損失波長特性を制御する必要がある利得等化フィルタに関しては、図4に示すように、切断加工によって損失波長特性が短波長側にシフトするのと同時に、損失波長特性の波形も変化してしまう。
もともと、成膜されたフィルタは内部応力を持っており、フィルタ基板からフィルタチップに切断加工する際に、その内部応力が変化してしまい、その影響としてフィルタを形成している膜の光学膜厚が変化し、損失波長特性が変化してしまう。この問題は、フィルタチップの形状が小さくなるに従って顕著になっていくため、1mm角以下のフィルタチップを製造することは難しく、特に利得等化フィルタやDWDM用狭帯域バンドパスフィルタ等の高い波長精度を要求されるフィルタに関しては実現不可能であった。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、成膜したフィルタ基板からフィルタチップを切り出す際に生じる損失波長特性が変化してしまう問題を解決し、所望の損失波長特性を有する誘電体多層膜型光フィルタの提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、最終的な目標の損失波長特性からその予測した波長シフト分をずらした損失波長特性を有するフィルタ基板を製造し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
また本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、前記フィルタチップを、前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
さらに本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、所望の損失波長特性を持ったフィルタ基板を作製し、該フィルタ基板をフィルタチップに加工し、次いで該フィルタチップを前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、前記フィルタ基板をフィルタチップに加工したときに生じた短波長側への波長シフト量と同じ分だけ長波長側に波長シフトさせるとともに、波形もフィルタ基板の時の特性に調整し、目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
また本発明は、基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法であって、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する前に、フィルタ基板に前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理して損失波長特性を前記波長シフト量を補償するように調整することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法を提供する。
さらに本発明は、前記誘電体多層膜型光フィルタの製造方法によって製造された誘電体多層膜型光フィルタを提供する。
また本発明は、誘電体多層膜型光フィルタを用いた光部品を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
本発明による誘電体多層膜型光フィルタ(以下、フィルタ、フィルタチップなどと記する場合がある。)の製造方法の第1の実施形態は、図2に示すように、基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜3,4を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板6から多数のフィルタチップ7を切り出し加工する方法において、フィルタ基板6をフィルタチップ7へ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、最終的な目標の損失波長特性からその予測した波長シフト分をずらした損失波長特性を有するフィルタ基板6を製造し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップ7を製造する。本実施形態による方法は、例えばDWDM用狭帯域バンドパスフィルタの製造に好適である。
【0010】
前記基板2としては各種の光透過率が良好な材料を用いることができるが、安定性、耐熱性、コストなどの点から、ガラス基板が好ましい。特に狭帯域バンドパスフィルタや利得等化フィルタなどにおいては、損失波長特性の温度特性を改善することを目的として最適化された線膨張係数をもつガラス基板が好んで使用される。(例えば、特許文献参照。特開2003−139948)。ガラス基板の場合、φ30mm〜φ300mm程度、厚さ0.5〜10mm程度のものが好ましい。
この基板2上に形成される誘電体多層膜5を構成する膜3,4の材料としては、SiO2、Ta2O5、TiO2、Nb2O5等の酸化物を挙げることができる。これらの材料の選択は、屈折率の異なる膜3,4を交互に積層してあればよく、特に限定されない。通常は図1に示すように、Ta2O5、TiO2、Nb2O5のいずれか1種からなる高屈折率材料の膜3と、SiO2からなる低屈折率材料の膜4とを複数交互に積層した構成とする。
基板2上に誘電体多層膜5を成膜する方法は、プラズマIAD(Plasma Ion Beam Assisted Deposition)法、IAD(Ion Beam Assisted Deposition)法またはIBS(Ion Beam Sputter)法が好ましい。成膜条件は、使用材料、膜層数、膜厚、目標損失波長特性などに応じて適宜設定することができる。
【0011】
本実施形態によるフィルタの製造方法を図3及び図5を参照して説明する。
図3は、最終目標の損失波長特性における中心波長が1550nmであるフィルタチップ7を製造する場合、最終目標損失波長特性を有するフィルタ基板6を作製し、これを1.3mm角のフィルタチップ7に切り出した場合の損失波長特性の変化を示している。図3に示す方法では、フィルタ基板6状態での損失波長特性は目標を満足しているものの、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工した際に、波長シフトが発生し、フィルタチップ7状態では最終目標中心波長(1550nm)から短波長側にずれてしまい、目標を満足することができない。
【0012】
一方、図5に示す本発明の方法は、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工する際に生じる短波長側への波長シフト量を予測し、最終目標中心波長(1550nm)よりも前記波長シフト量を補填する分だけ長波長側に中心波長を持ったフィルタ基板6を作製し、次いでこのフィルタ基板6からフィルタチップ7を切り出した場合の損失波長特性の変化を示している。このように、本発明ではフィルタ基板6をフィルタチップ7に加工する際に生じる波長シフト量を予測し、その波長シフト量を補填する分だけ損失波長特性をずらせたフィルタ基板6を作製し、これを切り出してフィルタチップ7を作製することによって、最終目標損失波長特性をもつ小型のフィルタチップ7を作製できる。
【0013】
ところで、非特許文献1には「最初希望の中心波長より短いところに中心波長を偶々もつ製品に後処理を施してその中心波長を合わせられる」といった、フィルタに熱を加えて中心波長を非可逆的にシフトさせ、中心波長の製造ばらつきを補正する技術が記載されている。しかしながら、狭帯域バンドパスフィルタに関しては、フィルタ基板をフィルタチップに加工する際に発生する短波長側の波長シフト量をこの手段をもって解決しようとしても、損失波長特性が変化してしまい、所望の特性を得ることができない。
【0014】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜3,4を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板6から多数のフィルタチップ7を切り出し加工するフィルタの製造方法において、フィルタチップ7を、誘電体多層膜5の成膜温度以上、かつ基板2のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、最終目標損失波長特性をもつフィルタチップを製造する方法である。この実施形態は、例えば利得等化フィルタの製造に好適である。
【0015】
第2の実施形態において、フィルタを構成する基板2、複数の膜3,4を積層してなる誘電体多層膜5の材料等は、先の第1の実施形態において例示したものを用いることができる。また誘電体多層膜の成膜方法、成膜条件も先の第1の実施形態において記載した成膜方法、成膜条件と同様にして作製し得る。
【0016】
本実施形態において、フィルタチップ7を加熱処理する際の加熱温度としては100℃〜600℃程度が好ましい。加熱温度がこの範囲より低いと、加熱処理時間が長くなって製造効率が悪くなり、また加熱による波長シフトが十分に達成できなくなる場合がある。また加熱温度が前記範囲を超えると、波長シフト量の制御が困難となる。
【0017】
本実施形態によるフィルタの製造方法を図4及び図6を参照して説明する。
図4は、利得等化フィルタを作製する場合に、最終目標の損失波長特性を有するフィルタ基板6を作製し、これを1mm角のフィルタチップ7に切り出した場合の損失波長特性の変化を示している。図4に示す方法では、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工した際に、損失波長特性が全体的に短波長側へシフトしている。さらに、波長シフトしているだけでなく、損失波長特性の波形も変化している。例えば、1533nm付近を見ると、ピークの高さが変化している。すなわち、基板2上に所望の損失波長特性を持った誘電体多層膜5を成膜してフィルタ基板6を作製できたとしても、実際に光部品として使用するためにフィルタチップ7へと切り出すと、得られるフィルタチップ7の損失波長特性は、所望の損失波長特性からずれたものになってしまう。
【0018】
一方、本発明の方法では、フィルタ基板6から切り出したフィルタチップ7を所定温度で所定時間加熱することで、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工したときに生じた短波側への波長シフト量と同じ分だけ、長波長側にシフトさせることによって、図6の「フィルタチップ(加熱後)」に示すように、フィルタチップの損失波長特性をフィルタ基板の損失波長特性と同様に調整できる。このフィルタチップ7の加熱による波長シフト量は、フィルタ基板6をフィルタチップ7に加工した時に生じる波長シフト量と実質的に同じにする必要がある。
【0019】
周知の技術として、前記のように非特許文献1中に、短波長よりに成膜されたフィルタに対し高温の熱を加えることでバンドパスフィルタの中心波長を合わせる旨の記述があるが、これはフィルタチップ7へ加工する際に生じる波形変化にまで言及したものではなく、本発明はこの現象をより詳細に観測し、波長シフトの補填に適用することによって、最終目的の損失波長特性を有するフィルタチップ7を効率よく作製することができる。
【0020】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、基板2上に屈折率が異なる材料からなる膜3,4を交互に成膜して誘電体多層膜5を有するフィルタ基板6を作製し、次いで該フィルタ基板6から多数のフィルタチップ7を切り出し加工するフィルタの製造方法において、フィルタ基板6をフィルタチップ7へと加工する際に生じる損失波長特性の波長シフト量を予測し、フィルタ基板6をフィルタチップ7へと加工する前に、フィルタ基板6に成膜温度以上、かつ使用している基板2のガラス転移温度以下の熱を加え、損失波長特性を予測した分だけシフトさせる。次に、このフィルタ基板6からフィルタチップ7を切り出すことで、所望の損失波長特性を持ったフィルタチップ7を作製する。この実施形態は、例えば利得等化フィルタの製造に好適である。
この実施形態では、個々のフィルタチップ7に熱を加えるのではなく、フィルタ基板6ごと加熱処理するので、作業工数を削減することができる。
【0021】
なお、本発明の方法は、狭帯域バンドパスフィルタや利得等化フィルタに限定するものではなく、エッジフィルタ、CWDM用などに用いられる広帯域バンドパスフィルタ、またTAP用フィルタにも適用可能である。
また、本発明の方法により製造されるフィルタ(フィルタチップ)は、光通信用のDWDM素子、CWDM素子、などの光フィルタを備えた各種光部品に適用することができる。
【0022】
【実施例】
(実施例1:バンドパスフィルタの製造)
ガラス基板(オハラ社製、商品名:WMS13)上に、SiO2膜(低屈折率材料の膜)とTa2O5膜(高屈折率材料の膜)とを交互に成膜し、膜層数144層、膜厚36μmの誘電体多層膜を形成してフィルタ基板を作製した。フィルタ基板の作製にあたり、フィルタ基板をフィルタチップに加工する際に生じる短波長側への波長シフト量を0.8nmと予測し、最終目標中心波長である1550nmよりも0.8nm長波長側に中心波長をもったバンドパスフィルタ基板を作製し、このフィルタ基板(φ100mm)から1.3mm角のフィルタチップを多数切り出した。
作製したフィルタ基板の透過率とフィルタチップの透過率を測定した結果を図5に示す。図5に示すように、前記フィルタ基板をフィルタチップに加工したところ、予測通り0.8nm短波長側に波長シフトし、目標通り中心波長を1550nmにもつフィルタチップを作製することができた。
【0023】
(実施例2:利得等化フィルタの製造)
ガラス基板(オハラ社製、商品名:WMS13)上に、SiO2膜(低屈折率材料の膜)とTa2O5膜(高屈折率材料の膜)とを交互に成膜し、膜層数28層、膜厚63μmの誘電体多層膜を形成してフィルタ基板を作製した。
このフィルタ基板(φ100mm)から1mm角のフィルタチップ(加熱前)を多数切り出した。切り出したフィルタチップを400℃、20分間加熱し、フィルタチップ(加熱後)を作製した。なお、前記加熱温度は、成膜温度(150℃)以上であり、使用したガラス基板のガラス転移温度(650℃)以下の範囲の範囲内であり、所望の波長シフト量を得るのに適当な温度であることから設定した。
作製したフィルタ基板、フィルタチップ(加熱前)及び(加熱後)のそれぞれの損失波長特性を測定した結果を図6に示す。
図6から、フィルタ基板をフィルタチップに加工した際に生じた短波長側への波長シフト量分だけ、フィルタチップを加熱して損失波長特性を長波長側へシフトさせることによって、フィルタチップの損失波長特性をフィルタ基板の損失波長特性と同様なものに調整できることが確認された。
【0024】
このフィルタチップの加熱温度と時間とを決定するため、切り出した加熱前のフィルタチップに400℃及び450℃の温度下、各種の加熱時間で加熱してフィルタチップを作製し、加熱温度、時間と波長シフト量の関係を調べた。その結果を図7に示す。
図7に示すように、所定温度(400℃または450℃)において、加熱時間の増加に伴って波長シフト量が増加し、また加熱温度が高い程、短時間で波長シフト量が大きくなることがわかる。このような予備試験を行うことで、フィルタチップの損失波長特性とフィルタ基板の損失波長特性とを実質的に等しくするために必要な加熱温度と時間とを決定することができる。
【0025】
また、前記加熱前のフィルタチップ(利得等化フィルタ)を400℃で加熱し、加熱前(0分)、1分加熱、20分加熱及び80分加熱時点で損失波長特性を測定した。その結果を図8に示す。
図8より、波長シフト量と損失波形には密接な関係があることがわかる。また、加熱時間を変化させることで、損失波長特性も変化する。そして、この現象を利用し、フィルタチップまたは切り出す前のフィルタ基板の損失波長特性を長波長側に調整できることが確認できた。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、所望の損失波長特性を持った小型のフィルタチップを製造することができる。
また、本発明によれば、より小さいフィルタチップを製造することができるため、ある面積をもったフィルタ基板から製造できるフィルタチップの数量が増え、フィルタチップ1個当たりのコストを低減することができる。
また、本発明によれば、より小さいフィルタチップを製造することができるため、このフィルタチップを使用して、より小型で低コストな光部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘電体多層膜型光フィルタの構造を示す斜視図である。
【図2】フィルタチップ(誘電体多層膜型光フィルタ)の製造方法を説明する斜視図である。
【図3】従来技術に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図4】従来技術に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の方法に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図6】本発明の方法に関し、フィルタ基板からフィルタチップへ加工した際の損失波長特性の変化を示すグラフである。
【図7】加熱処理における温度、時間と波長シフト量の関係を示すグラフである。
【図8】利得等化フィルタの波長シフトと波形変化の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…誘電体多層膜型光フィルタ、2…基板、3,4…膜、5…誘電体多層膜、6…フィルタ基板、7…フィルタチップ(誘電体多層膜型光フィルタ)。
Claims (6)
- 基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、最終的な目標の損失波長特性からその予測した波長シフト分をずらした損失波長特性を有するフィルタ基板を製造し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法。
- 基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、前記フィルタチップを、前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、前記目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法。
- 基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法において、所望の損失波長特性を持ったフィルタ基板を作製し、該フィルタ基板をフィルタチップに加工し、次いで該フィルタチップを前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理し、前記フィルタ基板をフィルタチップに加工したときに生じた短波長側への波長シフト量と同じ分だけ長波長側に波長シフトさせるとともに、波形もフィルタ基板の時の特性に調整し、目標の損失波長特性を有するフィルタチップを製造することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法。
- 基板上に屈折率が異なる材料からなる膜を交互に成膜して誘電体多層膜を有するフィルタ基板を作製し、次いで該フィルタ基板から多数のフィルタチップを切り出し加工する誘電体多層膜型光フィルタの製造方法であって、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する際に生じる波長シフト量を予測し、前記フィルタ基板をフィルタチップへ加工する前に、フィルタ基板に前記誘電体多層膜の成膜温度以上、かつ前記基板のガラス転移温度以下の温度で所定時間加熱処理して損失波長特性を前記波長シフト量を補償するように調整することを特徴とする誘電体多層膜型光フィルタの製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体多層膜型光フィルタの製造方法によって製造された誘電体多層膜型光フィルタ。
- 請求項5に記載の誘電体多層膜型光フィルタを用いた光部品。
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JP2003156989A JP2004361506A (ja) | 2003-06-02 | 2003-06-02 | 誘電体多層膜型光フィルタとその製造方法及び光部品 |
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JP2003156989A JP2004361506A (ja) | 2003-06-02 | 2003-06-02 | 誘電体多層膜型光フィルタとその製造方法及び光部品 |
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JP2003156989A Withdrawn JP2004361506A (ja) | 2003-06-02 | 2003-06-02 | 誘電体多層膜型光フィルタとその製造方法及び光部品 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2024031764A1 (zh) * | 2022-08-12 | 2024-02-15 | 武汉光迅科技股份有限公司 | 波的偏移量的确定方法、装置、设备和存储介质 |
-
2003
- 2003-06-02 JP JP2003156989A patent/JP2004361506A/ja not_active Withdrawn
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WO2024031764A1 (zh) * | 2022-08-12 | 2024-02-15 | 武汉光迅科技股份有限公司 | 波的偏移量的确定方法、装置、设备和存储介质 |
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