JP2004261042A - 還元酵素遺伝子及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子、当該遺伝子を含む組換ベクター、当該遺伝子又は組換ベクターが宿主細胞に導入されてなる形質転換体及びその利用による。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、還元酵素をコードする遺伝子、該酵素及びそれらの利用等に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルコールは、各種用途化合物の中間体等として有用な化合物であり、これまでに多くの製造方法が知られている。特にアルコールは、医農薬中間体等として有用な化合物であり、これまでに種々の製造方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような光学活性アルコールの製造には天然物からの抽出、ラセミ体の光学分割又は不斉触媒による合成法等が使用されるが、一般的には製造が煩雑であり、結果として得られる製品は高価なものにならざるを得ない場合も存在している。そこで、安価な光学活性アルコールの製造法にも適しうる新たなアルコールの製造方法方法が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、アルコールの製造方法、特に光学活性アルコールの製造法にも適する方法について種々検討した結果、光学活性アルコールを製造するためにも利用可能なタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を見出し、これを反応触媒として利用することにより、アルコールを生産可能とし、また光学活性アルコールをも安価に生産するような製造方法を提供することが上記課題を解決するために極めて有効であると判断し、かつ多くの実験等を経ることにより、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質が2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有することを見出し、本発明に至った。
【0005】
即ち、本発明は、
1.下記のいずれかのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを有することを特徴とする遺伝子(以下、本発明遺伝子と記すこともある。)
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(g)ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(h)ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列;
2.宿主細胞内において機能可能なプロモーターと前項1記載の遺伝子とが機能可能な形で接続されてなることを特徴とする遺伝子;
3.前項1又は2記載の遺伝子を含むことを特徴とする組換ベクター(以下、本発明ベクターと記すこともある。);
4.前項2記載の遺伝子又は前項3記載の組換ベクターが宿主細胞に導入されてなることを特徴とする形質転換体(以下、本発明形質転換体と記すこともある。);
5.宿主細胞が微生物であることを特徴とする前項4記載の形質転換体;
6.宿主細胞が大腸菌であることを特徴とする前項4記載の形質転換体;
7.前項1記載の遺伝子を保有することを特徴とする形質転換体;
8.前項3記載の組換ベクターを宿主細胞に導入する工程を含むことを特徴とする形質転換体の製造方法;
9.下記のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とするタンパク質(以下、本発明タンパク質と記載することもある。)
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(g)ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(h)ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列;
10.ケトン化合物又はアルデヒド化合物に、前項9記載のタンパク質、それを産生する微生物、前項4〜7記載の形質転換体又はそれらの処理物を作用させることを特徴とするアルコールの製造方法;
11.前項1記載の遺伝子及び酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを有する遺伝子を含むことを特徴とする組換ベクター;
12.酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質がグルコース脱水素酵素であることを特徴とする前項10記載の組換ベクター;
13.前項11又は12記載の組換ベクターが宿主細胞に導入されてなることを特徴とする形質転換体;
14.宿主細胞が微生物であることを特徴とする前項13記載の形質転換体;
15.宿主細胞が大腸菌であることを特徴とする前項13記載の形質転換体;
16.前項1記載の遺伝子及び酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを有する遺伝子を保有することを特徴とする形質転換体;
17.酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質を反応系内に共存させること特徴とする前項10記載のアルコールの製造方法;
18.酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質がグルコース脱水素酵素であることを特徴とする前項17記載のアルコールの製造方法;
19.ケトン化合物又はアルデヒド化合物に、前項13〜16記載の形質転換体又はその処理物を作用させることを特徴とするアルコールの製造方法;
20.ケトン化合物又はアルデヒド化合物からアルコールを製造するための触媒としての、ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物の使用;
21.ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物がライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749(国際寄託当局の受託番号:FERM BP−8291)であることを特徴とする前項19記載の使用;
22.ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749(国際寄託当局の受託番号:FERM BP−8291);
等を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
まず、本発明遺伝子について説明する。
本発明遺伝子は、下記のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを有することを特徴とする。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(g)ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(h)ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
尚、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAは、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを不斉還元して(S)−2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを優先的に生産する能力をも有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAである。当該DNAを宿主細胞に導入することにより得られた形質転換体又はその処理物を、ケトン化合物に作用させることにより、容易に光学活性アルコールを製造方法することができる。
【0007】
本発明遺伝子は、天然の遺伝子であってもよく、又は天然の遺伝子に変異を導入(部位特異的変異導入法、突然変異処理等)することにより作出された遺伝子であってもよい。天然の遺伝子を検索する場合には、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有する微生物を対象にすればよく、例えば、ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物をその対象として挙げることができる。
【0008】
これら微生物は、天然から分離してもよいし、菌株保存機関等から購入してもよい。
天然から分離する場合、まず、土壌を野外から採取する。採取された土壌を目菌水で懸濁させた後、当該懸濁液を、例えば、PY培地(Bacto Peptoneを5g/L、Yeast Extractを5g/Lの割合で水に溶解した後、pHを7.0に調整)等の微生物分離用固体培地上に塗布し、これを25℃で培養し、数日後に生えてきた菌の独立したコロニーを切り取り、新しい、例えば、PY培地等の微生物分離用固体培地に移植し、これをさらに25℃で培養する。生育してきた菌について、SNEATH, (P.H.A.), MAIR, (N.S.) SHARPE, (M.E.) and HOLT, (J.G.):Bergey’s manual of Systematic Bacteriorogy. Vol.2. 1984, Williams and Wilkins, Baltimore.等に記載される方法等に従って、ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物であるかを同定することにより、ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物を選抜すればよい。
つぎに、選抜されたライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物から、当該微生物の2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力の有無を、例えば、後述の実施例に記載されるような方法に従って確認することにより、本発明に用いられるライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物を選抜すればよい。
【0009】
尚、ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、FERM BP−8291の寄託番号が付与されている(原寄託日:平成15年2月12日)。菌学的性状は次のとおり。
1.コロニー形態(30℃、48時間)
(1)細胞形態:かん菌、0.6×1.0〜2.0μm
(2)グラム染色性:陽性
(3)胞子の有無:無
(4)運動性の有無:有
2.Nutrient Agar上でのコロニー形態
コロニーの色:黄色
コロニーの形状:円形
コロニーの周縁:全縁滑らか
コロニーの隆起:低凸状
3.生理学的性質
(1) カタラーゼ:陽性
(2) オキシダーゼ:陰性
(3) OFテスト:陽性/陰性
4.16SリボゾームRNAをコードするDNAの塩基配列
ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749株からPCRにより16SリボゾームDNAの塩基配列約500bpを増幅し、塩基配列を解析した。得られた16SリボゾームDNAの塩基配列を使って、BLASTによる相同性検索を行った結果、相同率99.6%で、ライフソニア アクアティカ(Leifsonia aquatica)基準株の16SリボゾームDNAに対し、最も高い相同性を示した。更に、検索された上位5株のうち、4株がライフソニア(Leifsonia)で占められ、その相同率は98%以上を示した。
以上の菌学的性質により、本菌はライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)と同定された。
【0010】
本発明遺伝子は2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する還元反応を触媒する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有している。
【0011】
本発明遺伝子において、配列番号1で示されるアミノ酸配列とは、一文字表記:MAQYDVADRSAIVTGGGSGIGRAVALTLAASGAAVLVTDLKEEHAQAVVAEIEAAGGKAAALAGDVTDPAFGEASVAGANALAPLKIAVNNAGIGGEAATVGDYSLDSWRTVIEVNLNAVFYGMQPQLKAMAANGGGAIVNMASILGSVGFANSSGYVTAKHALLGLTQNAALEYAADKVRVVAVGPGFIRTRSWRQLFRRRAGVLQGKHALGRLGEPEEVASLVAFLASDAASFITGSYHLVDGGYTAQである。
【0012】
本発明遺伝子において、前記(b)にある「1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換された」や前記(c)及び(e)にある「80%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質が細胞内で受けるプロセシング、該タンパク質が由来する生物の種差、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異等が含まれる。
前記(b)にある「1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換された」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441−9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、又はそれ以上である。かかる改変の数は、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を見出すことのできる範囲であれば良い。
また前記欠失、付加又は置換のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
本発明において「配列同一性」とは、2つのDNA又は2つの蛋白質間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNA又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673−4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYXや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて、一般的に利用可能である。
本発明における配列同一性は、80%以上であればよいが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
前記(f)にある「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法(具体的には、サザンハイブリダイゼーション法等)に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、(1)高イオン濃度下(例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする))、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させることにより配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとDNA−DNAハイブリッドを形成した後、低イオン濃度下(例えば、2×SSC)で50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1−6.3.6)、(2)高イオン濃度下(例えば、6×SSC)、溶液中で65℃にてハイブリッドを形成させることにより配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとDNA−DNAハイブリッドを形成した後、低イオン濃度下(例えば、0.1 X SSC)で65℃にて洗浄するような条件(「クローニングとシークエンス」(渡辺格監修、杉浦昌弘編集、1989年、農村文化社発行)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度(例えば、温度を50℃に設定した場合)は、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)までの温度から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。このような洗浄ステップ後でも上記ハイブリッドが維持されうるようなDNAをストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAという。
【0013】
本発明遺伝子のDNAは、例えば、以下のようにして調製することができる。
【0014】
ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物等から通常の遺伝子工学的手法(例えば、「新 細胞工学実験プロトコール」(東京大学医科学研究所制癌研究部編、秀潤社、1993年)に記載された方法)に準じてDNAライブラリーを調製し、調製されたDNAライブラリーを鋳型として、かつ適切なプライマーを用いてPCRを行うことにより、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA及び/又は配列番号2で示される塩基配列を有するDNA等を増幅して本発明遺伝子のDNAを調製することができる。
【0015】
ここで、前記DNAライブラリーを鋳型として、かつ配列番号3に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号4に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとをプライマーに用いてPCRを行うことにより、配列番号2で示される塩基配列からなるDNAを増幅して本発明遺伝子のDNAを調製することになる。
【0016】
該PCRの条件としては、例えば、4種類のdNTPを各々20μM、2種類のオリゴヌクレオチドプライマーを各々15pmol、Taqpolymeraseを1.3U及び鋳型となるDNAライブラリーを混合した反応液を94℃(5分間)に加熱した後、94℃(5分間)‐55℃(0.5分間)‐72℃(0.5分間)のサイクルを30回行い、さらに72℃で10分間保持する条件が挙げられる。
【0017】
なお、該PCRに用いるプライマーの5’末端側には、制限酵素認識配列等を付加していてもよい。
【0018】
また、前記DNAライブラリーを鋳型として配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列から選ばれる部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチド等(例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする5’末端側の約14塩基程度以上の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド)とDNAライブラリー構築に用いられたベクターのDNA挿入部位近傍の塩基配列に相補的な塩基配列からなる約14塩基程度以上のオリゴヌクレオチドとをプライマーとして用いてPCRを行うことによっても、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAや、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA等を増幅して本発明遺伝子のDNAを調製することができる。
【0019】
上記のようにして増幅されたDNAを「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載されている方法に準じてベクターにクローニングして本発明組換ベクターを得ることができる。用いられるベクターとしては、具体的には、例えば、pUC119(宝酒造社製)、pTV118N(宝酒造社製)、pBluescriptII (東洋紡社製)、pCR2.1−TOPO(Invitrogen社製)、pTrc99A(Pharmacia社製)、pKK223−3(Pharmacia社製)などが挙げられる。
【0020】
また、本発明遺伝子のDNAは、例えば、微生物またはファージ由来のベクターに挿入されたDNAライブラリーに配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列から選ばれる部分塩基配列を有する約15塩基程度以上の塩基配列からなるDNAをプローブとして後述する条件にてハイブリダイズさせ、該プローブが特異的に結合するDNAを検出することによっても取得することができる。
【0021】
染色体DNA又はDNAライブラリーにプローブをハイブリダイズさせる方法としては、例えば、コロニーハイブリダイゼーションやプラークハイブリダイゼーションを挙げることができ、ライブラリーの作製に用いられたベクターの種類に応じて方法を選択することができる。
【0022】
使用されるライブラリーがプラスミドベクターを用いて作製されている場合にはコロニーハイブリダイゼーションを利用するとよい。具体的には、ライブラリーのDNAを宿主微生物に導入することにより形質転換体を取得し、得られた形質転換体を希釈した後、該希釈物を寒天培地上にまき、コロニーが現われるまで培養する。
【0023】
使用されるライブラリーがファージベクターを用いて作製されている場合にはプラークハイブリダイゼーションを利用するとよい。具体的には、宿主微生物とライブラリーのファージとを感染可能な条件下で混合し、さらに軟寒天培地と混合した後、該混合物を寒天培地上にまき、プラークが現われるまで培養する。
【0024】
次いで、いずれのハイブリダイゼーションの場合にも、前記の培養を行った寒天培地上にメンブレンを置き、形質転換体又はファージを該メンブレンに吸着・転写させる。このメンブレンをアルカリ処理した後、中和処理し、次いでDNAを該メンブレンに固定する処理を行う。より具体的には、例えば、プラークハイブリダイゼーションの場合には、前記寒天培地上にニトロセルロースメンブレン又はナイロンメンブレン(例えば、Hybond−N+(アマシャム社登録商標))を置き、約1分間静置してファージ粒子をメンブレンに吸着・転写させる。次に、該メンブレンをアルカリ溶液(例えば1.5M塩化ナトリウム、0.5M水酸化ナトリウム)に約3分間浸してファージ粒子を溶解させることによりファージDNAをメンブレン上に溶出させた後、中和溶液(例えば、1.5M塩化ナトリウム、0.5Mトリス−塩酸緩衝溶液pH7.5)に約5分間浸す。次いで該メンブレンを洗浄液(例えば、0.3M塩化ナトリウム、30mMクエン酸、0.2Mトリス−塩酸緩衝液pH7.5)で約5分間洗った後、例えば、約80℃で約90分間加熱することによりファージDNAをメンブレンに固定する。
【0025】
このように調製されたメンブレンを用いて、上記DNAをプローブとしてハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーションは、例えば、J.Sambrook, E.F.Frisch, T.Maniatis著「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition(1989)」 Cold Spring Harbor Laboratory Press等の記載に準じて行うことができる。
【0026】
プローブに用いるDNAは、放射性同位元素により標識されたものや、蛍光色素で標識されたものであってもよい。
プローブに用いるDNAを放射性同位元素により標識する方法としては、例えば、Random Primer Labeling Kit(宝酒造社製)等を利用することにより、PCR反応液中のdCTPを(α−32P)dCTPに替えて、プローブに用いるDNAを鋳型にしてPCRを行う方法が挙げられる。
また、プローブに用いるDNAを蛍光色素で標識する場合には、例えば、アマシャム製のECL Direct Nucleic Acid Labeling and Detection System等を用いることができる。
【0027】
ハイブリダイゼーションは、例えば、以下の通りに行うことができる。
450〜900mMの塩化ナトリウム及び45〜90mMのクエン酸ナトリウムを含みドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1〜1.0重量%の濃度で含み、変性した非特異的DNAを0〜200μl/mlの濃度で含み、場合によってはアルブミン、フィコール、ポリビニルピロリドン等をそれぞれ0〜0.2重量%の濃度で含んでいてもよいプレハイブリダイゼーション液(好ましくは900mMの塩化ナトリウム、90mMのクエン酸ナトリウム、1.0重量%のSDS及び100μl/mlの変性Calf−thymusDNAを含むプレハイブリダイゼーション液)を上記のようにして作製したメンブレン1cm2当たり50〜200μlの割合で準備し、該プレハイブリダイゼーション液に前記メンブレンを浸して42〜65℃で1〜4時間保温する。
次いで、例えば、450〜900mMの塩化ナトリウム及び45〜90mMのクエン酸ナトリウムを含み、SDSを0.1〜1.0重量%の濃度で含み、変性した非特異的DNAを0〜200μg/mlの濃度で含み、場合によってはアルブミン、フィコール、ポロビニルピロリドン等をそれぞれ0〜0.2重量%の濃度で含んでいてもよいハイブリダイゼーション溶液(好ましくは、900mMの塩化ナトリウム、90mMのクエン酸ナトリウム、1.0重量%のSDS及び100μg/mlの変性Calf−thymusDNAを含むハイブリダイゼーション溶液)と前述の方法で調製して得られたプローブ(メンブレン1cm2当たり1.0×104〜2.0×106cpm相当量)とを混合した溶液をメンブレン1cm2当たり50〜200μlの割合で準備し、該ハイブリダイゼーション溶液に浸し42〜65℃で12〜20時間保温する。
【0028】
該ハイブリダイゼーション後、メンブレンを取り出し、15〜300mMの塩化ナトリウム1.5〜30mMクエン酸ナトリウム及び0.1〜1.0重量%のSDS等を含む42〜65℃の洗浄液(好ましくは15mMの塩化ナトリウム、1.5mMのクエン酸ナトリウム及び1.0重量%のSDSを含む65℃の洗浄液)等を用いて洗浄する。洗浄したメンブレンを2xSSC(300mM塩化ナトリウム、30mMクエン酸ナトリウム)で軽くすすいだ後、乾燥する。このメンブレンを例えばオートラジオグラフィー等に供してメンブレン上のプローブの位置を検出することにより、用いたプローブとハイブリダイズするDNAのメンブレン上の位置に相当するクローンを元の寒天培地上で特定し、これを釣菌することにより、当該DNAを有するクローンを単離する。
【0029】
このようにして得られるクローンを培養して得られる培養菌体から本発明遺伝子のDNAを調製することができる。
【0030】
上記のようにして調製されたDNAを「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載されている方法に準じてベクターにクローニングして本発明組換ベクターを得ることができる。用いられるベクターとしては、具体的には、例えば、pUC119(宝酒造社製)、pTV118N(宝酒造社製)、pBluescriptII (東洋紡社製)、pCR2.1−TOPO(Invitrogen社製)、pTrc99A(Pharmacia社製)、pKK223−3(Pharmacia社製)等が挙げられる。
【0031】
また、前述のDNAの塩基配列は、F.Sanger, S.Nicklen, A.R.Coulson著、Proceeding of Natural Academy of Science U.S.A.(1977) 74: 5463−5467頁等に記載されているダイデオキシターミネーター法等により解析することができる。塩基配列分析用の試料調製には、例えば、パーキンエルマー社のABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit等の市販の試薬を用いてもよい。
【0032】
上述のようにして得られるDNAが、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを優先して生産する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードしていることの確認は、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0033】
まず上述のようにして得られるDNAを後述のように、宿主細胞において機能可能なプロモーターの下流に接続されるようにベクターに挿入し、このベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を取得する。次いで該形質転換体の培養物をケトン化合物又はアルデヒド化合物に作用させる。反応生成物中の2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールの量を分析することにより、得られたDNAがかかる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードすることが確認できる。
【0034】
本発明遺伝子を宿主細胞で発現させるには、例えば、宿主細胞で機能可能なプロモーターと本発明遺伝子とが機能可能な形で接続されてなる遺伝子を宿主細胞に導入する。
【0035】
ここで、「機能可能な形で」とは、該遺伝子を宿主細胞に導入することにより宿主細胞を形質転換させた際に、本発明遺伝子が、プロモーターの制御下に発現するようにプロモーターと結合された状態にあることを意味する。プロモーターとしては、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター、大腸菌のトリプトファンオペロンのプロモーター、または、tacプロモーターもしくはtrcプロモーター等の大腸菌内で機能可能な合成プロモーター等をあげることができ、ペニシリウム・シトリナムにおいて本発明遺伝子の発現を制御しているプロモーターを利用してもよい。
【0036】
一般的には、宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続されてなる遺伝子を前述のようなベクターに組み込んでなる組換ベクターを宿主細胞に導入する。尚、ベクターとしては、選択マーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の抗生物質耐性付与遺伝子等)を含むベクターを用いると、該ベクターが導入された形質転換体を当該選択マーカー遺伝子の表現型等を指標にして選択することができる。
【0037】
宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続されてなる本発明遺伝子又は本発明組換ベクター等を導入する宿主細胞としては、例えば、Escherichia属、Bacillus属、Corynebacterium属、Staphylococcus属、Streptomyces属、Saccharomyces属、Kluyveromyces属及びAspergillus属に属する微生物等があげられる。
【0038】
宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続されてなる本発明遺伝子又は本発明組換ベクター等を宿主細胞へ導入する方法は、用いられる宿主細胞に応じて通常使われる導入方法であればよく、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載される塩化カルシウム法や、「Methods in Electroporation:Gene Pulser /E.coli Pulser System」 Bio−Rad Laboratories, (1993)等に記載されるエレクトロポレーション法等をあげることができる。
【0039】
宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続されてなる本発明遺伝子又は本発明組換ベクター等が導入された形質転換体を選抜するには、例えば、前述のようなベクターに含まれる選択マーカー遺伝子の表現型を指標にして選抜すればよい。
該形質転換体が本発明遺伝子を保有していることは、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press等に記載される通常の方法に準じて、制限酵素部位の確認、塩基配列の解析、サザンハイブリダイゼーション、ウエスタンハイブリダイゼーション等を行うことにより、確認することができる。
【0040】
次に本発明タンパク質について説明する。
本発明タンパク質は、下記のアミノ酸配列を有することを特徴とする。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(g)ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(h)ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
尚、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを不斉還元して(S)−2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを優先的に生産する能力をも有するタンパク質である。当該タンパク質を産生する形質転換体又はその処理物を、ケトン化合物に作用させることにより、容易に光学活性アルコールを製造方法することができる。
【0041】
本発明タンパク質は、例えば、本発明遺伝子を保有する形質転換体を培養することにより製造することができる。
該形質転換体を培養するための培地としては、例えば、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される炭素源や窒素源、有機塩や無機塩等を適宜含む各種の培地を用いることができる。
【0042】
炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、シュークロース等の糖類、グリセロール等の糖アルコール、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0043】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コーン・スティープ・リカー(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のアンモニウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0044】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001〜5%(w/v)程度である。
【0045】
さらに、tacプロモーター、trcプロモーター及びlacプロモーター等のアロラクトースで誘導されるタイプのプロモーターと本発明遺伝子とが機能可能な形で接続されてなる遺伝子が導入されてなる形質転換体の場合には、本発明タンパク質の生産を誘導するための誘導剤として、例えば、isopropyl thio−β−D−galactoside(IPTG)を培地中に少量加えることもできる。
【0046】
本発明遺伝子を保有する形質転換体の培養は、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される方法に準じて行うことができ、例えば、試験管振盪式培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養、タンク培養等の液体培養及び固体培養が挙げられる。
培養温度は、該形質転換体が生育可能な範囲で適宜変更できるが、通常約15〜40℃である。培地のpHは約6〜8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが通常約1日〜約5日が好ましい。
【0047】
本発明遺伝子を保有する形質転換体の培養物から本発明タンパク質を精製する方法としては、通常のタンパク質の精製において使用される方法を適用することができ、例えば、次のような方法を挙げることができる。
【0048】
まず、形質転換体の培養物から遠心分離等により細胞を集めた後、これを超音波処理、ダイノミル処理、フレンチプレス処理等の物理的破砕法又は界面活性剤若しくはリゾチーム等の溶菌酵素を用いる化学的破砕法等によって破砕する。得られた破砕液から遠心分離、メンブレンフィルター濾過等により不純物を除去することにより無細胞抽出液を調製し、これを陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー等の分離精製方法を適宜用いて分画することによって、本発明タンパク質を精製することができる。
クロマトグラフィーに使用する担体としては、例えば、カルボキシメチル(CM)基、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、フェニル基若しくはブチル基を導入したセルロース、デキストリン又はアガロース等の不溶性高分子担体が挙げられる。市販の担体充填済カラムを用いることもでき、かかる市販の担体充填済カラムとしては、例えば、Q−Sepharose FF、Phenyl−Sepharose HP(商品名、いずれもアマシャム ファルマシア バイオテク社製)、TSK−gel G3000SW(商品名、東ソー社製)等が挙げられる。
尚、本発明タンパク質を含む画分を選抜するには、例えば、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を指標にして選抜すればよい。
【0049】
次に、本発明におけるアルコールの製造方法について説明する。
該製造方法はケトン化合物又はアルデヒド化合物に、本発明タンパク質、それを産生する形質転換体又はその処理物を作用させることを特徴とする。
【0050】
ケトン化合物又はアルデヒド化合物は、例えば、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−ペプチルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、2−オキソプロピオンアルデヒド、トランス−シンナムアルデヒド、4−ブロモベンズアルデヒド、2−ニトロベンズアルデヒド、3−ニトロベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、4−クロロベンズアルデヒド、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−ペンタノン、3−クロロ−2−ブタノン、tert−ブチルアセトアセテート、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、ヒドロキシアセトン、1,1−ジクロロアセトン、クロロアセトン、ジヒドロキシアセトン、1,1−ジクロロアセトン、メチル 3−オキソブタノエート、エチル 3−オキサブタノネート、エチル 4−クロロアセトアセテート、メチル 4−ブロモー3−オキサブタノエート、エチル 4−ブロモ−3−オキサブタノエート、N−tert−ブトキシカルボニル−3−ピロリジノン、イソプロピル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、エチル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、メチル4−シアノ−3−オキソブタノエート、メチル 3−オキソペンタノエート、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、アセトフェノン、2’−ブロモアセトフェノン、3’−ブロモアセトフェノン、4’−ブロモアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、3’−クロロアセトフェノン、4’−クロロアセトフェノン、ベンジルアセトン、1−フェニル−2−ブタノン、m−メトキシアセトフェノン、3,4−ジメトキシアセトフェノン、4’−メトキシアセトフェノン、2,3’−ジクロロアセトフェノン、3,4−ジメトキシフェニルアセトン、シクロペンタノン、4−アセチル安息香酸、D−(+)−グルコース等が挙げられる。
【0051】
上記方法は、通常、水及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと記す。)の存在下に行うとよい。この際に用いられる水は、緩衝水溶液であってもよい。該緩衝水溶液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム等の酢酸アルカリ金属塩及びこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
上記方法においては、水に加えて有機溶媒を共存させることもできる。共存させることができる有機溶媒としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロプルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類、トルエン、ヘキサン、シクロへヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジメチルスルホキシド等の有機硫黄化合物、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類及びこれらの混合物が挙げられる。
【0053】
上記方法における反応は、例えば、水、NADH、及びケトン化合物又はアルデヒド化合物を、本発明タンパク質あるいはそれを産生する形質転換体又はその処理物とともに、必要によりさらに有機溶媒等を含有した状態で、攪拌、振盪等により混合することにより行われる。
【0054】
上記方法における反応時のpHは適宜選択することができるが、通常pH3〜10の範囲である。また反応温度は適宜選択することができるが、原料及び生成物の安定性、反応速度の点から通常0〜60℃の範囲である。
【0055】
反応の終点は、例えば、反応液中のケトン化合物又はアルデヒド化合物の量を液体クロマトグラフィー等により追跡することにより決めることができる。
反応時間は適宜選択することができるが、通常0.5時間から10日間の範囲である。
【0056】
反応液からのアルコールの回収は、一般に知られている任意の方法で行えばよい。
例えば、反応液の有機溶媒抽出操作、濃縮操作等の後処理を、必要によりカラムクロマトグラフィー、蒸留等を組み合わせて、行うことにより精製する方法が挙げられる。
【0057】
本発明タンパク質、それを産生する形質転換体又はその処理物は種々の形態で上記方法に用いることができる。
【0058】
具体的な形態としては、例えば、本発明遺伝子を保有する形質転換体の培養物、かかる形質転換体の処理物、無細胞抽出液、粗精製タンパク質、精製タンパク質等及びこれらの固定化物が挙げられる。ここで、形質転換体の処理物としては、例えば、凍結乾燥形質転換体、有機溶媒処理形質転換体、乾燥形質転換体、形質転換体摩砕物、形質転換体の自己消化物、形質転換体の超音波処理物、形質転換体抽出物、形質転換体のアルカリ処理物が挙げられる。また、固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等に本発明タンパク質等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギーナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に本発明タンパク質等を閉じ込める方法)が挙げられる。
【0059】
尚、本発明遺伝子を保有する形質転換体を用いた工業的な生産を考慮すれば、生形質転換体を用いるよりも該形質転換体を死滅化させた処理物を用いる方法が製造設備の制限が少ないという点では好ましい。そのための死菌化処理方法としては、例えば、物理的殺菌法(加熱、乾燥、冷凍、光線、超音波、濾過、通電)や、化学薬品を用いる殺菌法(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、硫黄、ホウ素、砒素、金属、アルコール、フェノール、アミン、サルファイド、エーテル、アルデヒド、ケトン、シアン及び抗生物質)が挙げられる。一般的には、これらの殺菌法のうちできるだけ本発明タンパク質の酵素活性を失活させず、かつ反応系への残留、汚染などの影響が少ない処理方法を選択することが望ましい。
【0060】
また、本発明のアルコールの製造方法はNADHの存在下に行われ、ケトン化合物又はアルデヒド化合物の還元反応の進行に伴い、当該NADHは酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NAD+と記す)に変換される。変換により生じたNAD+は、NAD+を還元型(NADH)に変換する能力を有するタンパク質により元のNADHに戻すことができるので、上記方法の反応系内には、NAD+をNADHに変換する能力を有するタンパク質を共存させることもできる。
NAD+をNADHに変換する能力を有するタンパク質としては、例えば、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素及び有機脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素等)等が挙げられる。
また、NAD+をNADHに変換する能力を有するタンパク質がグルコース脱水素酵素である場合には、反応系内にグルコース等を共存させることにより該タンパク質の活性が増強される場合もあり、例えば、反応液にこれらを加えてもよい。
また、当該タンパク質は、酵素そのものであってもよいし、また該酵素をもつ微生物又は該微生物の処理物の形態で反応系内に共存していてもよい。さらにまた、NAD+をNADHに変換する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を含む形質転換体又はその処理物であってもよい。ここで処理物とは、前述にある「形質転換体の処理物」と同等なものを意味する。
【0061】
さらに、本発明のアルコールの製造方法では、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素及び有機脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素等)等のようなNAD+をNADHに変換する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を同時に保有する形質転換体を用いて行うこともできる。
この形質転換体において、両者遺伝子を宿主細胞へ導入する方法としては、例えば、単一である、両者遺伝子を含むベクターを宿主細胞に導入する方法、複製起源の異なる複数のベクターに両者遺伝子を別々に導入した組換ベクターにより宿主細胞を形質転換する方法等があげられる。さらに、一方の遺伝子または両者遺伝子を宿主細胞の染色体中に導入してもよい。
尚、単一である、両者遺伝子を含むベクターを宿主細胞に導入する方法としては、例えば、プロモーター、ターミネーター等の発現制御に関わる領域をそれぞれの両者遺伝子に連結して組換ベクターを構築したり、ラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させるような組換ベクターを構築してもよい。
【0062】
【実施例】
以下、実施例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0063】
実施例1 (本発明タンパク質の調製、本発明遺伝子の取得及びその解析)
(1)本発明タンパク質の調製
5Lジャーファーメンターに、培地(水に(NH4)2SO4を3g/L、K2HPO4を3g/L、NaClを1g/L、MgSO4・7H2Oを0.2g/L、DL−Phenylethyl Alcoholを2g/L、Antifoam PE−H(和光純薬工業社製)を0.5g/Lの割合で溶解した後、pHを7.0に調整したもの)3Lを入れ、121℃で15分間滅菌した。次いで、Bacto Peptoneを5g/L、Yeast Extractを5g/Lの割合で水に溶解した後、pHを7.0に調整した培地中で培養(30℃、18時間、振盪培養)したライフソニア・エスピー(Leifsonia sp.)S−749株の培養液30mlを上記ジャーファーメンター内に加え、30℃で48時間、ジャーファーメンターを用いて培養した。その後、得られた培養液を遠心分離(8000xg、10分)することにより、沈殿として約5.0gの湿菌体を得た。
調製したライフソニア・エスピー(Leifsonia sp.)S−749株の湿菌体約10.0gを、20mMTris−HClバッファー(pH7.0)80mlに懸濁し、ULTRASONIC DISPUPTOR UD−200(TOMY社製)を用いて、OUTPUT8で氷冷しながら、計3分間、超音波破砕を行った。得られた破砕液を遠心分離(4℃、15000rpm、30分間)することにより、遠心分離上清液(約85ml)を得た。
得られた遠心分離上清(約85ml)に、硫酸アンモニウムをその濃度が144g/L(25%飽和)になるまで徐々に加えた後、遠心分離(4℃、15000rpm、30分間)することにより、遠心分離上清液(約90ml)を得た。得られた遠心分離上清液(約90ml)に硫酸アンモニウムを、その濃度が390g/L(60%飽和)になるまで徐々に加えた後、遠心分離(4℃、15000rpm、30分間)した。得られた沈殿を20mMTris−HClバッファー(pH7.0)20mlに溶解することにより、22mlの沈殿溶解液を得た。沈殿溶解液をDIALYSIS MEMBRANE SIZE8(WAKO製)に入れ、20mMTris−HClバッファー(pH7.0)に対して、4℃で一晩透析を行った。透析後液をDEAE−TOYOPEARL(アマシャムファルマシアバイオテク社製)[Tris−HCl緩衝液(20mM、pH7.0)で平衡化したもの]に展着し、塩化ナトリウムを溶解したTris−HCl緩衝液(塩化ナトリウム濃度0M〜1.0Mの濃度勾配)を移動層として溶出することにより、還元酵素活性を有する溶出画分(18ml)を得た。
【0064】
この溶出画分(18ml)に、1.3Mになるように硫酸アンモニウムを加え、氷中で30分間攪拌した後、遠心分離(4℃、15000rpm、30分間)した。遠心分離上清液(29ml)をBUTYL−TOYOPEARL(アマシャムファルマシアバイオテク社製)][Tris−HCl緩衝液(20mM、pH7.0)+1.3M硫酸アンモニウムで平衡化したもの]に展着し、硫酸アンモニウムを溶解したTris−HCl緩衝液(硫酸アンモニウム濃度1.3M〜0Mの濃度勾配)を移動層として溶出することにより、還元酵素活性を有する溶出画分(31ml)を得た。得られた溶出画分(31ml)に硫酸アンモニウムをその濃度が472g/L(70%飽和)になるまで徐々に加えた後、遠心分離(4℃、15000rpm、30分間)した。得られた沈殿を20mMTris−HClバッファー(pH7.0)1mlに溶解することにより、約1mlの沈殿溶解液を得た。この沈殿溶解液1mlをDIALYSIS MEMBRANE SIZE8(WAKO製)に入れ、20mMTris−HClバッファー(pH7.0)に対して、4℃で一晩透析を行い、透析液(約3ml)を得た。この透析液(約3ml)をCellulofine GCL−2000sf(アマシャムファルマシアバイオテク社製)][Tris−HCl緩衝液(20mM、pH7.0)で平衡化したもの]に展着し、Tris−HCl緩衝液を0.3ml/分の流速で流することにより、還元酵素活性を有する溶出画分(9.7ml)を得た。得られた溶出画分(9.7ml)をBioassistQ(アマシャムファルマシアバイオテク社製)[Tris−HCl緩衝液(20mM、pH7.0)で平衡化したもの]に展着し、塩化ナトリウムを溶解したTris−HCl緩衝液(塩化ナトリウム濃度0M〜0.8Mの濃度勾配)を移動層として溶出することにより、還元酵素活性を有する溶出画分(1ml)を得た。得られた溶出画分(1ml)をゲル濾過[カラム:TSK−GEL G3000SWXL(アマシャムファルマシアバイオテク社製)][移動層:BIS−TRIS−PROPANEバッファー(20mM、pH7.0)]することにより、還元酵素活性を有する溶出画分(1ml:分子量約110,000ダルトンの部分に相当)を精製酵素液として得た。
【0065】
尚、クロマトグラフィー等で得られた溶出画分について、以下の操作により還元酵素活性を測定した。
2,2,2−トリフルオロアセトフェノン(2mM)及びNADH(0.27mM)を溶解したリン酸緩衝液(50mM,pH7.0)にクロマトグラフィー等により得られた溶出画分を加えて全量を1.5mlとし、25℃で20秒間保温した後、340nmの吸光度を測定した。340nmの吸光度からNADHの消費量を計算して溶出画分の還元酵素活性を求めた。
【0066】
(2)本発明タンパク質由来の部分ペプチドが有するアミノ酸配列の解析
上記操作により得られた活性画分(A)をLaemmli, U. K., Nature, (1970) 227, 680記載の方法に準じてSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動した。電気泳動後のゲルをクマシーブリリアントブルーG250染色液(BIO−RAD社製)で染色し、染色された部分のゲルを切り取った。このゲルをジチオスレイトール及びヨウ化アセトアミドを用いて還元アルキル化し、トリプシンを処理した後、ゲルからペプチドを抽出した。抽出したペプチドをHPLC(カラム:TSK gel ODS−80Ts QA、2.0mm×250mm(東ソー株式会社)、
溶媒A:0.1% TFA
溶媒B:0.09% TFA in 90% acetonitrile
流速:200μL/min
温度:室温
検出:210nm、280nm
グラジエント
0(min)―0(%)
2 ― 0
7 ― 10
82 ― 50
87 ― 100
92 ― 100
97 ― 0
分取:200μL/Fraction
分取した各画分をプロテインシークエンサー(Procise 494HT Protein Sequencing System)により決定した。
決定したアミノ酸配列のそれぞれを配列番号5(N末端アミノ酸配列(AQYDVADRSAIVTGG))、配列番号6(内部アミノ酸配列(IAVNNAGIGGEA))に示す。
【0067】
(3)本発明遺伝子由来の部分塩基配列の解析
配列番号5で示されるアミノ酸配列を基に、配列番号7(TFAR−F(CARTAYGAYGTIGCNGAHMG)、配列番号8(TFAR−R(CCDATICCNGCRTTRTTNAC)で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを合成した。ここで、塩基としてのRはG又はA、YはT又はC、Iはイノシン、NはA又はC又はG又はT、HはA又はC又はT、MはA又はC、DはA又はG又はTを意味している。
【0068】
配列番号7、8で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーに、Lifsonia sp. DNAを鋳型にして、下記反応液組成、反応条件でPCRを行った。
【0069】
[反応液組成]
Lifsonia sp. DNA 1μl
dNTP(各2.5mM−mix) 2μl
プライマー(50μM) 各2μl
10×EX Taq buffer(with MgCl2) 2μl
TaKaRa Ex Taq(5U/μl) 0.5μl
超純水 10.5μl
[反応条件]
上記組成の反応液が入った容器をPERKIN ELMER−GeneAmp PCR System2400にセットし、94℃(5分間)に加熱した後、94℃(0.5分間)→55℃(0.5分間)→72℃(0.5分間)のサイクルを30回行い、さらに72℃で10分間保持した。
【0070】
その後、PCR産物を、pGEM−T Easy Vector System I (PROMEGA社製)にてライゲーションし、得られたライゲーション液でE.coli XL−1 Blue MRF’株を形質転換した。
50μg/mlのアンピシリンを含有するLB(1%バクト−トリプトン、0.5%バクト−酵母エキス、1%塩化ナトリウム)培地に、得られた形質転換体を接種し培養した。培養菌体からQIAprep Spin Miniprep Kit (Qiagen社製)を用いてプラスミドを取り出した。
【0071】
プラスミドに挿入されたDNA断片の塩基配列の解析は、得られたDNAの塩基配列をABI PRISM 310 Genetic Analyzer(ABI社製)で解析することにより行った。プラスミドに挿入されたDNA断片の塩基配列を配列番号9に示す。
【0072】
(4)本発明遺伝子の塩基配列の解析
Sau3A Iで部分分解したライフソニアDNAとBamH Iで切断したコスミドベクターpWE15のライゲーションを行った。
Gigapack Gold III(STRATAGENE社製)を用いてインビトロパッケージングを行った。
ファージをE.coli XL1−Blue MRF’に感染させ、アンピシリン入りのLBプレートで培養した後、集菌しアルカリSDS法によりコスミド抽出を行った。
コスミドをE.coli XL1−Blue MRF’に導入し、アンピシリン入りのLBプレートで培養した後、ナイロンメンブレンにブロッティングした。
標識プローブの調整、コロニーハイブリダイゼーションは、Alkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムバイオサイエンス株式会社)のプロトコルに従って行った。コロニーハイブリダイゼーションにおける条件は、プレハイブリダイゼーション75℃、ハイブリダイゼーション75℃、1次洗浄バッファー75℃であった。プローブに用いたDNA断片の塩基配列を配列番号10に示す。
検出はCDP−Star Detection reagentを用いて、X線フィルムに感光させることで行った。
プラスミドに挿入されたDNA断片の塩基配列の解析は、得られたDNAの塩基配列をABI PRISM 310 Genetic Analyzer(ABI社製)で解析することにより行った。
プラスミドに挿入されたDNA断片の塩基配列を配列番号2に示す。
【0073】
実施例2 (本発明ベクターの調製、本発明形質転換体の製造及び還元反応例(その1))
(1)Lifsonia sp. DNAの調製
ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749株を、滅菌したPY培地(ペプトン、酵母エキス各0.5%、pH7.0)100mlで30℃、一晩培養した。この菌体からQiagen Genomic Tip (Qiagen社製)を用い、それに付属のマニュアルに記載の方法にしたがって染色体DNAを精製した。
【0074】
(2)本発明ベクターの調製
配列番号2に示される塩基配列を基に配列番号11で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーと配列番号12で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを合成した。
【0075】
配列番号11で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーと配列番号12で示されるオリゴヌクレオチドプライマーとをプライマーに、Lifsonia sp. の染色体DNAを鋳型にして下記反応液組成、反応条件でPCRを行った。
【0076】
[反応液組成]
Lifsonia sp. 染色体DNA 1μl
dNTP(各2.5mM−mix) 2μl
プライマー(50μM) 各2μl
10×EX Taq buffer(with MgCl2) 2μl
TaKaRa Ex Taq(5U/μl) 0.5μl
超純水 10.5μl
【0077】
[反応条件]
上記組成の反応液が入った容器をPERKIN ELMER−GeneAmp PCR System2400にセットし、94℃(5分間)に加熱した後、94℃(0.5分間)→55℃(0.5分間)→72℃(0.5分間)のサイクルを30回行い、さらに72℃で10分間保持した。
【0078】
その後、PCR反応液に2種類の制限酵素(NcoI及びPstI)を加え、DNA断片を2重消化させ、次いで酵素消化されたDNA断片を精製した。
一方、プラスミドベクターpTrc99A(Pharmacia製)を2種類の制限酵素(NcoI及びPstI)により2重消化させ、酵素消化されたDNA断片を精製した。得られた形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit (Qiagen社製)を用いて本還元酵素遺伝子を含有するプラスミド(以下、プラスミドpTrcTFARと記すこともある。)を取り出した。
【0079】
これらの酵素消化させたDNA断片を混合し、T4 DNAリガーゼでライゲーションし、得られたライゲーション液でE.coli XL1−Blue MRF’を形質転換した。
【0080】
(3)本発明形質転換体の調製及び還元反応例
得られた形質転換体を0.4mMのIPTG及び100μg/mlのアンピシリンを含有する滅菌LB培地(4ml)に接種し、振盪培養した(30℃、24時間)。得られた培養液を遠心分離し、湿菌体0.02gを得た。
前記湿菌体0.02gに、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを1%、2−プロパノールを5%含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)500μlを加え、30℃で18時間攪拌した。その後、反応液に500μlの酢酸エチルを加えたのち、遠心分離し、有機層を得た。この有機層を下記条件でガスクロマトグラフィーによる含量分析を行ったところ、反応に用いた2,2,2−トリフルオロアセトフェノンの量に対して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールは49.4%生成していることがわかった。また、下記条件で有機層中の2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールの光学純度を測定したところ(S)体が99 %e.e.であった。
さらに該有機層を濃縮することにより、粗(S)−2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを得る。
【0081】
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:Cyclodextrine−β−236M−19 (0.25mm×25M, DF)
カラム温度:140℃
キャリアーガス:ヘリウム(流量:1ml/分)
検出器:FID
尚、生成物の絶対立体配置は(S)−2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールの標品と比較することにより決定した。
Retention time:Trifluoroacetophenone (2.3min),
(S)−(+)−α−(Trifluoromethyl)−benzyl alcohol(6.9min),
(R)−(−)−α−(Trifluoromethyl)−benzyl alcohol (7.1min)
【0082】
実施例3 (ケトン化合物又はアルデヒド化合物を原料とするアルコールの製造例(その1:本発明微生物を用いた還元反応例))
ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749株を、PY培地(ペプトン、酵母エキス各0.5%、pH7.0)で30℃、一晩培養した。得られた培養液0.1mlを下記組成のプレート培地に塗布し、スチレン飽和条件下(ダーラム管使用)で30℃、3日間培養した。
【0083】
[培養液組成]
(NH4)2SO4 0.3%
KH2PO4 0.3%
NaCl 0.1%
MgSO4・7H2O 0.02%
Agar Powder 1.5%
Yeast Extract 0.1%
Tap water
pH 7.0
【0084】
プレート培地に、1枚当たり2mlの20mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加えてスプレッダーで菌を掻きとった後、2mlのエッペンチューブに入れ、遠心分離(4℃、15000rpm、1分間)した。上清を除いた菌体のペレットに、下記の反応液を1ml加え、Bio Shakerを用いて、30℃、18時間、静止菌体反応を行った。
【0085】
[反応液組成]
50mM リン酸緩衝液(pH7.0)
3% 2−プロパノール
20mM 2,2,2−トリフルオロアセトフェノン
0.5mM NAD+
0.5mM NADP+
【0086】
1mlの酢酸エチルを加え、ボルテックスした後、遠心分離(4℃、15000rpm、10分間)した。この有機層を下記条件でガスクロマトグラフィーによる含量分析及び光学異性体分析を行ったところ、反応に用いた2,2,2−トリフルオロアセトフェノンの量に対して、α−(トリフルオロメチル)−ベンジルアルコールは100%生成していることがわかった。また、α−(トリフルオロメチル)−ベンジルアルコールの光学純度を測定したところ(S)体が99.9 %e.e.以上であった。
さらに該有機層を濃縮することにより、粗α−(トリフルオロメチル)−ベンジルアルコールを得た。
【0087】
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:Cyclodextrine−β−236M−19 (0.25mm×25M, DF)
カラム温度:140℃
キャリアーガス:ヘリウム(流量:1ml/分)
検出器:FID
尚、生成物の絶対立体配置は(S)−2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールの標品と比較することにより決定した。
Retention time:Trifluoroacetophenone (2.3min),
(S)−(+)−α−(Trifluoromethyl)−benzyl alcohol(6.9min),
(R)−(−)−α−(Trifluoromethyl)−benzyl alcohol (7.1min)
【0088】
実施例4 (ケトン化合物又はアルデヒド化合物を原料とするアルコールの製造例(その2:本発明タンパク質を用いた還元反応例))
実施例1で得られた精製酵素液を用いて、ケトン化合物又はアルデヒド化合物からアルコールを製造した。その結果を下記した。
尚、還元活性は、以下のとおり測定した。
基質(2mM)及びNADH(0.27mM)を溶解したリン酸緩衝液(50mM,pH7.0)に精製酵素液を加えて全量を1.5mlとし、25℃で20秒間保温した後、340nmの吸光度を測定した。340nmの吸光度からNADHの消費量を計算して還元酵素活性を求めた。
【0089】
(結果)
化合物 / 濃度(mM) / 還元酵素活性(U/mL)の順に、プロピオンアルデヒド/ 2 / 2、n−ブチルアルデヒド/ 2 / 8、n−バレルアルデヒド/ 2 / 108、n−ヘキシルアルデヒド/ 2 / 844、n−ペプチルアルデヒド/ 2 / 619、n−デシルアルデヒド/ 2 /394、2−オキソプロピオンアルデヒド/ 2 / 5、トランス−シンナムアルデヒド/ 2 / 212、4−ブロモベンズアルデヒド/ 2 / 47、2−ニトロベンズアルデヒド/ 2 / 48、3−ニトロベンズアルデヒド/ 2 / 25、フェニルアセトアルデヒド/ 2 / 7、4−クロロベンズアルデヒド/ 2 / 20、2−ペンタノン/ 2 / 14、2−ヘキサノン/ 2 / 85、2−ヘプタノン/ 2 / 188、2−オクタノン/ 2 / 121、2−ノナノン/ 2 / 90、3−ペンタノン/ 2 / 2、3−クロロ−2−ブタノン/ 2 / 124、tert−ブチルアセトアセテート/ 2 / 466、4−ヒドロキシ−2−ブタノン/ 2 / 21ヒドロキシアセトン/ 2 / 8、1,1−ジクロロアセトン/ 2 / 884、クロロアセトン/ 2 / 195、ジヒドロキシアセトン/ 2 / 2、1,1−ジクロロアセトン/ 2 / 2、メチル 3−オキソブタノエート/ 2 / 107、エチル 3−オキサブタノネート/ 2 / 253、エチル 4−クロロアセトアセテート/ 2 / 663、メチル 4−ブロモー3−オキサブタノエート/ 2 / 135、エチル 4−ブロモ−3−オキサブタノエート/ 2 / 419、N−tert−ブトキシカルボニル−3−ピロリジノン/ 2 / 4、イソプロピル 4−シアノ−3−オキソブタノエート/ 2 / 2、エチル 4−シアノ−3−オキソブタノエート/ 2 / 4、メチル 4−シアノ−3−オキソブタノエート/ 2 / 4、メチル 3−オキソペンタノエート/ 2 / 14、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン/ 2 / 82、アセトフェノン/ 2 / 5、2’−ブロモアセトフェノン/ 2 / 2、3’−ブロモアセトフェノン/ 2 / 124、4’−ブロモアセトフェノン/ 2 / 63、2−クロロアセトフェノン/ 2 / 2、3’−クロロアセトフェノン/ 2 / 57、4’−クロロアセトフェノン/ 2 / 49、ベンジルアセトン/ 2 / 289、1−フェニル−2−ブタノン/ 2 / 10、m−メトキシアセトフェノン/ 2 / 42、3,4−ジメトキシアセトフェノン/ 2 / 20、4’−メトキシアセトフェノン/ 2 / 3、2,3’−ジクロロアセトフェノン/ 2 / 27、3,4−ジメトキシフェニルアセトン/ 2 / 16、シクロペンタノン/ 2 / 1、4−アセチル安息香酸/ 2 / 2、D−(+)−グルコース/ 2 / 1
【0090】
実施例5 (アルコールを原料とするケトン化合物又はアルデヒド化合物の製造例(本発明タンパク質を用いた酸化反応例))
実施例1で得られた精製酵素液を用いて、アルコールからケトン化合物又はアルデヒド化合物を製造した。その結果を下記した。
尚、酸化活性は、以下のとおり測定した。
基質(10mM)及びNAD+(3mM)を溶解したリン酸緩衝液(50mM,pH7.0)に精製酵素を加えて全量を1.5mlとし、25℃で20秒間保温した後、340nmの吸光度を測定した。340nmの吸光度からNADHの生成量を計算して酸化酵素活性を求めた。
【0091】
(結果)
化合物 / 濃度(mM) / 還元酵素活性(U/mL)の順に、1−ヘプタノール/ 10 / 7、1−オクタノール/ 5 / 4、2−プロパノール/ 10 / 12、(R)−2−ブタノール/ 10 / 33、(R)−2−ペンタノール/ 10 / 80、(R,S)−2−ペンタノール/ 10 / 38、(R)−2−ヘキサノール/ 10 / 270、(R,S)−2−ヘキサノール/ 10 / 179、(S)−(+)−2−ヘプタノール/ 10 / 20、(R)−(−)−2−ヘプタノール/ 10 / 415、(R,S)−2−へプタノール/ 10 / 277、3−ヘプタノール/ 10 / 11、(S)−(+)−2−オクタノール/ 5 / 4、(R)−(−)−2−オクタノール/ 5 / 181、シクロペンタノール/ 10 / 2、(R)−(+)−1−フェニルエタノール/ 10 / 10、2−フェニルエタノール/ 10 / 2、シンナミル アルコール/ 10 / 6
【0092】
実施例6 (本還元酵素遺伝子及び補酵素再生酵素遺伝子を含有するプラスミドの調製:プラスミドpTrcTFARSbGの構築)
(6−1)酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド等を還元型に変換する能力を有する酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製するための準備
フラスコにLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム)100mlを入れ、滅菌した。このようにして調製された培地に、Bacillus megaterium IFO12108株が前記組成の液体培地で予め培養された培養液0.3mlを接種し、これを30℃で10時間振盪培養した。
培養後、得られた培養液を遠心分離(15000×g、15分、4℃)することにより、菌体を回収した。回収された菌体を、50mMリン酸1カリウム−リン酸2カリウムバッファー(pH7.0)30mlに懸濁し、この懸濁液を遠心分離(15000×g、15分、4℃)することにより、洗浄菌体を得た。
このようにして得られた洗浄菌体からQiagen Genomic Tip (Qiagen社製)を用い、それに付属するマニュアルに記載される方法に従って染色体DNAを精製した。
【0093】
(6−2)酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド等を還元型に変換する能力を有する酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子の調製
The Journal of Biological Chemistry Vol.264, No.11, 6381−6385(1989)に記載された公知のBacillus megaterium IWG3由来のグルコース脱水素酵素のアミノ酸配列に基づいて配列番号13で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号14で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとを合成する。
配列番号13で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号14で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとをプライマーに用いて、前記(6−1)で精製された染色体DNAを鋳型にして実施例2(2−2)に記載させる反応液組成、反応条件でPCRを行う。
PCR反応液を精製して得られたPCR増幅DNA断片を、2種類の制限酵素(PstIとHindIII)を加えることにより、当該PCR増幅DNA断片を2重消化させる。次いで消化されたDNA断片を精製する。
一方、実施例2で調製されるプラスミドpTrcTFARに2種類の制限酵素(PstIとHindIII)を加えることにより、当該プラスミドを2重消化させる。次いで得られるDNA断片を精製する。
このようにして精製して得られる2種類のDNA断片を混合し、T4 DNAリガーゼでライゲーションする。得られるライゲーション液でE.coli DH5αを形質転換する。
得られる形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit (Qiagen社製)を用いて本還元酵素遺伝子及び本補酵素再生遺伝子を含有するプラスミド(以下、プラスミドpTrcTFARSbGと記すこともある。)を取り出す。
また、PCR増幅DNA断片を鋳型として、Dye Terminator Cycle sequencing FS ready Reaction Kit(パーキンエルマー製)を用いたシークエンス反応を行った後、得られるDNAの塩基配列をDNAシーケンサー373A(パーキンエルマー製)で解析する。
【0094】
実施例7 (本還元酵素遺伝子及び補酵素再生酵素遺伝子を含有する形質転換体の調製)
実施例6で調製されるプラスミドpTrcTFARSbGを用いてE.coli HB101を形質転換する。得られる形質転換体を0.4mMのIPTG、0.01%(W/V)のZnCl2及び50μg/mlのアンピシリンを含有する滅菌LB培地(100ml×3本)に接種した後、これを振盪培養する(30℃、18時間)。培養後、培養液を遠心分離・洗浄することにより、洗浄菌体を回収する。
【0095】
実施例8((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールの製造方法(その1))
50mMリン酸1カリウム−リン酸2カリウムバッファー(pH7.0)20mlに、実施例7で調製される洗浄菌体1g、NAD+12mg及びグルコース2.5gを加える。この混合物に、さらに240mgの2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを加えた後、当該混合物のpHを15%炭酸ナトリウム水溶液で7.0に調製する。このようにして得られる混合物(反応液)を30℃で4時間攪拌することにより反応を行う。反応終了後、反応液に酢酸エチル25mlを注加攪拌し、次いで遠心分離することにより有機層及び水層を別々に回収する。回収される水層に再度酢酸エチル25mlを加えて同様な操作を行う。このようにして得られる有機層を合一濃縮した後、これをクロロホルム30mlに溶解し、無水Na2SO4を用いて乾燥する。乾燥後、クロロホルムを留去することにより、(S)−2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを得る。
【0096】
実施例9 (本還元酵素を産生する微生物の取得方法)
(1)洗浄菌体の調製
市販の微生物又は土壌などから単離した微生物を滅菌LB培地(10ml)に接種した後、これを振盪培養する(30℃、18時間)。培養後、培養液を遠心分離・洗浄することにより、洗浄菌体を回収する。
(2)スクリーニング
100mMリン酸1カリウム−リン酸2カリウムバッファー(pH6.5)20mlに、上記(11−1)で調製された洗浄菌体1g、NADP+12mg、NAD+12mg及びグルコース2.5gを加える。この混合物に、さらに一般式(1)で示される2,2,2−トリフルオロアセトフェノン240mgを加えた後、当該混合物のpHを15%炭酸ナトリウム水溶液で6.5に調製する。このようにして得られる混合物(反応液)を30℃で4時間攪拌することにより反応を行う。反応終了後、反応液に酢酸エチル25mlを注加攪拌し、次いで遠心分離することにより有機層及び水層を別々に回収する。回収される水層に再度酢酸エチル25mlを加えて同様な操作を行う。このようにして得られる有機層を合一濃縮した後、これをクロロホルム30mlに溶解し、無水Na2SO4を用いて乾燥する。乾燥後、クロロホルムを留去することにより残渣を得る。得られる残渣に、2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールが含まれていることをガスクロマトグラフィーにて定性及び/定量分析により確認する。
【発明の効果】
本発明によれば、ケトン化合物又はアルデヒド化合物からアルコールを製造するために優れた触媒能力を有するタンパク質をコードする遺伝子、該タンパク質、及びこれを利用したアルコールの製造方法等が提供される。
【0097】
「配列表フリーテキスト」
配列番号3
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号11
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号12
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号13
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号14
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
【0098】
【配列表】
Claims (22)
- 下記のいずれかのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを有することを特徴とする遺伝子。
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(g)ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(h)ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列 - 宿主細胞内において機能可能なプロモーターと請求項1記載の遺伝子とが機能可能な形で接続されてなることを特徴とする遺伝子。
- 請求項1又は2記載の遺伝子を含むことを特徴とする組換ベクター。
- 請求項2記載の遺伝子又は請求項3記載の組換ベクターが宿主細胞に導入されてなることを特徴とする形質転換体。
- 宿主細胞が微生物であることを特徴とする請求項4記載の形質転換体。
- 宿主細胞が大腸菌であることを特徴とする請求項4記載の形質転換体。
- 請求項1記載の遺伝子を保有することを特徴とする形質転換体。
- 請求項3記載の組換ベクターを宿主細胞に導入する工程を含むことを特徴とする形質転換体の製造方法。
- 下記のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とするタンパク質。
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(g)ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列
(h)ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749から得られうるタンパク質のアミノ酸配列であって、かつ2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールを生産する能力を少なくとも有するタンパク質のアミノ酸配列 - ケトン化合物又はアルデヒド化合物に、請求項9記載のタンパク質、それを産生する微生物、請求項4〜7記載の形質転換体又はそれらの処理物を作用させることを特徴とするアルコールの製造方法。
- 請求項1記載の遺伝子及び酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを有する遺伝子を含むことを特徴とする組換ベクター。
- 酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質がグルコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項10記載の組換ベクター。
- 請求項11又は12記載の組換ベクターが宿主細胞に導入されてなることを特徴とする形質転換体。
- 宿主細胞が微生物であることを特徴とする請求項13記載の形質転換体。
- 宿主細胞が大腸菌であることを特徴とする請求項13記載の形質転換体。
- 請求項1記載の遺伝子及び酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを有する遺伝子を保有することを特徴とする形質転換体。
- 酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質を反応系内に共存させること特徴とする請求項10記載のアルコールの製造方法。
- 酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを還元型に変換する能力を有するタンパク質がグルコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項17記載のアルコールの製造方法。
- ケトン化合物又はアルデヒド化合物に、請求項13〜16記載の形質転換体又はその処理物を作用させることを特徴とするアルコールの製造方法。
- ケトン化合物又はアルデヒド化合物からアルコールを製造するための触媒としての、ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物の使用。
- ライフソニア(Leifsonia)属に属する微生物がライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749(国際寄託当局の受託番号:FERM BP−8291)であることを特徴とする請求項20記載の使用。
- ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749(国際寄託当局の受託番号:FERM BP−8291)。
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