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JP2004107180A - 圧電体素子形成用組成物、圧電体膜の製造方法、圧電体素子及びインクジェット記録ヘッド - Google Patents

圧電体素子形成用組成物、圧電体膜の製造方法、圧電体素子及びインクジェット記録ヘッド Download PDF

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JP2004107180A
JP2004107180A JP2002275625A JP2002275625A JP2004107180A JP 2004107180 A JP2004107180 A JP 2004107180A JP 2002275625 A JP2002275625 A JP 2002275625A JP 2002275625 A JP2002275625 A JP 2002275625A JP 2004107180 A JP2004107180 A JP 2004107180A
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film
piezoelectric element
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piezoelectric
forming
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Application number
JP2002275625A
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Jun Kubota
久保田 純
Motokazu Kobayashi
小林 本和
Hisao Suzuki
鈴木 久男
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Canon Inc
Original Assignee
Canon Inc
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Publication date
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Abstract

【課題】ゾルゲル法による緻密で1層あたりの膜厚が厚い圧電体膜、その圧電体素子形成用組成物とその製造方法を提供するところにある。また、本発明は上記の圧電体膜を含むことを特徴とする圧電体素子及びインクジェット記録ヘッドの提供を目的とする。
【解決手段】圧電体素子形成用組成物において、有機金属化合物を原料として生成した圧電体素子形成用組成物に、光または電子線を照射することにより分解する高分子を含ませる。
【選択図】   なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を含有する圧電体素子形成用組成物、この組成物を用いた圧電体膜の製造方法、前記圧電体膜を有する圧電体素子及びそれを用いたインクジェット記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に代表される金属化合物からなる圧電体膜は、インクジェット記録ヘッドの圧電体素子として利用される。この用途に用いられる強誘電体薄膜が、充分な電気機械変換機能(変位を促す圧力)を発現するためには1μm〜25μm程度の厚膜化が必要である。また、変位を精度良く制御するためには膜の均一な形状が望まれる。
【0003】
通常PZT膜は、スクリーン印刷法、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、水熱法等で形成することができ、ペロブスカイト構造を得るためには、通常700℃以上のアニールが行なわれる。膜厚を厚くするには、成膜する堆積時間を長くしたり、成膜を複数回繰り返すことが必要である。前記の成膜法の内、ゾルゲル法は組成制御性に優れており、塗布と焼成を繰り返すことで容易に薄膜を得ることができる。また、ゾルゲル法により得られた膜は、非常に緻密であるため、変位を促す圧力が分散することなく良い圧電特性を示すことが期待される。
【0004】
ゾルゲル法は、原料となる各成分金属の加水分解性の化合物、その部分加水分解物またはその部分重縮合物を含有するゾルを基板に塗布し、その塗膜を乾燥させた後、空気中で加熱して金属酸化物の膜を形成し、さらにその金属酸化物の結晶化温度以上で焼成して膜を結晶化させることにより金属酸化物薄膜を成膜する方法である。原料の加水分解性の金属化合物としては、有機金属アルコキシド、その部分加水分解物または部分重縮合物といった有機化合物が一般に使用されている。ゾルゲル法を用いることで、もっとも安価、簡便に強誘電体薄膜を成膜できる。
【0005】
ゾルゲル法に類似の方法として、有機金属分解法(MOD法)がある。MOD法は、熱分解性の有機金属化合物(金属錯体及び金属有機酸塩)、たとえば、金属のβ−ジケトン錯体やカルボン酸塩を含有する溶液を基板に塗布し、たとえば空気中あるいは酸素中で加熱して塗膜中の溶媒の蒸発および金属化合物の熱分解を生じさせて金属酸化物の膜を形成し、さらに結晶化温度以上で焼成して膜を結晶化させる方法である。本明細書ではゾルゲル法、MOD法、およびこれらが混合された方法をあわせて「ゾルゲル法」と称する。また、本明細書ではゾルゲル法により圧電体膜を形成するのに用いるゾルなどの塗布溶液およびゾル形成前の原料の組成物を「圧電体素子形成用組成物」と称する。
【0006】
またゾルゲル法により成膜された圧電体素子を用いたインクジェットプリンタヘッドが開示されている。ゾルゲル法を利用し、下部電極上に圧電体材料を含むゾルを複数回に分けて塗布し加熱処理を繰り返すことにより、インクジェットプリンタヘッドに用いられる圧電体素子の圧電体薄膜を形成する方法が開示されている(例えば、特許文1、2及び3参照。)。
【0007】
【特許文献1】
特開平9−92897号公報
【特許文献2】
特開平10−139594号公報
【特許文献3】
特開平10−290035号公報
また、電子写真用トナーに光分解性の高分子としてフェニルイソプロペニルケトンを構成単量体のひとつとする共重合体を使用することが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献4】
特開平7−209900号公報
このフェニルイソプロペニルケトンを構成単量体のひとつとする共重合体は、置換及び未置換のプロピオフェノンのマンニッヒ反応により得られたアミノ体を、脱アミノ化することにより、置換及び未置換のフェニルイソプロペニルケトンを得た後に、これに重合開始剤の存在下でスチレン、アクリル酸エステルなどのモノマーを共重合させることにより得られることが開示されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
【非特許文献1】
K.スギタら著、「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス ポリマー ケミストリー エディション」、第14版、1976年、p.1901−1913
【非特許文献2】
K.スギタら著、「ポリマー ジャーナル」、第25版、第10号、1993年、p.1059−1067
光分解性の高分子として、アンモニウム塩のボレート誘導体及び/又はホスホニウム塩のボレート誘導体を含有する高分子等も用いることが開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【特許文献5】
特開平11−315117号公報
上記のような圧電体の薄膜を、代表的には成分金属のアルコキシド等の加水分解性または熱分解性の有機金属化合物や成分金属の水酸化物を含有する原料ゾルを用いて、ゾルゲル法により成膜する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。
【特許文献6】
特開昭60−236404号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ゾルゲル法で厚膜を得るためには成膜を繰り返し、積層しなければならない。そのため、厚膜を作製すると非常に長時間を要し、表面の平滑性や電気特性も低下するという欠点があった。原料ゾルに有機高分子バインダーを添加しておくと一度に厚い膜を得ることが可能であるが、焼結時にバインダーが消失することに起因する膜欠陥のため膜密度が低下するという欠点がある。
【0009】
そこで本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ゾルゲル法による緻密で1層あたりの膜厚が厚い圧電体膜、その原料組成物とその製造方法を提供するところにある。また、本発明は上記の圧電体膜を有することを特徴とする圧電体素子及びインクジェット記録ヘッドの提供を目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも一種の有機金属化合物を含む圧電体素子形成用組成物において、組成物中に光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を更に含むことを特徴とする圧電体素子形成用組成物に関するものである。本発明者は前記の課題を解決するため、光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を含有する圧電体素子形成用組成物による成膜を検討した結果、高分子のバインダー効果により膜が厚くなり、更に分解によりバインダーの消失温度が低下することから緻密な膜が得られることを見いだし、本発明に至った。なお、本発明における有機金属化合物とは金属と有機基を含有する広義の意味として用いており、炭素−金属結合を有する狭義の意味で用いているのではない。
【0011】
本発明は更に、有機金属化合物が金属酸化物換算で0.1〜35質量%、光または電子線の照射により分解させることのできる高分子が0.1〜70質量%含まれていることが好ましい。
【0012】
本発明は更に、金属として、少なくともチタン、ジルコニウム及び鉛を含むことが好ましい。
【0013】
本発明は更に、圧電体膜の形成方法において、前記圧電体素子形成用組成物を基板に塗布して塗布膜を形成する工程と、塗布膜を乾燥する工程と、乾燥した塗布膜に光または電子線を照射し、塗布膜中に含まれる高分子を分解する工程と、高分子の分解物を含む塗布膜を焼成して、圧電体膜を得る工程と、を有することを特徴とする圧電体膜の製造方法に関するものである。
【0014】
本発明は更に、下部電極及び上部電極に挟持された圧電体膜を備える圧電体素子において、圧電体膜が前記方法により製造されたものであることを特徴とする圧電体素子に関するものである。
【0015】
本発明は更に、インク吐出口と、インク吐出口に連通する圧力室と、圧力室の一部を構成する振動板と、圧力室の外部に設けられた振動板に振動を付与するための圧電体素子とを有し、振動板に付与された振動により生じる圧力室内の体積変化によって圧力室内のインクをインク吐出口から吐出するインクジェット記録ヘッドにおいて、圧電体素子が前記圧電体素子であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の圧電体素子形成用組成物に含まれる分解性の高分子は、光照射または電子線照射により主鎖結合の一部が開裂して分子量が小さくなる性質を持つものであれば、特に限定されず、当該分野で公知の光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を使用することが出来る。例えば、光照射により分解する高分子としてフェニルイソプロペニルケトンを構成単量体の一つとする共重合体、アンモニウム塩のボレート誘導体及び/又はホスホニウム塩のボレート誘導体を含有する高分子等を使用することができる。また、これらの複数の光照射により分解する高分子を組み合わせて用いても良い。好ましくは、フェニルイソプロペニルケトンを構成単量体の一つとする共重合体を使用するのが良い。この共重合体はスチレン−アクリル系樹脂の構成モノマーの少なくとも1つがフェニルイソプロペニルケトンである共重合体中で、フェニルイソプロペニルケトンは構成単量体として使用することができる。フェニルイソプロペニルケトンのフェニル基は、置換又は未置換のフェニル基であり、置換基としては、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基及びアシル基、あるいはクロル、ブロム、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基などを挙げることができる。
照射する光線は、紫外光または可視光であることが望ましいが、金属酸化物が電子線に耐えうる場合は電子線照射で代用することが出来る。その場合は光照射により分解する高分子の代わりに電子線照射により分解する高分子を用いる。
【0017】
電子線で分解する高分子としては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリヘキサフルオロブチルメタクリレート(FBM)、ポリトリフルオロエチル−α−クロロアクリレート(EBR−9)とMMAの共重合体、ポリ(ブテン−1−スルホン)(PBS)等を用いることができる。
【0018】
また、高分子の開裂反応を誘起する感光性の開始剤を高分子に添加することにより、本発明の圧電体素子形成用組成物に含まれる高分子に分解性を付与しても良い。
本発明の圧電体素子形成用組成物に含まれる高分子は、その重量平均分子量が2000以上500000以下であることが好ましい。重量平均分子量を2000以上500000以下とすることにより、高粘度になることなく塗布時に膜を厚くするためのバインダー効果を有することが可能である。より好ましくは、重量平均分子量は10000以上100000以下であるのが良い。また、分解性高分子の分解後の重量平均分子量は30以上1000以下であるのが良い。より好ましくは、重量平均分子量は40以上500以下であるのが良い。
【0019】
本発明の圧電体素子形成用組成物に含まれる金属化合物を構成する金属種は、ゾルゲル法による成膜後に圧電性を有する金属酸化物になるような組合せで選択する。好ましくは金属種として少なくともチタン、ジルコニウム及び鉛を含むのが良い。また、金属種として金属化合物中に全金属原子に対してチタンを15〜40原子%、ジルコニウムを15〜40原子%及び鉛を40〜70原子%を含むことが好ましい。より好ましくは、金属化合物中に全金属原子に対して、チタンを18〜25原子%、ジルコニウムを20〜28原子%及び鉛を45〜65原子%を含むのが良い。金属化合物中に全金属原子に対してチタンを18〜25原子%、ジルコニウムを20〜28原子%及び鉛を45〜65原子%を含むことによって高い誘電率と優れた強誘電特性や光学特性を有する圧電体を得ることができる。
【0020】
圧電性を有する金属酸化物としては、チタン酸バリウム(BTO)、チタン酸鉛(PT)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)、PZTに第3成分としてマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)が加わった固溶体等が挙げられる。また、これらの組成物は、微量のドープ元素を含有することができる。ドープ元素の例としては、Ca、Sr、Ba、Hf、Sn、Th、Y、Sm、Dy、Ce、Bi、Sb、Nb、Ta、W、Mo、Cr、Co、Ni、Fe、Cu、Si、Ge、U、Scなどが挙げられる。その含有量は、金属原子に対する原子分率で0.05原子%以下である。なお、上記元素は、その元素を含む化合物を圧電体素子形成用組成物に適量加えておくことでドープすることができる。
【0021】
本発明により作製できる圧電体の中でも一般式:Pb1−xLa(ZrTi1−y)O(0≦x<1、0≦y≦1)で示される組成を有する金属酸化物、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)およびランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)は、ペロブスカイト型結晶構造を持つ圧電体であり、その高い誘電率と優れた強誘電特性や光学特性から、これらの化合物の薄膜は、既にキャパシタ膜、光センサ、光回路素子などに使われている他、不揮発性メモリといった新たな応用も期待される。
【0022】
本発明は、圧電体の薄膜を、代表的には成分金属のアルコキシド等の加水分解性または熱分解性の有機金属化合物を含有する組成物を用い、ゾルゲル法により成膜しているが、この原料組成物に上記の光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を相溶又は分散させている点に特徴があり、この特徴を除けば、溶液組成や成膜方法は一般に従来のゾルゲル法等と同様でよい。
【0023】
原料として好ましい金属化合物は、加水分解性または熱分解性の有機金属化合物である。例えば、有機金属アルコキシド、金属有機酸塩、β−ジケトン錯体などの金属錯体が代表例であるが、金属錯体についてはアミン錯体をはじめとして、各種の他の錯体も利用できる。β−ジケトンとしては、アセチルアセトン(=2,4−ペンタンジオン)、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトンなどが挙げられる。
【0024】
原料として好適な有機金属化合物の具体例を示すと、鉛化合物およびランタン化合物としては酢酸塩(酢酸鉛、酢酸ランタン)などの有機酸塩ならびにジイソプロポキシ鉛などの有機金属アルコキシドが挙げられる。チタン化合物としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラi−ブトキシチタン、テトラt−ブトキシチタン、ジメトキシジイソプロポキシチタンなどの有機金属アルコキシドが好ましいが、有機酸塩または有機金属錯体も使用できる。ジルコニウム化合物は上記チタン化合物と同様である。他の金属化合物も上記に類するが上記に限定されるものではない。また、上記金属化合物は組み合わせて用いても良い。
【0025】
なお、原料の有機金属化合物は、上述したような1種類の金属を含有する化合物の他に、2種以上の成分金属を含有する複合化した有機金属化合物であってもよい。かかる複合化有機金属化合物の例としては、PbO[Ti(OC、PbO[Zr(OCなどが挙げられる。
各成分金属の原料として使用する有機金属化合物を、適当な有機溶剤に一緒に分散して、最終的に圧電体材料である複合有機金属酸化物(2以上の金属を含有する酸化物)となる原料組成物を調製する。また、組成物溶液の溶剤は分散性、塗布性を考慮して、公知の各種溶剤から適宜選択される。
【0026】
組成物溶液の分散媒を形成する溶剤としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン系などのアミド系溶剤、アセトニトリル等のニトリル系溶剤が挙げられる。これらの中で好ましくはアルコール系溶剤を用いるのが良い。本発明におけるゾルゲル法において用いられる溶剤の量は、有機金属アルコキシドに対して通常5倍モルから200倍モルであり、好ましくは10倍モルから100倍モルである。金属錯体を使用する場合の溶剤の量は、金属錯体に対して通常5倍モルから200倍モルであり、好ましくは10倍モルから100倍モルである。また、金属有機酸塩を使用する場合の溶剤の量は、金属有機酸塩に対して通常5倍モルから200倍モルであり、好ましくは10倍モルから100倍モルである。溶剤の量を、有機金属アルコキシドに対して5倍モルから200倍モル、金属錯体に対して5倍モルから200倍モル、金属有機酸塩に対して5倍モルから200倍モルに設定することによって、ゲル化が容易に起こると共に、加水分解時の発熱も適度になる。組成物中に含有させる各有機金属化合物の割合は、成膜しようとする圧電体膜中における組成比とほぼ同じでよい。但し、一般に鉛化合物は揮発性が高く、金属酸化物に変化させるための加熱中または結晶化のための焼成中に蒸発による鉛の欠損が起こることがある。そのため、この欠損を見越して、鉛をやや過剰(例、2〜20質量%過剰)に存在させてもよい。鉛の欠損の程度は、鉛化合物の種類や成膜条件によって異なり、実験により求めることができる。
【0027】
金属化合物を有機溶媒中に分散させた組成物は、そのまま分解性高分子を加えて本発明の圧電体素子形成用組成物としてゾルゲル法による成膜に使用してよい。或いは、造膜を促進させるため、この組成物に水及び/または熱を加えて、加水分解性の有機金属化合物(例、有機金属アルコキシド)を部分加水分解ないし部分重縮合させてから分解性高分子を加えて本発明の圧電体素子形成用組成物とし、成膜に使用してもよい。即ち、この場合には、原料組成物は、少なくとも一部の有機金属化合物については、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有することになる。
【0028】
部分加水分解のための加熱は、温度や時間を制御して、完全に加水分解が進行しないようにする。完全に加水分解すると、原料組成物の安定性が著しく低下し、ゲル化し易くなる上、均一な成膜も困難となる。加熱条件は、温度が80〜200℃、時間は0.5〜50時間程度が適当である。加水分解中に、加水分解物が−M−O−結合(M=金属)により部分的に重縮合することがある。このような重縮合が部分的であれば許容される。
【0029】
圧電体素子形成用組成物は少量の安定剤を含有していてもよい。安定剤の添加により、原料組成物の加水分解速度、重縮合速度等が抑えられ、その保存安定性が改善される。安定剤として有用な化合物を挙げると、β−ジケトン類(例、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、ケトン酸類(例、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、これらのケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類、オキシ酸類(例、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、これらのオキシ酸の低級アルキルエステル類、オキシケトン類(例、ジアセトンアルコール、アセトイン等)、α−アミノ酸類(例、グリシン、アラニン等)、アルカノールアミン類(例、ジエタノールアミン、トリエターノルアミン、モノエタノールアミン等)が例示される。
【0030】
圧電体素子形成用組成物中に金属化合物が金属酸化物換算で0.1〜35質量%含まれていることが好ましい。より好ましくは、金属酸化物換算で1〜25質量%含まれているのが良い。また、光または電子線の照射により分解させることのできる高分子は0.1〜70質量%含まれていることが好ましい。より好ましくは、1〜50質量%含まれているのが良い。圧電体素子形成用組成物中に有機金属化合物を金属酸化物換算で0.1〜35質量%、光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を0.1〜70質量%含むことにより、ゾルゲル法による場合、緻密で1層あたりの膜厚が厚い圧電体膜、圧電体膜を含む圧電体素子及びこれらを含むインクジェット記録媒体を製造することができる。
【0031】
その他、本発明の圧電体素子形成用組成物には、必要によりさらに、重合促進剤、酸化防止剤、UV吸収剤、染料、顔料などの公知の各種添加剤を適宜配合することができる。
【0032】
本発明の圧電体素子形成用組成物を用いることで、ゾルゲル法による膜と同等に緻密かつ1層当たりの膜厚の増加した圧電体膜、例えばチタン酸バリウム(BTO)、チタン酸鉛膜(PT)やチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜等を成膜する事ができる。本発明の圧電体素子形成用組成物によれば、含有する分解性の高分子のバインダー効果により、塗布時に厚い膜を形成することができる。通常の有機バインダー含有組成物により成膜した場合は、有機バインダーを分解せずに、このまま膜を焼成するが、有機バインダーの焼失により、有機バインダーの存在部が大きな空隙として残存し緻密な膜は得られない。本発明の成膜法では、塗布直後から最終的な焼成の直前までの間に1回又は2回以上の露光を行う。この露光中にバインダーとして働く高分子はその位置で分解され、より分子量の小さな化合物群に変わる。これらは分子量が小さいことから焼成時に比較的低温で焼失し、その占めていた容量は結晶化までに金属酸化物に埋められるため、膜は緻密化する。その結果として、高分子を用いない膜に対しては同等に緻密でありながら、より厚い膜が得られる。
【0033】
以後、本発明の圧電体素子形成用組成物を用いた圧電体膜の成膜法について詳細に説明する。形成する圧電体膜の基板としては、所望の用途に応じて、金属、ガラス、セラミックス等から適宜選択でき、シリコンウェハー等の基板であってもよい。基板はあらかじめ適当な表面処理が成されていても良い。例えばシランカップリング剤や適当な下地剤等により表面処理が成されていても良い。また、基板表面にチタン、白金、パラジウム、イリジウム等やこれらの合金からなる金属層が電極として設けられていても構わない。
【0034】
塗布方法は、特に限定されるものではなく、慣用のコーティング方法、例えばスピンコーティング法、キャスト法、スプレー塗布法、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、印刷法等により行われる。これらの方法のうち、好ましい方法はスピンコーティング法、キャスト法、スプレー塗布法、ドクターブレード法、ダイコーティング法である。塗布後、乾燥して溶剤を除去することにより乾燥塗工層を形成することができる。このときの温度は用いる溶剤によって異なるが、概ね100℃〜450℃が好ましい。
【0035】
厚い膜を必要とするときは塗布と乾燥を繰り返す。1層または複数層からなる乾燥塗工層に光線を照射して露光を行い、高分子を分解する。露光は、塗布、乾燥後が好ましいが、塗布直後から最終焼成までの任意の時に行っても良い。また、露光は2回以上に分割して行っても良い。
【0036】
照射する光または電子線の種類は、用いる分解性高分子の特性に応じて選択すればよい。例えば光源としては、太陽光、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、タングステン光等が挙げられる。分解感度は高分子、膜厚、光源等の条件により異なるが、500mJ/cm以下の照射量で充分に光分解させることができる。また、高分子の種類によっては電子線を照射することで分解することができる。
【0037】
必要なだけ塗布と乾燥を繰り返し、分解された低分子量の化合物群を有する乾燥塗工層を加熱することにより焼成する。焼成は組成物に含まれる金属酸化物の種類や膜の用途等により条件が変わる。焼成温度は、組成物溶液から得られる金属酸化物の結晶化温度以上であることが好ましい。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)といった強誘電体膜の場合、焼成は400〜1400℃程度、好ましくは550〜800℃程度の温度で行うことができる。また焼成は、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気、または酸素含有雰囲気(空気など)等、任意の雰囲気下で行えばよく、常圧、加圧又は減圧下で行うことができる。また、分解された低分子量の化合物群を完全に焼失させてから結晶化が始まるように段階的な焼成を行うことが望ましい。例えば、分解された低分子量の化合物群を有する層を電気炉の中で600℃程度に2時間おくことで高分子由来の成分を除去し、その後700℃で焼き固めるような段階的な焼成処理を行なうことによる。このような焼成により、バインダー成分がほぼ失われ、緻密な圧電体金属酸化物膜が得られる。また、焼成によるバインダー成分の除去工程を設ける場合は、250〜650℃の範囲で焼成を行なうのが良い。
【0038】
本発明によるペロブスカイト型圧電体膜の用途としては、電極で挟持することによる圧電体素子が挙げられる。本発明の組成物及び膜の形成方法による圧電体膜は緻密で空隙部が少ないため、適当な電圧を印加すると圧電効果により変形する。また、成膜法としてゾルゲル法を選択することにより、この圧電体素子の大きさや形状を微細に制御することは容易である。よって、本発明から、容易なプロセスで、緻密性、電気的及び機械的特性に優れた、例えば、解像度80μm、アスペクト比>3のファインパターンの圧電体素子が形成できる。以下、この応用の好適な実施形態について図1を参照しながら説明する。
【0039】
図1は、本発明の圧電体素子の一実施形態の構成を示す図である。同図において、1は基板である。基板は所望の用途に応じて、金属、ガラス、セラミックス等から適宜選択でき、シリコンウェハー等の基板であってもよい。基板はあらかじめ適当な表面処理が成されていても良い。例えばシランカップリング剤や適当な下地剤等により表面処理が成されていても良い。圧電体素子は、下部電極2の表面に圧電体膜3を形成し、その表面に上部電極4を形成した、圧電体膜3が下部電極2と上部電極4に挟持された構造を有する。下部電極2及び上部電極4の材料は特に限定されず、圧電体素子に通常用いられているものであればよく、例えば白金や金などが使用される。また、下部電極2と上部電極4に同じ材料を使用しても良いし、異なる材料を使用しても良い。これらの電極の厚みは特に限定されないが、たとえば0.03μm〜2μmが好ましい。より好ましくは、0.05μm〜0.75μmであるのが良い。
【0040】
前記の圧電体素子の応用としてはインクジェット記録ヘッドが挙げられる。以下、この応用の好適な実施形態について図2を参照しながら説明する。
図2は、本発明による圧電体素子がアクチュエータに用いられたインクジェット記録ヘッドの一部を拡大して模式的に示した縦断面図である。記録ヘッドの構成は従来と同様であり、ヘッド基台5と振動板7および圧電体素子8と電源12からなるアクチュエータとから構成されている。圧電体素子8は、下部電極9の表面に圧電体膜10を形成し、その表面に上部電極11を形成した、圧電体膜10が下部電極9と上部電極11に挟持された構造を有する。
【0041】
ヘッド基台5には、インクを吐出する多数のインク吐出口(ノズル)(図示せず)、それぞれのインクノズルに個別に連通する多数のインク経路(図示せず)、及びそれぞれのインク経路に個別に連通する多数の圧力室としてのインク室6が形成されており、ヘッド基台5の上面全体を覆うように振動板7が取り付けられ、この振動板7によってヘッド基台5の全てのインク室6の上面開口が閉塞されている。振動板7上には、それぞれのインク室6と個別に対応した位置に、振動板7に振動駆動力を与えるための圧電体素子8が形成されている。そして、アクチュエータの電源12により、所望の選択された圧電体素子8に電圧を印加することにより、圧電体素子8を変形させて、その部分の振動板7を振動させる。これにより、振動板7の振動に対応した部分のインク室6の容積が変化して、インク経路を通ってインクノズルからインクが押し出されて印刷が行われることになる。
【0042】
圧電体膜10は、化学式Pb(Zr1−xTi)O(0.3≦x≦0.9、好ましくは0.4≦x≦0.9)で表されるPZTで形成され、またはそのPZTを主成分として形成されている。圧電体膜10の厚みは1μm〜25μmが好ましい。より好ましくは2μm〜12μmとするのが良い。膜厚を2μm〜12μmとすることにより、さほど大きくない電圧で圧電体素子8を充分変位させることが可能である。
【0043】
また、圧電体膜10は本発明の圧電体素子形成用組成物を用い本発明の強誘電体膜成膜方法により形成されたものである。
図5及び図6はそれぞれ、インクジェット記録ヘッドの概略を表す断面図および斜面図である。13はインクノズルを表している。圧電体素子8がヘッド基台5上に設けられており、電源(不図示)から電圧印加時に圧電体素子8が変位し、振動板(不図示)に振動を与える。この際、インク室6に振動が伝わり、インク導入管14を通して供給されたインクが吐き出される。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
【実施例】
実施例および比較例で使用した圧電体素子形成用組成物を構成する原料組成物及び分解性バインダーは以下の手順に従って準備した。
【0045】
(原料組成物の調製例、1−PZT圧電体素子形成用組成物)
酢酸鉛3水和物0.115molを2−メトキシエタノールに分散し、溶媒との共沸蒸留により水を除去した後、テトライソプロポキシチタン0.048molとテトラn−ブトキシジルコニウム0.052molを加え、還流し、さらにアセチルアセトン(安定化剤)0.25molを加えて十分に攪拌した。その後、水0.5molを加え、最後に2−メトキシエタノールで濃度を調節し、酸化物換算で10質量%濃度のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)圧電体素子形成用組成物とした。これを原料組成物Aとする。
【0046】
(原料組成物の調製例、2−PT圧電体素子形成用組成物)
適量の2−メトキシエタノールに酢酸鉛3水和物0.105molとテトライソプロポキシチタン0.1molを分散し、酸化物換算で10質量%のチタン酸鉛(PT)圧電体素子形成用組成物を調製した。これを以後、原料組成物Bとする。
【0047】
(原料組成物の調製例、3−BTO圧電体素子形成用組成物)
2−メトキシエタノールにジエトキシバリウム0.05molとテトライソプロポキシチタン0.05molを分散し、酸化物換算で10質量%のチタン酸バリウム(BTO)圧電体素子形成用組成物を調製した。これを以後、原料組成物Cとする。
【0048】
(バインダーの準備)
圧電体素子形成用組成物に含有される光または電子線の照射により分解させることのできる高分子として構成単量体がスチレン20mol%、フェニルイソプロペニルケトン30mol%、メタクリル酸メチル50mol%からなる共重合体ポリマー(重量平均分子量約25000)を作製した。この共重合体ポリマーを以後、バインダーDとする。バインダーDはフェニルイソプロペニルケトンユニット部が光照射により開裂し、より低分子量のオリゴマー群に変わる。
【0049】
後述の比較のため、光分解性のないバインダー高分子も作製した。この高分子はスチレン20mol%、メタクリル酸フェニル30mol%、メタクリル酸メチル50mol%からなる共重合体ポリマー(重量平均分子量約25000)である。この共重合体ポリマーを以後、バインダーEとする。
【0050】
[実施例1](圧電体素子形成用組成物の調製例及び圧電体膜の成膜例1−PZT)
原料組成物A100gに光分解性バインダーD20gを加え、ペイントシェーカーで良く混錬し、圧電体素子形成用組成物を得た。以後この組成物を圧電体素子形成用組成物ADとする。この組成物ADを用いて、Pt/Ti/SiO/Si型の多層基板のPt層の表面に、鉛系圧電体膜としてPZT膜を作製した。
【0051】
スピンコーターを用いて上記の組成物ADを3000rpmで上記基板に塗布し、150℃で10分間乾燥し溶媒を除去し乾燥塗工層を形成した。この基板を水銀ランプ(100W)下に近接して1分間放置した。次いで400℃で30分加熱して有機低分子成分を除去した。最後に基板全体を700℃で1時間熱処理して結晶化させることによりPZTの1回塗布膜を得た。以後、この膜をAD−1膜とする。
【0052】
同様の方法で、塗布、乾燥、露光、有機分除去の工程を3回繰り返すことにより、合計3層からなるPZT膜を得た。以後、この膜をAD−3膜とする。
顕微鏡観察によると、AD−1膜、AD−3膜の表面は平滑で、切断面に空隙部は少なく緻密な膜が得られたことがわかった。また、段差計により測定した膜厚はいずれの膜も1層あたり0.20μmであった。X線回折測定の結果からは、これらのPZT膜は、強誘電相であるペロブスカイトの単一相からなることが示唆された。
【0053】
[実施例2](圧電体素子形成用組成物の調製例及び圧電体膜の成膜例2−PT)
原料組成物B100gに光分解性バインダーD50gを加え、ペイントシェーカーで良く混錬し、圧電体素子形成用組成物を得た。以後この組成物を圧電体素子形成用組成物BDとする。この組成物BDを用いて、Pt/Ti/SiO/Si型の多層基板のPt層の表面に、鉛系圧電体膜としてPT膜を作製した。
スピンコーターを用いて上記の組成物BDを3000rpmで上記基板に塗布し、100℃で5分間加熱した。この基板を水銀ランプ(100W)下に近接して1分間放置した。次いで400℃で30分間熱処理して結晶化させPTの1回塗布膜を得た。以後、この膜をBD−1膜とする。
【0054】
顕微鏡観察によると、BD−1膜の表面は平滑で、切断面に空隙部は少なく緻密な膜が得られたことがわかった。また、段差計により測定した膜厚は0.35μmであった。X線回折測定の結果からは、このPT膜は、強誘電相であるペロブスカイトの単一相からなることが示唆された。
【0055】
[実施例3](圧電体素子形成用組成物の調製例及び圧電体膜の成膜例3−BTO)
原料組成物C100gに光分解性バインダーD15gを加え、ペイントシェーカーで良く混錬し、圧電体素子形成用組成物を得た。以後この組成物を圧電体素子形成用組成物CDとする。この組成物CDを用いて、Pt/Ti/SiO/Si型の多層基板のPt層の表面に、非鉛系圧電体膜としてBTO膜を作製した。
【0056】
スピンコーターを用いて上記の組成物CDを3000rpmで上記基板に塗布し、120℃で5分間乾燥し溶媒を除去し乾燥塗工層を形成した。この基板を水銀ランプ(100W)下に近接して1分間放置した。次いで400℃で30分加熱して有機低分子成分を除去した。最後に基板全体を600℃で1時間熱処理して結晶化させることによりBTOの1回塗布膜を得た。以後、この膜をCD−1膜とする。
【0057】
顕微鏡観察によると、CD−1膜の表面は平滑で、切断面に空隙部は少なく緻密な膜が得られたことがわかった。また、段差計により測定した膜厚は0.20μmであった。X線回折測定の結果からは、このBTO膜は、強誘電相であるペロブスカイトの単一相からなることが示唆された。
【0058】
(参考例1)
実施例2から水銀ランプ照射の工程を省き同様の成膜を行って、PZTの1回塗布膜を得た。この膜にクラックは見られず、その膜厚は1μm以上とAD−1膜より厚かった。しかし、顕微鏡観察によると表面は荒れて平滑ではなく、切断面にも空隙部が数多く見られた。この比較から、光の照射によるバインダー高分子の分解が、結晶化後のPZT膜の緻密性に寄与していることがわかった。
【0059】
(参考例2)
実施例3から水銀ランプ照射の工程を省き同様の成膜を行って、PTの1回塗布膜を得た。その膜厚は1μm以上とBD−1膜より厚かった。しかし、顕微鏡観察によると表面にはクラックが見られ、切断面にも空隙部が数多く見られた。この比較から、光の照射によるバインダー高分子の分解が、結晶化後のPT膜の緻密性に寄与していることがわかった。
【0060】
(比較例1)
バインダー高分子が光分解性を有しない場合との比較を行う。
原料組成物A100gにバインダーE20gを加え、ペイントシェーカーで良く混錬し、圧電体素子形成用組成物を得た。以後この組成物を圧電体素子形成用組成物AEとする。この組成物AEを用いて、Pt/Ti/SiO/Si型の多層基板のPt層の表面に、PZT膜を作製した。
スピンコーターを用いて上記の組成物ADを3000rpmで上記基板に塗布し、150℃で10分間乾燥し溶媒を除去し乾燥塗工層を形成した。次いで400℃で30分加熱して有機低分子成分を除去した。最後に基板全体を700℃で1時間熱処理して結晶化させることによりPZTの1回塗布膜を得た。
【0061】
膜はクラックなく得られ、その膜厚は2μm以上とAD−1膜より厚かった。しかし、顕微鏡観察によると表面は荒れて平滑ではなく、切断面にも空隙部が数多く見られた。これより、高分子量の有機分を含んだまま焼結すると緻密な膜は得られないことがわかった。
【0062】
(比較例2)
焼失温度の低いモノマーをバインダーとして用いた場合との比較を行う。
原料組成物A100gに10質量%水酸化ナトリウムで洗浄したスチレン20gとメタクリル酸メチル80gを加え、良く攪拌した。この組成物をPt/Ti/SiO/Si型の多層基板のPt層の表面にスピンコーターを用いて3000rpmで塗布し、150℃で10分間乾燥し溶媒を除去し乾燥塗工層を形成した。次いで400℃で加熱したところ、クラックが生じ、大部分が基板から剥がれてしまった。
【0063】
(比較例3)
公知のPZT塗布溶液にあたる原料組成物Aのみで、Pt/Ti/SiO/Si型の多層基板のPt層の表面に、PZT膜を作製した。
スピンコーターを用いて組成物Aを3000rpmで上記基板に塗布し、150℃で10分間乾燥し溶媒を除去し乾燥塗工層を形成した。次いで400℃で30分加熱して有機低分子成分を除去した。最後に基板全体を700℃で1時間熱処理して結晶化させることによりPZTの1回塗布膜を得た。
この膜は顕微鏡観察によると表面が平滑で均質な膜であったが、1層あたり膜厚は0.05μmでAD−1膜の4分の1程度であった。
【0064】
[実施例4](圧電体素子の作製例−1)
上記AD−3膜の上部に金をスパッタ法により成膜した。この金と膜の下部にある白金を電極とし、誘電率を測定したところ10から10000Hzの領域において1000以上の比誘電率が得られた。また、併せてヒステリシス測定も行った結果、外部電場の大きさを正負に変化させることにより自発分極が反転するという強誘電体に特有の履歴曲線が観測され、その残留電極値Prは20Vで約25μC/cmを示した。この結果、本実施例で作製した圧電体素子は、優れた強誘電性を有していることが分かった。
【0065】
[実施例5](圧電体素子の作製例−2)
上記BD−1膜、CD−1膜の上部に金をスパッタ法により成膜した。この金と膜の下部にある白金を電極とし、誘電率を測定したところ10から10000Hzの領域においていずれの膜も60以上の比誘電率を示した。また、併せてヒステリシス測定も行った結果、外部電場の大きさを正負に変化させることにより自発分極が反転するという強誘電体に特有の履歴曲線が観測された。この結果、本実施例で作製した圧電体素子は、優れた強誘電性を有していることが分かった。また、このようなヒステリシス特性は記憶ユニットとして活用可能で、上記記載のような圧電体素子を複数併設し個別に電圧を印加できるようにすればメモリを構成することも可能である。
【0066】
[実施例6](インクジェット記録ヘッド用圧電体素子の作製例)
図3、4に示すような構成のインクジェット記録ヘッド用の圧電体素子を作製するために、裏面の一部がくり抜かれたジルコニア基板表面に、下部電極として白金電極を厚さ0.5μmになるよう蒸着した。振動部の厚さは10μmである。この上部にスピンコーターを用いて上記の圧電体素子形成用組成物ADを3000rpmで塗布し、150℃で10分間加熱し溶媒を除去した。この基板を水銀ランプ(100W)下に近接して1分間放置した。次いで400℃で30分加熱して有機低分子成分を除去した。更に塗布、乾燥、露光、有機分除去を9回繰り返し、合計10層からなるPZT膜を形成した。最後に基板全体を700℃で1時間熱処理して結晶化させることによりPZTの10回塗布膜を得た。この圧電体膜の厚みは上記実施例2より約2μmと推測される。最後に圧電体膜上に上部電極として金をスパッタ法により成膜し本発明の圧電体素子を作製した。
【0067】
得られた圧電体素子について、20Vの電圧印加時における素子の振動幅をレーザ・ドップラー計で測定したところ、1〜10kHzの周波数範囲において約2.2μmの振動が確認された。この変位はインクジェット記録ヘッドとしてインク吐出を行うのに充分な変位量である。印加電圧を小さくすると変位も小さくなり、吐出量の制御が可能であることもわかった。
【0068】
[実施例7](インクジェット記録ヘッドの作製例)
上記した実施例6で得られた圧電体素子に図5、6で示すようなノズルを取り付けさらにインクを導入するための導入管を設けインクジェット記録ヘッドを作製した。このインクジェット記録ヘッドを用いて吐出実験を行った。
【0069】
上記で作製したインクジェット記録ヘッドに導入管よりインクジェット用インクを導入しインク室を満たした。次に上部電極と下部電極間に1〜20kHz、10Vの交流電圧を印加しインクの吐出の様子を顕微鏡で観察した。その結果インクジェット記録ヘッドは各周波数に追随しインク滴を吐出できた。また、同様にして、複数個のインクノズルを設けたインクジェット記録ヘッドを作製したところ、同様にインクの吐出が確認された。これにより、本発明の圧電体素子がインクジェット記録ヘッドとして有用であることがわかった。
【0070】
以上実施例を挙げて述べてきたが、本発明は圧電体に相当する金属酸化物の組成比や原料の種類になんら限定されるものでは無い。ゾルゲル法以外の成膜法も種々可能である。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を有する圧電体素子形成用組成物が提供される。また、本発明によれば、少なくともチタン、ジルコニウム及び鉛を含み、かつ光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を有する圧電体素子形成用組成物が提供される。
【0072】
さらに本発明によれば、この圧電体素子形成用組成物を用いて、簡便に緻密かつ1層あたりの膜厚が厚い圧電体膜が得られる。この圧電体膜から優れた圧電性を有するPZT圧電体素子を作製することも可能で、この素子は、例えばインクジェット記録装置のピエゾヘッド等種々の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の圧電体素子の実施形態の1例を示し、基板上で下部電極と上部電極に挟持された圧電体素子の一部を拡大して模式的に示す縦断面図である。
【図2】この発明の実施形態の1例を示し、圧電体素子がアクチュエータに用いられたインクジェット記録ヘッドの一部を拡大して模式的に示す縦断面図である。
【図3】この発明の実施例6で用いた基板の形態の1例を示し、一部がくりぬかれ薄くなっているため圧電体膜の振動の様子が観測できるよう設計されたジルコニア基板を拡大して模式的に示す斜視図である。
【図4】この発明の実施例6で用いた基板の形態の1例を示し、一部がくりぬかれ薄くなっているため圧電体膜の振動の様子が観測できるよう設計されたジルコニア基板を拡大して模式的に示す縦断面図である。
【図5】この発明の実施例7で作製したインクジェット記録ヘッドの形態の1例を示し、実施例5で得た圧電体素子の下部にノズルがあり、かつインク導入管を備えているため吐出実験を行うことが可能となるインクジェット記録ヘッドの一部を拡大して模式的に示す縦断面図である。
【図6】この発明の実施例7で作製したインクジェット記録ヘッドの形態の1例を示し、実施例5で得た圧電体素子の下部にノズルがあり、かつインク導入管を備えているため吐出実験を行うことが可能となるインクジェット記録ヘッドの一部を拡大して模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
1 基板
2 下部電極
3 圧電体薄膜
4 上部電極
5 ヘッド基台
6 インク室
7 振動板
8 圧電体素子
9 下部電極
10 圧電体薄膜
11 上部電極
12 電源
13 ノズル
14 インク導入管

Claims (6)

  1. 少なくとも一種の有機金属化合物を含む圧電体素子形成用組成物において、該組成物中に
    光または電子線の照射により分解させることのできる高分子を更に含むことを特徴とする圧電体素子形成用組成物。
  2. 前記有機金属化合物が金属酸化物換算で0.1〜35質量%、前記高分子が0.1〜70質量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の圧電体素子形成用組成物。
  3. 前記金属として、少なくともチタン、ジルコニウム及び鉛を含むことを特徴とする請求項1または2記載の圧電体素子形成用組成物。
  4. 圧電体膜の形成方法において、
    請求項1〜3の何れかに記載の圧電体素子形成用組成物を基板に塗布して塗布膜を形成する工程と、
    該塗布膜を乾燥する工程と、
    該乾燥した塗布膜に光または電子線を照射し、該塗布膜中に含まれる高分子を分解する工程と、
    該高分子の分解物を含む塗布膜を焼成して、圧電体膜を得る工程と、
    を有することを特徴とする圧電体膜の製造方法。
  5. 下部電極及び上部電極に挟持された圧電体膜を備える圧電体素子において、該圧電体膜が請求項4記載の方法により製造されたものであることを特徴とする圧電体素子。
  6. インク吐出口と、該インク吐出口に連通する圧力室と、該圧力室の一部を構成する振動板と、該圧力室の外部に設けられた該振動板に振動を付与するための圧電体素子とを有し、該振動板に付与された振動により生じる該圧力室内の体積変化によって該圧力室内のインクを該インク吐出口から吐出するインクジェット記録ヘッドにおいて、
    該圧電体素子が請求項5に記載の圧電体素子であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
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