生活場面の隅々に浸透した合成樹脂
プラスチックは石油を原料とする合成樹脂だ。1800年代後半に米国で半分植物のセルロースを使ったセルロイドが登場したが、燃えやすいことから1900年代に入り、完全に合成樹脂プラスチックとして世界的に普及した。日本では戦後1960年ごろから高度経済成長に合せるように身近な日用品などに急速に使われるようになった。
レジ袋、ペットボトル、食器類、薬剤容器、電気製品から工業製品まで、軽くて安価なプラスチックは生活の場面の隅々に浸透している。しかし、その耐久性があだになって最大の問題は自然分解せずに環境中に放出されると数百年は自然界に残ることだ。一度ごみとして自然界に出ると長く環境を汚染し続ける。
廃棄されたプラごみは陸地や川から海に流れ込み、漂流するうちに波や紫外線により砕けて大きさ5ミリ以下になった「マイクロプラスチック」は有害物質を吸着する。そして海の生き物の体内に入り、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響を与える可能性がいくつかの研究結果により指摘されている。
経済協力開発機構(OECD)によると、世界のプラスチックの生産量は1970年代から急拡大し、1990年ごろは年間1億トン程度だったが、2000年ごろには2億トンを超え、19年には4億6000万トンに達した。1950年から2015年までに累計83億トン以上生産されたが、うち63億トンが廃棄されたという。
生産量の拡大とともにプラごみ量も増加する一方で、2015年時点で年間3億トンを超え、19年には3億5300万トンに達し、2000年の2倍以上に増えていた。海への流出量はいくつかの推定があるが「少なくとも年間800万トン」とみられている。OECDの22年の報告書によると、発生したプラごみの50%は埋め立てられ、19%は焼却処理されるが、22%は環境中に放出され、リサイクルはごくわずかだという。
生産量の増加とともにごみも増え、脅威に
OECDは5回目の政府間交渉委員会を前に10月、世界の生産量は40年に7億3600万トンを超え、4億3500万トンだった20年に比べて約1.7倍になると推計する報告書を発表。この間、リサイクル率はわずか6%で、プラスチックの環境流出は約1.5倍になり、生態系と人間にとって脅威となる、と警告した。
しかし、生産量削減のほか、リサイクル率を40%台に大幅に引き上げ、廃棄物の回収・分別処理を徹底するといった対策を進めれば、対策しない場合に比べて環境流出の量を40年までに96%も削減できると指摘している。
この報告書は「2040年までにプラスチック汚染をなくすための政策シナリオ」と題し、各国に世界のプラごみの回収・分別処理やリサイクルのシステムの改善を求めた。さらに発展途上国の対策を支援するための国際協力と先進国からの資金提供、技術移転の重要性を強調している。
国連環境計画(UNEP)も2023年5月に、プラスチックの「使い捨てからリサイクル」といった「捨てる経済」から「再利用経済」に政策転換することにより、2040年までにプラごみを最大80%減らせるとの報告書を発表している。その中で過剰包装など不要なプラスチック使用をなくし、再利用、リサイクル、代替素材への転換が必要と強調している。
UNEPの報告書は再利用経済、循環型経済への転換には、代替素材の生産やリサイクル施設整備などで巨額投資が必要になるものの、プラスチックそのものの生産コストの削減により、2040年までに累計1兆3000億ドルの節約になると推計している。