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ジャック・デリダ、蘇ってくるこの不屈の人

ジャック・デリダ、蘇ってくるこの不屈の人

この偉大な哲学者は20年前に死去している。これにあたって本年は、主要作品である『マルクスの亡霊たち』の新版がでる。これは将来的な革命の展望について書かれている。

 

1993年に初回出版された『Spectres de Marx』(*邦題:マルクスの亡霊たち)が本日再版され、これは死後20年になるジャック・デリダの最も有名な作品である。1993年にカリフォルニア大学において『マルクス主義はどこへ?』というテーマで行われた講演で、これは、ネルソン・マンデラと関係があるアフリカ民族会議武装した分派の幹部、Chris Haniに献呈され、彼はこの数日前に、アパルトヘイト制度の存続を支持する極右系のポーランド系移民によって『共産主義者』だとして暗殺されている。この書物は、ベルリンの壁の崩壊とリベラリズムの世界的な席巻の後の西洋文明の状況に関して広い見解を提示しており、これには数百本の論文、数冊の書籍、映画、と演劇作品が捧げられている。革命とは、共産主義後に単極化した世界でもいまだに可能なのか。

5章に分かれたこの著作は、『spectre』(*亡霊)という言葉のもつバリエーション、幽霊、魂、医療現場に出るもの、亡霊、ゾンビといったあらゆる可能なバリエーションの限りない注釈の様相を示している。フロイトの『夢判断』(1899年)や無声映画の手法に影響を受けたデリダは、この言葉がさまざまに生起している幻覚的な場面を具体化することに専念する。彼はマルクスに回帰することも「ドグマ的な機関(*machine à dogmes)」(党派も集団も)を作ることも提唱しないが、しかしアメリカの政治学フランシス・フクヤマを激しく批判している。フクヤマは『歴史の終わり』(1992年)を告げる世界的ベストセラーのなかで、共産主義崩壊後の革命の精神など無駄であると確信していると述べている。その歴史は終わっていない、とデリダは反論し、人々がマルクスは死んだと主張すればするほど、彼のイメージは、ますます社会的なイメージ、主観的な想像の領域の中に逆流している。亡霊のような(spectrale)マルクスの人物像は、彼の名前を消し去り、あらゆる反乱の形態を消滅させることができると主張する人たちの、まじないじみた言説のなかに遍在しているのだ。

現在をより良く理解し未来を作り上げるために、社会はその過去、つまりその亡霊たちと向き合う義務があるのだと論証するために、デリダは西洋文明の3名の偉大な人物を召喚する。シェークスピアカール・マルクスポール・ヴァレリーである。

 

デリダ叙事詩

エルシノアの城砦の上で父親の亡霊と出会った『ハムレット』(1601年)は、崩壊していく世界秩序を立て直さなければならないとの命令に対する無力さをぶちまける。

 

   The time is out of joint:

   O cursed spite,

   That ever I was born to set it right!   (*第一幕五場)

 

「亡霊がヨーロッパに現れる、共産主義の亡霊」という有名な一節を書いたマルクスエンゲルスは、これとは逆に1848年には帝国の旧権力の転覆を訴えている(『共産党宣言』)。ポール・ヴァレリーについては、1919年に大戦が生み出した死体の山を見て恐怖することで、ハムレット流の無力さに再び現在性を持たせている。「今や我々は文明とは死ぬものであることが分かった… ヨーロッパのハムレットは何百万もの幽霊を見ている。しかし彼は知性のあるハムレットである。彼は真理の生と死について熟考する。」(『精神の危機』)

1993年のこのデリダ叙事詩では、ハムレットシェークスピアに魅せられた1人のマルクスの頭蓋骨を手にしており、ヴァレリーは自分たちの共通の敗北を宣言している。しかし亡霊は他にも、ヴィクトル・ユーゴーが『ああ無情』(1862年)で新たな価値を見出した1832年の流血のバリケード(*六月暴動)、もしくは近年の偉大なマルクス主義思想家である哲学者ルイ•アルチュセールの不運な人物像のように、次から次へと現れる。死ぬほど、うんざりするほど亡霊が繰り返し現れる、とデリダは悲しむ。この記憶の戦争から抜け出すには、ヨーロッパは自らに喪の作業を課さなければならない。つまり全ての亡霊すなわち言語と語りの多様性に、語ることを許すこと、継ぎ目がはずれた時と未来の時、spectralité (*亡霊性)に関する思考と予測不能性の思考とをつなぐこと。そして彼は、現在に絶えず憑きまとう過去からの痕跡が顕現することをさしてて「hantologie (*憑在論)」(もしくはlogique de la hantise(*ラップ霊的現象の論理))と名付ける。「それはヨーロッパも実在するということを示すだろう。」この新たな造語は好評を博することになるだろう。この用語は、精神医学において多様な精神的障害を表すために使われるに先立って、一つの文化的運動を引き起こすであろう。

省察の終わりに、この哲学者は彼の対話者たちに「それでも生きることを学ぶこと」を提案する。それは、「時期をはずれた(*intempestive)」インターナショナルの考案に至る。規約も組織もないものの、それは行きすぎたリベラリズムが発生させた10の弊害と闘うであろう。その弊害のなかには、核兵器の危機、民族間の戦争、マフィア、麻薬の流通、債務が生みだす貧困などがある。その後30年がたち、今ではこの方針がかつてないまでに喫緊の問題となっているようだ。

 

『Spectres de Marx. L’état de la dette, le travail du deuil et la nouvelle Internationale』

ジャック・デリダ

Etienne Balibarとの未刊の討論、著者による校正の原文、書簡の抜粋を増補した新版

Seuil出版294頁25ユーロ 電子版17,50ユーロ (11月8日より店頭販売)

(Le Monde des Livres 2024年11月8日)