たまたま手に取った本。とてもエキサイティングな内容でした。
著者は地球科学がご専門の理学博士。「しんかい6500」に51回も乗船され、「海はどうしてできたのか」「山はどうしてできたのか」の著書もあります。
日本は、3万5千~4万の川がひしめく「川大国」
数は多いものの、「流れがあって証拠が残らない」川は研究対象としては厄介なのだそうで、著者も学生時代には興味があった川のことは、研究生活時代は「すっかり忘れてしまって」いたとのこと。
が、前出の2冊を書いて昔の記憶が蘇り、「川の謎解き」の面白さをあらためて広めたい、という意図でこの本を書いたそうです。
著者の言われる、「川の面白さの一つは、地形図を広げて眺めているだけで『どうしてこんなことになっているんだ?』という疑問が次々に湧いてくること」には、とても共感できます。
最近自分は、川と古墳との関係が非常に気になっていますが・・・
本書は第1部「川をめぐる13の謎」、第2部「川を下ってみよう」、第3部「川についての私の仮説」の3部構成。
第1部は特に「ヒマラヤを乗り越える川」の話が面白かったです。
もちろん川が高低差を逆行するはずはありませんが、川の流れには傾斜が急になると河床を削る力が強くなる「下刻(かこく)作用」があるので、平地が隆起して山になる場合でも隆起の速度が下刻の速度を上回らなければ、川はその流路で流れ続けるというもの。アジアの大河インダス川はヒマラヤ隆起後にできたので山脈を迂回していますが、「先行河川(ヒマラヤ隆起前からあった川)」が4本あってヒマラヤ山脈をまたいで北から南に流れているそうです。
第2部は多摩川遡行の話。これは実際に行ってみたいです。
話に出てくる、昭和初期に造られた「羽田赤煉瓦堤防」(かつての多摩川本流沿い、日本の近代土木遺産Aランク)を、#地元発見伝の機能で撮ってみました。
そして第3部がロマンあふれる仮説。
はじめの「天竜川の源流はロシアにあった?」が興味深かったです。
著者は諏訪湖を源流とする天竜川の上流にあたる伊那谷を訪れたときに、上流にもかかわらず谷幅が広いところで1kmになることを見たことがきっかけでこの件を調べ始め、諏訪湖の形成年代(20万年前)よりもそこから流れる天竜川の扇状地の形成年代の方が古いことや、諏訪湖の湖底が天竜川の河床より低いことを知ります。
#地元新見伝で撮った天竜川上流 飯田線・沢駅附近の川上方向(諏訪湖から約15km)
そして善知鳥(うとう)峠という、諏訪湖とは別の天竜川源流、信濃川(千曲川)との分水嶺に注目します。
#地元発見伝で撮った善知鳥(うとう)峠
塩尻市, 長野県三州街道
そこで、峠(中央アルプス)が隆起する前は、天竜川と信濃川は一体の川だった、つまり信濃川は逆流していたのではないかという仮説に至ります。
#地元発見伝で撮った信濃川河口。
さらに、なんと日本海が陸地だった1500万年前にはロシアのウスリー川(今は北流)とつながっていたのではないと。
#地元発見伝で撮ったロシア、沿海地方のウスリー川 M60号線・ゴルニェグルーチェ付近の川下方向
2つの目、3つ目の仮説はもっと壮大になっていきます。思わず地球儀を眺めてみたくなりました。
「大きな気持ち」になれる一冊です。