APS-Cサイズの撮像素子を採用するミラーレスカメラは、画質、機能、価格のバランスが取れたものが多く、エントリーユーザーからハイアマチュアまで根強く愛用者を獲得している。価格.comのPVシェア(ページビューの割合)でも、ユーザー全体の3〜4割がAPS-C機に興味を持っているというデータがある(※2020年3月〜2023年3月のデータ)。
そこで今回は、最新のAPS-Cミラーレスの中からソニー「α6700」、富士フイルム「X-T5」、キヤノン「EOS R7」の3機種をピックアップ。静止画撮影機能を中心に、近年のAPS-C機の実力を探っていく。
左からソニー「α6700」、富士フイルム「X-T5」、キヤノン「EOS R7」。それぞれに高倍率ズームレンズを装着して撮影を行った
まずは、今回ピックアップした3機種の注目ポイントを確認しておこう。いずれもAPS-Cミラーレスの中で上位にランクされるハイスペックモデルだ。
「α6700」は、写体検出の細かさからも高精度なAF動作を期待させる。軽くて携行性にすぐれているのも大きなポイントだ。
液晶モニターやファインダーのスペックは「X-T5」が最も高く、視認性にすぐれた1台と言える。「X-T5」は常用感度の幅がほかの2機種に比べてやや狭いが、これはAPS-C機ながら4000万画素を超える有効画素数によるところが大きい。
「EOS R7」は、連写速度(電子シャッター時)が最高約30コマ/秒と速く、手ブレ補正効果も8.0段分(※対応の「RFレンズ」使用時)あるのが特徴的で目立つ。重量は3機種の中で最も重いが、そもそもフルサイズ機よりもひとまわりコンパクトで、備わっている機能を考慮すると十分に軽量コンパクトと言える。
有効画素数は「EOS R7」が約3250万画素、「X-T5」が約4020万画素なのに注目。いずれも、フルサイズ機に劣らぬ高画素な撮像素子を採用している。
では、それぞれの機種の特徴を具体的に見ていこう。
「α6000シリーズ」の上位モデル「α6700」
「α6700」は、軽量コンパクトなAPS-Cミラーレス「α6000シリーズ」の最上位モデル。ソニーのAPS-C機の中ではハイアマチュアモデルに位置付けられている。
スペック面でのポイントは、フルサイズの上位機種に採用されている最新の画像処理エンジン「BIONZ XR」が備わっていることだ。有効約2600万画素の裏面照射型「Exmor R」CMOSセンサーと相まって、従来機より処理能力が大幅に向上。これがAF性能や動画撮影機能の高いパフォーマンスにつながっている。
操作性に関しては、3機種の中で最もシンプルなボタン・ダイヤル配置を採用している。前機種「α6600」にはなかった前ダイヤルが新たに搭載され、主に前ダイヤル、後ダイヤル、コントロールホイールの3ダイヤルで大まかな操作が完結できる仕様になった。
ひとつ述べておきたいが、操作性がシンプル=“機能がシンプル”ということではない。実際、本機はびっくりするほど多機能だ。
そして、本機を使う魅力のひとつがその携行性だ。「α6000シリーズ」は軽量かつフラットなボディが特徴的だが、本機はその特徴をしっかりと継承している。サイズは約122.0(幅)×69.0(高さ)×75.1(奥行)mmで、重量は約493g(バッテリー、メモリカードを含む)。グリップすると指先が余るくらいにボディは小さい。
この小さなフォルムに多くの最新機能が収まっているのが、本機最大の特徴と言えるだろう。
前ダイヤルを装備。他メーカーでは目新しくないが、「α6000シリーズ」としては新しい試みだ
上面。モードダイヤルに独立して、静止画/動画/S&Q切り替えダイヤルが搭載されているのも注目点。モードダイヤルの項目もスッキリして選びやすい。また、シャッターボタン手前に動画ボタンが配置され、直感的に動画撮影を開始できる。こうした操作性からも、「α6700」は静止画と動画の両軸で使い勝手のよさを追求していることがよくわかる
背面。AF-ONボタンは右上部にあって操作しやすい。見づらいが、右側面にC1(カスタム1)ボタンがある。カスタムボタンは全部で3つ
液晶モニターは3.0型(約103万ドット)のバリアングル式。電子ビューファインダー(EVF)は倍率約0.70倍(約236万ドット)
左側面にシングルスロットのメモリーカードスロットを用意。ほかの2機種がデュアルスロットであることを考えると、少し寂しい印象
「Xシリーズ」の中でも高い人気を誇る「X-T5」
「X-T5」は、どちらかというと静止画撮影に重点を置いているのが特徴のカメラだ。
富士フイルムの「Xシリーズ」には、静止画撮影だけでなく動画撮影の性能にもすぐれたフラグシップモデル「X-H2」「X-H2S」があるが、「X-T5」はそれらと比べると動画性能は少し抑えられている(とはいえ、十分に高機能だが)。その分、静止画撮影を厚くしている印象が強い。有効画素数が4000万画素を超えるという強烈なスペックからも、既存のAPS-C機のイメージを大きく変えていく、並々ならぬ強い意志も感じる(ちなみに、「X-H2」もAPS-C機で有効画素数は約4020万画素)。
この驚異的なスペックは、第5世代の「X-Tran CMOS 5 HR」センサーと新開発の画像処理エンジン「X-Processor 5」によってもたらされており、AF性能や手ブレ補正機能のパフォーマンスのよさにも直結している。ここも本機を扱ううえで大事なポイントだ。
操作性を見てみよう。上面3つのダイヤルは「X-Tシリーズ」ならではの特徴と言える。クラシックな触れ心地で遊び心があっていい。ただ、よりシンプルな操作性を追求するカメラに慣れ親しんでいる人は、最初はダイヤルの多さにとまどうかもしれない。
サイズは約129.5(幅)×91.0(高さ)×63.8(奥行)で、重量は約557g(バッテリー、メモリカードを含む)。先代の「X-T4」よりも軽く、多少コンパクトになった。
上面。左から感度ダイヤル、シャッタースピードダイヤル、露出補正ダイヤル。フォルムは全体的にレトロな雰囲気で、操作性はフィルムカメラを彷彿とさせる
背面。AF-ONボタンとQボタンの間にリアコマンドダイヤルが、また前面グリップ上にはフロントコマンドダイヤルがあり、このふたつのダイヤルでより細かい設定が可能。感度ダイヤル下にはドライブダイヤル、シャッタースピードダイヤル下には静止画/動画切り替えダイヤルがある。これが急いでいるとき誤操作しやすい。感度を変えているつもりが、一緒にドライブモードのダイヤルも回してしまったり。ここは多少の慣れが必要かもしれない
液晶モニターは3軸のチルト式(3.0型の約184万ドット)で、縦位置のローアングルにも対応する。EVFは倍率約0.80倍(約369万ドット)で、今回の3機種で見ると高スペックだ
メモリーカードスロットは右側面に配置。デュアルスロットを採用している
「EOS Rシリーズ」のAPS-C機の中でもハイスペックな「EOS R7」
「EOS Rシリーズ」のAPS-Cミラーレスは、現在「EOS R7」のほかに、「EOS R10」「EOS R50」「EOS R100」がラインアップされている。この4機種の中で最上位に位置するのが「EOS R7」だ。
有効3250万画素という画素数は、「EOSシリーズ」のAPS-C機として史上最高。映像エンジン「DIGIC X」との組み合わせで、高い解像性能を実現している。フルサイズの上位機「EOS R3」のAF技術を継承し、安定感のある被写体検出とトラッキングもひとつの魅力だ。
操作性に関しては、キヤノンならではの丸みのあるボディに、シンプルなボタン・ダイヤル配置を組み合わせている。電源ダイヤルの仕様や、マルチコントローラーが搭載されていることなど、フルサイズの上位機との違いは多少あるが、操作の仕方は大きく変わらない。癖のないフラットな操作性はキヤノンの得意とするところだろう。
いっぽうで、下位モデルの「EOS R50」「EOS R100」とは操作性が明らかに異なる。こうしたところからも本機がハイスペックモデルであることがよくうかがえる。高機能をよりシンプルにわかりやすく引き出す操作性が、しっかり熟考されているのだ。
サイズは約132.0(幅)×90.4(高さ)×91.7(奥行)で、重量は約612g(バッテリー、メモリカードを含む)。3機種の中では最も大ぶりなボディだ。フルサイズ機の「EOS R6 MarkU」とサイズ感が似ていて、APS-C機としてはサイズが大きく、重量もある。しかし、これはそれだけの機能、スペックがしっかり備わっていることの裏返しとも映る。
上面。シャッターボタン手前にメイン電子ダイヤル、背面にサブ電子ダイヤルがある
EVFの右側にあるサブ電子ダイヤルは、AFポイントの移動操作などで使用するマルチコントローラーと一体型。直感的な操作が可能だ
液晶モニターはバリアングル式の3.0型(約162万ドット)。EVFは倍率約0.72倍(約236万ドット)
右側面にメモリーカードスロットを配置。デュアルスロットを採用している
3台を並べてみた。左から「α6700」「X-T5」「EOS R7」。コンパクトなのは「α6700」だが、グリップの握りやすさは「EOS R7」に分がある
「X-T5」はボディの薄さが特徴的。クラシックなデザインもあって所有欲を満たしてくれる1台だ
ここからは機能を比較していこう。まずは、各機種が力を入れているAF性能を確認していく。
「α6700」には「α7R X」と同じAIプロセッシングユニットが搭載されていて、従来機よりも高精度な被写体認識が可能だ。認識したい被写体ごとに細かくAF動作を調整できるなど、AF機能においては頭がひとつ抜けている印象だ。
実際に、被写体が小さい状態だったり、手前に障害物があったりするような場面でも、粘り強く、そして安定的にトラッキングしながら被写体にピントを合わせ続けることができた。しかし、高機能であるがゆえにメニュー内でAFに関わる項目数が多岐に亘り、やや複雑でわかりにくいのが難点。もう少し階層を浅くし、シンプルに操作性を高めてもらえると、より利便性が増すだろう。
被写体認識の選択肢は「人物」「動物/鳥」「動物」「鳥」「昆虫」「車/列車」「飛行機」の7つ。細かく被写体を選択できる
被写体認識で選んだ項目は、それぞれ詳細を設定できる
以下に掲載する3枚の写真は、植物の前ぼけを入れながらポートレートを撮影したもの。カメラ目線は当然のこと、わずかしか瞳が見えていないような状態でも、しっかり瞳を検出して撮影できた。また、後向きの場合も頭部を検出してピントを合わせてくれた。
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、135mm(35mm判換算202mm相当)、F5.6、1/100秒、ISO1600、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:PT
撮影写真(6192×4128、14.9MB)
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、135mm(35mm判換算202mm相当)、F5.6、1/80秒、ISO1600、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:PT
撮影写真(6192×4128、5.9MB)
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、135mm(35mm判換算202mm相当)、F5.6、1/80秒、ISO1600、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:PT
撮影写真(6192×4128、14.9MB)
ローアングルから画面周辺に顔を配置して撮影。瞳を検出してくれるため、構図のみを意識しながら気軽に撮影に臨める
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、18mm(35mm判換算27mm相当)、F5、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:PT
撮影写真(4128×6192、17.9MB)
被写体認識を「鳥」に設定して撮影。手前の樹木に惑わされることもなく、水面を行くカモの頭部にしっかりピントを合わせ続けてくれた
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、135mm(35mm判換算202mm相当)、F5.6、1/1000秒、ISO4000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、20.4MB)
正直、「Xシリーズ」のミラーレスは“動きものに対するAFが弱い”というイメージが個人的には根強かった。しかし、「X-T5」に関しては、高いレベルでAFが働いている印象だ。撮影は非常に快適で、ストレスがなかった。これはポートレートだけでなく、動物や乗り物の撮影でも同様の感想を持った。
本機は高画素化によって位相差画素数が増加し、AF-S合焦性能が向上。「X-H2S」などと同じ新開発のAF予測アルゴリズを搭載し、AF-C使用時の安定したフォーカシングも可能になったという。このあたりの効果をそのまま体感できる結果となった。
被写体検出は、「動物」「鳥」「クルマ」「バイク&自動車」「飛行機」「電車」の6つから選択できる
人物の検出に関しては「顔検出/瞳AF設定」で設定する。なお、被写体検出の設定で個別の被写体を選択している場合は、「顔検出/瞳AF設定」は解除され無効となる(※逆の場合も同様)
顔の振り方によって、一瞬ピントが迷うときもあったが、全体としては大変良好。横向きでもしっかり瞳をとらえ、顔の動きに合わせてトラッキングしてくれた。後ろ姿も頭部にピントを合わせながら撮影できた
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、135mm(35mm判換算202mm相当)、F5.6、1/85秒、ISO1600、ホワイトバランス:日陰、フィルムシミュレーション:ASTIA
撮影写真(7728×5152、18.0MB)
写真では明るく写っているが、実際は背後との間でかなり明暗差があり、カメラが瞳を認識するのは非常に難しい場面。やや上に顔を配置したが、それでも瞳を検出してピントを合わせてくれた
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、18mm(35mm判換算27mm相当)、F4.5、1/42秒、ISO1600、ホワイトバランス:日陰、フィルムシミュレーション:ASTIA
撮影写真(7728×5152、21.1MB)
ここも日陰で暗所だったが、カモにピントをしっかり合わせ続けながら撮影できた
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、135mm(35mm判換算202mm相当)、F5.6、1/110秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia
撮影写真(7728×5152、19.9MB)
キヤノンが「EOS R7」の核心と位置付ける機能がAFシステムだ。トラッキングを前提としたAFシステムを採用することで、画面いっぱいに動き回る被写体も、しっかり高精度に検出し、トラッキングしてくれるという。被写体検出の項目は3種類と少ないが、それぞれが対応する被写体のバリエーションは多い。
ポートレートではしっかり瞳や顔を検出しながらピントを合わせ続けてくれるし、動く被写体全般で強力なトラッキングが見られた。「EOS R3」ゆずりの被写体検出能力がこの小さなAPS-C機に備わっているのだから驚きだ。
被写体検出は「人物」「動物優先」「乗り物優先」の3択だが、「動物優先」は犬/猫/鳥に対応し、「乗り物優先」は車、バイクなどのモータースポーツ(四輪/二輪)に対応する
人物の被写体検出は瞳だけでなく、顔、頭部、胴体など体のパーツを状況に合わせて高精度に検出できる。ほかの2機種同様、横向きの状態でも、わずかな瞳の見え方にもしっかり反応してピントを合わせてくれた
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、150mm(35mm判換算225mm相当)、F6.3、1/100秒、ISO1600、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:ポートレート
撮影写真(6960×4640、8.4MB)
周囲にさまざまな要素が入り込む場面で、かつ被写体が小さくてもしっかり顔を検出できる。このあたりの精度は、もはやどの機種にも最低限備わっているレベルになってきた
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、24mm(35mm判換算36mm相当)、F5.6、1/320秒、ISO800、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート
撮影写真(6960×4640、14.4MB)
「動物優先」は、全身だけでなく、瞳や顔も検出できる。手前に余計なものが入り込む場面も、高精度にピントを合わせ続けてくれた
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、150mm(35mm判換算225mm相当)、F6.3、1/640秒、ISO400、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:風景
撮影写真(6960×4640、10.3MB)
続いて、連写時の各機種のAF性能を見てみよう。
連写性能については「EOS R7」が最もスペックが高く、電子シャッター時で最高約30コマ/秒を実現している。メカ/電子先幕シャッター時は最高約15コマ/秒だ。なお、シャッターボタンを全押しした瞬間の約0.5秒前からプリ撮影できるRAWバーストモードも搭載されている。
「X-T5」は、電子シャッター時で最高約20コマ/秒を実現するが、この場合1.29倍でクロップされる。クロップせずに撮る場合は、電子シャッター時は最高約13コマ/秒でそれほど高速でなくなる。なお、メカシャッター時は最高約15コマ/秒で撮れる。当然ノートリミングだ。
「α6700」はシャッター方式によらず最高約11コマ/秒。このクラスでは、やや見劣りするスペックである。
ここでは、モデルが階段をゆっくり下りてくる様子を、コンティニュアスAF(サーボAF/AF-C)を使ってピントを合わせ続けながら連写撮影を行った。立ち位置は変えず、カメラを動かしていながら撮影。焦点距離は固定している。やや暗い状況でピント合わせが難しいシーンだ。
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、92mm(35mm判換算138mm相当)、F5.6、1/250秒、ISO3200、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:PT
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、88mm(35mm判換算132mm相当)、F5.6、1/400秒、ISO6400、ホワイトバランス:日陰、フィルムシミュレーション:PRO Neg.Std
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、100mm(35mm判換算150mm相当)、F6.3、1/320秒、ISO3200、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:ポートレート
上記のシーンで試した限り、最もピントが迷わず、安定して被写体を追尾できたのは「α6700」だった。この結果は、連写で撮った写真群からもはっきりしている。
このシーンにおいては「X-T5」がややピンボケを多く出した。顔や瞳が動いた際、合焦するまでに少し時間を要する印象だ。「EOS R7」も若干だが、モデルが目をつむったタイミングでピントをずらすことがあった。
しかし、いずれの機種も、日常的な被写体や、予測しやすい動きの被写体ではそん色がない。ピントを気にせず安心して撮影できるレベルだ。
ただ、いっぽうでひとつ気になるのは、高画質に記録したいときの連続撮影可能枚数だ。JPEGのみで撮るのであればまったく差し支えないが、RAWで撮る場合は注意したい。
「α6700」はロスレス圧縮RAWで23枚まで記録できる。「X-T5」は、電子シャッター時のクロップなし撮影時(約13コマ/秒)で、ロスレス圧縮RAWが29枚まで。「EOS R7」は通常のRAW撮影で約46枚までなので、いくぶん持続性にすぐれている。
ここからは、3機種の画質をレビューしていこう。利用するレンズによって画質は変わるので、それを踏まえたうえでご覧いただきたい。
撮影は、いずれもホワイトバランスをオートに、仕上がり設定はスタンダード系に合わせた。それぞれの色調再現の特徴もチェックしてほしい。それぞれJPEGの最高画質に設定した。
まずは、低感度から見ていこう。感度はそれぞれのベース感度に応じ、「α6700」「EOS R7」はISO100、「X-T5」はISO125に設定している。
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、34mm(35mm判換算51mm相当)、F8、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、26.0MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、32mm(35mm判換算48mm相当)、F8、1/75秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA
撮影写真(7728×5152、24.7MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、35mm(35mm判換算52mm相当)、F8、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6960×4640、25.1MB)
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、34mm(35mm判換算51mm相当)、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、18.6MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、34mm(35mm判換算51mm相当)、F8、1/170秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA
撮影写真(7728×5152、19.8MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、35mm(52mm相当)、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6960×4640、12.7MB)
低感度の画質は3機種ともすぐれている。レンズによる違いはあるにせよ、樹木の枝も建物のラインもシャープで解像感がある。ただ、そのなかでは、有効約4020万画素の高画素を誇る「X-T5」がやはり魅力的に映る。
ちなみに、「X-T5」はボディ内手ブレ補正機能を活用したピクセルシフトマルチショットを搭載している。1回の撮影で20枚の画像を取得し、約1億6000万画素の超高解像な画像を生成できる。
感度はそれぞれの常用感度の最高値に応じ、「α6700」「EOS R7」はISO32000で、「X-T5」はISO12800に設定している。シャッタースピードと絞り値を揃えて撮ったため、「X-T5」は1.3段ほど暗く写っている。
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、18mm(35mm判換算27mm相当)、F8、1/50秒、ISO32000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、22.9MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、18mm(35mm判換算27mm相当)、F8、1/50秒、ISO12800、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA
撮影写真(7728×5152、16.7MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、18mm(35mm判換算27mm相当)、F8、1/50秒、ISO32000、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6960×4640、17.5MB)
常用域の最高感度はノイズが乗っているためあまり実用的ではない。あくまでも性能の比較として見てほしいのだが、少し驚いたのは、どの機種も、画像を拡大しても小さな人物のフォルムがわかる程度までは解像していること。常用感度としての役割はしっかり果たしているようにも思う。高感度側に弱点を持つAPS-C機において、ここまでしっかり画が見せられるのであれば十分と言える。
ちなみに、本記事に掲載するポートレート作例は、今にも雨が降り出しそうな曇天模様の中で行った。感度はISO6400程度までを上限に、より実用的な範囲で利用している。高感度撮影の作例として、そちらもぜひ参考にしてほしい。
手ブレ補正機能の補正効果は「EOS R7」が最大約8.0段分(※対応の「RFレンズ」使用時)、「X-T5」が最大約7.0段分、「α6700」が最大約5.0段分。実際に利用してみて非常に高いレベルで効果を発揮したのが、やはり「EOS R7」だった。ブレが生じやすい望遠側で撮っても手ブレが抑制されていて、素直に驚いた。
シャッタースピード1秒でもしっかりクレーンも高層ビルもぶれずに写っている
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、18mm(35mm判換算27mm相当)、F8、1秒、ISO500、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6960×4640、9.3MB)
こちらも手ブレ補正効果がしっかり出ている
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、18mm(35mm判換算27mm相当)、F8、1秒、ISO640、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシッククローム
撮影写真(7728×5152、17.3MB)
手ブレの生じやすい望遠端を使って撮ってみたが、1秒でもぶれずに撮れた。これには正直、我が目を疑った
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、150mm(35mm判換算225mm相当)、F8、1秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6960×4640、9.0MB)
ちなみに、「α6700」は広角域で撮っても0.5秒でわずかにブレが出て、1秒ではブレブレだった。手ブレ補正機能は撮影者によって個人差も出るが、3機種で見ると「EOS R7」「X-T5」が際立って優秀だった。
ホワイトバランスや仕上がり設定についても各機種で個性があるので見てみよう。
オートホワイトバランスに関しては、「α6700」が標準/雰囲気優先/ホワイト優先から、「X-T5」が雰囲気優先/オート/ホワイト優先から、「EOS R7」が雰囲気優先/ホワイト優先から好みのものを選べる。ちなみに、オートや標準は自然な色合いを、雰囲気優先は暖かみのある色合いを、ホワイト優先は白色の再現を優先した設定だ。
仕上がり設定では、「X-T5」のフィルムシミュレーションモードがやはり魅力的だ。富士フイルムが作ってきたフィルムを個々にイメージしながら適用できる。19種類から選択可能だ。
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、66mm(35mm判換算99mm相当)、F5.6、1/400秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
撮影写真(7728×5152、21.8MB)
参考までに、ポートレート系の仕上がり設定の画質を比較してみた。「X-T5」にはポートレートの項目はないが、肌色の自然な階調と発色を得意とする「ASTIA」を設定した。
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、31mm(35mm判換算46mm相当)、F5.6、1/200秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:PT
撮影写真(6192×4128、14.6MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、31mm(35mm判換算46mm相当)、F5.6、1/200秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ASTIA
撮影写真(7728×5152、18.4MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、32mm(35mm判換算48mm相当)、F5.6、1/200秒、ISO200、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート
撮影写真(6960×4640、9.3MB)
ポートレートに関して言うと、「α6700」と「X-T5」には肌の質感を滑らかに再現してくれる機能も搭載されている。今回は強めの設定で効果を確認したが、やや違和感のある仕上がりに見える。これは自分の好みに応じてうまく調整するのがいいだろう。
美肌効果は高、中、低の3段階から選択できる
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、33mm(35mm判換算49mm相当)、F4.5、1/250秒、ISO800、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:PT
撮影写真(6192×4128、17.1MB)
スムーススキン・エフェクトは強、弱から選択できる
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、93mm(35mm判換算139mm相当)、F5.6、1/480秒、ISO6400、ホワイトバランス:日陰、フィルムシミュレーション:ASTIA
撮影写真(7728×5152、22.0MB)
ちなみにモノクロの仕上がりも各機種で個性がある。モノクロは詳細設定の仕方で自分好みのトーンを追求できる楽しさがあるが、ここではプリセットのまま撮影したものをご覧いただきたい。
なお、「X-T5」では、「ACROS」とモノクロの2種類があって、それぞれで個性が異なる。「ACROS」はより滑らかな階調、引き締まった黒、美しい質感再現が特徴的だ。
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、28mm(35mm判換算42mm相当)、F5.6、1/1000秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、クリエイティブルック:BW
撮影写真(4128×6192、16.1MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、18mm(35mm判換算27mm相当)、F8、1/180秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:モノクロ
撮影写真(7728×5152、12.6MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、47mm(35mm判換算70mm相当)、F20、1/8秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS
撮影写真(7728×5152、15.3MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、18mm(35mm判換算27mm相当)、F7.1、1/250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:モノクロ
撮影写真(6960×4640、13.2MB)
3機種の動画撮影機能は、フルサイズミラーレスの上位モデルと比較すると、ややスペックが落ちて見えるかもしれないが、APS-C機としては十分な内容だ。簡単に見ていこう。
6Kオーバーサンプリングによる4K/60p記録が可能で、小型・軽量ながら動画撮影も高機能性を維持した内容だ。約38%画角がクロップされるものの4K/120p記録に対応している。S-Cinetoneによるグレーディングなしでの高画質な撮影が可能。階調性重視のS-Log3(14stop)にも対応している。動画撮影時の強力な手ブレ補正「アクティブモード」も搭載しており、手ブレ対応も万全だ。
動画機能にすぐれた「X-H2」や「X-H2S」と比較されやすいが、それでも非常に高いスペックを誇る。最高で6.2K/30p 4:2:2 10bitでの撮影に対応しており、6.2Kオーバーサンプリングで高品質な4K映像の生成も可能だ。ただし、いずれも1.23倍クロップされるところは注意が必要。F-log 2(14stop)も搭載。1回の動画撮影記録の上限がなく、無制限に撮れるのもポイントだ。
3種類(4K UHD Fine、4K UHD、4K UHDクロップ)の4K動画撮影を選択でき、4K UHD/4K UHDクロップ時は4K/60p記録が可能。4Kタイムラプス動画や4Kフレーム切り出しにも対応している。Canon Log 3(13.3stop)も利用できる。動画電子ISも搭載。最大6時間までの撮影が可能で、ハイフレームレート動画では最大1時間30分まで連続で撮影できる。
バッテリー性能は、撮り方のスタイルやモードによっても変化するため、安易に3機種を比較することは難しいが、500枚前後の撮影可能枚数がひとつの目安になりそうだ。
「X-T5」「EOS R7」にはバッテリーの消耗を抑制する機能があり、これを使用すると撮影枚数を増やせる。「EOS R7」はファインダー使用時と液晶モニター使用時で撮影枚数に大きな違いが生じるのも特徴的だ。
ファインダー使用時:約550枚
液晶モニター使用時:約570枚
ノーマルモード:約580枚
エコノミーモード:約740枚
ファインダーなめらかさ優先
ファインダー使用時:約380枚
液晶モニター使用時:約660枚
ファインダー省電力優先
ファインダー使用時:約500枚
液晶モニター使用時:約770枚
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、18mm(27mm相当)、F3.5、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:太陽光、クリエイティブルック:ST
撮影写真(4128×6192、22.5MB)
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、50mm(75mm相当)、F5、1/80秒、ISO200、ホワイトバランス:太陽光、クリエイティブルック:VV
撮影写真(6192×4128、15.2MB)
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、33mm(49mm相当)、F5、1/80秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、クリエイティブルック:VV2
撮影写真(4128×6192、20.4MB)
α6700、E18-135mm F3.5-5.6 OSS、116mm(174mm相当)、F5.6、1/60秒、ISO1600、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:PT
撮影写真(6192×4128、16.3MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、44mm(66mm相当)、F8、1/42秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia
撮影写真(7728×5152、24.8MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、18mm(27mm相当)、F8、1/160秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
撮影写真(7728×5152、24.1MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、18mm(27mm相当)、F8、1/2秒、ISO640、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシッククローム
撮影写真(7728×5152、19.6MB)
X-T5、XF18-135mm F3.5-5.6R LM OIS WR、135mm(202mm相当)、F5.6、1/120秒、ISO800、ホワイトバランス:日陰、フィルムシミュレーション:ASTIA
撮影写真(7728×5152、19.6MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、24mm(36mm相当)、F6.3、1/1600秒、ISO400、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:風景
撮影写真(6960×4640、23.5MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、89mm(133mm相当)、F6.3、1/80秒、ISO800、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6960×4640、10.1MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、18mm(27mm相当)、F7.1、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:ディテール重視
撮影写真(6960×4640、10.9MB)
EOS R7、RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM、70mm(105mm相当)、F6.3、1/1600秒、ISO6400、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:風景
撮影写真(4640×6960、15.7MB)
今回の試用を終えて3機種に持った率直な印象をまとめておこう。
静止画も動画もどちらも撮りたい人におすすめ。でも、小さいから気軽なテンションで使ってほしい。ガンガン使い倒したい人はフルサイズ機のご検討を。AFは最も信頼できる。
スチール用のカメラ作りに本気で取り組んでいる姿勢に好感が持てる。 APS-C機でもここまで撮れることを示す逸品だ。AFはもう少し性能が上がってほしいが、写欲をかき立ててくれるフォルムで機能も満載。 動画をさらに高品質に撮りたければ、「X-H2」を選びたい。
まったく新しいAPS-C機の頂点を目指した至高のカメラ。面白みがあるかどうかはわからないが、AF、連写、手ブレ補正、画質、動画など、機能的にはどこをとってもスマートでそつのない仕上がり。
3機種それぞれの持ち味があり、得意分野があるわけだが、性能面で製品選びの大きな軸になるのはAF性能ではないだろうか。どれだけ動きものを撮る機会が多いか、このあたりが選ぶ際の材料になるだろう。ぜひ、今回の記事を参考に最良の機種を選んでもらいたい。
最後に、APS-C機を選ぶうえでフルサイズ機が気になる人に向けて筆者の所見を付け加えておきたい。
APS-C機は、フルサイズよりもひとまわり小さな撮像素子を採用しているため、フルサイズ機の下に位置するカメラと思う人もいるかもしれない。確かに、全体的なラインアップとして見るとフルサイズ機のほうが上ではあるが、APS-C機にはフルサイズ機にはない魅力がいくつもある。
まず、APS-C機は撮像素子が小さい分、フルサイズ機よりも軽量コンパクトだ。クロップされることによる望遠域に対しての強さもAPS-C機ならでは。そしてリーズナブルな価格のものも多いのも見逃せない。フルサイズと比べるとボケ量が少ないことを気にするかもしれないが、明るいレンズを使えばAPS-C機でも十分にボケる。
フルサイズ機にもエントリー向けにスペックを抑えたものがあるので、安易に「フルサイズ機のほうが序列が上」とは考えないほうがよいだろう。画質や機能が申し分なければ、カメラ選びは、センサーサイズにとらわれないほうが成功するはずだ。
モデル:Kaho