「消滅可能性自治体」が744に上るという報道があった。1729ある自治体の43%にあたる。その定義は、20~39歳の女性(若年女性)が2050年までに半分以下に減る自治体である。若年女性が半分以下になると、出生率が上昇しても人口維持が困難になることが分かっているらしい。
日本の人口と経済の縮小は止められない
「消滅可能性自治体」が744に上る──。このニュースの元は、民間有識者で構成する人口戦略会議が2024年4月24日に公表した分析レポートである。10年前にも同様の調査・分析があり、消滅可能性自治体は896だった。数字からは改善したように見えるが、人口減少問題はそんなに生やさしいものではない。
人口戦略会議が同年1月にリリースした「人口ビジョン2100──安定的で、成長力のある『8,000万人国家』へ」という提言書がある。副題のとおり、人口が激減していく中で2100年までに8000万人の水準で人口を安定させる目標を掲げている。この目標から推察できるように、冷静に予測された人口推移では2100年には高位の推計で6400万人、中位の推計では4800万人にも満たないのである(図1)。
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人口ビジョン2100は、2000年に廃止された「人口問題審議会」を引き継ぐ組織の喪失を憂いて提言されたものである。忸怩たる思いと希望を失いたくないという思いが強く伝わると同時に、国民の意識共有や子育て環境の改善、労働環境改善などがあったとしても、少子高齢化問題は容易に解決できるものではないとの認識も伝わってくる。
加えて、「このままだと、総人口が年間100万人のペースで減っていく急激な減少期を迎えます。しかも、この減少は止めどもなくつづき……」との指摘もある。急激な人口減少は急激な労働力の減少を伴うので、経済は縮小し、税収も減少し、生活インフラの整備もままならなくなることも明らかだろう。
消滅可能性自治体に対し、俯瞰的な対策が示されていない
世界の人口を俯瞰的に見れば、すでに80億人を超え、今も増え続けている。2080年には100億人を超えてピークに達し、そのまま2100年を迎えると推計されている。人口増加の要素は出生率と死亡率であるが、世界的に平均寿命の伸びが見られていて、人口増加と共に高齢化も進んでいくことになる。
世界的な傾向に反して、日本の人口減少はこれから著しい影響を社会に及ぼしていく。その1つは自治体機能が持続不可能になることだが、しかし、消滅可能性自治体の分析レポートには、自治体のあり方を見直すような提言は見当たらない。10年後に同じ調査をすれば、事態はより深刻になっているだけのような気がする。
これから急激な人口減少が進む日本で、自治体間で移住者の取り合いをしても、何の解決にもならないし意味もない。平成の合併によって自治体数は大幅に減少したが、それでも消滅可能性自治体が43%もあるのが令和の現実である。人口ビジョン2100に向けて、都道府県市町村の構造自体を見直したり、自治体集約をさらに進めて減少する人口に見合う行政システムを模索すべき時期ではないだろうか。
人口減少に伴って生産性が低下する社会では、コストミニマムで効率のよい社会にしなければならない。基本は輸送コストが省ける地産地消だろう。行政サービスはデジタルで集約して人手がかからないようにできるだろうし、これからはAIやロボットが進化して自動化も進むだろう。
何よりも2100年までに、まだ76年ある。76年前と言えば1948(昭和23)年である。この76年でどれだけテクノロジーが進化したことか──。これからの76年は想像もつかない技術も生まれるだろう。人が働かなくともよい世界が来るかもしれない。そこには託せる夢の未来がある。
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