「行方知れずのヒグマ」がいる
この経営者男性の話がつづく。
「クマは街中にもよく出るよ。国道沿いのウチの畑にも納屋の裏にも、今の時期はよく見かける。いつでもいるんだ。だから夕方以降は、手ぶらでは行かないようにしているくらいだ。
でもな、ウチのあたり(街中)に出るクマと、山奥のクマは別物だよ。あそこ(佐藤さんが被害を受けた現場一帯)は本当に危ねんだ。大きな声では言えねえけど、潰れた八幡平のクマ牧場から冬の時期、雪かきをサボって積もった雪を伝って逃げ出したヒグマがいたというのは、このあたりではよく知られた話だよ。従業員が食われてニュースにもなった(2012年)から、覚えている人は多いはずだ。
でも、飼育されていたヒグマのうち、数頭は行方知れずってのはあまり知られてない話だよ。それから10年以上経っているだろ。逃げ出したヒグマが、この地域にもとからいるツキノワグマと交配して子供が増えていても不思議ではないだろう。
実際、赤毛と呼ばれる大型のクマを見たという人は、何人もいるんだよ。『どう見てもツキノワグマじゃねえ』って。大きさが違うって。事情を知っている知り合いの猟友会の人間も言ってたよ」
この経営者男性はタメ息をついて、こう話す。