ミュージカル映画のスターだったジュディ・ガーランド(レネー・ゼルウィガー)は、遅刻や無断欠勤を重ねた結果、映画のオファーがなくなる。借金が増え続け、巡業ショーで生計を立てる毎日を送っていた彼女は、1968年、子供たちと幸せに暮らすためにイギリスのロンドン公演に全てを懸ける思いで挑む。
2020年、映画館での6作目。
平日の夕方からの回で、観客は僕ともうひとり、あわせて2人でした。
正直なところ、ジュディ・ガーランドという人のことをよく知らなかったのですが、レネー・ゼルウィガーがジュディ役で第92回アカデミー賞主演女優賞を獲得した、ということで観てきました。レネー・ゼルウィガーさん好きなんですよ。
ジュディ・ガーランドさんはハリウッド黄金期を代表するミュージカル・スター。1939年、16歳で『オズの魔法使』の主演に抜擢されたことをきっかけに、人気になりました。
この映画は、主にジュディの晩年が描かれます。
大スターでありながらも大きな借金を抱え、子どもたちを連れて地方公演で糊口をしのいできたジュディが、お金を稼ぐために、子どもたちを元夫に預けてロンドンへ長期公演に出かけるのです。
精神的にかなり不安定で、アルコールと薬に依存し、公演前にはなかなかホテルの部屋から出てこず、「体調が悪い」「自信がない」と、ステージを避けようとするジュディ。
ところが、なんとかなだめられてステージに立つと、素晴らしいパフォーマンスを見せるんですよ。
こういうのを「アーティスト魂」と言うべきなのか、それとも、精神的に不安定な人間の「ギリギリのところでのせめぎあい」みたいなものにはすごく魅力があって、観客というのは、安全なところからそれを観賞するのを歓びとする生き物なのか。
こんなギリギリな人をステージに立たせておいても良いのか?
子供たちを任せておくべきなのか?
周りからみたら、「これぞ毒親」って感じなのです。
ジュディ自身も「ステージママ」だった自分の母親にすべてを管理され、体重を増やさないためにピザの一枚すら食べることが許されなかった。
物語の冒頭で、彼女をスターにしたプロデューサーは言うのです。
「ほとんどの人間は、大人になると『普通の人生』に埋没してしまう。君もそうなりたいのか?」と。
しかし、「普通じゃない人生」というのも、ラクなものではありません。
大スターで、歌の才能もあって、舞台では大喝采を浴びても、ジュディは幸せには見えない。挙げ句の果てには、何度もダメ男に引っかかる。ああ、典型的なメンヘラ!
歌の才能や魅力があったから、こんな人生になってしまったのか、そういう才能があったから、こんなになっても、なんとか生きてこられたのか?
「異常な人生」を送っていれば「平凡」や「普通」に憧れるけれど、「平凡」の側からすれば、魂を売ってでも「あちら側」に行ってみたいと思う。
約2時間の上映時間のうち、1時間40分くらいまでは、ジュディのワガママさや危うさを見せられ続け、僕はうんざりしていました。
映画って、なんらかのカタルシスが必要なはずなのに、これは、ダメになりそうなものが、ダメになっていくプロセスを延々と見せられているだけじゃないか。
でも、ラストのジュディのステージを観て、『オーバー・ザ・レインボー』を聴いて、僕のそういう苛立ちは、涙とともに洗い流されてしまいました。
いくらなんでも、勿体ぶりすぎ!と言いたいところだけれど、さんざんブルーザー・ブロディに痛めつけられた末に、延髄斬り一発で形勢逆転するアントニオ猪木のプロレスみたいな映画だ。
アーティストとファン、ステージの上と客席。
ファンとは、アーティストから何かを与えられている人たち、なのだけれど、ときに、その関係が引っ繰り返ることがある。
観客は、基本的にものすごく移り気で残酷なものだけれど、たまに、ものすごく優しくなる。
僕は、美空ひばりさんのことを思い浮かべながら、この映画を観ていました(世代的に、子ども時代のひばりさんのことは、よく知らないのだけれど)。
誰か、何かを「推した」経験がある人には、きっと、この映画の良さが伝わるはずです。
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