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砲兵 単語

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砲兵とは陸軍(地上軍)における戦闘兵科の一つで、大砲を専門的に扱う兵科である。

戦場女神とも呼ばれることがある。ソ連スターリン「砲兵は戦場の神」と言ったとか言わないとか。

異名の通り、その本領は戦場を支配するかの如き大火力の投射であり、陸戦火力の要と言える兵科──ではあるのだが、お互いが見えないくらいの長距離大砲を撃つのがなお仕事である都合上、フィクション(特に映像作品)では脇役…というか舞台装置みたいな扱いになりがちである。

概要

大砲を集中的・専門的に扱う兵科(兵士の分類、歩兵騎兵工兵など)として確立されたのはフランス革命前後のフランスからである。大砲わる諸事(運搬・整備・運用)を一括でまとめて運用する部署が必要になったからであった。ここに砲兵(英語:artillery、日本:特科)が確立することになる。

砲兵は弾道計算などを行う必要があるため、特に専門的な技や知識などがめられたことも一因にあるだろう。

歴史的経緯(大砲の集中運用から砲兵の確立まで)

大砲確立したのは14世紀のことである。それから時を経て17世紀に最初の「軍事における革命的変化」(RMA)をもたらしたオラニエウリッツ・ファン・ナッサウが、スペインで勇名を馳せたテルシオ(歩兵)を打ち破るために研究、三兵戦術を導入することになる。すなわち、歩兵騎兵・砲兵の組み合わせである。これは大砲がより軽量化し「野戦」として戦場で使える形となったのが大きかった。
(この他にもマウリッツは兵士に対する精緻な行動規則、反転行進射撃(カウンターマーチ)の導入・士官学校の設立など、軍事におけるさまざまな貢献がある)

もっともまだこの段階では大砲が有効活用されているとは言いがたい。大砲を運搬するにはまだ面倒事が多かったことがあるためだった。大砲の運搬には徴用した農民や商人などが請け負っていたという話がある。

ウリッツの改革によってもたされた各種の概念スウェーデングスタフアドルフ(アドルフ二世)に受け継がれることになったが、三十年戦争終結後、ほぼ一世紀にわたる停滞を迎える。さらなる躍進は十八世紀後半、オーストリア継承戦争七年戦争と負けがこんだことにより危機感を持ったフランスにおける軍の戦略・戦術・制度など広範にわたる革新まで待つ必要があった。

7年戦争後の18世紀後半、フランス砲兵部隊総監、グリボーバル将軍は既存のに流し込んで製造する大砲の製造方法を一新、ジャンマリッツが考案した大砲腔(身の洞部分)を鋳造後にドリルで孔をける方法へと変更した。

従来まで大砲鋳造にあたり粘土で作っていた腔のためどうしても大砲ごとのバラツキがあったものの、この変更により腔内部の口径が弾のサイズと一致することで発射時のガス漏れがなくなり、より射程が延びることとななる。の長さおよび腔と身の間の厚さもより薄くことが出来たため軽量化をもたらした。

グリボーバル(と彼の周辺)の改革はこれにとどまらず、大砲弾の規格化とこれに付随する各種周辺装備、たとえば身の長さ、数種類の弾、に牽引、あるいは人力で運ぶための(を乗せる台車)の開発および実用化を達成。さらにそれだけではなく、大砲の効率的な運用をはかるための砲兵兵科の設立と教育システム確立、そして戦場における運用方法の検討と実用化にまで各種及ぶことになる。このグリボーバルシステムと呼ばれるこの一連の改革の成果は、規格化された数種類のを用いることで戦場における(専門教育を受けた)砲兵による大砲の柔軟な運用を可にした。

そしてこのグリボーバルの生み出したシステムは彼が作り出した教育を受けた砲兵兵科出身のナポレオンによってより大規模に、かつ効果的に運用されることとなっていく。

(このグリボーバルの改革、特に『規格化』という概念はオノレ・ブランによりさらに洗練され、小銃の製造に導入されることとなる。それまで職人手作りだった製造分野にゲージと冶具というシステムを導入。大量生産を可にすることとなった。もっともフランス内では余り受け入れられず、新大陸アメリカがこれを積極的に導入し、現代に続く規格化とそれに伴う大量生産という工業の重要なターニングポイントとなる)

当時の陸戦において欧州は(それこそマウリッツのRMA以後の流れもあり)横形などなお密集形をとっていたものの、フランスのこのような砲兵兵科確立、あるいは師団制度の導入などの改革の集約、つまり民軍はこれを打破するためにも散兵(ある程度の部隊、あるいは兵士単位に分散して機動する)戦術をとり、突破や攻撃にあたっては大砲を集中運用する砲兵にも依存することになる。

かくしてフランス軍に対抗するため諸外も専門兵科として砲兵が充実していくことになった。

砲兵の革命 直接照準から間接照準へ

十八世紀中ごろから冶金などの技術が高まるにつれ大砲火力も増大していくことなる。ここで問題になってくるのは照準方法となった。もはや大砲が直接標準(で見える範囲)をはるかえる距離まで届くようになってしまったためでもある。
例えば口径長(口径に対する身の長さ)が伸びると、装が燃焼することによって生じるガス圧による推進を長く受けることが出来るため初速が速くなる((運動エネルギーが多くなる)。となるとそこへ仰をつけると弾は放物線を描いてより遠距離まで届くことになってしまったのだ。
論、装エネルギーなどその他モロモロを勘案して計算で着弾位置をめる、あるいは着弾予定位置から逆算して仰などをつけるという計算ではどうだろうかというが、それにも問題がありなど様々な理由で計算上だけではそこの地点に飛んでいくのか判らないという問題がついて回った。

ここで「間接射撃という手法が成立することとなる。
大体の段取りとしては、撃が必要な地点に対して後方にいる大砲部隊列」を揮する「射撃揮所」(FDC)があらかじめ準備した一門により「観測射」を一発、その地点に打ち込む。それを前線で観測している観測班(FO)が定のポイントに着弾しているかを観測する。
観測班は、必要な攻撃か、やり直しが必要かを観測し、変更が必要であれば「修正射」を要する。「射撃揮所」はその示に従い「修正射」を発射。観測班(FO)が効果を及ぼすことを認め「効力射」を要すると、攻撃を開始し、事前に決められた弾数、あるいは観測班(FO)が中止をめるまで続けられることになる…という段取りとなる。
もっとも人力の伝達ではどうしてもタイムラグが生じるし、有線通話では撃などで回線が遮断されてしまうなどの弊があったため、間接射撃が効果を発揮するのは線技術が導入されてから、という形となっていた。
(ここらへんの流れは日露戦争あたりから第一次世界大戦塹壕戦など様々な紆余曲折を経ているので興味のある方はいろいろ調べてみるといいかも)

論、この手の間接照準の方法は状況に応じて変わるので、「転移射」(あらかじめ事前撃を行ってポイントを確定して、起点を確保する方法)や、従来な がらのぶっつけ本番スタイルの「計算法」も使われることがある。さらには現在では簡易的な誘導力をもつGPS誘導弾もある。

現代では航空機や各種センサーの発達に伴い、これらの間接射撃に必要な射撃観測も飛行中の航空機から行えることになってもいる。これにより前線よりさらににある敵の予備兵力や兵站設備・道路なども撃対となった。
一方で撃される側も対レーダー(砲兵レーダーとも)や音響追尾装置を装備して、敵砲兵位置の察知を可としている。これにより砲兵は一箇所に留まることが出来ず、ある程度の自走力・あるいは再配置力をめられることともなっているのが現状の流れである。

陸上自衛隊における砲兵(特科)。

日本帝国陸軍が(色々やむにやまれぬことや頭を抱えるような)様々な理由から大砲の配備が不十分だったことを反面教師に、かつ手本としたアメリカ軍からか砲兵装備についてはわりと充実していた。ただし呼称は特科と言われる。歩兵騎兵以外の兵科が「特科」と呼ばれたこともあるので誤解の元でもある。

ともかく装備の充実具合は中々のもので、何しろあの第二次世界大戦を降らせたソ連とガチンコ対決を挑まざるを得ない陸自であるからその恐怖は並々ならぬものがあったようだった。これは自衛隊全体の問題としても言えることだが、基本的に志願兵(軍隊)中心で予備役もなく、正面兵力=全兵力である以上自衛隊には後がない。そのため、戦場においてもっとも頼りになる砲兵の増強に力を注いでいたようだ。

冷戦時代、「自衛隊がまともに戦えば二、三日で弾薬が尽く」と揶揄された言葉があったが、これは貧弱な陸自兵站力を差しているのではなく、装備の充実っぷりも差しているとも思えなくもい。
一例を挙げると現在備中のFH70(155mm榴弾)だが、開発元の英国・独での配備数が最大でそれぞれ、67、162、192門であったにも係らず陸自のみ492門(H12当時)という開発総数以上の装備数が上げられる。ちなみにこれ以外に自走砲100両前後あるので自衛隊がどれだけ特科に力を入れたかがわかるだろう。
また毎年富士演習場で行われる火力演習においては中で複数種類の大砲から放った弾が爆発して富士山の形にしてみせるという、手間隙かけた変態技法を見せてくれるところだろう。…意味があるのかといわれると首をかしげる類のものではあるのだが。

陸自特科部隊の悩みどころの一つに訓練の問題がある。榴弾の射程距離がかるがると内のほとんどの演習場範囲を越えてしまうため、最大射程距離での射撃訓練が外でないと行えないという問題があった。これも昨今、アメリカのヤキマ演習場などに派遣されていることで若干とはいえ改善の傾向にある。

ちなみに編制として有名どころをあげるなら榴弾MLRSの他に世界でもしい対艦ミサイル連隊もある第1特科団・(北海道千歳)、すべてが99式自走155mm榴弾装備の第7師団所属の第7特科連隊などがあげられるだろう。
ただし冷戦が終わって戦車同様砲兵配備も減少傾向にあるが、なんとか陸自独自の諸兵科連合単位である連隊戦闘団を形成できるだけの砲兵力は維持している模様。

砲兵が使う兵器

  • 榴弾
    弾頭内に爆薬がある弾のことを総称して榴弾と呼ぶ。いまや野戦(大砲)の大半がこれ。大砲が成立したとき、弾は単なるの弾か、あるいは射程が短いが釘を仕込んだものだったので、発射後標の付近で爆発することが出来る榴弾がどれだけ待ちのぞまれ(そして戦場での死傷者がうなぎ上りになっ)たかがわかるだろう。
    榴弾第二次世界大戦ではトラックなどに牽引させた牽引が体だったが、電撃戦などにより戦場が動的なものになると速な展開が難しいため、いっそ体に乗せてしまおうか?という発想に至り、自走砲という車輌も誕生することになる。第二次大戦以降、対/対迫レーダー、すなわち野戦撃を受けた際にその発射位置を素く察知する装備と方法も確立されたため、素地転換する必要とある程度の装甲が必要になったためでもある。ただ今でも牽引は存在する。自走砲を装備するには多額の予算も必要だし、状況に応じては牽引で事足りる場合も確かにあるので。
    亜種というか似たような種類としてカノン(加農砲)もあった。長身の榴弾のことだが今となっては役割と力が曖昧になっていて榴弾に収束してしまった。

  • 過渡期的なシロモノとして山というものもあった。分解して移動できる野戦のことだったが、機動力のある軍隊ならば車輌ヘリで牽引すればいいというものもあるし、後述する迫撃砲にとってかわられていった。ちなみに機動力に事欠く日本帝国陸軍では人力分解移動できる山が重宝されたがやはり威力はそれ相応でしたとさ。
  • 臼砲
    身が短いかわりに口径(弾のサイズ)を大きく出来る。身が短いため射程距離が短いので、出来るかぎり高度で撃ち出す。と、射程距離の短い弾は大落差で落下する。第二次世界大戦中までの対要塞線などに使われた(大落差で落下することで敵要塞施設を破壊できるので)。
    もっとも規模が大きくなれば移動にも事欠く有様になり、第二次世界大戦ドイツ軍ではカール自走臼砲と呼ばれる60cm/54cm口径の化け物車輌まで誕生することになる。
    さすがのドイツ軍も6両しか作れなかったのだが。
    現代では臼砲を必要する状況があまりないためすっかりれてしまった。
  • 迫撃砲
    砲兵の管轄兵装ではないが、区別として。臼砲が短射程・大落差の弾なのだがこれを駆逐した一つの理由に迫撃砲の発達がある。野戦(榴弾)は威力があるが直接火力支援兵器としては大掛かりだし準備に手間取る。臼砲と同じような放物線を描くことや構造が簡単なこと、歩兵による移動が可、照準もわりと楽な(それほど精度も必要とせず)打てるとして非常に重宝がられている。
    ことこの点に関する限り機動力に難のあった日本帝国陸軍が採用した八九式重擲(てき)弾筒は小とはいえ榴弾前線にする歩兵が打ち込めるというメリット米国からも評価された。グレネードランチャーの祖ともいえる。
    現代陸軍では歩兵自身が運用する支援火器としてその役割は多岐にわたっており、かつ重要なものとなっている。
  • ロケット
    ロケット弾は身の腔圧を利用する大砲よりも推進の利用効率が悪く、火の量が等しい場合は大砲より射程が短い。初速が低く、飛翔体が細長く、スピン安定ではなくフィン安定に頼るので横を受けて弾着散布が広がるという弱点もある。その代りランチャーが軽量なので自走化しやすく、前線での装填が不要なので相当省力化できるという長所がある。アメリカでは1980年代に、このロケットの短所を矯め、長所を活かし切る「MLRS」というシステム完成させた。MLRS長、手、操縦手の三人だけで運用され、場合によっては再装填、放列布置、発射までをたった1名で実施できる究極の「省力」砲兵となっている。MLRSが登場する以前は自走式多連装ロケットの分野ではソ連が質量ともに勝っていたが、MLRSNATOが採用したことでこの優位は逆転した。ソ連は慌てて同様のシステムを作ろうとしたが失敗に終わっている。[1]
    ちなみに中国で「第二砲兵」というと核ミサイル用部隊のことをす。

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関連項目

脚注

  1. *日本の防衛力再考」兵頭二十八 銀河出版 1995 p.140
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