新築アパート投資中心に10棟の購入を経験したという不動産投資家の五十嵐未帆さん。数少ない成功する女性不動産投資家の一人として活躍している。今回は、五十嵐さんの強みを武器にした融資・金利交渉や客付けの工夫、女性投資家が失敗しないために意識すべき点を聞いた。
【前回の記事はこちら】>>大家業と育児を両立しながら8棟まで拡大した五十嵐さん<前編>
不動産投資で、経営資料作成のスキルが役立つ
――五十嵐さんの得意分野を活かして、不動産投資が成果につながった事例を教えてください。
銀行に提出する資料を見やすいように工夫しています。ポイントは、1つの表で全ての情報が把握できるようにすること。銀行側がそのシートを開けば、知りたい情報を一目で理解して、判断につなげられるように作っています。
特に銀行側から好評なのが「入居率の管理レントロール」というシートですね。物件ごとに竣工時からの月の入居率、家賃下落率、入居者の属性などの情報を入れている表で、満室かどうか聞かれたときにお見せしています。この表は、満室が続いている家賃下落が少ない優良物件であることを証明できるので、売却時にも有利なんですよ。
不動産担保はあるものの、一主婦の私が多額の融資を受けて事業を伸ばすことができたのは、こうした経営力の判断に必要な資料作りのスキルが優位に働いたのだと思います。
金利交渉でも、資料作成を工夫し複数の銀行に打診した結果、1000万円近く利息を削減できたことがありました。
――それはすごいですね。経営資料作成のスキルはどうやって身に付けたのですか?
新卒入社した企業の経理部で、経営陣に提案する会計資料を作成していました。その会社は、上場を目指していたこともあって数字に厳しく、徹底的に鍛えられましたね。
財務コンサルタント時代は、さまざまな中小企業や自営業者の支援に携わり、融資打診のための財務会計資料などを作っていました。
会社員のキャリアを通じて培った数字を経営に活かす力は、資料作成だけでなく、私自身の賃貸経営でも大きな武器になっています。
入居募集時にホームステージング
家賃が適正であれば効果は高い!
――他に賃貸経営で注力していることはありますか?
入居募集時のホームステージングです。生活をイメージできるような家具や雑貨などを設置して、室内をモデルルームのように演出しています。
内覧者の印象に残りやすいですし、賃貸仲介の担当者にも「お部屋を案内しやすい」と喜んでもらえることが多いです。「内覧時、話が盛り上がって成約につながった」との報告もありました。賃貸でホームステージングを取り入れているケースはまだ少ないので、競合物件との差別化にもつながっています。家賃が適正であれば、効果は高いと実感しますね。
物件の弱点をカバーできるのも利点です。壁の出っ張り部分の横に机を置いてワークスペースとして使えるとアピールしたり。収納家具を置いてもいいと思います。
――新築物件でのホームステージングは、大きな付加価値になりそうですね。
そうですね。新築のポテンシャルのみで勝負する以外にも、工夫次第でできることはたくさんあります。ホームステージングに加えて、内覧者に向けたメッセージや物件のアピールポイントを書いたボードやポップを作って置いたりもしています。例えば、インターネット無料の物件は、コンセントの上に「インターネット無料です。その分の費用を好きなことに使えますね」と書いたポップを貼ったり。
大家視点で物件の魅力を伝えることが重要だと思っていて。限られた内覧時間で、アピールポイント全てを仲介担当者が説明するのは難しいですし、大家の人柄が間接的に伝わる効果もあるので、おすすめですよ。
――五十嵐さんの物件では、アクセントクロスも印象的です。どんな狙いがあるのですか?
どの物件でもアクセントクロスは必ず取り入れています。スマホでの部屋探しでは、アクセントクロスのカラーがパッと目に留まる効果があるんですよね。
最近は、入居期間が長い傾向がある独身男性をメインターゲットにしている関係で、ビンテージウッディーなど色目の濃いクロスを使ったりしています。壁一面だけでも部屋全体の印象が変わるため、差別化として効果的だと感じますね。
――物件購入後、管理会社は、どのように選んでいるのですか?
現在、3社の管理会社に依頼していますが、物件ごとに客付けに適した管理会社を選んでいます。例えば、商店街が発達しているあるエリアでは、現地に行って部屋探しをする人が多いので、地元で賃貸仲介店舗を出している不動産会社に客付けから管理までお任せしています。
広く告知が必要になる物件は、幅広い賃貸仲介会社とつながっている全国展開の管理専業会社にお願いしています。この管理会社は管理料が1戸当たり月1000円で、私の物件で計算すると約1.5%の管理料とコストパフォーマンスが高いのが利点です。別途、退去立ち会い費用などがかかりますが、月の管理費用を抑えられるので収益向上につながっています。
女性不動産投資家が成功するには
数字をもとに冷静な判断を
――五十嵐さんは、女性限定の大家の会(不動産投資家の会)を運営されていますが、どんな人たちが参加されているのでしょうか?
私が2013年から運営するエレガントオーナーズには、現在、約620名の会員がいます。不動産投資に興味のある方から数十棟を所有する地主さんまで、年齢も20代~70代と幅広い層に参加いただいていますね。
会を運営して実感したのは、男性ばかりのセミナーやコミュニティーになじめず、情報交換や相談がしにくいと悩んでいる女性たちがとても多いということ。不動産投資は、圧倒的に男性が多い世界ですから、こうした女性たちの受け皿としても機能していると思います。
――女性が不動産投資で成功するために大事なことは何だと思いますか?
不動産投資では、数字をもとに、冷静で現実的な判断をすることがやはり大事です。女性は男性と比べると、直感で物事を決めることが多く、物件も直感的に購入してしまい失敗につながるケースを目にします。
数字が苦手な女性には、まずは家計簿をしっかり付けて、数字で管理する習慣をつけるようにアドバイスしていますね。たまに、家計が苦しいので、不動産投資で稼いで補填したいという方がいるのですが、まずは家計を立て直すことが先決です。自身の足元を固めて、自己資金をしっかり作ったうえで始めないと、とても危険です。
一方で、女性だからこそ向いている部分もあります。住宅を扱うビジネスなので、家事をしやすい動線、住み心地の良い空間やインテリアを考えるときに女性の視点が活かせるんですよね。
――これから不動産投資を始めたい初心者は、何を心掛けたらいいでしょうか?
男女問わず、不動産投資の初心者の方は、いきなり1棟を購入するより、区分や戸建てなど小さい物件から始めて、大家業のイロハを身に付ける方がいいと思います。そこで手ごたえをつかみ、徐々にステップアップしていくのが失敗を避けるコツではないでしょうか。仮にうまくいかなくなっても、1棟物件と比べて損害は小さく済むはずです。
――最後に、五十嵐さんの今後の展望について聞かせてください。
私自身の賃貸経営では、利回りの高さよりも、生活利便性の高い場所で長く住んでもらえる物件をメインに経営していきたいと考えています。さらに新築企画にも積極的に関わり、住んでいる人が心地よい住宅づくりに貢献したい想いもあります。
また、基本的には不動産投資は築5年時点での売却を考えています。満室を維持しキャッシュフローが出続ける良い物件を次のオーナーにバトンタッチし、また新しい物件を購入するサイクルを続けていきたいですね。
女性大家の会では、コロナを機にオンライン開催に切り替わったことで、首都圏から離れた地方や海外からの参加が可能になりました。どこに住んでいても、新しい知識を得られて、悩みをシェアして改善できる場を提供していきたいと思っています。 (取材・文/猿渡彩乃)