本書は極めて野心的な、ある意味では画期的な社会学教科書である。 従来の社会学の入門教科書のスタンダードな書き方としては、理論を中心とした社会学の学説史を一通り解説したうえで、その切れ味を実地の現代社会の分析において例示してみる、というものであった。しかしながら社会学における支配的な理論枠組み、通説の不在という現状は、このような書き方を困難にする。今日の日本におけるオーソドックスな社会学教科書の書き方は、多数の現状分析の例示の列挙であり、かつ、実証的社会学研究のカバレッジの広さに鑑み、分担執筆というものであるが、複数の著者間での分担という形式それ自体に加えて、書き手の間で共有される通説の不在が、教科書から統一感を奪う。 そのような現状に対して本書の新しさは2つの点において目立つ。まず、本書は単著ではないものの、2名という少数の著者の緊密な共同作業によって、極めて統一感ある仕上がりとなっている