過去の回想というものはどうしても美化されますが、今思えば、非常に素朴な始まりだったと思います。私が”お嬢様”に会ったのは2021年の奈良でした。会うと言っても何度か話したことはあって、校内ですれちがうたびに雑談をするくらいの関係でした。奈良公園を久しぶりに歩きたいけれど、仏像や日本美術に詳しくないから案内してよ、という連絡です。親しい間柄とはいえ、急なお誘いに驚きました。 コロナが一旦おさまったのと、インドの変異型が流行して再度厳格な体制がとられる間の時期でした。観光客は当然ながらほとんどおらず近鉄駅前の行基も寂しそうです。彼女は遅刻常習者であることは知っていたので、早めに行って薬師寺や唐招提寺を観光していました。ちょうど次の年に凶事が起こる駅で乗り換えたのを覚えています。 現れた彼女は特別何かを観光したいでもなく、ならまちエリアの散歩と奈良ホテルあたりを巡るだけでした。私が建築やら仏像や