建築家=馬場 正尊 氏 生まれ故郷の 町の風景 この季節になると思い出す。僕は九州、佐賀の商店街の生まれで、実家はたばこ屋を営んでいた。夏休みになるとその手伝いで、店先に座っては道行く人を眺めたり、近所の人たちとどうでもいい会話を交わしていた。週末の夜は商店街組合が主催で「銀天夜市」という名の小さな祭りが路上で催され、通りはスイカ割りや射的の出店、そぞろ歩く人々で溢れていた。僕は田舎の夏の、このありふれた日常が大好きだった。25年くらい前の風景だ。しかし今、この商店街はない。この20年の間に一店また一店と店を閉め、とうとう開いている店はなくなった。僕の生まれ育った商店街はなくなってしまったのだ。わずか十数年、戦争や自然災害でもない限り、街がこんな短期間に失われてしまうという現象は極めて希有なことなのではないだろうか。何でこんなことが起こっているのか。もちろんそこには複合的な要因があ