新・ベルリオーズ入門講座 第8講 キリストの幼時 (1854) “モーツァルトがいなかったら、何の躊躇もなく言おう。これこそこの世におけるたった一つの宝石であると。” ベルリオーズの諸作品中でも、際立って異彩を放つ作品である。データ欄を読む限りでは、ごく普通の(むしろやや大掛かりな)編成に見えるが、実は、金管と打楽器は、ほとんど沈黙を守っているのである。響きも古雅を極め、「なるほど、ベルリオーズといえども、他の(ほとんどあらゆる)作曲家たちと同様に『晩年形式』に傾斜するものであるのだなぁ」などと感心すると、莫迦を見る。 バロック風に響くのも当然。これは、悪意に満ちた偏見と先入観に基づく酷評に悩まされたベルリオーズが、ひとつ先入観の無い批評を聞いてやろうじゃないかと、自分の名を伏せ、「パリの宮廷礼拝堂の楽長であったピエール・デュクレが1679年に作曲した、古風なオラトリオの断章」として発表し