[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 5 次へ

Apple Store Ginza「Dream Classroom」

トラウマを現実化しろ 宇川直宏かく語りき(前編)

2009年03月25日 19時30分更新

文● 広田稔/トレンド編集部 協力●谷分章優


 15日、東京・銀座にあるアップル直営店「Apple Store Ginza」にて、学生向けイベント「Dream Classroom」の第2回が開催された。前回の坂本龍一氏に次いで、講師として登場したのはクリエーターの宇川直宏氏だ(MySpaceのページ)。

 映像作家、現代美術家、VJ、グラフィックデザイナーなど、多方面で活躍する宇川氏は何に影響を受けて育ち、何から創作のインスピレーションを得ているのか──。1時間以上に及ぶ講演を前後編でお届けしよう。MCは雑誌「ブルータス」の編集者などで知られるクリエーター、野村訓市氏が務めている。

宇川直宏

宇川直宏(うかわ なおひろ) 1968年香川県生まれ。グラフィックデザイナー、映像作家、VJ、現代美術家。MOM/N/DAD PRODUCTIONS主宰。Mixrooffice代表。GODFATHER主宰。山本現代所属。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授。日本自然災害学会正会員。


【目次】 前編●トラウマだった「鼻ぐり塚」に足を運んだやりたいと思ったらやる、そしてやり続ける日常と非日常を分けるな僕にしてみれば、これがオタクの部屋だった人は生まれることだけが選べない



トラウマだった「鼻ぐり塚」に足を運んだ

野村 宇川さんっていうのも、僕が言うのも何なんですけど、ひとつに集中するよりは、何をやっているのか分からないぐらい、色々な──グラフィックから映像からやってると思います。そんな宇川さんにとって、「ものをつくる」ときに何にインスピレーションを受けてるかっていうのを、これからスライドを見ながら話を聞いていこうと。

 頂いたリストを見ると、まず幼少の頃からインスピレーションを受けたもの、順番に行くと1番目が「怪獣」。

宇川 すみませんね、こんな中坊的な答えで。でもね、これ重要だと思うんですよ。幼少の頃に受けた恩恵って、その後形になっていくっていうか。今日はいろいろ見ていただこうと思っていますが、影響を受けたものからダイレクトにDNAを受け継いでるって感覚が、振り返ってみれば如実に判ってくるという。例えば、今見てもらっているのが「ウルトラマンA」(エース)なんですよね。

野村 宇川くんが最初に見たのはエース?

宇川 (最初に見たのは)エースじゃないんですけど、僕はねぇ、「新マン」(帰ってきたウルトラマン)世代かな、どっちかというと。そこから旧ウルトラマンとかセブンに再放送でハマッたという世代なんです。

野村 最初に見たのは幼稚園くらいのときかな?

鼻ぐり塚

鼻ぐり塚

宇川 そうですね。エースは小学校で、もう物心も付いてて、自我が芽生えて形成されつつある時期に見てしまってる感じ。今日取り上げるのは、「牛神超獣カウラ」って怪獣が出るお話なんですよ。

 まず、ウルトラマンの警備隊の隊員が岡山に里帰りするんですよ。そして(帰郷する際に出会った旅人に)連れて行かれたところが「鼻ぐり塚」という、食肉用の牛を供養している塚。「鼻ぐり」ってわかりますか?

野村 鼻につけてる輪っかですね。

宇川 それが積み重ねられて供養しているところなんですよ。その鼻ぐりを(旅人が)1個盗んで、腕にはめたんですよね。そこから急に毛が生えてきて、どんどんどんどん牛の怪獣に変わっていくんですよ。見て貰えばわかるんですけど、元は人間じゃないですか。だからエースも殺せなくて、鼻ぐりを手から外して、怪獣の鼻に付けるんですよね。そしたらおとなしくなっちゃって(笑) 普通の人間に戻って、(その後、旅人は)オリーブ農園で働くという。

野村 それが話のエンディング。

宇川 ここで供養してた、食肉用の牛を冒涜するような行為をしてバチが当たる──。これってね、子供心にはすごいトラウマなわけです。それでね、20歳を過ぎて、岡山県の鼻ぐり塚に行ってきたんですよ。

野村 (笑) 本当にあったの。

宇川 あります、鼻ぐり塚。これ。サイケデリックでしょ。

野村 色がいろいろ。

宇川 そうそう。でも、これは僕たちが食べてきた牛の数なんですよね。全国から送られてきて、ここに置いていって重ねて塚にしている。で、供養しているわけです。

野村 ウルトラマンを見てインスピレーションを受けてたときって、宇川さんは最初は絵を描いたりとかしてたんですか?

宇川 してましたね。怪獣の絵をたくさん描きましたよ。野村さんは描きましたか?

野村 むちゃくちゃ描きましたよ。あとはスーパーカー世代なんで……。

宇川 スーパーカーの絵とか買ったり、免許も無いのにスーパーカー見に行ったりして。

野村 見に行ったりしました。まだ免許ないですけど、僕。

宇川 で、これ何が重要かと言ったらね、かつてテレビから得た情報を体験に変えていってるわけですよ。足を運ぶことによって、リアルな「あの物語」が繰り広げられた現場を体験すると。そして、かつてのトラウマを癒すって感じですね。

野村 トラウマって……(笑)

宇川 トラウマになってますよ。むちゃくちゃ恐いでしょ、だって。毛が生えて牛の怪獣に変わっていくんですよ。祟りで。

野村 鼻ぐり塚へ行ったことによって、トラウマは解消されたんですか?

宇川 いや、さらに深いところに行きましたね。僕は(笑) でもそういうことって重要というか、かつて体験して心のひだに引っかかってるものを再度掘り返してみて、一体そこにはどういう世界が繰り広げられているんだろうと、追体験してみると。

野村 それが、じゃあ、宇川さんのクリエイションのひとつの……。

宇川 結構重要ですね。それは「現実に持ち帰る」ということだと思うんですよ。空想をどう現実化するか、具現化するか。

前へ 1 2 3 4 5 次へ

カテゴリートップへ

ASCII.jp RSS2.0 配信中