軽井沢にある川端康成の別荘、解体へ…所有者側「利息支払いの問題もある」と移築も拒否姿勢
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小説「伊豆の踊子」などで知られ、ノーベル文学賞を受賞した川端康成(1899~1972年)の創作活動の場にもなった長野県軽井沢町の別荘が今月中にも解体されることがわかった。住民有志が保存運動を展開し、町は移築して保存する道を模索していたが、所有者側の了解を得られず、6日の町議会で藤巻進町長が「保存断念」を表明した。
万平ホテル裏手の通称「ハッピーバレー」と呼ばれる閑静な別荘地内にある同別荘は木造2階建て(約140平方メートル)。川端が1940年に英国人宣教師から購入したとされる。軽井沢高原文庫(軽井沢町)の大藤敏行副館長によると、この別荘では軽井沢も登場する小説「みづうみ」や随筆「秋風高原」などを執筆し、上皇ご夫妻が皇太子ご夫妻時代にお忍びで訪ねられたこともあるという。
川端の死去以降、養女が長らく所有していたが、神奈川県の不動産会社に6月、所有権が移転した。「ノーベル文学賞受賞の文豪が生前利用していた別荘地」などとして売りに出され、同社ホームページでは「成約御礼」と記載。9月から解体作業に着手すると近隣住民に伝えられていた。
住民有志は「世界の文学界に大きな影響を与えた作家の別荘は軽井沢の文化遺産として大きな価値がある」と町や議会に働きかけてきた。6日の町議会社会常任委員会での藤巻町長の説明によると、町長が2日、不動産会社の責任者に「川端の別荘は歴史的、文化的に町にとって大変重要なので保存したい」と町の意向を電話で伝えた。解体復元費用を町が予算化することなども説明したが、同社は「金融機関から借り入れをして購入した物件。利息の支払いの問題もある」などと時間がかかる移築を拒否する姿勢を示したという。
現地にはすでに「解体工事中」の看板が立てられ、窓枠を取り外されるなど一部の解体工事が始まっている。藤巻町長は「残念な結果だが、所有者の意向なのでどうにもならない」と話した。町は不動産会社から許可を得て、写真を撮るなどして記録に残す方針。
保存運動を行ってきた軽井沢文化遺産保存会の増淵宗一会長は「町が持てない利息分をこちらでみることで保存できないか、不動産会社と交渉を続けたい」と話した。
町内では2019年にも、町に現存する最古の洋和館別荘とされる「三井三郎助別荘」が、住民の保存運動にもかかわらず解体された。