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坊っちゃんのピュアな瞳もたまらない…大正時代からのロングセラー、仙台発祥無添加石鹸が愛される理由

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東北統括本部 小泉公平

 仙台発祥の「坊っちゃん 石鹸(せっけん) 」が今年、誕生から100年を迎えた。大正時代から変わらないレトロなパッケージで、肌に優しい純粋無添加の石鹸は、「一度使ったら手放せない」と好評で、全国に根強いファンがいる。ロングセラーの秘密を探りに、製造元の畑惣商店の工場を訪ねた。

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ピアノ線を張った木枠に石鹸を押し込み、商品サイズにする作業
ピアノ線を張った木枠に石鹸を押し込み、商品サイズにする作業

完成まで13工程・60日

 工場といえば、複数の機械が導入され、流れ作業で製品を作っていると思いがちだが、ここでは長年の経験と勘をもとに工場長以下、4人の職人が手作業で石鹸を作っている。まずは「仕込み」だ。原料の牛脂とヤシ油(ココナツオイル)、食塩水を専用のタンクに投入して、加熱 攪拌(かくはん) し、一晩置く。

 次は石鹸を作る「 (けん) 化」。一晩置いた石鹼のもとを加熱攪拌しながら、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を投入するが、そのタイミングは職人の勘が頼りだ。わずかなズレで仕上がりに大きな差が出てしまう繊細な作業でもある。

主力商品の「坊っちゃん石鹸」(175グラム、税込み539円)
主力商品の「坊っちゃん石鹸」(175グラム、税込み539円)

 その後、希薄食塩水を入れ、石鹸成分と不純物を分離させる「 塩析(えんせき) 」という作業を行う。この時、上層部に集まった上質な石鹸成分のみを取り出す。それを攪拌した上、型枠に流し込み、手作業でゆっくりと練り上げ、石鹸を固めていく。

 その後は十分に乾燥させ、ピアノ線で作った器具を使って商品サイズになるまで切断し、検査、 梱包(こんぽう) などを経て出荷される。仕込みから商品の梱包まで全13工程。日数にして60日もかかる。小関健・製造部長は「職人は、手触りで石鹸の出来具合をチェックしながら、作業を進めていく。手間はかかるが、良質の石鹸を作るには、この方法がベストだ」と胸を張る。

絹織物製造との深い関係

型枠(右)から取り出し、切り込みを入れた石鹸
型枠(右)から取り出し、切り込みを入れた石鹸

 坊っちゃん石鹸の原型は、絹織物の製造が盛んだった仙台市若林区で、1923年創業の「東北石鹸佐藤工場」によって、繊細な絹織物を洗う高級石鹸として開発された。当時、身体を洗う石鹸は粗悪品が多かったことから、創業者が「肌に優しい石鹸」を作りたいと改良した末に、翌年誕生したのが、坊っちゃん石鹸の前身だ。

石鹸を切るための木枠
石鹸を切るための木枠

 当初は釜で炊いた石鹸素地の一番良い部分だけ使ったことから「釜出し一番」と名付けて販売していた。その後、長男(のちの2代目社長)が生まれた創業者が、親になる喜びと健やかな子供の成長を願って、長男の顔を思わせるレトロなデザインのパッケージを採用した。

商品サイズになった石鹸。形が崩れないようピューラーで面取りし、余った部分は再利用する
商品サイズになった石鹸。形が崩れないようピューラーで面取りし、余った部分は再利用する

 汚れ落ちを良くする界面活性剤、見栄えを良くする着色料、劣化を防ぐ酸化防止剤などを使わない、石鹸素地のみで作った純粋無添加石鹸は「肌が荒れることなく、しっとりする」と、爆発的に売れた。

 しかし、時代の変化とともに、苦境を強いられるようになったという。1970年代から石油から作られる合成洗剤が普及し、バブル経済期にはオシャレで高価な石鹸が誕生、その後、液体石鹸が主流となるなど、昔ながらの石鹸は徐々に隅に追いやられていった。

石鹸を包む梱包機。石鹸作りは手作業だが、これだけは機械に頼る
石鹸を包む梱包機。石鹸作りは手作業だが、これだけは機械に頼る

 踏ん張ってきた地道な石鹸作りも、2008年に限界に達した。工場が老朽化し、後継者もいないため、2代目社長は廃業を決意した。このニュースが流れると、買い占め騒動が起きたという。そんな中、救世主が現れた。当時、畑惣商店の社長だった畑文雄さん(現会長)である。東北石鹸佐藤工場の石鹸の愛用者だった畑さんは、「地域が誇れるモノ作りの火を消してはいけない」と、2代目社長から09年、商標と製造技術を譲り受け、事業を継承、商品名も「坊っちゃん石鹸」に変更した。

次の100年に向けて

 宮城県だけではなく、坊っちゃん石鹸のファンが全国にいるのは、口コミによるところが大きい。諸説あるが、例えば産科医が子供を産んだ母親に勧めたり、皮膚科医が患者に紹介したりしたことで、坊っちゃん石鹸の良さが広まったという。

お笑い芸人「サンドイッチマン」とコラボした石鹸
お笑い芸人「サンドイッチマン」とコラボした石鹸

 鈴木一生・経営企画室長によると、「万能石鹸」という意味も大きいという。発売当初から、坊っちゃん石鹸は頭、顔、手、身体を洗うのに適しているだけではなく、食器や衣類にも使えるし、実際、今でも幅広い用途で使っている人も多い。諸伏昭和・工場長も「我が家ではシャツの襟の汚れや服のシミ落としに使っているが、うそかと思うほど良く落ちる」と話す。

 それなら坊っちゃん石鹸は売れまくっているのだろうか。尋ねると、2人は少し悲しい顔になった。ジリジリと売り上げが減っているというのだ。鈴木室長は「愛用してくださっている方の高齢化が進み、そうなった。次の100年に向けて、どうやって若者や坊っちゃん石鹸を知らない人たちにアプローチしていくのかが課題だ」と説明する。パッケージのリニューアル、SNSを活用したPR方法など様々な角度から今、社内で議論を重ねている。

諸伏工場長(左)と小関製造部長。石鹸作りに適した環境にするため、工場には空調がない。夏場は汗だくになりながら石鹸作りに励んでいる。
諸伏工場長(左)と小関製造部長。石鹸作りに適した環境にするため、工場には空調がない。夏場は汗だくになりながら石鹸作りに励んでいる。

 昔ながらの製法で60日もかけて作る坊っちゃん石鹸は薄利多売の商品であり、一定数売れないと経営を圧迫しかねない。諸伏工場長も「この石鹸じゃないと困るという人たちに、石鹸を届けるという使命を持って事業を継承した。しかし、消費者の裾野を広げないと事業を継続できなくなる。製品には絶対の自信がある。生産体制や製造方法を変えずに、どうやったら新しい顧客を獲得できるのか。解決策を見つけたい」と語った。

プロフィル
小泉 公平(こいずみ・こうへい)
 1967年、神奈川県生まれ。2023年6月から仙台市の東北統括本部に所属。敏感肌の私は2年前から坊っちゃん石鹸を愛用している。坊っちゃん石鹸本舗(仙台市太白区長町3の9の1)では、お試しコーナーがあり、購入もできる。遠方の方は畑惣商店のオンラインストアで購入できる。

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5824158 0 We Love みちのく 2024/09/26 12:00:00 2024/09/26 12:00:00 /media/2024/09/20240920-OYT8I50059-T.jpg?type=thumbnail

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