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「はるかな尾瀬」はやっぱり最高…ミズバショウと熊には意外な関係が

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福島支局長 石塚人生

 東北の南西端に位置する尾瀬国立公園。福島県側からのアプローチルートとなる 檜枝岐(ひのえまた) 村から今季のシャトルバス運行が始まった初日の5月18日、尾瀬を初めて散策した。天気にも恵まれ、「はるかな尾瀬」を満喫した。

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東北以北最高峰の燧ヶ岳と尾瀬沼が一望できる絶景ポイント
東北以北最高峰の燧ヶ岳と尾瀬沼が一望できる絶景ポイント

日本を代表する自然の宝庫

 尾瀬は福島、群馬、栃木、新潟県にまたがる。山々や点在する沼、滝の絶景、高山植物やミズバショウなどで知られ、日本を代表する自然の宝庫だ。数多くの山小屋やキャンプ場もあり、日本アルプスほどの起伏はないので登山やハイキングの初心者でも親しみやすい。

 檜枝岐からの散策の出発点となる 御池(みいけ) の駐車場に自動車を止め、福島支局の高田彬記者(28)と一緒にシャトルバスに乗った。20分ほどで終点の「沼山峠」のバス停に到着。ここから木道を登っていく。目指すは3・3キロ先の尾瀬沼だ。

沼山峠のバス停からすぐの登山口
沼山峠のバス停からすぐの登山口

 文字通り雲一つない快晴。登り始めの場所で標高が1700メートル以上あり、少し登るとすぐに息が上がる。2キロほど歩くと、写真で見たことがある大江湿原が目に飛び込んできた。ミズバショウも咲き始めている。聞こえるのは熊よけの鈴の音のほかは、カッコウやウグイスの鳴き声だけだ。山の 稜線(りょうせん) と湿原、木道が一枚の絵になったような風景に心が洗われる。

湿原、山の稜線、青空、木道のコントラストが美しい
湿原、山の稜線、青空、木道のコントラストが美しい

 歩き始めてから1時間ほどで尾瀬沼の東にある「尾瀬沼ビジターセンター」に到着。環境省が設置している尾瀬の保護活動や情報発信の拠点だ。ここから反時計回りに尾瀬沼を一周することにする。

一周7キロの尾瀬沼、道中には高地の花々

 尾瀬沼は一周すると、およそ7キロで約3時間かかる。かなりアップダウンがあり、木道には所々雪が残っている。この日のために購入したトレイルランニング用の靴の効果もあったのか、慎重に歩けば転ぶことはない。行き交う人は比較的高齢の方もいれば、若いカップルもいた。

心休まる水辺の景色
心休まる水辺の景色

 高田記者は昨年10月、取材で尾瀬を訪れ、尾瀬沼の北にある東北以北の最高峰で日本百名山の 燧ヶ岳(ひうちがたけ) (2356メートル)に登っている。その時は雨で煙って20メートル先も見えなかったそうで、「いやー最高ですね」とうれしそうに何度も繰り返していた。

 道中には桜も咲いていた。高地に咲く「ミネザクラ」だと後で知った。黄色い花の「リュウキンカ」、紫の「タテヤマリンドウ」も見つけることができた。

(左から)ミネザクラ、リュウキンカ、タテヤマリンドウ
(左から)ミネザクラ、リュウキンカ、タテヤマリンドウ

ビジターセンターのミニツアー

 昼頃にビジターセンターに帰り着くと、職員が周囲を30分ほど、無料で案内してくれるミニツアーが行われると知って参加した。

 副責任者の馬場大祐さん(50)から、「湿原は4メートルぐらいの深さがある。標高が高いので草木が枯れても腐らず、1年に約1ミリずつ植物が積もっていって湿原が形成されたと考えられています」と聞いて驚く。ただ尾瀬も温暖化で雪が少なくなっている上、気温が高くなると湿原が荒廃していく可能性がある。数千年か、もっと長い年月をかけて目の前の景色が出来ていると知ると、この自然がいかに貴重か実感できた。木道以外に立ち入らないよう呼びかけられているのも納得だ。

尾瀬といえばミズバショウ
尾瀬といえばミズバショウ

水のない場所にもミズバショウがある理由

 尾瀬といえば春から夏にかけて咲くミズバショウが有名だが、水のない場所にも点在していることを不思議に思っていた。馬場さんによると、雑食の熊がミズバショウを食べ、消化しきれないフンがあちこちにばらまかれて種が発芽するためだという。熊を見かけることはなかったが、「このあたりには熊も鹿もいっぱいいます」とのことだった。

 なお、バショウはバナナの仲間の植物で、その葉に似ていて水辺に咲くことからミズバショウと名付けられたという。白い部分は花ではなく葉の一部で、中心にある円柱状の黄緑色の部分が花だ。江戸時代に活躍した俳人の松尾芭蕉は、住んだ家の周囲にバショウの株を植えてから芭蕉と名乗ったという。

今回の尾瀬散策のルート(ガーミンのスマートウォッチのデータ)
今回の尾瀬散策のルート(ガーミンのスマートウォッチのデータ)

 帰りは少し足が痛くなったが、約18キロ、6時間ほど歩いて沼山峠のバス停に戻ってきた。普段の生活では味わえない爽快な疲れだった。

 御池―沼山峠のシャトルバスは10月末まで運行される。9月末までは午前6時半から午後5時まで30~40分間隔の運行だ。

民宿の山人料理の魅力、イワナのイクラも

 尾瀬散策には主に福島県側からと群馬県側からのルートがある。福島県側からだと檜枝岐村の御池バス停から行けば日帰りもできるが、私は村内の民宿「 松源(しょうげん) 」に前泊した。檜枝岐名物の 山人(やもうど) 料理を味わいたかったからだ。

 檜枝岐は村役場のある中心部でも標高が939メートルもあり、高地のためコメを作っていない。昔からソバや山菜、イワナなどを食べていたが、今ではかえって貴重になり、観光客向けにアレンジして提供するようになった。昨年秋、福島市で山人料理を食べる報道関係者の会合に参加し、そのおいしさに感動した。ぜひ現地で味わうべきだと思い、尾瀬散策のチャンスを狙っていた。

檜枝岐の魅力が詰まった山人料理。左手前から二つ目がイワナのイクラとヤマイモの小鉢
檜枝岐の魅力が詰まった山人料理。左手前から二つ目がイワナのイクラとヤマイモの小鉢

 松源の夕食で出てきたのは、イワナの刺し身や塩焼き、山菜やキノコの天ぷら、鹿肉の陶板焼き、山ウドなど山菜のおひたし、打ち立てのソバなど約20品。中でも驚いたのがイワナのイクラだ。レモン色に透き通っていて臭みはまったくない。経営者の星賢二さん(59)が「イワナのイクラは流通量が少ないし足が早いので、村外には出回っていない」と説明してくれた。宿泊費は1泊2食付きで1万1650円(税込み)だった。

 村の人口は福島県最少の約500人。就業者の9割以上が観光などの第3次産業に従事しているという特殊な自治体だ。ただ、30年ほど前には60軒ほどあったという旅館や民宿は、高齢化や人口減などで現在はほぼ半減している。星さんによると、跡取りがいる同業者は数えるほどだそうで、星さんの2人の子も高校入学で地元を離れた後は首都圏に住んでいるという。どの田舎も消滅可能性の危機に直面しているが、絶対になくなってほしくない。

 現地に行かなければ食べられない貴重な料理を味わい、福島に住む幸せを感じた。尾瀬散策や観光の際は、ぜひ宿泊して山人料理を堪能していただきたい。

※写真は石塚、高田が撮影

プロフィル
石塚人生(いしづか・ひとせ)
 秋田市生まれ。1992年入社で初任地が福島支局。東日本大震災を東北総局(仙台市)で経験するなど、人生の3分の2を東北で暮らすみちのく人。自転車競技が趣味で、4月下旬、約10年ぶりに福島県葛尾村で行われた自転車ロードレース(28キロ)に出場したが、年代別で出走19人中12位と惨敗した。

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5407699 0 We Love みちのく 2024/05/30 12:00:00 2024/05/30 12:00:00 /media/2024/05/20240527-OYT8I50024-T.jpg?type=thumbnail

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