自民党総裁選で9人の候補が出揃い、論戦が始まった。彼らの話を聞いて、まっさきに感じたのは、候補者が経済音痴ばかりだということだ。

 典型は、河野太郎氏だ。河野氏は「これから金利が上昇していくと、国債の利払いが増えるので、財政が厳しくなる」という発言をした。だが、それは大きな間違いだ。確かに利上げが行われると、国債の利払いは増える。しかし、政府と日銀を合わせた「統合政府」の枠組みでみると、日本政府は借金を上回る資産を持っているから、利上げで金融収入が拡大し、財政圧迫にはつながらない。

 財政緊縮政策は他候補も同じだ。例えば小泉進次郎候補は、「年収の壁をなくす」と主張しているが、それはいま社会保険料を負担していない低所得者や専業主婦からも社会保険料を巻き上げるという負担増政策だ。小泉氏は、子育て支援拡充の負担を社会保険料に上乗せする岸田政権の方針を踏襲するとも言っている。ネットの世界では、早くも「増税メガネから増税王子へ」と評されているのだ。

 9人の候補のなかで唯一積極財政派と言われる高市早苗氏も、基礎的財政収支黒字化に固執するのは間違いだと言っているだけで、具体的な減税や社会保険料の負担減政策に踏み込んではいない。

 しかし、いまこそ国民負担を下げる政策が必要だ。総務省が発表した7月の生鮮食品及びエネルギーを除く消費者物価指数は、前年比1・9%の上昇と、すでに日銀の目標の2%を割り込んでいる。つまり、国民の生活実感とは異なり、すでに日本経済は、デフレに舞い戻ろうとしているのだ。

 ただ、自民党総裁選と並行して、代表選を行う立憲民主党は、もっとひどい。前回の総選挙で掲げた消費税5%への引き下げを代表選候補者全員が撤回しているからだ。

 欧米の景気が失速し、中国もバブル崩壊から立ち直れない。そのため世界は、景気対策のために財政・金融を緩和する方向に舵を切り替えている。そのなかで、財政と金融の同時引き締めに出ようというのが、自民党や立憲民主党の政策なのだ。

 深刻な景気後退のなか、財政・金融の同時引き締めに打って出ると、何が起きるのかは、歴史が証明している。1929年に世界経済が失速するなかで、濱口雄幸首相が財政と金融の同時引き締めを断行した。その結果、日本は昭和恐慌に陥り、農家の娘は売りに出され、4人に1人が失業者となった。当時の流行語は、「大学は出たけれど」だった。残念ながら、このままだと、その歴史は繰り返されるだろう。