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省エネが、全ての人に嬉しい世界を実現したい。『SUUMOリサーチセンター』が、温熱・音環境計測に取り組む理由

『SUUMOリサーチセンター』 センター長の池本 洋一(右)と研究員の河野 徳郎(左)

温暖化や気候変動などの社会影響が深刻さを増している昨今。リクルートの住まい領域における調査研究機関『SUUMOリサーチセンター』では、住宅の温熱・音環境評価のためのIoTセンサーを用いた計測手法を開発。『SUUMO』の一部の企業クライアント様にもご協力いただく形で計測・販促活用の実証実験を行っています。

社会全体で取り組んでいかねばならない環境問題に対して、このようなアプローチを取っているのはなぜなのでしょうか。『SUUMOリサーチセンター』 センター長の池本 洋一と研究員の河野 徳郎に、活動の背景やこれまでの成果などを聞きました。

『SUUMO』が事業を通じて脱炭素社会の実現に寄与する、ひとつのあり方

― 『SUUMOリサーチセンター』が、住宅の温熱環境や音環境の計測・評価に取り組んでいるのは、どういった背景があるのでしょうか。

池本: そもそも、日本の住宅性能の歴史は、長い間「耐震」「耐火」を最優先にしてきました。つまりは、「災害に強い家」。災害大国として万が一に備えるよう、国を挙げて取り組んできたのです。もちろん、それらは今後も住宅の性能を評価する上での重要な指標であり続けるでしょう。ただ、近年第3の指標として重要になっているのが、「省エネ性能」です。

脱炭素社会の実現に向けて関連省庁が本腰を入れて取り組みを始めており、2024年4月には、新築建築物の広告などにおいて省エネ性能の表示ラベルの掲載が努力義務化。2025年4月以降は、新築住宅において国が定める省エネ基準に適合することが義務化されます。このような流れは今後一層加速していくことが予想される中、リクルートらしい社会貢献のあり方として始まったのが、温熱環境や音環境を測定・評価する技術の研究でした。

『SUUMOリサーチセンター』 センター長の池本 洋一

― 省エネ対策は、ほかにもさまざまなアプローチが考えられます。あえてリクルートが「性能評価測定」に取り組むのはなぜでしょうか。

河野: ひとつは、室内の温熱環境や音環境が入居者の満足度を大きく左右する観点だからです。『SUUMOリサーチセンター』では住まいに関するさまざまな生活者調査を行っており、この傾向を以前から把握していました。特徴的なのは、入居前後で優先度が大きく変わること。住まい探しの時点では「立地」や「間取り」を重視する傾向が強く、温熱環境や音環境にこだわる人はそこまで多くありません。それが、入居後にアンケートを取ると「部屋が暑い・寒い」「近隣の生活音がうるさい」といった内容が上位に。住まい探し時には見落としがちな観点だからこそ、『SUUMO』が住宅性能の測定・評価方法を研究することは、省エネに貢献するだけでなく生活者一人ひとりの“後悔しない住まい探し”を実現していく上でも重要なことだと捉えています。

池本: 加えて、この取り組みはリクルートのサステナビリティ方針である「事業を通じた社会貢献」を『SUUMO』で実践していくひとつの方法でもあります。住まい探しのプラットフォーマーとして、温熱環境や音環境が簡単に分かりやすく示せる世界をつくること。それによって人々の住宅性能への関心を高めることで、マーケット全体で省エネ水準が向上していくような貢献が、『SUUMO』ならできるはずだと考えています。

新築よりも計測難易度が高い既存住宅。適正コストで評価するためのIoTセンシング

― 研究や実証実験は、どのように進んでいるのでしょうか。

河野: プロジェクトは外部のシステム開発会社や大学との協働研究という形で進んでおり、温熱環境や音環境を測るためのIoTセンサーの研究・開発からスタート。現在はこの技術を用いて『SUUMO』の企業クライアントの一部にご協力いただきながら実証実験を行っています。具体的には、既存物件において住宅性能を測定し、その結果を広告メディアや営業ツールで活用するという取り組み。また、温熱・省エネ改修工事を実施した場合の性能のBefore/Afterを計測する取り組みも行っており、国土交通省の「次世代住宅プロジェクト2023」にも採択されています。

『SUUMOリサーチセンター』 研究員の河野 徳郎

― 新築物件ではなく、「既存の住宅」を計測するのは何か理由があるのでしょうか。

河野: 法制度の整備が先行している新築住宅に比べて、既存住宅の省エネ性能表示が進んでいないことに私たちは着目しました。なぜ遅れているかと言えば、既存物件で住宅性能を評価する難易度・コストが高いことも要因。新築物件の場合は、設計資料をもとに専門家が計算をすることで温熱環境や音環境を算出していますが、既存住宅の場合は建物が経年劣化していますし、リフォームを実施している場合もあるため、新築時からの変化を加味して評価する必要があります。そのため、既存物件の場合は実際の室内で温度や音を計測することが適切で、それを現実的なコストで実現するためにIoTセンシングという手法を採用しました。

― 検証の中で見えてきたことはありますか。

河野: 2023年度末までに126の物件で計測を実施しました(うち5件が国土交通省に採択されたプロジェクトの対象)。100件を超える事例によって、計測技術の検証はできた一方、社会に実装していく上でのハードルも見えています。

具体的には、賃貸事業者と売買事業者で省エネ性能の計測・表示に対する意欲に差が見られたこと。賃貸物件の場合は1成約あたりにかけられる販促コストがどうしても少なく、借り手側の省エネ性能に対する優先度も高くない現状では、わざわざ手間と費用をかけてまでやってみたいという意向は少なかったのです。一方の売買物件は成約単価が高いため、物件の付加価値を訴求していく意味でも省エネ性能を計測して販促に活用したいニーズが強い。不動産事業者それぞれのビジネスモデルを踏まえながら、事業としてメリットがある状態にしていくことも大切だと分かってきました。

『SUUMOリサーチセンター』 センター長の池本 洋一(左)と研究員の河野 徳郎(右)

池本: 売買事業を展開する企業で、導入に前向きなケースが多いのは、国の補助金や税控除などの影響もかなり大きいです。実は今、売買市場で温熱環境を高めるための改修・リノベーションがトレンド。省エネ性能が高い住宅ほど、住宅ローン減税などの恩恵が大きくなるように国の制度は設計されています。こうした仕組みだからこそ、事業者としてもリフォームの提案(成約単価アップ)がしやすく、買い手側としても制度を使わない手はありません。

つまり、企業クライアントと生活者それぞれにとってメリットのある状態をいかにつくりだすか。これを実現するにはリクルート単体で動いても限界があり、行政をはじめマーケットのステークホルダーと連携しながら一丸となって取り組む必要があるでしょう。

「見えない性能」の向上が価値として認められ、価格に反映される世界を目指したい

― 省エネ性能の計測・表示をさらに広げていく上で、今取り組んでいることや今後予定していることを教えてください。

河野: 昨年度までの検証で、一定のニーズがあることが見えてきたため、今は企業クライアントのさらなる拡大を目指しています。まずは国の取り組みが進んでいる売買市場で実績を積み上げていきますが、生活者調査によれば賃貸市場でも温熱環境への意識が年々上がっているという結果が出ているので、マーケットの動向を注視しながら状況に合わせた進め方を検討していきたいです。

また、並行して計測結果を分かりやすく伝えるための基準・表現づくりも進めていますね。既に国が定めた省エネ基準による省エネ性能の表現があるのですが、より一般消費者に分かりやすくするために、例えば「夏の夜にエアコンをオフにして8時間後に室温が1度上昇する程度」といった、快適さをイメージしやすい表現を専門家と検討しています。

『SUUMOリサーチセンター』 センター長の池本 洋一(左)と研究員の河野 徳郎(右)

― 最後に、このプロジェクトを通してどんな未来を実現したいのかを教えてください。

河野: 私が実現したいのは、住まいを選ぶときに、暖かさ・涼しさ・静かさといった「住み心地」で判断できる社会。もちろん、皆が皆、温熱環境や音環境を最優先に選ぶわけではないですし、住まい選びの基準は十人十色であるべきだと思います。でも、少なくとも住み心地を重視して家を買いたい・借りたい人が後悔のない家探しができるように、彼らにとっての判断材料が十分にある状態を目指したいです。

池本: 「間取り」や「駅までの距離」が物件の「見える性能」だとしたら、「住み心地」は、物件の「見えにくい性能」とも言えますよね。私が目指したいのは、こうした「見えにくい性能」を『SUUMO』で可視化すること。それによって、性能の高さ(住み心地の良さ)が物件の価格や賃料に適正に反映される世界を実現したいです。性能の良い物件ほど高く販売・賃貸でき、生活者からも支持されるようなマーケットにならないと、事業者の皆さんも省エネには本気になれません。省エネ性能で住まいを選び・選ばれることが皆にとって価値のある世界にしていくこと。それこそが、日本最大級の住まい探しプラットフォーマーである『SUUMO』が担うべき社会的役割だと思っています。

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