「ニコ動」の祭典が開幕 企業・政党・自衛隊が存在感
協賛・出展は昨年比2倍、安倍首相も大サービス
今年の超会議は初日から昨年を上回る盛り上がりを見せた。午前10時の開場を前に1万2000人が集結。ニコ動で人気のある楽曲を数百人が一体となって楽しむ「歌ってみた」「躍ってみた」に加え、ゲーム、技術、料理、討論など、あらゆるジャンルのブースが幕張メッセを埋め尽し、ユーザーが群がった。
恒例のイベント企画も盛り上がりを支えた。会場内に作られた「超神社」では、昨年の超会議が初デートというユーザー同士の結婚式が行われた。新郎新婦はニコ動内の「ニコニコ生放送」で番組を持つ「生主(なまぬし)」。放送がきっかけで知り合い、結ばれた。
集まった数百人に加え、ニコ生を通じた生中継でも数万人のユーザーが祝福。新婦は「こんな場でこんなに多くの人に祝ってもらえるなんて思ってもいなかった」と歓喜の涙。「ニコニコ動画とは」と質問すると、新郎は「楽しくて、ニコニコできて、幸せにもなれるモノ」と話した。
生中継は結婚式だけではない。ライブやパネルディスカッションなどあらゆる企画が幕張メッセの各所から放送され、リアルとネットが渾然一体となったイベントに参加者は熱狂した。ユーザーによるユーザーのためのニコニコ動画。それをリアルに再現するのが超会議であり、今年は企業や組織の後押しを受け、大きく進化した。
自民党ブースに安倍首相が登場
「もう、気合いが入りまくりでしょ。昨年は、ニコニコ超神社にお金をかけすぎたって反省会が開かれたんですよ。でも、今年はもっと立派になっちゃって。ぜんぜん反省してない。それは、任天堂さん始め、多くの企業さんにスポンサーしてもらって、もうみんな、気が大きくなりすぎちゃった結果で……。気がついたら、どんどん経費が膨らんで、どうしようみたいな」
ニコ動の運営会社のドワンゴの創業者で、ニコ動の生みの親でもある川上量生会長は、会場を見渡しながらこう語った。
昨年の超会議は4億7000万円の赤字を出したことから、今年は企業スポンサーの誘致に力を入れた。結果、任天堂が「特別協賛」として名乗りを上げたほか、大塚食品、吉本興業、ヤフーなど計13の企業が協賛した。このほかブース出展や協力、後援など、超会議に「参加」した企業・組織の数は、昨年比で2倍以上となる78。政党や自衛隊、在日米軍もブースを出展し、盛り上がりを演出した。
そして、広大な会場にパニックに近い興奮をもたらしたのが、安倍首相だ。
自民党は会場の一角にブースを出展、歴代の総裁が演説に使っている街頭演説車「あさかぜ」号を展示した。日中は一般の来場者が屋根に乗り、選挙活動さながらのマイクパフォーマンスを繰り広げた。午後4時過ぎ、ここに安倍首相が登場すると、自民党ブース周辺は身動きができないほどの人であふれかえった。
「今日は、この超会議を楽しみに、参りました。皆さん、楽しんでますか」。興奮気味にこう話し始めた安倍首相。「必ず強い経済を取り戻して参ります」「7月の参院選挙に勝ってこそ、初めて日本を取り戻すことができます」とアピールも忘れなかった。
その後、来場者と握手しながら会場内を数百メートル練り歩いた安倍首相は、自衛隊ブースを視察。この自衛隊ブースも、大きな盛り上がりを演出していた。
目玉は最新鋭の国産戦車「10式」
昨年も装甲車や写真パネルを展示した自衛隊だが、今年は気合いの入り方が違う。昨年は陸上自衛隊のみの参加だったが、今年は陸海空すべてが参加。約30人の現役自衛官が来場者に説明したり、写真を撮ってあげたりして、応対にあたった。中でも目玉は、最新鋭の国産戦車「10式」の展示だ。10式が民間イベントで展示されるのは珍しいとあって、周囲は黒山のひとだかり。写真撮影のフラッシュが絶え間なくたかれていた。
防衛省で広報室長を務める大塚裕治1等陸佐は超会議への思いを「若い人にも自衛隊員や装備品に触れてもらい、身近に感じてもらうことで、より安心を感じてもらえたら」と話した。この自衛隊ブースのすぐ隣のブースは、在日米陸軍だ。
「自衛隊のすぐ横でブースを出すということに意味がある。将来を担う若い人に向けて、強固な日米関係を発信したい。来年は、もっと充実させたい」。ブースでにこやかに写真撮影に応じていた在日米陸軍司令部の担当者は、こう語った。
こうした組織が超会議の盛り上げに一役買う一方、企業も負けじと工夫を凝らしていた。
10代への浸透狙うローソン
ローソンは昨年に続き2回目のブース出展。今年はブースを4倍に拡大した。フェイスブックやツイッターなど計26のウェブメディアで情報発信しているローソンだが、ニコ動の評価はひときわ高い。ローソン広告販促企画部の白井明子マネジャーは、「ニコニコ動画はユーザーとの距離が近いメディア。10代の人は、テレビよりニコ動を見ている。10代の9割がアカウントを持っているメディアはほかにはない」と話す。
ローソンは今回、オリジナルの「からあげクン」をニコ動で公募して会場内で販売するという取り組みを実施。「からあげクンを10代にも浸透させたい。来場者に、こんなにおいしいんだということを知ってもらいたい」(白井マネジャー)。
23日からは、ニコ動で募集したイラスト入りパッケージを使ったからあげ「Lチキン」を全国で販売するなど、今後もニコ動との連携を広げていく。ネットとリアルの融合に着目し、今年初めて超会議に協賛したのはトヨタ自動車だ。
「リアルの世界からの回答が、今年の超会議」
トヨタのブースでは、商用車「ハイエース」と、ドワンゴがニコ生の中継などに使っている特別仕様車「ニコニコカー弐号機」を展示。「ニコニコ超会議は、リアル、つまりトヨタでいう現地・現物。その情報をネットで拡散させてもらい、評判をつくってもらいたい」(トヨタマーケティングジャパン・マーケティング局の田浪優氏)というのが狙いだ。
今年はハイエース1車種のみの展示にとどめたが、今回の協賛は「トライアル」としての位置づけ。今後は、モーターショーへの出展を手がけるイベント部門にも超会議のノウハウなどを共有し、プロモーションの新しいメディアとしてニコ動や超会議の活用を模索していくという。
企業や組織からの注目度が高まったのは、やはり昨年の成功を受けてのことだろう。ネットをリアルに再現する、しかもいちネット企業が幕張メッセを貸し切るという昨年の初の試みは、いきなり10万人を動員し、ネット上の生中継でも延べ347万人もの視聴者を集めたという実績を残した。川上会長は、今年の超会議をこう意義付ける。
「若年層のネットでの行動って、リアルの世界からするとすごく見えにくいんですね。だから、ずっとそこは過小評価されてきた。そこを、超会議というのが一気に可視化した。リアルの世界の企業や組織に気づかせた。それが、昨年の超会議の一番の功績で、リアルの世界からの回答が、今年の超会議です。ようやくリアルが応えてくれた。そんな感じですよ」
「任天堂の協賛で、超会議の格が上がった」
といいつつも「こんなに大きなレスポンスがすぐに来るとは、僕もちょっと想像できなかった。半年くらい前から安倍総理を狙おうと言っていたんだけれども、実現するとは思っていなかった」と、川上会長自身、驚きを隠さない。そして、もっとも感謝しているのが、最大の協賛金を拠出した任天堂だ。
任天堂が超会議の特別協賛をすることを発表した昨年12月、任天堂の岩田聡社長は、こう語っていた。「特別協賛という大変たいそうな位置づけでお声がけいただいたのですけれども、超会議を任天堂色に染めようなどとはまったく思っていませんので、どうぞご安心ください」
岩田社長の宣言通り、不思議なくらい、会場での任天堂色は薄い。ブース出展もない。任天堂の狙いは、ゲームを愛するニコ動ユーザーへの恩返し。「お金は出すけれど、口は出さない」という任天堂の姿勢に、川上会長は感銘を受けている。
「任天堂さんには本当に感謝していて、感謝しかない。協賛していただくということが決まったことで、ニコニコ超会議の格が非常に上がったんですね。これが大きかった。安倍総理にきていただくことになって、任天堂さんの目は間違ってなかったといえるようになった。協賛してもらうにふさわしいイベントになれたと」
日本を代表する企業や組織を「本気」にさせた今年の超会議。ユーザー文化にうまく入り込めるのかという懸念もあったが、いまのところ、ユーザーからの受けもよく、ニコ動経済圏と企業・組織の接点を上手く作れたといえる。各社から得た協賛金は、そのぶんユーザーを喜ばせるための経費につぎ込み、今年は1~2億円ほどの赤字になる見込み。もらっただけ使う超会議の進化は、来年も止まりそうにない。
(電子報道部 井上理、杉原梓)