「脱ファーウェイ」に日本勢商機 経済安保で同盟国協調
複数のメーカーの機器を組み合わせた通信網「オープンRAN(ラン)」の構築が活発になってきた。華為技術(ファーウェイ)など中国勢を排除して高速通信規格「5G」の通信網を拡大できるためで、NTTドコモはフィリピンなどに試験導入する。経済安全保障の観点から米国や同盟国の企業が連携して「脱中国」を急ぐ。
オープンランは携帯電話の通信網を設計する際、機器をクラウド上のソフトウエアに置き換える「仮想化」と呼ぶ技術を使う。これにより顧客の要望に合わせて複数メーカーの機器を組み合わせられるようになる。
ネットワーク全体を1社の機器でそろえる従来の場合と比べメーカー間の価格競争を促し、通信網の整備コストを減らせるとされる。スペイン・バルセロナで開催中のモバイル関連見本市「MWC」でもオープンランは注目テーマの一つだ。
ドコモ、カタールやフィリピンで実証
「5Gの整備コストを抑えたいという需要があり、関心も高まっている」。MWCで日本経済新聞の取材に応じたドコモの井伊基之社長もこう話す。自社の通信網で運用した場合、標準的なネットワークと比べて初期費用や維持管理を含めた全体のコストは最大3割削減できた。基地局の消費電力は最大5割減らせるという。
26日にはドコモはオープンランをカタール、フィリピン、シンガポールで2024年に試験導入すると発表した。各地での通信網の構築から運用支援、保守までをまとめて担い、実地でのノウハウを養う。海外展開の加速に向けてNECとも共同出資会社を立ち上げ、4月に事業を始める。
機器を提供するパートナーには米アマゾン・ウェブ・サービスやソフトバンクグループ子会社で半導体設計大手のアームなどが新たに加わったことも同日明らかにした。国内外27社と組んで東南アジアや中東を中心に市場を開拓し、25年度に100億円の売上高を目指す。
オープンランには楽天グループも力を入れる。23年12月にはドイツの新興通信会社「1&1」が楽天のソフトウエア技術を使って5Gのサービスを一部で始めた。ウクライナの通信事業者「キーウスター」に24年内に導入し、5Gインフラの基盤整備を進める。
オープンラン市場、30年に4.8兆円規模
調査会社グローバルインフォメーションによると、オープンランの市場規模は30年までに320億ドル(約4兆8000億円)を超える。メーカー同士の競争が激しくなればコスト削減に加え、5Gの普及も早まるとして期待は高まっている。
オープンランを含む通信網の基幹となる基地局で存在感が高いのがファーウェイだ。英調査会社オムディアによると、22年の基地局の世界シェアはファーウェイが31%と首位で、スウェーデンのエリクソン(25%)、フィンランドのノキア(18%)の3社で7割以上を占める。
普及を後押しするのは情報流出などを念頭に置いた経済安全保障だ。ファーウェイには米国を中心に懸念が高まっており、同社抜きで通信網を築きやすいオープンランへの需要が高まっている。
米商務省は12日、米通信大手のAT&Tやベライゾン・コミュニケーションズのオープンラン事業に約4200万ドルを拠出すると発表した。ドコモやインドのリライアンス・ジオ・インフォコムも加わり、セキュリティー面の実証などを進めながら米国でのオープンラン事業の拡大を図る。
英国、ファーウェイ排除通達
同様の動きは西側諸国でも広がっている。
英国では1月に大手通信会社などの基幹通信網からファーウェイ製品を全面排除する政府通達が発効した。5Gについても27年末までに取り除くよう求めている。欧州連合(EU)はファーウェイと中興通訊(ZTE)の中国2社を名指しして5G通信網から締め出すよう各国に要請している。
基地局設備の交換負担で反発も
普及への動きが活発になる中、課題も浮かび上がっている。
23年にはドイツ政府が26年までに5G通信網から中国製の機器の排除を計画していることが明らかになった。ただドイツでは5G通信網のうち約6割を中国製に頼る。事業者側には26年という期限や多額のコスト負担への反発も広がる。
ファーウェイの通信網はアフリカ、東南アジアでも多くの国や事業者に使われており、切り替えに伴うコスト負担の懸念はつきまとう。
複数メーカーが関わることで通信障害が発生した際に復旧や原因の特定に時間がかかる可能性も高い。運用面を考慮すれば全体のコストは上がるとの見方もある。セキュリティー面の検証も欠かせない。産業や社会を大きく変えるとされる5G展開を加速するうえでも技術確立を急ぐ必要がある。
(宮嶋梓帆、バルセロナ=佐藤諒)
世界最大のモバイル関連見本市「MWC」。2024年2月26日から29日にかけてスペイン・バルセロナで開催されました。NTTドコモやKDDI、楽天グループのほかに、米グーグルや中国の華為技術(ファーウェイ)などが出展しました。最新ニュースと解説をお届けします。