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ネット音楽、ハイレゾ配信に沸く ビクターも参入

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音楽業界が「ハイレゾリューション(ハイレゾ)」ブームに沸いている。ハイレゾとは音源CDよりも高音質なネット音源のこと。大手レコード会社のビクターエンタテインメントは6日、ハイレゾ専門の音楽配信サービスを立ち上げる。オーディオメーカーもこぞってハイレゾを再生可能な新製品を市場へ投入。ハイレゾを楽しむのに欠かせない音源のソフト、配信のサービス、そしてハードの3本柱を整備しようと、音楽業界全体が一丸となって動き出している。

音楽ソフト市場は1998年をピークに年々規模が縮小傾向にある。オーディオ関連機器市場も昨年の売上高は1017億円にとどまり、2008年から5年間でほぼ半減。突如生まれたハイレゾブームは業界にとって久々の明るい話題であり、消費者の裾野が広がれば市場が再び浮かぶ機運につながる可能性がある。

7万円超の対応機器が飛ぶように売れる

「それ、大人気なんです。1カ月ほどお待ちいただきます」。大手家電量販店ヨドバシカメラマルチメディアAkiba(東京・千代田)のオーディオ売り場では、ソニーが昨年12月に発売した携帯音楽プレーヤー「NW-ZX1」が売れに売れている。2カ月近くが経過したものの、「入荷してもすべて予約販売ではけてしまう。店頭在庫が一台もない状態がずっと続く」(店員)とうれしい悲鳴を上げる。

NW-ZX1の価格は約7万5000円と高額。にもかかわらず人気なのは、長いオーディオの歴史を振り返っても今までにないほど緻密で迫力のあるハイレゾ音源を楽しめるためだ。ZX1のような持ち運べる機器だけでなく、ハイレゾ対応製品はミニコンポのような据え置き型も相次ぎ登場しており消費者の関心は高い。人気上昇を受けて同店は、オーディオ機器売り場のそちこちにハイレゾ対応製品を展示するコーナーを設けている。

普及を後押しするには手軽に楽しめる環境づくりが欠かせない。そのために動き出したのがJVCケンウッドだ。同社独自の木製の「ウッドコーン」をスピーカーに採用するなど、ハイレゾのために音質を高める部品や構造に徹底的にこだわったミニコンポを6日から出荷する。購入者が自分のスマートフォン(スマホ)で遠隔操作できるなど使い勝手を高める工夫を随所に施している。

加えてグループ会社であるビクターエンタテインメントが同日、ハイレゾ楽曲を集めた専門の配信サービスを開始する。名称は「HD-Music」。ビクターは01年ごろ一時的に音楽配信を手掛けたことはあったが、本格的な音楽配信の基盤事業に乗り出すのは初めてだ。事業を統括するビクタースタジオ長の秋元秀之氏はコンセプトを次のように語る。「ライトユーザーをハイレゾの世界にいざなう。オーディオマニア以外にファンになってもらうため、数回のクリックで楽曲を購入できるよう操作性にこだわり、人気の高いポップスのヒット楽曲も積極的に配信する」

HD-Musicではレーベルとして自社楽曲を供給するのはもちろん、他のレコード会社にも広く楽曲提供を呼びかける。既にキングレコードとテイチクエンタテインメント、日本コロムビアの3社が賛同を表明しており、6日時点での楽曲の品ぞろえは4社合計で170アルバム2000曲となる。ハイレゾ配信で業界の標準的なサービスを目指す考えだ。

ハイレゾは12年ごろから一部のオーディオマニアの間で徐々に人気に火が付いたが、環境を整えるにはパソコンやネットに関する専門知識が不可欠だった。JVCケンウッドはグループの力を総動員してハード、ソフト、サービスを三位一体でとらえ、ハイレゾ音源が持つ高いポテンシャルを手軽に引き出して誰もが楽しめることを目指した。

ビクターは録音や編集を手掛けるスタジオを自社運営する数少ないレコード会社。その強みを生かし、消費者や家電量販店の店員をスタジオに招待しハイレゾを実際に試聴してもらうイベントを定期的に開催する方針。JVCケンウッドが描くハイレゾの世界観をレクチャーすることで、ファンづくりに結びつける。

三位一体戦略は、ソニーも同じ。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)傘下のレーベルゲート(東京・港)は、昨年10月から音楽配信サービス「モーラ」を通じてハイレゾ音源の配信を開始。SMEはハイレゾ楽曲の提供に積極的だ。ソニー自身も冒頭紹介した携帯音楽プレーヤーに加え、ミニコンポやヘッドホンに至るまで幅広くハイレゾ対応製品の開発を進める。昨年10月から12月だけで既に18製品を投入するほどの力の入れようだ。

13年度下半期に国内で販売するオーディオ機器の約2割をハイレゾ対応とし、3年以内に世界全体でも3割にまで引き上げる野心的な目標を描く。ハイレゾ対応であることを示す専用ロゴを考案し、デモ機にシールとして貼り付けることで店頭でアピールしやすくする工夫もしている。

CDの3~8倍のデータが生むみずみずしさ

ハイレゾがいかに高音質かは曲を構成するデータ量によく現れている。CDの場合、毎秒1411キロビットずつのデータとして音楽が円盤に記録されている。これに対してハイレゾは4608キロ~1万1289キロビット。CDに比べて3~8倍も大きく、128キロビット程度の音楽配信に比べると実に36~88倍に及ぶ。アルバム1枚当たりでは4~7ギガ(ギガは10億)バイトと巨大なデータの塊だ。

AV評論家の麻倉怜士氏は「演奏を生で聴いた状態を意味する原音に、ここまで近い音楽メディアはオーディオの歴史上存在しなかった」とハイレゾの魅力を語る。データ量が大きい分だけ緻密で迫力があるのは当然として、演奏したホールや録音したスタジオの"空気感"までが耳や肌を伝わって人々に感動を呼び起こすという。「言ってみればレコード会社の録音エンジニアだけが耳にしていた原音がそのままの状態で自宅に届く。これは画期的なこと」

巨大データのハイレゾが最近になって配信可能になったのは、通信技術と記憶媒体の大容量化のおかげだ。光ファイバー回線によってギガ単位のデータをネットから受信可能になり、家庭内の無線LAN(構内情報通信網)も高速化が進んだ。一方で受け取ったファイルを保管しておくハードディスク駆動装置(HDD)やフラッシュメモリーもテラ(テラは1兆)バイト級のものが格安で手に入るようになった。

活況を呈すハイレゾだが課題もある。1つが楽曲ラインアップの拡充だ。05年に先駆けてハイレゾ対応の音楽配信を開始したオンキヨーエンターテイメントテクノロジーですら、品ぞろえは現在3万曲止まり。1000万曲以上を品ぞろえる通常の音楽配信サービスに比べると明らかに見劣りする。

ハイレゾ楽曲を増やす画期的な技術も

ネックになっているのは、レコードやCD生産の基になる「マスター」と呼ぶテープなどの品質がハイレゾに適さない場合が少なくないためだ。CDが主流になった80年代以降、CDの仕様に合わせて演奏会場やスタジオで録音する際に人間には聴こえないとされる20キロヘルツ以上の音をカットするケースが急増。音をアナログからデジタルに変換する処理で、十分な精度を確保しないことも増えた。

こうした音源を原音に限りなく近い品質で再生可能なハイレゾ環境で聴くと、あらが目立ってしまう。クラシックやジャズの一部アーティストは、耳の肥えたオーディオマニアの期待を裏切らないようにCD時代も高品質なマスターを残すことにこだわった。ハイレゾ配信サービスの多くが現状、大半をクラシックやジャズの音源に頼っているのはこうした歴史的な背景がある。

幸い技術革新によって事態を打破する可能性が出てきている。ビクターエンタテインメントはスタジオの所属エンジニアらが中心になって、失われた20キロヘルツ以上の情報を高度な演算処理で復元する独自技術「K2HDプロセッシング」を開発。録音当時の演奏状態に限りなく近づくといい、ハイレゾ配信を前提に録音したマスターとほぼ同品質に変換できる。

K2HDプロセッシングは新しく始めるHD-Musicで導入する。参加するほかのレコード会社も利用できるよう技術を開放する。ハイレゾ楽曲をレコード会社が増やしやすくなることを踏まえ、ビクターはHD-Music上で利用者がハイレゾ化を希望する楽曲を投票できる仕組みを用意する。レコード会社は要望の多い楽曲を知ることができ、売り上げを着実に見込めるものから優先的に変換作業をして配信しやすくなる。

ハイレゾ配信を始めたモーラの場合、年末の2カ月間のアルバム売り上げランキングはトップ10すべてがポップス楽曲だった。1位は人気グループ「いきものがかり」の「I」、2位はマイケル・ジャクソンの「スリラー」。2月3日時点のランキングでは、先日グラミー賞を獲得したばかりのフランス出身の2人組「ダフト・パンク」が2位にランクイン。往年の女性アイドル中森明菜さんが3位になるなど、幅広い世代の男女が通常の音楽配信と同じように気楽にハイレゾを楽しみ始めた様子がうかがえる。

ハイレゾ楽曲は1曲当たり400円程度で、一般的な音楽配信の楽曲に比べて価格が2倍と高い。対応ハードも携帯音楽プレーヤーとヘッドホン、もしくはミニコンポを買いそろえると一式10万円の出費は覚悟しなければならない。ただ実際に聴いてみると高音は伸びやかで、全体的に奥行き感があってみずみずしさにあふれている。

個人的な感想だが、筆者が普段スマホで聞き込んでいるある洋楽をダウンロードしてハイレゾ環境で再生したところ、今まで聞こえなかった部分まで浮き出てくるような印象を得た。NW-ZX1の品不足は、費用対効果が十分あると判断する消費者が多いことの証左だろう。

CDの父が描いた夢に近づく

元ソニー常務で「CDの父」と呼ばれる中島平太郎氏に05年にインタビューした際、彼は携帯音楽プレーヤーが急速に普及する状況を憂いていた。「私は良い音を追求するために音楽のデジタル化技術を開発した。簡便さを優先してデジタル技術が圧縮目的に使われる風潮はむなしく感じる」としたのだ。

圧縮音源のアンチテーゼとして生まれたハイレゾは、まさに中島氏が追い求めた究極の音質をデジタル技術で具現化したものと言えよう。結果としてレコード会社が秘蔵していた原音を一般消費者に開放した意味でも、音楽業界にとっては何年ぶりかの大革命でもある。

一般家庭から大型のオーディオ機器が消えて久しい。過去には「音楽鑑賞」なる言葉があり、ソファに座って家族や友人とゆったりと音楽を聴くことは多くの人にとって特別な時間であり趣味の一つだった。携帯音楽プレーヤーやスマホの普及で音楽は確かに身近になったが、一方で消費する感覚がはびこりコンテンツの作り手をリスペクト(尊敬)する風潮が薄れつつある。

価値に見合った対価を支払うことは消費者の義務であるはず。にもかかわらず音楽にそもそも価値をみじんも感じず「一円たりともお金を払いたくない」と考える若者が急増している。そんな中でIT(情報技術)の進化によってもたらされたハイレゾブームは、対価を支払えばアーティストや制作に携わる関係者の心意気まで含めて丸ごと手中にできることを尊ぶ消費者が誕生したことを意味する。

ブームが一過性で終わらず消費者の多くが再び音楽に価値を感じるようになれば、音楽業界は産業として健全な状態に戻る。お金もきちんと回る。結果としてアーティストが潤い創作意欲をかき立てられれば、消費者が本当に求める音楽ばかりでランキングが埋め尽くされる華やかな日々が、もう一度やってくるに違いない。

(電子報道部 高田学也)

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