メッセンジャーアプリ過熱、DeNA・サイバー…
先ゆく「LINE」、収益化急ぐ
「もうLINEがすごすぎるので、追いつくなんてとんでもない。何回、社内でとめたか分からないくらい、とめたんですけれど、ついに出すことにしました」
サイバーエージェントの藤田晋社長はこう漏らす。スマホ向けメッセンジャーアプリ市場の勢いと社員の熱に押され、ゴーサインを出したアプリの名称は「DECOLINK(デコリンク)」。当初はチャット機能やスタンプ機能を持つメッセージング用途のみだが、普及次第では「無料通話機能も考える」(藤田社長)。12月中にもiOSとアンドロイド端末向けに投入する。
サイバーエージェントはソーシャルゲームやコミュニケーション関連などスマホ向けアプリ開発にグループの経営資源を集めており、15日にはアプリ開発に携わる若手社員を起用したテレビCMの発表会を開催。この場でデコリンクに触れることはなかったが、内部では着々と開発を進めていた。
DeNA「comm」、年内に1000万狙う
デコリンク最大の特徴は、感情や意思を大きめのイラストで伝えるスタンプの種類。最初から1万点以上のスタンプを用意し、そのすべてを無料で提供する。大量の携帯電話向け絵文字を一括で仕入れ、大きめのスタンプに一気に流用できるメドがついたため、「若年層向け(中高生、大学生)であれば、一定の利用を見込める」と判断した。
サイバーエージェントがスマホアプリのCM発表会を行ったのは東京・渋谷のヒカリエ内のイベントホール。同じ場所で前日、DeNAもCM発表会を開催していた。10月23日、iOSとアンドロイド端末向けに「comm(コム)」というアプリを投入したDeNA。そのダウンロード数が国内で好調なことから、急きょテレビCMを中心とする10億円規模のプロモーションを実施することにしたという。
CMには人気タレントの吉高由里子さんを起用。今月7日に撮影し、16日から全国でオンエアというすさまじいスピード感で進んでいることからも、力の入れようがうかがえる。DeNAの守安功社長はインタビューで、こう目標を明かした。
「大きな手応えを感じているからこそのプロモーション。すでに100万ダウンロード近くに達しており、計画を上方修正した。国内1000万ユーザーを、できれば年内、遅くとも来年の早い段階で達成したいと思っています」
守安社長も藤田社長と同様、年内に世界1億ユーザーを達成しそうなLINEを前に「単なる追随ではアプリを出せない。差異化がないと無理」と社員を諭してきたという。
売りは「通話品質」と「実名制」
若手社員から「無料通話・メッセンジャーアプリを出したい」と提案があったのは昨年秋。ちょうどLINEに無料通話機能が追加され、ベッキーさんを起用したテレビCM効果もあってLINEのユーザー数が爆発的に伸びていた時期だ。昨年6月開始のLINEは11月に500万、昨年末には1000万ユーザーを超えた。守安社長はこう話す。
「横目でみてるとLINEがどんどん伸びている。下手なものを作って出しても意味ないよね、ということで、1回作ってみたものを壊して、再検討。半年待って、現場から『通話品質』と『実名登録』を売りにしたいという提案が出てきた。通話無料で品質が高いというのはキャッチー。実名登録は、ある程度ユーザー規模が増えれば利便性を感じられる。これなら差異化できると判断しました」
今年6月末頃から開発を本格化させ、約4カ月間でcommを204カ国・地域向けにリリース。DeNAが運営するモバイル向けゲームサイト「Mobage(モバゲー)」からの誘導効果もあり、想定を超える速度でダウンロード数が伸びたという。アプリのレビュー欄ではもくろみ通り「通話品質」を評価する声が目立つ。
ヤフー・カカオトーク連合、12月に攻勢
「将来、モバゲーやコマース関連サービスへcommから送客といった連携はあり得るけれど、モバゲーと無理に統合しようとは思ってない。まずはより多くのユーザーを獲得することに集中していく」。守安社長がこう語るように、今のところモバゲーとは切り離したサービスとして成長させる方針。大量のテレビCM投下で、まずはLINEに続く「国内2番手」を狙い、ゆくゆくは「やるからには世界でナンバーワンを目指す」(守安社長)。
一方、現状の国内2番手で、約330万人のユーザーを抱える韓国の「カカオトーク」も、ヤフーとともに12月から攻勢を強める。カカオトークは日本語版のアプリを2010年10月から提供している老舗だが、利用はあまり進まず、一気に後発のLINEに抜かれた。だがこの10月、ヤフーが韓国カカオの日本法人、カカオジャパンへ50%の出資をしたことで一躍、注目を集めた。
まずは19日、最大5人まで同時通話ができる「グループ通話」機能を追加する。テキストのメッセンジャーでは各社ともグループ機能を持ち合わせるが、音声通話でのグループ機能は「スマホ向けメッセンジャーアプリとしては世界初」(カカオジャパンの太田真氏)という。
さらに、ヤフーとの資本提携を踏まえ、ヤフーが抱える6000万人以上のユーザー基盤を生かした具体的な施策を年内をメドに発表する計画。「グループ通話とヤフー連携の2つを差異化のポイントとし、早期に国内1000万ユーザーを達成したい。特にヤフー連携に関しては、こうご期待ということで、準備を急いでいます」(同)
グリーはオランダのアプリ会社に出資
メッセンジャーアプリ市場への参入を狙うネット大手はほかにもいる。commのDeNAと長年にわたり、ソーシャルゲーム市場で火花を散らすグリーもその1社。10月、オランダに本拠を構えるメッセンジャーアプリ提供会社のeBuddyに出資し、グリーから同社の吉田大成取締役ら2人がeBuddyの取締役に就いた。
この件に関し、グリー広報は「メッセンジャーアプリの投入について検討しているのは事実だが、詳細は何も決まっていない」としている。だが、「DeNAに刺激されたグリーが年明けにも自社製のアプリを投入する可能性が高まった」とみる業界関係者は多い。
ここにきて一気に過熱するメッセンジャーアプリ市場。競合となり得る相次ぐ国内ネット大手の動きを、先駆者で大きく先をゆくLINE陣営はどう捉えているのか。
LINE事業を統括するNHN Japan(東京・渋谷)の舛田淳執行役員に聞くと、「ある程度、大手各社が参入してくるだろうなというのは想定していました」と余裕の反応。すでにリリースされ、通話品質と実名制を武器にしようとしているcommについては、こう語った。
LINE陣営は余裕の構え
「実名制は、友だちじゃない誰かから検索されることを想定すれば必要。ただ、今のLINEユーザーはそれを望んでいない。通話品質については、我々も山ほど改善を重ねている。さまざまなデバイスや通信環境で調査していますが、commも含め、我々の方が品質が低いという結果は出ていません」
もっとも、LINEはすでに国内3400万、世界で7400万ユーザーと、一頭地を抜く存在。すでに、有料のスタンプや企業向け公式アカウントといった収益化にも着手しており、11月下旬には新たな施策の発表も控えている模様。新規参入組やカカオトークと比較するには差が開きすぎている。
メッセンジャーアプリ市場の過熱は、テレビ局各社や広告会社にとって追い風。ということだけは確実にいえるが、シェア争いを語るにはまだ早そうだ。
(電子報道部 井上理)