若さこそ武器に
柳沢大輔・カヤック社長
今回で3回目になるこの寄稿の第1回、第2回では面白法人カヤックの創業期について書いた。カヤックでは受託制作とオリジナルサービスの事業を両輪として展開していることは伝えたが、今回はそのオリジナルサービスについて紹介する。
創業から3年目(2000年)にカヤックが生み出したサービスに「Tセレクト」というサービスがある。これはTシャツのデザインをネット上で募集してグラフィック画像を掲載。10人以上欲しい人が集まると生産が決定し販売される。購入希望者に反比例して1枚あたりの金額が安くなり、またデザイナーは売れれば売れるほどTシャツのデザインに使えるカラーが増えたり、報酬率があがったりする仕組みとした。
CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)という言葉が出てくる前だが、いま考えればこれはCGMであったし、デザイナーレベルの設計などは今はやりのゲーミフィケーションを用いた設計。当時としては画期的なサービスだったと思う。
立ち上げ当初は自分たちでTシャツの配送作業も行った。オープンから2年目に伊藤忠商事からのオファーを受けて共同事業となり、オリジナルTシャツの作成や配送センターの設置などを経て大きく展開するようになった。当時のカヤックは、合資会社で人数も10人未満。それにもかかわらず大手の伊藤忠と事業提携できた。
こういうところがインターネット業界の良いところだ。会社の規模や若さはビジネスと関係がない。起業家の諸先輩方からは大手企業を取引先にすることが難しいという話を聞くが、面白いものをつくってさえいれば、むしろ逆であり、大手企業から声をかけてもらえた。そして年々その傾向は進み、この業界での若手の起業家やクリエーターのチャンスは広がっている。
たとえば、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)のアプリ開発の世界では、若くて優秀な開発者にはどの企業からもオファーがある。我々のようなプランナーをたくさん抱えている世界でも、若い方が面白いということが顕著なように思う。これはインターネットという世界が、トップダウン型で何かが生まれる世界ではなく、ボトムアップ型で新しいものが生まれてくる世界であることと関係していると思う。
ゼロから1を生み出す過程において若いことが有利になるのだ。もちろん1から100に伸ばすのにはより大人の力が必要だが、例えばフェイスブックを創業したのは、わずか19歳のマーク・ザッカーバーグ氏だった。僕たちもオリジナルサービスを展開することを強みにする以上常に新しいことを生み出し続けなければならない。そこで社員の平均年齢を30歳以上にしてはいけないというおきてをつくっている。
ちなみに、そのTセレクトはその後ヤフーとも事業提携をして、最終的には売却するという経緯をたどった。「売却」というのは、次から次に新しいものが生まれてくるカヤックにおいてはオリジナルサービスのよくあるエグジットパターンのひとつだ。売却を事業展開のひとつとすることは創業期から思い描いていたことだった。その証拠に自分たちがつくったサービスを販売しようという意図で創業1年目にサイトの売買を仲介するマーケットプレイスをつくっている。
このTセレクトの売却のエピソードがカヤックにもたらしたものは、自分たちの考えたサービスが経済的な価値を生み出したという自信と、オリジナルサービス事業の拡大へと舵(かじ)をきる決断だ。売却の翌年、05年に株式会社への組織を変更した。
[日経産業新聞2012年7月25日付]
(週1回程度で随時掲載)