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JASRAC、放送著作権でシェア反映の新協定

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日経情報ストラテジー

日本音楽著作権協会(JASRAC)は、放送分野における著作権使用料の徴収方法を巡り、NHK・民放連との間で新たな算定方式を導入することを盛り込んだ協定を結んだ。JASRACの菅原瑞夫理事長が2015年5月8日に開催した会見で表明したもので、2014年度放送分(2015年度支払分)から新たな算定基準を適用する。

新たな協定は、各放送局に対しJASRAC管理楽曲の使用許諾をまとめて出し、使用料もまとめて徴収する「包括許諾・包括徴収」をベースとしつつ、新たに各放送局が年間に使用した楽曲のうちJASRAC管理楽曲が占める比率を算出。各放送局の売上高の一定比率としていた従来の算定式に、新たにJASRAC管理楽曲の比率も掛け合わせて算出する。JASRAC管理楽曲比率の算出方法などは、NHK・民放連と音楽著作権管理事業者3法人による「5者協議」で今後詰める。

JASRACの放送分野の著作権使用料を巡っては、「新興の管理事業者を不当に排除する算出基準になっている」として、公正取引委員会が2009年に排除措置命令を出していた。同命令は2012年の審決でいったん取り消されていたが、2015年4月28日の最高裁判決で「取り消しの審決を取り消す」とする判断が確定。現在はJASRACへの排除措置命令が有効な状態となっている。

今後はJASRACと公取委の間で、排除措置命令の正当性を争う審判が改めて行われ、JASRACは新興事業者の排除に当たらないことなどを改めて主張する見通し。一方で実務上は、法律上の係争と切り離す形で公取委やイーライセンスの指摘に沿う新方式に踏み出したことで、実質的な譲歩ともいえる。

菅原理事長は会見で、新方式で協定を結んだ背景について「従来の包括徴収に対し、それが違法か否かはともかく『懸念がある』と公取委から指摘をいただいたため」と説明。NHK・民放連と従来結んでいた協定の更新時期が来たことを受け、「各局の放送に対するJASRAC管理楽曲の『貢献度』、平たく言うと利用割合をみる協定を締結した」(菅原理事長)。

新方式の協定が実現した理由はほかにもある。各局が番組中で使用した楽曲の全曲報告が浸透してきたことだ。「2008年に公取委の立ち入り検査を受けた時点では、民放は曲数ベースで10数%しか把握できていなかった。現在は9割を超える楽曲が把握可能になっている」。このため、実態をほぼ反映した形で管理事業者ごとの管理楽曲の比率を算出するのが比較的容易になってきているのだ。

新方式が本格始動するのは、5者協議で管理事業者ごとの楽曲比率の算出方法などが決まってからになる。「JASRACでは他の管理事業者の楽曲の利用状況は分からない。放送局からの報告を基に、明確な形で算出できる基準作りをする必要がある。ただしカルテルにならないよう、5者協議では各管理事業者の契約内容には踏み込まない」(菅原理事長)。JASRACは算出方法について「イントロのみ、ワンコーラス、フルコーラスなどの使われ方を反映するため、JASRACではすでに放送された楽曲の長さを秒単位で集計している。これが最も合理的なのでは」(菅原理事長)としている。

演奏権や貸与権、業務用通信カラオケなど他の支分権についても見直した。イーライセンスは2015年4月の最高裁判決後の会見で、これらの支分権の使用料規程に盛り込まれている包括徴収方式を改めるようJASRACに求めるとしていた。これについては「既に全曲報告が実現している分野があり、貢献度合いを反映できる規程に変更している。違法かどうかは別にして、使用料の規程を巡り理解を得られにくい部分があれば、全体的に整理していくのが基本だ」(菅原理事長)と表明。「いずれは他の管理事業者の規程を見て、JASRACが修正するといったこともありうるだろう」(菅原理事長)と柔軟に対応する姿勢を示した。

一方、排除措置命令を巡る法的な係争は引き続き行われる。「最高裁判決を受け、現在は2009年の排除措置命令が有効な状態になっている。これに異議を唱えないまま排除措置命令を確定させることは、作詞家・作曲家から信託を受けている立場としてはできない」(菅原理事長)として、改めて公取委での審判が開かれることになる。とはいえ、一度は最高裁で判決が出ていること、既に各当事者の主張が出尽くし新たな論点が見出しにくいこと、そして実務面では新方式の運用に移りつつあることなどから、今後の係争の行方が実務に大きな影響を与える可能性は小さそうだ。

(日経情報ストラテジー 金子寛人)

[ITpro 2015年5月8日掲載]

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