[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/ メインコンテンツに移動

CFOメッセージIR情報

2019年からの5年間を振り返って

酒入 和男

取締役副社長執行役員
Chief Financial Officer
(CFO)

酒入 和男

2019年に両株主の燃料、発電、海外事業等の資産がJERAに完全統合され、現在の当社が形成されてから5年の月日が経過しました。当社は、日本全体の約30%の電力を供給する日本最大の発電会社ですので、日本の安定供給に対して大きな責任を有しています。こうした中、2021年頃始まった欧州の再生可能エネルギー発電の低迷に追い打ちをかける形で、翌年2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まったことから、LNG価格(JKM S&P Global社が提供する北東アジア向けスポットLNG価格指標)が2022年3月7日に史上最高値($84.8)まで高騰し、発電燃料のほぼ100%を海外に依存している日本は、燃料調達において、大きな危機に直面しました。こうした事態に対し、当社は、シンガポールの子会社、JERA Global Markets(JERA GM)を通じて、700万トンのLNGをスポット調達する等、日本に大規模な停電を起こさない取り組みを、日本政府とも連携し、大胆かつ迅速に遂行いたしました。また、発電所の建て替え(リプレース)を計画通り進めることで、燃料調達と合わせて、電力需要に応える発電容量を確保しました。
一方で、パリ協定で日本がコミットしているCO2の削減目標を実現すべく、発電所やバリューチェーン全体の脱炭素化を目指す「JERAゼロエミッション2050」を2020年10月に公表し、米国リンデンガス火力発電所の水素転換や、碧南火力発電所のアンモニア転換等、CO2を排出しない発電に向けた実証試験を行っております。また、水素やアンモニア等の低炭素燃料の調達についても、国際入札を実施する等、世界各国のエネルギー会社と協業を開始しています。さらに、再生可能エネルギーの分野では、台湾や英国の洋上風力案件への参画に加え、2023年にベルギーの大手洋上風力会社であるParkwind社や、日本のグリーンパワーインベストメント(GPI)を買収するとともに、国内の洋上風力入札案件も落札しました。そして、再エネ開発・運営会社JERA Nexを2024年4月に英国ロンドンに設立し、再生可能エネルギーに関する全てのスキルや人財等の経営資源を集中(Center of Excellence=COE)することで、2035年の開発目標である2,000万kWを目指し、世界各国で開発を推進してまいります。
加えて、当社は、経済成長の著しいアジアの電力供給や脱炭素に貢献しながら、利益基盤を拡大することを目指す「プラットフォーム戦略」を推進しており、バングラデシュ最大の発電会社であるSummit Power社やフィリピンのAboitiz Power社などに出資しました。こうした取り組みは、電力需要の拡大を再生可能エネルギーだけに頼ることの難しいアジア各国に受け入れられており、東南アジア諸国から、脱炭素化に向けたロードマップ作成を受託しています。
このように、当社を取り巻く環境は年々大きく変化をしておりますが、当社は、自ら掲げている「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」というミッションを着々と遂行しており、こうした取り組みをダボス会議等の国際会議で説明するとともに、これまでに延べ350社を超える投資家や各国政府等と直接対話するなど、理解促進活動を進めています。
次に、収支、財務、シナジーの達成状況ですが、2019年に設定した2025年の収支目標、および財務KPIは、概ね達成に向け着実に進捗しています。また、株主二社から切り出した事業の統合によるシナジー効果は、発電所の効率化と業務の標準化、新規事業分野への投資により、当初5年をメドとしていた1,000億円の目標を1年前倒しで達成し、これまでに約1,200億円の効果を創出できました。
当期利益(期ずれ除き)は、2023年度までの5年間の累積で5,500億円を目標としていました。LNGスポット価格の高騰や、国際会計基準(IFRS)導入に伴う推定的債務計上等の特殊要因による減益があったものの、実績では累計7,994億円となりました(目標比140%)。また、キャッシュ・フローは、計画策定時点の年間3,000億円程度から順調に積み上がり、コンスタントに5,000億円超を計上しています。
投下資本効率を示すROICについては、2025年4.5%を目標としており、この水準は、当社の加重平均資本コスト(WACC)を1%以上回ることで、企業価値の確実な向上を企図しています。当社の事業は、投資決定から回収までに時間を要するケースが多く、単年度での達成は容易ではありませんが、この目標の達成と、それ以降のさらなる企業価値向上に向け、稼ぐ力を高めてまいります。
最後に当社の成長性を示す投資の状況ですが、2019年から2021年の3年間で、目標の1兆4,500億円に対して、若干未達となりました。これは、上述のウクライナ問題に端を発する資源価格高騰への対応に多額の資金を要したことや、コロナ禍により案件発掘等が想定通りできなかったこと等に起因しますが、2022年から2025年までの4年間に計画している1兆4,000億円の投資目標については、着実にこれを上回る見込みです。

LNGの最大調達国である豪州パースでのタウンホールミーティングで講演する酒入CFO

LNGの最大調達国である豪州パースでのタウンホールミーティングで講演する酒入CFO

当期利益(期ずれ除き)

2023年度の当期利益は海外・再エネ発電事業における利益増や石炭等の契約期末評価損益改善があったものの、燃料調達価格や期首燃料在庫単価の影響、燃料事業利益減等により、前年比で516億円減となる1,487億円(期ずれ除き)となりました(期ずれ込み当期利益は、期ずれ影響が差損から差益に転じたことにより、前年比3,817億円増となる3,996億円)。2022年度から減益となりましたが、2021、2022年度はロシア・ウクライナ侵攻による不安定な燃料市況の中で、JERA GMの欧州を中心とした取引拡大等による一時的な増益であると捉えており、2025年度目標連結純利益2,000億円の達成に向けては順調に推移していると評価しております。

過去に設定した利益目標は着実に達成し、2025年度の利益目標も堅持

過去に設定した利益目標は着実に達成し、2025年度の利益目標も堅持
  • 当期利益の目標は、2019~21年度は2019年4月公表の事業計画値、2022年度は2022年10月の公表値、2023~25年度は2022年5月公表の新経営目標値

バランスシートマネジメント

<総資産>

総資産は、ベルギーの大手洋上風力発電事業者Parkwind社の買収や、国内再生可能エネルギー発電事業者であるGPI社への出資による増加等はあるものの、資源価格が低下したことによる「デリバティブ債権・債務」※の大幅減もあり、前年比で約6,000億円の減少となりました。

  • JERA GMにおける燃料数量調整の取り組みにおいて両建てで計上している取引の未決済残高

資本市場から評価される財務体質の実現を目指す

資本市場から評価される財務体質の実現を目指す
  • 燃料費調整の期ずれ影響は除く。
<有利子負債・純資産>

2023年度は前年度に比べ燃料市況が良化したことで、大幅な期ずれ差益に転換したこと等により、借入金やコマーシャルペーパーが減少しました。それにより、有利子負債残高は前年度比で約4,000億円の減となる、3.1兆円程度となりました。また、資本については、当期利益の増加や為替換算調整勘定の増加等から、前年度比で約6,000億円増加し、2.6兆円程度となりました。その結果、財務健全性指標であるNet DERも2025年度1.0倍以下という目標を掲げている中、0.6倍まで改善しています。
また、資本効率性を示すROICについては、当期利益(期ずれ除き)の減少等により前年比で悪化しておりますが、2025年度に設定した4.5%の目標達成に向けて、収益性の向上等に取り組んでまいります。

キャピタル・アロケーション

2024年5月に公表した、「2035年までに目指す収支水準・財務戦略」でお示しした、将来のキャピタルアロケーションについて、説明します。2024年から2035年までの累計で、5.5兆円の営業キャッシュ・フロー創出を見込んでおり、それらを原資として、5兆円の投資を予定しております。内訳としては、成長戦略で掲げる3つの戦略的事業領域(LNG/再生可能エネルギー/水素・アンモニア)に、それぞれ1兆~2兆円の投資を行っていきます。なお、2035年度まで長期間にわたる中、3つの領域のバランスについCFOメッセージて、「市場環境」や「技術革新」「政策動向」に応じて柔軟に配分を変更していく方針です。これにより、環境変化や政策変更にかかわらず、持続的に成長できる企業体を実現していきます。同時に、LNG取扱量:3,500万トン以上、再生可能エネルギー累計開発容量:2,000万kW、水素・アンモニア取扱量:700万トン程度の達成を目指します。

  • 営業CFを原資として、成長戦略で掲げる3つの戦略的事業領域(SP)に、市場環境/技術革新/政策動向を見ながら柔軟に投資配分
  • これにより、環境変化や政策変更にかかわらず、持続的に成長できる企業体を実現する
キャピタル・アロケーション
  • 1 2024~2035年度までの概算の累計
  • 2 市場環境を見極めながら質の高い案件への規律ある投資判断を前提
  • 3 本取り組みは、政策等の前提条件を踏まえて段階的に詳細化。前提が大幅に変更され
酒入 和男

財務部門機能強化で企業価値向上、資本コストの低減に貢献

私は、「日本発のグローバル企業」として世界の有力なエネルギー企業の仲間入りを目指すJERAのCFOとして、CEOを補佐しながら企業価値向上に向けた様々な取り組みを進めてまいりました。具体的には、この5年間、当社の成長を支えるため、以下4つの領域で取り組みを進めています。まず、経営の迅速で的確な意思決定を支える業務基盤強化です。当社を取り巻く事業環境が益々複雑さを増す中、多岐にわたる信頼性の高いデータを迅速に入手して、それを分析、シミュレーションできるデータドリブン経営を目指して財務基盤システムの構築を進めています。また、透明性を高め、国内外のステークホルダーの信頼を得ることを目的にIFRS導入を完了させました。これらの取り組みは、業務プロセスの標準化・効率化が進み、社員がより付加価値の高い仕事に集中できることにもつながります。
2つ目は、適切なキャピタルマネジメントとファイナンシャルガバナンスです。事業活動に多額の投資資金を要する当社にとって、調達した資金が当社のミッション、ビジョンや成長戦略に合致し、企業価値を高めるポートフォリオの形成に結びついているか、また、個々の投資が資本コストを上回るリターンを上げているか等の財務リスクをマネジメントしています。
3つ目は、経営や事業部門から信頼されるビジネスパートナーとしての役割です。各事業部門の投融資や事業買収・売却等に対し、会計・税務面や、M&A、プロジェクトファイナンスの専門知識による助言を行っています。また、2023年に立ち上げたJERA Venturesの活動を通じて、技術革新や投資機会の発掘等にも貢献します。最後に、投資家を中心とする外部ステークホルダーとの適切で能動的なエンゲージメントです。対話を通じ、当社の取り組みを、国内外のステークホルダーにより正しく理解いただくとともに、当社への期待や要望をヒアリングし、それらを経営にダイレクトに伝えることで、企業価値向上に資する経営判断に結びつけたいと考えています。
これら4つの領域を、財務経理部門のキャリア採用者、海外拠点のスタッフを含め、多様性に富んだプロフェッショナル人財が支えています。2019年に私が入社した時点の日本の財務・経理部門の人員は40数名でしたが、直近(2024年8月)には、210名を超える陣容となり、うちキャリア・新卒採用者が約7割を占め、女性比率も3割程度と、バックグラウンドの異なる人財が集結しています。また、連結ベースでは、上記210名に加え、国内外の主要子会社を中心に、100名弱の財務経理人財を抱えており、それらのチームとの連携によって、グローバルな一体運営を目指しています。
地政学リスク、気候変動問題や電力市場の自由化など事業環境は目まぐるしく変化していますが、どのような環境変化の下でも、財務経理部門のメンバーは、JERAのミッション・ビジョンを見失うことなく、グローバルな人財・組織、フラットでイノベーティブなカルチャーを武器に、既存の発想・業務フローに囚われない視点で業務に取り組んでいます。

2035年に向けた成長戦略の推進をCFOとしてグローバルに進めていく

私は、当社のCFOとして、上記グローバルな取り組みを、資金面、収支面から支え、健全なバランスシートを維持継続することで、投資家や金融機関の皆さまを含む多くのステークホルダーから信頼を得る会社作りに貢献したいと考えています。同時に、そのことによって、当社グループで働く全ての社員が、当社に誇りを感じ、家族とともに幸せを実感できる会社を作りたいと考えています。
当社のミッション・ビジョンの実現を支える成長戦略の遂行は、当社にとって大きなチャレンジです。当社が過大なリスクを抱えないよう、時にはブレーキを踏むこともCFOである重要な役割であると考えています。これらを念頭に置いて、2035年に向けて設定した財務KPIを常に意識し、財務規律を効かせた会社経営の一助を担い、企業価値の向上に貢献してまいります。