今回も山梨県笛吹市の浅間神社について。
当記事では境内社と摂社山宮神社について述べます。
境内社
本殿の周辺には多数の境内社が点在しています。
こちらは本殿向かって右(北側)に東面する護国社。
入口には石造明神鳥居。
護国社は、一間社流造、銅板葺。
向拝柱は面取り角柱。虹梁中備えは蟇股。
母屋柱は円柱。頭貫に木鼻がつき、中備えは蟇股。
柱上の組物は出三斗。妻飾りは豕扠首。
破風板の拝みに蕪懸魚が下がっています。
護国社の北東には6社の末社を合祀した社殿が南面しています。
六間社流造、向拝3間、銅板葺。見世棚造。
護国社から浅間神社本殿のほうへ進むと、境内北側の区画に十二支の石像が並んでいます。
境内の北西端には稲荷社が南面しています。
稲荷社は、一間社流造、銅板葺。
日立製作所甲府工場(甲斐市竜王)の社内に祀られた浅間神社から移築されたものとのこと。
境内の裏手を進むと、本殿向かって左(南側)に神明社が東面しています。
一間社流造、銅板葺。
向拝柱は几帳面取り角柱で、柱上は平三斗。
母屋柱は面取り角柱。組物はありません。
破風板には、拝みと前方の桁隠しの2か所のみに懸魚が下がっています。
随神門まで戻って境内の南東の隅の区画へ行くと、陰陽石と山宮神社遥拝所があります。
左が陰陽石。男女の陰部をかたどった形状をしています。
右が山宮神社遥拝所。当社の南東の山中にある摂社・山宮神社(後述)を拝むための社殿です。2014年に山宮神社本殿の屋根の葺き替えをした際、仮殿として使用した社殿を移築したものとのこと。
摂社山宮神社
所在地:〒405-0056山梨県笛吹市一宮町一ノ宮(地図)
備考 :浅間神社から入口の鳥居まで徒歩30分程度
参道
摂社の山宮神社(やまみや-)は、浅間神社境内の南東約2キロメートルの位置に鎮座しています。
浅間神社からやや距離があるうえ、バスなどの交通機関もありません。境内入口は狭い農道の先にあり、鳥居の脇にかろうじて乗用車1台を停められるスペースがあります。
入口には石造明神鳥居が立っています。扁額は「山宮大明神」。
鳥居の先には獣除けのフェンス。
警告の表示がいくつかありますが、立入禁止ではなく「注意して入ってください」という旨のものです。
ここから山宮神社本殿まで徒歩200メートルほどの上り坂で、片道5~10分かかります。
参道の両脇に生育するヒノキは、樹皮がはがされていました。
この近辺の山林は文化庁によって「檜皮の森」という名前がつけられているらしく、寺社の屋根葺きに使用する檜皮をここで採取しているようです。
参道を進むと左手に拝殿があります。拝殿および本殿は南西向き。
拝殿は、寄棟、鉄板葺。
柱はいずれも角柱で、組物や中備えといった意匠はありません。
摂社山宮神社本殿
拝殿の後方には透塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神はオオヤマツミとニニギ。
梁間正面1間・背面2間・桁行2間、一間社隅木入り春日造、向拝1間、檜皮葺。
1588年(永禄元年)造営。「浅間神社摂社山宮神社本殿」として国指定重要文化財*1。
軒裏は二軒繁垂木。母屋(写真右)から斜め手前に隅木が伸び、正面側は入母屋のような軒まわりです。このような春日造を隅木入り春日造といい、山梨県内の春日造のほとんどは隅木入りです。
向拝の縋破風は、屋根の左右の端ではなく、少し内に入った位置から伸びています。この本殿のように、向拝を屋根の幅いっぱいに設けない春日造は山梨県内にいくつか例があり、同市の山梨岡神社本殿や山梨市の窪八幡神社末社の高良神社本殿は同様の構造をしています。
向拝柱は几帳面取り角柱。桃山時代の建築にしては新しい技法が使われています。
柱の側面には木鼻がつき、柱上は平三斗。平三斗は軒桁を直接受けています。
虹梁には絵様、眉欠き、袖切が彫られ、中備えはありません。
向拝の縋破風。眉欠きが彫られています。
向拝柱と母屋とのあいだに懸架材はありません。
母屋正面。
母屋柱は円柱。正面に板戸が設けられ、扉の左右には角柱が立てられています。
板戸の上には長押が打たれ、柱の上部に頭貫が通っています。
頭貫の上の中備えは蟇股。植物を題材にした彫刻が彫られ、外枠の両端にも若葉の意匠があります。
蟇股の左右には平三斗のような組物があります。蟇股も組物も、巻斗で軒桁を受けています。
側面は2間。柱間は横板壁。
縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干の親柱は擬宝珠付き。
側面前方の柱。
頭貫の位置に木鼻(拳鼻)がついています。
柱上の組物は、こちらからは出三斗に見えますが、正面の蟇股の左右にある平三斗と肘木を共有して一体化しています。
側面後方。
柱間は貫と長押でつながれ、頭貫の上の中備えは蟇股。
蟇股の彫刻は、紅葉に兜。めずらしい題材だと思います。外枠の部分には、鳥の頭の意匠がついています。
蟇股は左右両側面に各2つ、つごう4つありますが、いずれも上の写真と同様の造形でした。
側面後方の柱。
柱上の組物は連三斗。
柱の背面側の木鼻には巻斗が乗り、組物の肘木を受けています。
背面は2間。柱間は横板壁。頭貫の上に中備えはありません。
妻飾りは豕扠首。
母屋柱は床下も円柱に成形されています。
破風板の拝みには猪目懸魚。
左側面。
蟇股の意匠は右側面のものと同様。
屋根の檜皮は2014年に葺きなおされたとのこと。
本殿の後方には、二股にわかれたスギの大木が生育しています。
夫婦杉(めおとすぎ)と呼ばれているようで、樹齢不明ですが市指定の天然記念物です。
以上、浅間神社でした。
(訪問日2024/12/28)
*1:附:棟札4枚