奈良の墨づくりは、日本で1400年前から続く伝統だ。

かつて都があった奈良は、墨の一大生産地として知られ、「奈良墨」と呼ばれてきた。

【動画】墨が大ピンチ1400年の伝統守るため…七代目が選んだ道

現在、日本の墨の9割以上を奈良にある8軒の墨屋が作っている。

■「濃い淡い、濃淡の美しさ」が特徴

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墨の特徴について、書家の西村大輔さんはこう話す。

奈良教育大学美術教育講座 書家 西村大輔さん:固形墨は、にじみの面白さ。濃い淡い、濃淡の美しさ、ゆっくり書いている時には墨がずっと出ていますし、スピーディーな時には、それ相応のにじみ方もしますし、その呼吸というのが固形墨の方が顕著に表れるんでないでしょうか。

■危機に直面する伝統産業

しかし、この伝統ある墨づくりが今、危機に瀕している。

墨の生産量が最盛期の3%ほどにまで減少している。

七代続く錦光園の6代目長野墨延さんは、「墨屋さんというのは斜陽産業。上っていくことはない。どんどん下がっていく」と厳しい現状を話した。

■7代目の決意と挑戦

そんな中、長野墨延さんの息子の睦さんは、会社員を辞め、あえて厳しい道を選んで家業を継いだ。

その決断は簡単なものではなかった。

長野墨延さん:私の後を継ぐと言った時にはもう1年以上反対しましたよ。絶対にやめなさいと。儲かるような商売じゃないから。

それでも睦さんは、歴史ある伝統を守る責任を感じ、決意を固めた。

長野睦さん:1400年の歴史があったものが、自分たちの時代になくなるって責任重大じゃないですか。書道セットの中に固形墨が入ってないものも多々あるんで。結構瀬戸際だと思いますよ。ギリギリですね、今ほんまに。

■墨は2年ほどかけて乾燥させ、ようやく完成する

墨の材料は、真っ黒な煤と動物の皮から取った膠(にかわ)だ。

これに香料を混ぜ合わせ、柔らかいうちに練り上げて木型に入れる。

墨は2年ほどかけて乾燥させ、ようやく完成する。

くっきりと細やかに施された装飾、躍動感あふれる龍の姿。

それを可能にしているのが、木型だ。

■木型職人で7代目の中村雅峯さんは「奈良墨」最後の木型職人

木型職人で7代目の中村雅峯さん(92)は、「奈良墨」最後の木型職人として、なくてはならない存在だ。

中村雅峯さん:虎の毛を表現する彫り方ですけども、力入れたらあかんのやけど、力入れへんと切れへんしね。その力加減が難しさ。コツですね。

その技は0.1ミリ単位の緻密な作業の繰り返しだ。

職人歴70年の今も挑戦を続け、およそ3ミリのマス目に1000個の漢字を彫る「千字文」に取り組んでいる。

中村雅峯さん:自分の力試しというのか、集大成。私の一生の仕事として、残る仕事をやってきたいと思って頑張ってます。納得いくまで、なかなか達しません。

■受け継がれる技術

中村さんには後継者がおらず、この技術が途絶えかけていた。

中村雅峯さん:昔は門外不出で『一子相伝』。自分の子どもに伝わっていく。どんどん技術を残していきたいと切り替わって。

門戸を広げたところに、奈良の文化が大好きだという佐藤奈都子さんが弟子入りし、技を未来につなげるため、一から学んでいる。

佐藤奈都子さん:彫刻刀自体、学生時代から触ったことなかったんですけど、消えてしまうものにも美しいものを施そうっていう昔ながらの日本人の心意気みたいなのがすごく素敵だなと思って。

中村雅峯さん:一品一品できていく喜びは、やった者にしか分からない。楽しい。

■松を燃やして作る煤「松煙」が途絶える危機に

墨の原料となる煤(すす)も、深刻な問題に直面している。

松を燃やして作る煤、「松煙」が途絶える危機にあるのだ。

松煙墨は1400年前から続く日本の墨の原点だが、職人は、日本にたった1人。

高齢で後継者もいない。

そこで、墨職人の長野さんが原料の松煙づくりを自分で受け継ごうと奔走している。

設備に必要な資金をクラウドファンディングで募っている。

■「需要を生んでいくのも仕事の一つ」

長野さんは、墨の魅力を広めるため、子どもたちに墨の魅力を伝える活動も行っている。

長野睦さん:まだ物を見たことあるとか、香りを知ってるとか、そういえばあったなといううちに、価値や背景にあるものとか伝えてないから、当然相手も理解できないし、その物の価値が分からなかったら当然買わないじゃないですか。需要を生んでいくのも自分たちの仕事の一つ。

■後継者、材料、そして世の中の需要、どれか一つが欠けると伝統は途絶える

後継者、材料、そして世の中の需要、どれか一つが一瞬でも欠けると伝統は途絶えるのだ。

長野睦さん:全く知らないタイミングで知らないところで全く誰にも知られずに終わっていってるっているものは、こういう業界だとたくさんあるので。1400年間続いてきたものなので、なんとか今の時代で、なくなってしまわないように、ちょっとでも、少しでも、先につなげていけるように。

便利な時代ゆえ、見過ごしてしまう本物の価値。失ったことに気づいた時には手遅れかもしれない。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年12月25日放送)

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