インバウンドの増加とともに全国的に課題となっているのが観光客への対応だ 。

そんな中、世界70カ国以上でモビリティ事業を展開するUber Japanが、長野・白馬村と提携して観光客の交通課題の解決を目指すことを発表。

その取り組みとして、2024年12月1日~2025年3月に白馬エリアで「Uber Taxi」を運行する。テクノロジーで「言語の壁」を超えることによって、様々な課題解決が期待されている。

白馬にUberが登場!

3000m級の山々が連なる北アルプスを見渡す「スノーピークグランドステーション白馬店」のイベントエリア。隈研吾さん設計による幾何学的な木のオブジェが特徴的な建物の前に、「Uber」のロゴが入ったタクシーが並んだ。

「スノーピークグランドステーション白馬店」のイベントエリアに並ぶUber Taxi
「スノーピークグランドステーション白馬店」のイベントエリアに並ぶUber Taxi
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2024年11月27日、この場所でUber Japanと白馬村は、村域の移動サービスの向上と成長・発展を目的とした包括的連携協定を締結。その一環として観光客の交通課題に取り組み、オーバーツーリズムの解決を目指すことを発表した。

自治体と連携したこうした取り組みはUber Japanとして初めて。そして、その実践となる「Uber Taxi」の出発式が行われた。

出発式のテープカットの様子 
出発式のテープカットの様子 

白馬村の「Uber Taxi」は、冬の観光のピークとなる2024年12月1日~2025年3月に運行。配車時間は24時間。範囲はスキー場や観光地、飲食店などの主要エリアをカバーする。

Uberといえば、海外では一般ドライバーがマイカーで送迎サービスを提供する「ライドシェア」も有名だが、日本では200社以上のタクシー会社と「Uber Taxi」を展開している。

白馬村の「Uber Taxi」では、地元の5社のタクシー会社に所属するドライバーがタクシーで送迎を行う。Uberのタブレットを載せるのは計56台。

アプリを開けばいつでもタクシーを探せる
アプリを開けばいつでもタクシーを探せる

使い方は、「Uber Taxi」でもライドシェアでも同じだ。アプリを開いて行きたい場所を指定し、配車をリクエスト。近くのドライバーとマッチすれば、迎えを待つだけだ。行先までの料金の目安が表示され、アプリ内で決済が完結する。

マッチングが成立するとタクシーが迎えに来る
マッチングが成立するとタクシーが迎えに来る

「いいアイデアだと思います!」

ヨーロッパから白馬に来た4人組は、この取り組みを伝えると安心した表情を見せた。

ヨーロッパから来た観光客グループ
ヨーロッパから来た観光客グループ

「ヨーロッパでは頻繁にUberを使用しています。事前に料金がいくらかかるか確認できるし、アプリ上の地図に車の動きが表示され、いつ到着するのかわかって便利なんです。それに、日本でタクシーを呼ぶよりずっと簡単です」
 
オーストラリアからワーキングホリデーで来たという2人組も、Uber Taxiの登場に好意的だ。

オーストラリアから来たという2人
オーストラリアから来たという2人

「こっちに来て間もないから歩いて移動するのも楽しいけれど、そのうち疲れて面倒になるだろうし、ほかの交通手段があったらいいと思っていました。ただ、現地のタクシーは言語の壁があって電話予約が難しい。そんな時に馴染みのあるUberが使えるのは便利ですね」

彼らが言うとおり、白馬村が直面している課題の一つは、タクシーを配車するときの「言語の壁」だ。

それによって生まれる人的負担が事業者にのしかかっていた。母国語で利用できる50言語対応のUberの導入で、その解決が期待されている。

持続可能なリゾートを目指して 

良質な雪とバラエティ豊かなコースで人気 (提供:白馬村観光局)
良質な雪とバラエティ豊かなコースで人気 (提供:白馬村観光局)

登山やウインタースポーツのメッカとして知られる白馬村は、近年特にインバウンド需要が急増している。2023年(令和5年)の海外観光客の延べ宿泊者総数は 25万2481人で、2006年(平成18年)の3万3491人に比べ、実に7.5倍にも伸びている。 

ただ、人気とともに、これまでの対応では需要に追い付かないというオーバーツーリズム問題も出てきた。

白馬村の丸山俊郎村長は、「世界水準の持続可能なオールシーズンマウンテンリゾート」を目指し、観光客増加に対する課題に取り組んできたと話す。

「冬季の白馬村には、観光客の需要に対して二次交通やレストランの数が足りていないという課題がありました。そこで、2022年から『白馬MaaSプロジェクト チャレンジ白馬』と題して産・官・民が一体となって課題解決に取り組み、成果を上げてきました」

白馬村の丸山俊郎村長
白馬村の丸山俊郎村長

プロジェクトでは、冬季期間に村内の乗降所から乗り合い移動ができる「白馬ナイトデマンドタクシー」の運行や、地元タクシー各社の増車、飲食店予約アプリの導入などを実施。その甲斐あって課題は解決に向かいつつある。

ただし、日中を含めた二次交通の不足は完全に解決したわけではなく、またタクシーの配車についても、人材不足とデジタル化が十分ではないという課題が残されていた。そこに導入されたのがUber Taxiなのだ。

配車の効率化が生む効果

「これまでは、地元のタクシー会社5社が、それぞれの配車センターで電話で予約を受けていました」

そう話すのは白馬村のタクシー会社の一つであるアルピコタクシー大町支社長の薄井浩章さん。

アルピコタクシーの大町支社長・薄井浩章さん
アルピコタクシーの大町支社長・薄井浩章さん

別々に配車を行っていると、ユーザーにとって非効率な部分が生まれてしまう。

例えばA社の待ち時間が30分の時、B社は10分で配車できるという状況がわからない。また、C社の車が出払っている場合は別の会社に電話をかけないといけないといったことも起こる。

「そんな中、5社共同の配車センターを作り効率化できないかという案が『チャレンジ白馬』で出たのですが、コストがかかるので実現が難しかった。そこで、Uberさんのシステムを導入すれば、共同配車センターを作ったことと同じような効果が得られるわけです」

Uberのタブレットを5社のタクシーに載せれば、全56台のうち、近くにいるタクシーとマッチングするので、配車の効率を上げられるというわけだ。

Uber導入後の配車のイメージ(資料:アルピコ交通白馬MaaSの取組み紹介から) 
Uber導入後の配車のイメージ(資料:アルピコ交通白馬MaaSの取組み紹介から) 

長年の課題だった言語の壁による配車ミスや、やり取りのロスを防ぐ効果も期待されている。アルピコタクシーでは、冬季は5~6人で1日350~500件の電話に対応していた。そのうち約8割が英語対応となる。

「スタッフは最初から英語が話せたわけではありません。10年間ほどかけて徐々に理解できるようになりましたが、それでも時々行き違いは起こってしまいます。一口に英語といっても地域によって発音が異なるので、教科書どおりにはいかないのです」

アルピコタクシーの配車センター
アルピコタクシーの配車センター

指定された場所に行ったら乗客がいなかったことや、他の車に乗ってしまったということも度々起こった。また、ドライバーも、乗客の名前や目的地の確認、料金の支払いで時間がかかってしまう。Uberならこうした手順がすべてアプリ上で完結する。

「これまでは配車まで30分や1時間待ちということもよくありました。配車が効率化すればその時間が短縮され、配車スタッフの精神的疲労も緩和され、燃料の削減にもなります。ひいては社員の報酬アップにもつながっていくでしょう」

日本の観光客や住民への恩恵も

配車が効率化すれば、日本の観光客や住民も恩恵を受けられると、丸山村長も期待を寄せる。

「待ち時間が減れば、日本の観光客の皆様にも一カ所でも多くの魅力ある観光スポットを楽しんでいただけるようになります。また、住民の方もスムーズに利用できるようになるでしょう」

乗車が終わると評価画面が表示される
乗車が終わると評価画面が表示される

さらにUberの相互評価制度が、リゾート地としての治安や雰囲気によい効果をもたらすのではないかと考えている。

「Uberではお客さんがドライバーさんを評価し、ドライバーさん側でもお客さんを評価することができます。すると双方の間に信頼関係ができますので、安全の面でもより快適なリゾート地になっていくことに期待しています」

米・ウーバーテクノロジーズのモビリティ事業アジア太平洋地域代表のドム・テイラーさん
米・ウーバーテクノロジーズのモビリティ事業アジア太平洋地域代表のドム・テイラーさん

米・ウーバーテクノロジーズのモビリティ事業アジア太平洋地域代表であるドム・テイラーさんは、日本の地方都市の交通課題解決に意気込みを見せる。

「日本のビジネスと経済の課題の一つは、地方での移動手段やドライバーの不足です。Uberはこの課題に取り組み、国内外の観光客にも地元の住民の皆さまにも、アプリを介して街を自由に移動する手助けをしていきたい。Uberは大都市だけではなく、白馬村のような小都市のためのサービスでもあります。これからも、日本の自治体と協力して地域経済の繁栄に貢献していきたいと思います」

「Go anywhere, get anything (どこにでも行けて、必要なものが何でも手に入る)」をモットーとするUberの技術が、日本の交通課題解決の鍵となるか。今後も注目していきたい。

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イラスト=さいとうひさし