年の瀬の一家団欒が奪われた世紀の大事件発生から来年で四半世紀が経とうとしている。
2000年の12月30日の夜、東京・世田谷区上祖師谷の閑静な住宅街で、宮澤みきおさん、妻の泰子さん、長女のにいなちゃん、長男の礼くんの一家4人が何者かによって惨殺された事件だ。

「決定的な証拠」がありながら未解決のまま まもなく24年

犯人は、この事件の現場にラグランシャツと呼ばれるトレーナーをはじめ、ヒップバッグ、手袋、ジャンパーなど多くの遺留品の他、指紋も残していた。

犯人が現場に残した衣類など
犯人が現場に残した衣類など
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それどころか、犯行で手にケガをした犯人は自らの血液という決定的な証拠を現場に残していた。つまり疑わしい人物が浮上すれば、血液から抽出したDNA検体からそれが犯人かどうかをいつでも突き止めることができる状態にあるのだ。
それにも関わらず24年もの間、犯人逮捕に至らず、捜査は事件の風化との戦いになっている。

米国で進む「ゲノムモンタージュ」とは?

残されたDNA検体から犯人を見つけ出すことはできないのか?
そんな遺族らの切実な思いを、実はアメリカでは実現させはじめている。

近年の飛躍的な研究の進歩により、DNAから人の年齢、身長、体格、表情など、犯人の身体的な特徴がある程度割り出せるということがわかってきている。

こうした「個人情報」を捜査に役立てることは、今の日本では許されていないが、アメリカではバージニア州にあるパラボン社が、事件現場に残されたDNAから犯人の顔を再現する「ゲノムモンタージュ」を作成し、長期未解決事件=コールドケースの捜査で活かしているというのだ。実際に多数の事件で犯人逮捕のきっかけになっているという。

米パラボン社が作成したゲノムモンタージュ 右側が実際の犯人の写真
米パラボン社が作成したゲノムモンタージュ 右側が実際の犯人の写真

2010年、アメリカ・ユタ州で発生した64歳の女性が殺害された事件では、現場に残された犯人のDNAを元にパラボン社が作成したDNAモンタージュ画像や、DNAから家系を辿ったことがきっかけとなり犯人を割り出し、逮捕するに至ったことが知られている。

日本でも進む研究 実用化は

こうしたDNA情報によりモンタージュを作る取り組みを日本国内でも手がけている研究機関がある。東海大学医学部の今西規教授の研究室だ。
今西教授は3Dスキャナーを使って顔の形、色などの形状を記憶させ、その人物のDNAゲノム情報とリンクさせデータ化し、DNAモンタージュ作成を目指している。

CGで作成した二重らせん図   
CGで作成した二重らせん図   

DNAは二重らせん構造をした紐状の物質で、アデニン・チミン・シトシン・グアニンの4つの塩基の配列が30億個連なってできている。しかし、人間の個性や体質の差を作り出すのは30億のわずか0.1%にすぎないというのだ。例えば目、鼻、口の形はそれぞれ100個ほどの塩基で決められる。そして瞳の色について決めるのはわずか3個の塩基にすぎないというのだ。

今西教授のモンタージュと本人の顔をスキャンした画像
今西教授のモンタージュと本人の顔をスキャンした画像

今西教授は、そんなDNA情報を集めてデータベース化し、どのような顔になるかを予想するという。
将来は災害現場で見つかった遺体の一部から犠牲者の割り出しに役立てたい考えだ。

捜査になぜ使えない?遺族らが法整備求める声

こうしたDNA分析を日本でも重要未解決事件の捜査で活用できないか。
25年前、自宅で妻を何者かに殺害された高羽悟さんは、現場となったアパートの部屋を転居した後も借り続けている。玄関に犯人の女が残したとみられる血痕が残っているからだ。
血痕に残されているDNA検体をいつか犯人をつきとめるために使えないかと考え、血痕をビニールシートで覆って保存しているという。

「宙の会」の会見
「宙の会」の会見

高羽さんら犯罪被害者の遺族らからなる団体「宙の会」は2024年、DNAモンタージュを可能にする法整備を求め、国会や首相に要望書を提出している。

今後、立法府で議論がおこることを期待したい。

2010年に殺人事件などの時効が撤廃されたことにより、重要未解決事件には殺人事件を担当する警察の捜査一課が専従捜査員を配置している。手がかりが全くない捜査は、真っ暗な暗闇を電灯もなく進むようなものだという。犯人が自分のDNAを残している世田谷一家殺害事件こそ、犯人のDNA分析でわかった新たな犯人像を取っかかりに、捜査に弾みをつけるべきとの声も上がっている。
(執筆:フジテレビ解説委員 上法玄)

発生から24年。この間フジテレビは今まで秘密のベールに包まれていた多数の現場写真を入手。強い怨恨をうかがわせる犯行手口、引き出しを抜き出し、中のものを浴槽にぶちまけた不可解な物色痕。散乱したアイスカップ、長時間滞在した痕跡。長年語られてはきたが、犯人が確かにそこにいた息づかいを新たにすることができる。これらを分析した結果、犯人の猟奇性、異常性が改めて浮き彫りになってきた。

 12月29日(日)午後4時からフジテレビで放送の特別番組『新証言×新事実 世田谷一家殺害事件 「解決への鍵」』では、こうした写真や新たな証言により真の犯人像に迫るほか、解決の鍵となるかもしれないDNAモンタージュの最前線を取材している。
事件発生の12月30日の前日の夕時に、今一度この事件を思い出していただければ幸いだ。

上法玄
上法玄

フジテレビ解説委員。
ワシントン特派員、警視庁キャップを歴任。警視庁、警察庁など警察を通算14年担当。その他、宮内庁、厚生労働省、政治部デスク、防衛省を担当し、皇室、新型インフルエンザ感染拡大や医療問題、東日本大震災、安全保障問題を取材。 2011年から2015年までワシントン特派員。米大統領選、議会、国務省、国防総省を取材。