久能 整(くのう ととのう)は特異なキャラ設定された大学生。生育環境も訳有り、バイトをガンガンしてなさそうだが学費はどこから出てるのか、親の姿も帰省もないで、独り暮らしはいかにも訳有り。現在の彼自身を形成した諸要素は、こま切れに匂わせ程度に
提示されるのみ。快適といえない回想。
人と密着した関係を築きたがらないかと思ったら、意外な位に時に人との距離をグッと寄せてきて、踏み込んだ言葉で、寄せた相手に自分の見解をズバリ、虚をつかれた相手は久能くんの観察力と分析にぐうの音も出ない。
トリビアだけども博学才穎で、かつ他人が看過することを情報として蓄積して重視、それなのにどこか狭い孤独の塔にひっそり生きているかのような。それでいて将来就きたい職業との大きなギャップ感。作者の巧みな読者への驚かしなのか、それともこれも人物造形の一環なのか。だけれど、その人間関係含めオープンとは言い難いキャラと、人が持つその職業観とのズレを指摘されたときの、彼の論破法も一理があって。実によく考えるタイプ。
それら理屈コネコネをいろいろ楽しむ話。
たまに「七ツ屋志のぶの宝石匣」が頭に浮かぶ。
事件は殺人とか、割と血なまぐさい。
作中登場人物に言わせている通り、八つ墓村みたいな横溝(正史)がかったところもあった。
小さな(実際は小さくもなく大事件だが、この作品全体の構造上、入れ子構造として体感的相対的に「小さい」と表現)事件それぞれに、久能くん関わってしまっていて。
現在最新刊10巻迄の全既刊分読んだところ。1巻目最初からずっと面白いが、特に、8巻終わりから10巻までが、私は面白く感じた。
変わっている、というべきか、一筋縄ではほどけない、というのか。兎に角、私には「これもミステリと言いたい」話だ。
実は名作2作共未読なので田村先生作品をお初で読む。久能くん以外はビジュアル許容出来る一方、この主人公だけは、なんか苦手。が、本作を読み進めるにつれ、その彼への理解が深まる予感がしている。
黒色部分が景色などでは現実感のない挿し方がなされ、絵に、幻想といっては大袈裟か知れないが、ある種の、向こう側感が漂い、お話世界のこととしてのリアル世界との切り離し実感を促されているような気がする。
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