登録日:2010/08/16(月) 01:40:12
更新日:2024/09/19 Thu 15:19:14
所要時間:約 7 分で読めます
『火の鳥』は、
手塚治虫による漫画作品。
火の鳥(不死鳥/
フェニックス/鳳凰)をモチーフにした短中長編作品から成り立っている。
各編単独でも問題なく読めるものの編同士の繋がりも持たせられており、実はこの作品、未完である。
文庫コミックで13巻と中々の長さだが内容は素晴らしく、特に手塚治虫の創り出す作品の世界観が秀逸で、人によっては本当に人生観が変わってしまうと言われる。
しかし一方で人気や評価とは裏腹に、営業的には不振が続き一時は「手塚の『火の鳥』が連載された雑誌は必ず
火の車になり燃え尽きる」
「火の鳥の
不死(イモータリティ)は
掲載誌の命を吸い取って保たれている」と言われたほどで業界では一時、
呪われた作品扱いであった。
現在一般的に知られているのは、
余りにも掲載誌が消えるので手塚治虫が自ら創刊した雑誌『COM』に連載されて以降の作品である。
以下、各編の概要紹介。
- ◎黎明編
- 遠い昔にあったとされる邪馬台国を中心に、人や身分の価値、生への欲求を描いた作品。
- ◎未来編
- 今よりずっと未来、汚染された地球では地下の都市が人々の楽園となっていた。
- ◎ヤマト編
- ヤマト国の古墳の人柱にされる人々を救うべく、主人公は火の鳥を求めていた。
- ◎宇宙編
- ロケットが故障し、一縷の望みをかけて宇宙を漂う乗組員たち。脱落者を出しつつ辛くもたどり着いた場所は罪人たちの流刑星であった。
- ◎鳳凰編
- 身体欠損による差別を受けて育ち、成長後は強盗や殺人を繰り返す我王。修業中の仏師茜丸。2人の出会いは互いの運命を大きく変えていく。
- ◎復活編
- 人類初の死者蘇生手術によって蘇ったレオナ。だが手術の影響で人間が岩や鉄クズに見えてしまう。レオナの物語と並行してロボット社会の一幕が描かれ……。
- ◎羽衣編
- 平安時代の浜辺に羽衣を纏った天女が現れた。紆余曲折の末漁師の男と結ばれる。その生活の行方は?
- ◎望郷編
- 何もない惑星に降り立った男と女。2人はこの星に何を作り出すのか?
- ◎乱世編
- 平家と源氏。この両家の戦に巻き込まれた恋人の運命を辿る。
- ◎生命編
- 近未来、とあるテレビ会社は視聴率回復を狙い、クローン人間を利用した残虐なショーを計画していた……。
- ◎異形編
- ある侍を中心に、延々と繰り返される輪廻を描いた作品。
- ◎太陽編
- 狼の皮を被らされた主人公と、彼を中心に起こる人と人、八百万の神と仏神による2つの戦い。
- そしてそれと同時に起こる遠い未来の出来事の関連性はいかに……?
実は発表順が過去編→未来編→過去編→未来編→となっていて次第に現代に近づいている。
なので、よく考えると異形編(過去)の次に発表された太陽編は未来(だけ)が舞台となるはずなのだが、
編集部から「壬申の乱を題材にしてくれ」と要望があったので未来パートと過去パートを結びつける形になったんだとか。
(だが終わりが他の編より希望を感じさせる事もあってか、手塚は死期を感じていたのではないかとも)
上記の編はほぼ日本を舞台にしているが、少女漫画雑誌『少女クラブ』に掲載されていた火の鳥(角川版の単行本は「ギリシャ・ローマ編」)は外国を舞台にしている。
また作者による「決定版」単行本が2種類あり、「乱世編」まで収録された「手塚治虫漫画全集」版(没後に残りの話を収録。『手塚治虫文庫全集』版で全編揃いに)発売後、
「太陽編」発表と共に発売された角川書店版では「望郷編」・「乱世編」の構成変更、
シリーズ全体の祖型にあたる未完の「漫画少年版黎明編」収録が行われている。
そして作者の没後に、『COM』に掲載された「羽衣編」初出版と「望郷編」・「乱世編」のプロトタイプ等、
加筆修正前の雑誌版を収録した復刊ドットコム版も発売されている。
最終的には「現代編」で終わりの予定だった。
最後の未来編は
アトム編(一説では、「再生編」)らしい。
しかしながら「現代」の置き所をどこにするかで様相がだいぶ変わってしまうため、あくまで予定として、実際は異なる終幕も考えていたようである。
また『COM』期に書かれたエッセイ「休憩 INTERMISSION」では「
終わるのは自分の死ぬ時だろう」と締めている。
実際、亡くなる瞬間にペンを握り「自らの昇天の瞬間」を描こうとしていたという情報もある。
ちなみに本編とは別に、1989年に上演された舞台版の脚本も手掛けていた。また舞台用に大地編というのも途中のシノプシスまで作られていた。
これは日中戦争中の上海を舞台に間久部緑郎(ロック)が主役であった。
紛れも無くこの作品は手塚以外の誰にも描けないと認められる日本の漫画史に残る未完の大作であるが、後の作家に与えた影響も大きい。
「復活編」は後に
虚淵玄がオマージュとして『
沙耶の唄』を、
時代が入り乱れ火の鳥をキーワードにする構成は浦沢直樹が『BILLYBAT』でオマージュしている。
以下、迷言集
☆黎明編
※作品の舞台は弥生時代です。
「ここらには
喫茶店も映画館もないからデートには味気ないだろうと思ってさ」
「わしは草(
スパイ)を見下していたが グズリはようやったわい これからはジェームズボンドもバカにせず読もう」
くそまじめ型/映画型/カブキ型/赤塚不二夫型/デモ型/ミュージカル型/
ファミコン型
「体中を目にしろ!」「わかった!」「バカヤローそれじゃ百目小僧だ! 集中しろと言っとるのだ」
「五つ子がなんだい」「
ぼくたちゃぁ六つ子だい」「まるで犬の子みたいに産むザンス」
「こーいうスジの省略はひどすぎるよな」(狩ったうさぎが弓矢に刺さったまま焼けている)
「ヒャァーデッサンが狂った」
☆未来編
「今日は全世界指相撲選手権の日ですねえ」「ウヒャァ あれはチカラがいりますからなあ」
「ビュなんでビュすってビュビュ プクプクボテボテボカンボカン」「両方とも狂いかけて雑音が出ています」
「ブルッフ ヒヒン ヒヒン」「このウマめが 文字通りのヤジウマになってどうする」
「マンガ! モット マンガ!!」「赤塚不二夫でもおりゃいいのに!」
☆復活編
「おれの顔がおれに見えるかい?」「ああ……だけどきみはだれだい?」「なーんだがっかりさせるなよ。
いとこの下関だよ。」「知らないな……」
☆望郷編
「蛇なもんかよ! こいつらの面は西部劇の悪役そのものだぜ!」
「我々は目が無いから女王が年寄りであるか分からないし 気にもとめていないのだ」
☆乱世編
「おのれ蛸坊主ども」「なんだとサルの惑星めが」
「ア~アア~ ウホウホ ゴッホッホ」
「バカモンありゃ鬼じゃない 過激派じゃ」
「踊っておるか? そうなんじゃろうなあ 踊る平氏は久しからずというではないか」
「ヒャホーイ 都だ都だパリだァー」
「電話とは失礼な! 手紙をよこさんか!!」
「私の顔は眼だけのノッペラボーなんです だからさっさと殺して下せえ 手塚の野郎が手を抜いてるんですよぉ」
☆生命編
「あと五十年もたったらCMに使ってやるさ」「まーひどい!! あたし何歳になると思ってるの!?」「今と同じ21歳さ(ボッシュート)」
「今そこに落ちて行った女な 冷凍にして氷室へ入れとけ おれの目の黒いうちは出すなよ」
「だって
ゴキブリのノドに年寄りが詰まってるんですよ!」「バカ 逆だ」
☆太陽編
「雉です」「山鳥を捕らえました」「えー、
ゴジラ…」
「なるほど ボーズになって けが無しという事ですな」
「見て下さいまるで
狼男! アニメじゃありませんか」「アニメだとよ」「俺オトウトメかと思った」
「倭の都の留守司高坂王に
電話をし 駅鈴を求めて
馬を揃えさせよ」
また作品集という形式故かサブ含むヒロインの属性も多種多様で、
+
|
ヒロインの属性一覧。見所の一つであるため格納の形で記すこととした。未読の方はぜひとも読み終えてからここを開いてほしい。 |
→は同一人物の属性変化を表す
◇漫画少年版黎明編…妹
◇ギリシャ・ローマ編…王子と奴隷→生き別れの兄妹→遠征先で拾われた兄妹(血縁関係はどうなったんでしょうね)
◇黎明編…姉→敵国の元スパイの妻、捕虜の女性(素顔は美女だが征服者への仕返しのため醜女に変装)
◇未来編…不定形生物の変身体、ロボ娘、記憶を元に作り出した人造人間
◇宇宙編…宇宙船乗組員の紅一点
◇鳳凰編…てんとう虫の恩返し、天涯孤独の盗人娘
◇復活編…作業ロボット(主人公にのみ美女に見える)、ギャル風アンドロイド、裏稼業の女傑
◇羽衣編…天女→未来人
◇望郷編…少女→母→開拓地の女王 女王となった主人公はやがて……。
◇乱世編…幼馴染の村娘→為政者の愛人、祭りで出会った女性(盗癖持ちだったが後に改心)
◇生命編…逃避行中に出会った少女→義理の娘
◇異形編…男装の女性武士→尼
◇太陽編…狼娘、天皇家の娘、軍の後輩少女、敵軍の娘→収容所で再会→ラストではまさかの……!
|
深い哲学とギャグに加えて手塚先生の変態度想像力の豊かさも詰まった密度の高い作品と言えるだろう。
《追記》及び《修正》は未来戦士のみの特権となっております……。
最終更新:2024年09月19日 15:19