登録日:2021/08/10 Tue 23:01:35
更新日:2024/10/05 Sat 01:39:20
所要時間:約 9 分で読めます
『KAMEN RIDER W EDITION -Playback-』とは、月刊ホビージャパンにて連載された『
HERO SAGA』のエピソードの一つ。
タイトルの通り題材となっているのは『
仮面ライダーW』で、TVシリーズの外伝的内容となっている。
現在はムック『S.I.C.HERO SAGA vol.4』に収録されているため、そちらで読むことが可能。
映像作品の世界観を活かした外伝作品が多い『HERO SAGA』であるが、本作の最大のトピックは
『仮面ライダー』の生みの親の一人である故・石ノ森章太郎氏の登場。
現実とメタが入り混じって交錯する作劇の中、最終的に明かされる一つの真実は、物哀しさを孕みつつも石ノ森氏のファンであれば一読の価値のある内容である。
本作と同時に、ドラマ『
ヒーローを作った男 石ノ森章太郎物語』や映画『
セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』に触れれば、色々と感慨深いものがあるかもしれない。
【物語】
時代は2010年代を迎え、齢70歳を迎えても未だ現役で萬画家として活躍中の作家・石ノ森章太郎。
ある日、いつもの様に老体に鞭打ち漫画を描いていた石ノ森は、執筆中の『ふうとくん』の原稿に描かれた風都タワーの風車が実際に回るという奇妙な光景を目の当たりにする。
気が付くと、石ノ森は実際に風都に居た。困惑する石ノ森の元にフィリップと名乗る一人の青年が現れ、
石ノ森は彼に促されるまま、「ショウタロウ」違いの仮面ライダーWに変身する……!
【登場人物】
本名、小野寺章太郎。齢70を迎えながらも未だ現役で漫画界の第一線で活動する萬画家。
2007年には最も多い漫画を出版したとしてギネス・ワールド・レコーズ認定され、今でも4本の連載を抱えて絶賛活躍中。
その連載作の一つである『ふうとくん』の執筆中、原稿の異変に導かれるままに、
漫画の舞台となる都市「風都」へと導かれ、そこで出会ったフィリップにベルトとメモリを手渡され、
自身がかつて手掛けた作品にして、苦い思い出のある漫画の主人公「
仮面ライダー」そっくりの姿へと変身する。
仮面ライダーWの見た目については「左右がアンバランスなんて、まるで人体標本の模型の様じゃないか」と酷評した。
本作における石ノ森の人物像は概ね史実上の石ノ森章太郎に倣っており、作中挟まれるエピソードも実際の出来事を引用したものが多いが、
詳しい方なら分かる通り、実在した萬画家・石ノ森章太郎の経歴とはある一点で現実とは大きく異なっている。
それには、とある理由が……
風都に転移した石ノ森の前に現れた青年で、彼にベルトとメモリを手渡し、共に「仮面ライダー」へと変身する。
石ノ森の事を「ショウタロウ」と呼び、まるで長年来の相棒であるかのように振舞うが、接するうちに彼が自身の本来の相棒である「ショウタロウ」と違う事は理解した模様。
戦闘に躊躇する石ノ森の事を当初は臆病者と非難したが、彼の性格や過去に触れる中で「キミは臆病者じゃない、キミは優しすぎるんだ」と評した。
反面、石ノ森の萬画家と言う職業についてはその労苦を賞賛しながらも
「キャラクターのハンコを作ってぺたぺた押しながらセリフを描いていくのが効率的ではないか」というあんまりな見解を示した。
ご存じ、『仮面ライダーW』
戦闘員ポジションの怪人。
風都タワーから無数に出現して仮面ライダーWを迎え撃ったが、石ノ森は過去の経験から喧嘩の類に強い
トラウマを抱いていたため、
それを理解したフィリップの判断で、一気に風都タワーの最上階に向かう形で戦闘を回避した。
身長:210m
体重:65kg
風都タワー最上階で仮面ライダーWを出迎えた、風都のマスコット「ふうとくん」の姿をした
ドーパント。
外見はふうとくんの着ぐるみの様に見えるが、ディティールは生物的で生々しく、狂気の色を帯びた眼と鋭い爪を持つ。
フィリップの機転で無力化されるも、直後に再び石ノ森とフィリップを「ある場所」へと送り込み……
正式名称はあえて言うならば「
メモリー・ドーパント」。
石ノ森章太郎の3歳上の姉で、デビュー前の数少ない理解者だった人物。
1958年4月に不幸な経緯で命を落としてしまっており、その事実が現在に至るまで石ノ森にとっての強い慙愧の念となってしまっている。
終盤に登場。姿は変身状態オンリーで、台詞は一切ない。
この他、さいとう・たかを氏や我孫子素雄氏など、実在人物の名前がちょくちょく作中で引用されている。
【作中で引用される作品タイトル】
石ノ森が物語開始時点で連載を抱えている作品群。この内、『ふうとくん』のみ実在の漫画ではない。
また『シージェッター海斗』も現実のそれは石ノ森自身が関わった作品では無い。
作中の地の文によれば『ふうとくん』は風都にて配布される広報誌での月刊連載であり、
風都のマスコットキャラクターにして風をエネルギー源としたエコロジカルヒーロー「ふうとくん」と、
街に様々なイタズラを仕掛ける悪役「ドクターベル」が対決するドタバタコメディーの体裁を取った作品であるとの事。
漫画の中で風都の名所を紹介せねばならないというお約束もある為、石ノ森は通常の作品よりも気を遣っていたようだ。
作中時点では第3話まで連載されていたが、石ノ森は多忙が原因で「作中の事件」まで風都には直接赴けていなかった様子。
言わずと知れた現実の石ノ森章太郎が映画会社と組んで立ち上げた、氏にとっての代表作……だが、
本作の世界観においては
主演俳優のバイク事故が原因でわずか13話で打ち切りとなった悲運の番組として語られている。
それ故、フィリップが仮面ライダーの名前を挙げた際には、石ノ森は内心色々な意味で複雑な感情を抱くこととなったが、
いざ仮面ライダーWに変身した際の反応から、彼個人としても思い入れはそれなりにある作品であったようだ。
石ノ森のデビュー作で、フィリップが彼の
プロフィールを検索した際に名前のみ言及。
言うまでもなく石ノ森章太郎の作品では無く、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスの小説。
騎士道物語を読みすぎて妄想に陥ったドン・キホーテが風車を怪物と思い込んで突撃する……と言う内容に、
仮面ライダーに変身して風都タワーに突撃する自分たちの状況を石ノ森がなぞらえる一幕がある。
謎のドーパントによって石ノ森とフィリップが飛ばされた場所……それは他でもない、40年前に石ノ森が漫画を描いていた地、「
トキワ荘」であった。
変身を解除して導かれるままトキワ荘の二階に上がった石ノ森とフィリップは、石ノ森の姉・小野寺由恵の生前の姿を視認する。
サイクロンジョーカーエクストリームの力で地球の記憶を検索したフィリップは、
悪魔に相乗りする気持ちもなければ敵と戦う気もない石ノ森が、どうしてフィリップと同調して仮面ライダーWに変身できたのかを知っていた。
石ノ森もフィリップと同じ……亡き姉に対する強い慙愧の念を抱いている身の上だったのだ。
自分にとって何よりも大切な家族であった由恵と、不幸な形で永別し、看取る事すらできなかった過去を、石ノ森は深く後悔していた。
石ノ森は、ここが過去の世界、1958年4月以前の世界から、今からでも由恵の死を回避させることができるのではないかと思い立つが、
フィリップは、ここは過去の世界ではない、あくまで「記憶」の世界に過ぎないと彼を諫める。
フィリップに導かれるままトキワ荘から離れ、記憶の世界が掻き消えた後に彼らが辿り着いたのは、先ほどまでいた風都タワーの内部であった。
困惑する石ノ森は真相を知ろうとフィリップを急かすと、彼はまず先ほどの「ふうとくん」から話を聞こうと提案する。
ついさっき戦っていたふうとくんの姿のドーパントは居なくなっていたが……代わりに一人の女性を抱えた、骸骨の仮面の人物……鳴海荘吉こと仮面ライダースカルが立っていた。
スカルの姿を見た石ノ森は一瞬、死神の類かと身構えるも、フィリップからその名を聞いて、
過去にそのような漫画を描いた覚えがあると思い出し安堵する。
フィリップは、スカルの抱えている女性こそ、先ほどまでふうとくんの姿をしたドーパントに変身していた人物であると語る。
生まれつき体の弱い人だった故、きっと疲れてしまい、それをスカルが助け起こしたのだとフィリップは推論を語った。
そして、つい先ほどまで自分達は彼女の思い出の中の世界に行っていたのだと、フィリップは石ノ森に話す。
……そう、スカルが抱きかかえているドーパントの変身者、彼女こそ石ノ森の亡き姉、小野寺由恵その人だったのだ。
亡き姉が姿を現したという事実に更に困惑する石ノ森に、フィリップは事態の真相を順序立てて語った。
石ノ森は、自分が風都タワーを含む風都と言う街に迷い込んだと思っているが、実際はそうでは無かった。
迷い込んだのはフィリップの方で、イレギュラーである彼の存在のせいでこの世界がいびつに歪んでしまい、
フィリップが石ノ森に惹かれて訪れたせいで、この世界が「風都」になり、石ノ森の姉が「ふうとくん」に変わってしまった、というのが真相だったのだ。
驚く石ノ森に対し、フィリップはなおも続ける。
この世界は「身体を持たぬ者の世界」。有体に言えば「
死後の世界」とも言うべき地だったのだ。
スカルこと
鳴海荘吉もそうだし、フィリップも実質的には似たようなもの。そして、石ノ森の姉は、彼の元に訪れたのだ。
――――1998年1月28日に60歳で亡くなった、石ノ森章太郎を迎えるために。
フィリップは、石ノ森が現世に強い未練を残し、自身の死に気付かずペンを握り続けていた理由も分かっていた。
彼は自身のライフワークであった作品『サイボーグ009』を、多くのファンの期待に応えるために完成させたかったのだ。
石ノ森は優しすぎた。一度、主人公の死と言う形で完結を迎えたはずの『サイボーグ009』を、その悲劇的なラストに抗議するファンの声に応えるため、
幕を引いたはずの作品を復活させ、結果として苦悩しながらも重荷を背負い続けながら作品を継続することとなってしまったのだ。
全てを悟った石ノ森は、自分が死した事実に気付かず机に向かってペンを走らせていた事実を、まるでドン・キホーテそのものだと自嘲する。
フィリップは、石ノ森の亡き後、彼の息子が『サイボーグ009』の最終章を小説媒体と言う形で執筆していることを検索で知り、石ノ森に語る。
その言葉に石ノ森が小さく微笑んだのを見ると、フィリップはもうキミは悩まなくていい、苦しみから解放されていい、由恵さんが待っていると告げた。
50年の歳月を経て再会を果たした姉弟にそっと背を向けたフィリップは、自身も帰るべき世界に戻る事を決心する。
たった一人で戦っている彼の本当の相棒……待っているであろう
左翔太郎の元へ行くために。
追記・修正お願いします。
- ヒロサガで一番好きなエピソード。最後のジオラマが一人で戦うジョーカー(翔太郎)なのもいい。 -- 名無しさん (2021-08-11 01:34:58)
- このエピソードも三条陸なのかな? -- 名無しさん (2021-08-11 09:00:33)
- ↑『HERO SAGA』の著者は早瀬マサト氏なので違う -- 名無しさん (2021-08-11 09:05:54)
- 早瀬マサトさんって石ノ森先生のアシスタントだったお方。師匠に捧げるためにつくったのかな、この作品。 -- 名無しさん (2021-08-11 11:34:32)
- この作品の世界観だと仮面ライダーは13話で打ち切りになってしまったけれどこの世界だと藤岡さんもめちゃくちゃ苦しんでそう··· -- 名無しさん (2021-08-11 11:45:00)
- 本編終盤で人間味の出てきたフィリップなら「ハンコ使えば効率的」とまで言わない気がするけど、その点以外は本編入れても合いそうな物語だなあ。藤岡さんが撮影中に大怪我したのは事実だし、むしろよく打ち切りにならず作品続いたよなあと改めて。 -- 名無しさん (2021-08-12 01:49:05)
- >仮面ライダーWの見た目については「左右がアンバランスなんて、まるで人体標本の模型の様じゃないか」と酷評した キカイダー「え」 -- 名無しさん (2021-08-12 23:06:16)
- 「仮面ライダー」の打ち切りでいわゆる東映変身ヒーローはジャンルとして確立しなかったのかな、でも「シージェッター海斗」はあるのか… -- 名無しさん (2021-08-29 17:03:56)
- ウルトラマンはあるからそこからの派生という形で変身ヒーローはあったというのは不思議ではない -- 名無しさん (2024-10-05 01:39:20)
最終更新:2024年10月05日 01:39