苦境にあえぐツイッター メディアで「生きる」
藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)
交流サイト(SNS)大手ツイッターが、次の一手で苦しんでいる。
ツイッターをめぐっては9月、アップル、グーグル、マイクロソフトら、SNSへの取り組みで成功していない米IT(情報技術)大手による買収の可能性が報じられ始めた。
さらには運営メディアの多角化やモバイル化を進めるディズニー、IT大手の一角を狙うセールスフォースの名前まで飛び出したが、翌10月には、いずれの交渉も進展を見せなくなった。いまは、ソフトバンクによる買収の可能性が取り沙汰されるぐらいだ。
ちょうど3年前に、やはりSNS大手のフェイスブックを追う成長株として株式公開したツイッターだが、その後はフェイスブックが月間利用者16億人にまで成長したのに対し、3億人強と差を広げられている。経営にも強い圧力がかかっており、立て直しのため300人規模の従業員削減策に着手したとも報じられている。
どうしてツイッターはここまで苦しむことになったのだろう?
日本では、この4年間で5倍ほどに利用者を伸ばしており同社の劣勢に気づきにくいが、世界での利用者数の伸びは停滞している。
目につく最大の「失策」は、「SNSなのか、メディアなのか」という焦点を定めきれずにきたことだ。ツイッターでは、投稿は匿名の人々の視線にさらされるのが基本と理解していい。
フェイスブックは実名で使うことが抑止力になり、「友達」に向けた気軽な投稿を見知らぬ人から非難され「炎上」するようなことが起こりにくい。交流を促進するために「いいね」という気軽な相づち機能などにも配慮してきた。対してツイッターでは炎上の恐れがぬぐえず、利用者は増えにくい。
最近、ツイッターの最高経営責任者(CEO)であるジャック・ドーシー氏は、ツイッターを「人々のニュース・ネットワーク」と定義し、「メディア」寄りの姿勢を示した。
個人が、それぞれの視点でピックアップしたニュースがタイムラインに流れるという、初期からあったツイッターの長所を改めて強調した格好だが、その分野で利用者の利便性を高める取り組みは怠ってきた。
利用者が気になるニュースにコメントを付けて投稿する際にハードルとなる140字の制限が部分的に緩和されたのは、つい最近のことだ。
音楽や動画の分野でも「メディア」化の施策には紆余(うよ)曲折が続いている。3年前にベンチャー企業を買収し音楽配信サービスの「#music」を開始。独自アプリも投入したが1年で撤退した。
動画分野では、4年前に鳴り物入りで買収した6秒動画共有の「Vine」の閉鎖を最近決めた。昨年買収したライブ動画共有の「ペリスコープ」は残っているが、後発のフェイスブック・ライブに大きなリードを許してしまっている。
八方ふさがりのようにも見えるが、大きな可能性は残されている。一つは、ドーシーCEOが述べるように、メディア機能を追求していくことだ。ニュースのピックアップをさらに促してタイムラインを良質な情報で充実させる方向だ。すでに「モーメンツ」という話題のツイートをまとめて見せる取り組みも始まっている。
もう一つは、企業利用への拡大だろう。「企業版ツイッター」と呼ばれて人気を得た「スラック」は、マイクロソフトら大手が追いかける成長株だ。スラックは企業内での情報交流を、堅苦しいメール文化から気軽なコミュニケーションへと変化させる。動きの早い分野だが、間に合う可能性は十分にある。
[日経MJ2016年11月13日付]