外国人はなぜZENが好きなのか?「マインドフルネス」と禅の違いとは…? 2016年、『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出され、ダボス会議にも出席する妙心寺退蔵院副住職の松山大耕氏が、なぜ今、「禅」が世界で求められているかを綴った『ビジネスZEN入門』より、その一部を特別公開する。
ジョブズが禅を愛した理由
禅に影響を受けた外国人として皆さんが真っ先に思い浮かべる人は、おそらくアップル社を創業したスティーブ・ジョブズでしょう。
彼は、10代のときにインドで仏教に出合い、その後、大学時代から禅と接し、その強い影響を受けるようになりました。当時、カリフォルニア州で活動していた曹洞宗の僧侶・乙川弘文老師と出会うと、その人物に魅了され、頻繁に老師のもとに通って禅を学ぶようになります。
結婚式も仏式で乙川老師に執り行ってもらい、一時は、日本に行って永平寺で修行をしたいとまで言っていたほどでした。
結局、日本で修行をすることはなかったものの、彼が禅から得た影響は、そのデザインの中にはっきりと息づいています。
シンプルで美しく。見えないところまで美しく。
まさに彼は、世界を変えた数々の製品を生み出す中で、禅を実践していたのだといえます。
ジョブズは京都が好きで度々訪ねてきていましたが、最後にやってきたのは亡くなる半年前のことでした。そのとき彼は、南禅寺のそばの碧雲荘(非公開)を訪ねています。野村財閥の創設者である野村徳七が建てた別荘で、野村別邸とも呼ばれるところです。
碧雲荘には能舞台があり、隣にちょっとしたお部屋があるのですが、その縁側に腰掛けてずっとお庭を眺めていたそうです。すでに自分の死期を悟っていたころのことのはずです。そんな大変なときにわざわざ訪れたということを聞いて私は、彼にとって日本の風景や禅の世界というのは、心のふるさとのようなものだったのかもしれないなと感じました。
「マインドフルネス」は禅なのか?
最近、「マインドフルネス」と呼ばれる瞑想法が注目を集めています。集中力を高めたり、うつ症状の緩和に効果があるとされ、欧米を中心に流行し、グーグル、ナイキ、アップル、インテル、ゴールドマン・サックスといった世界的な優良企業で取り入れられていることで知られています。
企業は、マインドフルネスに基づく、企業の経営や社員研修のやり方、リーダーシップの育て方などを実践しているのです。
マインドフルネス(mindfulness)という語は、仏教における「念(サティ)」の英訳語で、「心にとどめておくこと」「気が付くこと」「注意すること」などと訳されます。
つまりもともとは仏教の用語で、東南アジアやスリランカなどの上座部仏教で行われている瞑想法に由来します。それがアメリカを中心に、一般の人でも実践できる形にアレンジされ、効果が科学的に実証されるとともに急速に広まっていきました。
やり方は、基本的には坐禅と同じです。静かに座って、自分の呼吸に意識を集中させる。気が散って他のことを考え出したら、再び意識を呼吸に戻す。簡単に言えば、そういうことになります。